「壮観な風景だな」
クワ・トイネ公国海軍、第二艦隊提督パンカーレは、ずらりと並ぶ軍船が並ぶ海を眺めていた。ロウリア王国海軍が大艦隊を出航させたという情報が伝えられた。それに対してクワ軍はマイハーク港に基地を置く第二艦隊を集結させていた。
「しかし、敵は4000隻を超える大艦隊……彼らは何人生き残ることができるだろうか……」
思わず本音を漏らした。ロ軍の総数は約4400隻、稀に見る大艦隊であった。そんな相手にたった50隻しかいないこの第二艦隊でどれほど対抗できるのやら。
「頼みの綱は……彼らか……」
パンカーレは頼みの綱を見据えて空を見上げる。そこには、船が空を浮いていた。神聖レヴァーム皇国軍(皇軍)所属の飛空艦9隻が、空を支配している。あまりに大きなものがそこに浮いていて、パンカーレが許容するには未だ及ばない。
旗艦は、エル・バステルとかいう
飛空戦艦『エル・バステル』
スペック
基準排水量:6万5000トン
全長:270メートル
全幅:36メートル
機関:揚力装置5基
武装:
主砲18インチ三連装砲4基12門
副砲6インチ連装砲5基10門
5インチ連装両用砲10基20門
40ミリ四連装機関砲16基64門
20ミリ機関砲20門
同型艦:2隻
彼らは昨日からいるが、マイハーク市民はエル・バステルの巨大さに慣れず、未だに空をぽかんと見上げているものが多い。連絡用のワイバーンが2騎ほど空を往き交い、なんとか自己主張しているが到底及ばない。
さらには後方には『正規空母ガナドール』とかいう鉄竜を運ぶ船を旗艦とした『機動艦隊』とやらに分けられた艦隊が、洋上に着水して待機している。今回クワ軍に参戦した皇軍の総艦艇数は20隻を超える。
正規空母『ガナドール』
スペック
基準排水量:4万5000トン
全長:290メートル
全幅:30メートル
機関:揚力装置8基
兵装:
主砲6インチ砲4基
40ミリ四連装機関砲多数
カタパルト2基
搭載機数:120機
同型艦:20隻(予定)
これと同時に、帝政天ツ上軍(帝軍)の方でも艦隊の準備が整えられているらしいが、パンカーレとしてはこれ以上彼らが空を支配する光景が想像できなかった。
「ブルーアイ、彼らをどう思う?どのような戦力になりそうだ?」
側近であり、パンカーレの隣で空を仰ぐ若き幹部ブルーアイに思わず質問する。
「そうですね……空を飛んでいるのでまず攻撃を受けること自体がないでしょう。空を飛んでいますので敵に乗り込まれることなく一方的に増援を送ることも考えられますし」
「確かにな……あの大きさだ、乗っている水兵の数は計り知れんだろう……」
そう言って、彼らは知識のある限りを尽くしてなんとかエル・バステルを理解しようとした。その時、遠くから「オオオン」という異邦の音調が轟いた。羽虫が飛ぶヴーンという音にも聞こえるそれを見れば、巨大船が支配する空に一筋の青い光がほとばしり始めた。よく見れば、蒼いカモメのような胴体をした竹とんぼみたいな飛行物がこちらに向かってきている。どうやら迎えが来たようだった。
「それではパンカーレ提督、行ってまいります」
「ああ、気をつけて行って行きたまえ」
お互いに別れの挨拶をすませると、ブルーアイは集合地点となった海の桟橋にまで歩みを進める。彼は今回の戦闘で、レヴァーム空軍に観戦武官として派遣されることになっていたのだ。これは、レヴァーム側からの要請でレヴァームの海戦の仕方をこの世界の人々に学んでもらおうという寸法だった。飛行物は、カモメのような翼部分から丸い筒のようなスキー板のような物体を出すと、そのまま水上に滑るように着地して行った。
「なんだあれは!?」
「新しいワイバーンか!?」
「水上を滑っているぞ!!」
その光景に、周囲には人だかりができて一目見ようと水夫たちや住民、兵士総出で海の方を眺めてその飛行物体を眺めていた。ブルーアイ自身も、事前に知らされていたとはいえ、ワイバーン以外に空を飛ぶ手段を実際に見た衝撃から言葉を失っていた。
そのまま水上を滑るように移動すると、ブルーアイがいる桟橋にまで近づいた。胴体の上の扉が開いてブルーアイは恐る恐る、空を飛ぶ乗り物『サンタ・クルス』に乗る。
ふわふわの後部のシートに座ると、再び前に付けられた風車が回転し、水上を滑るとそのまま飛び上がって行った。滑らかな上昇、ほとんど揺れずに飛翔するこの乗り物は、ワイバーンより速く快適だ。
「これは……素晴らしい。一体どの様な構造をしているのか理解不能だが……」
母船であるエル・バステルまでの飛行の最中、サンタ・クルスの速さと快適さに舌を巻き感嘆しっぱなしであった。
それと同時に、エル・バステルが進行方向の向きを変えてマイハーク港を出港し始めた。海上を見ればガナドールの方にも動きがあり、風車のような物体──揚力装置というらしい──を真上に向けて海原を離れて離水して行った。
汽笛がマイハーク港に轟く。揚力装置の音が空に轟き、あたりの空気を震わせる。艦隊はそのまま空中を飛翔すると、旋回するサンタ・クルスを囲むかのような輪陣形を二つに分けると、そのまま鉄の船とは思えないくらいの速さで汽笛を鳴らして出港して行った。
「なんという速さだ!!」
ブルーアイは驚愕しっぱなしである。
「我が軍の帆船最大速度をはるかに凌駕している!!いや、空を飛んでいるから当たり前か……しかし、空を飛んでいるとはいえ他の艦との距離が遠すぎるな。密集する必要はないのか?」
艦隊は速度40ノットで西へ向かう。
やがてサンタ・クルスはエル・バステルの後部甲板に位置を合わせると、大きな鉄の腕のような物体──クレーンと言うもの──に吊り上げられるとそのままエル・バステルに収容された。飛空船と違いサンタ・クルスは空中で静止できないためこのように船と速度を合わせないと収容できないらしいため、わざわざ艦隊を動かしたそうだ。
ブルーアイは後部甲板のカタパルト付近に降り立つと、改めてエル・バステルの巨大さに驚く。特に、後部甲板に取り付けられた2基の大型魔導砲の大きさに驚いた。
(こ、これは……パーパルディア皇国の戦列艦の魔導砲よりも口径が大きい!!これだけ大きければ威力も絶大なはず……なるほど、12門しかないのは一撃の威力に割り振っているからか……!)
そして、甲板を踏みしめると木製の木の板が張られた箇所以外は全て硬かった。木製の木の板の上でもギシギシといわない、どうやら鉄の甲板の上から木の板を貼り付けているようだった。
(これは……鉄でできているのか?どうやって空に浮かんでいる?どんな魔法だ?海上の船でも普通は木製だろう……)
鉄でできた船が存在し、さらにそれが空を飛んでいることに理解が追いつかず、ますます混乱を強める。この船を浮かしている揚力装置なるカラクリの仕組みや、どんな魔法が使われているのか気になるところだが、理解できる範疇ではなかった。そして中に入ると、その異様さがさらに増す。
(中が……明るい。何かを燃やしているのか?いや、光の魔法?これは魔導船か?)
城の中と錯覚するほど広い艦内を案内され、ブルーアイはいよいよこの艦隊の司令官と対面することになった。艦橋の扉を開け、中に入ると分厚いガラスに覆われた鋼鉄の艦橋が目に入る。その中に、体の後ろに手を回してどっしりと構えた一人の初老の男性と対面する。
「クワ・トイネ公国海軍観戦武官のブルーアイです。このたびは、援軍感謝します」
今度は遅れぬようにと、ブルーアイが敬礼した。
「クワ・トイネ派遣艦隊司令官マルコス・ゲレロです。我々はすでにロ軍艦隊の位置をピケット艦と呼ばれる哨戒艦によって把握しています。ここより西側500キロの位置、5ノット程度と非常に遅くはありますが、こちらに向かっております。そこで我々はロ軍艦隊と対峙し、全て排除する予定ですので、明日までには艦内でごゆっくりとおくつろぎください」
今この司令官は何といっただろうか。4000隻をも超える艦隊を全て排除といったか、何かの聞き間違いだろうかとブルーアイは思わず聞き返した。
「全て排除……ですか?」
そんな馬鹿な。レヴァームの20隻、たったのそれだけでロ軍の4400隻を相手にできるわけがない。数でももちろん、練度でも物量でも相手にならない数字の差だ。船が空を飛んでいるとはいえ、勝てるわけがない。
「はい。降伏、もしくは撤退に及んだ船以外は全て排除する予定でおります。我々はこのまま戦闘海域に突入しますが、ブルーアイ殿の安全は保証します。ご安心して仕事をなさってください」
ブルーアイは改めて驚く。あまりにも無謀すぎる数と物量の差、それに対して彼らはクワ軍の力を借りずに自分たちだけで立ち向かうつもりだったのだ。
その日のブルーアイの日記より
私はクワ・トイネ公国の民として、無事神聖レヴァーム皇国の空を飛ぶ船『エル・バステル』に乗り込んだ。
船までの『サンタ・クルス』という空を飛ぶ乗り物の乗り心地は非常によく、金属でできた規格外に大きい船も艦内の温度が一定に保たれ、そして艦内が夜でも明るい。そして、そんな規格外の船が空を飛んでいる。何もかもが常識はずれでとても驚かされる。
司令官であるマルコス・ゲレロ殿と謁見した際、彼らはロ軍の軍船4400隻を相手に、たったのは20隻で挑むと聞かされて、最初は自殺行為だと思った。しかし、艦内を見学させてもらうに、これほど大きく、そして金属でできていれば、確かにバリスタでは破壊できないだろうと納得がいった。
そもそも空を飛んでいるならば、攻撃は当たらないからだ。一方で空を飛んでいるならば高空から打ち下ろされる矢は敵にあたるだろう。そして、船に取り付けられた12門の魔導砲は口径が大きく、破壊の一撃をもたらす。
たったの20隻で挑むと聞いて絶望したが、敵の攻撃がこちらに通じない可能性すらある。レヴァームはこの戦いに絶対の自信を持っているようである。
これほどまでに緊張する観戦武官の任は、生まれて初めてだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「いい光景だ。美しい」
海将シャークンの言葉通り、とても美しい艦隊が帆をいっぱいに風を受けて大海原を突き進む。海が見えない、その海は見渡す限りが船であった。6年間、6年間も苦渋の条件を受け、パーパルディア皇国からの軍事援助を経て作り出された大艦隊。数えるのも億劫になるほどの数は物量にて相手艦隊を圧倒する。これだけの艦隊を防ぐ手立ては、ロデニウス大陸にはない。もしかしたら、援助を行ったパーパルディア皇国ですら制圧できそうな気がする。
(……いや、パーパルディア皇国には『砲艦』という船ごと破壊できる兵器があるらしいな。やはり出来すぎた野心か……)
シャークンは一瞬出てきた野心の炎を、理性で打ち消す。やはり第三文明圏の列強国に挑むのは、やはり危険が大きい。
(それに、レヴァームと天ツ上とやらの国々の情報もある……彼らが援軍を送ってくるのは間違いないだろう)
シャークンは最も警戒すべきと判断していた国々の名前をあげる。出港前の港で噂が流れていたクワ・トイネ公国の同盟国で、本国は彼らの外交官とやらを門前払いしていた事はシャークンも聞いていた。
本国からの情報では彼らが援軍を送ってくるのは確実だという。しかし、肝心のレヴァームと天ツ上の
(……ん?)
彼は東の空を見据える、すると見慣れないものがポツンと浮かんでいた。雲か?と思ったがそれは影でもないのに黒い色をしていて、しかも見間違いか、こちらに近づいているようにも見える。しばらく近づくと、シャークンは我が目を疑った。
「なな、なんだあれはっ!?」
そこには、空を飛ぶ船が存在していた。悠然と空を飛ぶ物体、見える限りで数百メートル級の巨艦だ。数は10程で、それらが皆空に浮かんでいる。いや、飛んでいるだけじゃなくてこちらに近づいている!?しかも、それらは帆で風を受けずにずんずんと進み、しかも材質は木ではなく真っ黒に光る事から鉄で出来でいると分かる。一体あれはなんだ!!
(なんなんだあれは!?鉄でできた船が空を飛ぶなんてありえん!しかも、まだ距離が離れているのにもかかわらず相当巨大だぞ!?)
シャークンの心にかなりの恐怖心が芽生えた。それらが海上の光景ならばある程度は受け入れられたのかもしれないが、目の前の船は空を飛んでいる。明らかに自分たちの常識のは範疇を超えていた。
『こちらは神聖レヴァーム皇国空軍、クワ・トイネ公国派遣艦隊司令官マルコス・ゲレロだ』
突然、船に取り付けられた魔信に初老の男性の声が轟いた。魔信に対する割り込みのようで、通信し返す事はできないオープンチャンネルのものだ。と同時に船達の上部、又は下部に取り付けられた長い棒らしきものが全てこちらを向く。何かと思い、疑問に思ったが答えはない。
『宣戦布告なしにギムへ侵攻したその蛮行、決して許される行為ではない。我々神聖レヴァーム皇国はこれを持ってロウリア王国に対して攻撃を開始する!!全艦撃ち方始めっ!!』
途端、長い棒らしきもの達から一斉に炎が吹き出た。シャークンは船が勝手に燃えたのかと思った、その瞬間──
海が爆ぜた。
海にマストよりも大きい水柱が轟く、最前方を走る帆船がいきなり大爆発を起こす。爆散した木片や船の部品、人だったものが海に撒き散らされ、周囲の味方にバラバラと降り注ぐ。
密集隊形が仇となり、小さな水柱ですら帆船を壊し、マストを壊して航行不能に陥るものもいる。中には油壺に引火して地獄の業火に焼かれる船もある。体に木片の刺さった兵士たちのうめき声が、隣の船から聞こえてくる。あっという間に何十隻という船達が木片となり、砕け散った。敵船に乗り移る前に、鍛え上げられた兵士たちが死んでゆく。
「な……なんだあれは!?攻撃なのか!?あの距離から当てやがったのか!?」
経験したことのない攻撃と、とてつもない威力に船団の乗組員全員が目を剥く。シャークンはそれが列強の魔導砲と関連付けたが、明らかに威力が過大すぎる!
「こ、これがレヴァーム……!!」
シャークンは恐怖に駆られた。相手は空を飛んでいるため、バリスタも届かない。乗り移るなんて芸当も出来やしない。このままでは一方的にやられる!
「はっ!?いかん!!通信士!ワイバーン部隊に上空支援を要請!!『敵主力と交戦中』と伝えろ!!」
シャークンは一途の望みをかけて、ワイバーンに希望を託すことにした。無敵の空の王者、ワイバーンならきっと空を飛ぶ船であろうと撃滅できるだろうと。
◇◆◇◆◇◆◇◆
敵主力艦隊発見の報を受け、ロ軍のワイバーン本陣では上空支援のためワイバーンが出撃準備に入った。
「敵船が空を飛んでいる!」という無頓着な報告に一部の者はその報告を疑ったが、将軍パタジンはその報告を聞いて開戦前の会議で話題に上がった神聖レヴァーム皇国のことを思い出し、慌てた。
将軍パタジンは「戦力の逐次投入はすべきではない!」とし、ワイバーン全騎の出撃を敢行した。先遣隊にワイバーンを150騎差し向けている為、本陣からワイバーンが居なくなることを示唆する者もいたが、あのレヴァームを相手にしたことによる焦りからパタジンは聞く耳を持たなかった。
結果ワイバーン250騎全騎が出撃することとなり、何も知らされていない竜騎士団達はこれから大戦果を挙げることに期待を胸に寄せ、舌なめずりをしていた。
彼らは力強く滑走路を前進して行くと、ふわりと飛び上がる。これだけのワイバーンがいれば、クワ軍に負けることはないだろう。
彼らはそう思っていた。
レヴァームの船はそれぞれ性能のモデルがありそうなんですよね。
エル・バステル=モンタナ級
グラン・イデアル=エセックス級
砲の大きさや搭載機の数に違いはありますが、原作から推測するとモデルはこんな感じでしょう。特にイデアルなんか戦時中に20隻も作られてますからエセックス級そのものですね。
本作のエル・バステルは恋歌のエル・バステルなので46センチ砲搭載です。三連装4基もあるのでモンタナ級がモデルだと思ってます。
???「久しぶりの戦じゃー!!」
???「バステル、落ち着いて……」