とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

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シャルル無双開始です。


第15話〜ロデニウス沖大海戦その2〜

正規空母ガナドール

 

 

『戦空機隊、発艦!繰り返す、戦空機隊発艦!!』

 

 

ついに命令が訪れた。ガナドールの格納庫内を飛空士達があたふたと駆け回る戦空機隊の発艦準備が始まった。その中で、狩乃シャルルはガナドールにあらかじめ並べられたアイレスVに乗り込むと、水素スタックの電源を入れてDCモーターを回し始めた。

 

 

「相手は250騎か……」

 

 

ロ軍艦隊に対して先回りさせたピケット艦によれば、敵の数は250騎という大編隊らしい。これに対しガナドールの搭載機数120機の中で戦空機の数は40機。残りは雷撃機と爆撃機だ。ワイバーンがいくら戦空機より劣っているとはいえ、数では負けている為油断はできない。

 

そして、モーターが温まるとシャルル機はガナドールのカタパルトにフックを繋いだ。ガナドールはグラン・イデアルの後継艦、今までの旧式空母と違い新しくカタパルトを装備している。

 

そして繋げられたカタパルトの出力が最大になり、勢いよくシャルル機は打ち出された。隣でメリエルの機体もほぼ同時に打ち出される。普通なら少し歯をくいしばるほどの衝撃だが、シャルルは慣れた感覚で顔色を変えない。

 

アイレスVが空に打ち出される。青い群青色の空が明るく迎え、上空1000メートルに浮かぶガナドールの船体を彩っている。他の戦空機隊と合流すると、シャルル機は編隊長として他の機体達を導いた。

 

空を駆け抜ける、上空6000メートル。

 

巡航速度でアイレスVが空をかける。やがて現在ロ軍との戦闘が行われている海域に到着すると、それは見えてきた。

 

 

「ロ軍のワイバーンだ」

 

 

シャルルの天性の視力が、アイレスVの広い視界から見える黒点のようなものを見つけた。上空3000メートル付近を飛行している羽ばたく鳥のような黒点が、いくつか見当たった。

 

 

「誘導する、我に続け」

 

 

通信を開き、味方編隊全体に指示を送る。ワイバーンは見事に艦隊につられてきた、これでロ軍のワイバーンを一網打尽にできる絶好のチャンスは出来上がっていた。

 

途中に砲撃戦が止んでいるエル・バステルの上を通ると、翼を振るって直掩についたことを合図した。エル・バステルのカタパルトからも戦空機隊20機が発艦してシャルル隊達と合流。その総数は60機にまで膨れ上がる。

 

編隊を6500、6000、5500の三段階に分けるように指示すると、ワイバーンがほぼ同高度に見え始めてきた。相手のワイバーンは横一列に広がった編隊を組んでいるが、その相手の顔は未知の鉄竜への驚愕と疑問に満ちていた。標準器を覗く、視界いっぱいにワイバーンが広がった。その途端、シャルルはアイレスVの機銃レバーを思いっきり押し込んだ。

 

 

「喰らえ!」

 

 

瞬間、三段のアイレスVから猛烈な弾幕が激しく迸った。轟く噴火の火線のような噴煙が、ロ軍のワイバーンを襲う。ワイバーンは生物とはいえ、案外高い防御力と生命力を持つ。しかしそれは中世レベルの価値観基準であり、アイレスVの4門の20ミリ機銃の弾丸はワイバーン達の鱗を貫通し、確実に命を刈り取って行く。

 

1騎、2騎、3騎、4騎とどんどんワイバーン達が削られていって行く。生命が刈り取られ、血しぶきをあげて墜ちて行く。中には竜騎士がやられて、ワイバーンだけが残されて行く騎体もいた。

 

瞬転、アイレスVとワイバーン達がすれ違った。猛スピードで空を駆け抜けるアイレスVの乱した気流に、ワイバーン達が驚いて編隊が乱れた。

 

 

「全機上昇!ここままワイバーンを片付ける!!」

『了解!!』

 

 

そこからシャルル機達は降下のエネルギーを保持したまま上昇、ここからは巴戦に入る。アイレスVに取り付けられた自動空戦フラップが作動し、最適なフラップ位置を保ち続けている。宙返りを打つかのような空戦軌道の途中に見えた相手のワイバーンの影を素早く標準する。シャルルは発射レバーを引いた。

 

 

「堕ちろ!」

 

 

アイレスVの20ミリの銀色の曳光弾が、ワイバーンに炸裂した。徹甲弾と炸裂弾、そして焼夷弾で構成された弾頭達がシャルルの手さばきによって最小限の数でロ軍のワイバーンに撃ち込まれ、絶命した。

 

シャルルはそのまま機体を翻し、ゆっくりと縦旋回に入る。自動空戦フラップの機能により、空戦の補助を得たアイレスVの機動性にワイバーンは敵わなかった。

 

宙返りの要領で機体を水平に戻すと、乱戦に入り混乱してあたふたしている一匹のワイバーンを照準に収める。四つの火線が、シャルルの機体から猛烈に迸った。容赦のない一撃、相手はすぐさま絶命した。

 

 

「まだまだ!」

 

 

途端、シャルルは機体のフットバーを右に踏みつけて、その隣にいたワイバーンも素早く撃ち墜とす。あっという間に『世界最強の航空戦力』とまで言われたワイバーン達が、どんどんと数を減らしていっていた。そこにはただ科学と飛空力学だけが支配する空の戦場、現代戦にワイバーンの出番はない。

 

シャルルは列機のメリエルに目をやる。彼女もまたアイレスVを巧みに操って、ワイバーンを撃墜して見せていた。たまにワイバーンと正面衝突しようとするような危なっかしい操縦だが、なんとか撃墜数を稼いでいる。

 

空はシャルル達の独壇場であった。空を舞うかのような悠々とした飛空で辺り一面の空を舞い、踊るかのようにワイバーンを次々と落としていった。機銃が火を吹けば、ワイバーンが一騎、また一騎と面白いように落ちて行き、空が血飛沫に彩られる。

 

十分とかからずに、皇軍の戦空機隊はワイバーンをほとんど壊滅させた。その中でシャルルの撃墜数は80を超え、たった一回の空戦でこれまでにない大戦果を挙げていた。

 

 

『なんなんだよこいつら!!』

『後ろにぴったりついてくる!助けてくれ!!』

『鉄竜が!鉄竜が後ろに!ぐわぁ!!』

 

 

ロ軍の味方が次々と落とされて行く中、魔法通信を拾えるように改造された新型通信機には、ロ軍の竜騎士達の悲鳴が轟いていた。

 

 

『くそぉっ!あのデカイ船に向かって突撃だぁ!!仲間の仇を討つぞぉぉぉ!!』

『おう!』

 

 

そう言って、ロ軍のワイバーンのいくらかが艦隊に向かって突撃をしていった。大きな船が浮いているから、的になるとでも思ったのだろう。撃ち減らされたワイバーンのうち、生き残り全てがアイレスVを無視して旗艦のエル・バステルに向かっている。

 

 

「無駄だよ」

 

 

シャルルはそう呟くと、全ての機体達にすぐさま上昇を命じた。艦隊の攻撃に巻き込まれないようにするための措置である。これ以上ワイバーンを追尾すると、フレンドリーファイヤで艦隊の熾烈な対空砲火に巻き込まれかねない。

 

ワイバーンはそのままエル・バステルに迫り来る。真っ直ぐに上空から急降下して、上空1000メートルで滞空するエル・バステルを狙って降下する。

 

艦隊とて黙って見ているわけではない。艦隊の輪形陣から火山が噴火したと見間違う、噴きあげる高角砲の対空砲火が空を紅に染める。そして、火線がワイバーンの下腹に到達した瞬間──

 

 

 

 

 

 

火線が爆発した。

 

 

 

 

 

 

火の玉が蛸の足のように伸びて行く。幾千もの炎に絡め取られてワイバーンの柔らかな体が千切れ、散って行く。竜騎士が破片にぶつかり、絶命する。

 

 

『うわぁ!!』

『なんだこれはっ!?』

『回避しろっ!回避だぁっ!!』

 

 

まるで炎熱の投げ縄だ。しかもこの投げ縄はあらかじめ測っていたかの様にワイバーンの直前で網を広げて待っている。ワイバーンに待っていたのはレヴァーム製の近接信管の応酬であった。近くに球がかすめるだけで爆発して破片を撒き散らす、ワイバーンにも対応した凶悪な夢の兵器だ。この科学の結晶の前では、いかなる竜騎士でも避けようがない。

 

 

『くそぉ!喰らえ火炎弾!!』

 

 

一人の竜騎士が、ワイバーンを操り首を真っ直ぐにして射程距離外から導力火炎弾を放った。この降下なら、重力により射程が伸びるとでも思ったのだろう。

 

しかし、竜騎士は絶望することになる。火炎弾はエル・バステルの砲塔に着弾した。しかし、炎を上げることなく全くビクともしていない。

 

 

『な、なんだとぉ!?』

 

 

全てを焼き尽くすはずのワイバーンの火炎弾、それが全く効いていない。それを見届けて絶望感に打ちひしがれた時、近接信管が彼の目の前で炸裂して竜騎士は絶命した。

 

ここに、ワイバーン250騎全てが撃滅された。

 

 

「…………」

 

 

シャルルとて、この悲惨な光景を黙って見ていることしかできなかった。それで何も感じないシャルルではない、空を散って行くワイバーンの残骸を鳥瞰すれば、少しだけ哀れが感じられる。

 

シャルルが今回撃墜したワイバーンの数は80を超える。それはつまり、同じ数だけのワイバーンと竜騎士を殺したことになる。それぞれに家族がいて、人生があり、努力があったはずだ。哀れでしか無かった。

 

その後に、上空を急降下爆撃機と雷撃機が空を飛んできた。制空隊が空を支配したのを見計らってガナドールから発艦した攻撃隊だ。ロウリア王国海軍の命運はここで尽きたようだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

静寂が大海原を支配する。あたりは砲撃の音と水柱の音、そして乱れる波の音だけであった。誰もが目の前で起きたことを信じられず、誰一人として声が出せずにいた。

 

ワイバーンは一騎落とすだけでも至難の業。同じワイバーンでも落とすのに苦労する。しかし、それが見えている範疇で200騎以上、謎の青灰色の鉄竜によって一方的に狩られた。夢ではない。夢ならば、どれほど、よかったでしょう。

 

 

「これが……レヴァームの力……」

 

 

なんと表現していいかわからない。空に異形の音調が鳴り響く、大海原を揺らし、謎の風車を回して一騎の青灰色の騎体が空を悠々と支配する。まるで勝ち誇ったかのようなその騎体は、ワイバーンを最も多く撃墜していたのをシャークンは見ていた。その騎の胴体には、綺麗に翼を広げる一羽の鳥が描かれている。あの鳥は、海の人間であるシャークンには馴染み深いものだった。

 

 

「海猫……」

 

 

海猫は圧倒的だった。何もかもが自分たちの常識を外れていき、崩れ去って行く。空を飛び、そして圧倒的な魔導を投射続けている空飛ぶ巨艦。ワイバーンを物ともしない青灰色の鉄竜。

 

そのうちにシャークンの手足が震え、恐怖に顔が歪んで行く。ワイバーンをあっという間に片付けてしまった海猫に対する恐怖が、シャークンを支配した。

 

 

「て、鉄竜が来たぞー!!」

 

 

そのうちに、空に新しい鉄竜が大量に現れた。ワイバーンの居なくなった大空を我が物顔で空を駆ける新たな鉄竜にシャークンは絶望した。青灰色の騎体とは違う、青い色をした二種類の騎体が大空を震わせて空中を支配している。そのうちの一部が一斉に降下し始めた。

 

 

「何をする気だ!?」

 

 

ロ軍艦隊にとって不運だったのは降下してきたそれが、皇軍の急降下爆撃機「LAG(ロス・アンゲレス)」であったことだ。腹に6発もの100キロ爆弾を詰め込んだLAGは、一気に急降下爆撃をけしかけたのだ。

 

そしてLAGは一発を降下しながら一つ、また一つとポトリ、またポトリと落として行く。金切り音を放ちながらそれらは、皇軍の飛空士の腕前によって必中の高度で落とされてゆく。

 

 

「あれは……!?」

 

 

帆船にとってはそれだけでも一撃必殺だった。黒が船を突き抜けて、船底の海面に衝突すれば、パッと炎が吹き出て海底火山の噴火に巻き込まれたかのように爆散してゆく。

 

 

「うわぁ──っ!!!!」

「ギャァ──ッ!!」

 

 

全ての黒を投棄したLAGはそのまま高度を一気に上げて離脱してゆく。まるで炎熱の爆発に興味がないかのようなそぶりで上空に登ってゆく。

 

 

「なんなんだよ!あれはぁ!?」

「逃げろぉ!!あんな鉄竜に勝てるわけがねぇ!!」

 

 

途端にパニックになるロ軍艦隊。統率は乱れ、勝手に逃げ出す船が現れて周りの海は大混乱に陥った。統率が取れていないまま、彼らは自分勝手に生き残ろうと船を動かす。あちこちで衝突し、それがまた自滅を呼び起こす。

 

それをみすみす見逃す皇軍ではない。混乱して固まったところを狙い撃つかのように砲弾が迫り来る。上空を見れば、飛空機械が暴れまわる上空を鳥瞰するように『サンタ・クルス』が着弾観測をしている。情報は随時エル・バステルや巡空艦、駆逐艦に伝えられて正確な砲弾を叩き込む。

 

さらに不運は続く、艦隊を囲むように雷撃機の『サン・リベラ』が高度を落として艦隊に対して水平になった。そのうちに、ある程度まで近づくと腹に抱えた細長い魚雷を投下した。

 

 

「提督!!水中から白い線が!!」

「何!?」

 

 

その報告を聞くと、シャークンは手に持った望遠鏡で海面を見据える。水中に白い線が轟き、水中を抉るかのように進んで行く。水中を進む攻撃など聞いたことがないが、シャークンはさっきまでの謎の攻撃から、それらも攻撃であると本能的に察知した。

 

 

「あれは攻撃だ!避けろぉ!!」

 

 

届かぬ思いを魔信に伝える。しかし、彼の指示はあまりに遅すぎた。白い線が船の船底を突き破り、バリバリと音を立てて突き破ってゆく。船底を突き破られ、一気に浸水が始まり船が転覆する。

 

白い線は船を突き破ってそのまま艦隊の中央を駆け抜け、艦隊を周りから囲むように放たれた。幾千もの魚雷達が水中を突き抜け、船をえぐり、海中を我が物顔で突き進んで行く。

 

戦空機たちも黙って見ているわけではない。皇軍の『アイレスV』達が一斉に降下し始め、機銃の射程に船を収める。雷鳴のような発射音共に4門の20ミリ機銃達が一斉に火を吹き、船のありとあらゆる場所を貫いてゆく。船の甲板が穴だらけになり、マストに被弾し、不運にも船員に当たって四肢を撒き散らす。

 

火災を起こすための銃撃だ。機銃弾には焼夷弾と炸薬弾が含まれており、マストや甲板から次々に出火する。油壺を貫かれて余計に燃え広がりやすかったのが不運だった。辺りは狩場の様相を呈し、ロ軍艦隊は恐慌に陥っていた。

 

 

「ちくしょう!化け物どもめ!あんなのにかてるわけがねぇ!うわぁぁぁぁぁ!!」

 

 

一隻、また一隻と時間を追うごとに、信じられない速度で味方の船が撃沈されてゆく。

 

 

「ダメだ、勝てるわけがない……」

 

 

海将シャークンは絶望を通り越し、忘我の境地に立っていた。どうやっても勝てない。奴らは空を飛び、こちらの攻撃を寄せ付けない場所から一方的な攻撃を仕掛けてくる。三種の鉄竜が降下してくれば、船が破裂したり、船底を突き破られたり、燃え上がったりしてゆく。

 

 

「……ん?」

 

 

すると、あたりが静まり返り、爆裂魔法の音がやんだ。不意に思い辺りを見れば、こちらに攻撃を向けていた空飛ぶ船も、周りを囲んで空の檻を作る鉄竜達も、物事を鳥瞰するかのように攻撃をやめていた。

 

 

『こちらは神聖レヴァーム皇国空軍、クワ・トイネ公国派遣艦隊司令官、マルコス・ゲレロだ』

 

 

またも、魔力通信のオープンチャンネルに初老の男の声が轟いた。今度も返信できない、一方的な通信であった。

 

 

『ロウリア王国海軍に告ぐ、降伏せよ。繰り返す、降伏せよ。降伏するならばマストに白い旗を掲げ、武器を下ろせ』

 

 

突然の降伏勧告であった。周りの兵士たちにどよめきが走り、混乱した海が静まり返る。シャークンはその言葉を何度も噛み締めた。

 

このままでは部下をいたずらに死なせるだけであった。ロデニウス大陸の歴史上最大の大艦隊の、最大の大敗北。国に帰ったら死刑は免れないだろう。歴史書には無能の将軍として名が残るであろう。しかしそれでも、これ以上部下を死なせるわけにはいかない。彼に残された道は、降伏の二文字だけであった。

 

 

「全軍降伏せよ。我々の負けだ……」

 

 

魔力通信で降伏に従う指示を出す。恐怖に歪んでいた水夫たちは、自らの下着をマストに掲げて白旗とした。ロ軍は1600を超える船が撃沈され、1400隻が降伏した。残りの1400隻は勝手に逃げ出していた。こうして、ロデニウス沖大海戦と呼ばれた海戦が終わった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「敵艦から降伏の印が上がりました!」

「よし、全艦撃ち方やめ」

 

 

鋭く命令が飛ぶ。旗艦エル・バステルの寵楼艦橋で、マルコス・ゲレロは腰の後ろに手を回したままどっしりと構えて命令を弾く。

 

 

「これより生存者の救助に入る。全艦着水せよ」

 

 

途端、その言葉を聞いた艦隊が着水体制に入る。エル・バステル達飛空艦隊は現在高度1000メートルを飛行して一方的なワンサイドゲームを展開した。生存者を救助するには着水しての作業となる。

 

 

「高度100、降下率異常なし」

「降下率そのまま!」

「降下そのまま、ヨーソロー!」

 

 

飛空艦の着水手順は着陸とは大きく違う。海面は抵抗となるため、プロペラをフェザリングしなければプロペラが折れてしまうのだ。

 

 

「プロペラをフェザリング」

「フェザリング確認!水中スクリュー始動!」

 

 

フラップを下ろしスクリューを回転させて着水態勢に入る。同時に空気抵抗も上がり、降下率が上昇し、そして高度がだんだんと下がって行く。

 

 

「ペラ停止、フラップ下ろせ」

「ペラ停止!フラップ下ろします!」

 

 

高度がある程度下がったところでプロペラを停止。同時にフラップを下ろし、失われた揚力を補いながら降下する。

 

 

「着水します」

 

 

ザバァと海面を掻き立てながら艦隊が着水する。大津波のような波が海を掻き立て、海面をえぐる。

 

『エル・バステル』の艦橋に同乗していたブルーアイは、何が起こっているのか、今ひとつ理解できなかった。艦橋でマルコス司令官が指示を飛ばせば、船が火を噴くかのような轟きとともに破壊の一撃が撒き散らされ、他の船からも大小の魔導砲が撃ち出される。

 

そしてワイバーンが空を飛べば、後方から幾多もの鉄竜が現れ、ワイバーンを一方的に駆逐していった。特に、エル・バステルの艦橋からも海猫のマークをつけた鉄竜が空を遊ぶように飛び回りながら一番多くワイバーンを倒していったのは印象的だった。

 

何もせず、傍観しているだけで海戦が終わってしまった。ロ軍艦隊が降伏したと聞いた時、初めて実感が湧き始めた。彼らはこの強大な艦隊に恐怖して降参したのだと。圧倒的勝利に終わったことだけが、理解できた。

 

その日のブルーアイの日記より。

 

観戦武官としての任、レヴァームの力をある程度は測ることも私の使命だった。しかし、何ということだろうか、戦いは一方的に進んでいった。

 

船から放たれるとてつもなく強烈な爆裂魔法は、ロ軍の船達を粉砕して行き、粉々に打ち砕いていった。

 

後方から飛来した鉄竜達は、増援に駆けつけたワイバーン達を全て狩り尽くした。特に、胴体に海猫の絵を描いた騎体は、空の王者たるワイバーンを裏庭を散歩するかのような足取りで数多く撃墜したのは印象的だった。

 

全ての救助作業が終わった後、ロ軍のワイバーン250騎と軍船1600隻を粉砕して勝利したことを教えてもらった。レヴァームの艦隊がいくら巨大で強力でも、たったの数十隻で、たったの一回の戦いで、ごく短時間での戦果とは思えなかった。こんなことは前代未聞である。

 

列強のパーパルディア皇国でさえも無理ではないだろうか。

 

そして、気になった私はマルコス司令官に思い切ってあの海猫の鉄竜について聞いてみた。聞くに、その竜騎士はレヴァーム随一の腕前を持つ凄腕なのだという。

 

私はこの戦いの報告書のことよりも、彼の美しい機動が頭の中で繰り返され、美人を目の前にしたかのように見惚れていた。

 


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