とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

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評価って0以外だと付かないのか……知らなかった……
というわけで評価の情報を修正しておきました。


第16話〜反応〜

 

「な、なな……なんなんだあれは!?」

 

 

パーパルディア皇国の観戦武官ヴァルハルは軍船の中で震えていた。彼の船は勝手に逃げ出した船であった為、運良く撃沈されなかったが、周囲にいた幾多の軍船が、次々に撃沈されて行く光景を目の当たりにしたからだ。

 

彼はロウリア王国の4400隻の艦隊がどのようにクワ・トイネ公国を蹂躙するのか、その経緯を記録するためこの任務についていた。蛮族にふさわしいバリスタや火矢、切り込みと言った原始的戦法でも、これだけの数を揃えたらどうなるのか、個人的興味もあって彼はこの任務に自ら着いていた。

 

しかし、現れた敵艦は常軌を逸脱していた。かの船は空を飛んできたのだ。しかし、これは違う。パーパルディア皇国の勢力圏にも空を飛ぶ船は存在する。

 

飛空船だ。

 

属国同然のパンドーラ大魔法皇国などの魔法技術が高い国々が持っている、文字通りの空飛ぶ船だ。木造船をそのまま空に浮かべたかのような外見をしており、速度も速い。

 

しかし、それは船としてであって、総合的に見れば効率が悪い。飛べるとはいえ船は船なので、あくまで停泊するのは水の上。直接地上に降りたり、断崖絶壁に接岸したりというようなような芸当はできない。そのため魔導港というそれらを叶える施設が必要なくらい不便だ。

 

問題はかの敵はそれらすら逸脱していたことだ。

 

巨大で、目測で200メートル以上の船が空を飛び、大小の大きさをした大量の飛空船達が敵として現れたのだ。しかも、材質は鉄で出来ているときた。これは一体何なのか!?

 

それだけではない、普通の飛空船は空を飛ぶための魔素の量との兼ね合いから大砲を積むにはまだ()()()()()()はずだった。しかし、現れた敵艦は100門級戦列艦よりも大きい船体に、明らか超巨大な12門の魔導砲を積んでいた。

 

そして、その威力も最早冗談と思えるレベルであった。大砲は早々当たるものではないはずなのだが、彼らは1000メートルの上空から一方的に当て続けた。しかもその大きさに似合うほど高威力で、一撃で簡単に沈む。

 

さらに驚くべきはワイバーンを退けた謎の鉄竜のことだ。我が軍であれば、竜母を使用し、ワイバーンにはワイバーンをもって対抗する。蛮地で生産された個体よりもはるかに性能が良いため、簡単に勝つことができる。

 

しかし、今回現れた鉄竜はそのワイバーンを簡単に退けた。250対40ほど、数の違いが圧倒的であるのにもかかわらず、まるでものともしないかのように一方的にワイバーンを片付けた。

 

特に、騎体に海猫のマークを付けた鉄竜の活躍は凄まじかった。たった一騎で80騎は撃墜し、他のワイバーンをも寄せ付けない勢いでどんどん駆逐していった。

 

あの機動には、我が国のワイバーンロードすらも敵わないだろう。あの海猫がパーパルディア皇国のワイバーンロードを駆逐して行く姿を想像すると、ゾッとする。

 

彼らは自分たちのことを『神聖レヴァーム皇国』と名乗った。彼らの存在を知らずに進めると、パーパルディア皇国でさえも脅かすかもしれない!

 

 

「今すぐ本国に報告しなければ!!!!」

 

 

ヴァルハルは魔信を通じ、見たまま、ありのままを本国に報告した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「──以上がロデニウス沖大海戦の、戦果報告になります」

「おお!!」

 

 

先日26日、神聖レヴァーム皇国がロウリア王国海軍を撃退した時の戦いの模様が、参考人招致したブルーアイの口から報告されていた。

 

彼はレヴァームの戦いをその目で間近で見たことによって、政治部会に召集がかかっていた。圧倒的な戦力でロウリア王国を撃退してみせたレヴァームの活躍に、政治部会の国の代表達は真剣に聞いている。

 

 

「レヴァームにはなんと感謝して良いのやら……お陰で敵の上陸は防がれた」

「ええ、彼の国には感謝しかありません。彼らがいなければ北の海に沈んでいたのは我々の方だったでしょう」

 

 

彼の言うことも一理あった。今回の海戦、レヴァームに先頭を任せっきりで、クワ軍には出番すらなかった。

 

それは逆に言えば、レヴァームの力無くして勝つことは不可能であったと言うことである。それではクワ・トイネの面目が立たない。「今後も何かあった時はよろしくお願いします」では、面子が立たない上、レヴァームと天ツ上の信頼にも背くことになる。

 

やはり、何かあった時は自分たちの力で対応できる方がよっぽど良いのだ。

 

 

「まあ、いずれにせよ海軍の強化は宿命だな。予算はこちらで組むことにしよう。して、陸の方はどうだ軍務卿?」

「現在ロウリア側陣地は、ギム周辺に陣地を構築しています。しかし、ギムでの撤退戦に成功したことから「ギムの兵は捨て駒だったのでは?」と言う憶測が立ち、警戒して電撃作戦は無くなったとみて良いでしょう」

 

 

これは彼の国に派遣したクワ・トイネ公国のスパイの情報である。ギムの兵は自らの意思であの場所に居残って戦ったが、ロウリアはそれを捨て駒だと見て警戒していた。そのため、ギムの守りを固めてから再度進行するまでの時間がかかっていた。

 

 

「また、レヴァーム軍はエジェイの後方にあるサン・ヴリエル飛空場に本陣を移し、そこを拠点に活動する予定でいるそうです。そして、天ツ上軍の方では海軍の飛空艦隊の準備を行なっているようで、到着は……」

 

 

その後も会議は続いた。ロウリアに対する反撃の狼煙はすでに立ち上っていた、あとは時が来るのを待つだけだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「…………」

 

 

ロウリア王国第34世国王ジン・ハークは激怒していた。いや、若干忘我の淵にいると言ってもいい。彼は将軍パタジンからあのレヴァームによって被害を被ったと伝えられていたからだ。

 

ワイバーン250騎、軍船1600が撃沈、軍船1400隻が降伏し、帰ってきたのは1400隻のみである。未曾有の大被害であった。しかも、こちらから相手に対する被害は確認されていない。まさかの完全敗北である。

 

 

「なぜだ……なぜレヴァームに海戦で負けたのだ!!!」

「…………」

 

 

その言葉に、答えられるものは会議場に誰一人としていなかった。レヴァームの参戦を受けて急遽開かれた会議、それに集められたロ軍のトップたち。将軍パタジンも、魔導士ヤミレイも、マオスも、誰もが口を閉ざして暗い表情を浮かべていた。

 

 

「今の王国なら、列強国相手であろうとここまで惨敗することはなかったはずだ!それどころか古の魔法帝国ですら勝てるはずだ!しかしなぜだ!なぜレヴァームに負けたのだ!」

「か、海軍からの情報があまりにも信用できないため、現在原因の調査と報告の信憑性の確認を……」

「たわけが!!」

 

 

ハーク王は言葉を詰める、パタジンは言葉に詰まる。今回の戦争、ロウリア王国はレヴァームが参戦してくることを最も警戒していた。巨大な鉄の船を浮かべ、強力な爆裂魔法を放ち、鉄竜を私役する。そんな強力な力を持ったレヴァームを一番警戒していた。

 

しかし、こんな早くから参戦してくるとは思っても見なかったのである。彼らとの距離は大陸から1000キロ以上も離れているはずだ。それがこんなにも早く参戦してくるなんて聞いていない。

 

しかも、報告の内容だってまるで阿鼻叫喚だ。曰く、巨大な鉄の空飛ぶ船が爆裂魔法を発射し、ワイバーンを灰青色の鉄竜が一方的に退けたという。

 

鉄の船に至ってはパタジンたちも魔写を見ていたため信用できる。いや、するしかない。パタジンたちはそれが文明圏の持つ『飛空船』だと推測していた。鉄でできていたり、爆裂魔法を投射したりと色々と異差はあるが、それしか考えられない。

 

しかし鉄竜は、戦闘中にワイバーン隊の魔信を聞いたり、海軍の撤退中にワイバーンの亡骸を発見したのが根拠となっているため信憑性が低い。そのためこの情報には精査が必要だ。

 

 

「しかもワイバーンを250騎も失うとは……『海猫』だのなんだの、誰であろうと蹴散らせたはずだ!それがなぜ……」

「…………」

 

 

更に、彼らを悩ませたのが一騎の鉄竜の情報だ。『海猫』、そのマークをつけた騎体はたったの一騎でワイバーンを80騎近くも撃墜したらしいのだ。

 

とんでもないエース竜騎士だ、信じられない。しかし、海軍の生き残りが数多く見ているため、信憑性が高いのが信じられない。本当にこんなことをしてのける竜騎士が存在するのかと、生き残りたちは怯えていた。

 

 

「パタジンよ……」

「は、はっ!」

「今回の戦、レヴァームが参戦してきても勝てるのだろうな!?」

「ははっ!問題ありません、陸戦に関しては数が物を言います。レヴァームの陸軍がいくら強かろうと、以降の作戦は万全を期しております。陸上部隊だけでも公国を陥落させることは可能でしょう……」

 

 

いつになく、パタジンにしては弱気な声であった。若干震えており、萎縮している。その恐怖の対象はレヴァームなのか、それともハーク王なのか。

 

 

「また飛空船に関しては、あの船は水上にしか着水できませんので、陸地まで持って来られる可能性も低くございます……」

「そうか分かった。パタジンよ、この度の戦はそなたにかかっておる。期待を裏切ることのないように頼むぞ!」

「は、ははっ!ありがたき幸せ!!」

 

 

質と戦術が物を言う空と海。しかし、陸では数が物を言う。陸戦ならばなんとかなるかもしれない、かのレヴァームが参戦してきたとしても……

 

その日、ハーク王はまさかの敗北に苛まれて眠れなかった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ヴィルハラが持ってきた報告書は読んだか?」

「いえ、これからです。読ませていただきます」

 

 

薄暗い部屋にほのかなオレンジ色の光が付いている。薄暗い部屋をあやしげに照らすガラス玉の光は、暖かい色なのにもかかわらず何やら不気味だ。光源は聖霊の力で輝かせており、その光は二つの影を映し出している。

 

 

「えーと……な!?なんなんですかこれは!?」

 

 

そこに書いてあったのはあまりにも夢中説夢な内容であった。

 

曰く、飛空船が強烈な魔導砲を撃ってきた!

曰く、ワイバーンが鉄竜に駆逐された!!

曰く、たった一騎で80ものワイバーンを撃ち落とした凄腕の『海猫』がいた!!!

 

一体どうしたらこのような無頓着な内容の報告書が出来上がるのだろうか?彼は一体何をみてきたのだろうか?

 

 

「……一体これはなんです?もしかしてヴィルハラさん、精神疾患にかかりましたかね?」

「分からん。あいつは長い間蛮地で暮らしていたから、その可能性はなくもないが……お前はこの報告書をどう思う?」

「いえ、如何にもこうにも突拍子もなくてありえませんね。この『海猫』とやらの竜騎士については特に……数の差もあるのに、たった一騎で80騎以上の敵騎を撃ち落とすなど不可能ですよ」

 

 

それもそうだ。いくら竜騎士が強くても、数の差は圧倒的だったはずだ。それすらも覆して戦局を塗り替えてしまうのはどんな竜騎士でも、どんな高性能のワイバーンに乗っていても不可能だ。

 

 

「だろうな……例えば、我が国のワイバーンロードがロウリア王国のワイバーンと戦えば、同じようなことになるか?」

「改良種は普通のワイバーンより速度、旋回性能、スタミナ、火炎弾の威力、すべてで優っています。数が少なくても負けることはないでしょう」

「そうだろうな、だがこの海猫とやらが卓越した竜騎士であることは間違いなさそうだ」

 

 

そう言って上司は報告書に目を写し、じっくりと見回す。びっしりと書かれたその内容に目を通せば、ヴィルハラの書いた報告書は八割がこの『海猫』のことについて書かれていたのがわかった。

 

 

(そんなにすごいのか?この『海猫』とやらは)

 

 

彼の描いた機動、そして卓越した技術の数々が事細かに記され「今後の皇国の脅威になる!」としっかりと記されていた。まるで恋い焦がれたかのような、濃い内容の報告書だが、上司の心はあまり動かせていなかった。

 

 

「それより、レヴァームとかいう国なんてここで初めて聞いたぞ。どういった国だ?」

「えーと……ロデニウス大陸の北東に1000キロの位置にある新興国家のようです。その隣には同盟国の天ツ上という国も存在するようです」

「ん?待て、そんな近くにあるのなら我が国が今まで気づかなかったわけがないだろう?どうなっている」

「あの海域は海流が乱れており、船が近づけないので渡航を禁止しておりました。なので、今まで気づかなかったのでしょう」

 

 

実際に海流が乱れているのは事実であり、戦列艦のような巨大艦でも、荒れ狂う波の上を進むことは難しいため近寄らないようにしていたのだ。

 

 

「そうか。にしても『神聖』だの『帝政』だの蛮族のくせに生意気な名前をしおって……」

「ええ、しかも我が国と同じ『皇国』を名乗っているのも癪に触りますね……」

 

 

上司はそう言って愚痴を漏らす。国名などどうでも良いのだが、上司にとっては身の程をわきまえない蛮族が神聖だの帝政だのを名乗るのは気に入らなかった。彼らには自分たちよりも下の国々を見下すかのような何やら野蛮な精神が宿っていた。

 

 

「ところで、ロウリアが負けることはあるまいな?我々の資源獲得の政策に支障をきたすぞ」

「あの国は昔から()()()()()多い国です。海戦で負けても、陸戦では負けることはないでしょう」

 

 

ロウリア王国は人間の質は悪いが、人口だけはとにかく多い。この6年間でなんとか教育を施したらしいが、それでも数だけが取り柄の国であった。

 

 

「なるほど、わかった。この報告書は信用に値しないため今すぐ破棄しろ。それから陛下への報告も保留だ、いいな?」

「了解です」

 

 

そうして彼らは手に持った報告書を、近くの暖炉にぶち込む。あっという間に燃え広がり、報告書は真っ黒な煤となって消えていった。証拠は隠滅した、しかし上司の目の裏には『海猫』のことが気がかりになっていた。

 

 

「フンッ、『海猫』か……たかが海鳥程度に何ができる」

 

 

途端、フッとオレンジ色の光が消えた。

 


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