とある飛空士への召喚録   作:篠乃丸@綾香

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今回、この物語で重要となる伏線が登場します。


第17話〜エルフの疎開〜

 

 

「はぁっ……!はぁっ……!はぁっ……!」

 

 

走る……走る……走る……

 

名もなきエルフの村の村人ちが、息を切らして東へと向かっていた。エルフたちの村は外界と隔離されているため、情報も滅多に入って来ないのが仇となり、ロウリアのギム進行の方が届くのが遅れた。

 

エルフたちは必死になって疎開を開始したが、時はすでに迫っていた。すでにここはロウリア王国の支配圏にあり、いつ見つかって殺されてもおかしくはない。彼らは亜人殲滅を望む虐殺集団、エルフである彼らは格好の獲物だ。

 

村人の数は200名、その誰もが疲れ切っていた。彼らが進むのは背丈の低い緑草が生える大地だ。草を牛が食べており、とてものどかな風景……それはその分見つかりやすい。

 

少年パルンは、幼い妹の手を引いて歩いていた。彼の家系は幼い頃に母を病気で亡くし、父と男手一つで3人暮らしをしていた。父はクワ・トイネ軍の予備役であった為に、戦争の機運が高まるとエジェイの方面に召集されてしまった。パルンの脳裏に、父の笑顔が焼きつく。

 

 

『パルンよ、アーシャを頼んだぞ。お兄ちゃんなんだからな』

 

 

進行速度はなかなか速くならず、パルンは焦りを覚える。集団の後方では、若者たちが警戒に当たっている。クワ・トイネに徴兵制度はないが、軍に志願した若者が多い為、その人数は10人とかなり少ない。

 

 

「ロウリアの騎馬隊だ!!」

 

 

突然、誰かが悲鳴をあげた。パルンが振り返ると、土煙を上げて何頭もの馬たちがズンズンと進んでいた。ロウリアの騎馬隊だ、その数100人が後方3キロから迫っていた。

 

 

「あ、あれは赤目のジョーブ!?」

 

 

目のいい村人が、騎兵の旗を見つけた。赤目のジョーブは山賊、海賊上がりの荒くれ者の集まりだ。捕まったらどうなるかわかった物じゃない。

 

村人たちが悲鳴をあげて走り始めた。しかし、騎兵の速度に勝てるはずもなく、脅威はどんどんと迫っていた。パルンはアーシャの手を引いて、懸命に走った。

 

 

「大丈夫、お兄ちゃんがいるからな!心配するなよ!」

「うん!」

 

 

気さくに振舞うパルンだったが、その内心は恐怖に満ちていた。相手は赤目のジョーブと呼ばれる残忍な性格の持ち主だ。パルンも男の子だが、まだ幼く嬲りがいのある見た目をしている。捕まれば、何をされるかたまったものではない。そもそも彼らは亜人殲滅をスローガンに掲げる殺戮集団だ、どのみち殺される。

 

 

(こわい!こわいよ!!僕たちが何か悪いことをしたのか!?神さまは助けてくれないのか!?なんとかしなきゃ!せめて……アーシャだけでも……!)

 

 

死が確実に近づく中、パルンは母が夜に話聞かせてくれてことを思い出した。遠い遠い昔の話だった。

 

 

──遠い昔、北の大陸グラメウス大陸に魔王が現れた。

 

魔王は強力な魔物を配下に従え、フィルアデス大陸に侵攻を開始すると、数々の集落が消え、支配されていった。

 

エルフ、人間、獣人達は、個々の力で魔王軍に抗うことができず、各種族は手を組んで『種族間連合』という組織を作り、各々の長所を生かして魔王軍に対抗した

 

しかし魔王軍は人々が束になっても敵ぬほどに強力で、フィルアデス大陸の大半は魔王軍の手に落ち、彼らは海を越えてロデニウス大陸に侵攻する。

 

種族間連合は後退を重ね、やがてエルフの聖地、エルフの神が住まう神森にまで追い詰められてしまった。

 

魔王軍は、魔力が高く厄介な存在として認識していたエルフの殲滅のため、神森に攻撃を仕掛ける。

 

エルフの神である『緑の神』は我が子同然の種族を守る為、自分たちの創造主でもある『太陽神』に祈りを捧げた。

 

しかし、太陽神は長い魔王軍との戦争で神力が衰え、とても祈りに応えられる状態ではなかった。そこで太陽神は()()()()()()()『聖アルディスタ』に願いを込めた。聖アルディスタは、自身で作った『箱舟』と呼ばれるとある星を管理する、太陽神と同じ位にいる神様であったそうだ。

 

寛大な聖アルディスタは太陽神の願いを聞き入れた。結果、自分の使者をこの世に遣わし、救世主とした。

 

聖アルディスタの使者達は()()()()()に乗って現れ、天翔ける箱舟や、空を飛ぶ神の鉄竜に乗って、風を自在に操る『風呼びの少女』と共に、魔族を討ち払った。

 

しかし、彼らとて無傷ではない。数多くあった天翔ける箱舟の一つは故障し、痛手を負った。しかし、魔王軍との熾烈な戦いによって傷つき、その度に成長していった一人の王子がいた。

 

彼と、風呼びの少女の活躍によって、聖アルディスタの使者達はロデニウス大陸中の魔族を駆逐、さらにはフィルアデス大陸を支配していた魔王軍をも討ち滅ぼし、魔王は勇者達によって封印された。

 

エルフ達は助けてもらったお礼に、金銀財宝を王子たちに渡そうとした。だが、その王子は決して受け取らずに、笑顔で風呼びの少女と共に聖アルディスタの管理する『箱舟』へと帰っていったそうだ。エルフは富も名誉も受け取らずに助けてくれた王子達を崇拝した。

 

故障した天翔ける船は、この地に残され、今では失われた古代魔法である時空遅延式保管魔法をかけられ、クワ・トイネ公国国内の聖地リーン・ノウの森の祠の中に大切に保管されているらしい。

 

 

 

 

 

 

そして、母はその話の最後にこういった。

 

 

 

 

 

 

「本当にあった話だよ」と

 

 

 

 

 

 

(緑の神様!!太陽神様!!聖アルディスタ様!!本当にいるのなら助けてください……!)

 

 

パルンは、走りながら祈る。この世界のありとあらゆる神様に、そしてその親友である聖アルディスタに。しかし、現実は無情にも何も起こらない。

 

 

「ひゃはははは──ッッ!!」

「そらそら!ギムでできなかった虐殺だ──ッッ!!」

「ぼやぼやしてると殺しちまうぞぉ!!」

 

 

野蛮な声が聞こえる。死が、確実に迫っている。まだ見渡す限りの草原で、どこに逃げる場所がない。誰もがあきらめ、その場にへたり込む。その中でパルンは諦めまいと、天に向かって叫ぶ。

 

 

「カミサマァァァ──ッッ!!オウジサマァァァ──ッッ!!助けてぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

その時、空を轟かせる雷鳴が聞こえた。

 

刹那──

 

 

 

 

 

 

 

地面が砕けた。

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

パルンは何が起こったのかわからず、辺りを見回した。そして、それが現れた。

 

空に──飛竜がいた。

 

空気を切り裂くと音と共に、雷鳴のごとく一騎の飛竜が現れた。数は数十、飛竜は甲高い音を轟かせると、そのまま降下しながらナニカを放った。

 

飛竜は青かった。

 

青が放ったナニカがロウリア兵の足元で砕けると、直後に耳をつんざく轟音と衝撃波で周囲が砕け飛んだ。ロウリア兵士たちの四肢が砕け、ちぎれ飛び、悲鳴とともに消し飛んで行った。

 

 

「え?」

 

 

わけがわからず、その言葉だけが絞り出された。パルンは飛竜に目を向ける、見たことのない騎影であった。飛竜の胴体は青く塗られ、下側は灰色に塗られている。

 

パルンはその飛竜の一つに、一際目立つマークを見つけた。高く空を飛ぶ、鳥の絵であった。あれは──

 

 

「海猫……」

 

 

かっこよかった。

 

パルンは海猫をあの話の王子と重ねた。自分もあのように高く、美しく飛べたらどれだけいいだろうか。その後、海猫達はなんども往復しながら攻撃をけしかけた。見とれながら時間が経てば、ロウリア兵達は一人残らず消し飛び、全て吹き飛んでいった。

 

そして──

 

 

「あ……あれは……?」

 

 

後方、自分たちが目指していたクワ・トイネの勢力圏の方向から、ナニカが大量に現れた。鋼鉄の、地竜であった。

 

パルンは思い出す。聖アルディスタの使い達は、空を飛ぶ神の鉄竜に乗り、鋼鉄の地竜をも私役したという。

 

パルンは思わず駆け出した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

その後、皇軍の機械化歩兵部隊が装甲車や戦車を伴って村人達を助けた。ここはロ軍の支配地域だが、ガナドールからサン・ヴリエル飛空場に向かっていたアイレスVの部隊達が、ロ軍の部隊を片付けてくれた為脅威はない。

 

だが、村人達の顔は恐怖に満ちて、こちらを警戒していた。これでは、救助活動はままならない。しかし、そのうちの一人の少年が興奮鳴り止まない様子でこちらに駆け寄ってきた。

 

 

「あ、あの……あなた達は──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──聖アルディスタ様の使いの方々ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

その言葉に、皇軍の兵士たちの顔が驚愕に満ちる。指揮官の驚愕が下級の兵士たちにも伝わり、どよめきが走る。

 

 

「せ、聖アルディスタ様の使いだと!?」

「神の鉄竜に鋼鉄の地竜……間違いない!!エルフの神が再び祈り、聖アルディスタ様が使いをよこしてくれたのだ!!!」

 

 

更にどよめきが走る。聖アルディスタ教の名前はレヴァームと天ツ上の間でしか浸透していない。全く違う世界であるこの地の人々が、何故?

 

 

「何故……聖アルディスタのことを知っているんだ……?」

 

 

指揮官達の疑問は、尽きなかった。しかし、エルフ達は自分たちを崇拝しているだけで、答えられる状態ではない。皇軍の兵士たちが誤解を解くのに時間がかかったのは、関係ない話だろうか。

 

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