とある飛空士への召喚録   作:篠乃丸@綾香

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やっとのことで日本国召喚一巻から5巻まで買い揃えました!
いや〜どの挿絵もかっこいい……特に4巻、まさにグレート。

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第18話〜ギムの戦いその1〜

 

 

シャルルがサン・ヴリエル飛空場に配属されたのはロデニウス沖大海戦から2日が経った日であった。シャルル達はガナドール飛空隊を離れ、ネクサス飛空隊へと正式に入隊することになった。このような大規模な作戦があれば、自ずと異動は多くなる。

 

飛空場へ向かっている途中に、逃げ遅れたエルフの村の住人達をロ軍の騎兵団から守るために時間を取られたが、人助けをできたことに皆喜んでおり、特に後悔はなかった。なんども降下をして機銃掃射をして行く中で、一人だけ目を輝かせてこちらを見ていた少年がいたことは少し気になることだが。

 

 

「知ってるか?もうすぐロウリアに対する反抗作戦が開始されるそうだぞ」

 

 

飛空場の兵舎、その食堂。他愛もない会話とごちゃごちゃと食べ散らかす音が響き渡る。木製のテーブルと質素な椅子に腰掛けてパンとスープを口に運べば、口の中でスープのとろみがパンに染み渡って味を出す。

 

集まっている飛空士たちの話題はもっぱら、これからはじまる作戦会議についてで埋め尽くされていた。航空参謀から夜8時に作戦司令部へ集まるように指示があったのだ。

 

 

「反抗作戦ですか……シャルルさんはどんな作戦になると思いますか?」

 

 

内容をあまり予想できないメリエルがシャルルに質問する。

 

 

「僕たちの仕事はもっぱら制空戦だろうね。まだロウリア軍には数百騎近くのワイバーンが残っているらしいから、制空権を奪わないと陸軍だけじゃ心配だ」

「じゃあ、それが終わった後はどうなるんでしょうか?」

「各地の制圧はレヴァームと天ツ上の陸軍の仕事だろうね。僕たちは爆撃機乗りじゃないけど、地上支援もしたりするかも」

「機銃掃射ですか?あれって難しいんですよね……」

「うん、僕もあまり乗り気じゃないよ……」

 

 

メリエルの言う通り、シャルル達は地上への支援はあまり乗り気ではなかった。そもそも地上をスレスレを飛行して、空からは見えにくい目標に対して機銃を浴びせ続けるのは難易度が高い。

 

先日エルフ達を助けた時のように、シャルルやメリエルは出来る方だ。しかし、戦闘機乗りとしては地上の人間へ20ミリ弾を浴びせる仕事はやりたいとは思わない。そして何より

 

 

(地上で何もできない人を一方的に撃つのは、気がひけるしね……)

 

 

シャルルとて、虐殺が目的で飛空士になったわけではない。敵を一方的に撃ち落とすことも、あまり好きではない中、空に対して抵抗できない人間を殺すのは好きではない。エルフ達を助けた時は、単に危ない目にあっている人たちを助けたい一心で行った善意だ。それでも、無抵抗の人間を機銃掃射するのは気が引けた。

 

 

「それより師団長、またスパゲティを頼んだのですか?好きですね『それ』」

「ああ、大学の頃にレヴァーム料理店で食べに行ったのが忘れられなくてね。人生にタラコスパゲティは必須だよ」

 

 

ふと見れば、がやがやと騒ぎ立てる皇軍飛空士達の中で数人の天ツ上の軍人が箸を立ててタラコスパゲティをつまんでいるのが見えた。見たことのない顔ぶれだ、天ツ上軍人のようだがここは皇軍の敷地である。

 

 

「シャルルさん、あの方達は……?」

「天ツ上陸軍の人達だよ、アントニオ司令と会談してきたみたいだね」

「へぇ〜にしてもあの人、すっごいイケおじ様……」

 

 

メリエルの言う通り、天ツ上軍人の顔は整っていた。見た目は40代から50代といった年齢だ。顔立ちは端正な顔立ちをしていて全体的に整っていて、イケおじ様といった印象だ。

 

 

「もうすぐ8時だ。急がなくちゃ」

 

 

シャルルの言葉にハッとしたのか、メリエルと一緒に夕食のパンとスープ、そしてハンバーグを一気に掻き込む。クワ・トイネ産の本国では高級料理扱いされている食材だが、シャルル達に味わっている暇はなかった。

 

食べ終わり、宿舎を出ると渡廊下の空には三月下旬の冬晴れの空があった。気候はなぜか転移前と変わらないため、レヴァームと天ツ上の季節と暦がそのまま通じる。

 

 

「爆撃機が多くなりましたね」

 

 

メリエルがそう言った。彼女の言う通り、爆撃機の数が多い。『LAG』などの艦上爆撃機などもガナドールから運ばれてきたようであり、さらに奥には左右4つのDCモーターを持つ『グラナダⅡ』大型爆撃機の姿もちらほら。アイレスよりも目立つ大型爆撃機は駐機場のほとんどを占拠している規模である。

 

 

「うん。近々大規模な作戦があるんだよ、きっと」

 

 

これだけ爆撃機が多いと言うことは、それだけロウリアに対する進行作戦が近いと言うことだろう。滑走路を挟んだ天ツ上側の飛空場でも爆撃機の数が多くなっていることから、共同作戦なのかもしれない。

 

作戦会議が行われる場所は皇軍の敷地の作戦司令部宿舎から駐機場を見渡せる渡廊下を歩いて作戦司令部へと足を運ぶ。

 

そこでは、数十人の飛空士達が集まっていた。部屋を埋め尽くすほどの人数で、天ツ上の飛空士の姿もある。どうやら共同作戦なのは確実なようだ。

 

 

「これより、作戦会議を始める。皆席についてくれ」

 

 

アントニオ司令の号令一下、騒ぎ立てていた飛空士達がシンと静まる。シャルル達も簡素なパイプ椅子に腰をかけて説明を聞いている。

 

 

「まず、今回の作戦はレヴァーム、天ツ上の両陸軍との共同作戦となる。紹介させてくれ、帝政天ツ上陸軍のオオウチダ中将殿だ」

「帝政天ツ上陸軍第7師団長、大内田和樹中将です。よろしくお願いします」

 

 

大柄なイケオジ様が敬礼をする。まさか、中将クラスの人間が足を運んでくるとは思わなかったのか、飛空士達が立ち上がって一斉に敬礼をする。

 

 

「まず、我々の最終目標はロウリア王国首都ジン・ハークの攻略。ロウリア王国軍を降伏に陥れることが、戦争の勝利条件となります。その前の前哨戦として我々は目先の脅威であるギム周辺に陣を構えているロウリア王国軍と対峙、これを排除いたします」

 

 

地図を貼った黒板に、チョークでカツカツと陣地を描き込む大内田中将。蛍光灯に照らされる真っ黒の板に、真っ白の地図が書き込まれて出来上がってゆく。

 

 

「本作戦は、クワ・トイネ陸軍のノウ将軍と共同で行い、ロウリア軍と対峙いたします。クワ・トイネ陸軍の戦力は4万人、我々は後方にて彼らの支援を行います」

 

 

出来上がった陣地は、異質であった。ロウリア軍38万人に対して、クワ・トイネ軍の戦力が飛び出すかのように前に突き出ており、それを一直線に北から南へ伸ばしている。

 

クワ・トイネ軍にもレヴァーム製の小銃などが配備されていると聞いたが、どうやら火線が集中しやすいように戦術まで鍛え直したらしい。

 

なお、エル・バステル率いるレヴァーム艦隊は、ロデニウス沖大海戦での予想外の弾薬消費量に対して補給を行なっているため、出撃できない。そのためこの作戦は陸軍と空軍のみで行う。

 

 

「師団長殿。質問よろしいでしょうか?」

 

 

シャルルは思わず、気になった事を質問することにした。

 

 

「君は?」

「神聖レヴァーム皇国空軍、ネクサス飛空隊所属、狩乃シャルル大尉です」

 

 

さらりと自己紹介を済ませて本題に入る。それは、空に縛られた飛空士であるシャルルにすらもわかる、簡単な問題であった。

 

 

「この作戦、図面を見れば分かりますがクワ・トイネ軍が前に出過ぎています。レヴァームと天ツ上の陸軍はその後方で待機、これではクワ・トイネ軍の4万人は38万人と戦わなければいけません」

 

 

確かしそうだ。クワ・トイネ軍の陣地は北から南へ一直線に伸びて、防波堤のようにロウリア軍と対峙している。その後ろにレヴァームと天ツ上の陸軍の陣地。これでは、戦闘に参加できるのはわずか4万人しかいない。

 

 

「自分は空軍の所属ですが、それでもわかります。いくらレヴァーム製の装備を身につけているからと言っても、これは無謀です」

「…………」

 

 

大内田中将は意外な目つきでシャルルを見た。そのうちに、しばらく首を垂れて悩むと口を開く。

 

 

「実はこの作戦は、ノウ将軍が考えた作戦なのです」

 

 

えっ?とレヴァーム、天ツ上の両軍の飛空士達から疑問の声が上がる。そのうちにざわざわと話し合う声が聞こえてきた。どうやら共同作戦なのは知っていたが、こんな無謀な作戦をクワ・トイネの将軍自らが思いついたとは思わなかった。

 

 

「今回の作戦はクワ・トイネからの要請に基づいて行なっています。そのため、指揮権はクワ・トイネ側にある。どうやらノウ将軍は自軍の装備と練度に絶対の自信があるようで「負けはしない」と思っているようです」

 

 

無謀だ。いくら装備が整っており、後方支援もあるとはいえたったの4万人で38万人を相手どれるわけがない。

 

 

「ノウ将軍は我々に対して『後方支援に徹するように』と通達しました。我々はそれを守るつもりでいます」

 

 

ノウ将軍は無謀な作戦が大好きなようだ。どうやら彼は自分達の装備に絶対の自信があり、負けることはないと自負しているらしい。だからこその作戦のようだ。

 

──ロウリア軍を甘く見過ぎだ。

 

陸戦に対しては全くの素人であるシャルルにもわかる話だ。現代戦でも、陸戦は数が物を言う時がある。質だけで優っていたロデニウス沖大海戦とは違う。あまりにも自惚れた作戦に、シャルルは呆れる。

 

 

「ですが、もちろんこれはただの後方支援ではありません。我々には数百もの火砲と、この基地の航空戦力を揃えてある。つまり……」

「つまり後方支援から出ずに、敵を叩く。と言うわけですね」

「そう言うことだ。納得してくれたようでなによりだよ、若き飛空士君」

 

 

そう、そう言う事だ。陣地から出られなくとも、現代戦では遠くの敵を倒す手段が満ち溢れている。火砲、野砲さえあればいくらでも戦果を稼ぐことは可能だ。

 

 

「君たち飛空隊達には、敵ワイバーンの排除と爆撃機によるエアカバーを支援してもらいたい。反撃の開始さ」

 

 

アントニオ司令も、思わずニヤリとうなずいた。空さえ支配できてしまえば、後の戦いの流れはこちらに持って来れる。差し詰め『後方支援』ならぬ『航空支援』だ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「何故エジェイまで一気に進行しないのですかぁ!!!!」

 

 

ロ軍東部方面隊代表会議で、副将アデムは怒鳴っていた。

 

ロ軍はギムの町を落とし、同場所を拠点として陣を築いていた。残念ながら先遣隊だけではギムを落とせなかった為、アデムに与えられるはずであった権限はなく、指揮系統はそのまま東に勢力を伸ばす前に陣の防御を固めている。

 

彼らがこうして足止めされているのも、全てギムで見たあの飛空船に起因する。会戦前日にこれ見よがしに見せつけられた飛空船達、それは日が過ぎればどこかへと消えてしまっていた。

 

ギムでの戦いでは、まるで捨て駒にされたかのような兵士たちが玉砕覚悟で逆進軍して行き、ロ軍先遣隊を打ち減らして、結果として本隊との合流でやっと討減らせた。

 

玉砕覚悟で戦っていたギムの守備隊、彼らはギムの守備隊は捨て駒にされ、あのような突撃を繰り返していたと思い込み、今後の逆侵攻を警戒して進行速度を遅らせざるをえなかった。

 

更にその後も事件は続く。ホーク騎士団に占拠したギム周囲の偵察の要請を入れたのだが、威力偵察に出たホーク騎士団第15騎馬隊の約100名が行方不明となったのだ。前触れもない音信不通。魔導士によると、辺りにワイバーンほどの魔力行使は一切探知されなかったことも頭を悩ませる。

 

戦闘があったとしても一人くらいは帰ってきていいはずである。騎馬隊という機動性に富んだ部隊が壊滅させられることは考えられなかった。あまりに不可解な事象、予想外の被害、原因のわからない謎の失踪。本国からは以前として連絡がないままで、幸先の不安がアデムたちの焦りを生んでいる。

 

 

「奴らがまたやって来ないうちに一直線に侵攻して、エジェイを落とすのです!!」

「落ち付きたまえアデム君……我々とて情報収集に精を尽くすしかないのだよ」

「そんな情報を待ってどうするのです!?そもそもどのような方法で調査しているのですかぁ!?」

 

 

アデムは焦っている。このままここでのんびりしていれば、必ず奴らはこちらに牙を向けてくる採寸なのは彼でもわかる。その前にカタをつけたかったが、それも叶わない。

 

 

「とにかくです!!我々は奴らが戻って来る前にクワ・トイネの亜人どもを殲滅しなければならないのです!!さもなくば……さもなくば我々は……!」

「…………」

 

 

人間が正常な思考を保てなくなり、冷静でいられなくなるのは三つの時だ。一つは食事を十分にとっていない時、二つ目は睡眠をとっていない時。そして三つ目は精神的なストレスを感じた時だ。

 

こうして見ると、アデムの場合はストレスに当たる。あの恐怖の副将と呼ばれたアデムも無様なもの。弱い男女を嬲ることを趣味とし、その残忍な性格で周りを恐怖に陥れて従わせてきたアデムですら、焦ればこのように取り乱す。

 

 

「とにかく、今は先遣隊だけでも派遣するわけにはいかないのだ。彼らがホーク騎士団のように行方不明になっては困るからな」

 

 

その言葉に、会議に参加していた先遣隊を取りまとめるジューンフィルア伯爵はホッとため息をついた。彼とて、情報も何もないのに難攻不落の要塞と呼ばれたエジェイにまで行くこと気が乗らないし、はっきり言って嫌だからからだ。

 

そんな自分の意見を聞かない様子に苛立ちを覚えて、アデムはジューンフィルアをキッと睨む。蛇に睨まれた蛙のジューンフィルアは気まずそうに目をそらすことしかできなかった。

 

 

「くぅぅぅ!!わ、分かりました……!では情報が集まるまでは先遣隊は派遣しません……」

 

 

アデムもついに折れ、ゆっくりと自分の席に戻って座った。重い足取りの力のない動きであった。

 

 

「にしてもまさか、クワ・トイネの連中があのような兵器を持っているとは想定外でした。まさか彼らがあれ程の力を付けていたとは……」

「ワイバーン十騎が落とされ、こちらにも2万以上の被害が出ている……何かおかしいと思わないか?」

「私もそう思います。クワ・トイネの連中があのような魔導兵器を持っているはずがございません。今回の戦争、あまりに不可解なことが多すぎます。特にあの飛空船は恐ろしい……」

 

 

ジューンフィルアや魔導士ワッシューナ達がそれに答えた。今回の戦争、何かがおかしいと彼らは感じていた。ギムの守備隊の謎の兵器たち、ギムでこれ見よがしに直接見せつけられたあの巨大飛空船といい、あんなものをクワ・トイネの連中が持てるはずがない。ならばなんなのか?

 

 

「いや……まさか……」

「どうしたワッシューナ?何かあるなら構わんから申せ」

「……最近魔導士の間で噂されていたのですが、この戦争にレヴァーム、天ツ上とかいう国が参戦したそうです」

「レヴァーム?天ツ上?」

 

 

その国の名に、その場にいた全員が首をかしげる。全く聞いたことのなかった国名達だ。クワ・トイネの近くに現れたのだろうか?

 

 

「なんでも、彼らはクワ・トイネの北東に現れた新興国家だそうです。そして、彼らによってマイハーク侵攻部隊の船団が1400隻を除いて全滅。さらに敵船に向かっていたワイバーン250騎も殲滅され、マイハーク侵攻作戦は失敗に終わったそうです……」

「「「「「は?」」」」」

 

 

その言葉に彼らは絶句した。ロデニウス沖大海戦における一連の大敗北は、前線の士気低下を懸念して、最前線の兵士たちには完全に隠蔽されていた。しかし、人の口に戸は立てられない、今こうして情報が漏れることもある。管轄外ということもあり、戦闘報告を知らされていなかった彼らにとっては、まさに寝耳に水であった。

 

 

「ぜ……全滅!?」

「ワイバーン隊が殲滅されただと!?」

「あれだけの兵力が負けたですとぉ!?たかが新興国家ごときに!?」

 

 

あのギムでの光景で見慣れたつもりだったが、それでもあまりにも現実離れした話でジューンフィルアやアデム達は信じられない。彼らとて、数々の戦を切り抜けてきた身。たかが新興国家ごときに敗れるはずがないと分かっている。

 

 

「それが……ギムで見たあの飛空船は全てレヴァームと天ツ上のものなのです。あれほどの魔力投射が、ロウリア艦隊に襲いかかったのです!!」

 

 

絶句、それだけが会議場に響き渡った。あのギムで見た飛空船を浮かべるほどの魔力投射量、計り知れない爆裂魔導の暴力が兵器としてロウリア艦隊を襲ったのだと理解したからだ。それならば、ロデニウス沖大海戦の敗北も頷けるのが恐ろしくてたまらない。

 

 

「な、なんと……あの飛空船がついにロウリアに牙を剥いたのですか!?」

「ど、どうすればいいのだ我々は!?それが本当ならあのワイバーンを全滅させた飛空船と戦わなければいけない!どうすればいいんだ!?」

 

 

会議室は一気に恐慌状態に入る。進行前にギムで見せつけられたあの巨大飛空船。それを兵器として私役している国が、突然この戦争に参戦してきたのだ。あれほど強力な魔導を放つ飛空船を退けるすべは知らない。少なくとも、歩兵達にはないため一方的に撃ち減らされることは目に見えている。ならばどうすればいい!?

 

 

「失礼します!緊急事態です!」

 

 

突然、ノックもせずに伝令兵が会議室に駆け込んできた。顔色が優れず、遠くから見ても真っ青に染まっており、冷や汗が滴り落ちている。

 

 

「どうした!?何があった!?」

「て、偵察隊より連絡がありました!ギムからおよそ10キロの地点にクワ軍の軍勢4万が進軍しています!!」

「なんだと!?」

 

 

絶句。それは総兵力4万人の軍勢がギムを目指していると言う凶報であった。ロウリアにとっては不幸、クワ・トイネにとっては反撃の狼煙。ロデニウス大陸の歴史は、確実に動き出していた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ぐぅぅぅぅ!!ノウめ!小癪な真似を……!!」

 

 

アデムは焦っていた。会議中にクワ軍が攻め込んできたと言う情報を聞き、外に出てみれば敵はもうすでに平野から見える位置にいた。ギムから東へ5キロの位置に布陣しているようである。

 

明らかに敵の進軍速度が速い、ここからではよく見えないが馬やら馬車やらを徴用しているのだろうか。それにしても、たった数時間でこの進軍速度は異常だった。

 

奴らが先遣隊なのは百も承知。問題は夜に敵の『馬が引かない謎の荷馬車』の部隊達が10台ほどやってきては兵士を下ろして陣地の前で怒号をあげ、去っていくと言う挑発行為を繰り返していることだ。

 

ギムは城塞都市ではないため、街に篭っても安心はできない。本格進行かどうかの判断もつかず、仕方なく兵を常に陣地を布陣させて警戒するしかなかった。そのせいで士気は目に見えて下がっている。

 

ワイバーンを強襲しようにも、ワイバーンは夜間飛べない上に、着陸時を敵ワイバーンに狙われたら終わりだ。ロデニウス沖大海戦での敗北により、先遣隊のワイバーンが50騎も本陣に引き抜かれていたのが不運であった。

 

このままでは本隊が着くまでに兵がもたない。敵将は旗から見てノウ将軍と思われているが、まさかこんな卑怯な手を使ってくるとは思っていなかった。

 

 

「パンドール殿!我々は38万も居るのですぞ!なぜ攻撃しないのです!!」

「……そういうわけにもいかん、奴らがギムの守備隊と同じ兵器を持っていたらこちらにも相当の被害が出る」

「そんなに怖気付いている場合ですかぁ!!」

 

 

パンドールとアデムはまたも言い争う、この場合は慎重意見のパンドールの方が正しいかもしれないが、「戦に勝つ」という観点ではアデムの意見の方が正しい。周りのジューンフィルアなどの高官達は、初めて見るクワ・トイネ側の装備に目を見開いている。

 

 

「なんだあの陣地は……まるで攻め込むより守るかのようだ……」

「奴ら地面に溝を掘って隠れるつもりですよ。これでは戦いになりません」

 

 

ジューンフィルアを含む数人の部下たちが、クワ軍の異様な陣地構成に疑問を呈する。クワ軍は平野の地面を掘ってそこに隠れるかのように塹壕に孕っている。これでは、ロ軍の38万人という数字の前で通用する戦術とは思えない。

 

 

(しめた!敵が隠れこもっているならば、この際奴らに対して副将権限で攻撃してやる!パンドールの臆病者の許可を得る必要もないわ!!)

 

 

その夜のうちに、アデムは破滅へ向かう第一歩を踏み出してしまった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「くっ!攻撃するまでが早すぎるぞ!!」

 

 

翌日、敵襲を知らせる鐘の音がクワ・トイネの塹壕陣地に轟いた。新装備を持つ以前から変わらない金属製の鐘の音が、寝ていた兵士たちを叩き起こして飛び上がらせる。兵士たちは塹壕を行き来して、なんとか陣地を整えようとして慌ただしく動いている。

 

その中で、将軍ノウは敵の進軍スピードに苦虫を噛み潰したような表情をする。眼下に広がる平野には、ガツガツと音を立てながら騎士の鎧に身を包んだロ軍の軍勢が攻めん込んできた。それも、38万人全員でだ。しかも、空には100騎近くのワイバーンが見える。

 

当初、この塹壕陣地は敵の少数を引き付けて、それを各個撃破するための布陣であった。そのために、時々装甲車に兵士を乗せて十両ほどを向かわせて陽動作戦に出た。

 

新しくレヴァームから輸入した装甲車は、クワ・トイネの陸軍に革命をもたらした。鋼鉄でできた馬の必要ない荷車が、騎兵など目じゃない速度で走り回れるのだ。しかも、兵士たちを乗せることもできるという。

 

これを購入した陸軍はクワ・トイネ陸軍初の機甲部隊を成立。この二ヶ月で鬼のような……それこそ天ツ上で言う『月月火水木金金』と呼ばれる超過密な訓練プログラムで徹底的に鍛え上げた。

 

その真価は発揮された。しかし敵を煽りすぎたのか、結果は38万人全員が攻め込んでくるという明らか小銃だけしかないクワ軍4万人のキャパシティを超えた軍勢であった。

 

 

「将軍!天ツ上陸軍から電報が届いております!」

「よこせ!」

 

 

レヴァームと天ツ上には前もって『後方に引っ込んでろ』と言ってしまったため、この緊急事態にどう対処するのか正直不安であった。そしてその内容は『進軍している軍勢はロ軍部隊で間違いないか?なければ“コウホウシエン”を開始する』であった。

 

 

「今更後方支援をしてなんになる!!!」

 

 

微かな期待は裏切られた。いや、この場合は自分で言ったのに期待してしまったノウ将軍が悪いのだが。そんなこともつゆ知らず、ノウは電報の紙をビリビリに破いた。

 

 

「ええい!もうレヴァームも天ツ上もあてにならん!戦闘用意だ!!」

 

 

ここに、ギムの戦いと呼ばれる一大決戦の幕が開けた。

 

 




『天ツ上に転生した大内田さん』
基本、天ツ上の人たちは原作日本国召喚のキャラから取っています。自衛隊の人は階級を軍隊式に変えています。
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