爆撃機から黒い雨が降り注ぐ。地上に降り注げば、信管が作動して何十キロにも及ぶ炸薬を破裂させて地面に破壊をもたらす。
重歩兵の目の前で250キロ爆弾が破裂した、重歩兵はすぐに吹き飛ばされ、四肢をまき散らして即死する。巨大な破壊の爆弾の前では、いかなる鎧も意味をなさない。
『グラナダⅡ』の容赦ない絨毯爆撃と、『連星』による残党狩りによりロ軍の兵士たちに戦意はもはや無いに等しかった。次々と降伏し始め、クワ軍に捕らえられる。それ以外の者は爆撃の嵐にさらされる。あまりに凄絶なロ軍の最後であった。
──空戦では負ける気はしない
風車板の向こう側の地獄を鳥瞰しながら、戦果を確認したシャルルはアイレスVの機首をエジェイの方向、サン・ヴリエル飛空場に向けた。
──空戦ではね……
ほのかな思考を漂わせながら、操縦桿を握り直してそれを振り払う。季節はすっかり春に近く、4月の終わりは同時にこの戦争の終わりも近いことを感じさせていた。水平線の向こうには、戦争など関係ないかのように幾千もの春の雲達が伸び伸びとしている。
緑の穀倉地帯を飛翔して乗り越え、左手に城塞都市エジェイが見え始めてきたのと同時に、基地であるサン・ヴリエル飛空場が見えてきた。何度か異動を繰り返したコンクリートの滑走路に、シャルルは無事に降り立った。航空指揮所に赴き、アントニオ大佐に撃墜数を報告する。
「敵ワイバーン25騎を撃墜いたしました」
シャルルの報告に、アントニオ大佐はにこやかに笑う。
「君のこの世界での撃墜数が100を超えたよ」
「はっ」
「この二回の戦闘の合計が100、この世界に来てからも腕は衰えていないようだね」
「恐縮です。しかし、戦空機でワイバーンと相手するにはあまりに性能差が大きく、飛空士の腕が鈍りそうです」
「ふむ、確かにそれは懸念材料だ。内地に戻ったら幾らか訓練を積ませるべきだろう」
顎を自身の右手で撫でながら、アントニオ大佐はシャルルの懸念材料を精査する。シャルルの心配通り、ワイバーンと戦空機では性能差がありすぎてパーフェクトゲームになりかねない。そのせいで飛空士の腕が鈍ったり、油断が出来てしまったりしてしまいかねない。
「ちょうど、本国ではクワ軍や捕虜になったロ軍の竜騎士を空軍に入らせる計画があるそうだよ。君にはその教官を務めてもらうことになりそうだ、もしかしたら列機も増えるかもしれないね」
それはそれで意外な情報であった。今までシャルルはちゃんとした列機がおらず、もっぱら何度も入れ替わる隊の人間と飛空隊を組んできた。メリエルが移動してきてからは列機の立場が確実になってきたが、シャルルにとっては列機が増えるのはありがたい事だった。
夜。周りの飛空士達はギムでの勝利に因んで、ちょっとした宴会を開いて集まっていた。基地には灯火管制も敷かれておらず、夜にこうして光の下に集まっても叱られることはない。
サン・ヴリエル飛空場を拠点に活動しているネクサス飛空隊は、戦空機隊、爆撃機隊、雷撃機隊、整備隊、その他地上隊からなる3000名ほどの航空部隊だ。ロウリアが相手とはいえ一応最前線なので、飛空士達は選りすぐりの飛空士達が集められている。
シャルルはどこを目指すでもなく、基地のエプロンでブランデーの酒を少しずつ飲みながら月の出ている空を眺めていた。草原からは鈴虫の声根が流れ、月の登っている夜空を染め上げている。
この辺りは元々ダイダル平原と呼ばれていたらしく、農地には向かないものの家畜達を放し飼いにするにはもってこいの場所だったという。戦争がなければのどかな風景が見られたかもしれないが、今はレヴァームと天ツ上が飛空場を建設し、ロ軍を相手にして血に濡れた飛空士達を迎え入れている。
シャルルだって人を殺して何も感じないことは無いわけがない。例えエースと呼ばれていても、中身は葛藤のある人間だ。
中央海戦争が始まって間もない頃は、ただがむしゃらに戦うだけだった。しかし、当時優勢であった天ツ上に追い立てられるうちに、いつの間にか生き残ることに必死になっていた。
戦争はそのうちにレヴァーム優勢になって行き、そのたびにシャルルは何人かを殺していた。今回の戦争も、圧倒的なテクノロジーの差から一方的にロウリアの兵士たちを殺して回ってしまっている。
──100騎を撃墜したって事は。
──少なくとも100人殺した事になる。
シャルルの胸を撫でるのは、虚しさだけであった。自分の手をじっと見つめる。地上だけでなく、海上の船や地上の敵兵も20ミリで撃ち殺している。おそらくこの世界で殺した人間の数は200を超えるかもしれない。
──大量殺人鬼か……
その事実がだんだんと理解できる。中央海戦争を含め、自分は一体何人殺してきたのだろうか?己の弱さを悔やむ。殺さなければ殺されるだけ、それは分かっていても自分は人を殺す事に躊躇いを持っている。空戦の時はがむしゃらのエースでも、地上に降りればただの弱い一人の人間だ。
「シャルルさん、どうしたんですか?」
後ろからそっと声をかけるように、メリエルの心配そうな声が聞こえる。彼女には思い悩んでいる事は知られていないだろうが、それでも自分の弱いところを見せて心配をかけてしまったのは申し訳が立たない。
「……なんでもないよ」
そう言ってシャルルは夜空を背に、メリエルに振り向いた。歩みを進めようとしたところで、立ち止まる。眼上の月を眺める。
──あなたなら、どう考えますか?
──ビーグル。
その声は、何処へ届くやら。遥か彼方の天ツ上本土にいるであろう、会ったことのない親友へと疑問の声を投げかけた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
中央歴1639年5月10日 ロウリア王都 ジン・ハーク
緩やかな丘に作られたこの王都は、外から見れば丘に城が張り付いているように見える。頂上に、王の住う城ハーク城がそびえ立っている。丘の上に立っているために街の中からもその優美な佇まいを見ることができ、王都に住まう人々は自分たちが特別であると自惚れることができた。
街の周りは三重の城壁に囲まれ、それぞれ外側から20メートル、25メートル、30メートルの高さに分かれ、それぞれの城壁が外敵を足止めして弓矢で撃退する戦法を想定している。
この大袈裟な城壁のおかげで、ロウリア王国の首都は鉄壁の守りを築いていた。例え奇襲的に何処かの国が王都を奇襲しようとも、この城壁を破る事はできないだろう。これだけの城壁ならばもしかしたら、文明圏の国ですらも退けられるかもしれない。
「…………」
「…………」
そのハーク城の内部では、軍事会議が行われていた。出席しているメンバーは、開戦前に行われた御前会議と同じである。その他にも軍の幹部が多数着席している。王都防衛騎士団、王都防衛歩兵大隊長、近衛龍騎士団等、国防の要が勢揃いしている。黒いローブをかぶった男も、傍観者として席につく。
しかし、会議に出席している面々の顔色は重い。そして暗い。理由は言わずともがな、戦争の戦況についてである。
「そ、それでは会議を開催します」
司会進行役が、会議の開催を宣言する。この司会進行役、顔はこのプレッシャーに完全に負けてしまい、タジタジである。
「パタジン将軍、現状説明をお願いします」
司会に促されてパタジン将軍が立ち上がって前に立つ。しかし、いつも自信に満ち溢れていた彼の顔は、今や見る影もない。相当疲れ切っている。
「……皆の者、緊急会議に集まっていただき感謝いたす。クワ・トイネ公国侵攻作戦の現状を説明する………我が軍はクワ・トイネ公国の国境線の町ギムを初戦で占領に成功した。だが想定していたのよりも被害が大きく、苦戦してしまったそうだ。我が軍はその勝機を逃さずに、軍船4400隻をマイハーク港へ差し向けた……ここまでは良かった」
彼は重々しい空気と自身に降りかかったプレッシャーに耐えきれず、一呼吸おいてため息をつく。
「この時点で、レヴァームと天ツ上は我が国に宣戦布告。戦争状態に入った」
「…………………」
「艦隊がマイハークに向かう途中のクワ・トイネ公国領海にて、我が軍の軍船4400隻と、レヴァームの艦船20隻が衝突。敵に被害を与えることができずに我が方の軍船1600隻が撃沈、1400隻が敵に降伏した。生き残ったのは1400隻のみだ」
「…………………」
「制空支援に派遣した竜騎士団250騎も同時に失ってしまい、その光景を見てしまった海兵たちは士気を喪失し、しばらく使い物になりそうにないとの報告も受けている」
「…………………」
軍幹部たちは思わず「そんな戦力差あってたまるか」と言いたかったが、この場で正式発表される被害の数々に絶望した。この会議で正式発表されるという事は、その被害は事実であるという事だからだ。
「ギムを占領した陸軍だが、陣地を整えていた最中にクワ・トイネ軍とレヴァーム、天ツ上の連合軍の強襲を受けてた。通信からレヴァームと天ツ上は巨大な鉄竜を駆使していたと推測している。ギムにいた精鋭38万人は鉄竜からの爆裂魔法の投射により全滅した……」
「……………………」
重苦しい空気が会議場に漂う。
「やはり……やはり無謀だったんだ!あんなデタラメな鉄竜や飛空船を作ることのできる国と戦争を仕掛けるなんて、初めから無理だったんだ!!!!」
誰かの、悲鳴に似た叫び声が轟いた。ふとみれば、ギムにいた生き残りの作戦参謀が座り込んで小刻みにガタガタと震えている。
「馬鹿者!お主は我がロウリアが負けるとでも思っているのか!?」
「なら逆にどうやって勝つんですか!?兵のほとんどを失った今、奴らは必ずこの王都に攻め込んでくるはずだ!あんなものを防ぐ手立ては我々にはない!!」
「そうだ、この戦争は初めから無理な戦争だったんだ……もうロウリアはおしまいだ!!!」
恐怖が伝染したのか、他の幹部たちにも座り込んで発狂し始める。そのうちに主戦派の人間に追い立てられ、発狂した人物たちは会議場を追い出された。
「……とにかく、このままではレヴァームと天ツ上の軍が王都に攻め入ってくる可能性が大きい。皆の者、何か意見はないか?」
「それについては私めに考えがございます」
防衛騎士団の作戦参謀が手を挙げた。
「ジン・ハークは知っての通り、三重防壁を突破しなければ王都内部に入れません。城壁は外縁から内部に侵入するほどに攻略が難しくなる構造です。もはや『鉄壁』……いや、『神壁』と言っても過言ではありません。街の外は平原で見通しも良く、敵の早期発見が可能です。まずは監視体制を24時間の交代制に強化いたしましょう」
敵部隊が揃って攻撃を開始するには時間がかかるものだ。早期警戒網を敷いておけば、早期に兵を出動させることも可能というわけだ。作戦参謀は完璧な自分の考えに酔いしれており、自信たっぷりだ。
「飛空船や鉄竜の対策はどうするのだ?奴らが上空から爆裂魔法を投射すれば、我らはひとたまりもないぞ」
「飛空船と言えど、元は船です。奴らは海の上にしか着水できないので、陸地まで運び込まれる事はまずないでしょう。たとえ運び込まれたとしても、我ら近衛竜騎士団のワイバーンを用いれば撃滅が可能です」
今度は近衛竜騎士団長が口を添えた。彼も作戦参謀と同じく、自分の持つ軍隊に自信を持っており、まさか世界最強の生き物であるワイバーンが負けるとは思っていないらしい。
「それから鉄竜については、通信から不意打ちの攻撃が原因で被害を被ったと推測できます。そのため第1から第3竜騎士団を警戒態勢に移行させ、いつでもスクランブルができるようにしておきます。警戒は怠らせません」
彼らは通信から、ワイバーンが全滅したのは不意打ちを受けたからだと思っていた。ロデニウス沖大海戦、そしてギムの戦いでもワイバーン隊はレヴァームの鉄竜に不意打ちを食らっていた。
「王都の守りは堅いです。たとえレヴァームと天ツ上の軍が王都攻略に現れようと、このジン・ハークが落ちる事はありません。兵はかなりの損害を受けましたが、まだまだ手の打ち用があります。王都にたどり着くにはいくつかの街を抜けなければならず、その各所に兵を配置しているので問題はありません」
作戦参謀は自信たっぷりに完璧な防衛体制の戦略を述べ続けた。ここまで兵を失った以上、もう侵攻作戦は不可能に近い。ならば、もはや防衛に徹するだけであろう。
しかし、この戦争を終わらせるにはいったいどうすればいいのか?その答えは会議では上がらなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
見渡す限りの大小の軍船たちが、港をひしめき合って占拠している。空にワイバーンがいたら、そこから見える風景はため息が出るほど壮観だろう。1400隻もの軍船が整然と並び、どんな相手だろうと負けるはずがないという自信が溢れ出てきそうだ。
「…………」
しかし、海将ホエイルの顔色は優れなかった。不安げな表情が表に出ており、見渡す限りの軍船の光景を見ても安心しきれていない。彼は、ロデニウス沖大海戦を思い出していた。
──あれは海戦などではない。
──ただの虐殺だ。
自分たちの飛ぶことのできない高さから、自分たちが攻撃できない距離から、一方的に撃破される屈辱。鍛え上げた海兵たちも無意味だと言っているかのような、あまりに無残な敗北。
彼の上司である海将シャークンも、レヴァームとの海戦により消えた。彼が生きているかどうかはまるでわからない。
そして、彼はワイバーンを最も簡単に退けたあの青灰色の鉄竜を思い出す。海猫のマークをつけ、世界最強の生物であるワイバーンを赤子の手をひねるかのように簡単に殺して回った、あの海猫。
──どうすれば、あの化け物たちに勝てる……
彼は思考を巡らす、しかし答えは出ない。帰ってくるのは1400隻の軍船と数万の兵を用いても「勝てる気がしない」という絶望だけであった。
「?」
突然、ホエイルは異変に気付く。
「空が……震えている?」
直感がそのことを告げた。高空の空が、まるで化け物に追い立てられる小鹿みたいに震え上がっている。胸騒ぎがする、嫌な予感が──いや、嫌な予感しかしない。彼はいつか味わった時のような空気を、ピリピリと感じていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
初めは魚影と思わしき影であった。
雲が燦々と生い茂り、あたりの青い空のところどころを雲海で包む。その雲海が、あたかも追い立てられた小動物のように蹴散らされた。海を遮る黒い影、空さえも黒に消える。天空を統べるのは、飛翔する鋼鉄機械の群れだった。
帝政天ツ上の飛空艦隊が、海を遮り、光を閉ざし、雲を蹴散らして、揚力装置の駆動音で海上の動物や魚たちを恐怖に貶める。
帝政天ツ上海軍八神武親中将率いる巨大艦隊が、ジン・ハーク港を目指して飛翔していた。薩摩型戦艦『敷島』を含む戦艦2、空母2、飛空揚陸艦、護衛の軽重巡空艦、駆逐艦を率いて悠々と空を泳ぐ。
今回クワ・トイネに派遣された帝軍の戦闘可能な艦艇数は54隻を数える。これに帝軍の本気度がうかがえる。
彼らはロウリア王国攻略のため、首都ジン・ハークへの攻撃を敢行しようとしていた。この戦争を終わらせるためである。空母の数は少ないが、数的にはかつての中央海戦争の八神機動艦隊に匹敵するレベルの大艦隊だ。ロウリア王国首都ジン・ハーク攻略のため、彼らはずんずんと空の歩みを進める。
作戦はこうだ。まずジン・ハーク北に位置するジン・ハーク港に存在しているロ軍残存艦隊を撃滅し、同時に空からの攻撃で敵ワイバーンを釣り上げる。
釣り上げたワイバーンを、ギム周辺に待機させたマルコス・ゲレロ中将率いる皇軍艦隊から発艦したアイレスV部隊が王都上空でワイバーンを駆逐する。これにて制空権を奪取するのだ。
あとは、北と東側から揚陸艦を伴った皇軍と帝軍の艦隊を、飛空艦であることを生かし、陸地を無視してジン・ハークに直接乗り上げさせて包囲する。
飛空艦を陸にあげるという前代未聞の作戦。その一大作戦のために、天ツ上には新たな正規空母が配備されている。正規空母『
正規空母『新鶴』
基準排水量3万トン
全長260メートル
全幅33メートル
搭載機数
90機
中央海戦争時の天ツ上空母と違い、分厚い装甲が甲板などに張り巡らされている。8基の揚力装置はレヴァーム製の新型になり、旧式の1.75倍の出力を誇る。このおかげで新鶴は全長260メートルを超え、かつてのグラン・イデアルに匹敵するレベルの巨艦になっている。
その寵楼艦橋で、八神司令は手信号を放った。その合図は攻撃開始。瞬間、機械式のサイレン音が轟き、甲板を慌ただしく飛空士達が駆け回る。その中には、音無飛空隊から異動してきた波佐見真一中尉の姿もあった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
空を駆ける。
『真電改』の操縦席から、異世界の空を眺める。彼方の空に地平線が見えること以外は、自分たちが元いた世界と変わらない。空気は澄んでおり、内地のゴタゴタとした海ではない。
水素電池が発明されてからというもの、化石燃料を使う機関はほぼ衰退したために、黒煙が環境を汚染したりする事はなくなった。飛空艦も黒煙は吐いていないし、そもそも煙突がない。そのため、空気は内地でも澄んでいるのだが、それでも漁船も船も何もない海は飛空士たちにとっては新鮮であった。
海も透明度が高く、かつてのサイオン島の海を思い出す。時々鯨よりひと回り大きい異世界生物が、呼吸のために顔を出す。
──やはり異世界なのだな。
しかし、世界がまるっきり変わろうと波佐見たちの任務は変わらない。波佐見の乗る『真電改』の後ろには急降下爆撃機の『連星』や雷撃機の『天水』の部隊が続いている。やがて──
「見えたぞ」
後部に取り付けられたDCモーターの駆動音を背に、『真電改』を駆ける。真南にずんずんと空の歩みを進めれば、湾曲したジン・ハーク港が見えてくる。『新鶴』内部で散々説明された攻撃目標のジン・ハーク港である。
「全機、攻撃開始だ」
飛空隊隊長として、全ての機体たちに攻撃指示を出す。無線機器を手に取って指示を出すと、待ってましたと言わんばかりに狩りが始まる。
先陣を切るのは急降下爆撃機の『連星』だ。彼らは総勢60機、1400隻の軍勢を質の暴力で押しつぶす。腹に大振りの爆弾を積み込んだ連星たちは、降下角度60度の急降下で軍船に向かってゆく。しかし、対空砲火はない。まるで「どうぞ爆弾を落としていってください」と言わんばかりに空には何も打ち上げられていない。
そして、海面ギリギリで連星が高度を一気に上げる。するとその背中に、海底火山の噴火のような水しぶきがいくつも上がり、たちまち軍船は大破して沈み始めた。その炎は止まる事を知らず、海全体に広がって炎の地獄を作り出した。まるで、海に燃えた油水を流されたかのようによく燃えている。
ただの爆弾ではない、この木や木材などを燃やすために作られたこの凶悪な爆弾は、皇軍から付与されたナパーム弾であった。木製でできた軍船の集団を燃やし尽くすにはうってつけであり、こうして帝軍によってロ軍艦隊を燃やし尽くしている、
たちまち軍船の集団は火の手を上げ、港は煤と炎に包まれて黒煙を上げる。煤煙と炎の熱が、上空を統べる真電改の風防にも伝わってきそうであった。
「よし。雷撃機隊、攻撃開始だ」
お次の攻撃は、雷撃機隊の『天水』であった。一気に高度を下げ、海面ギリギリの場所から時速400キロものスピードに乗って魚雷が投下された。数十機もの天水から放たれた酸素魚雷は、幾千もの白い線となってロ軍の軍船に襲いかかる。
ナパーム弾によって瀕死になっていた軍船たちは、酸素魚雷によって喫水線を貫かれ、そのまま反対側へと抜けていった。木製のため信管が作動せずに、そのままバリバリと木造の船底突き破って反対側へと抜けてゆく。何十もの軍船たちを貫いた魚雷は、港の桟橋に突き当たってようやく爆発した。
『真電改』たちも黙っていられないとばかりに、燃え盛る軍船に向かって機銃を降り注がせる。真電のプロペラのない機首から正確に放たれる30ミリ弾が、幾多もの軍船の腹を突き破って燃え盛る。
30ミリの焼夷弾は、軍船に積まれた油壺を貫通してさらなる火災を引き起こしてゆく。真電シリーズは前方のプロペラを排除したおかげで前方に火力を集中させることができる。その真価が、ロ軍の艦隊を次々と穴だらけにしている。
「よし、効果を確認。帰還するぞ」
波佐見は最後まで指揮官として上空からその様子見守っていた。機首を翻して、新鶴へと戻ってゆく。反撃の狼煙はもうすでに上がっていた。
『飛空空母新鶴』
???「淡島に散っていった姉様たちの分も、一生懸命頑張ります!」