とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

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マブラヴオルタがアニメ化……だと……!!


第21話〜とある竜騎士その1〜

 

『海軍本部から王都防衛本部!海軍本部から王都防衛本部!現在攻撃を受けている!空からの攻撃に対処できない!竜騎士団の上空支援を求む!』

 

 

魔力通信で王都防衛本部に応援要請がなされる。要請はすぐさま受理され、王都防衛本部では竜騎士団に緊急発進指示を出した。けたたましい鐘の音がロ軍基地内のあちこちに鳴り響き、緊張を高める。

 

指示を受けた第1から第3までの竜騎士団は迅速に竜舎に向かって走り始める。王都防衛の任務に就く第2竜騎士団の新人竜騎士ターナケインも、緊急の指示を受けて出撃の任務に就いた。

 

ワイバーンの足に配慮して石畳で舗装されていない土の地面を蹴り、竜舎へと走る。竜舎には多数のワイバーンが待機しており、竜騎士それぞれに相棒となるワイバーンが振り分けられている。

 

 

「クゥン、クンクン」

 

 

自分の相棒のワイバーンから甘えた声が出る。このワイバーンは一見すると怖い顔をしているが、実際はかなりの甘えん坊である。

 

 

「相棒、今日もよろしくな」

 

 

手綱を付けると、ワイバーンの顔つきが一層引き締まった。外を見れば、すでに待機状態にあった先輩のワイバーン達が離陸を開始していた。

 

 

「出遅れたか」

 

 

ワイバーンの腿に足をかけ、背中に急いで乗る。ワイバーンの出撃には少しだけ時間がかかるものだ。ワイバーンはデリケートな生き物のために常に鞍などの装備をつけておく事ができないため、このように新人は遅れやすい。

 

自分は竜騎士。王国の守護者、剣となる者。自分がこの国を守るのだと思うと胸が熱くなっていくのを感じる。

 

今回の攻撃は空からワイバーンで奇襲攻撃を仕掛けてきた。おそらくクワ軍が海戦で負けないように奇襲攻撃を仕掛けてきたのだろうと誰もが思っていた。ターナケインも、自分の腕があれば敵などあっさりと撃退できると自負している。

 

 

「いけっ!!」

 

 

ターナケインの竜が滑走路にたどり着き、離陸を開始する。つまずかないように作られた土の滑走路を、土煙を上げて蹴り飛ばした。

 

相棒の翼が揚力を得る、翼を広げて空に向かってふわりと浮かぶ。そして、透き通るような青い空に向かって彼らは飛び出していった。

 

高度を上げ、大空を舞うと第2、第3竜騎士団は王都上空を警戒する旋回飛行に入った。100騎ものワイバーン達が空をかける姿は壮観で、王都の民達はその雄姿を見ようと街に溢れて空を見上げている。

 

自分の活躍が、王都の民達に見てもらえているとなると、ターナケインは気分が高揚する。きっとここで手柄を立てれば、民衆は若い自分のことを囃し立てて英雄のように扱ってくれるだろう。そう思うだけで気持ちが昂ぶった。

 

ターナケインは幼い頃を思い出す。

 

幼い頃、彼は家族と森に出かけた末逸れてしまって迷子になった。何日もさまよい、食料もなく、道もわからず、森を抜けることすらできなかった。倒れそうな空腹に耐えしのぎ、それでも諦めずに徘徊をしていた時、危険な猛獣ルアキューレに遭遇してしまった。

 

ルアキューレは一回の歩兵程度では討伐できず、退治するには騎士団一個中隊が無ければ勝てない相手だった。幼いターナケインは死を悟り、その場で震えることしかできなかった。

 

 

──きっとこの猛獣に襲われて、自分の人生は終わる。

 

 

死を覚悟し、猛獣が襲いかかろうとした瞬間、空から人を乗せた巨躯の怪物が現れた。人を乗せたワイバーンだった。ワイバーンは口から火炎放射をするとルアキューレは炎に飲まれ、やがて悶え苦しみながら絶命した。

 

ターナケインのもとへ降りてきた乗り手の竜騎士は、笑顔で優しく撫でてくれた。かっこよかった、幼いターナケインには彼が勇者に見えた。その時から彼は竜騎士になることを志し始めたのだ。

 

やがて彼は成長し、幾度の挫折と困難を負いながらも、それらを乗り越えて今竜騎士になることができたのだ。竜騎士になったターナケインは竜に好かれた。竜と一体化した機動に秀でており、新人にして第2竜騎士団、王都防衛の花形に抜擢された。

 

 

──逃げろ……

 

 

どこらかそんな声が聞こえた。ターナケインは周りを見渡すが、誰もいきなり「逃げろ」だなんていっていない。魔信を確認してみたが、通信をした経歴もない。

 

 

「ん?」

 

 

すると一瞬、何かの影がぽつぽつと見えた気がした。自分から見て正面、ワイバーン隊は王都上空をぐるりと旋回する機動で旋回しつつ、辺りを警戒している。その周回が、ちょうど王都の東に位置したときにそれは見えた。

 

王都の東の空を見据える。空を統べる雲とこれほどまでの青空が、高空の空を支配する。その中に、何やらポツポツと光る物体を見つけた。太陽の光を反射しているのか、一瞬だけキラリと光った。

 

 

「あれは……?」

 

 

おそらく雲ではない。雲であるならば、太陽の光を反射するなんてことはないからだ。そもそも自分はあんなポツポツとした点のような雲を見たことがない。

 

ワイバーンの指揮官もそれに気づいたのか、魔信で一部の騎に確認を促した。数騎のワイバーンが、空をかけて東へ向かう。上空3000メートルから見下ろす滑空の空よりも、奴らは上を飛んでいる気がした。

 

嫌な予感がする。

 

情報では、敵ワイバーンは北の港を襲っているという。それならなぜ、あれらは王都の東からやってきたのだろうか?回り込むには時間がかかるはずである。

 

そんな思考の最中、確認に行ったワイバーン数騎が黒点に接触した。目測距離からして1キロほど離れている、確認に行った竜騎士は未確認騎の全容を確認することができたであろう。しかしその時、東へ向かったワイバーンがいきなり爆ぜた。

 

 

「え?」

 

 

目のいいターナケインは、竜騎士が貫かれる瞬間を見てしまっていた。ぐしゃり、と何かに押しつぶされるかのように竜騎士は潰され、何かの光るものが辺りを飛び散り、ワイバーンをも貫いた。

 

 

「え?」

 

 

一瞬、何が起こっているのかわからなかった。世界最強の生物であるワイバーン、それがまるで足で簡単に踏みにじられる蝶の如く、潰れていった。

 

肉片が空を舞い、手綱の切れた竜騎士がそのまま地面へ真っ逆さまに落下してゆく。ワイバーンと竜騎士の肉片が、四肢が、ほつれて散り散りになってゆく。

 

 

「な!?」

 

 

思わず目を見開いた。まさか、ロ軍の竜騎士の中で最も最精鋭である近衛龍騎士団がいとも簡単にやられるなんて、考えられなかった。それを見ていた周りの竜騎士たちにも、一気に動揺が広がる。

 

 

─ ─逃げろ!今すぐ逃げるんだ!!

 

 

どこからかそんな声が聞こえる。未確認騎がだんだんと近づいてその姿を現した。自分たちの真正面に、騎影が映る。空に溶け込む蒼の体色、ピンッと貼って羽ばたかない翼、鼻先につけた高速で回っている風車。どれも見たことがなかった。だが、確実に言える事は──

 

 

「あれは……ワイバーンじゃない!!」

 

 

周りの竜騎士たちが不意を突かれたその瞬間。空が火花で散らされた。光の弾が、上空で交差して飛び散り合い、すべてを蹴散らしてゆく。それに当たれば、ワイバーンはいとも簡単に潰されて、空から落ちてゆく。

 

 

「なっ!?」

 

 

あり得ない、あり得ない筈だ。世界最強の生物であるワイバーンが、いとも簡単に落とされるなんてあり得るはずがない!

 

そして、相手の騎体とそのまますれ違った。青灰色の色と、一瞬見えた白い鳥。それがなんなのか、ターナケインにはまだはっきりとは分からなかった。

 

 

「あれは……!」

 

 

すると突然、相棒のワイバーンがターナケインの制御を離れて、勝手に降下し始めた。竜騎士を無視しての急降下、目の前の地面が壁のように反り立っているほどの急角度だ。

 

 

「おい!勝手に動くな!!」

 

 

ターナケインは愛騎と一体になる素晴らしい機動技術を持っていた。しかし、彼はまだ未熟、戦場において飛竜が本能的に恐怖した場合の対処法は知らなかった。そもそも、ワイバーンは根性のある生き物であり、ターナケインはこんな事が起こるなど予想だにしていない。

 

 

「くっ……!!空の王者ともあろうお前が怯えているのか!!」

 

 

ターナケインの叱咤を全く聞かず、構わず急降下をし続けるワイバーン。どんどん地面が迫り、激突する寸前にワイバーンは態勢を立て直して勢いを殺すが、そのまま王都の一番内側の城壁内部の内部へと転がり回って着地した。

 

 

「ぐわっ!」

 

 

手綱が切れて地面を転がるターナケイン。皮の鎧を着ているとは言え、かなり痛い。目や口に砂埃が入ってシャリシャリと音を立てている。

 

 

「痛たた……ち、ちくしょう!!相棒、何を勝手に……」

 

 

相棒へと詰め寄るターナケイン。しかし、ワイバーンは全く聞く耳を持たずに高空の空を見上げてガタガタと震えていた。その様子はまるで、ルアキューレに出会した幼い頃のターナケインの姿と似ていた。

 

ターナケインも上空を恐る恐る見上げる。周りの声が静まり返り、辺り一面を支配していたのは異空の音調であった。

 

 

「な……何っ!?」

 

 

彼らの目線の先にいたのは、悲惨な光景であった。青い空が真っ赤な血に染まって、真紅に染め上げていた。悲惨な光景は、味方のワイバーンたちに振り掛かる。

 

ターナケインの仲間たちが、青灰色の鉄竜に次々と狩られていた。高空の空を幾千にもわたって縦横無尽に駆け巡り、光り輝く光弾を放ってワイバーンたちだけを正確に貫いてゆく。

 

 

「なんなんだあれは!?」

「うわぁぁぁ!!ば、化け物だぁぁぁぁ!!!」

「いやぁぁぁぁ!!!!」

 

 

鉄竜を指差して驚愕の声を上げる男性、鉄竜に対する恐怖のあまりにへたれ混む商人、悲惨な光景に耐え切れずに金切り声を上げる女性。その光景を見ていた王都全ての人間が、大混乱に陥った。

 

 

「ば……バカな……!!夢なら早く覚めてくれ!!」

 

 

ターナケインは戦う気力を失い、その場にへたり込んだ。すると、ターナケインの上空スレスレを、1騎の鉄竜が通り過ぎていった。青灰色の鉄竜は、ワイバーンなど目でもない速度で上昇してゆき、ワイバーンを狩り始めた。

 

ターナケインにはそれが、先ほど上空ですれ違った鉄竜だと理解できた。なぜなら一瞬だけ、ターナケインの目線に何かのイラストが描かれているかのように見えたからだ。鉄竜の胴体に、揺らめくような青い鳥。海を渡り、鳥のくせにみゃあみゃあと鳴く白い鳥。あの鳥の名は──

 

 

「海猫……!!」

 

 

海猫は、圧倒的であった。彼が振り向けば、その先にいるワイバーンは打ち砕かれて墜とされる。何も振り向く間も無く、後ろに着かれて光弾を叩きこまれる。味方がかろうじて追いつけば、ぐるりとワイバーンじゃ考えられない機動で、あっという間に後ろに着き返す。

 

 

「なっ……!?」

 

 

そのあとは悲惨だ。誰も海猫の前には立ち向かうこともできずに、赤子の手をひねるかの如くやられてゆく。抵抗できない、腕も、竜の性能も圧倒的すぎた。

 

ターナケインは危機感を感じた。奴を撃ち落とさなければと、本能的に感じ取った。名誉や地位のためではない。彼が初めて、本能的に脅威を感じた初めての相手であった。

 

 

「ち、ちくしょう!!相棒、動け!!」

 

 

その願いを叶えるべく、ターナケインは動かない相棒に喝を入れて再離陸しようとする。しかし、相棒は頑なに応じない。彼も海猫に恐怖を感じているようであり、首を振ってその場から動こうとしない。

 

 

「動け……!動けよ……!!」

 

 

ターナケインの努力をよそに、海猫は満足したかのように王都の空から東へ去っていった。まるで、自分たちには興味がないとばかりの素っ気無い態度だった。ワイバーンたちは、王都の空から消えた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

高空に浮かぶアイレスV。その機体に海猫のマークを描いた狩乃シャルルは、ロ軍ワイバーンとの戦闘に入り、そのままワイバーンを全滅させた。

 

この戦争が始まって以来、いつも通りの掃除の時間であった。こうやって一方的に相手を嬲るのは好きではない。ただでさえ人殺しを躊躇うシャルルは、それを軍人としての理性で押さえて戦っている。

 

 

「全ワイバーンの排除を確認、離脱します」

 

 

できれば、対等な相手と空を統べて戦える相手はいないだろうか?かつてのあのビーグルのように、空戦技能を競って互角に立ち向かえる相手がいれば……

 

 

「?」

 

 

その時、王都の城壁内部の街に一騎のワイバーンが倒れんこんでいるのを見つけた。ワイバーンとヘッドオンをした時に、一騎だけいきなり急降下をし始めた騎体がいたことを思い出す。

 

いい判断だと思ったが、まさか地面まで急降下していたとは思わなかった。あれはあれで命拾いしたと言えるだろう。

 

シャルルは考える。今ここで彼を機銃掃射で撃ち殺してしまう方が、軍事的には正しい。しかし、シャルルの良心や道徳心、ためらいがそれを阻む。

 

 

「見逃しておこう」

 

 

シャルルは最終的にそう決断した。たまには敵を見逃すのも悪くはない筈だ。それに、たとえこの後の戦いで復活しても、たったの1騎ではどうにもならない。

 

この時のシャルルはそう思い、ギムの周辺で待つ空母『ガナドール』へと機首を向けた。DCモーターの駆動音だけが、思考を支配していた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

一方、海将ホイエルは言葉を失っていた。

 

港に攻撃を仕掛けた黒の鉄竜は、港の船たちに甚大な被害を与えたあとに急速に離脱していった。第一龍騎士団がやってきた頃には、もう何も残っていなかった。

 

しかし、彼らが戻ろうとした矢先にまた高空の空から黒い鉄竜がやってきた。風車を後ろにつけた蚊みたいな鉄竜は、そのままワイバーンたちを圧倒的な機動で翻弄。ものの十分とたたないうちに全滅してしまった。

 

あり得なかった。たったの十分、たったの十分足らずで海軍の龍騎士団は部隊消滅した。龍騎士団に攻撃を加えで撃滅した『それ』は、軍船に攻撃を加えた騎によく似ていた。

 

 

「こうなったら……」

 

 

ホイエルは思考を照らす。まだこちらには数万の兵と1000隻にものぼる艦隊がある。炎上中の船を除けば、まだ出航できる船はある。ならば話は早い、海上では絶対に話にならないのなら、このまま艦隊を出航させてクワ・トイネへ侵攻すると見せかけてレヴァーム本土に進撃し、夜間のうちに上陸。一気にレヴァーム本土に攻め入る。

 

海上や空では勝てないが、あらゆる戦術で翻弄できる陸上ならば……援軍を次々と送るレヴァームを直接叩けるし、国内に兵を引き上げさせればロウリアへの攻撃も弱まるはずだ。

 

 

「あ……あれは……レヴァームの艦船だぁ──ッッ!!」

 

 

そう考えていた中で、誰かの悲鳴のような声が轟いた。水兵たちが沖を指差して足をガタガタと震わせて恐怖の表情を浮かべていた。思わず、ホイエルも沖に目を向ける。港の沖にある島の陰から、幾つもの黒い雲があらわになった。

 

高空に陣を取り、空を震わせてずんずんと歩みを進める何十もの黒い空飛ぶ陰。間違いない、色は違うがあんな空飛ぶ鉄の飛空船を作れるのはレヴァームしかいない。

 

 

「あ、あいつが……」

 

 

見覚えのある船。何度も何度も悪夢に見た、破滅をもたらす雲の船。たったの20隻で1600もの軍船を撃沈した、憎い憎いあの黒い雲。その恐怖の姿がそこにいた。

 

奴らは港から8キロといったところを悠々と飛行している。上空100メートルほどの空をワイバーンがいないことをいいことに我が物顔で高空を統べている。奴らはこの距離にいても、攻撃を当ててくる強大な敵だった。

 

しかし、何もできない。ホイエルは思考を加熱させて何か対策を練るものの、やはり無駄だった。なぜなら海の上にいるならまだしも、上空に陣取られているようでは手の出しようがない。ワイバーン達はもうすでに全滅していて、航空戦力はない。空に浮かんでいるため、乗り移ることもできない。

 

何もできない、それだけがホイエルの脳裏を支配していった。ホイエルは絶望して、その場にへたり込んだ。

 

 

「に、逃げろぉぉ!逃げるんだぁぁ!!あんな奴らに勝てるはずがない!!港は狙われるぞ!海でも街でもいい!皆逃げるんだぁぁぁぁ!!!」

 

 

叫び、狼狽、恐慌。「逃げる」それだけが彼にできた最善の策であり、それだけしか策がないという現実の裏返しだった。

 

すると次の瞬間、船から破壊が投射され、港で強烈な爆発が起こる。とてつもない威力の爆裂魔法が艦隊から港へ投射され、残っていた軍船もろとも湾岸施設を破壊し始めた。

 

破壊の嵐は次々と勢いを増してゆき、陸地にの爆風だけでなく、海上にも水柱が何度も何度も吹き荒れた。飛空艦に勝てないことを悟った海将ホイエルは、強烈な光とともにあの世へ旅立った。

 

帝軍八神艦隊の戦艦、巡空艦、駆逐艦による艦砲射撃により、ロウリア王国の湾岸施設は灰燼に帰した。海上戦力の完全喪失を確認した彼らは、揚陸艦を伴ってゆっくりと南へと歩みを進めた。その先には、ロウリア王都ジン・ハークがあった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

夕刻。

 

ターナケインはガタガタと震えて動こうとしない相棒のワイバーンをなんとか基地まで引っ張っていこうと奮闘していた。

 

ワイバーンの基地は王都の防壁の内部にあり、ハーク城からほど近いところに存在する。基地まで行くには第三防壁の中に入る必要があるのだが、ターナケインのワイバーンは未だに落下地点の町の内部からろくに動けず、大通りを塞いでいた。

 

 

「ええい!もう敵軍はいないだろう!!仲間が殺されて悔しいとは思わないのか!!歩きでもいいから動け!」

 

 

ターナケインは少々虐待とも取られかねない扱いでワイバーンを引っ張っていた。そうでもしないと、こいつは動こうとしないからだ。

 

ワイバーンは仲間の断末魔に恐怖を植え付けられ、トラウマができていた。先ほどの青灰色の鉄竜は仲間のワイバーンを一方的に殺して周り、そのまま立ち去っていった。奴らはワイバーンだけを狙って攻撃してきているかのようにも見え、姿を晒せばいつ殺されるかわからないという恐怖がワイバーンに植えつけられていた。

 

 

──あの鉄竜は、ワイバーンに恨みがあるに違いない。

 

 

ワイバーンはそう考え、一歩も動くこともできずにその場でうずくまることしかできなかった。

 

 

「ええい、くそ!動けってこの!!」

 

 

ターナケインが奮闘しているのを見た防衛騎士団員が、手伝いにやってきてくれた。どうやら生存者を探している最中に、街の騒ぎを聞きつけてやってきたようであった。

 

彼らの協力を得て、日の沈まないうちにワイバーンを竜舎に入れることができた。疲れ切ったターナケインは汗を脱ぐんでお礼を述べる。

 

 

「ありがとうございます。ご協力感謝します」

「いや、構わんよ。貴重な竜騎士の生き残りだ」

「しかし……とんでもない敵でしたね。私がワイバーンを制御していたら、一矢報いれたのに。先輩方には後で絞られるでしょう、見た限りでは、ずいぶんと被害を受けているようでしたから……」

 

 

ターナケインは悲痛な顔で心情を語った。ターナケインは相棒のワイバーンの敵前逃亡に救われた感じだが、それを言い訳にすることはできない。竜騎士界ではワイバーンを制御できないのは己の未熟と同じである、つまりはターナケインの責任だ。

 

 

「その心配は……多分しなくていいと思うぞ」

「?、何故ですか?」

「第2、第3龍騎士団は、君を除いて一騎残らず全滅したよ。湾岸防衛に向かっていた第一龍騎士団も殲滅された。君が一騎いたところで……な」

「え!?」

 

 

ターナケインはしばらくその言葉の意味が分からずにいた。目をぱちくりさせて、徐々に『部隊消滅』の四文字の言葉の重みを実感し、心が砕けそうになってゆく。

 

 

「バカな!!そんなバカな!!竜騎士が被害を受けるだけでなく全滅するなんて!!ワイバーンは文字通りの世界最強の生物ですよ!!そんなにたやすくあんな鉄竜に負けるはずがない!!」

 

 

ターナケインはその衝動から、思わず防衛騎士団員の肩を掴み、激しく揺さぶって食いかかった。

 

 

「全部で150騎、150騎も居たんですよ!?文明圏内国が相手でも……いや、たとえ列強国を相手にしても、全滅するなんて考えられません!!相手は東から何百騎できたというのですか!!!」

「確認されているだけでは、東からの敵は 40 だ」

「え……?」

「今回の戦闘は王国民も見ていたから、戦果は隠せない。あまりの被害の多さに、王国民は絶望に打ち拉がれて『古の魔法帝国と戦っているのではないか』と噂されているほどだ」

「そ、そんな……」

 

 

ターナケインは絶望に打ち拉がれる。たったの40騎にワイバーン150騎が全て全滅した。その言葉がこの世界でどれだけ非現実的で絶望だらけのことか、理解できるだろうか?

 

ターナケインの脳裏にあの青灰色の鉄竜が目に浮かぶ。悔しかった、自分たちが何もできずに一方的に蹂躙され、果てには全滅してしまうという事態に、怒りすら感じる。

 

そして、ターナケインはその数多ある鉄竜の中から、一騎の鉄竜を思い出した。たった1騎で、世界最強のワイバーンを狩って狩っての殺戮を繰り広げたあの海鳥。仲間たちを最も多く殺して回ったあの鉄竜に怒りの矛先を向けた。

 

 

「海猫……」

 

 

ターナケインはその名を呟く。

 

 

「あいつを撃ち落とさなければ……王国は危ない……!」

 

 

ターナケインは決心する。必ずや、海猫を……奴だけでも撃ち落として見せなければ、ロウリアの未来はない。自分は、奴を撃ち殺すためだけに生まれてきた竜騎士だ。

 

絶対に、撃ち落として見せる。




『天ツ上の艦隊をレヴァーム艦隊と誤認』
ホエイルさんはロデニウス沖大海戦でレヴァームとしか相手していないため、八神艦隊をレヴァームの艦隊と勘違いしています。

『シャルルをターゲットにするターナケインさん』
最も活躍していたシャルルをターゲットにするターナケインさん。今回が初登場、これから結構活躍してもらいます。

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