とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

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第23話〜ロウリア王国の終焉〜

 

空が震えている。あたりの空気全体が太鼓に叩かれたかのように震えて音を放ち、地上に住う人々を震え上がらせる。あたかも、空全体がある種の恐怖に怯えているかのようであった。

 

ロウリア王国王都ジン・ハーク。その城壁はもはや意味を成していない。空は敵の兵器に支配され、王都の城壁を取り囲んで威圧を加えている。ジン・ハークの空を統べるのは、鋼鉄の飛空機械の塊であった。

 

 

「何ということだ……」

「こ、この世の終わりだ……」

 

 

住民も、この王座の間にいる軍幹部達も同じ感想を抱いていた。空は黒い雲に覆われ、王都は鋼鉄の鯨達に囲まれている。太陽の光すらも黒に遮られ、一角鯨達の角のような棒状の物体が全て王都に向けられていた。一目見れば、この世の終わりのような光景がその空に広がっている。

 

 

「何故だ……何故あんな無茶苦茶な国が急に現れたのだ!!」

 

 

パタジン将軍は机に向かって握り拳を叩きつけ、そう言った。装備にしても強さにしても、何もかもが常識外れの強さを持つ国が、急に立ちはだかった事を理不尽に感じている。彼も度重なる戦闘で多くの部下を失っており、彼にとっては耐えがたい苦痛であった。怒りの矛先は空に浮かぶ鋼鉄機械に向けられているが、それが届くはずもない。

 

 

「あれ程の国が急に現れさえしなければ、我々は目的を達成でき、ロデニウス大陸を統一できたのに……!!」

「…………」

 

 

それが一番悔やまれる事だった。たしかに敵を侮りはしたが、それでここまで被害を被る事は考えてもいなかった。たとえ列強国を相手にしてもここまで泥を塗られる事は考えられない。それほどまでに敵は強大であった。何もこんな強すぎる敵が現れる事はあまりにも理不尽極まりない。

 

 

「一体、一体どうしたら奴らに勝てるのか……」

「大変です!!」

 

 

突如として、会議室の扉が開かれた。それも、バタンという大きな音を立てて慌てた表情で飛び込んできた。皆の目線がその人物に集中する。

 

 

「何事だ!?今は会議中だぞ!!」

「失礼しました!で、ですが大変です!先程レヴァームと天ツ上の両国の使者が王宮宛にこのようなものを送りつけてきました!!」

 

 

そう言って、飛び込んできた彼は手元に握られていた丸められた紙を会議室にいたパタジンに手渡す。やけに上質な紙にはっきりと見える濁りのない黒色の文字が、大陸共通言語で書かれていた。

 

 

「こ、これは……!」

 

 

それを見たパタジンは絶句した。そこに書かれていたのは、追い詰められたロウリア王国に対する慈悲の心であった。

 

我々レヴァーム、天ツ上、クワ・トイネ、クイラ四国は我々の数億の国民を代表し協議の上、ロウリア王国に対し戦争を終結する機会を与えることで一致した。

 

1. 4ヶ国の軍隊は増強を受け、ロウリアに最後の打撃を加える用意を既に整えた。この軍事力は、ロウリア王国の抵抗が止まるまで、同国に対する戦争を遂行する一切の連合国の決意により支持され且つ鼓舞される。

 

2. ロウリアが、無分別な打算により自国を滅亡の淵に追い詰めた亜人廃絶主義者を引き続き受けるか、それとも理性の道を歩むかを選ぶべき時が到来したのだ。

 

3. 我々の条件は以下の条文で示すとおりであり、これについては譲歩せず、我々がここから外れることも又ない。執行の遅れは認めない。

 

4. ロウリア国民を欺いて亜人廃絶主義を浸透させた過ちを犯させた勢力を永久に除去する。理不尽で傲慢な差別思想が駆逐されない限りは、平和と安全と正義の新秩序も現れ得ないからである。

 

5. 新秩序が確立され、戦争能力が失われたことが確認される時までは、我々の指示する基本的目的の達成を確保するため、ロウリア国領域内の諸地点は占領されるべきものとする。

 

6. ロウリア軍は武装解除された後、各自の家庭に帰り平和・生産的に生活出来る機会を与えられる。再軍備に関してはレヴァーム、天ツ上両国の許可が必要。

 

7. 我々の意志はロウリア人を民族として奴隷化し、またロウリア国民を滅亡させようとするものではないが、ロウリアにおける略奪を含む一切の戦争犯罪人は処罰されるべきである。ロウリア王国はロウリアにおける民主主義的傾向の復活を強化し、これを妨げるあらゆる障碍は排除するべきであり、言論、宗教及び思想の自由並びに基本的人権の尊重は確立されるべきである。

 

8. ロウリア国民が自由に表明した意志による平和的傾向の責任ある政府の樹立を求める。この項目並びにすでに記載した条件が達成された場合に占領軍は撤退するべきである。

 

9. 我々はロウリア王国が全ロウリア軍の即時無条件降伏を宣言し、またその行動についてロウリア政府が十分に保障することを求める。これ以外の選択肢は迅速且つ完全なる全滅があるのみである。

 

 

「なんなんだこれは!?」

「じ、事実上の降伏勧告では無いか!!」

 

 

慈悲、と呼ぶにはあまりにも屈辱的な内容であった。まず『亜人廃絶主義者を引き渡せ』というのはことのつまりハーク王などの重役を引き渡せと言っているのと同じである。国の象徴であり、トップであるハーク王を差し出すなどどれだけの屈辱であろうか。

 

二つ目に『それが達成されるまでは占領する』とあるが、これでは植民地と何ら変わらない(実際には違うが、彼らにはそう見える)こんな屈辱的な条件を飲めという方がおかしなものである。

 

 

「徹底抗戦だ!こんな降伏するくらいなら戦って死んだ方がいい!!」

「だが待て!一体どうやってあの飛空船に勝とうというんだ!!」

「無理だ、勝てるはずがない!」

「何のために奴らが攻撃を待ってくれていると思っているんだ!これはレヴァームと天ツ上の慈悲だ、ここで徹底抗戦を叫べば怒りでロウリアは滅ぼされるぞ!!」

 

 

好戦派と降伏派が分かれ、共に争い合う。降伏派の意見も一理ある。このまま戦争を続ければ、ロウリア王国は確実に負け、滅ぼされる。それならば屈辱的な条件でもいいから降伏した方がいいと考えるのも理にかなっている。

 

それを見ていたハーク王は、しばらく考え込む。自身の引き起こした戦争を、どうやって落とし前を付けるべきかと。元はと言えば自分が始めた戦争、そのせいで民が苦しみを味わい、多くの者が死んでいった。これ以上、苦しみを増やさないためには……

 

 

「皆の者、降伏しようではないか」

 

 

突然、ハーク王が立ち上がってそう言った。皆の視線が、ハーク王に集まって周りがピタリと止まる。

 

 

「そもそもこの戦争は間違っていたのだ。本当ならば私は、レヴァームと天ツ上の情報が出てきた時にもう少し慎重になるべきであった……」

 

 

ハークはそう言って下を向いた。俯く表情からは、何やら申し訳なさそうな感情が見えてくる。

 

 

「私はあの時、6年間の準備をしてきた我らなら必ず勝てると思い込んでいた。しかし、現実は違った。相手は圧倒的な武力を持ってジン・ハークを包囲するにまで至っている」

 

 

ロウリア王は王都攻撃で崩れた壁から外を見る。そこには、鋼鉄の飛行機械達が唸りを上げてジン・ハークを威圧していた。奴らに対抗する術は、ロウリア王国にはない。

 

 

「もう王国は負けたのだ、降伏しよう」

「国王様……」

 

 

ロウリア王はそう言って言葉を締めくくった。素直に負けを認め、講和を開く王の意思。その言葉を聞いた軍幹部達に様々な感情が沸き起こり始めた。悔しさのあまりに泣き出すもの、王国の未来を案じて床を拳で叩く者。

 

彼らは皆、降伏という条件がどれだけ屈辱的であるかを知っていた。あの列強のパーパルディアの例もある通り、降伏して負けた国は相手国に何をされるか分かったものではない。服従、もしくは属国化。挙げ句の果てには国の解体ということもある。

 

ロウリア王もそれをわかっていた。しかし、これ以上戦争を続ければ状況はさらに悲惨になる。相手が降伏を勧告してきたのなら、もはやそれに従うほかなかろう。

 

元はと言えば自分が始めた戦争だ。あの飛空船の情報が出てきた時に察しておけばよかった。これでは勝てないと。ロウリア王は静かにそれを悔やんだ。

 

 

「先王達よ……お許しください。私はこの国を守れませんでした……」

 

 

王座の間で悔やむ者達の側、ロウリア王はひっそりとそう呟いた。ロウリア王国は使者を城外の飛空艦まで連れて行き、正式に降伏の印を明け渡した。『ロデニウス大陸戦役』それがこの戦争につけられた名前だ。4月12日の開戦から5月12日の僅か一ヶ月での降伏であった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

とある国の国家戦略局。ほのかなオレンジ色の光が、薄暗い部屋の中を照らす。暗い目に悪い部屋の中には二人の男性の影が映り込み、部下らしき人間が上司に向かって報告をしている最中であった。

 

 

「ロウリア王国が負けただと!?」

 

 

薄暗い部屋が雷でパッと明るくなるのでは?と言うくらいの怒気をはらんだ声が、部下のパルソをぴくりと震わせる。パーパルディア皇国国家戦略局職員、課長イノスは額に血管を浮き上がらせながら声を震わせた。

 

彼が怒るのも仕方がなかろう。今回パーパルディア皇国はロウリア王国のロデニウス大陸統一戦争に多額の支援をしていた。国家予算の1%に始まり、数万の陸軍、200騎のワイバーン、さらには旧式で魔導砲を積んでいない物とはいえ軍船の建造支援もしていた。

 

その額はロウリアから見てもパーパルディアから見ても膨大で、これで負けると言う方がおかしいと自信を持たれていた。ロウリア王国のロデニウス大陸統一の暁には大陸内の資源などで利益を得て、功績を残せるはずであった。

 

しかし、結果は失敗。これがどれだけの不利益を生み出すか彼らは分かっていた。国家予算を無断で使ったのは自分たちの独断、責任は全て彼らが背負わなければいけなくなる。そうなれば自分たちの首すら危なくなる。

 

 

「本当です!ロウリア王国は本日5月12日に正式に降伏条件を飲みました。ロウリア王国はレヴァーム、天ツ上という国の保護国となり、完全な敗北です!」

「馬鹿な!ロウリアが降伏だと!?あの国はロデニウスではかなりの規模を持つ国だったはずだ、我々の支援もあったのに文明圏外国家などに敗れるはずがないだろ!!」

 

 

思わず声を荒げるイノス、その言葉には焦りと不安が見え隠れしている。

 

 

「現在のところ原因を調査中です。ですが、諜報員からすでに奇妙な報告が……」

「奇妙な報告?」

「はい、なんでもロウリア王国が降伏する直前の戦闘でワイバーンとは似ても似つかない鉄竜のようなものを見たと。なんでも、それは列強ムーの飛行機械に似ているとのことです。そして、次の日には王都上空を取り囲むように巨大な飛空船が現れたとのことです」

「巨大な飛空船に飛行機械だと?」

「はい、その証言がロデニウス沖大海戦でヴァルハルさんが見たものとほぼ一致しているのです」

 

 

ヴァルハルは精神疾患を疑われて現在本国の病院で診察中である。初めは彼の証言を疑っていたものの、他の諜報員まで同じものを見たということはどういうことだろうか?

 

 

「まさか……ヴァルハルが見たのは本当のことだというのか?」

「少なくとも飛行機械を使役しているということは、ムーの支援があるのかもしれません。そして、その中には『海猫』のことも書かれています。どうやら奴が実在するのは事実のようです」

「海猫……か」

 

 

イノスはしばらく考え込む。個人的にも海猫という竜騎士の情報は気になるところだが、これ以上模索して自分たちの立場が危うくなっては困る。

 

 

「うーむ、これ以上調べても無駄だろう。ロウリア王国への支援の履歴は全て消却するんだ、我らの関わりを一切残すな」

「はい、分かりました」

「だが、レヴァームと天ツ上がムーの支援を受けているかもしれないという情報は残しておきたいな。『我らの諜報員が偶然見かけた』ということにして事実創作をしてくれ」

「いいんですか?履歴は全て抹消するのでは?」

「我が国と程近い場所にある文明圏外国家が、小癪にもムーの支援を受けているかもしれないのは十分な脅威だからな。仕方がないだろう。皇帝陛下への報告は見送るが、機会をみて伝えることにする」

 

 

こうして、ロウリア王国を支援していたパーパルディア皇国国家戦略局は、自分たちが支援していたという事実を抹消した。証拠隠滅はどの時代でも徹底的である。

 

しかし、もしもの時の保険として戦争の一部始終は保管されて残された。操作の手が入らないように事実を改ざんし、金庫に機密書類として厳重に保管された。何事も、保険があった方が安心できるからだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

レヴァームの会議は「会議は踊る、されど進まず」という状態になることはあまりない。何事もファナ・レヴァーム皇女が取り仕切り、意見をまとめ、皆が納得のいく意見を出してくれるからだ。唯一、転移直後の混乱の最中の緊急会議は紛糾したが、状況がイレギュラーすぎるのでファナの有能さを持ってしても混乱を避けることはできなかった。

 

 

「では、ロウリア王国の処遇は現政権の解体と近代化による新政権の樹立。それが達成されるまではレヴァームと天ツ上の分割統治とします。よろしいですね?」

 

 

ファナ皇女が会議室の面々に質問すれば、皆から「異議なし」の回答が返ってくる。答えは決まったようだ。ファナは「ロウリア王国の処遇案」と書かれた書類をまとめ、一番上の紙を取ると自身のサインを万年筆を用いてすらすらと書く。万年筆から少しずつ染み込んでくるインクが上質な紙に書き込まれ、ファナのこれでもかというほど綺麗な字が書き写される。

 

 

「にしても、何事もなく降伏してくれて本当に助かりました。この世界での初の戦争、何が起こるか正直不安でしたから」

「ええ、この世界では魔法と言った我々の世界にはなかった要素もありますからね」

 

 

この世界での初の戦争は、レヴァームと天ツ上の勝利に終わった。唯一懸念されていた魔法に関する技術も、ロウリア王国が文明圏外であることのおかげでほとんど脅威にならなかった。

 

レヴァームと天ツ上の魔法関係に関する研究はまだ多くが進んでおらず、謎のままだ。魔法で引き起こされる現象に関する研究は一通り終わったのだが、その根元のエネルギーに関する研究が進んでいない状況だ。

 

そのため、魔法を一番の脅威として見なしていた。その心配は杞憂に終わったが、この世界はまだまだ広い。文明圏と呼ばれる土地では魔法が強力に発達しており、まだまだ魔法を軽視できない状況だ。

 

 

「にしても近代化ですか、果たしてうまくいくでしょうか……」

「なんとかするしかないです。民の声に耳を傾けることができれば、ロウリアも成長してくれるでしょうから」

 

 

ロウリアの処遇として当てた近代化、それは理性的で人権のある国家としての歩みを求めるためのものであった。憲法を発布させ、国民の声を身近から聞くことのできるよう国会を設置させ、レヴァームと天ツ上が歩んできた近代化の道を進ませるものだ。

 

一応国王という仕組みは近代化により存続している、早い話が立憲君主制である。だが、現ハーク王の処遇は裁判を待たなければならない。おそらく、良い結果にはならないだろう。そのため、新しく王を立てる必要が出てきたということだ。幸いハーク王には子供が多かったため、王子なり女王なり何でも立てることができる。

 

そして軍備。分割統治の間は軍備を認めていないが、いずれは復活させる予定である。そのため元ロ軍軍人や竜騎士などはレヴァームと天ツ上がしばらく身を預かる仕組みを確立させた。身を預かっている間は訓練に励ませる予定である。これなら、しっかりと訓練された近代軍人を再軍備の時にそのまま編入させることができるからだ。

 

 

「それとファナ長官、パーパルディア皇国という国からロウリア王国に向けて外交文書が届いております」

「外交文書ですか?」

 

 

マクセル大臣が、外交文書の件を話す。ファナはパーパルディアという国の名前を聞いてはいた。なんでも、フィルアデス大陸にある『列強』と呼ばれる強大な国力を持った国なのだという。レヴァームと天ツ上の転移位置から程近いこともあり、ファナはその存在を記憶に留めていた。

 

 

「はい、内容は『ロウリア王国に当てていた支援の借金を返せ』という趣旨のものです」

 

 

パーパルディア皇国が求めてきたのはロウリア王国に当てていた支援金の返金要求である。レヴァームと天ツ上は、パーパルディアが6年もの間ロウリア王国を支援していたことを証拠隠滅をされる前に掴んでいた。ある程度は予想していたものの、やはりタイミングが早い。

 

ロウリア王国の借金というのはかなり膨大で、今後数十年規模のローンだった。それを、ロデニウス大陸統一により得られる利益(奴隷や鉱山など)で補うとしても半分ほどは残る計算だ。残りは永遠と返し続けなければならない。「見通しが甘いにも程がある」それが計算をした財務大臣の感想であった。

 

 

「断りましょう。パーパルディア皇国当てに拒否の返事の文書を」

「分かりました」

「なるべく丁寧にですよ、まだパーパルディア皇国とはまだ国交開設すらしていません。最初から関係を乱すことのないよう、お願いします」

「分かっています、お任せください」

 

 

もちろん、そんな膨大な借金などレヴァームと天ツ上は払ってやる筋合いはない。こうして、パーパルディア皇国からの要求はやんわりと断られることになる。

 

曰く『ロウリア王国はもうすでに我が国の保護下であり、貴国のものではない。他国の借金を支払うつもりはない』という趣旨をオブラートに包んで返事されたという。これを受け取ったパーパルディア皇国の国家戦略局のとある人間が、歯軋りをしながらそれを握り潰したのはまた別の話。

 

 

「戦いはひと段落しましたが、まだまだやることが多いですね……」

 

 

とナミッツ総司令は言う。彼もかなりの激務に見舞われているのか、目の下にクマができている。実際、彼はロウリア王国攻略のプランを立てたり、その事後処理をしたりしていた。

 

 

「統治も戦いの一つです。戦争は戦って終わり、などと言うさっぱりしたものでは無いのですから」

 

 

ファナが言うと、何故だかその言葉に説得力が増す。彼女も中央海戦争で天ツ上との講和を取りまとめた一大貢献者であるからだろう。

 

彼女の言う通り、戦争は戦って終わりなどと言う生温いものでは無い。中央海戦争の時だって、皇軍が行った天ツ上の民間人に対する虐殺行為に関する責任をまとめたりするのには苦労したものだ。憎しみの残る両国を取りまとめたのは、誰を隠そうファナの功績によるものである。

 

今回も、ロウリアが民主化をする事でクワ・トイネやクイラなどと歩み寄りをしやすくなるよう計らいをしている。特にクワ・トイネは元々ロウリアと仲良くしたかったのだから、民主化することで和解をしてくれればそれが一番良いと言うことである。

 

 

「それからナミッツ司令、例の計画はどうなっていますか?」

「飛空艦による国交開設計画ですね。現在、クワ・トイネからもたらされた世界地図をもとにルートを作成しています。数週間以内には出発できます。こちらが、計画書です」

 

 

ファナは世界地図に描かれた矢印のルートが添えられた計画書を受け取る。ファナが質問をしたのは飛空艦艦隊による国交開設計画である。戦争前に行われた会議でナミッツが考えを示した砲艦外交であるが、最終的にファナの一声で採用される運びとなったのだ。

 

 

「やはり中央世界との国交開設が第一目標ですか?」

「はい。現在考えられているルートでは、第一文明圏と第二文明圏に向けてそれぞれ艦隊を派遣します」

「なるほど。もし国交開設で相手国が使節団を派遣したい、という要請があった場合はどう致しますか?」

「その場合は帰りの飛空艦隊に使節団を乗せ、そのまま本国まで帰港します。それから、星の東側については天ツ上の艦隊が調査をいたします。なんでも、北東部にあるグラメウス大陸は『魔物』と呼ばれる危険生物で溢れかえっているらしく、危険が多いとのことです。天ツ上では陸戦隊を艦隊に編入したりと入念な準備が進められているようです」

 

 

計画書には天ツ上の艦隊の情報についても書かれていた。国交開設の艦隊にはレヴァーム、天ツ上の両国の外交官を乗せるが、星の西側と東側では担当する艦隊が違うことになっている。

 

この話は天ツ上も乗ってきており、その結果天ツ上は星の東側や北側のグラメウス大陸の調査を行う運びとなったのだ。あの地方はほとんどが海であるらしいため、国交開設よりも調査を主目的としている。

 

 

「分かりました。では、艦隊の派遣を許可します」

 

 

戦いが一つ終わった。そして、世界は開けようとしている。中央歴1638年、世界は着実に動き始めていた。この世界でレヴァームと天ツ上はどう動くのか、それは彼ら次第である。


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