とある飛空士への召喚録   作:篠乃丸@綾香

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第24話〜海猫と英雄〜

 

ロデニウス大陸統一を目論んだロウリア王国のロデニウス戦役は、失敗に終わった。突如としてロデニウス大陸の東に現れた新興国家、神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上の二国によってロ軍は壊滅的被害を受け、最終的にはロウリアの降伏となった。

 

パーパルディア皇国への借金返済とクワ・トイネへの賠償金により王国の国力は大きく失墜した。亜人廃絶主義者も捕らえられ、もはやかつての覇権国家としての風格はもうない。

 

ロウリア王国は憲法を発布し、立憲君主制と制度を改め、新たな王を迎えて再出発しようとしている。

 

そして、戦争終結から数週間後。

 

薄暗い牢獄、冷たい石畳の床が足から体温を奪ってゆく。辺りに日はほとんど差さずに薄暗いじめっとした雰囲気が漂っている。

 

 

「くそっ!こんなところで足止めを食らっている場合じゃないのに……」

 

 

竜騎士ターナケインは牢獄の中でたった一人、そう呟いた。ターナケインはあの海猫との激闘の後、墜落した地点で天ツ上陸軍の兵士達に捕らえられた。抵抗することも考えていたが、海猫への復讐を考えるならここで死ぬわけにはいかず、そのまま大人しく捕まることにした。

 

しかし、捕虜として運ばれたのはクワ・トイネ国内の捕虜収容所。そこで何日も捕らえられたままずっと足止めを喰らってしまっていた。

 

──自分は『海猫』に復讐を果たさなければいけないのに、こんなところでのんびりとしている場合ではない。

 

そう思い何度か脱獄を計画しようとしたが、このクワ・トイネの収容所はレヴァームが作ったらしく、非常に厳重な警備が敷かれており脱獄は難しかった。

 

 

「ちくしょう……何とか出られないのか……」

 

 

それがターナケインには悔しくて悔しくてたまらなかった。自分の愛すべき相棒の命を奪い、空を蹂躙したあの海猫に一矢報いなければ自分の気が治らない。

 

 

「こちらです、この青年がお探しの人物です」

「了解しました。ありがとうございます」

 

 

と、考えにふけるターナケインの前に、鉄格子を挟んで一人の人物が前に出た。細身の背の高い身体に真っ黒で地味な色合いをし、ぴっちりとした式典の制服のような服装を着た一人の人間が立っていた。

 

 

「貴方が元竜騎士ターナケインさんですね?」

 

 

その人物はレヴァーム人の男だった。よく見ると、その服装は収容所でちょくちょく見かけていたレヴァーム軍人の制服とよく似ている。軍人なのに地味で色合いのない制服だな、と印象に残っていたのを思い出した。

 

とりあえず、質問をされたので答えを返さなければならない。何をもって自分を訪ねてきたのか分からないので警戒したいが、人間同士の会話というものはそういうものだ。

 

 

「はい、私がターナケインですが……」

 

 

そういうとその軍人は「ふーむ」と、地べたに腰掛ける自分を品定めするように眺めた。ますます意味がわからない、こんな負けた国の兵士に戦勝国の軍人が一体何の用だろうか?

 

 

「単刀直入に言おう、神聖レヴァーム皇国が君を探している」

「え?」

 

 

軍人は突然そんなことを言った、訳がわからず頭が真っ白になった。レヴァームの鉄龍に唯一有効打を与えた兵を、レヴァームが探している。その意味は、ターナケインにはっきりと分かっていた。

 

身柄の引き渡し。

 

これが出てくる時は本当にろくなことが無い。ようは、戦争犯罪者として裁こうとすることがほとんどだ。つまり、あの戦争で唯一被害を与えた兵士を処刑でも何なりとでもしようとしているのだ。

 

 

「そんな……」

 

 

ターナケインに絶望が映った。相棒を殺された恨みを、海猫に晴らすのが自分の目的だ。しかし、それを達成できずにこのままレヴァームに裁かれて殺されるかもしれない。そう思うと、ターナケインの目から色彩が消えてゆく。

 

 

「こちらが案内になる。大丈夫だ、君のような英雄を我が国は手厚く扱うことになっている。安心してくれ」

 

 

そう言って甘い言葉で誘導しようとしているのは丸わかりだ。事実、歴史上でこういった甘言で要人を誘い出して処刑した例はいくらでもある。暗い表情でターナケインは将校から手紙を受け取った。

 

数日後。

 

ターナケインは牢獄を出て、レヴァームの『自動車』と呼ばれる乗り物へと移された。ターナケインはそれにただただ驚きしかない。何せ馬が引いていない、それなのに荷馬車のない馬よりも早く軽快に地面を疾走していっている。そのことには驚きしかなかった。

 

しばらく進むと荒れ果てた大地を抜け、緑が見えてきた。クワ・トイネの国境線沿いを辿ってたどり着いたギムの街だ。広大な穀倉地帯が姿を現し、ロウリア王国とはまた別の自然豊かさを感じさせる。

 

しかし、その中に異様な物体を見つけた。大量の墓地だった。一つ一つに十字架が刻まれ、名前のような者がいくつも刻まれている。

 

 

「あ……あれは?」

「ギムの兵士たちのものです。ギムのために勇敢に戦った兵士たちのために作られた慰霊碑です」

 

 

レヴァーム人の運転手は、そう教えてくれた。聞くところによると、ロウリア王国がこれまでに侵略戦争を繰り返していたらしく、その中でロウリアの侵攻を食い止めるために犠牲になったギムの兵士のためにあの墓標は作られたのだという。

 

ターナケインはクワ・トイネにも勇敢な兵士たちがいたことを痛快し、いたたまれない気持ちになった。

 

と同時に、ますます自分の身の安全が保障されなくなってきたことを実感していた。侵略戦争をしていた相手の国の兵士をそうやすやすと生かしておくわけにはいかない。ターナケインは「これはいよいよ命はない」と悔しく思い始めた。

 

城塞都市エジェイに到着し、皇軍の基地で一泊したターナケイン。今度は『飛空機』と呼ばれる物体に乗せられ、レヴァーム国内に向かって飛行していた。眼下には地面に張り付くような雲が見え、凄まじい高度と速度で飛行していることを実感する。

 

絶対迎撃不可能領域。

 

おそらくは列強国ですら、この乗り物を墜とすことは不可能であろう。身をもって感じる国力差である。こんなものを作ることのできる国と、戦争をしていたのだとターナケインは実感した。それと同時に疑問が生じ始めた。

 

 

──なぜ、このような国が急に現れたんだ?

 

 

ターナケインの疑問はそこに集中していた。こんな国がなければ、ロウリアはこの戦争に勝てたはずだ。まるで神が仕向けたかのようなタイミングでこいつらは現れ、相棒を殺していった。

 

それが酷く理不尽に思えた。

 

やがて、大きな島が窓の外に広がってきた。神聖レヴァーム皇国、トレバス暗礁。それがこの島の名前らしい、透き通るような綺麗な海にポツリと浮かぶ美しい島。ターナケインは疑問のことを少しだけ忘れてその美しさに見惚れていた。

 

そして、王国では考えられないほど長大な滑走路に飛空機は着陸していった。美しい島の中に作られた長めの滑走路だった。そして、巨大なワイバーン基地が目に映る。何騎もの青灰色の鉄竜が飛行場を埋め尽くし、レヴァームの国力を物語っている。

 

 

「…………」

 

 

終始、ターナケインは黙ったままであった。いよいよ、同乗者が飛空機から降りる準備を始めターナケインは感情を無にしてそれに従った。ガコンッという音とともに、飛空機の重厚な扉が開かれる。

 

 

 

「くっ……!」

 

 

太陽の光が強く差し込み、ターナケインは目を細めた。そして、飛空機の下では盛大な拍手と歓声が湧き起こる。

 

 

「──え?」

 

 

訳がわからなかった、自分は今から処刑されぬのではなかったのだろうか?それなのに突然、レヴァーム人の歓迎を受けたターナケインは驚いてしまう。

 

 

「ようこそレヴァームへ、さあ、どうぞこちらへ」

 

 

何の用途かわからない連続した閃光を浴び、まるでお祭りパレードのような雰囲気の中をターナーケインは進んでゆく。

 

 

『今回のロウリア事変で、単騎でアイレスVに突入し、一矢報いたロウリア王国の竜騎士……ターナケインさんです!!』

 

 

大きな拡声器で声が流れる。まるで、飛行場全体が彼を歓迎しているかのような雰囲気であった。そして、しばらく歩みを進めると見覚えのある鉄竜を見せつけられた。

 

 

「!?」

 

 

青灰色の体色に、胴体に描かれた海猫のイラスト。それを見間違うようなターナケインではない。もがれた片翼は直されているようだが、あれは間違いなく、自分が戦った海猫の機体だった。

 

その隣に一人の青年が立っていた。彼はにこやかな笑顔をターナケインに向けると、晴れやかな表情で歩み寄ってきた。

 

 

「貴方があのときの竜騎士さんですか?」

「……はい」

「勇敢な方ですね。まさか私にイスマエル・ターンを使わせるとは、思っていませんでした」

「!?」

 

 

ここでようやく気づいた。彼は、あの時の戦いのことを知っている。あの空中に止まるような機動のことを彼は知っていた。なぜなら、彼が海猫の張本人だからだとターナケインは理解した。

 

彼は握手を差し伸べる。ターナケインはそれを虚な目で握り返した。それを見た周りの閃光がより一層激しく光り、点滅する。

 

 

(そうか……お前が海猫だったんだな……)

 

 

ターナケインは静かにその憎悪を滾らせる。それはまるで、煮えたぎるマグマのような、ワイバーンの火炎弾のような憎しみであった。

 

 

(俺がお前をこの手で殺してやる……!)

 

 

これは好都合だ、海猫から自分に近づいてくるのなら復讐だってたやすい。おそらく海猫は自分を追い詰めた相手を部下としてそばに置いておきたいのだろう。なら、その油断しきった後ろ首を断ち切るまで。

 

ターナケインは静かに覚悟をそう決めた。にこやかな笑顔を絶やさない海猫とは裏腹に、彼に対する憎悪を滾らせて。

 

この時、ターナケインはとある計画のためにレヴァーム皇国と呼び出されていた。その計画は、ターナケインのような有能な竜騎士を飛空士にしようというものだった。それは、彼の運命を大きく変えることとなる。復讐すべき相手が一番近くにいる中、ターナケインは静かに覚悟を決めた。

 

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