とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

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第27話〜アルタラス〜

 

艦隊司令官マルコス中将の航海日誌

 

航海1日目、飛空艦の速力を持って出発から1日足らずでシオス王国とアルタラス王国と接触する事ができた。幸先は順調だ、今のところ目立ったトラブルは起きていないし、船員に不満もない。

 

アルタラス王国と接触する際、我が艦隊はアルタラスをなるべく刺激し過ぎないようにアルタラス海軍と接触してからは重巡空艦『ボル・デーモン』に外交官を乗せてアルタラスの首都ル・ブリアスへと向かうことになった。アルタラスとの交渉は今夜も続いているだろう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

視界に6騎のワイバーン達が羽ばたきながらその存在をアピールしている。

 

重巡空艦艦長、レオナルドはワイバーンが好きだった。というか、ドラゴン全般が好きである。この世界に来て初めてワイバーンを見た時、無機質で何も言わない飛空機械や飛空艦とはまた違った勇姿を彼の目に焼き付けたからだ。

 

この世界に来てから何度も見慣れた光景だが、やはり戦う生物というものは勇ましい。だが、この船だってカッコよさでは負けていない。レオナルド艦長は自分の分身同然であるこの重巡空艦に、そっと語りかける。

 

 

──お前も勇ましさでは負けていないぞ。

 

 

もちろん、性能では近接信管を用いた両用砲を多数搭載したこの船の前では、ワイバーンなどハエのようなものだろう。だが、それでもレオナルド艦長はあのワイバーンに憧れのようなものを抱いている。

 

 

「先導のワイバーン、離れます」

 

 

航海士がそう報告すると、バサリと翼を羽ばたかせてワイバーン達が離れていった。巨大な翼を羽ばたかせて空を舞う勇姿は、残念ながらこの船には負けている。

 

『重巡空艦ボル・デーモン』

 

それがこの船の名前だ。この船が建造された経緯は、中央海戦争まで遡る。中央海戦争時、皇軍は天ツ上の神出鬼没をモットーとする天ツ上機動艦隊に手を焼いていた。機動艦隊は空母を担い、残りを飛空駆逐艦などで固め、雲間を縫って現れては消え、現れては消えを繰り返して皇軍にダメージを与えていった。

 

そんな厄介な敵に対抗するために、快速の機動重巡空艦が作られることになったのだ。それがこのボル・デーモンだ。『悪魔』の名がつくように、この船は天ツ上にとっては悪魔になるはずであった。高性能のレーダーを装備し、快速の速力と優秀な自動装填装置によって高い射撃精度を誇る巡空艦だ。

 

 

スペック

重巡空艦『ボル・デーモン』

基準排水量1万4000トン

全長205メートル

兵装 

主砲8インチ三連装砲5基15門(上部3基、下部2基)

副砲5インチ連装砲12基24門

 

 

しかし、建造のリソースがグラン・イデアル級空母の建造に集中した為、ボル・デーモンの建造は遅れに遅れた。そのため、この船が戦場に出れたのは中央海戦争の最終決戦である淡島沖海戦である。その最後にバルドー機動艦隊が天ツ上のとある飛空士の策略によって超弩級戦艦『飛騨』『摂津』が殴り込みをしてきた時に、バルドー艦隊を死守せんと戦艦相手に勇敢に立ち向かった。

 

しかし、重巡空艦では戦艦に太刀打ちできず、せいぜい炎上せるのが限界であった。彼女に霊が宿っているのであれば、それを悔やんでいるかもしれない。そんな彼女も、中央海戦争が終わってしばらくは暇を持て余していた。それが今、満を辞してこうして新世界の接触艦隊に加わることとなったのだ。

 

 

「艦長、ル・ブリアスの港に到着いたしました」

「よし、着水用意」

「着水用意!高度を下げろ!」

 

 

重巡空艦ボ・デーモンはそのまま垂直に高度を下げてゆく。その姿は、まるで翼を羽ばたかせて着陸するワイバーンの勇姿のようであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

──かつてここまで自分の常識が崩れていく事は、今まであっただろうか?

 

 

アルタラス王国の国王、ターラ14世は心の中でそう呟いた。文明圏外国、アルタラス王国。この国は第三文明圏の中心となる大陸フィルアデス大陸の南側に位置する、大陸と海を隔てた島国である。

 

文明圏外、といえばロウリア王国やクワ・トイネ公国のような文明が発達していない国々のことを指すが、アルタラス王国は一味違う。

 

この国は列強のパーパルディア皇国と距離が近い。アルタラス海峡を挟めば両国の首都が一直線に向かい合っているほど近いのだ。そのためパーパルディアを仮想敵国としており、この国の軍事力は文明圏のリームに匹敵する。

 

軍艦は魔導戦列艦を有し、歩兵にもフリントロック式の銃が配備されている。文明圏外でありながらそこまで対パーパルディア用に軍事力を鍛え上げられていたのは、一重にこの国が資源大国であるからだ。

 

この国は魔石と呼ばれる魔素を大量に含み、魔力として放出する性能を持った鉱物を大量に有している。その埋蔵量は指折りであり、その中でもシルウトラス鉱山は世界でも五本の指に入る。

 

どの世界でも、資源大国というのは豊かなものだ。そんな事情があるため、アルタラス王国は仮想敵国であるパーパルディア皇国から旧式の装備や戦列艦などを譲ってもらっていた。仮想敵国から援助を受けるとは、なんとも皮肉な話である。

 

そして、資源大国は豊かだ。この国の人口は1500万人を超え、文明圏外の国としては規格外の国力を有している。王都ル・ブリアスにある建物は、白色の円を基調としたデザインを積極的に採用しており、穏和な国民性を表しているかのようである。

 

しかし、その王都に住う民達ですら口を大きく開けてぽかんとしていた。その正体は、ル・ブリアスの海の上の空に漂っている。

 

灰色の鯨が、空を飛んでいた。

 

そう表現するのが一番正しいかも知れない。空を飛んでいたのはワイバーンではなく、巨大な飛行機械だ、鋼鉄でできた船がそのまま空を飛んでいる。

 

別段、この世界では空を飛ぶ船がないわけではない。飛空船と呼ばれるものがこの世界に存在するからだ。その名の通り、空を飛ぶ船であり外見は「空飛ぶ木造船」そのものである。その多くは基本的に木造で、大きなものでも全長150mほどの十二分な大きさを誇る。

 

しかし、やはり船は船。あくまで停泊するのは水の上。直接地上に降りたり、断崖絶壁に接岸したりというような芸当はできない。そして、着水には滑走が必要だ。そして、軍事兵器としても使えない。なぜなら砲を搭載するには一歩至らないからだ。そのため、飛空船はもっぱら輸送用、それがこの世界での飛空船の常識だった。

 

しかし、目の前のそれはどうだろうか?

 

重々しい見た目の鋼鉄は、船体全てを覆い尽くし、木造のかけらも存在しない。船体全てが鉄でできているようだ。それだけじゃない、船の航行する速さも誘導していたワイバーンに追従しているほどの速力を持っている。

 

さらに船体の上部には三連装の魔導砲らしき物体がそびえ立つ。数は戦列艦に比べて少ないが、これだけでも十分すぎるほどの戦力となる。空を飛ぶ船はそれだけで陸地を無視して内陸部まで侵攻してくる、そのまま海上戦略としても使える。そんなものに砲を積めば、海上戦力としても航空戦力としても陸上戦力としても使えるのだ。

 

そして、極め付けは着水時に現れた。その飛空船はアルタラス王国軍の誘導によって港に入ると、飛空船は何と垂直に高度を下げてそのまま着水していったのだ。まるで、湯船にそっと足をつけるかのようなゆったりとした着水であった。

 

飛空船は垂直に着水することはできない。しかし、彼らは平然とそれをやってのけた。「こんなこともできますよ」と知らしめられたかのように。

 

 

「お父様……」

 

 

隣で娘の王女ルミエスが不安げな眼差しでそれを見つめていた。

 

 

「……ルミエスよ、アルタラスは変わるかも知れんぞ」

 

 

ターラ14世はルミエスを不安にさせないよう、そう語った。王女ルミエス、彼女は若いながらも聡い人物だ。この年齢で外交官も務めており、列強や文明国の装備や技術などをよく知っている。しかし、そんな彼女でもあの存在は飛空船は見たことがなかった。

 

アルタラスの歴史が、変わるかも知れない。2人はそう感じて、不安と期待の眼差しをその鋼鉄の塊へと向けている。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

ターラ14世と王女ルミエスは部下と共にそのまま応接室にて待ち合いを続けていた。臨検に当たった海軍からの情報では、あの船には神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上の二つの国の使者が乗っており、アルタラスと国交を結びたいと語っていたらしい。

 

国交開設の使者は別段この世界では珍しくなく、アルタラスでは比較的丁寧な接触をしている。しかし、今回の国は格が違った。明らかな軍艦、それも空を飛ぶ鋼鉄の軍艦に乗っており、明らかな砲艦外交を仕掛けてきた。

 

懸念はそれだけではない、アルタラスにはあの飛空船に対抗する術がないのだ。海軍の戦列艦は上空に陣取る飛空船を仕留められないし、鋼鉄でできているならおそらくワイバーンでも沈められないだろう。

 

そんな戦力を提げてやってきたレヴァームと天ツ上、彼らが何を望むのかも懸念の一つだ。何もかもが未知数の国。しかし、アルタラスでは勝ち目がない。何を要求してくるのかわからない、もしかしたら服従か、植民地化か……

 

 

「失礼します」

 

 

そう悪い方向に考えていた時、会合の準備ができたのかアルタラスの文化圏に合わせた上質な扉がノックされる。

 

 

「お初にお目にかかります。神聖レヴァーム皇国外務局のアメルと申します」

「帝政天ツ上の柳田と申します。こちらは補佐の中井です」

「中井です。今回はアルタラス王国との会談を受け入れてくださり、ありがとうございます」

 

 

と、またもターラ14世達が面食らった。こう言った砲艦外交を仕掛けてくる相手はもっぱら列強、我々のような文明圏外国に対しては威圧的な態度をとることが多い。しかし、彼らはどうだろうか?威圧感など全くなく、きちんとした姿勢と誠意を持って接してくれている。こんな国は初めてだ。

 

 

「こちらこそ。私はアルタラス王国国王ターラ14世と申します。こちらは外交官を務めている娘のルミエスです」

「こんにちは、外交官を務めていただいておりますルミエスです」

 

 

おしとやかな黒髪の女性が挨拶をする。比較的若く、清楚な雰囲気を醸し出す。隣にいるルミエスの部下リルセイドの紹介をすると、一同は着席した。

 

 

「今回は遠いところからご足労いただき感謝いたします。貴国はどのようなご用件で我が国にいらしたのでしょうか?」

 

 

ターラ14世が進行を促しながら彼らとの話を進める。こう言った場でも、相手が相手でも、怖気付くこともそれを表に出すことのないターラ14世は外交慣れしている。普段からパーパルディア皇国のような傲慢な国家と対峙しているだけはある。

 

 

「第一に、我が国は貴国に対して野心的な野望は考えておりません。我々神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上は貴国と国交を締結したいと思っております」

「ほほう、国交をですか」

 

 

意外な要求に、彼らはひとまずほっと一息つく。だが、まだ油断はできない。口先だけで実は野心がありました、なんてことがないとは考え切れないからだ。

 

 

「はい、貴国とは貿易や交流も視野に入れております。条件については、こちらをご覧ください」

 

 

そう言って彼らは上質な紙質の資料を手渡してきた。ターラ14世達はそれを読みながら、相手国の要求を見据える、そして身構える。一体どんな要求が来るのかが、今回の協議の一番の懸念だからだ。

 

しかし、その心配は杞憂に終わる。その内容は至って普通の条件だったのだ。はたや「領地をくれ」や「奴隷を求める」などは一切書かれていない。ただ交易や貿易を求める通商条約だけであった。しかも、それらはアルタラスにとってかなり好条件で割譲されている。

 

 

「なるほど、しかしなぜ今まで我が国に接触してこなかったのでしょうか?」

「はい、それはレヴァームと天ツ上は中央暦の一月にこの世界に突然転移してきたからになります」

「て、転移……ですか?」

 

 

あまりに突拍子もない話に、思わずルミエスが質問する。国ごと転移してきたと彼らは言っているが、そんなこと信じられる話ではない。

 

 

「はい、我々レヴァームと天ツ上はこの世界に突然転移してきました。我々の情報は、資料をご用意しております。これを見ていただければ、信じていただけるかと」

 

 

そう言ってアメルは上質な紙質の新しい資料をアルタラス側に配った。今度は魔写付きのカラー資料で、アルタラスの言語でわかりやすく書かれている。

 

 

「こ……これは!?」

 

 

そこに映っていたものに、ターラ達は驚愕する。魔写で映されたそれは、自分たちが知る限りの国の中で最も発展していた。天を貫かんとする摩天楼、高速で地を走る列車、そして先ほどの飛空船と同規模の船が海を覆い尽くしている観艦式の写真だ。

 

これを見てターラ14世は確信した。この国はパーパルディア皇国を超える国力を持っている、と。

 

こんな国が今までアルタラスの近くにいた記録はない。いたらすぐさま列強入りだ。もしかしたら、彼らの言う『転移国家』というのはあながち間違いではないかもしれない。

 

 

「なるほど……どうやら転移国家というのは本当のようですな。しかし貴国はなぜ軍艦で我が国にやってきたのです?」

 

 

まだ警戒心を解かないターラ14世は、ついに一番疑問に思っていたことを質問した。相手の国に軍艦を連れてくるのはこの世界ではよくある。しかし、国交開設の場にあんな軍艦を持ってくるのは少し疑問が残る。

 

 

「はい、それは我が国の特殊な事情が絡んでおります。我が国はロデニウス大陸の近くに転移してきたのですが、ロデニウス大陸のロウリア王国と接触しようとしたときに門前払いを受けてしまいました」

「それはなんとも……」

「はい、ロウリア王国にロクな対応をしてもらえなかったのは、我が国のこと全く知らなかったことが原因と考えられています。そのため、『レヴァームと天ツ上は蛮族ではない』ということを知ってもらうため、軍艦を派遣しました。貴国に対して威圧を与える目的ではありませんのでご安心ください」

 

 

そこまで理由を言われたら、アルタラス側は反論する手立てを失った。どうやら転移国家であり、威圧が目的でやってきた訳ではないようだ。

 

 

「分かりました、ご丁寧にありがとうございます。我々アルタラス王国は貴国との国交解説の交渉を行うことにします。どうぞよろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

 

こうして、アルタラス王国とレヴァーム、天ツ上との国交開設に向けた協議が始まった。その中で一人、王女ルミエスは父の勇姿とレヴァームと天ツ上の使者の温和な態度に心惹かれていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「美しい国だ」

 

 

重巡空艦ボル・デーモンの艦内で、レオナルド艦長はそう呟いた。ボル・デーモンの艦橋は広い。この船は爆撃機隊との随伴行動も視野に入れて設計されているため、対空戦闘がしやすいように艦橋も視界が広く作られている。

 

夜空に染まるル・ブリアスの街は、白い壁に月明かりが照り付けて街の明かりとともに幻想的な雰囲気を醸し出している。西方大陸のどこにもなかった様式の建物は、レヴァーム人からしても新鮮だ。

 

 

「ええ、これほどまでに綺麗な都市は初めてです」

 

 

ボルト・デーモンの副艦長も、レオナルド艦長の言葉に共感する。

 

 

「……だがこの国は『列強』と呼ばれるパーパルディア皇国と目と鼻の先。いつも脅威に晒されているような国だ」

 

 

レオナルド艦長は艦橋から北の海を見据える。果てしなく続く地平線、月明かりに照らされてる月を照り返している。その先にはまだ見ぬ列強、パーパルディア皇国が存在する。

 

 

「レヴァームと天ツ上の接触で、運命が変わるといいが……」

 

 

レオナルド艦長はそう言って空を仰いだ。

 

その後、何日かの協議を経て神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上はアルタラス王国と国交を成立させた。さらに同時に接触をしていたシオス王国とも接触を果たし、使節団艦隊は一気に二つの国と国交を結ぶことに成功した。

 

幸先は順調だ。しかし、順風満帆の航海はまだ始まったばかりである。そして、使節団艦隊は外交官を乗せてアルタラス王国を離れるのであった。

 

 




『重巡空艦ボル・デーモン』
本作オリジナルの艦艇、今後も活躍してもらう予定。名前と性能はアメリカ海軍のボルチモア級とデモイン級を足して二で割りました。名前がデモインじゃなくてデーモンなのは気にしないでください。

とある飛空士シリーズの巡空艦って爆撃機と一緒に行動するくらいなので、相当な速度が出そうなんですよね。大体200ノットは出せそう。本作では細かな設定が分からないので保留にしておきます。


レオナルド艦長「お前も勇しさでは負けてないぞ」
???「ありがとう艦長、私もドラゴンは好きよ」


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