とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

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第29話〜ムーその2〜

次の日。アメル、御園、佐伯の3人はホテルから車で1時間ほど揺られて次の目的にへと向かう。目的地はムーの歴史資料館だ。豪勢な煉瓦造りの建物のロビーに入り、マイラスは館内を一通り案内しながら説明を始めた。

 

 

「まず、我が国の歴史を語るにはとある前提を話さなければいけません。各国にはホラ話と言われてなかなか信じてもらえていませんが、我々の祖先はこの星の住民ではありません」

「「「え??」」」

 

 

突然のカミングアウトに、開いた口が塞がらない3人。この反応は他の国でもよくある事だ、いきなり「自分たちは転移国家です」と言われても何を言っているのか想像できない。

 

 

「時は1万2000年前、大陸大転移と呼ばれる現象が起きました。これにより、ムー大陸のほとんどはこの世界へ転移してきたのです。これは、当時王政だったムーの正式な記録によって残されています」

 

 

マイラスは歴史資料館職員が用意した旧世界の世界地図と一つの丸い物体を取り出した。丸い物体には地図のようなものが張り巡らされており、周りは海で囲まれ、いくつかの大陸が存在している。

 

 

「それは……何でしょうか?」

「こちらは地球儀と呼ばれる天体図です。これに描かれている惑星こそが、我が国の祖先が暮らしていた前世界、『地球』になります」

 

 

意外にも、彼らはムーの歴史に食らいついてくれた。しかも地球儀に驚いている、これは出し抜けたとマイラスは少し自身にあふれる。

 

 

「御園さん……あれは……」

「ああ、間違いない……球面惑星だ」

(?、惑星が球面であることを知らないのか?)

 

 

微かな疑問が生じたが、マイラスは構わず説明を始めた。転移時期の古代史から近代、そして現代に至るまでの歴史を事細かに語っていく。

 

1万年以上前に転移してきたムー。

 

かつては優れた文明を持ち、鋼鉄の機械で空を飛び、車を走らせ、海を渡り、果てには宇宙にまで到達していたという。おそらくだが、かつてはレヴァームと同等かそれ以上に発達した文明を持っていたのだろう。

 

隣国の『アトランティス』という国と星を二分し、睨み合いを続けていたらしい。しかし、ムーはその平和主義に則り、自ら戦争を仕掛けることはなかった。そして、数多ある国の中に『ヤムート』と呼ばれる友好国もある事を説明された。ヤムートの文化や様式から想像するに、天ツ上とよく似ている国であったのかもしれない。

 

だが、彼らの栄華も転移現象によって潰えた。

 

転移したことによって大陸各地の発電施設が故障し、深刻なエネルギー不足へと陥った。それにより政府は機能しなくなり、食料は生産できなくなってしまい、多くの餓死者や犠牲者が出てムー国民が犠牲になった。

 

さらにはその混乱に乗じてムー大陸に魔法文明の国家が攻め込んできた。技術体系の違う魔法文明の電撃的侵攻に敗れ、ムーは大陸の半分を失う結果となったのだ。

 

それでもムーは滅びずにこの世界に適応していった。異世界の人種を受け入れ、多民族国家として歩み始めたムー。かつての技術は混乱によって失われているが、それを取り戻そうとする研究も行われている。

 

そして、彼らはいつしかこの世界唯一の機械文明国家として名を轟かせ、世界第2位の国家へと成長していった。ここに至るまでは、苦難の歴史だったようだ。

 

 

「なんと……」

「……失礼、カルチャーショックが強すぎて言葉が詰まりました」

 

 

御園とアメルは大きなカルチャーショックにより、衝撃を受けていた。突然の転移現象、そして国家の混乱と侵略。これは狩猟民族国家であるレヴァームでも類を見ない波乱万丈の歴史であった。

 

 

「いかがでしたでしょうか?今話したことは全て事実です。我が国が転移国家である事は信じていただけるでしょうか?」

「ええ、もちろんです。まさか、我々とあなた方に共通点があるとは思っていませんでした」

「え?」

 

 

アメルは丁寧な口調でそうはっきりと言った。アメルはそのまま鞄に手を伸ばしてその中から一枚の丸められた紙を取り出した。テーブルの四隅に重石を乗せてそれを広げると、何やら地図のようなものが広がった。

 

 

「これは……」

「我々の旧世界の()()()()()()()()()()()()()()()()()

「きゅ、旧世界!?」

「はい、そうです。我が国も転移国家なので、この世界は我々の住んでいた世界になります」

 

 

アメルはそう言って地図を指さした。まず大きい方の大陸がレヴァーム皇国のある西方大陸。そしてその東側にある大陸が天ツ上のある東方大陸だと。しかし、マイラスは大きな違和感を覚えた。レヴァームと天ツ上以外の国が見当たらないのだ。それ以外は全て海で覆われ、レヴァームと天ツ上の間に何やら線のようなものが広がっているだけである。

 

 

「あの……この地図、レヴァームと天ツ上以外の国や大陸はないのですか?」

「いえ、ありません。我々のいた世界は西方大陸と東方大陸のみで、後は果てしない海だけで出来ていました」

「え!?」

 

 

マイラスはその発言に心底驚いた。たしかに、この地図には大陸が二つしかなく、その他はまっさらで何もない海ばかりでできている。

 

 

「それから、このレヴァームと天ツ上の間を隔てるこの線は、大瀑布の地形です。大瀑布とは高低差1300メートル以上の巨大な滝で、両国を隔てるように布陣しておりました。それを飛び越えるために生まれた飛空艦が登場するまで、レヴァームと天ツ上はお互いの存在を知らなかったほどです」

「な…………」

 

 

アメルの口から次々と飛び出してくる、レヴァームと天ツ上のいた世界の衝撃的な全容。それは、至って普通の球面惑星に住んでいたムーの人間であるマイラスにとっては信じられない世界図である。

 

 

「それから、球面惑星に住むあなた方からすれば信じられないでしょうが、我々の世界は地平線ですら観測されていませんでした。学者たちの予想では平面惑星だったと推測されています。が、真相は分かりません。なぜなら世界の真相を解き明かす前に、そのままこの世界に転移して来てしまったのです」

「…………」

 

 

もはや頭の思考回路が追いつかない。大瀑布?世界が海と滝だけ?レヴァームと天ツ上しかいない?平面惑星?マイラスはパンクしそうな頭を抱えて言葉を絞り出した。

 

 

「し、信じられません……我が国でも天文学は進んでいますが、平面惑星が存在するだなんて……どうやら、あなた方の世界は想像を絶する姿をしているのでしょうね…………」

 

 

そう言って、マイラスは疲れたかのようにその場にへたり込んだ。なんとか立ち上がり、近くのテーブルに頭を抱えて押さえ込む。頭痛が痛い、想像を絶する情報量に耐えきれず、脳がキャパシティオーバーを起こすことは生まれて初めてだ。

 

 

「マイラスさん、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫ですアメル殿……それよりも我が国はもっと頑張らなければ……」

「いいえ、あなた方は十分頑張っていますよ」

 

 

マイラスにはアメルの言っていることが分からなかった。国力、技術力、世界の衝撃ですら上回っていたレヴァームと天ツ上。しかし、彼らは勝者としておごることなくむしろ敗者をねぎらっているように見えた。

 

 

「あなた方には、昔の我々にはなかった価値観や倫理があります。あなた方はそれを誇るべきです」

 

 

アメルはマイラスの肩に手を置くと、そのまま語り始めた。

 

 

「すこし、我々の世界の歴史を話しましょう。飛空艦を発明したレヴァームは大瀑布を超えて天ツ上と出会いました。しかし、あろうことかレヴァーム人は大瀑布の下にいた天ツ上人を見下し、理不尽な要求を飲み込ませてしまったのです。世界でたった一人の友人を、我々は猿とみなして見下したのです」

 

 

アメルの口から、また新たな歴史が語られる。またペラペラと自慢されるのではと思ったが、彼の口調はとても物悲しく、悲壮感に溢れていた。

 

 

「要求を飲み込まされた天ツ上は『臥薪嘗胆』を合言葉にレヴァームと事を構えるにまで成長し、ついには全面戦争にまで発展してしまいました」

「そうだったのですか……」

「はい、愚かなことです。世界にはレヴァーム人と天ツ上人しかいないのに、共に分かち合うことが出来なかったのです……」

 

 

アメルの口から溢れでたのは、祖国に対する失念と、レヴァーム人と天ツ上人に対する哀れみであった。どうやら、彼らの世界の歴史も一筋縄ではいかなかったらしい。

 

 

「我々がこのように共に歩めるようになったのは、つい最近のことです。ですが貴方々は違います。敵対する国がいながらも睨み合うだけで戦争を起こさず、それどころか友好国まで存在していた」

 

 

アメルの口から、今度はムー国に対する敬意と畏敬が迸った。旧世界で戦争を起こさず、比較的平和に暮らして、あまつさえ友好国まで築いていた。レヴァームと天ツ上の血に濡れた歴史とは大違いだった。

 

 

「それに、この国はこの世界でも車や飛空機械などをたった一国で発明しています。その努力と人情を、我々は羨ましく思います」

「アメル殿……」

 

 

そう言って彼は言葉を締めくくった。そう、国家として誇れるのは力や歴史、技術力だけではない。もっと国家として大切な、アイデンティティ。そして、国民の人としての人情など。

 

国力だけが全てではない、レヴァームと天ツ上はムーより優れてても、人としては失墜していた時期があった。しかし、ムーの努力や情は中央海戦争時のレヴァームと天ツ上を遥かに超えている。そう言葉を締め括られて、マイラスは救われたかのような晴れやかな気分になり、表情を戻せた。

 

 

「ありがとうございます……アメル殿。私には誇らしいものが一つできました」

「ええ、こちらこそ。お互いに歩んでいきましょう」

 

 

二人はそう言って、熱い握手を交わしていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

海猫が空を飛びながら、その特徴的な鳴き声を響かせる。海原は青く光り輝き、秋風の涼しい風景と相まって港町らしい雰囲気を醸し出している。

 

その港に、大きな威厳を放つ鋼鉄の塊がいた。巨大な戦艦だ。30センチにもなる二連装の主砲を前後に2基搭載し、副砲も多数配置させている。

 

 

「こちらが、我が国の最新鋭戦艦『ラ・カサミ』です。どうでしょうか?」

 

 

どうせこれよりも凄いものがあるのは知っている。と、マイラスは若干やけくそ気味であった。マイラスは諜報部の人間、レヴァームと天ツ上の情報は事前にある程度入手している。その中であの飛空船戦艦『エル・バステル』の威容が脳裏に浮かぶ。あの戦艦は目測40センチ以上の砲を主砲とする大戦艦だ。

 

おそらく、ラ・カサミでは勝てない。正直あのグレート・アトラスターよりも強いかもしれないエル・バステルの偉容の前では、彼らの反応などたかがしれているのだ。

 

 

「おお!戦艦じゃないですか!やっぱり戦艦は男のロマンだなぁ」

「前弩級戦艦ですね、なかなか立派なものです」

 

 

と、興奮する佐伯と感心したような感情を漏らすアメル。これはマイラスの予想とは少し違った反応だった。てっきり、ラ・カサミ級の偉容を見て「この程度か」と馬鹿にされると思っていたのだが、帰ってきたのは褒め言葉だった。

 

 

「レヴァームと天ツ上にも、戦艦は存在するのですか?」

「あ、はい。まだ中央海戦争が終結したばかりなので、レヴァームと天ツ上は戦艦を多数保有しています」

 

 

その質問には、佐伯が遅れて対応してくれた。

 

 

「ですが……今現在は新しい戦艦の建造はあまりありませんね。もっぱら空母優先です」

「え?そうなのですか?」

 

 

少し意外だった。ムーからしたら艦隊決戦の主力は戦艦であり、空母は艦隊の防空を担うだけの補助艦艇に等しい。これは、飛行機械の装備までは戦艦などの軍艦を撃沈できないからに起因する。爆弾を積もうにも軽いものしかマリンには積めず、そんなちゃちな爆弾ではラ・カサミなどは撃沈できない。そのため、ムーでは空母には戦闘機しか積んでいないし、保有数も少ない。

 

しかし、レヴァームと天ツ上ではその補助艦艇である空母を何よりも優先して建造しているらしい。艦隊の防空程度にしか役に立たない空母を最優先するとは、いったいどういう意図があるのだろうか?

 

 

「この世界は弱肉強食です、なぜ戦艦を作らないのですか?」

「作れるには作れるのですが……やはり中央海戦争で両国が保有していた全ての空母が撃沈されてしまっているのが大きいですね」

 

 

佐伯はそう言って答えてくれた。これは探りを入れた甲斐があった。どうやら彼らの世界で起きた全面戦争にて、レヴァームと天ツ上は保有していた空母全てを失ってしまっているらしい。

 

 

(なるほど、戦艦よりも空母の方が損失が大きいなら補充しなければならないのも頷けるな。考えてみれば空母は戦艦に勝てない、おそらく海戦での遭遇戦でやられてしまったのだろうな……)

 

 

マイラスはそう思って一人でに納得していた。空母は戦艦に勝てない、それがムーでの考えだった。が、後に彼はそのドクトリンが大間違いであることを思い知らされる。

 

マイラスは一通り案内を済ませてら翌日にはムー首脳陣に報告書を書き上げた。同じ転移国家であることや、水素電池の存在など信じてもらえるかどうか分からなかったが、先進的な技術を持っていることは重く見てもらえた。

 

グラ・バルカス帝国の脅威がすぐ近くに存在する状況下にて、ムー首脳陣は無能な決断はしなかった。無事、彼らとの国交締結を済ませて二ヶ月後には通商条約の調印を終えた。

 

そして、彼らは他の第二文明圏の国々とも国交を開いた。

 

 


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