とある飛空士への召喚録   作:篠乃丸@綾香

37 / 106
だいぶ悩みましたが、こうなりました。


第31話〜中央世界〜

艦隊司令官マルコス中将の航海日誌

 

我々は艦隊を二分し、一路第一文明圏、中央世界へと向かった。そして9月7日、ついにこの世界でもっとも国力があると言われている神聖ミリシアル帝国との接触に成功した。

 

しかし、我が艦隊は帝都ルーンポリスの魔導港にてしばらく足止めを被ることになった。今頃帝都では大騒ぎとなっている事だろう。穏便に交渉のテーブルが開かれることを願うのみだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

中央暦1639年9月7日

 

魔法文明の頂点に立つ神聖ミリシアル帝国。その中で最も栄える帝都ルーンポリスは世界の富が集まる世界で最も発展した魔導都市である。数十メートルにもなる巨大な、白く滑らかな壁面の高層建造物がそこかしこに立ち並び、摩天楼を作り出している。道路は煉瓦による舗装で均一に慣らされ、魔導車両が行き来している。

 

魔導機関車や鉄道車両なども都市のあちこちに張り巡らされ、街灯には熱を持たない魔法式の装置が夜を照らす。あまりに明るいその模様から、『眠らない魔法都市』の異名がついている。

 

 

「これより、緊急御前会議を開始します」

 

 

そんな栄華を極めた都市の中心。神聖ミリシアル帝国皇帝ミリシアル 8世の居城アルビオン城にて、国の行末を決める会議が始まった。豪勢な作りの一室に、煌びやかな装飾をつけられた大議事堂はこの国の行く末を決めるにふさわしい。

 

その中に、ここに呼ばれたことを理解できないでいた人物が一人いた。対魔帝対策省、古代兵器分析戦術運用部部長のヒルカネである。彼にとって、国防の緊急案件である今回の会議に呼び出されるのは不思議なことであった。本来ならば管轄外である。

 

対魔帝対策省。

 

『省』の名前がつくように、それなりの地位を有しているこの部署は、古の魔法帝国に対する対策のために設立された省である。神聖ミリシアル帝国は古の魔法帝国の転移後、その技術を糧に発展していった国だ。来るべき魔帝復活の時に備え、何百年も前から存在している対策本部だ。

 

その中でもヒルカネのいる部署はその古代兵器の分析と運用を専門とする部署で、重要度が高い。しかし、自分は部長という立場であり、重ね重ね言うが本来ならば大臣や長官クラスが一堂に会するこの場にいる事自体がおかしいのだ。

 

やけに緊張する。ヒルカネは一部長の立場の割に重要な部署にいるためか、身分がずっと上の人物との会話が多い。そのたびに緊張をしてしまうのだ。

 

 

「概要を説明します。本日午後未明、帝都ルーンポリス東側約1500キロの地点にて、第七魔導艦隊のエルペシオⅢが所属不明の飛行機械を発見。領空侵犯のため、臨検したところ当機は『神聖レヴァーム皇国』『帝政天ツ上』を名乗り、我が国との国交開設を飛行目的としているとの回答をいただきました」

「レヴァーム?天ツ上?なんだそれは、聞いたことないぞ」

「一体どこから飛んできたんだ……?」

 

 

総裁や各大臣たちから疑問の声が出てくる。その疑問はごもっともだろう、今までそのような名前の国は見たことも聞いたこともない。

 

しかも、飛行機械という一文に疑問が生じる。この世界で飛行機械を開発して運用できるのは列強のムーだけであり、それ以外では飛行機械を運用どころか発明することはできていない。そんな飛行機械が飛んできただけでも驚きなのだ。

 

 

「彼らの説明によると航空母艦から飛んできたようで、哨戒飛行をしていたとの事です。そして、海軍が所属不明機の誘導で西側に向かったところ、鋼鉄製の飛空船艦隊と接触いたしました」

「今度は飛空船!?しかも鋼鉄製だと!?そんなバカな!!」

 

 

今度は外務大臣のペラクスが怒鳴り声を上げた。彼がそういうのも無理はない、飛空船は魔法で空を飛ぶ船で構造はもっぱら木造。鋼鉄でできた飛空船は空を飛ぶことはできないのだ。

 

 

「いえ、事実です。こちらが第七魔導艦隊が撮影した魔写になります」

 

 

説明を行なっていた国防長官のアグラが、手元のスイッチを押すと議事堂のスクリーンに灯が灯る。これは魔法文明特有の水晶を用いた液晶テレビのようなものだ。これによりカラーで鮮明な画像を提示しながら説明を行うことができる。

 

画像が提示されると、会議室から驚きの声が上がる。ヒルカネも思わず目を見開いた。鮮明な画像に映し出される高空の空、それらを覆い尽くすかのようにそれは布陣していた。空を覆い尽くしていたのは鋼鉄の飛空船だ。

 

船体は鋼鉄で出来ており、巨大な主砲を携えている。かろうじて船の原型を保っているそれは、空を飛ぶ鯨のような偉容を醸し出す。その偉容は、栄えある神聖ミリシアル帝国海軍の魔導戦艦『ミスリル級』をそのまま空に浮かべたかのようだった。

 

 

「臨検をしていた海軍の証言によると、飛空船は四種類いたそうです。まず100メートルクラスの小型艦クラス、200メートルクラスの巡洋艦クラス、そして……」

 

 

アグラが画面を操作する。画像が次々と移り変わり、それぞれの写真をじっくりと見せつける。

 

 

「260メートルクラスの戦艦クラス、そして同じ大きさの空母クラスが艦隊の中に組み込まれていました」

「に、260メートル!?」

 

 

緊張から今までなるべく静かにして黙っていたヒルカネは、思わず声を荒げる。ヒルカネだけではない、会議室にいた誰もがその巨大さに驚いて狼狽していた。

 

 

「ア、アグラ様……その大きさはかの古の魔法帝国の古代兵器、パル・キマイラに匹敵します。そんな物を持った国は今までありましたでしょうか?」

 

 

ヒルカネはたじろいだ敬語でアグラに問いかける。一応、アグラの方が同じ部署の場合上司にあたるので、敬語は必須である。

 

 

「彼らの説明によると、転移国家であるとの説明を受けています。真相はどうかはわかりませんが……」

「そんな戯言を信じろと言うのか……」

 

 

思わず軍務大臣のシュミールパオそう嘆いた。転移国家、その言葉を聞くのはムーの神話以来だ。この世界には魔法という便利なものがあるが、それでも国家と国土をそのまま転移させるなど、古の魔法帝国以外に例はない。そんな戯言を信じろというのは無理な話だ。

 

ちなみに呼び名が『長官』と『大臣』と分かれているのはミリシアルの政治体制に起因する。神聖ミリシアル帝国では貴族・文官出身が『大臣』、平民・軍人出身が『長官』と呼ばれている。あくまで形式上の呼び名の違いであり、表面上の違いや扱い、地位の格差はない。

 

 

「ですが、彼らは我々ですら所持していなかった鋼鉄製の飛空船を所持しています。このような戦力を持った国が今までありましたでしょうか?」

「うーむ、確かにそうだが……」

 

 

そう言って、シュミールパオは歯切れが悪そうに言葉を閉じた。

 

 

「問題は、二つあります。まず、戦艦と空母を艦隊に組み込んでいることから彼らは我が国に対して砲艦外交を仕掛けてきています。これは、我が国の安全保障上の問題であります」

 

 

彼のいうことはもっともだ。レヴァームと天ツ上を名乗る二つの国家は、使節団の艦隊に空母と戦艦を組み込んでいる。これは明らかな威圧行為であり、神聖ミリシアル帝国の安全保障上の大問題だ。

 

 

「そしてもう一つ。先ほどヒルカネ君が言った通り、この戦艦は我が国の秘密兵器である『空中戦艦パル・キマイラ』と同等の大きさを持っています。このような物を運用するレヴァームと天ツ上は、古の魔法帝国である可能性も否定できません。そこでヒルカネ君、この飛空船に関してどう思う?」

 

 

ここでようやくヒルカネは自分が呼ばれたことの意味を知った。彼らはレヴァームと天ツ上が古の魔法帝国の生まれ変わりではないかと懸念を示している。そこで、対魔帝対策省の自分が召喚されたのだ。

 

対魔帝対策省となのある通り、自分たちの職業は来るべき時に復活するであろう魔帝に対する情報や対策を集める、専門家の集まりである。そして、今まで魔法帝国の兵器を研究してきたヒルカネがこの件について一番詳しい。

 

 

「……大いに可能性はあります。古の魔法帝国には『()()()()』と呼ばれる空を飛ぶ船が存在していることは発覚しています。飛空船を発達させた文字通りの空を飛ぶ魔導軍艦で、パル・キマイラもその一つになります」

 

 

昨今の研究によると、古の魔法帝国は空を飛ぶ船まで運用していたことが発覚している。

 

その名も天の箱舟。

 

天の箱舟はミリシアルが運用している制空機エルペシオⅢのような『天の浮船』とは違う。どちらかというとミスリル級のような魔導戦艦を空に浮かべた軍艦に近い兵器だ。

 

今回、接触してきたレヴァームと天ツ上の船はそっくりそのまま天の箱舟その物である。ミリシアルにも古の魔法帝国の遺跡から発掘した天の箱舟『空中戦艦パル・キマイラ』があるが、レヴァームと天ツ上の戦艦クラスはそれとほぼ一緒の大きさだ。ますます怪しい。

 

 

「260メートルを超える飛空戦艦と空母。私共も古の魔法帝国の天の箱舟に関しての研究を進めていますが、動力として『反重力エンジン』を持ってして浮いていることしか分からず、構造の解析には至っておりません。それと同じような物で浮いているとしたら、あまつさえそれを量産しているとしたら、古の魔法帝国抜きにしてもレヴァームと天ツ上はかなりの脅威です。もし、本当に古の魔法帝国だとしたら……」

「ちょっと待って下さい」

 

 

ここで、情報局長のアルネウスが手を挙げて発言権を得た。自分の発言が遮られたことにヒルカネは少し眉を潜めるが、仮にも上の立場の人間のため、静かに息を潜める。

 

 

「もしレヴァームと天ツ上が古の魔法帝国なら、我が国と国交開設の交渉を求めたりはしないでしょう。彼の国はそういう国です、温和な態度を接している限りは古の魔法帝国の可能性は低いのではないでしょうか?」

 

 

ヒルカネはそっとアルネウスを睨んだ。「それを言われたら私が呼ばれた意義はなんなんだ」と思ったが、ヒルカネはその言葉を思いっきり飲み込んだ。

 

 

「確かに、彼の国が脅威であること事実です。我が国でも実用化していない鋼鉄製の飛空船を所持しており、国力は我が国と同レベルの可能性すらあります。ですが、彼らが交渉を求めている以上は、まずそれに応じるべきではないでしょうか?」

 

 

しんと静まり返る会議室、誰もが頭を抱えて悩み節である。と、そのタイミングで外務省総括官のリアージュが手を挙げて質問権を得た。

 

 

「ちなみに、彼らの本国の位置は何処だと言っていましたか?」

「はい、ロデニウス大陸の東方約1000キロの地点に二国は存在するようです」

「でしたら文明圏外ですね。文明圏外如きの国に、わざわざ我が国が下手に出る必要はないかと思います」

 

 

そう言ってリアージュは熱が冷めたかのようにそっと言った。

 

 

「情報局局長のアルネウス君はレヴァームと天ツ上の情報が欲しいのかもしれないですが、我が国は世界最強の国家です。このような砲艦外交を仕掛けてくる文明圏外の相手には、我が国の威厳を示すためにも交渉には応じるべきではないでしょう」

 

 

彼のいうことは、もっぱらミリシアルのプライドに起因する理由であった。ミリシアルは自他に認める「世界最強の国家」だ。わざわざ相手が文明圏外からやってきたとは言え、砲艦外交を仕掛けてきている。そんな相手に屈して交渉に応じてしまえば、ミリシアルは「文明圏外国に威圧されて折れた」というレッテルがついてしまうかもしれない。

 

それは、ミリシアルの国益だけの問題だけではなく、世界のパワーバランスにも影響を与えることになる。「世界一の国家」という敬称は、世界に影響を与えているのだ。

 

 

「皆の者、説明ご苦労であった」

「は、はっ!皇帝陛下!」

 

 

今まで黙っていた議事堂の中心に居座る人物が声を上げた。彼はミリシアル8世、この世界一の国力と技術を持つミリシアル帝国の皇帝にふさわしい、威厳にあふれる人物だ。長く蓄えた髭と、厳しくシワのよった顔はむしろ厳格があらわになっている。

 

彼は先見性にあふれた人物だ。エルフ族の長寿の恩恵もあり、年齢相応の知識と政治的考えを持っている。世界一の国だろうと決して奢らない、そんな皇帝だ。

 

 

「……つまりはだ。話をまとめると彼の国は古の魔法帝国である可能性は低く、そして我が国に対して交渉を求めていると。それで良いな?」

「はい、皇帝陛下。しかしながら、相手が砲艦外交を仕掛けていることは我が国の安全保障上の脅威と言えます。ここは、ミリシアルの品格を落とさない為にも、諸外国の砲艦外交に屈するべきではありません。交渉については応じるべきではないかと」

 

 

そう言ってリアージュは自分の主張をまとめあげた。簡潔でわかりやすい主張の仕方だ。内容はともかくとして彼、リアージュがそれなりに言葉上手なことが窺える。しかし、その主張はプライドに満ちている。

 

 

「そうか……だが、仮にも世界最強の国家が諸外国を無礼に扱うのはどうなのだ?」

「え?そ、それは……」

 

 

と、そこまで言われてリアージュは固まった。ミリシアル8世に不意を突かれたかのようにリアージュは呆け顔をさらけ出している。元々リアージュは文明圏外の国に対して何かしら見下すかのような偏見がある節がある。ミリシアル8世はそれを見抜いており、このような質問を投げかけたのだ。

 

ミリシアル8世は完全に固まってしまったリアージュに小さくため息をつくと、そのまま言葉を進める。

 

 

「良いか?我が国は世界最強の国家、それは重要だ。だが、そうであると同時に威厳を示さなければならないのだ。ここでレヴァームと天ツ上の外交官を無礼に扱えば、後で諸外国からなんと言われる?」

 

 

世界一の国家であるということは、弱々しい態度を示すべきではないことも確かだが、それでいて寛大である必要がある。世界一だからこその威厳という物を、相手に示す必要もあるのだ。そもそもこの世界では砲艦外交など日常茶飯事で、先進国11カ国会議なんてその最たる例だ。なんら気にする必要もない。

 

 

「プライドは持ちすぎないのが重要だ。相手が文明圏外だろうと、砲艦外交を仕掛けていようと、無礼に扱ってはならぬ」

 

 

そう、ここでレヴァームと天ツ上の外交官をぞんざいに扱って無礼を働けば、神聖ミリシアル帝国の威厳は丸潰れだ。これではあのパーパルディア皇国と変わらない。ミリシアル8世はその矛盾を見抜いていた。

 

 

「そこで余は、レヴァームと天ツ上との国交開設に向けて交渉をするべきだと考えている……もしやすると、彼の国は来る古の魔法帝国との戦において役に立つかも知れぬ。彼らを試そうではないか」

「な、なるほど……分かりました、申し訳ありません」

 

 

ミリシアル8世は今度は外務省の面々に向き直る。

 

 

「外務省、かの国との交渉を許可する。彼の国に対して徹底的に探りを入れ、少しでも情報を集めるのだ」

「はっ!陛下!!」

 

 

ミリシアル8世は立ち上がり、杖をついて声を上げた。こうして、栄えある神聖ミリシアル帝国の帝前会議は幕を閉じた。眠らない魔法都市は、今夜も深夜まで眠らなかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

中央世界の列強国、エモール王国。神聖ミリシアル帝国の北側、第一文明圏の大陸の中央部に位置するこの国は小さいながらも列強国に名を連ねている。

 

その最たる理由は彼の国が竜人族で構成されている単一種国家であることに起因する。亜人(差別的な意味ではなく、分類としての亜人)の中でも希少種に入る竜人族は魔力適性がハイエルフ並みに高く、強力な魔法を使える種族だ。

 

さらにはこの国が私役している竜種たちとの意思疎通もでき、相性がいい。特にこの国が私役している『風竜』は竜種の中で強力な部類に入り、一心同体の機動は空中で他者を寄せ付けない。

 

それらの理由が他国が不可侵を決め込み、本来の国土より大きい地域を支配するエモール王国が列強国たる所以だろう。

 

北壁であるアクセン山脈から湧き出て湧き出て、神聖ミリシアル帝国のルーンポリスにまで流れ着く大河の水源近く。国土のほとんどが森林と渓谷で構成されているこの国の竜都、ドラグスマキラはそこにあった。人口のほとんどが、この竜都ドラグスマキラとその周辺に集まっている。

 

ドラグスマキラ北部に位置するウィルマンズ城最北の別棟において、薄暗いドーム状の屋根を持つ部屋に、国民の中から集められた、竜人の中でも特に魔力の質が高い30人の魔導士が揃っている。さらには竜王ワグドラーンと国家の重役、空間の占い師アレースルがいた。

 

『空間の占い』

 

今から執り行われる空間の占いとは、国に影響があると思われる重要事項の有無を調べ上げ、早期に障害を排除することを目的としている儀式だ。たが儀式と侮るなかれ、この占いの的中率はなんと98%を超えるのだ。

 

しかし、本来ならばこの儀式は中央暦1640年3月1日に行われるはずであった。今回、その儀式が前倒しで執り行われることになっている。その理由は単純──

 

 

「嫌な予感がする」

 

 

それが、空間の占い師であるアレースルの言った言葉であった。空間の占いをせずとも、彼の予感はよく当たる物だ。それに、国から認められたほどの実力を備えたアルースルの言葉は重く感じるべきである。竜王ワグドラーンはその言葉を受け、空間の占いの時期の前倒しを決定して今に至る。

 

 

「──空間の神々に許しを請い、これより未来を視る」

 

 

ドームに集められた魔導士たちから魔力が宿り、それがアレースルの両手に集まってゆく。やがてそれは淡い光を灯し出し、ドーム状の天井に星のようなものが映し出される。

 

一同に緊張が走る。万が一、国に不幸がもたらされるなどと結果が出れば、死力を尽くして全力で阻止しなければならない。アレースルもそうだが、重役たちの緊張度も高い。

 

 

「──なっ!そんな!!……そんなバカな!!」

「どうした!?何が見えた!?」

 

 

アレースルの狼狽に、ワグドラーンたちも焦りを見せる。

 

 

「……魔帝なり」

「なっ!!」

「なんだって!?」

「魔帝だと!そんな!それが本当なら、我々に対抗手段はないぞ!」

 

 

占い師たちも、魔導士たちも、国の重役たちも元から青い肌をさらに青白くさせる。

 

 

「そう遠くない未来……古の魔法帝国が……神話に刻まれし、ラティストア大陸が──復活する!!」

「な……なんということだ!!」

「時期は!?時期はいつになる!?」

「……読めぬ」

「では、場所はどこだ!?」

「それも読めぬ。空間の位相に歪みが生じている……場所も時期も読めぬ。見えたのは『魔法帝国が復活する』という未来のみ」

 

 

王を含めた国の重役たちが全員で戦慄した。エモール王国にとって、魔法帝国は因縁の相手である。

 

『古の魔法帝国』

 

かつての神話の時代、他種とは隔絶した圧倒的な魔力と技術力を持って全世界を支配した史上最強の帝国。()()()()()()、ラティストア大陸にまたがり、幾つもの()()()()()を私役して空を支配していたという帝国だ。

 

その力は強大で、かつ横暴である。エモール王国の前身である『インフィニティドラグーン』という国があった。ある時、魔法帝国は竜の神々に対して配下の竜人族を毎年一定数差し出すように要求した。

 

その理由は「竜人族の皮は丈夫で美しく、なめして装飾雑貨や軍用品に利用したい」という、とんでもない理由であった。つまりは「竜人族の皮でバッグを作りたい」ということである。しかも、既に試したという暴挙だった。

 

神々は烈火の如く怒り狂い、我が子同然の竜人族を守るため断固として拒否。その結果、のちに『竜魔大戦』と呼ばれる大戦争に発展した。戦いは熾烈を極め、魔法帝国はついには『コア魔法』と呼ばれる究極兵器を使用するまでに至った。

 

栄華を極め、魔法帝国に並ぶほどの国力を持ったインフィニティドラグーンの都市は灰塵と化し、竜人族は世界中に散り散りになっていった。

 

そして、魔法帝国が大陸ごと転移したのちに竜人族が再び集まってできたのが現在のエモール王国となっている。そんな歴史があるため、エモール王国にとって魔法帝国とはトラウマのような物である。そんな国が帰ってくる。お呼びでない国の再来に、重役たちは恐怖する。

 

 

「して……我が国を含め、すべての種が再び膝を折るのか?」

「否、読めぬ……未来は不確定なり」

「不確定だと!?一体どういうことだ!?」

 

 

過去に一度も、未来が見えないということは全くない。皆は恐怖を煽られて困惑を強める。

 

 

「言葉の通り、未来は強い光に包まれて視えぬ」

「では、滅びや従属から逃れる手段はあるのか?」

「──ある!!!」

 

 

アルースルは目を閉じてそう言い切った。

 

 

「それはなんだ!?」

「新たな……国……の出現。この強き光……これは……?」

「新たな国?新興国か?」

「否……別世界からの転移……転移国家……」

「転移国家だと?」

「ムーの神話の再来だというのか?」

 

 

国の重役たちが困惑する。転移国家というのはムーの神話の中だけの話だと思われていた。そんな国が、現れると。

 

 

「『占い』で出た以上、もはや荒唐無稽なお釈迦話と侮るなかれ。これは国儀ぞ。で、何処だ?なんという国の名前だ?」

 

 

ワグドラーンは一縷の望みを逃すまいと、真剣な表情で尋ねる。額から汗を流しているが、それでも希望の光が見えるのなら安い物だ。

 

 

「ム……ウウ……ゥゥ……!」

 

 

両手の赤い光がますます強くなり、周囲の魔導師たちも辛そうな表情をする。相当な負荷がかかっているのか、アルースルは顔から汗を流している。

 

 

「東……第三文明圏の……フィルアデス大陸より、さらに東にある二つの大陸……人間族の治めし国……」

「人間族だと!?相手は古の魔法帝国だぞ!」

「わからぬ、何ができるかはわからぬが……これは………そう、この強い光は──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖アルディスタの子供達なり!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せ、聖アルディスタだと!?」

「そんなバカな!?」

 

 

国の重役たちがその名前に戦慄した。

 

 

「ムウウ!……聖アルディスタの子供達の治めし国、その名は『レヴァーム』『天ツ上』なり!!」

 

 

と、そこまで予測してアルースルは床に倒れ伏した。全身汗まみれで、相当な負荷がかかっていたことがわかる。

 

 

「『レヴァーム』に『天ツ上』!!よくやったぞアルースル!!」

「この二国こそが……魔法帝国に対抗する、唯一の鍵となろう……」

「少し休め。おい、医師団!!」

 

 

王の命令を受け、待機していた医師たちがアルースルに駆け寄って担架に運ぶ。

 

 

「鍵……か。そのレヴァームと天ツ上がどんな国かはわからんが無礼には扱えん。よし、即刻レヴァームと天ツ上について調べあげよ!人間族の国であろうと、徹底的に調べ上げて国交を結べ!」

「仰せのままに!」

「……その……必要なし」

 

 

と、その時。アルースルが担架の上でそう呟いた。

 

 

「レヴァームと天ツ上は……向こうから接触してくる……現在、ミルキー王国の……砂漠の上を渡っておる……」

「……そうか、それは好都合だ。ミルキー王国というと24番の国境の門だな。よし、門番に門前払いしないように伝えておけ」

「はっ!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「なんだあれは!?」

「飛空船か!?だが鋼鉄で出来てるぞ!!」

 

 

エモール王国とミルキー王国との国境線、第24番の門。一面を覆い尽くす砂漠の中に鎮座する青い門、これがエモール王国とミルキー王国との国境線だ。

 

他種族に対する差別意識が強いエモール王国では国境線を通過する際は一列に並ばせて一人一人受付をしていく。優遇されるのはハイエルフや同じ竜人族のみであり、人間族や亜人は冷遇されている。だが、今日は様子が違った。

 

東の空から現れて空を渡り、轟く風車を回転させて空を進む鋼鉄の飛空船。砂漠を渡る為の砂船の停泊地近くに着地したそれは、天ツ上の燦雲型高速駆逐艦であった。本来ならば停泊しているルーンポリスから陸地を渡って来たかったが、ミリシアルが飛行許可を出さなかった為に、中央世界を迂回してミルキー王国からやってきたのだ。

 

 

「ななななななな、なんなんですかあれは!?」

 

 

そう言って声を荒げたのはリーム王国の使者だった。リーム王国はエモール王国と国交を開きたかったが、中流国として冷遇されていたのだ。何回もエモールに来た末に見た物が、まさかのこれである。

 

飛空船は港に停泊すると、中から数人のぴっちりとした服を着た人間種の男性が数人出てきた。

 

対して、門からは2メートルほどの身長を持ったガッチリとした護衛と、彼らに守られた上質な民族衣装を見に纏ったいかにも偉そうな人物が出てきた。

 

 

「私はモーリアウ、エモール王国の外交貴族である。そなたらがレヴァームと天ツ上の使節で間違い無いか?」

「はい、帝政天ツ上から派遣されて参りました。私は代表の荒尾と申します」

「おお、お待ちしておりましたぞ!ささ、我に続かれよ。国交締結を前提にした交渉の席をご用意しております」

「感謝します」

 

 

モーリアウルは手を差し出し、荒尾の手を握って共に握手をした。予想だにしていなかった展開に、周囲の者たちもポカンと口を開ける。

 

 

「ま……待たれい!!」

 

 

これに黙っていられなかったのは、リーム王国の使者であった。こちらの都合など考えもなしに、話しに割って入る。

 

 

「我は、第3文明圏の文明国リーム王国の使者である。我々は、貴国と国交開設のための再交渉に参った。我が国は文明国であります。対応をお願いしたい」

 

 

竜人族モーリアウルは溜め息をつく。聞こえよがしの大きなため息であった。

 

 

「リーム王国はたしか、ただの中流国家でしょう。そのまま列にてお待ちくだされ」

「なっ!!!」

「さっ、レヴァームと天ツ上の方々よ。まずは我が国の首都、ドラグスマキラへとご案内いたそう」

 

 

モーリアウルトラはリーム王国の使者にはそれ以上の興味を示さなかった。彼はそのままレヴァームと天ツ上の使者を連れて門を潜る。

 

後日、レヴァームと天ツ上は竜人族で構成される国、列強エモール王国と国交を開設することになる。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。