とある飛空士への召喚録   作:篠乃丸@綾香

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第32話〜派遣〜

「これより、会議を開催いたします」

 

 

ムー国、首都オタハイトの政治部会会議室にて、ムー国の重役達が集まった重大会議が開催された。軍部はもちろんの事、政治界からも首相や各大臣などが集まって議題を追求しようとしている。今回は緊急案件として、重役達は急に集められた。各人ともに仕事や私用などがあっただろうが、今回ばかりは仕方がない。

 

 

「概要を説明します。本日、レヴァームと天ツ上との条約の協議中にて我が国に対して視察団の派遣についての話題が上がりました。この件に関して、我が国は人員を派遣するべきか否か、検討をしたいと思います」

 

 

今回の会議の内容は、レヴァームと天ツ上に対する視察団の派遣についてであった。これはアメルから変わって交渉を担当していたレヴァーム人の外交官から伝えられたもので、ムーに対して「レヴァームと天ツ上に視察団の派遣をしないか?」との打診があったのである。

 

ムーとレヴァーム、天ツ上は既に国交を成立させているが、まだ開設したばかりで各条約の締結にはまだ至っていない。そんな相手に視察団を派遣するのは、異例とも言えよう。

 

 

「情報部局長です、私としては賛成です。彼の国は異常であり、早急に情報が必要かと思われます。その状況下での今回の提案、彼らの技術力を探るチャンスです」

 

 

情報部局長が意見を言う。それに頷くもの、首を横に振るもの、約半々の面々が意見を真っ二つに分ける。

 

 

「海軍大臣としては反対です。かの国は我が国に対して砲艦外交を仕掛けて脅威を見せつけてきました。今は穏和ですが、いずれ牙を剥くかもしれない。そもそも第一に、国交を成立させたばかりの国に対して貴重な人材を派遣するのは不安が残ります」

 

 

海軍としては反対である、と言わんばかりの意見であった。彼の言うことは一理ある、ムー海軍はかの飛空船の脅威を間近で見せつけられており、海軍内部にはレヴァームと天ツ上を危険視する声が上がっている。要は、海軍はあの飛空船に対してトラウマを抱いているのだ。

 

 

「にしても、第三文明圏外にこのような国が現れるとは……」

「空を飛ぶ超大型戦艦……グラ・バルカス帝国の脅威が迫っている中で、異常なことが起こりすぎている」

 

 

各大臣達の感想は、疑問と驚きであった。彼らの手元に配られた資料には戦艦を含めた空を飛ぶ軍艦達の写真が見開きで写され、次のページには空母の甲板上の飛行機械達の写真が貼り付けられている。

 

 

「戦闘機だけでも時速700キロ越え、飛行機は電気で動いて、電池は……水素電池」

「海水から燃料を作り出すだなんて、なんなんだこのデタラメな発明は……兵站の概念が崩れ去るぞ……」

「ああ、我が国としてはこの水素電池だけでも欲しいところだな。これさえあれば我が国の火力発電所は必要なくなり、海水から無限に電気を生み出すことができる。もうエネルギーに困らなくても済むぞ」

 

 

彼らが見ているのは技術士官のマイラスが徹夜でまとめたレポートであった。それには、レヴァームと天ツ上の使者から伝えられた水素電池の存在も書かれており、彼らの飛空船や飛行機械はこれを用いて飛んでいる事が記載されている。

 

 

「今回、レヴァームと天ツ上からの外交官によれば、本土に帰還する際の軍艦達に乗り合わせても良いと言われております。我々情報部としては、グラ・バルカス帝国の脅威がある以上、自国を少しでも強くするためにレヴァームと天ツ上の力を借りるべきです」

 

 

情報部の部長にそう説かれて、重役達はやっと納得したのか全員で首を縦に振った。会議の内容は次の段階に移り、今度は誰を派遣するのかについての話し合いが行われた。

 

 

「我々情報部は戦術士官のラッサンと技術士官のマイラスを派遣するのが最適かと思います。二人とも優秀ですし、ラッサン君なら我々の知らない兵器があったとしても分析することができるでしょう」

「ん?待て。マイラス君は倒れ込んだと聞いているが、大丈夫なのか……?」

「…………一応は健康状態に問題はありませんでした。それに、彼からの強い要望がありますので…………」

 

 

そう言って情報部部長は、病院での一幕を思い出した。それが彼にとって頭痛の種なのか、頭を抱えて目を逸らす。

 

一方のマイラスは、レヴァームと天ツ上の使者が来てから興奮鳴り止まない状態で飛空船を観察したり、なんとかして技術を真似できないか模索したりとしていて、寝ず食わずで倒れてしまったらしい。だが、そんな状態にもかかわらず彼はレヴァームと天ツ上への使節団派遣に加わることを希望しているのだ。相変わらずの技術馬鹿である。

 

 

「では、我が国から派遣するのはマイラスとラッサンの二人でよろしいでしょうか?」

「異議なし」

 

 

そうしてムー国はレヴァームにマイラスとラッサンを派遣することを決定した。彼らは第二文明圏に集合した使節団艦隊に便乗することになった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

神聖ミリシアル帝国、帝都ルーンポリス、アルビオン城。

 

神聖ミリシアル帝国の栄華を極めるルーンポリスの中心地に、アルビオン城は存在する。真っ白な純白のアルビオン城は、芸術的な建築物としても有名で、政治的にも象徴的にもミリシアル帝国の中心地となっている。

 

その栄えある城の内部で、対魔帝対策省古代兵器分析戦術運用部のヒルカネ部長がコツコツと歩みを進めていた。彼は普段は対魔帝対策省の建物の中で仕事をしているはずだが、今回はミリシアル8世からの直々の呼び出しを受けて皇城を訪れていたのだ。

 

彼には一体何事か、何用で自分が呼ばれたのか理解ができないでいた。自分は部長という立場であり、陛下が直々に呼び出されるほどの重役ではない。

 

あまりに上の人物からの呼び出しに戦々恐々としながら、皇帝のいる部屋にまで案内された。ここまで案内してきた従者が扉をノックすると、中から返事があって内側から扉が開いた。

 

中にはテーブルと椅子が用意してあり、テーブルの上には帝国名産品の紅茶を入れたポットが用意されていた。ミリシアル8世はその椅子の一脚に座っていた。

 

 

「かけるが良い、茶でも飲みながら話そう」

「あ……ありがとうございます」

 

 

ミリシアル8世に言われるまま、ヒルカネは皇帝と対面の椅子に腰掛ける。従者がすかさず紅茶を注ぎ、豊潤な香りを部屋に漂わせる。

 

 

「さて、お主を呼んだ訳だが、何かわかるか?」

「古の魔法帝国の件についてですか?」

「…………いや、違う」

「…………?」

 

 

ミリシアル8世はヒルカネに察しを求めているのか、それ以上語らなかった。ヒルカネにはますます訳が分からなかった。

 

 

「レヴァームと天ツ上という国のことは知っておるな」

「ええ」

「前に帝前会議で話題が上がったから知っておって当然だな。では、お主が前の会議に呼ばれた理由は分かるな?」

「ええ、彼の国が古の魔法帝国の因子を組むものではないか意見を求められました」

「なら、今回呼ばれた意味もだいたい察せるだろう」

「え?」

「…………」

 

 

沈黙。部屋に気まずい空気が流れ込み、二人とも口を詰むんで語れなかった。耐え兼ねたミリシアル8世はヒルカネの察しの悪さに落胆すると、単刀直入に切り出した。

 

 

「実はな、彼の国の使者が我が国に対して視察団の派遣を提案してきたのだ」

「視察団の派遣?」

「そうだ、これはチャンスだ。魔法文明ではないのに、空を飛ぶ軍艦を製造できる技術力。それを探ることができる」

「で、ですが陛下……なぜ視察団の件を私に……?」

 

 

ミリシアル8世は思わずため息が出そうになるのを堪えた。ヒルカネの相変わらずの察しの悪さに、落胆どころではなく失望しそうである。

 

 

「帝前会議であの飛空船を見ただろう。空を飛ぶ船、古の魔法帝国でしかなし得なかった領域だ。だからこそ、パル・キマイラとの比較のために君の部署から一人派遣をしようと思っている」

「!?」

「そうだな……たしかメテオスという職員がいただろう。彼に戦術の勉強をしてもらうためにも、今回の視察団に派遣するのが良いと考えている」

 

 

メテオス、とは魔帝対策省の職員で古代兵器戦術運用対策部運用課所属のヒルカネの部下だ。人間種でありながら、かなり偉い立場にいる人間でそれなり優秀だ。しかし、やはり役人的な面があり、パル・キマイラを運用するだけの戦術知識を備えていないことが問題とされている。

 

そんな彼に、レヴァームと天ツ上の飛空船に乗らせてパル・キマイラとの比較をしてもらうと同時に戦術の勉強をさせようというのだ。どうやらミリシアル8世は考えが深いらしい。

 

 

「……分かりました。メテオスをレヴァームへと派遣いたします」

 

 

こうして、神聖ミリシアル帝国からはメテオスを含む数人の人材が派遣されることになった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「──以上により、我が国とレヴァーム、天ツ上は無事国交を成立させることができました」

「おお!」

 

 

イルネティア王国、王都キルクルス、ランパール城、大会議室にてビーリー卿は各諸侯たちに報告をしていた。内容はレヴァームと天ツ上との国交開設の協議の進展であった。

 

協議は順調、特に問題もなく淡々と進んでいった。アメル達外交官が穏和な態度を取ってくれているのもそうだが、ビーリー卿の努力も凄まじい。

 

 

「それから、王。レヴァーム、天ツ上側からある提案があったのですが」

 

 

ビーリー卿はイルティス13世にレヴァーム側からの提案の内容を伝える。

 

 

「提案?どんな内容だ?」

「はい、我が国とレヴァームとの間でに交換留学生を共に派遣したいとの提案です」

 

 

その内容に、王は髭毛を撫でながら「ほほう」とうなずいた。交換留学生、これは両国の関係性をさらに深めるための使節団に近いという。留学を通して、レヴァームのことについて知ってもらい、イルネティアはレヴァームの優秀な人材を得ることができる。両国にとって有益な利益が発生し、どちらかが損をすると言うことはない仕組みだ。

 

 

「なるほど、留学生か……」

「はい、我が国からも優秀な人材を派遣したいと思っておりますが、いかがいたしましょう?」

「そうだな……ならばビーリー卿、エイテスはどうだ?連れていくことは可能か?」

 

 

と、イルティス13世はビーリーにとって考えられなかった名前を繰り出した。エイテス王子、彼はイルティス13世の一人息子で、次期国王として崇められている。まだ17歳だがルックスもよく、期待の王子としてイルネティアの象徴のような存在となっている。

 

 

「王子をですか?ですが、いくらレヴァームからの提案とはいえ、かの地にて何があるかは分かりません。よろしいのですか?」

「フッフッフッ……エイテスは軟弱には育てておらんよ、厳しい旅にも耐えられるだろう。それに、この留学は大いに勉強になることだろう」

「かしこまりました、レヴァーム側に伝えましょう」

 

 

こうして、イルネティア王国からはエイテス王子がレヴァームへと留学することになった。彼らは帰りのボル・デーモンに便乗すると、そのまま艦隊に合流していった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

アルタラス王国、王都ル・ブリアス、アテノール城。王女ルミエスはコツコツと凛々しい足音を立て、真っ直ぐ伸びた背筋を正しながら父であるターラ14世の居室へと向かっていた。

 

ルミエスには、父が自分を呼んだ意味があまり分からなかった。国王としての仕事に忙しい父から、直々のお呼び出しである。ルミエスには心当たりがなかったので不思議であった。

 

 

「お父様。ルミエス、参りました」

 

 

娘の声にピクりと反応し、振り向くターラ14世。その目はなぜか真剣な表情をしていて、真っ直ぐルミエスを見つめている。しかし、ルミエスの姿が見えるとその表情は柔らぎ、優しい父親らしい笑顔を灯す。

 

二人は居室の中のソファに腰かけると、使用人に紅茶を持って来させた。豊潤な紅茶の香りが部屋全体を包み込み、鼻腔をくすぐる。

 

 

「ルミエスよ、レヴァームと天ツ上に留学をする気はないか?」

「留学……ですか?」

 

 

ターラ14世から飛び出した意外な案件に、ルミエスは思わず聞き返した。

 

 

「それは……レヴァームと天ツ上の使者が言っていた親善留学の件についてですか?」

「ああ、そうだ。この留学に私はルミエス、お主を連れていくべきだと思っている」

「…………」

「二国の国力を知るいい機会だ。あれほどの飛空船を作れる国家、それほどの大国をこの目で見ればお前の成長につながると思っている」

「…………」

 

 

そこまでの理由を、ターラ14世は笑顔で説明を続けた。彼が言っている親善留学はレヴァームの外交官が語っていた、両国の関係を築くための訪問になる。レヴァームの大学で何年間か留学し、そこでレヴァーム式の教育を受ければ、アルタラスの政治に役立てるというアルタラスにもメリットがある内容だった。

 

 

「レヴァームと天ツ上の民は噂では穏和で優しい民族のようだ。心配はいらない」

 

 

もちろん、レヴァームにアルタラス人が行くだけでは不平等なので、アルタラスにもレヴァーム人が留学する。決して人質にはならないという内容だった。

 

 

「お父様……本当は違う理由があるのでしょう?」

 

 

しかし、ルミエスは父の目に若干の嘘が見え透いているのを見抜いていた。外交官としての立場上、人の嘘を見抜くのはお得意だった。

 

 

「…………なるほど。やはり、娘には見抜かれるか」

 

 

ターラ14世は苦笑いをし、諦めたかのように両手を上げて降参のポーズを取った。

 

 

「……実はな、ルミエス。私はこの留学を利用してお主を逃そうと思っている」

「え?」

 

 

ターラ14世から飛び出してきたのは、ルミエスの予想の斜め上をいく理由であった。てっきり、レヴァームと天ツ上に何か弱みを握られ、自分は人質としていくのかと思った。しかし、全く違う理由に肩透かしを喰らう。

 

 

「最近、隣国のパーパルディア皇国は拡張政策を行っておる。我が国にも、その魔の手が襲い掛からないとも限らない」

「…………」

「私は近々パーパルディアと戦争になると思っている。だからルミエス、お主だけは逃したいのだ」

 

 

ルミエスは父の恩義に心を打たれ、衝撃を受けていた。ルミエス自身も外交官としてパーパルディアの脅威は前もって知っている。国力ではアルタラスはパーパルディアに勝てない、戦争になれば確実に負けてしまう。

 

そうなればパーパルディアは王族を全て処刑するだろう。ルミエス自身も地獄の苦しみを味わうことになる。それだけは、父であるターラ14世にとって許せないようだ。

 

 

「で、ですがお父様……それでは民を見捨てて私だけ逃げることになります。私には……そんなこと……」

「ルミエス」

 

 

そこまで躊躇して、父の厳格な声根がルミエスの耳を貫いた。父の目はいつに無く真剣で、ルミエスをじっと見つめていた。

 

 

「ルミエス、お主だけには生きていて欲しいのだ。お主は亡き母の残した大切な娘だ、我らの生きた証として、死なせるわけにはいかぬ」

 

 

いつにない、真剣な言葉であった。ルミエスは父のこの声を聞くのは久方ぶりであった。まだ小さい頃に悪戯をして、その時に真剣な目で叱られた時と似ている。しかし、今度はルミエスのためを思っての説教であった。

 

 

「ルミエス、お父さんの言うことを聞きなさい」

 

 

ターラ14世はそう言って、言葉を締めくくった。いつに無く真剣な目は、じっとルミエスを見つめている。

 

 

「…………わ、分かりました。お父様もどうかお元気で……」

「ああ。愛しているぞ、ルミエス」

 

 

ターラ14世とルミエスは肩を抱き合い、ルミエスは久方ぶりの父の温もりに心を癒された。後日、ルミエスは身支度を整えて護衛と共にアルタラスを出発することになった。帰還してきた使節団艦隊に便乗して、ルミエスはアルタラスを離れた。

 

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