とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

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原作弄るって楽しいです。
原作にないエピソードや展開を考えるのって、二次創作の醍醐味ですよな。

あと『神聖レヴァーム皇国』って打とうとしたら『神聖レミール皇国』って出てきて草生えました。


第35話〜船の中で〜

空を泳ぐ鋼鉄の塊。鉄でできているとは到底思えない程の大きさのものが、空を飛ぶ鯨のように優雅に空を飛ぶ。水上艦の約二倍ほどの速さで歩みを進めるかの船達は、ゆったりと東へ向かっていた。

 

旗艦エル・バステルを筆頭とした使節団艦隊は、空母と戦艦を中心とした輪陣形を描き、高度1000メートルで周囲を圧倒していた。この世界の人々がこの艦隊を見れば、たちまち腰がすくむであろう。だが、彼らの役割はひとまずは終わったのであった。

 

25隻にもなる大艦隊は、第二使節団艦隊と離れてレヴァーム本土に帰ろうとしている第一使節団艦隊であった。パーパルディアでのパーティーを終え、彼らは外交官の一部を第二使節団艦隊に便乗させて一路レヴァーム本土に帰還している。

 

その道中、旗艦である飛空戦艦エル・バステルの甲板上。いくつもの大口径の砲門とハリネズミのような対空砲たちが連なる木製の板の上。そこに1人のミリシアル人の人間が立っていた。

 

 

「こうして見れば、本当に空の上を飛んでいるのだと痛感する。我が国の魔導戦艦と同じレベルの船がこうして空を飛んでいることが本当に信じがたいよ」

 

 

そう言って詩人のような驚嘆の呟きをあげたのは、神聖ミリシアル帝国から派遣された対魔帝対策省、古代兵器分析戦術運用部のメテオスであった。

 

しかし今回、彼はこの肩書でこの船に乗っているわげではない。ミリシアルにとっては対魔帝対策省の中で、古代兵器分析戦術運用部は極秘中の極秘。他国に情報が漏れるどころか、自国ですら構成員の情報は秘匿されて普段は顔がバレないように仮面をつけるくらいだ。

 

彼には()()()()()()()()という偽の肩書が付与されて、この任務についている。メテオスは偉い立場のミリシアルの魔導技術者という、バックストーリーも用意されてだ。

 

そんな秘密の部署からメテオスが派遣された理由は、一重に彼が乗っている神聖レヴァーム皇国の飛行戦艦にあった。

 

ミリシアルでは、来る魔法帝国の再来に備えている。そもそもミリシアルは魔帝が大陸ごと去っていった後に残された技術を吸収して発展していった国なのだ。来るべき傲慢な魔法帝国の再来を防ぐのはミリシアルにとっての国是的なことであり、ミリシアルの存在意義と言ってもいい。

 

そんなミリシアルがレヴァーム、天ツ上と国交を結んだときに見せつけられた飛行戦艦。自国の魔導戦艦並みの戦艦が空を飛んでいるという事実に、ミリシアル中が驚愕した。古の魔法帝国の発掘兵器『天の浮舟』に匹敵する巨大な戦艦を保有している国がいきなり現れたのだ。慌てないわけがない。

 

ミリシアルには発掘兵器として『空中戦艦パル・キマイラ』が存在する。この飛行戦艦と同レベルの大きさを備えた、空飛ぶ軍艦だ。しかし、ミリシアルはその力の数パーセントも引き出せる状況ではない。何せ、技術力が違いすぎて模倣が追い付かないのだ。そのためパル・キマイラは自国に7隻しかおらず、まともに運用できるのは5隻ときている。

 

だが、レヴァームと天ツ上の使者に探りを入れてみれば、なんとこの飛行戦艦は量産されている物だという。これにより、いよいよミリシアルは慌て始めた。

 

自国ではその規模の飛行物体は未だに追い付く気配の見えない古の魔法帝国の発掘品しかない。だが、相手の飛行戦艦は新造できる。ここに大きな技術格差が生まれてしまっているとミリシアルはプライドをかなぐり捨ててやっと理解した。

 

そこで、自国の兵器の模倣に少しでも近づけるように、あわよくばパル・キマイラとの比較をするために、対魔帝対策省の中で、古代兵器分析戦術運用部を束ね、パル・キマイラのうちの一機の艦長を務めるメテオスを派遣することにしたのだ。

 

 

「風が心地いい。パル・キマイラの中は装甲で覆われているからね」

 

 

空を飛ぶ戦艦の上で物思いにふけるメテオス。彼の中にはレヴァームと天ツ上に対する興味であふれていた。

 

ミリシアルの上層部の中には発掘兵器を模倣できない自分たちと、飛行戦艦をいくらでも新造できるレヴァームと天ツ上を比べてしまい、プライドが打ち砕かれた人間もいるかもしれない。悔しかったかもしれない、嫉妬もあったかもしれない。ミリシアルはパーパルディアほどではないが、プライドが高い国なのだ。

 

しかし、メテオスは違ったのだ。彼はこの船に乗り込み、初めて空を飛んだ日から考えを早々に変えていた。自分たちでもたどり着けていない飛行戦艦という領域に、彼らは機械文明だけで到達している。メテオスにとっては機械文明は自分たちよりも下という感覚だったが、それも変わった。

 

それはこの数日間で尊敬に変わっていった。認めなければならない、彼らは自分たちよりも上なのだと。メテオスは合理的だが、それでいて文明圏外という括りは下らないと思う論理的な面もある。その彼に言わせれば、飛行戦艦を新造して平気で運用しているレヴァームと天ツ上は、自分たちが辿り着くべき師匠のような存在と見えるようになった。

 

 

「だけど、彼らの技術の推が見えないね。彼らが魔法を使わない機械文明なのもあるけど、やはり『揚力装置』とやらは謎が多い」

 

 

実はレヴァームの意向でエル・バステルの艦内は見学が自由だった。これは、おそらくだがレヴァームは自国の技術力の高さを他国アピールをしたいからだと思っている。そこで、このチャンスを逃さずこの船のことについてメテオスなりに分析してみた。

 

それによると、この船は「揚力装置」と呼ばれる純粋な科学で作られた装置によって反重力を生み出し、空を飛ぶことが可能になっているという。ミリシアルのパル・キマイラは「魔導反重力エンジン」によってあの巨体を浮かせているが、この船はその揚力装置を5基積んでいる。そのため、揚力装置は魔導反重力エンジンと同じような作用をすると判断していい。

 

ならば仕組みはどうかというと、この揚力装置というのがネックであり、どう言った方法でこの数万トンもする巨船を浮かせるだけの反重力を生み出すのか分からなかった。調べてみようとしたが、見学自由でもさすがに機密の場所もあるのか、機関室には立ち入らせてくれなかった。

 

 

「まだまだわからないことが多いね」

 

 

そう言ってメテオスは甲板上を移動し、今度は艦前方に2基搭載された主砲塔の目の前へと移動した。

 

 

「これは……パル・キマイラの15センチ主砲よりも口径が大きいね」

 

 

そう言って目でじっくりと見ているのはこのエル・バステルという戦艦が誇るであろう主砲であった。見たところ、火薬式の非魔導砲と思われるが、口径はミスリル級の主砲並みの大きさはある。

 

 

「つまりは、ミスリル級がそのまま空に浮かんでいるみたいなものか」

 

 

メテオスの結論はそんな感じであった。純粋な船とは形がかけ離れているパル・キマイラと違い、まだ船としての面影が残っているこの飛行戦艦は、言うなれば空飛ぶ魔導戦艦だ。パル・キマイラと直接戦わせたわけではないが、力の差は互角と言っても良い。メテオスはそう分析している。

 

 

「…………」

「?」

 

 

と、メテオスが主砲塔を観察していると近くでぶつぶつとした声がボソリと聞こえてきた。

 

 

「なるほど、この主砲塔は口径が40センチ以上……となるとこれだけでも我が国のラ・カサミ級の口径よりも格段に大きい……!しかも、砲弾は自動装填装置を実用化している!すごいぞレヴァーム……!凄すぎる!」

 

 

その方向に目を向けると1人のスーツ姿の人間種の男性が、一番前方の主砲塔を観察しながら何かを呟いている。

 

 

「やあ、どうかしたかね?」

「!?」

 

 

その人間種の男性は両眼を見開いて、驚いたかのような表情でこちらを見ていた。どうやら急に声をかけられた事に驚いたらしい。

 

 

「あ、すみません……つい興奮してしまって独り言が出てしまいました」

「いやいや、別に気にしてないよ。ところで君は?」

「はい、私はムー国より派遣されてまいりました、統括軍所属情報通信部情報分析課技術士官のマイラスと申します」

 

 

比較的若い男性、マイラスは礼儀正しく自身の所属を名乗って自己紹介をしてくれた。

 

 

「なるほど君がムーの技術士官だね、よろしく頼むよ。私は神聖ミリシアル帝国()()()()()()()()のメテオスだ」

 

 

こちらも気さくに態度を崩して自己紹介をする。もちろん、偽造した身分を名乗ってだ。

 

 

「ところで、何を熱心に見ていたのかね?」

「はい、この船の主砲を見ていました。すごい技術ですよ、口径40センチ以上、砲弾の推定重量は1トン、それほどの物体を撃ち上げる主砲。同じ機械文明である我が国から見ても、卓越した建造技術です」

 

 

この国は自分たちに比べて卓越している、それがマイラスの分析のようだった。これは魔法文明の自分たちよりも機械文明のムーの方が詳しいかもしれない。少し聞いてみようと、メテオスはマイラスにいくつか聞いてみる事にした。

 

 

「なるほどね。ところで、君はこの船についてどう思う?同じ機械文明からして」

「そうですね……はっきり言って素晴らしいとしか言いようがありません。まさか、空を飛ぶ船を機械だけで作り上げるとは、とんでもない技術力ですよ」

「そうだろうね。私も魔法の観点から揚力装置とやらについて考えてみたが、分からないことが多すぎるのだよ」

「私もこの船には驚かせっぱなしです。機械だけで反重力を作り出す揚力装置……我が国にも是非とも欲しいところ……いや、是非ともその構造を知りたいです!」

 

 

メテオスは彼と会話していくらか分かった。どうやら彼はかなり研究熱心な性格なようだ、現にこの飛行戦艦を見て子供のように目を輝かせてその性能を理解しようとしている。自分はある程度歳を取ったが、このような若者は初めて見た。

 

 

「フフッ、どうやら君は相当研究熱心なようだね」

「ええ、これがムーのためになるのなら出し惜しみはしませんよ」

 

 

そう言ってマイラスは自身の気持ちをそう言ってまとめた。

 

 

「そうか。ところで、これらの飛行戦艦は運用面や戦術面からみたらどう思う?君の意見を聞きたい」

 

 

メテオスはそう言ってマイラスに質問を投げかけた。彼が派遣された理由には、自分に戦術面の勉強をして欲しいというミリシアルからの意向もある。そのため、詳しい人物からパル・キマイラと似たこの飛行戦艦の運用に関して、いろいろ意見を聞きたかった。

 

 

「戦術面ですか?私は技術屋なので分かりかねますね……あ、ですが私と一緒に派遣されたラッサンなら何か予想がついているかもしれません」

 

 

彼自身は技術屋なので分からないそうだが、どうやら彼の友人なら何か分かるかもしれないとのことだ。メテオスはさらに探りを入れる。

 

 

「そうか……今ラッサン君はどこに居るのかね?」

「ああ、それなら私が案内しますよ。ちょうど艦内全てを回ったところでして、ラッサンにも報告してやりたいんです」

「そうか、ありがたいね」

 

 

マイラスはそこまで会話すると、メテオスをラッサンのいるであろう場所にまで案内するため甲板上を歩き始めた。木が貼られた甲板を歩き、重圧な扉を開いて艦内に入る。マイラスに案内されていくつかの区画を抜けていくと、艦内の資料室らしき場所にまで案内された。いくつもの書物がガラスケースの中に入れられ、自由に観覧できるようになっている。しかし、いくつかの本棚は空っぽで、どうやら機密にあたる書物はあらかじめ抜き取られているようだった。

 

 

「ラッサン?調子はどうだ?」

「ああ、マイラスか。ん?そっちの方は?」

「紹介するよ、彼は……」

「私は神聖ミリシアル帝国の国家魔法技術士官のメテオスという。よろしく頼むよ」

 

 

メテオスはラッサンと呼ばれた若者に自己紹介をした。

 

 

「ミリシアルの人か、親しくなったのか?」

「ああ、同じ技師のよしみとして少しだけな」

「なるほどな。ところでどうして戻ってきたんだ?」

 

 

ラッサンは疑問に思っていたことをマイラスに投げかけた。

 

 

「メテオスさんがこの飛行戦艦について戦術面から意見を聞きたいって言っていてさ。何かここの書物を読んでわかった事はないか?」

「ああ、それならあるぞ。ちょうどこの飛行戦艦の運用について書かれた書物を読んでいたんだよ」

 

 

そう言ってラッサンは戦術が書かれた書物を広げた。大陸共通言語で翻訳されて書かれた、レヴァームが作った書物であった。一眼でわかる上質な紙に、写真付きの文字がびっしりと書かれている。

 

 

「それによると、飛行戦艦の戦い方としてはいかにアウトレンジから敵艦を叩くか、ということが大きいらしい」

「アウトレンジから?」

「ああ、それはムーの戦艦の思想にはなかったものだ。この飛行戦艦……レヴァームと天ツ上では『飛空艦』って言っているらしいが、飛空戦艦同士の戦いでは相手より高所を取ることが重要とされているそうだ」

「ほほう。相手より高所を、ね」

 

 

メテオスはラッサンの分析に感心した。書物を読んだ知識とはいえ、この短時間でここまでの分析をしてのける彼は、間違いなく優秀だ。

 

 

「なんでも、高所を取れば高空から砲弾を撃ち上げられるから有利になるらしい。高さがあればその分射程距離が延びるし、位置エネルギーを確保できるため貫通力も劇的に高まるそうだ」

「ってことは水上艦相手だと無敵じゃないのか?」

「ああ、レヴァームと天ツ上では飛行戦艦は水上艦に対して無敵と言われている。何せ、相手は高さの因子まで計算しなくちゃいけないから、射程が短くなるし当てづらくなる。海上戦では無敵と言って良いな」

 

 

メテオスは彼らの分析を頭の中で整理し、記憶に留めた。どうやら、飛行戦艦は高所から一方的に砲弾を叩き込む方が良いらしい。たしかにそれなら、安全圏から一方的に叩くことができる。

 

 

(なるほど……パル・キマイラを水上艦相手に使うときは相手の射程外の高所から一方的に砲弾を叩き込んだ方がいいかもしれないな。これは勉強になった)

 

 

メテオスは新たな知識を蓄えて、パル・キマイラの運用方法を模索していくのであった。

 

 

「それから、こいつはすごいぞ。レヴァームと天ツ上では飛行機械がすごく発達しているんだが、その飛行機械から戦艦を守るために新しい艦隊陣形を考え出したそうだ」

「新しい艦隊陣形?」

「その名も『輪陣形』。空母や戦艦などの主力艦を中心にして、それを守るように外側に駆逐艦、内側に巡洋艦などを入れて対空砲火を敵航空機に当てやすくしているそうだ。

レヴァームと天ツ上では過去に200隻近い大艦隊を組んだことがあるらしいんだが、その時はこの輪陣形を五つ組んで、それを十字形になるように展開させたんだ。これなら、輪陣形の輪陣形となって艦隊の防空はさらに強力になるそうだ」

 

 

と、ラッサンはまた新たな戦術を語り出した。

 

 

(なるほど、十字に陣形を組んで防空を強力にするのか。パル・キマイラが5隻いればそれも可能だね)

 

 

メテオスの知識がまた新たに一つ増えた。パル・キマイラには強力な対空火器が積んである。それを最大限に発揮するには陣形を組むのが一番良いだろう。

 

 

「2人ともありがとう。2人の話を聞いていたら色々勉強になったよ」

「ええ、こちらこそありがとうございます」

 

 

マイラスはそう言ってメテオスに頭を下げた。

 

 

「にしても私たち、いろいろ話が合いますね」

「そうだね、同じ技師であるからだろうか?魔法と科学、形態は違ってもやはり分かり合えるところはあるようだね」

「ええ、お互い祖国のために頑張りましょう!」

 

 

そう言ってマイラスはメテオスに右手を差し出した。メテオスはそれを右手で掴むと、共に握手を交わした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

夜。

 

戦艦エル・バステルの来賓室。豪華な装飾と荘厳な家具が置かれたエル・バステル随一の居住設備を誇る区画の一部だ。ここにいれば、この部屋が戦艦エル・バステルの中で最も重圧に作られている重要区画である事ですら忘れてしまう。

 

レヴァームの戦艦の設計思想は、天ツ上とは少し違う。巡空艦や戦艦は偉い貴族の人間を乗せることがあるので、このような来賓室は他の区画よりも装甲が重圧に作られることが多い。天ツ上では設備は良くても装甲は他の区画と同じである。そこに、レヴァームと天ツ上の国体の違いが見受けられる。

 

 

「それでは、乾杯」

「「乾杯」」

 

 

その来賓室にて、ファナはルミエスとエイテスと共に居た。3人の手にはシャンパンやジュースが入ったグラスが入れられており、それぞれで乾杯をした。ちなみにエイテスだけはレヴァームの法では未成年のため、ジュースであった。

 

3人はそれぞれ入れられた飲み物の香りを堪能し、少しだけ口につける。豊潤な香りと共に甘い飲みのの味が舌を包み込む。シュワシュワとしたシャンパンの味が感覚全てで美味を感じさせる。

 

ちなみに、ファナはお酒をあまり控えて飲むフリをしている。父に似て、ファナは超がつくほどの酒豪である。そのため飲み過ぎると性格が豹変してしまうのを分かっているため、飲みすぎないようにしている。

 

 

「乗ってみていかがでしたか?このエル・バステルは」

「はい、何から何まで驚きの連続です。このような巨大な船が空を飛ぶという事は、アルタラスでは考えられませんでした」

「私もです。このような立派な船に乗せていただき、誠にありがとうございます」

 

 

そう言ってルミエスとエイテスは感謝の言葉とともに礼をした。彼らがここにいるのは、単にファナの好意であった。彼らがファナとほぼ同年代である事を知っているファナは、彼らが問題なければ来賓室にて一緒にお話をしたいと申し出たのだ。

 

彼らは快く了承。彼らは使用人の誘導でこの来賓室にやってきて、今こうしてお酒を飲み交わしている。レヴァームの文化圏では夜に飲むお酒はシャンパンやワインが多い、彼らの文化圏ではない炭酸のお酒にルミエスは舌鼓をする。

 

 

「綺麗な船でしょう。この船はわたくしにとっては思い出深い船なのです」

「そうなのですか?」

 

 

ファナはエイテスの疑問に、少しだけ微笑んで見せた。ファナの言う通り、この船はファナにとって思い出深い船である。

 

 

「はい。わたくしがもう少し若かった頃、当時レヴァーム領だった天ツ上の常日野という場所から、レヴァームにこの船に乗って航海をしたのです。それは良い旅でした」

「なんと、そうでしたか」

 

 

ファナはそう言って()()()()()()()()()。本当はこの船に乗ったのはサイオン島であり、常日野から乗ったわけではない。しかもそれは戦争中の出来事であり、おまけに常日野から乗ったのは水偵であるサンタ・クルスだ。そう、ファナにとって最愛のあの人の──

 

 

「?、ファナ殿下?」

「!?、いえ……大丈夫ですよ。少し考え事をしておりました」

 

 

と、少しだけ物思いにふけっていたのか、ファナは気を取り直す。ファナはルミエスには難しい話だと思って海猫作戦のことは言わなかった。知られたらまずいことも無いのに、と少しだけ罪悪感が募る。

 

その後、ファナはこの船について少しだけ創作した話を聞かせた。初めて見る大砲に心躍らせて親に叱られた話、艦内の食事がとても美味しかった話など、全て創作なのが少し悔やまれる。

 

 

「お話ありがとうございました、ファナ殿下」

「こちらも、ファナ殿下の意外な一面が聞けました。ありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ」

 

 

話し終えたファナの表情は少し俯いていた。やはり、嘘をつくのは少しだけ罪悪感が募る。本当はあの水偵が遊覧飛行をした話もしたかったが、海猫作戦についてはレヴァームの極秘であるため話せない。それが本当に悔やまれる。

 

 

「あの……ファナ殿下」

「なんでしょうか?ルミエス殿下」

 

 

と、ファナが罪悪感が少し募っていた時に、不意に声をかけられた。

 

 

「はい、私たちはこれからレヴァーム、天ツ上と良い関係を築いていきたいと思っております。そこで……」

 

 

ルミエスはエイテスと少し目を合わせると、少しだけ微笑んだ。

 

 

「わたくしどもと、お友達になっていただけませんか?」

 

 

その後、ルミエスとエイテスを含めた各国使節団一行は、そのままレヴァーム皇国と帝政天ツ上を回って行くことになる。それが国の発展に大きな影響を与えることになるとは知らずに。

 




『メテオスとマイラス、ラッサンが親しくなる』
メテオスが役人じみていて、軍人としての知識がないことがバルチスタでの敗因だと考え、それを防ぐためにマイラスとラッサンから戦術の勉強をさせてもらいました。これがどうバルチスタに影響するのかお楽しみに。

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