とある飛空士への召喚録   作:篠乃丸@綾香

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今回は短めです。


第36話〜天ツ上の皇太子〜

使節団一行はレヴァームに到着した後、レヴァームでの様々な視察を終えて一泊した後にレヴァームを旅立った。エスメラルダの飛空艦の港で豪勢な豪華客船に乗り換えると、そのまま天ツ上の領空へと向かっていった。

 

客船の中で豪華な料理に舌鼓しながら、各国使節団たちは10日ほどで常日野にまで到着した。そして、彼らは来賓用の機関車に乗り換えると、一行は天ツ上の首都東都へと5日間の旅を経た。

 

着いた先にあったのは、エスメラルダに引け劣らない規模の発展具合を見せる、東方大陸随一の大都会であった。そこでムーとミシリアルの使節団は東都の造船場を見学するために一旦別れ、ルミエスとエイテスは護衛の下リムジンに乗り換えた。

 

技術士官のマイラスは、東都の造船所へ別のリムジンに乗って移動していた。海の入江が近い東都では、飛空艦の建造が盛んで海軍の司令部があるくらいの軍港都市だそうだ。飛空艦が生まれる前は港町になるなんて想像もしてなかったらしく、それほど飛空艦の恩恵はレヴァームと天ツ上を豊かにしているのだと理解した。

 

やがて、マイラスたちが造船所に着くとそこにはこれでもかというほどの巨大な船たちがドックにひしめき合っていた。それも、ラ・カサミなんて比べ物にならないレベルの大きさの船すらある。

 

 

「なんでことだ……ラ・カサミよりもでかい船があるじゃないか!!」

 

 

マイラスとラッサンは驚きっぱなしであった。口をあんぐりと開けて造船所にある船たちを見ている。

 

 

「あの……東殿、レヴァームと天ツ上では戦艦はあまり作られていないと聞いたのですが……あのドックにあるのは戦艦では?」

 

 

マイラスは思わず、この飛空艦造船所の責任者である東に質問を投げかけた。たしか、レヴァームと天ツ上と初めて接触したときに彼らから「戦艦よりも空母の建造を優先している」と聞いていたので、気になったのだ。

 

 

「いえ、あれは護衛の巡空艦、そちらでいう巡洋艦クラスです。あれは最新型である龍王型の5番艦ですね」

「「!?」」

 

 

マイラスはラッサンと一緒に目を見開いた。あの船は確かにラ・カサミよりも全長が長く、それでいて連装砲を備えており、強力そうだ。なのに、あれが巡洋艦クラスとはどういうことだろうか?

 

 

「え……?ですがあれは連装砲を多数装備していますし、戦艦では……」

「あれは20.3センチ砲です。排水量的に天ツ上の基準で重巡洋艦に当たりますね」

 

 

絶句。どうやらレヴァームと天ツ上ではあの規模の大きさの船でも巡洋艦に分類されるほど、それ以上に大きな船が存在するということだ。そこに建造技術の差を感じる。

 

やがて、一行はそのままこの造船所の中で最も大きなブロックにまでやってきた。そこにいたのは巨大な船体を持った、平べったい形をした空母であった。

 

 

「こちらは、現在建造中の新鶴型飛空母艦の6番艦、翔鷹(しょうよう)です。現在進空式と命名式を終え、艦装の取り付け。つまりは建造の最終段階に入っています」

 

 

東がこの船の説明をしてくれている。各国の視察団は今回の派遣が技術交流を含めているためか、皆必死にメモを取っている。

 

 

「新鶴型空母は帝政天ツ上の最新鋭飛空母艦で、最大の特徴は甲板や側面を装甲で覆った装甲空母である点です。全長260メートル、搭載機数は90機以上、最高速力は空中で60ノットです」

「「「「!?」」」」

 

 

東の説明に、その場にいた全員が驚きの表情を見せた。

 

 

「ば、化け物……」

「我が国のロデオス級ですら双胴航空母艦として設計してやっと50機ちょっとなのに……」

 

 

思わず、ミシリアルのライドルガとアルパナがそう呟いた。ミシリアルのロデオス級航空母艦は、スペースの確保のために双胴艦として設計されている。が、この空母は単胴体でロデオ級の艦載機数を遥かに超える数を持っていた。

 

 

「と、搭載機90機以上ですか!?一体どうやって機体を中に押し込んでいるんです……?」

「レヴァームと天ツ上の艦載機には主翼を折りたたむ機能がついています。それにより、限られたスペースを有効活用することができるようになりました」

 

 

と、東の説明が全員の耳に響いた。ムーとミシリアルでは、主翼を折り畳んで格納する技術と発想がまだなく、空母の艦載機数を減らしている原因になっていたのだ。特にミシリアルは魔帝の技術を模倣しているところがあるため、コピーし切れていないのである。

 

 

「なるほど……主翼を折り畳めればいいんだな……我が国のマリンは複葉機だから難しそうだが、単葉機が生まれればなんとかいけるかもしれない……!」

 

 

と納得するマイラス。彼は帰還したらムー軍の改革に力を注ぐかもしれない。

 

 

「なるほど、主翼を折り畳んで収納スペースを有効活用しているんだね。我が国の空母は限られたスペースを広げるために双胴化したが、わざわざあのようにする必要はないわけだな」

 

 

と、メテオス。同じ技術屋としての本分が発揮されている。彼らはその後、天ツ上海軍のいくつかの巡空艦を見学させてもらいながら、その日は終了した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

そして、ルミエスとエイテスが向かった先は東都の中心にある天ツ上風の城であった。豪勢な木製の天守閣で作られた異風の城に、ルミエスとエイテスは驚嘆する。そこは、天ツ上の帝政の中心地。帝政天ツ上で最も重要な場所となる、天ツ上の皇帝が住う皇城であった。

 

 

「ようこそおいでくださいました、ルミエス殿下、エイテス殿下。わたしは帝政天ツ上の皇太子、聖天と申します。本日は急なお誘いにもかかわらず、ご了承してくださり誠にありがとうございます」

 

 

その一角の来賓室。豪勢な天ツ上風作りの木製の部屋に、豪華なテーブルと椅子が並べられている。ルミエスらをそこに招待したのは白い優雅な衣装に身を包んだ、紫色の髪色を後ろで束ねた少年であった。

 

歳はエイテスとほぼ同じくらいか、一歳年上ほど。女性のような長い紫色のさらさらとした髪を後ろで結っているその姿は、女性にも見えるほど美しい。が、彼は『皇太子』である。そう、彼は男性なのである。

 

天ツ上の皇太子は絶世の美少年として有名である。そんなこんなで何故か家族である皇族から女性物の着物を着せられたりと小さい頃は遊ばれていたというエピソードもあるくらいだ。そんな容姿の彼も、国民は「彼の個性」として受け入れており、女性からの人気も高い。まさに国民の象徴のような存在なのだ。

 

 

「アルタラス王国王女ルミエスと申します、よろしくお願いします」

「イルネティア王国の王子、エイテスと申します。本日はお招き頂き有難うございます、聖天殿下」

 

 

今回、ルミエスらが呼ばれたのは一重に聖天殿下からの御所望があったからである。使節団の中にほぼ同年代の王女と王子がいることを知った彼は、是非とも会ってみたくなったらしく、この会談の場が設けられたそうだ。

 

 

「お二人ともどうぞお掛けください。我が国のお茶と菓子をご用意いたしました、ご賞味いただければと思います」

 

 

そう促すと、ルミエスとエイテスが椅子に座った。彼らの手元に、侍従が煎じた抹茶を用意した。本当ならばしっかりとした場でお茶会を開いてみたかったのだが、異文化を味わうとはいえいきなり2人に正座をさせるのはどうかということで、このようなテーブルに座ってのお茶会となった。

 

 

「緑色のお茶ですか、珍しいですね」

 

 

ルミエスは珍しい緑色の抹茶の見た目に驚き、恐る恐る口をつける。豊潤な抹茶の香りと甘くほろ苦い緑色の味が口いっぱいに広がっていく。

 

 

「おお、これは美味しい……」

「ええ、心穏やかになりますね」

 

 

2人は味わったことのない抹茶の味に舌鼓をする。アルタラスとイルネティアでは味わったことのない天ツ上風の文化に驚かされっぱなしだ。

 

 

「ふふっ、お口に合ったようで何よりです」

 

 

聖天殿下の微笑みが来賓室全体に行き渡った。美しさではファナ皇女には及ばないものの、彼女とはまた違った神秘的なオーラを感じられる。

 

 

「これは、ケーキの一種でしょうか?」

「いえ、それは『カステラ』というものです。ケーキとは少し違いますよ」

 

 

ルミエスが見つめていたのは「かすてら」と呼ばれるお菓子であった。美味しそうな黄色の生地と茶色い焦げ目が印象的なお菓子だ。ルミエスはフォークを手に取り、一切れを口をつけてみる。豊潤な卵でできた生地の甘い味が口いっぱいに広がり、すぐさま溶けてなくなる。名残惜しいほど、甘い味であった。

 

 

「美味しい……」

「これは……柔らかい生地がなんとも甘いです」

 

 

初めて食べるカステラの味に、舌を喜ばせる2人。特にルミエスは女性であるからか、このようなお菓子には詳しいつもりだったが、それでも食べた子ののない美味であった。

 

 

「素晴らしい天ツ上の菓子をありがとうございました。とても美味しかったです」

 

 

思わずお礼を言ってしまうルミエス、これほどまでに楽しいお茶会は初めてであった。

 

 

「フフッ、ありがとうございます。ですがそれは天ツ上のお菓子ではなくレヴァーム発祥のお菓子なのですよ」

「え?そうだったのですか?」

「はい。その昔、レヴァームと天ツ上の交流が始まった時に、レヴァームから伝わったものなのです。どうでしょう、美味しいでしょう」

「はい、とても美味しかったです。このようなお菓子があるということは、やはりレヴァームと天ツ上は仲がよろしいのですね」

 

 

と、ルミエスがそこまで言うと、聖天殿下は少し下を俯いて黙り込んでしまった。

 

 

「?、どうされましたか?」

「いえ、実は……」

 

 

聖天はそう言って下を俯いたまま、ルミエスとエイテスに向き直った。

 

 

「……実は、レヴァームと天ツ上は昔は今ほど仲が良くなかったのです」

「え!?そうだったのですか……」

 

 

これはまずい事を聞いたかもしれないと、ルミエスは少し後悔した。が、聖天はルミエスをそっと制すると、話を始めた。

 

 

「その昔、両国を隔てる巨大な滝『大瀑布』を超えてやってきたレヴァーム人は、大瀑布の下に住む天ツ上人を自分たちよりも下だと見下しました。そして、理不尽な要求を突きつけ、差別をしていったのです。

レヴァームだけではありません、天ツ上の人々もレヴァームの人々を見下し、嫉妬して差別をしました。両国の民はお互いを憎み、下に見下して争いあったのです」

 

 

明かされる驚愕の事実にルミエスとエイテスは驚いた。彼らはレヴァームと天ツ上の交流具合を見て、初めから仲が良いとどこかしらで思っていたのだ。が、それは違ったようだ。

 

聖天殿下は言う、レヴァームと天ツ上がやってきたことは、かのパーパルディア皇国が抱いている他者を見下す感情と一緒なのだと。かつてのレヴァームと天ツ上がパーパルディア皇国と同じような事をしていたことに、ルミエスとエイテスは驚いた。

 

 

「そして、ついにはその憎しみは戦争にまで発展しました。今では終結していますが、それはそれは激しい戦いでした……当時14歳だった私も命の覚悟を決めたほどです」

 

 

明かされる衝撃の事実。このような他者を圧倒するような強力な技術力を持った国同士が、憎しみあって戦争をしていただなんて、ルミエスとエイテスには想像できなかった。

 

 

「その……よからぬ事を聞いてしまって申し訳ありません」

「いえ、わたしは隠し事をするのは良くないと思ったまでです。両国の負の面を隠すのは、気が引けますから」

 

 

そう言ってルミエスに謝る聖天殿下。その表情は悲壮感に溢れているものの、隠し事を話せた清々しい表情をしていた。

 

 

「あの……では何故今のレヴァームと天ツ上はこうして仲が良くなっているのですか?」

「それは単に、レヴァームのトップであるファナ・レヴァーム殿の努力のおかげです。彼女が歩み寄ってくれたおかげで、今のレヴァームと天ツ上の関係があるのです」

 

 

エイテスの質問に、聖天殿下はそう答えた。実際、今のレヴァームと天ツ上の関係が改善されたのは、ファナのおかげである。彼女が戦争をやめて差別制度を禁止し、天ツ上に歩み寄り始めてから両国の関係は変わり始めたのだった。

 

 

「そうだったのですか……」

「はい、ファナ殿下は私の最も尊敬する人物でございます。彼女がいなければ、レヴァームと天ツ上は良くない関係が続いていたでしょう」

 

 

そこまで言われて改めて、ファナ殿下はものすごい事をしたのだとルミエスとエイテスは理解した。彼女のすごいところは単なる美貌だけでなく、政治家として優秀なところであったのだ。

 

その後、気を取り直してお茶会がまた始まった。両国の文化との違いや、お互いの国の行末について会話が広がっていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

有意義なお茶会が終わり、聖天殿下と2人は皇城の中を案内されていた。木製の廊下をギシギシと風情ある音を立てながら歩み進める。辺りには立派な庭園が広がっており、優雅な時を過ごせる。

 

そんな中、エイテスはルミエスのことをチラチラと物恥ずかしそうに見つめていた。それを見かねた聖天は、エイテスにこっそりと話しかける。

 

 

「エイテス殿」

「は、はい!なんでしょうか、聖天殿下?」

 

 

聖天殿下はいたずら心あふれる子供のような笑みを浮かべると、エイテスにこっそりと耳打ちした。

 

 

「私と護衛はここで離れますから、ルミエス殿下と2人っきりで皇城をご堪能ください」

「え?で、ですがしかし……」

「気になるのでしょう?ルミエス殿下のこと」

 

 

そこまで言われて黙り込むエイテス、どうやら聖天殿下にはバレバレだったようだ。確かにエイテスから見たらルミエスは魅力的だ、美しいし、外交官としても優秀である。エイテスから見たらルミエスはとても尊敬できる相手である。

 

しかし、同じ王族でもアプローチをかけるのは少し勇気が足りない。エイテスはまだ17歳で、こう言った色恋沙汰にはあまり知識がないのだった。

 

 

「ここで勇気を出した方が男らしいですよ」

「うぅ……わ、分かりました。勇気を出してみます!ありがとうございます、聖天殿下」

「フフッ、この先を進めば天ツ上風の庭園があります。2人っきりで過ごすにはうってつけですよ」

 

 

そう言って聖天殿下はルミエスに「急な予定ができたから護衛と共にここを離れる」ことを伝えると、振り向き様にエイテスに向かってウィンクをして離れていった。2人っきりになったところで、すかさずエイテスはルミエスに声をかけた。

 

 

「あ、あの……この先に綺麗な庭があるそうです。ご一緒に行きませんか?」

「まあ、そんな所があるのですね。喜んで、さあ行きましょう」

 

 

とりあえず第一段階はクリアした、とエイテスは心の中でガッツポーズをとった。ふと後ろを振り返れば、柱の陰から聖天殿下がひょっこりと顔を出し、親指を立ててエールを送っている。

 

 

「わぁ……綺麗……」

 

 

少し歩いて辿り着いたのは、池といくつかの植物に囲われた立派な天ツ上風庭園であった。池には真っ赤な木製の橋がかかり、あたりの植物は手入れをされていてとても綺麗だった。小道の外れには砂で作ったらしい幾何学模様が描かれており、風情あふれる雰囲気を醸し出していた。

 

 

「さあ、行きましょう。エスコートします」

「ありがとうございます、エイテス殿下」

 

 

ルミエスはそう言って恥ずかしながらエイテスの手を取った。少し顔を赤面させながら、エイテスもルミエスの手を取り、エスコートをし始める。その様子を木の陰からこっそり見ていた聖天殿下はガッツポーズをとって喜びをあらわにするのであった。

 




天ツ上の皇太子はオリジナルキャラですが、要望があったので作成しました。アイデアをくださった方、ありがとうございました。ちなみに、今回のエイテスとルミエスのデートを仕組んだように、彼は案外気さくな性格をしています。
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