とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

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今年最後の投稿になります。皆さま今年度は「とある飛空士への召喚録」をご観覧いただきありがとうございましたm(_ _)m

それと、今回かなりグロテスクな表現が含まれます。
苦手な方はご注意ください。


第42話〜悲劇〜

パーパルディア皇国から見れば、アルタラス王国の玄関口となる海岸線。海岸と荒野だけが広がる、不毛の地がそこにある。塩が混じっているせいで、植物もあまり生えずにまばらに植生するのみ。魔石鉱山もなく、人が根付くには困難を極めるため、土地には名前すら与えられず放棄されている。

 

しかし、海岸線は広く上陸するにはもってこいだった。パーパルディア皇国は海岸線に対するワイバーンによる偵察を何度も敢行し、入念な事前情報のもと上陸を開始した。彼らは特に苦労する事なく1万人の兵を揚陸させることに成功したのだ。

 

この作戦にはパーパルディア皇国の威信がかかっている。レミールの命で兵力は当初の3千人から1万人に増強され、万全の準備を敢行していた。

 

この戦力ならば、無傷でアルタラスを占領できる。海上では手ひどくやられたが、今度は負けやしない。誰もがそう思い、今回の戦いもそのように推移する──はずだった。

 

異変は上陸してから少し経った後に現れた。上陸用のボートたちが浜辺にたどり着き、兵士たちが砂浜に上がった。そこまではいい、その後幾らか進んだ後、その地面がいきなり爆発したのだ。それも、人の足を確実に狙った炸裂弾の応酬であった。

 

さらにはそれらの爆発はただ地面が破裂するだけではない。いくつかの丸い円筒状の物体が宙に跳躍すると、幾つもの鉄球が兵士たちに降り注いだ。

 

彼らを苦しめたのは、ア軍が仕掛けたレヴァーム製の対人地雷だった。普通の地面に仕掛けるタイプと、宙に舞って鉄球を撒き散らす跳躍地雷の二種類がありとあらゆる場所に仕掛けられていた。

 

兵士たちは宙を舞って頭から地面に叩きつけられたり、足を吹き飛ばされて瀕死の重体を負ったりした。跳躍地雷の数は少なかったが、運悪くそれに当たった兵士は鉄球に頭や体を貫かれて脳味噌を撒き散らした。パ皇軍は恐慌状態に入り狼狽し始め、混乱はシウス将軍にまで一気に伝わった。

 

一方の上陸部隊隊長バフラムは何が起こっているのか分からずに、阿鼻叫喚の渦に飲み込まれていった。

 

その渦をさらに広げるかのように、雄叫びが海岸線に響いた。ぱかりぱかりと蹄を鳴らし、大地を揺らして駆けてきたのはターラ14世率いるア軍騎兵隊であった。

 

地雷原の爆発が収まったところを見計らって、彼らは一気に突撃を敢行して来たのだ。混乱の極みにあったパ皇軍上陸部隊たちは恐慌状態に陥り、戦場を騎兵たちにかき乱された。

 

パ皇は戦いの準備が整っていなかった。彼らの装備するマスケット銃は装填に数十秒かかることがあり、直ぐには撃つことが出来ない。上陸して直ぐの戦闘は想定していなかった為、その隙を突かれた形で混乱が広がっていった。

 

一方のア軍の騎兵隊にはレヴァーム製の騎兵銃が装備されていた。レバーアクションによって馬の上でも再装填ができる為、彼らは同じ銃でも相当の差がつけられていたのだった。

 

さらにはターラ14世は王家に伝わる伝統の剣を携えて、接近戦で活躍していた。この距離になると騎兵銃よりもその方が使い勝手が良いからだ。

 

だが彼らの奮闘も限界があった。戦闘の準備を整えたパ皇軍兵士たちは馬に向けてマスケット銃を乱射。馬がやられれば、騎兵は落馬してしまい、重傷を負ってしまう。そこを銃剣を付けたパ皇軍兵士に取り囲まれて戦死した。

 

また、パ皇軍が投入した『リントヴルム』と呼ばれるゾウの2倍近くある大きさの地竜の導力火炎放射器によって、馬ごと焼かれた兵士もいた。炎に飲まれて悶え苦しみながら落馬する兵士にパ皇軍は容赦なくマスケット銃の引き金を引いた。

 

ターラ14世はそんな状況でも必死に斬り込みをかけて、ついには混乱状態にあったバフラム目掛けて一直線に向かっていった。彼の刃は見事にバフラムの喉を貫き、命を絶たせた。しかし、そこで剣が抜けずにパ皇軍に取り囲まれてしまい、銃剣を突き刺されてターラ14世は戦死してしまった。最後にレヴァームに亡命したルミエスの名を呟いて。

 

こうして、パ皇軍はかなりの被害を受けながらもアルタラスに対する橋頭堡を獲得するに至った。その後、ターラ14世が戦死した為さしたる抵抗もないだろうと思っていた彼らは王都までの途中のルバイル平野でまたも地獄を見ることになる。

 

草一本も生えていないルバイル平野。高低差が少なく、遠くまで見渡せるこの荒野で、ア軍1万9千とパ皇軍9千人が激突した。ア軍は塹壕に篭って小銃を構えて待ち構えていた。

 

対してパ皇軍は戦列隊と呼ばれる、マスケット銃を効率よく撃つための戦列歩兵を何列にも渡って組んでいた。それは、小銃にとっては良い的であった。

 

開戦と同時に、パ皇軍はリントヴルムを76ミリ対戦車砲で次々と撃破され、あっという間に丸裸にされた。そして彼らは小銃の餌食に自らかかっていることを知らずに、そのまま恐慌状態のところを撃ち殺されていった。

 

バフラムから代わって陸戦隊の指揮を取り始めていたベルトランは、彼らが使っているのがマスケット銃の類だと気づくと、そのまま突撃を敢行した。パ皇軍にとっては文明圏外の国に対して初めての突撃命令だった。

 

パ皇軍は大きな犠牲を出しながらも、ア軍の陣地にある塹壕まで潜り込み、銃剣同士の殴り合いとなった。ア軍はまだ小銃を使い始めたばかり、それに対しパ皇軍はマスケット銃を使い慣れている。その差は歴然としていた。それでもア軍は、パ皇軍に甚大な被害を与えて戦いの幕を下ろした。これが、アルタラス島の戦いと呼ばれた戦争が終わった瞬間であった。

 

パ皇軍は甚大な被害を出しながらもなんとかアルタラスを占領した。そして捕虜の中にはアルタラスとの条約に基づきアルタラスに残っていた、レヴァームと天ツ上の武官たちとその家族50名が居た。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

第三外務局、その応接室に続く扉まで第三外務局局長カイオスは怪訝そうな表情で歩みを進めていた。彼の両隣には東部担当部長タールと東部島国担当課長バルコが控えている。

 

その先頭をゆくカイオスの顔色は優れない。緊張した趣で、冷や汗を流しながら歩いていた。彼が緊張している理由は、これから会談する国の名前にあった。

 

 

──なんとかして彼らとの戦争を回避しなければ……

 

 

これから、レヴァームと天ツ上の使者との会談が行われる。会談内容は『フェン沖海戦での処遇について』カイオスはまだルディアスが実権を握っていた頃の帝前会議でその話題について触れていた。そのため、被害者であるレヴァームと天ツ上がなんらかの要求を行なってくるのは明白だった。

 

カイオスはクーデターが起きてからはなるべく穏便に事を済ませ、反抗の機会を伺っている。そうでもしなければ、レミールたち過激派に囚われてしまうからだ。

 

レミール達過激派はレヴァームと天ツ上との戦争を望んでいる。まだ囚われの身でない今の段階でなるべく出来ることをし、レヴァームと天ツ上との戦争を回避しなければならない。そうでもしなければパーパルディアは滅んでしまうからだ。

 

 

──彼らは絶対に勝てる存在ではない。

──なんとか穏便にことを済ませなければ……

 

 

カイオスは吹き出る汗を拭い、応接室の扉をガチャリと開けた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

レヴァームの外交官アメルと天ツ上の外交官朝田、篠原の三人は第三外務局の窓口のある建物から出て、別館に案内された。建物の外観は白を基調としており、柱の一本一本に至るまで繊細な彫刻が刻まれている。

 

天井には金で出て来た彫刻が施され、国力を表していた。並の文明圏外国の外交官がここに案内されたら、威圧されて恐れをなしたかもしれない。そんな様子を微塵も見せない彼ら三人は、思い思いに雑談して過ごす。

 

 

「ここはなんだか、レヴァームの歴史ある城の応接室に似ていますね。少し前に旅行で行ったことがあります」

「奇遇ですね、私もそのお城見に行きましたよ。ええと……名前はなんだっかな?」

「それはサン・クリストバルのトリステン城ではありませんか?」

「ああ、それですそれ。かなり豪華な城だったので、印象に残っています」

 

 

まもなく扉がノックされて、窓口職員として彼らを対応したライタと呼ばれる人物が入ってきた。

 

 

「準備が整いました、カイオス殿が入ります」

 

 

ライタの掛け声とともに、何人かの人物たちがこぞって入って来た。彼らは会釈をしながらゾロゾロと応接室に入っては着席する。

 

 

「ここで自己紹介を」

「はい」

 

 

ようやく本題に切り出せそうなところなので、促しに応じて自己紹介をする。

 

 

「帝政天ツ上外務省職員の朝田です。こちらは、私の補佐をする篠原です」

 

 

眼鏡をかけ、ビシッとした髪型の端正な顔立ちをした朝田が品よく一礼した。続いて少し小太りだが、自信に満ち溢れた篠原が礼をする。

 

 

「神聖レヴァーム皇国外務局職員、アメルと申します」

 

 

最後に挨拶をしたのは女性のような顔立ちと髪型をした、これまた端正な顔立ちのアメルだ。その後はパーパルディア側の自己紹介に移る。東部担当部長タール、東部島国担当課長バルコの二人を挨拶させて最後に一番偉いであろう男性が挨拶する。

 

 

「第三外務局、局長カイオスだ。して……今回は何用で皇国に来られたのだ?」

「はい、先日9月25日のフェンでの軍祭における天ツ上に対する攻撃と、フェン沖海戦の件について正式な要求と関係改善に向けた協議をしに来た所存でございます」

 

 

期間が数ヶ月以上空いてしまっているが、今回はフェン沖海戦についての処遇について質問と要求を求めてやって来たのだ。実は、フェン沖海戦が終わった直後からこの会談を打診していたのだが、パーパルディアでクーデターが起きてしまっていたため延期に延期を繰り返していた。そして、やっと話がまとまったのが今日だった。

 

 

「フッ、要求だと?貴様ら文明圏外国が偉そうに何を……」

「よさんかタール……して、フェンに向かった我が国の国家監察軍の消息が掴めていないが、何をした?」

「はい、貴国のワイバーンロードが軍祭に参加していた天ツ上艦隊に対して攻撃を加えたため、天ツ上艦隊は自衛のためワイバーンロードとフェン領海に近づいていた戦列艦を攻撃しました。戦闘の結果、ワイバーンロード20騎と戦列艦22隻を撃破、竜騎士レクマイアとポクトアール提督を捕虜としました」

 

 

カイオスがタールをなだめ、話を進めると彼らはとんでもない結果を言い出した。が、カイオスは予想通りの結果だと思い、頭を抱える。

 

 

「馬鹿な!文明圏外の国が我が国の監査軍を撃破するなど!しかも監察軍に攻撃を仕掛けておいて、何事もなかったかのようなその言動!タダで済むと思っているのか!!」

 

 

今度はバルコが文明圏外の使者に対するいつもの口調で三人を恫喝する。しかし、彼らは涼しい顔で怯んだ様子はない。

 

 

「いいえ、我々天ツ上は降りかかった火の粉を払ったに過ぎません。あくまで自衛の一環です」

「栄えある皇国監察軍を、火の粉呼ばわりとはっ!貴様ら、我々を見下しておるのかッ!!!」

 

 

課長バルコは怒りのあまり、目がすっかり血走っていた。

 

 

「止めろバルコ、話が進まん……して、要求というのは?」

「はい、我々天ツ上政府は被害を受けていないため金銭的な要求はいたしません。ただし、今回の行き違いについて理由を説明し正式に謝罪することを要求いたします」

「貴様我が国に謝罪しろだと!?どの口が言う!!」

「ふざけるのも大概にしろ!即刻捕虜を解放して貴様らこそ我が国に謝罪しろ!!」

 

 

外交の場において、いきなり理不尽な要求を突きつけ返すバルコとタール。外交の場でこの要求はあり得ないが、第三文明圏ではパーパルディアが頂点なのでどんな理不尽も許されていた。彼らはその癖が出てしまったのだろう。

 

 

「止さんか!話が進まんぞ!!……貴国への正式な謝罪となれば、我々だけでは決められない。しかし、捕虜の返還についてはどうするつもりだ?」

「それに関しては……」

 

 

と、その時だった。いきなりノックもなしに扉がばたりと開かれ、扉の外から一人の女性が入って来た。こちらの意思など素知らぬ顔でつかつかと歩いてくる。

 

その女性は線が細く、頭には金の(サークレット)を戴いている。年幅20代後半くらいの美しい銀髪の女性だった。彼女の鋭い視線に睨みつけられたアメルたちは、珍しく一瞬硬直する。

 

 

「レ、レミール様?いきなりどうなされたのですか?」

 

 

アメルたちが呆気にとられている中、レミールと呼ばれた女性はカイオスに向き直る。レミール、聞いたことがある。確かパーパルディアにおけるクーデターの首謀者であり、現政権の主導者的な女性だったはずだ。

 

この数ヶ月間、アメルたちは決して遊んでいたわけではない。その間もパーパルディアに対するカードを増やすために勉強をしたり、パーパルディアについて調べたりしていたのだ。そのため、彼女のことも名前だけは知っていた。確か、クーデターが起こる前は外務局監査室と言う場所に所属していたはずだ。

 

 

「カイオスよ、席を立て。レヴァームと天ツ上との交渉は私が代わることになった」

「え?で、ですが……」

「黙れ!貴様は退席だ!!蛮族に頭を下げるような軟弱者など我が国には要らぬ!!」

 

 

呼び止めようとしたカイオスを、レミールが睨み付ける。そして、彼女はアメルたちが目の前にいる中でそんなことも気にせず胸ぐらを掴んで恫喝した。

 

 

「わ、分かりました……」

「フンッ、ではそこの席を空けろ」

 

 

そう言ってレミールはカイオスだけを退席させて、その席に堂々と座り始めた。呆気にとられるアメルたちは気を取り直して表情を改める。

 

 

「私はパーパルディア皇国の皇女レミールだ。改めてカイオスに代わり、お前たちとの外交を担当する」

 

 

初対面の相手にもかかわらず、高圧的な態度のレミール。外交と呼ぶには無礼で失礼なものであったが、アメルも朝田もこの日で慣れっこだった。

 

 

「改めまして、帝政天ツ上の朝田と申します。こちらは篠原と申します」

「神聖レヴァーム皇国のアメルと申します。局長殿を退席させて、どのようなご用件でしょうか?」

 

 

アメルの質問に、レミールは不敵に笑った。

 

 

「いや、お前たちに面白いものを見せようと思ってな……これは皇女である私の意思だ」

「それはそれは、何を見せてくださるのでしょうか?」

 

 

レミールは使用人に目で合図する。使用人は合図に応じて呼び鈴を鳴らすと、外から扉が開いてそこから横長の水晶の板を貼り付けた、オルガンのような装置がレミールの前に運び込まれた。

 

 

「これは魔導通信機を進化させ、音声だけでなく映像まで見えるようにした先進魔導技術の結晶だ。この映像付きの魔導通信機を実用化しているのは、神聖ミリシアル帝国と我が国くらいのものだ」

「はぁ、そうですか」

 

 

別段驚かなかった。レヴァームと天ツ上でもカラーテレビは実用化しているし発展の理論もあるからだ。一般家庭にも普及しており、天ツ上では「3C」だなんて言われて、車とクーラーと並んで普及し始めている。

 

一方のこちらは筐体が大きすぎるので、いかんせん古臭さが否めない。国力を見せたかったのだろうが、アメルたちにとっては落胆の要素だった。

 

 

「これを起動する前に、お前たちにチャンスをやろう」

 

 

レヴァームと天ツ上の感覚からしたら質の悪い紙が使用人から渡された。その紙には以下の内容がフィルアデス大陸共通言語で記載してあった。

 

・レヴァーム、天ツ上の王には皇国から派遣された皇国人を置くこと。

・レヴァーム、天ツ上内の法を皇国が監査し、必要に応じて改正できるものとする。

・レヴァーム、天ツ上の軍は皇国の求めに応じ、軍事力の必要数を指定箇所に投入しなければならない。

・レヴァーム、天ツ上は今後外交において、皇国の許可なくして新たな国と国交を結ぶことを禁ず。

・レヴァーム、天ツ上は現在把握している資源の全てを皇国に開示し、皇国の求めに応じて差し出すこと。

・レヴァーム、天ツ上は現在知り得ている技術の全てを皇国に開示すること。

・パーパルディア皇国の民は皇女レミールの名において、レヴァーム、天ツ上の国民の生殺与奪の権利を有することとする。

 

 

とんでもない要求が、そこには書いてあった。これはレヴァームと天ツ上を属国以下の扱い、つまりは植民地化すると言うことだ。それに対して朝田と篠原は絶句する。そして、最後にもう一つ──

 

 

・神聖レヴァーム皇国の皇女ファナを奴隷として差し出せ。

 

 

「なんですかこれは?」

 

 

驚きのあまり目を見開いて言葉を失う朝田と篠原を横目に、アメルはあくまで冷静な態度で質問する。

 

 

「なんですかだと?そのままの意味だが何があるのか?」

「我々は独立国家です。貴国に属国にされるいわれはありませんし、このような要求を飲むわけにはいきません」

 

 

ここはキッパリと断るアメル。それもそうだ、この要求は植民地化の要求。かつてのレヴァームが天ツ上に対して行った要求とほとんど一緒だ。一方のレミールはそれを聞いて悪魔のような笑みを浮かべる。

 

 

「ほっほっほ……そう言うと思ったぞ。やはり蛮族には教育が必要だな。どれ、貴様らに更生の余地があるか……再考の機会を与えてやろう」

 

 

アメルたちを名指して「蛮族」と言ったことに対して、さすがに不快感を露わにする。

 

 

「どう言うことですか?」

「これを見るがいい」

 

 

レミールが指を鳴らすと、眼前の水晶の板に質の悪い映像が映し出された。

 

 

「なっ──」

「──っ!!」

「!?」

「こいつらが誰だか、お前たちには分かるな?」

 

 

アメルたちはその映像を見て絶句した。両手足を縄で繋がれ、一列に並べられている人々。その数は50人ほど。ほとんどが軍人の服を着ており、中には子供の姿もいた。老若男女関係なく並べられおり、軍服の服装や顔つきはアメルたちのよく知る人種のものだった。

 

 

「レヴァーム人……」

「あ、天ツ人も!!」

「そうだ。お前たちの返答次第で、こいつらを見逃してやっても良いぞ」

「一体どこで……!?、まさかアルタラス!!」

 

 

朝田は思考を照らし合わせて、その答えを探った。確か、パーパルディアはアルタラス王国に侵略戦争を仕掛けたと聞いた。結果はアルタラスの敗北、しかも現地には逃げ遅れたレヴァーム人と天ツ人の武官たちとその家族が残っていたという。

 

アルタラスからの要請で救出作戦を計画していたが、あまりにパーパルディアの侵攻スピードが速すぎて対処できなかったそうだ。

 

 

「卑怯な事はやめて下さい、彼らは捕虜でありこの件に関しては無関係です。捕虜は丁重に扱うべきです、即刻解放を要求します」

「要求……?蛮族が皇国に要求するだと!?立場を弁えぬ愚か者め!!」

 

 

そう言ってレミールは魔導通信機を持ち──

 

 

「──殺せ」

 

 

一言、そう命令した。

 

 

「止めろ!!」

 

 

朝田の静止を聞かずに、レミールはそう宣言した。途端、無慈悲な刃がレヴァーム人と天ツ人に降り注いだ。軍服を着た男性にナイフが突き立てられた。血飛沫が首元から滴り、僅かな悲鳴とともに絶命した。そのままナイフは下へ下へと肉を抉るかのように突き立てられていった。

 

 

『いやぁ……あなた……いやぁぁぁぁ!!』

 

 

その男性を見て悲鳴を上げた家族らしき人物にも、すぐさま腹部に剣が突き立てられる。内臓を貫いて真っ赤な鮮血で服を汚し、そのまま力無く倒れ込んだ。

 

 

『おかあさん!おかあさん……いや!いやぁぁぁぁ!痛い!痛いぃぃぃぃ!!!』

 

 

その二人を見て怯え切っていたのは一人の少女だった。彼女には目玉にナイフが突き立てられ、そのまま抉り出される。まるで嬲り殺しだ、各々の好みに好き勝手されるかのような、まるで玩具だった。

 

 

「止めろ!止めろぉぉぉ!!」

「こんな……こんなの酷すぎる……」

 

 

朝田はその惨状に激昂し、篠原は倒れ込んで泣き出した。アメルは一人、レミールを睨みつけながら鋭く疑問を投げかける。

 

 

「人の命を弄んで……楽しいですか……?」

「いや、むしろ何も感じないな。貴様ら蛮族をどれだけ殺そうと、私の知ったことではない。ほっほっほ……」

 

 

そう言って扇を口に当ててせせら笑うレミール、それに動じることなくアメルは宣言する。

 

 

「あなたの行動はレヴァーム人と天ツ人約4億人の怒りを買うことでしょう。蛮族、蛮族と罵っていますが、あなた達の方がよっぽど愚かです……!」

 

 

珍しく、怒りをあらわにするアメル。物静かで事務的な彼がここまで怒りをあらわにするのは朝田達にとっては初めてだった。

 

 

「アメルさん」

「……最後に一つだけ言っておきます」

 

 

篠原が声をかける。それに振り向き、最後にアメルはレミールに向き直った。

 

 

「我々はこのような蛮行を許すわけにはいきません。この首謀者とこの国には、必ず()()()償ってもらいます」

「フンッ、何が報復だ。皇国の躾を虐殺だの蛮行だの……これだから文明圏外の猿は」

 

 

「猿」と言う言葉に朝田と篠原が思わず反応した。彼らも怒りの所業でレミールを睨みつけている。

 

 

「お前たちの命は預けてやる。とっとと帰って、今度は我らに土下座しにくるがいい!」

「その言葉、次に言うことになるのは誰でしょうかね?」

 

 

そのまま会議は終了した。この件はレヴァームと天ツ上で大きく報道され、両国の国民を震撼させた。彼らの中で、パーパルディアに対する怒りが沸き起こったのだった。

 

 




今回の話で第3章は終了です、キリのいいところまで書けてよかった……次回からは第4章になります。それでは、良いお年を。

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