現在、公募用の小説は8割方出来ているのでこちらを執筆いたしました。
とりあえず、リクエストを受け付けてからストックを書くことにいたします。活動報告にて、リクエストを受付中です。
中央暦1639年12月1日
神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上も、この日は転移して初めての12月の始まりだった。その日は寒空で、上空からはしとしとと粉雪が降り始めていた。
そんな雪化粧に彩られた神聖レヴァーム皇国の皇都エスメラルダ。その旧市街地にある中央宮殿にて、レヴァームの重役と、招かれた天ツ上の重役達が集まっていた。
「これより、『対パーパルディア皇国戦略会議』を始めたいと思います」
司会進行役のファナが、そう言って会議の一幕を開けた。今この場所にはレヴァームの重役だけでなく、本来ならいないはずの天ツ上の重役たちも集まっていた。
中央海戦争前では、宮殿内に天ツ上の人間を入れることなど考えられなかったが、これもファナの労力のおかげであろう。
そもそも、この会議はパーパルディア皇国に対する戦略会議である。両国の戦略目的を一致させるためにも、両国の重役を集めるのは当然の措置だろう。
「まずはアメル外交官殿、朝田外交官殿、状況の説明をお願いいたします」
「はい、皆様も知っての通り、去る11月30日。フェン沖海戦での処遇の追求に赴いたレヴァーム、天ツ上の大使に対し、パーパルディア皇国は理不尽極まりない要求を突きつけてきました」
先日宣戦布告文書をレミールに渡したアメル外交官が、ハキハキとした口調で全員にそれを伝える。
「中には、神聖レヴァーム皇国の執政長官であるファナ・レヴァーム殿の身柄要求まで含まれており、到底呑める物ではありませんでした」
「無礼な……」
「パーパルディアめ、許せん……!」
レヴァーム、天ツ上両国の血気盛んな軍人たちが口々にパーパルディアを罵った。
「我々はその要求を棄却したところ、我々の目の前でアルタラスに滞在していた両国国民55名が残酷な方法で殺害されました。首謀者は、現在パーパルディアを実効支配しているレミール皇女で、彼女の他にも軍部も絡んでいる可能性があります。そして、現在パーパルディアはレヴァームと天ツ上に対して殲滅戦、つまりは民族浄化を敢行しようとしています」
と、一旦アメルは隣にいる朝田にバトンをパスした。
「天ツ上外交官の朝田です。我々はこれに対し、パーパルディア皇国に責任を取ってもらわねばなりません。もうすでに、そのための宣戦布告文書は手渡しました。あとは、対パーパルディア皇国の戦略を決めるまでです」
「……アメル外交官殿、朝田外交官殿、ありがとうございました。次にナミッツ中将、先ずは我々の戦略目標をご説明お願いいたします」
「はい、私から説明させていただきます。お手元の資料をご覧ください。今回のパーパルディア皇国への措置は、虐殺の首謀者の身柄引き渡しと、パーパルディアの対外恐慌政策の防止です」
名指しされたナミッツは、会議室の全員に向き直って説明を開始した。
「まずは、パーパルディアによって占領されているアルタラスを武力を持って上陸。奪還、アルタラスを解放いたします。パーパルディア皇国は自らの力に絶対的な自信を持っているため、それを逆手に取るのです」
資料では、パーパルディアの陸海軍の予想規模と、投入される自軍戦力が記されていた。これは、のちの偵察をもとに書き換えることもある。
「かの国は強大な軍事力を背景に他国を見下しています。そのため、その武力を挫くことで交渉のテーブルにつかせる。それが私の考える今回の対パーパルディア皇国戦略です」
「少しよろしいでしょうか?」
と、そこで手をあげたのは神聖ミリシアル帝国から派遣され、レヴァームの大使館に着任した外交官のフィアームだった。彼女は、パーパルディアに詳しいこの世界の人間として、今回の会議に参考人として参加していた。
「失礼ですが、かの国はかなりプライドの高い国です。なので、それくらいの敗北では『局地戦に負けた』としか思わないでしょう」
「それは、かの国が陸軍大国だからでしょうか?」
「それもあります。ですが海戦にも強い国であるため、そのプライドが負けを認めようとしないのです。おそらく、かの国はそれくらいでは交渉のテーブルにつかないでしょう」
「なるほど、という事はアルタラスの解放だけでは彼らは降伏しないと……」
ナミッツは彼女の意見に耳を傾けて、改めてパーパルディアの愚かさに呆れた。
「自軍の絶対の自信が崩れたら、普通は原因を調査するものではないのですか?」
「いいえしません、プライドが高すぎて敗北から何も学べないのです」
その言葉に、会議室の面々からは静かな笑い声が響いた。パーパルディアとの関わりがあるミリシアルだからこそわかる、あまりにも愚かで浅はかな国の有様であった。
「失礼します、私からも少しよろしいでしょうか?」
「はい、聖天殿下」
今度は、天ツ上から派遣された皇族の聖天が発言権を得た。
「はい。今回の件、私なりに考えてみたのですが、パーパルディアが飛空艦に対する対策をしているのではないかと思うのです」
「対策?どういうことでしょうか?」
「はい、我々はパーパルディアとのファーストコンタクトで飛空艦の脅威を見せつけました。政権を握っているレミール皇女も、それについて知っているはずです。そのため、なんらかの対策を講じている可能性は否定できません」
聖天のハキハキとしたソプラノボイスが、会議室を穏やかにする。
「海戦で勝つにしろ、我々にもその対策は必要でしょう。例えば、この世界の飛空船と呼ばれる船を戦列艦に改造したりなどです。現に、かの国は魔石の埋蔵量が豊富なアルタラスを占領しています。魔石に余裕があるため、魔法兵器を量産している可能性があります」
「なるほど……飛空船を戦列艦に改造ですか……脅威ではありませんが、空雷が必要になる可能性もありますね。わかりました、対策をしておきましょう」
ナミッツ中将も聖天の意見に感化されたのか、新たな対策を練り直すことにした。
「そもそも、疑問なのですがこの件の原因はなんなのでしょうか?今まで両国ともパーパルディアとは比較的いざこざもなく、仲良くやっていたはずですが……?」
と、今度はマクセルが自らの疑問を口に出した。
「はい、それに関しては交渉の場でレミール皇女から直接聞き出しました。今回の戦争の原因は……
「え?」
シンと、会議室全体が静まり返った。
「事の発端は、我々がファナ長官を伴ってパーパルディアとのファーストコンタクトを取った時からです。その時に、当時のパーパルディア皇帝ルディアスが、ファナ皇女に態度を良くしたことから、レミール皇女はファナ殿下に嫉妬するようになりました」
「…………」
「その結果、レミール皇女はクーデターを起こし、ファナ皇女に対して復讐をするために戦争を仕掛ける策略を仕掛けたのです」
「………………」
「
「…………」
会議室が静まり返り、しばらく誰も話さなかった。いや、話せない、という方が正しいだろう。
「…………失礼、という事はそのレミール皇女は私情でレヴァーム人と天ツ人を虐殺をした、という事でしょうか?」
あまりに突拍子もない事実に、思わず聖天が席を立って質問する。彼にとっても、この事実はあまりにも信じがたい事であったからだ。
「はい、そうです。レミール皇女は前々からルディアス皇帝に対して好意を抱いており、ファナ長官にルディアス皇帝が気を良くしたため、
「…………ありがとうございます」
聖天もその事実に、俯きながら返事をした。
「許さない!!!」
と、木製の机が凹むほどの拳を叩きつけた人物がいた。その人物はレヴァームの軍のトップ、ナミッツだった。
「そんな程度の浅はかな理由で、我々の国民は殺されたのか!!」
ナミッツは心の中の怒りをぶつけにぶつけまくった。それは、この会議室にいる面々全ての気持ちを代弁していた。
「ええ、許せません!そんな個人の私情で……人の命をなんだと思っているのでしょうか!」
マクセルも思わず怒りをあらわにした。
「ファナ長官!我々もパーパルディアに対して殲滅戦を敢行しましょう!全面戦争です!国民にもこの事実を公表して、パーパルディアが滅ぶまで戦争を続けるのです!」
「…………ナミッツ中将、冷静になりましょう。それではパーパルディアと変わりありません」
「しかし長官!そうでもしなければ、両国民の怒りは治りません!!」
「そうですよ長官!そもそも我々は殲滅戦を仕掛けられているのです!殲滅戦には殲滅戦で対抗する他ありません!!」
と、会議室は一気に主戦派で埋め尽くされ、怒号の飛び交う殲滅戦会議となった。しかし、その勝手な進行をファナ執政長官が許すはずがなかった。
「静粛に!!!」
ドン!という、先程のナミッツの拳よりもさらに力と威厳のある拳が、机を叩いた。
「皆さん!我々は獣ではありません!共に理性ある人間です!理由がなんだろうと、その国に対して殲滅戦を仕掛けるのはその国と同じレベルに堕ちることを指します!それでは、名誉ある人間の国ではありません!悪魔の国、パーパルディアと一緒です!!」
ファナは凄みを効かせた声で、会議室の面々に対して怒鳴った。
「そんな国に自ら陥ろうとするなんて、あなた方は人間ではありません!恥を知りなさい!!」
ただ怒鳴るだけでなく、しっかりとした口調と説得力を持って、会議室の面々を説得し始めた。
「彼女の言う通りです、あなた方は冷静さを欠いています。我々は理性ある人間として、振る舞うべきです」
怒りをあらわにしなかった聖天も、ファナに賛成する意見を出した。
「…………長官の言う通りだ、皆落ち着こう」
と、それに促されて両国の重役たちは落ち着いた。そして、そのまま全員席に座る。
「しかし、アルタラスを奪還するだけではパーパルディアは降伏に陥らない事はわかりました。そこでです……」
ファナは一呼吸置いて、言葉を続けた。
「我々の戦略目標を、パーパルディアの完全解体を目標にいたします!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
その後、この虐殺がレミールによるファナへの嫉妬が原因である事が両国の国民に明かされると、両国民の怒りは最高潮にまで達した。
特に、レミールに対する怒りは最高潮になり、殲滅戦もやむなしと言う考えも出てきたが、それはファナの演説で控えられた。あくまで、レヴァームと天ツ上の戦略目的はパーパルディアの完全解体なのだから。
一方、レヴァームに留学し留学生として滞在する元アルタラス王国の王女ルミエスは、ファナ執政長官直々に「話がしたい」と呼ばれ、宮殿に招待されていた。
リルセイドも同行し、二人ともレヴァームのファッションに身を包んで着こなしていた。二人の美人度がさらに高まっている。
「どうぞこちらにお座りください」
部屋に入ると、中にいたレヴァームと天ツ上の外交官達が一斉に起立し、ルミエスに一礼して迎えた。
上座まで導かれた2人が座り、一同も着席したところで、まずは外交官のアメルが挨拶をする。
「お忙しところお越しいただき、大変恐縮です」
「いえ、留学させていただいている身でありますし、今日もここまで送っていただきました。私たちの方こそ恐縮です。ところで私にご用件とは、どのような内容でしょうか?」
「はい、パーパルディアがレヴァーム人と天ツ人の要人を殺害した事件はご存知でしょうか?」
「はい、聞き及んでおります。両国の民の方々に、心からお悔やみ申し上げます」
ルミエスとリルセイドは左手を右胸に当てて、目を瞑る。アルタラスの文化圏における、民族宗教式の作法らしい。
「ありがとうございます。そして、我々は現在、パーパルディアに占領されているアルタラスの奪還の為、軍を派遣する方針を固めています。そこで……」
アメルは一呼吸置き、用件を伝えた。
「パーパルディアを退けた直後、ルミエス王女には君主、つまりは女王としてアルタラス王国正統政府を名乗っていただけませんか?もちろん、レヴァームと天ツ上はこれを承認し、現在両国と国交のある全ての国に承認を働きかけます」
ルミエスもリルセイドも、その言葉に驚きの表情を浮かべる。
「そ、それは本当ですか?」
「はい、本当です。実は、その後にもやっていただきたいことがあります」
「?」
アメルはそこで一呼吸置いて、本題を告げた。
「パーパルディアからアルタラスを解放した後、なるべく早い段階でパーパルディアの属領に蜂起を呼びかけて欲しいのです」
「!?」
今度は、ルミエスとリルセイドもかなりの驚愕の表情を浮かべた。
「そ、それはつまり……属領に一斉反乱を呼びかけると言うことでしょうか……?」
「そういうことです」
あまりに突拍子もない事実に、ルミエスとリルセイドは驚いた。そして、グルグルとその言葉を頭の中で思考する。
「そ、それでは……そんなことをしてしまうと、パーパルディア皇国は『属領の反乱』とみなし、レヴァームと天ツ上に対して殲滅戦よりもさらに酷い仕打ちを仕掛けてくるかもしれません……レヴァームと天ツ上を不幸にしてしまうかもしれません……」
だが、ルミエスはやはり列強であるパーパルディア皇国の力に対して恐怖心を抱いていた。その恐怖に、未だ心が囚われているままだった。
「安心してください、両国政府はパーパルディア皇国と全面戦争になることを恐れません。アルタラス奪還の後でも構いません。全ては、パーパルディア皇国の
「「!!!!」」
その時ルミエスとリルセイドは知った。レヴァームと天ツ上は自国の民を殺された怒りから、列強であるパーパルディアを解体するつもりなのだと。
だが考える。そんな歴史を動かすような、大きな所業な、ほんとんに可能なのだろうかと。ルミエスもリルセイドも未だ半信半疑だった。
「も、申し訳ありません……検討させてください……」
ひとまず返答は保留ということでまとまり、第一回目の極秘会議は終了した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
一方、パーパルディア皇国の皇都エスシラントでは、エルトがブルブルと震えていた。その文書には……
「ムーとミリシアルは観戦武官をパーパルディアに派遣せず、レヴァームと天ツ上に派遣する……だと……」
衝撃的な文章が、そこに刻まれていた。
日本国召喚第6巻が発売……だと……