とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

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日本国召喚第6巻、本屋で予約したので1週間後に入手できます。
今から楽しみです。

それと、ブログ版に出てきたグ帝の富嶽もどきを元に戦略爆撃機の名称を変更しました。

活動報告のリクエストはまだまだ募集しておりますので、是非ともよろしくお願いします。


第45話〜アルタラス沖海戦その1〜

神聖ミリシアル帝国 港町カルトアルパス とある酒場

 

中央世界にある、誰もが認める世界最強の国神聖ミリシアル帝国。その南端にあるカルトアルパスの酒場では、酔っ払い達が話をしていた。

 

 

「聞いたか?レヴァームと天ツ上って国が列強パーパルディア皇国に戦いを仕掛けるらしいぞ!」

「ああ、聞いたさ」

「また国が一つ滅ぶのか。こりゃ()()()()()()()()終わったな」

「ああ、あれだけのモノを作れる奴にパーパルディア如きが勝てるはずがないな」

 

 

そう言う彼らの手元には、何日か前の新聞が置いてあった。『謎大き新興国家レヴァーム、天ツ上!飛行戦艦でミリシアルに接触!』と書かれた大きな見出しとともに、レヴァームと天ツ上の飛行戦艦が写っている。

 

 

「空飛ぶ本物の戦艦、こんなモノを作れる奴にパーパルディアは戦争ふっかけたんだ、バカにも程があるだろ……」

「しかし、最近のパーパルディアは戦争に続く戦争だったな……第三文明圏の統一でもするつもりだったのかね?」

「今までコンプレックスだったんだろうよ、パーパルディアは中位列強国。ミリシアルやムーに比べると国力は劣る。だから、今回も相手を見下してレヴァームと天ツ上に喧嘩売ったんだよ」

「バカだなぁ、今回ばかりは勝てるはずないのに、パーパルディアの国民が可哀想だなぁ」

 

 

酒場ではレヴァームと天ツ上が勝つだろうと言う意見が、大半であった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

──ついにこの時が来た……!

 

 

飛空母艦ガナドール、巨大な甲板上の飛空機達がよく見えるその場所で、訓練飛空士ターナケインはたなびく風に身を委ねていた。空母ガナドールは現在、上空1000メートルの空を悠々と飛行している。空を悠然と飛行する他の艦隊も、ここからよく見える。

 

ついにパーパルディアとの戦争が始まった。レヴァームと天ツ上は協力して艦隊を出撃させ、まずアルタラスを奪還することを目標にしている。

 

ターナケインは訓練生ながらも、それに同行することになった。もちろん、飛空機で戦場に出て、である。ターナケインは戦空機に乗り始めてからはじめての実戦に、緊張と胸の高鳴りを抑え切れないでいた。

 

 

──これは俺に取ってのチャンスなんだ……

──それを絶対に掴み取る……

──復讐のためにも……!

 

 

訓練生のターナケインがこうして実戦に同行するようになった理由、それは1週間前に遡る。

 

 

「パーパルディア皇国と戦争になった」

 

 

ロデニウス大陸の飛行学校、その訓練生を集めた緊急会議での海猫の第一声はハキハキとしていて、冷静としていた。しかし、その言葉に訓練生のほとんどは互いに顔を見合わせて狼狽し始める。

 

それもそうだ、パーパルディアといえば列強の数少ない指の中に入る強国。そんな国と戦争になったというだけでも、衝撃的なのだ。

 

だが、ターナケインはこうなることは予測していた。ラジオやテレビのニュースなどで虐殺の件を知っていたし、レヴァームと天ツ上がその報復として戦争をふっかけるのは、十分予想できたからだ。

 

この国ならやりかねない、ターナケインは直に触れたレヴァームと天ツ上の実力に感化され、いつの間にかその実力を認めるようになっていった。そう、目の前にいる海猫を除いて。

 

 

「僕達にも、戦線復帰の命令が届いたよ。しばらく訓練は中止だ、教官達には前線での勤務があるからね」

 

 

海猫がそう言って、今日の授業は終了した。「解散」の合図とともに生徒達が散り散りに席を立って行く。

 

 

「あ、ターナケイン。話があるんだ、来てくれないか?」

「え?」

 

 

突然、ターナケインは海猫にそう呼ばれて振り向いた。今は特に断る理由がないので、そのまま海猫の後をついていく。教官用の執務室に入ると、海猫は椅子に腰掛け、その対面にターナケインを座らせた。

 

 

「一体何でしょうか? シャルル教官」

「うん、ターナケインは確か空母での離着陸はできるようになってるよね?」

「はい……着艦もできるようになりました、実際の空母でも行いましたから」

「うん。実はね、軍が君のことをかなり評価していて、パーパルディアとの戦いに君を連れてきて欲しいと頼まれているんだ」

「──!!」

「そのために、空母ガナドールに同行して欲しいんだ。やってくれるかな?」

 

 

ターナケインは海猫の言葉にかなり驚いた。自分はまだ訓練生、そんな自分が実戦に同行するというのは、異例中の異例だ。

 

 

「…………それは、どういった内容でしょうか?」

「うん、つまりは君に実戦での経験を積んで欲しんだ。戦場に出て戦え、って言っている訳じゃない。上空で鳥瞰しながら僕たちの戦いを見学して欲しいんだ」

 

 

ターナケインはそこまで聞いて、自分を指名した理由をだんだんと理解した。おそらく、軍側は早くターナケインという一人前の飛空士が欲しいのだろう。そのため、なるべく多くの経験を積ませて熟練させるのが一番だと考えている。

 

それならば、実際に戦場に出てみるのが一番だろうということだ。しかも、実際に戦場で戦うのではなく、ただ見学するだけ。しかも相手はパーパルディア皇国、レヴァームと天ツ上にとっては取るに足りない相手だし、自分のような訓練生を連れてきても問題ないのだ。

 

 

「どうするかい? 最終的には君の意思だけど……」

「…………それは、シャルル教官と一緒でしょうか?」

「? うん、僕は君の教官だから同行できるけど……」

「やります! 俺をパーパルディアとの戦いに参加させてください!」

 

 

と、ターナケインは気迫のある声で席を立ち、海猫に自らの意思を伝えた。その気迫に海猫は満足そうに頷き、ターナケインに向き直った。

 

 

「分かった、軍の方には連絡をしておくよ。出発は五日後、マイハーク要塞に集合だ」

「はい!」

 

 

出発日時と当日の予定が記された紙を海猫から手渡され、ターナケインは執務室を出た。サン・ヴリエル飛空場の空はすっかり夜に染まっていて、辺りには電灯が光り輝いている。戦争中だというのに灯火管制がないのは、相手が格下のパーパルディアだからだろうか?

 

そんなことよりも、ターナケインはチャンスを掴めたことに密かな喜びを感じていた。そう、これは復讐のチャンスだ。海猫が自分の元を離れる前にできる数少ないチャンス。

 

 

──待ってろよ海猫……

──その喉笛を掻き切ってやる……!

 

 

だが、今はその時ではない。ターナケインはその湧き立つ気持ちを押さえつけながら、自室に戻って寝床についた。

 

そして五日後、ターナケインはマイハークに作られた海上要塞に、所狭しと集まった軍艦達の中から飛空母艦ガナドールへと乗り込んだのだ。

 

飛空母艦の風当たりはかなり厳しい。それもそうだ、空を飛びながら40ノットほどの速度で航行しているのだから、冷たい風がモロに体に当たってしまう。

 

今自分がいるのは左舷の甲板下、救命ボートやパラシュートがくくり付けられている、外に突き出た場所だ。

 

ターナケインはこの風がむしろ好きだった。風を感じるのなんて竜騎士時代に散々あったし、むしろこの方が頭が冴える気がするのだ。

 

 

「ターナケイン」

 

 

背後辺りから自分を呼ぶ声がした。振り返ると、ロデニウス大陸でも珍しい黒髪を携えた、1人の青年が立っていた。

 

 

「シャルル教官」

 

 

彼は海猫であった。薄みかかった茶色の飛空服を身に纏い、ターナケインに蒼い瞳で微笑みかけている。

 

 

「ここは心地いいよね、風当たりがいいから頭が冴える」

「…………」

 

 

海猫はそう言ってこの場所の感想を述べた。と、そうしている時に「ジリリリリリリ!」という警報音がガナドール艦内に鳴り響いた。

 

 

『飛空士各員、格納庫に集合せよ』

 

 

ガナドール艦長からの通達に、海猫とターナケインは素早く反応する。おそらく、パ皇軍の艦隊を偵察機が発見したのだろう。

 

 

「行こう」

「はい」

 

 

そう言って海猫とターナケインは格納庫へとその歩みを進めた。格納庫にはすでに100名近い飛空士達が集まっていたが、遅刻してしまったわけでもなさそうだった。

 

全員が集まったところで、飛空長が黒板にパ皇艦隊の情報を書き込み、作戦の概要を説明する。

 

作戦はこうだ。まずアルタラス奪還の前にシオス王国に向かっているパ皇艦隊を捕捉し、撃滅する。パ皇艦隊にはワイバーンを乗せられる『竜母』と呼ばれる船があることから、そちらを先に叩く。そしてその後、レヴァーム天ツ上連合艦隊(レ天連合艦隊)は艦隊決戦でパ皇艦隊と対峙する流れだ。

 

そしてパ皇艦隊を撃滅した後レ天連合艦隊はアルタラスに向かい、アルタラスのワイバーン達を排除する。そして、制空権が取れたところで天ツ上陸軍の船である揚陸艦『あかつき丸』10隻でアルタラスに強襲上陸、制圧を開始する。

 

本作戦にはレヴァームと天ツ上から空母が4隻ずつ参加している。ガナドールの他にも飛空戦艦エル・バステルや重巡空艦ボル・デーモン、そしてレヴァームの主力駆逐艦であるアギーレ級駆逐艦数十隻が味方につく。

 

そして、先ほど偵察機であるサンタ・クルスからパ皇軍の竜母艦隊を発見したとの報告があった。すでにこちらは敵竜母を射程に捉えているが、あちらはまだレ天連合艦隊を捕捉できていないようだ。

 

 

「アウトレンジ攻撃ができる」

 

 

海猫とターナケインは2人揃って、この状況の好機を感じ取っていた。空母同士の艦隊決戦の中で、これほどまでに都合の良い状況はないだろう。敵はまだこちらを捕捉していないが、こちらは敵を捕捉している。

 

つまりは、気づかれる前にアウトレンジで攻撃することができるのだ。勝利の女神は最初からこちらに微笑んでいた。

 

 

「敵竜母艦隊旗艦ミール、アルタラス島北東35海里、進路50度、速力10ノット」

 

 

海猫達飛空士は黒板前に扇状に開いて広がり、目を皿のようにして敵位置の情報を頭に叩き込む。

 

ガナドールからの攻撃隊の内訳は艦上戦空機「アイレスV」30機、後に続く艦上爆撃機「ロス・アンゲレス」40機、艦上雷撃機「サン・リベラ」も40機。艦隊上空を守る直掩機は10機。

 

海猫をはじめとした飛空士達は、全員が制空隊として選ばれた。爆撃機、雷撃機に先んじて敵空母周辺空域へ攻撃をかけ、敵直掩を排除する役割である。

 

一方のターナケインは上空でメリエル少尉と待機であった。見学訓練生なのだから当然だ、護衛役のメリエルと共に上空でお留守番である。

 

 

「制空隊、発艦!」

 

 

飛空長の号令一下、海猫達はそれぞれの愛機へと駆け寄る。海猫の搭乗機にはもちろん、あの海猫のマークが描かれていた。

 

先頭、海猫がオーバーブーストで急加速して進発し、艦橋手前で車輪を浮かせた。間髪入れずに後続の戦空機隊も発艦していく。その背を見守りながら、ターナケインは最後に離陸した。

 

空が、にわかに戦場の色に染まった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

パーパルディア皇国軍(パ皇軍)はアルタラスを占領したのち、その港に艦隊を集結させていた。ここを経由地点とし、次にシオス王国をパーパルディアの圧力で港を開かせて経由。そのまま天ツ上に攻め込む作戦を考えている。

 

そして、パーパルディア皇国軍は艦隊を二つに分けてル・ブリアス北の港を出港していた。一つは戦列艦を中心とした主力艦隊、もう一つは竜母艦隊だ。

 

竜母艦隊の中心に連なるのは『竜母』と呼ばれる艦種である。竜母はワイバーンロードを搭載、発着艦を行うため、戦列艦に比べて二回りほど大きい。他国とは隔絶した圧倒的な建造技術があるからこそ、この船を作ることができる。

 

見る者を圧倒する威圧感を持つ竜母艦隊を横目に眺め、艦隊副司令アルモスは満足そうに頷いていた。そして、横に立つワイバーンロードの発着艦を補佐する竜騎士長に話しかけた。

 

 

「竜騎士長!」

「はっ!」

「皇軍は強い!」

「存じております!」

「何故強いと思う?」

「総合力です!」

「そうだ! だが圧倒的な強さを誇るのは、戦列艦をさることながら、この中核たる竜母艦隊が存在するからだ。この竜母さえあれば、どんな戦列艦の大砲よりも敵の射程外から攻撃できる。竜騎士長! 戦争では制空権を取った者が、陸でも海でも勝者になるのだ」

 

 

その戦術は、たしかに先進的だ。敵の圧倒的射程外から攻撃することのできる竜母の存在は、各国の海軍にとっては恐怖であろう。大砲の射程にたどり着く前に攻撃を受けるのだから。

 

副司令アルモスは、このような自軍の自慢話を周りに聞かせるのが大好きであった。自分の自尊心を高められるし、自惚れていられる。

 

 

「ご指導ありがとうございます! 先進的な戦術であります!!」

「皇軍が今までの海戦で無敵を誇ったのは、この竜母艦隊があってこそ。この艦隊がある限り、皇軍は覇王の道を突き進むであろう!!」

 

 

まるで演説を始めるかのように、アルモスは甲板の上で一歩を踏み出して両腕を大きく掲げた。

 

 

「そして見よ! 竜母艦隊の中で一際輝く、この最新鋭の旗艦『ミール』を!! ……この船は素晴らしい。船体は大きく、機能美に満ちている!」

 

 

彼の搭乗する艦、それは側からみればえらく大きく、美しく見えるであろう。通常の竜母に比べ、砲弾への耐性を持たせる為の対魔弾鉄鋼式装甲をふんだんに使用している。美しく、強く、そして大きな竜母、その名は『ミール』だ。

 

副司令官であるアルモスがこの船に搭乗しているのには、訳がある。それは、パ皇軍が艦隊を二分したことに起因する。艦隊を二分した為、本来の艦隊司令官は主力艦隊の方にいる。そのため、艦隊副司令だったアルモスが代わりに竜母艦隊の指揮を取っているのだ。

 

 

「一体どうなっているんだ……?」

「さあ、分からない……」

 

 

と、彼の優雅な演説を妨げるように通信兵達の狼狽が聞こえてきた。

 

 

「おいなんだ? 一体どうしたんだ?」

「あ、副司令……先ほどから偵察竜騎士から魔信が届いているのですが、一瞬の雑音だけで終わってしまうのです」

「は?」

 

 

そう言われたアルモスは通信兵と状況を確認する。魔信機を確認すると、確かに一瞬の雑音だけの通信がいくつか入っていた。

 

 

「その後、その偵察の竜騎士との連絡が全くつかないのです」

「一体何が…………」

 

 

と、その時だった。甲高いサイレン音が辺りに鳴り響き、耳に情報を与えた。そのサイレンはムーで開発された代物で、このミールに取り付けられていた物だった。

 

 

「!! なんだ!?」

『前方!6時の方向から飛行物多数!』

「!!」

 

 

そう言われてハッとしたアルモスは、望遠鏡を覗いてその方向を確認する。すると、確かにその方向から多数の飛行物体がこちらに迫ってきていた。

 

 

「ば、馬鹿な!対空魔振感知器からの反応は!?」

「あ、ありません!ほんの少ししか反応がないのです!」

「と、ということは……まさかあれは!」

 

 

アルモスは一瞬たじろぎ、すべてを察した。

 

 

「飛行機械!!」

 

 

列強ムーでしか発明、運用されていない空飛ぶ機械。それが、百近い数でこちらに攻め込んできたのだ。一体何故?飛行機械はムーでしか発明されていないし、そのムーがレヴァームと天ツ上に渡すわけがない。ならば、なぜ飛行機械がここにあるのだ!?

 

 

「い、いかん!ワイバーンロードを発艦させろ!今すぐだ!!」

「は、はい!!」

 

 

アルモスは焦った表情で竜騎士長に命令すると、すぐさまミールを含めた全ての竜母から邀撃のワイバーンロードが上がり始めた。

 

 

「よし、これで……」

 

 

飛行機械に関する知識はアルモスにはないが、列強のワイバーンロードが数百騎もいれば飛行機械だろうと臆することはないだろう。悠々と高度を取り始めるワイバーンロードを見て、アルモスはそう安心した。

 

 

「え?」

 

 

が、その希望はすぐに打ち砕かれた。先頭を進んでいたワイバーンロードが、敵飛行機械と対峙した瞬間、血飛沫となって爆ぜたのだ。一騎だけではない、何騎ものワイバーンロード達が一斉に爆ぜて消え去っていった。

 

 

「な、なんだと!?」

 

 

血に濡れたワイバーンロードが力なく墜落していく。飛行機械達は全く意に介さないように艦隊上空を飛び去っていった。

 

とんでもない風圧が艦隊にのしかかる。その刹那、アルモスと竜騎士長には青と灰色に濡れた飛行機械の胴体に、洒落たイラストが描かれているのが見えた。

 

海の上を飛び、鳥の癖にみゃあみゃあと鳴くその鳥は、海の男であるアルモスと竜騎士長には馴染み深い鳥であった。大海原を飛び続ける、その白い鳥の名は……

 

 

「……海猫」

 

 

海猫はその後、上空に飛び上がって翼を翻した。勇敢なワイバーンロード達が目立つ海猫に飛びかかろうとする。が、海猫はひらりひらりと火炎弾を交わし、ダンスを舞うような旋回でワイバーンロードの背後をとった。

 

次の瞬間、海猫から破壊の刃が振り下ろされた。ピカリと光る銀色の光弾に、ワイバーンロードが引き裂かれる。

 

 

「な!?」

 

 

その後も、パ皇軍のワイバーンロードは何度も海猫の背後を取ろうとしたが、海猫は意に介さない様子でひらひらと後ろをとっては刃を振りかざしていた。

 

そのうちに、直掩に上がったワイバーンロード達は海猫を含む飛行機械達に全滅させられた。一瞬、たったの5分程度の出来事だった。

 

 

「な……な……何だ!? 何なのだあれは!?」

 

 

アルモスは狼狽し、兵達に動揺が広がる。その次の瞬間、隣を航行していた戦列艦『フィシャヌス』が、大きな爆発と共に木っ端微塵になった。

 

 

「副司令!空が……!」

 

 

竜騎士長の掛け声で我に返り空を見上げると、空はあっという間に多数の飛行機械達で埋め尽くされていた。そして、腹に黒い物体を抱えた別の飛行機械達が、戦列艦達にその黒い物体を落としていっている。

 

その黒い物体が戦列艦に突き刺さると、一気に爆発して船が木っ端微塵となる。一方的な蹂躙劇、それが今この場で繰り広げられていることがアルモスに理解できた。

 

 

「ま、まずい……通信兵!!」

「は、はい!」

「この事を伝えろ! レヴァームと天ツ上が飛行機械を持っている事を!」

「は、はっ!!」

「それからあの海猫の事も伝えろ! 今すぐだ! 急げぇぇぇぇ!!!」

 

 

通信兵が魔信のチャンネルを調節し、通信半径のすべての魔信がこの情報を共有できるようにする。これで、情報が伝わる……そう思った矢先、アルモスの乗っていた竜母ミールにロス・アンゲレスの急降下爆撃が迫ってきた。

 

 

「こっちに向かってくるぞ!!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

それを見届けた瞬間、アルモスの意識は途絶えた。彼の思考が、闇の中へと永遠に消えていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

沈黙、ターナケインはアイレスVの風防の中で何も言えなかった。隣には護衛のメリエル機が付き、共に上空から事の全てを鳥瞰していた。低翼のアイレスVは操縦席からでも下方視界がよく、海原まで見える。もちろん、海猫の戦いの様子も全てを見渡せた。

 

海猫はここでも圧倒的だった。ワイバーンロードをどんどん駆逐し、アイレスVを翻してたった一機で全てのワイバーンを撃滅せんとする勢いだった。誰も寄せ付けない、そんな戦い方であった。

 

 

「あれが……俺の復讐の相手……」

 

 

改めて実感する、驚異的なほどの実力の溝。ターナケインは自分があいつに復讐できるのかと、不安が押し寄せる。

 

 

──いや、例えそうだとしても……

──やり遂げるんだ、あいつのためにも……

 

 

ターナケインは海猫に殺されたかつての相棒を思い浮かべる。苦しそうに悶えるその姿を見るだけで、胸が締め付けられる。あいつの無念を晴らすためにも、海猫には復讐せねばならない。ターナケインはこの『アルタラス沖海戦』の始まりをみて、そう心に決心をした。

 




アルモスがミールに搭乗しているのは、原作との相違点ですね。原作見たとき「何で副司令なのに旗艦に搭乗してないの?」ってなったので。

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