とある飛空士への召喚録   作:篠乃丸@綾香

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今回、パ皇の秘密兵器が初登場いたします。


第46話〜アルタラス沖海戦その2〜

シウス王国沖に展開する、パ皇軍の大艦隊。その大艦隊の旗艦は、パーパルディアの技術の全てを注ぎ込んだ、最強の120門級超フィシャヌス級戦列艦『パール』である。

 

全ての元祖であるフィシャヌスよりもさらに大きく、最新式の対魔弾鋼鉄式装甲を施した、パーパルディア自慢の艦だ。

 

その艦隊司令官のシウスは、『パール』甲板上で西の方角を眺めていた。その額はびっしりと汗に濡れている。

 

先程、竜母艦隊から「レヴァーム、天ツ上の飛行機械から攻撃を受けている!」との連絡を最後に通信が完全に途絶えた。そして、信じられないことに全ての艦の魔力反応が消えている。

 

 

「まさか……飛行機械が……」

 

 

ありえない、飛行機械を作れるのは列強ムーだけであり、文明圏外のレヴァームと天ツ上では作れるはずがない。飛空船を作っているとは聞いていたし、その為の()()もして来ている。だが、飛行機械は全く聞いていなかった、初耳だ。

 

 

「まさか……列強のムーが支援を……!」

 

 

そんな筈はないと否定したい自分もいるが、事実竜母艦隊からその報告は上がっている。副司令が嘘をつくとは思えない、そして事実竜母艦隊は壊滅している。

 

 

『前方に未確認艦隊! 数、36!! 全て上空に布陣しています!!』

 

 

と、考えに耽っていたシウスの元に見張り員からの報告が上がる。双眼鏡で前方を見やれば、黒い点のような物体が空に浮かんでいる。まだ遠いが、あれはレヴァームと天ツ上の艦隊に違いない。

 

 

「──来たか!! 総員、第一種戦闘配置!!」

 

 

シウスの号令一下、乗務員全員が弾き出されたかのように移動し始めた。それぞれが持ち場につき、戦闘態勢を整える。

 

 

──数においては、圧倒的に我が軍が有利だ!!

 

 

後の歴史において、『アルタラス沖海戦』と一括りに呼ばれた海戦が始まろうとしていた。パーパルディア側にはまだ砲艦183隻が残っていた。悠然たる大艦隊である。

 

 

「100門級を前に出せ! 離水開始!!」

 

 

列強たる所以の、パーパルディアの技術とプライドの結晶である100門級戦列艦が前に出る。すると、全ての戦列艦の艦艇部から光が漏れ始め、海原を振動させ始めた。

 

だんだんと船体が海原から持ち上がっていく。砲艦達が空に持ち上がり、高度を上げ始めたのだ。戦列艦が空を飛んでいる、それはまるで、空を飛ぶ方舟のような出立だった。

 

これぞ、パーパルディアがレヴァームと天ツ上の飛空船に対抗する為編み出した『飛空戦列艦』である。属国であるパンドーラ大魔法公国から技術を吸収し、従来の船に対して簡単な改造のみで飛空船に仕上げる極秘技術だ。

 

飛空船は重量の関係で大砲を積むのに一歩届かなかったが、この飛空船の最新型の魔導回路は、出力が増量されて100門級戦列艦でも簡単に浮かせる事ができた。大量の属国から吸収した技術を組み合わせてできた技術の結晶(キメラ)。これも、大量の属国を抱えるパーパルディアならではの技術であった。

 

大艦隊の指揮官、将軍シウスが乗艦するパーパルディア最大の超フィシャヌス級飛空戦列艦『パール』は、艦隊中央後方に位置している。周囲を取り囲む戦列艦は、高度1000メートルの空中で互いに砲撃が当たらないように千鳥に陣形を組む。

 

 

「ダルダ君、勝てると思うか?」

「飛空戦列艦を編成した、これほどの大艦隊をもってすれば、神聖ミリシアル帝国の『第零式魔導艦隊』を相手にしても負けますまい。今までは海と空でしたが、今回は同じ空、同じ土俵での戦いです。そうなれば、質と量で勝る我々なら、必ずや勝てるでしょう」

「そうか……だがレヴァームと天ツ上の軍艦の性能が我らの戦列艦を遥かに上回っているものだとしたら?」

「もし仮に、レヴァームと天ツ上の艦隊の性能が我々を凌駕していても、たったの36隻ではどうにもなりますまい」

「…………そうだと良いが」

 

 

たしかにこれなら、遥か上空を飛ぶレヴァームと天ツ上の戦列艦にも対抗できる。今まで悔しい思いをさせられて来ていたが、それも今日までだ。だがダルダの自信とは裏腹に、シウスは一抹の不安を抱えていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

戦艦エル・バステルの艦橋内。ガラスに覆われた第一艦橋の中で、艦隊司令官のマルコス・ゲレロ中将は双眼鏡を片手にパ皇艦隊を見据えていた。

 

 

「まさか、空を飛ぶとはな……」

 

 

その視線の先には、空を飛ぶ戦列艦たちの姿があった。原理はわからない、揚力装置の技術はパーパルディアには教えた覚えはないし、それらしき装置が取り付けられている見た目でもない。

 

 

「こちらの世界には飛空船と呼ばれる空を飛ぶ木造船があります。おそらく、パーパルディアはそれを元に空飛ぶ戦列艦を作り上げたのでしょう」

「なるほど」

 

 

と、隣で意見したのは観戦武官として派遣されたマイラスであった。その隣にはラッサンとメテオス、そしてライドルガの姿もいる。

 

たしかに、情報では『飛空船』と呼ばれる空飛ぶ木造船が存在することは知っていた。それを考えると、このような空飛ぶ戦列艦というのも納得できる兵器だ。

 

おそらく、こちらの飛空艦に対抗する為であろう。飛空艦は空に陣取っている以上、戦列艦からは砲撃が届かない。ならば、同じ土俵に立てば砲撃が届くであろうという憶測だ。

 

 

「どうしますか? このまま単縦陣でT字を取りますか?」

「いや、その前に雷撃戦を仕掛けよう。レヴァームの駆逐艦と天ツ上の巡空艦を前に出せ」

「はっ! 通達します!」

 

 

参謀との相談の結果、命令が下される。その号令一下、艦隊が動きを変えた。指示に従ったアギーレ級駆逐艦が、発射管に空雷を装填してその発射の瞬間を今か今かと待ち構えていた。

 

アギーレ級駆逐艦、それはかつての中央海戦争で大量建造されたレヴァームの主力駆逐艦だ。レヴァームの駆逐艦で初めて2000トンを超える排水量を誇り、艦隊の防空を旨として作られているため主砲は両用砲に。

 

そのバランスの取れたスペックのおかげで、レヴァームはこの駆逐艦を中央海戦争で200隻以上も量産していた。

 

スペック

基準排水量:2100トン

全長:114メートル

全幅:14メートル

機関:揚力装置2基

武装:

5インチ単装両用砲9基9門(上部5基下部4基)

五連装空雷発射管2基

爆弾槽1基

四連装40ミリ機関砲2基

二連装40ミリ機関砲10基

同型艦:200隻以上

 

装填されているのは天ツ上製の酸素空雷。天ツ上からレヴァームに輸出された酸素空雷は、レヴァームの方でも改良されていた。そして、両国の技術交流の果てに酸素空雷はさらなる高みへと達していた。

 

 

「さて皆様、今から面白い兵器を見せますよ。目を皿のようにしてご覧ください」

 

 

マルコス中将がそう言うと、観戦武官たちはお互いに顔を見合わせて首を傾げた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「小さな艦を前に出した? 一体何のつもりだ?」

 

 

将軍シウスの方でも、その様子が確認できていた。小さく、そしてひ弱そうなフリゲートのような船を前に出してくると言う謎の戦法を繰り出して来たレ天連合軍の戦術に疑問を抱く。

 

 

「見たところ、足の速そうな船です。おそらく盾になるつもりでは?」

「そのようだな……あの小さい船は無視だ。後続のでかい艦を狙え!」

 

 

シウスはそう命令を出し、望遠鏡でレ天連合艦隊を注視していた。レヴァームと天ツ上の艦はかつて見たことがないほど大きい。

 

砲の形状からして、ムーの戦艦『ラ・カサミ』の回転砲塔に近いものなのだろう。砲は少ないが、かなり大きいため一発当たりの威力はこちらより高そうだ。

 

 

「しかし……速いな」

 

 

敵艦の速度が、船の常識からかけ離れている。あれほど速いなら、魔導砲を当てるのも苦労しそうだ。まあ、その代わり後続の巨大艦は的としてかなり大きいが。

 

そして、いよいよ先頭の小型艦との距離が10キロを切り始めた。艦隊全体の緊張が最高潮に達しようとしている。

 

 

「──ん?」

 

 

と、双眼鏡でレ天連合艦隊を見遣っていたシウスが疑問の声を投げかける。小型艦が、何か煙を吐いたかと思ったら一目散に逃げていくではないか。

 

 

「なんだ? 盾になるつもりじゃなかったのか?」

「今更怖気付いたのでしょうか? 全ての小型艦が離れていきます」

 

 

シウスがレ天連合軍の意図を計りかねていると、シウスは背筋に悪寒が漂ってくるのを感じた。空の上で寒い空気にさらされているからだろうか?いや、違う。何か嫌な予感がする。

 

しかし、予感だけでは何も命令できない。空を見ながらギクギクしていると、見張員からいきなり怒号が上がった。

 

 

『前方に不明飛行物体多数! 何か接近してきます!!』

「何!?」

 

 

慌てて望遠鏡で前方を見遣る。すると、前方から何十もの煙を吹く筒のようなものがほぼ同高度で迫ってきていた。

 

 

「あれは……?」

 

 

そう疑問に思っている間にも、その筒は見る見るうちに迫ってきていた。もし、あれだけの速度であの筒が迫ってきたら、木造の船体は……

 

 

「いかん!全艦回避行動! アレを避けろ!!」

 

 

が、一歩遅かった。いきなり、先頭の100門級戦列艦たちの眼前に筒が来たかと思うと、その直後に巨大な爆発と共にその筒が爆ぜた。

 

 

『飛空戦列艦〈ロプーレ〉轟沈!!』

 

 

あまりに突然の出来事。海兵たちが、その光景を見て唖然とする。

 

 

「な……なんだと!?」

『飛空戦列艦〈ミューラ〉〈レジオン〉轟沈! ああ!飛空戦列艦バオスも轟沈!!』

 

 

破裂した筒の衝撃は装甲をいとも容易く突き破り、弾薬庫に火をつけて大爆発をさせた。力無き破片と乗組員が、落下傘をつける前に無残にも海原に落ちていく。

 

 

「な……なんだあの兵器は!」

 

 

見たこともない謎の兵器に踊らされるパ皇艦隊。回避しようにも、その筒はとんでもない速度で迫ってきては直前で爆発する。そして、爆発すれば戦列艦でも一撃で轟沈して消滅する。

 

 

「シウス将軍! 敵大型艦が発砲!!」

「しまった!!」

 

 

謎の兵器に気を取られて、本命の敵大型艦の存在を忘れてしまっていた。そして、破壊の嵐が艦隊に次々と突き刺さることになる。

 

いきなり、前方の艦隊が炎と爆発の花びらたちに彩られ、爆散していった。その衝撃は隣を航行していた船にも伝わり、船体を大きく傷つける。破壊の花束の真っ只中にいた戦列艦は、すでに消滅していた。

 

 

「な……」

 

 

シウスとダルダは今まで見たことのない、現実離れした破壊の衝撃を目の当たりにし、思考が麻痺していた。

 

 

『敵艦隊、連続発砲!!』

「な……なんと言う装填の速さだ!!」

 

 

そして、艦隊の前方に連続して炎の花束が届けられ、またも飛空戦列艦が木っ端微塵になる。

 

 

『飛空戦列艦〈ミシュラ〉〈レシーン〉〈クション〉〈パーズ〉轟沈!!』

 

 

沈む艦が多すぎて、もはや報告になっていない。だと言うのに、敵艦は未だパ皇艦隊の射程距離のはるか先にいる。

 

 

『敵艦、進路を変えます!!』

 

 

主砲を放ちながら、レ天連合艦隊はパ皇艦隊に腹を向けた。左右に広がり、そのまま挟み撃ちにする戦法だ。斜線が被らず、お互いを援護できる陣形である。

 

いくつか外れている砲弾もあるが、それでも発砲音の数だけ大破炎上、そして轟沈していくのだ。

 

 

「なんだこれは!こんな威力の砲など聞いたことないぞ!!」

「こんな……こんな現実があってたまるかぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

と、いよいよ先頭の戦列艦がいなくなり、今度はパールの番であった。艦の左舷に砲弾が集中的に爆発し、パールの左腹に大きな穴が開く。

 

空を飛ぶための魔導回路がダメになり、一気に高度が下がっていく。パールの巨体が徐々に傾き始め、ついには転覆。真っ逆さまに自らの重みで重力に従って落ちていった。シウスは何にも掴まることができずに、そのまま高度1000メートルから海原に叩きつけられた。

 

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