とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

53 / 106


ウィキみたらシエリアさんって映画鑑賞が趣味なんですね。オタクに陥りそう……そんなシエリアさんに「とある飛空士への追憶」をお勧めしたいのですが、どうすればいいですか?(血涙)


第47話〜アルタラスの空戦〜

 

 

マイラスとラッサン、そしてメテオスとライドルカは飛空戦艦エル・バステルに乗船し、戦闘風景を眺めていた。

 

煌く太陽に照らされた雲の上、上空1000メートルで行われている戦闘の模様は、海戦は海で発生するものだと思っていた4人にとっては新鮮なものだった。

 

パッと砲弾が炸裂すると、散布界に入った戦列艦はあっという間に火の手が上がり、大破していった。破片がバラバラに砕け、人や人だったものが海面に向かって落ちていく。散布界という破壊の花束は、確実にパ皇艦隊を捕らえて離さない。

 

 

「すごいな、これがレヴァームと天ツ上の空戦か……」

「砲弾を時限信管でわざと爆発させて着弾観測をしている。なるほど、水柱が上がらない代わりにこれで観測をしているのか……」

 

 

マイラスとラッサンが各々の感想を述べていく。ラッサンは戦術面から、レヴァームと天ツ上の戦闘模様を見据えていた。

 

 

「あの、マルコス長官?最初に小型艦が放ったあの空飛ぶ爆弾のようなものは一体何なのでしょうか?」

 

 

思わず、マイラスがマルコス中将にあの空飛ぶ謎の爆弾のことを質問した。あれが何なのか、と言う疑問はマイラスから溢れ出ていた。

 

 

「あれは空雷という兵器です。水素電池による推進で空を飛び、空中目標の船に向かって雷撃する事ができるんです」

「雷撃?」

「ん? ああ、そうでした。この世界には魚雷もないのでしたね」

 

 

マイラスに「雷撃」と言われて、納得したようにマルコス中将は頭をポリポリと掻いた。そして、咳払いを一つすると一から説明をし始める。

 

 

「空雷の他に、似たような兵器として『魚雷』という兵器がありまして。これは水中を進み、船の構造的に弱い喫水線下を爆発で攻撃する兵器なのですよ」

「な、なんと……! 水中から船を攻撃できるというのですか!!」

「はい、空雷はそれを空中に持ち上げたものでして、構造的に弱い艦底部を攻撃する兵器なのです」

 

 

空雷はただ魚雷を空中に持ち上げたものではない。飛空艦は水上艦が元になって作られているため、喫水線下が弱いのは水上艦と同じなのだ。装甲は重量の関係で艦底部には及んでいない、そのため空雷はその艦底部を攻撃して弾薬庫などにダメージを与えることを目的に作られているのだ。

 

マイラスとラッサン、そしてそれを聞いていたメテオスとライドルカも感心したようにその兵器について考察していった。なぜなら、彼らの国には魚雷も空雷もないからである。新たな戦術と兵器の開発のため、彼らはこの情報を母国に持って帰ることにした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

作戦は第二段階に移ろうとしていた。パ皇艦隊を撃滅したレ天連合艦隊は、一路そのままアルタラスへと向かう。艦隊が突入する前に、正規空母から補給を終えた攻撃隊が発進して行った。

 

目標はアルタラス王国、ハイペリオン基地。陸海空の三軍共用基地であり、港には100門級戦列艦がひしめき、滑走路にはワイバーンロードが駐留している基地だそうだ。

 

パ皇軍の在アルタラス部隊がここに全て集中していると言っても過言ではない。そこを一気に叩く作戦だ。

 

レ天連合艦隊の空母から制空隊の280機もの戦空機隊が発艦したのち、続けて艦上爆撃機、雷撃機合わせて560もの機体たちが飛び立って行った。

 

目標は艦隊ではなく基地であるため、雷撃機は空雷・魚雷ではなく、全て爆弾を懸吊しての出撃だった。全部で840機もの戦爆攻連合が一路、ハイペリオン基地に向けて飛翔していく。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

昂りは、ない。

 

戦場の空でシャルルの脳はいつも冴えていた。高度6000メートル、敵との会敵時に高度有利を保つために他飛空隊よりも高い高度に陣取る。レヴァーム側戦爆攻連合の制空隊編隊長を務めるシャルルは、この高度からの方が指揮も取りやすい。

 

覚め切った思考の最中、シャルルは海面に目を凝らす。暖かで透明度のあるアルタラス沖の海面がシャルルたち飛空隊の影を抱え込んでいる。

 

そして、真横に視線を移すとそこには一機のアイレスVがシャルルの隣を飛行していた。透明度の高い風防の中には1人の青年の整った顔が映っている。訓練生のターナケインだ。

 

彼の横顔を見て安心した。今回が初の実戦参加で緊張しているのではないかと思っていたが、あの表情を見ればさほど緊張していないことがわかる。

 

 

『ピケット駆逐艦〈インファンテ〉より制空隊へ。ハイペリオン基地よりワイバーン隊が離陸、方位20に向けて飛行中。注意されたし』

 

 

ピケット艦として先行したアギーレ級駆逐艦『インファンテ』から飛空隊に連絡が入る。ピケット艦は飛空艦としての足を生かして先行している。

 

相手のレーダーには魔法を使用しないこちらの飛空機は映らないらしいが、スクランブルの反応がかなり早い。おそらく、パ皇軍は艦隊が撃滅されたことを警戒してワイバーンを飛ばしてきたのだろう。

 

 

「全機、要撃に向かう。我に続け」

 

 

ピケット駆逐艦からの情報を元にワイバーンロード隊に向かって突き進んでいく。爆攻連合に到達される前に、この海上で叩いておきたい。シャルルは120機のアイレスVと真電改の僚機を連れてその方向へと向かって行った。

 

 

「いた」

 

 

進路を変え、アルタラス島を右手の地平線の先に捉えながら、飛行すること30分。ピケット駆逐艦の情報通りの場所と方向にそれはいた。

 

羽ばたく翼と、遠くから見える銅色の体色。間違いない、パ皇軍のワイバーンロードだ。数は目測で300を超えている。

 

 

「全機! 太陽を背に突撃!」

 

 

高空からすっかり傾いた太陽を背中に携え、突撃の合図を送る。するとほぼ全てのアイレスVたちが太陽を背に一斉に襲い掛かる。太陽を背にした一斉突撃、いくらパ皇軍の練度が高くとも、視覚に捉えることはできないだろう。彼らが突撃したのを見送り、シャルルは傍のターナケイン機に無線を繋いだ。

 

 

「ターナケイン、さっきと同じように上空に上がってくれ」

『…………了解です』

 

 

ワイバーンは高度4000メートルよりも高い高度には上がれない、それは多少改良されたワイバーンロードでもほぼ同じと考えられる。そのため、訓練生のターナケインを戦闘に巻き込まないために、上空の高い高度に位置取らせるのだ。

 

 

「メリエル、ターナケインの様子はどうだい?」

『訓練生としては問題ありませんよ、ただ……』

「?」

 

 

メリエルに質問を投げかけた途端、メリエルはしばらく固まった。

 

 

『実は……最近ターナケインの普段の様子がおかしいんです』

「え?」

『あ、後で話します! それじゃあ!』

 

 

そう言ってメリエルはターナケインと同じ高度に飛び上がり、やがて空に消えて行った。

 

 

「…………」

 

 

シャルルはその言葉に一抹の疑問を感じながらも、戦闘に集中することにした。

自機を翻し、最適な降下角度で僚機のアイレスVと真電改に追いつく。

 

太陽を背にしているため、パ皇軍ワイバーンロードはまだこちらに気付いていない。その油断した背中に──

 

 

「叩きつける」

 

 

その刹那、アイレスVの20ミリと真電改の30ミリの光の嵐がワイバーンロードたちに降り注ぐ。

 

20ミリがワイバーンロードの硬い鱗をいとも簡単に突き破り、内臓を抉って貫通する。連射力の高い銀色の曳光弾を纏った20ミリ弾が竜騎士の命をも引きちぎる。

 

30ミリ弾が炸裂する。途端にワイバーンはバラバラに引き裂かれ、翼や胴体が千切れて落ちていく。竜騎士は最早原型を留めず、細切れになって行った。

 

 

『こ、こいつら太陽から来たぞっ!』

『散開だ! 散開しろ!!』

 

 

その瞬間、こちらに気づいたワイバーンロードたちが一斉に散開する。まるで一斉に怖気付いたかのような、バラバラな散らばり方だった。

 

 

「後ろを取ったぞ」

 

 

機体を翻して急降下から体勢を立て直すと、あっという間にワイバーンロードの後ろを取る。背後をとられてアタフタとしているワイバーンロードに対し、シャルルは容赦なく引き金を引いた。

 

 

『う、後ろに着かれ……グェ……!』

「次」

 

 

すぐさま墜し、次の獲物を見つける。既に周りは乱戦になっているため、ここまで来ると獲物は早い者勝ちだ。右旋回で次のワイバーンロードを見つけ、その後ろを取っては20ミリ弾を叩き込む。空戦場は最早狩場の模様を呈していた。

 

 

『うわぁぁぁぁ! た、助け……グハァ……!』

「次っ」

 

 

と、シャルルは背後から気配がしてすぐさま操縦桿を引き、バレルロールを繰り出す。後ろを見る間も無く速度を緩める。すると、ワイバーンロードの後方に陣取ることができる寸法だ。

 

 

『こ、こいつ……!』

「次!」

 

 

20ミリ弾が前方の3騎に炸裂する。あっという間に5騎も墜したが、シャルルは気にすることなく次の目標に食らいつく。

 

 

『な、なんなんだよこいつ……! あっという間に5騎も墜しやがった!』

『ば、化け物だぁ!!』

『海猫……空の怪物の海猫だ!!!』

 

 

魔信からシャルルを恐れるパ皇軍竜騎士の声が響いてくる。パーパルディアのワイバーンロードを臆することなくあっという間に落とし続けるシャルルの海猫のマークは、敵からしたら死神のマークに等しいだろう。

 

 

『俺たちがいく! お前たちは手を出すな!!』

 

 

と、シャルルの上方から3騎のワイバーン達が一斉に飛びかかってくる。先ほどと同じ様にあしらおうと思ったシャルルだったが、ある異変に気づく。

 

 

「ワイバーンロードより大きい……?」

 

 

飛んできたワイバーンは、明らかロードよりも数倍大きかった。そして力強く、なんだか強大なオーラを感じる。

 

それを思考から振り払い、シャルルは戦闘に集中する事にした。上から仕掛けてくるワイバーン達に、シャルルはヘッドオンを避けてすれ違う。

 

すぐさま反転し、その大きめのワイバーンの後ろを取ろうとする。大きめのワイバーンは緩い旋回をしながらシャルルの後方を取ろうとしているが、自動空戦フラップが取り付けられたアイレスVの旋回半径には勝てない。

 

が、シャルルは大きめのワイバーンの後方を取り、追いかけようとしたときにさらなる異変に気付いた。

 

 

「!? 少し速い!!」

 

 

今までのワイバーンより、少しだけ速度が速かった。しかし、アイレスVの最高速度ほどではない、シャルルはスロットル把柄を少し押し込んで機速を上げて追いつく。

 

 

『う、後ろにっ!!』

「喰らえ」

 

 

てこずらせた相手を、容赦なく撃ち抜く。相手が絶命した瞬間に次の同じ種類のワイバーンを後ろに確認すると、機速をさらに上げた。しばらく進み、大きめのワイバーンを引き離すと反転し、そのまま2騎と向かい合うヘッドオンに入る。

 

 

『うわぁぁぁぁぁ! た、助け……』

「堕ちろ」

 

 

発射レバーを引き、20ミリ弾を放つ。そして、射弾を滑らかにずらして隣にいる二匹目も同時に撃ち落とす。同時に2騎を撃ち落とし、完全に撃滅した。

 

少々手強い相手だったが、これで3騎全て撃ち落とした。周りを見ると、戦闘は既に終了している模様で、ワイバーンはほぼ全滅していた。

 

 

「あとは、爆攻連合の出番だ」

 

 

シャルルはこの戦いの勝利を確信し、安心して一息ついた。上空を見れば、高度7000メートルあたりでターナケイン機とメリエル機が見守っていた。

 

 

──実は……最近ターナケインの普段の様子がおかしいんです

 

 

メリエルのその言葉が頭を過ぎる、シャルルはターナケインが何の変化があったのかが気になっていた。その疑問などつゆ知らず、ターナケイン機は優雅に空を飛んでいた。

 

その後──

 

ハイペリオン基地に駐留していたパ皇ワイバーン隊は、レ天連合の戦空機隊によって全滅させられた。ハイペリオン基地には無傷の爆攻連合が殺到して行った。ロクな対空砲撃も上げられないハイペリオン基地は、そのまま嬲られる様に爆弾の雨霰であしらわれた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。