とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

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ウィキ見てたらシエリアがヒロインのラブコメ小説を書きたくなった。シエリアが生き残って日本人の男子と一緒に日本文化を満喫する、みたいな。

あと、日本国召喚のRTAも書きたい。
魔王をどれだけ早く倒せるか?みたいな。


第48話〜報復するは我にあり〜

 

作戦は第三段階へと移る。ハイペリオン基地を撃滅したレ天連合艦隊は、アルタラスへの直接上陸を敢行する流れになった。ハイペリオン基地を叩いた後は、少ない敵しかいないと考えられていた。

 

天ツ上陸軍の揚陸艦、『あかつき丸』がその強襲上陸の任務に就く。あかつき丸は天ツ上陸軍が開発した『空母』であり、『揚陸艦』である。これは、陸軍が真電を使用するための兵器だった。

 

中央海戦争時、仲の悪かった天ツ上陸軍と海軍。揚陸時の支援を海軍に受けてもらえない可能性が考えられた為、陸軍も空母を持つようになった。それがあかつき丸だ。

 

スペック

基準排水量:9100トン

全長:152メートル

全幅:19メートル

機関:揚力装置2基

武装:

12センチ単装高角砲4基

25ミリ単装機関砲8基

飛空大発動艇27隻

連絡機8機

 

あかつき丸は海岸や地面に接岸して空から直接上陸もできる為、ハイペリオン基地の近くの手頃な海岸に直接上陸する。在アルタラスパ皇軍に最期の時が迫っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

一方、パ皇軍陸将ベルトランは陸戦部隊を率いて出撃にかかっていた。リントヴルム32頭を今回も投入する。そのために、ハイペリオン基地の北側でレ天連合軍を待ち伏せしながら準備を進めていた。

 

リントヴルムの手綱を引いて目を覚まさせ、餌を与えて機嫌を取る。そして、人が上に乗り込んで操縦を行うのだ。相変わらずの巨体だが、案外人の命令には従うものだった。

 

彼らはハイペリオン基地において訓練を行なっていたが、その最中に出撃した艦隊との連絡が取れなくなった為、リージャック中将から出撃命令が下された。

 

彼らは港のすぐ近くにある平原、それも上陸に最適な場所に陣取り、レ天連合軍の上陸艦隊を待ち伏せていた。ベルトランは奴らは必ずここから上陸してくると踏み、その時を今か今かと待ち構えていた。

 

 

「来い! この平原でなら勝てる!!」

 

 

ベルトランの想定に、ベルトランの策士であるヨウシが応じる。

 

 

「はい……この平原なら我が方が有利に戦えます。得意な布陣になった我が陸戦隊は、組織されてから今まで一度も負けた事はありません」

 

 

ヨウシのボソボソとした喋り方は軍人らしくないが、参謀としての素養は確かである。これまでの戦いで、彼には何度も何度も世話になって来ていた。

 

 

「しかも、今回は陸軍の戦力も加えてもらっています。ここでなら、奴らがどんな物で来ようとも負けやしないでしょう」

 

 

今回の防衛作戦には、リージャックから陸軍の一部の戦力も加えてもらっていた。パーパルディアでは陸軍も海軍陸戦隊も装備が一緒である為、統率を取りやすいのだ。

 

だが、それでもベルトランには一抹の不安があった。あの時虐殺したレヴァーム人、天ツ人の所持品に、機械式の腕時計があったのだが、それがまるでムーのよりも正確で遥かに優れていた腕時計であったのだ。

 

そんな代物を作れるレヴァームと天ツ上、彼らがどんな強さがあるのか全く分からないのだ。レ天連合はどんな武器を使用するのか、どんな戦術を使うのか、どんな兵器を有しているのか、全く不明であるのだ。

 

 

──しかし皇国は強い!! これは紛れもない事実だ……!

 

 

ベルトランはもはや考えることをやめて、思考を放棄した。

 

 

「な、何だ!?」

「で、でかすぎる……! 敵の船か!?」

 

 

と、そんな思考を張り巡らせていた途中、周りの兵たちからそんな同様の声が広がり始めたのが聞こえた。彼らの視線を辿ると、海原の向こう側にあるいくつもの船たちが目に映った。

 

 

「何だあれは!?」

 

 

それは、見たこともないくらいの大きさの鉄の箱舟であった。それが6隻ほど、一直線にこちらの海岸線に向かって突き進んできているのだ。周りにも大小の船たちが取り巻き、護衛するかのように取り囲んでいる。そして、その巨大な船たちは皆空を飛んでいた。

 

 

「あ、あれはレヴァームと天ツ上の艦隊?」

「──!! ベルトラン様、奴らの船が!!」

 

 

何が起こっているのか分からない、あまりにも情報が少なすぎる状況下で、銃兵隊の目のい兵士が叫んだ。ベルトランはその声につられて地平線の向こう側にある海岸線を見渡した。

 

すると、奴らの船が上空から降下して接岸、そのまま扉を開いて兵士らしき人間たちを下ろしているのが見えた。

 

 

「まさか、奴らの揚陸艦か!?」

 

 

その揚陸艦から、次々と兵士達と兵器が下されるのを見て、ベルトランはすぐさま命令を下すことにした。

 

 

「奴らは上陸したばかりだ! 準備が整っていない今こそ好機だ! 全軍、突撃せよ!!」

「う、ウォォォォォォォォォ!!!」

 

 

突撃の合図を受け、全軍が歩みを進める。戦列隊を組み、リントヴルムを前に出して盾にする。ジリジリと歩み進めながら、奴らとの距離を縮めていく。

 

 

「──!! 何かが10体、向かって来ます!」

 

 

ベルトランはその方向に目を向ける。望遠鏡で見渡すその先に、土煙を上げて突き進む筒のついた異物が10体、ベルトランの部隊に近づきつつある。

 

 

──速い!!

 

 

ベルトランもその物体についてはよく分からない。おそらくはレヴァームと天ツ上の兵器だろうが、上層部はこれに関しては何も言っていなかった。彼らには飛空船の事については言われていたが、この兵器は未知数だ。

 

向かって来る異物を見たリントヴルム部隊の内、何体かが口内に火球を形成し、導力火炎放射器の準備にかかる。が、そのリントヴルムの射程距離内に入る前に、10体いる敵の筒が魔導砲の様な煙を吐き出した。

 

爆音が辺りにこだまする。命中した部分の兵士たちは悲鳴を上げる間もなく絶命し、中途半端に生き残った者たちは朦朧とした意識の中で、絞り出す様な呻き声を上げる。

 

 

「ちっ……! 爆裂魔法──いや、魔導砲か!?」

「魔法陣が砲身に展開されていない……内部で爆裂魔法を使っているのでは!?」

「どっちでもいい、牽引式魔導砲を使え! あの化け物を仕留めろ!!」

 

 

騎兵が牽引して来た魔導砲は、いつでも発射可能な状態だった。砲兵達が鉄竜に狙いを定め、砲手魔道士が点火しようとしたその時にも、また鉄竜が発砲した。耳を塞ぎたくなる様な断末魔の叫びを上げたリントヴルムが、また2頭、3頭と即死していく。

 

 

「一番近い敵に集中砲火──ッ!!!」

 

 

その言葉とともに、連続した光が発生し、続けて破裂音が鳴り響いた。部隊の一番近くにいた敵地竜に向けて、牽引式魔導砲が火を噴く。複数の魔導砲弾が降り注ぎ、奇跡的に2発が命中した。土煙と爆炎に包まれた鉄竜を見て、皇軍兵たちが歓声を上げる。

 

 

「敵、鉄竜に2発命中!!」

「フハハハハ! 地竜を倒したくらいで調子に乗りおって!! 他の鉄竜も片付けるぞ!!」

 

 

そう意気込むベルトランだったが、その土煙の中からたしかに砲弾が命中したはずの鉄竜が何事も無かったかの様に現れ、そのまま走り続けて来た。

 

 

「ま……まさか、全く効いていないのか!?」

「そ……そんな馬鹿な!!」

 

 

近づいて来た鉄竜から再度、雷鳴の様な轟音と、大地を穿つ強力な爆裂魔法が放たれる。あっという間にパ皇軍の地竜32頭は、天ツ上の戦車によって全滅した。

 

 

「リントヴルム小隊、全個体死亡! 歩兵大隊が丸見えです!」

「左右後方からも敵歩兵です!!」

「しまった!」

 

 

後方を見れば、回り込んできた軽装の歩兵達がパ皇軍を包囲していた。装甲車の機銃掃射で外側からジリジリと追い詰められる。

 

部隊の右後方、左後方の兵たちは次々に息絶え、兵士たちは紙屑のように崩れ落ちる。生き残った兵士たちも恐怖に駆られて前方中心に逃げる。しかし、最前列も停止しているため自然と密集隊形になる。

 

あっという間に追い詰められ、兵士たちは怯え切っていた。主力の地竜も全滅、前方と後方の鉄竜を倒す手段は自分たちにはない。

 

 

「ベルトラン様! ベルトラン様っ!!」

 

 

部隊後方に下がっていたヨウシが、天ツ上部隊の熾烈な攻撃によって追いやられ、ベルトランのもとに駆け寄った。

 

 

「早急に、早急に降伏してください!! 我々は追い込まれてます!!」

「何ぃ!!」

「我々は追い込まれているのです! 兵が無意識のうちに密集するように、1箇所に追い込まれています!! 敵はとどめを刺すつもりです!! 地竜も、基地も失いました……もう降伏するしかありません……!」

「しかし……我々はレヴァーム人と天ツ人を殺した部隊だぞ……降伏しても嬲り殺しに遭うだけではないのか……?」

「このままでは、いずれにせよ全員死にます! 諦めて死ぬより、僅かでも生き残る手段を!!」

「……分かった。降伏の旗を掲げよ!!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

帝政天ツ上陸軍天野支隊は、敵パ皇軍部隊の追い込みに成功していた。まず前方の海岸線に「あかつき丸」を接岸させて、敵の注意を引く。その隙に後方からも「あかつき丸」を接岸させて敵の後方に部隊を展開、挟み撃ちにしたのだ。

 

あとは、レヴァーム空軍に連絡して艦砲射撃で面制圧射撃を実施すれば、全滅するだけである。指揮官の天野中佐が命令を下そうとしていたその時、前にいる部隊から連絡が入った。

 

 

『報告、敵が隊旗を逆さにして、左旋回に振っています!』

「!? 一体なんだ?」

 

 

天野は装甲指揮車両のハッチから身を乗り出し、双眼鏡で敵の全容を確認する。すると、たしかにパ皇軍は報告通り旗を必死に振っていた。他の部隊の人間が無線で応じる。

 

 

『魔法じゃないですか? 聞いた話では攻城魔法とかいう大規模魔法が存在しているらしいですし、その準備をしているのかもしれません』

『いえ、もしかすると降伏の合図かもしれません。敵は戦意喪失している模様です、武器も放り出しています』

 

 

天野は部下たちからの詳細報告を黙って聞いていた。彼自身も、これが降伏の合図かもしれないと思っていた。

 

 

「山田」

 

 

天野は戦闘車に同乗している、通信科の山田に話しかける。

 

 

「はい」

「外務省、降伏の合図が白旗だって事通達しておいたか?」

「はい、一応外交ルートで戦時協定は宣戦布告文書とともに渡しておいたはずです。本隊にパ皇軍の降伏方法を確認しましょうか?」

「いや、いい」

 

 

そう言う天野の声は、どこか悲しげな無表情をしていた。

 

 

「なあ山田……俺の妹の子供、姪夫婦は奴らに殺されたんだよ」

「…………」

「しかも、孫娘は生きたまま目玉を抉り出されて苦しんで殺されたんだ。さぞかし苦しかっただろうよ……」

「…………」

 

 

天野が何を考えているのかを理解した山田。だが、彼に天野を止められる訳もなく、黙って従う。

 

 

「山田」

「はい」

「確か魔線(魔信の事、天ツ上での略称)が積んであるだろう? それを貸してくれ、敵に通信する」

 

 

山田は天野に装甲車内の魔信を渡して、ダイアルをパ皇軍のオープンチャンネルに合わせた。

 

 

「パ皇軍陸上部隊に通達する。こちらは帝政天ツ上陸軍アルタラス解放軍団長、天野中佐だ。そちらの指揮官、聞こえたら返事をしろ」

 

 

天野は魔信を使って敵の指揮官を呼び寄せた。この距離なら普通に魔信が届くため、必ず出ると予測していた。

 

 

『こ、こちらはパーパルディア皇国陸戦隊ベルトラン中将だ……戦闘中に通信してくるのは……一体どうした?』

「単刀直入に質問する。今お前たちは旗を必死に振っているが、あれは何の意図がある? 答えろ」

 

 

予測通りのこのこと出てきた敵の指揮官に、天野はあえて威圧的な態度で通信する。

 

 

『こ、これは降伏だ……!降伏の合図なんだ!第三文明圏では常識だろう!』

「つまりお前たちは、命だけは見逃してほしい、とそう言っている訳だな?」

『あ、ああそうだ!こちらの兵士たちにも家族がいる!頼むからこれ以上は見逃してやってくれ!!』

「…………」

 

 

ベルトランは情けなく声を上げて命乞いをしたが、それが天野の苛立ちを誘った。自分たちは今まで散々関係ない一般人を殺してきたのに、不利になった途端この命乞い。それがさらに癪に触る。

 

 

「図々しいな……」

『え?』

「図々しいなと言ったんだ! お前たちの部隊がアルタラスにいた民間人を虐殺した事は知っているんだ!!」

『!!』

「今まで散々、何の罪もない一般人を一方的に虐殺してきた連中が、自分たちが不利になった途端、まるでゲームから降りるように降伏する! そんな図々しい事が、許されると思っているのか!!」

『ち、違う! あれは……!』

「お前たちが白旗を上げてくれなくて良かったよ……馬鹿で助かった。一方的に殺される恐怖を味わうのは……次は……お前たちの番だ!!」

 

 

天野はそう言って魔信を切り、代わりに無線の方を手に取って、力一杯マイクに向かって叫んだ。

 

 

「──ッ撃ェェェェ────ッッ!!!」

 

 

耳を劈く発砲音、後方の戦艦からの一切射撃である。天ツ上陸軍からの要請で、レヴァーム空軍の艦艇たちは一斉にその砲弾を野に放った。

 

46センチ砲と20.3センチ砲の砲弾たちが、密集隊形のパ皇軍に向かって殲滅の嵐を叩き込む。大地を掘り起こすかのような爆発とその爆風が、パ皇軍兵士を引きちぎりながら空中に放り投げる。

 

 

『そ、そんな……降伏したのにぃぃぃぃ!!』

 

 

指揮官の怨嗟の叫び声が魔信から響き渡る、兵士の悲鳴があたり一面に広がっていく。パ皇軍アルタラス防衛部隊は、ハイペリオン基地近くにて、帝政天ツ上陸軍天野支隊との戦いに敗れて全滅した。

 

これが、天ツ上戦史史上初めての「包囲殲滅戦」となったのは、何かの皮肉だろうか。

 


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