とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

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いよいよ皆様お待ちかな、レミール閣下でございます!
せーの…………











レミールなんか大っ嫌いだ!バァァァァァカ!!


第50話〜狂犬皇女〜

パーパルディア皇国皇都エストシラント、その際たる最も豪華な城であるパラディス城。その中にある会議室にて、軍部の高官達と現皇帝であるレミールが向かい合っていた。

 

 

「い、以上がアルタラス陥落における報告です……」

 

 

アルデが震える声でそっと告げた。その内容は『アルタラス島陥落における報告』である。去る12月5日、アルタラス島を出発したレ天連合攻略艦隊の第一陣との連絡が取れなくなり、さらに立て続けにアルタラス島との連絡も取れなくなった。

 

パーパルディア皇国は直前に「レヴァームと天ツ上に攻撃を受けている」という報告を受け、アルタラス島はレ天連合に陥落したと認めた。そして、その詳細報告がレミールに対して行われていたのだ。

 

その報告を黙って聞いていたレミールは、報告書をそっと机に置くと、震える手を握りしめた。そして、一言だけ呟く。

 

 

「5名だけ残れ……アルデ、バルス、マータル……ついでにエルトとカイオス」

 

 

言われた5名以外の、外務局職員や軍関係者のほぼ全ての人間たちが会議室を出て行った。レミールの待女が一礼して扉をバタリと閉めると、レミールは口をプルプルと震わせながら口を開いた。

 

 

「これは一体どういうことだぁ!?栄えある皇国軍が敗退するなど!あってはならないはずだぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

レミールが鼓膜がちぎれんばかりの大声で叫び散らかす。窓が揺れ、家具が軋み、柱にもヒビが入ったのではないかと思うくらいの大音量だ。

 

 

「アァルゥゥデェェェェ!!貴様やりおったなァァァぁぁぁぁ!!!」

「も、申し訳ありません……」

「軍の嘘つき共!皆嘘をつく!『勝てる、勝てる』と!!」

 

 

恐縮して謝るアルデに構わず、怒鳴り散らかすレミール。化粧は崩れ、服にシワがより、髪も乱れて、オークもかくやという雰囲気だ。はっきり言って恐怖を煽る。

 

 

「それなのにこんな敗退をするなんて……!将軍共はどいつもこいつも!無能ばかりで大っ嫌いだ!!」

「で、ですがレミール様……まさか皇国軍が敗退するなど夢にも思わず……」

「うるさい!大っ嫌いだ!!言い訳をするな、バァァァァァカ!」

 

 

部屋の外では、あまりの怒鳴り声の大きさに待女がメソメソと泣き始めた。それを隣にいる女性職員が慰めている。

 

 

「200隻以上の飛空艦隊と数十万人もの人員! そして魔石の生産地であるアルタラスを失う意味を! 分かっているのかぁぁぁぁぁ!」

「す、直ぐにでもアルタラスを奪還いたします……」

「ならば最初からそうしろ! 将軍共はパーパルディア人のクズだ!」

 

 

レミールは持っていた鉛筆を握りつぶし、真っ二つに割れた鉛筆を机に叩きつける。

 

 

「チクショウメェェェェェェェエ!!」

 

 

そして、怒りのあまりに叫び散らかした。ある程度怒鳴って怒りが少しおさまったレミールは、一旦また席に座る。そして、次なる怒りのターゲットを絞る。

 

 

「将軍とは名ばかり!士官学校で学んだのはフォークとナイフの使い方だけか!」

 

 

士官学校を出たこともない人間が、いきなり将軍達をディスり始める。お前が言うな、と言いたかったが何をされるかわからない今の怒りに満ちたレミールの姿を見れば、恐縮してしまう。

 

 

「判断力が足らんかったんだ!お前達みたいな無能は粛清してやろうか!講和派の臆病者のように!!」

 

 

事実、講和派の様なレヴァームと天ツ上との戦争に否定的だった人間は、レミールの手によって粛清されていた。レミールはそれを例にとって軍部を恫喝する。

 

 

「おまけに! なんだあのレヴァームの女狐(ファナ)は! 誠実そうな顔をしておいて、目に刺さる様な!おっぱいぷるーんぷるん!

 

 

レミールがそう怒鳴るのを見た、エルトとカイオスの思っていることが一致した。

 

 

──お前も大概だろ。

 

 

どうやら、それも認識できないくらい彼女は怒っているらしい。

 

 

「最強たるパーパルディア皇国をここまでコケにした事! ただでは済まさんぞ!!」

 

 

レミールはそう言ってレ天連合に対する憎悪の念を押した。そこまで言ったところで、レミールの怒りは治ったのかしばらく静かになった。それを見計らい、アルデが口を開いた。

 

 

「しかし……レミール様……アルタラスの統治機構からの緊急電によりますと、レ天連合軍は攻撃に飛行機械を使用していたとの事です」

 

 

アルデの言葉に、レミールとエルトは目を丸くする。

 

 

「飛行機械だと……? まさか、それは……」

「間違いありません、この戦争にはムーが絡んでおります。これはおそらく、代理戦争です」

「くぅぅぅう!! 列強の癖に小癪な!! ムー大使を召喚しろ! 私が直接真偽を確かめる!」

「御意に!」

 

 

レミールはそう言って命令し、会議室を後にしようとする。すると、またもアルデがその足取りを止めた。

 

 

「それからレミール様、もう一つ報告が」

「まだ何かあるのか!?」

「第四艦隊に配備されていた竜母『ヴェロニア』からワイバーンオーバーロードがアルタラスに出撃し、報復攻撃を敢行しようとしました」

「ああ、確かアルタラスの近海で試験航行をしていたのだったな。それで、どうなった?」

「しかし、ワイバーンオーバーロード隊は敵軍のエース飛行士によって全滅させられたそうです」

「なんだと!?」

 

 

レミールは今度こそ勝利を確信していた為に、またも驚きを隠せなかった。

 

 

「我が国の技術を結晶して作られたワイバーンオーバーロードが飛行機械に負けただと!? 一体どう言う事だ!!」

「で、ですから……敵軍にはとんでもないエース飛行士が存在するようです。竜騎士からの情報によると、奴は海猫のマークを機体に付けているそうで、たったの一機でワイバーンオーバーロードを15騎も相手にしたそうです」

「!?」

「その後、ヴェロニアのワイバーンオーバーロード隊とは連絡がつかなくなり、ヴェロニアにも帰還していないことから全滅したと考えられます……飛行機械でワイバーンオーバーロードを相手にできるあたり、相当な腕前かと」

 

 

その報告に、レミールは戦慄した。ワイバーンオーバーロードの性能は、たしかにムーの飛行機械にを凌駕しているはずだった。しかし、その飛行機械でワイバーンオーバーロードに勝った事から、相手は相当な腕前と想像できる。それが、どれくらい凄いことかは軍部に詳しくないレミールでも分かることだ。

 

 

「くぅぅぅう! よりにもよって敵軍のエースだと! ムーは飛行機械だけでは飽き足らずに、飛行士までもを派遣したのか!? 小癪な!」

「そこでレミール様、対抗策として軍は財務局に対し、オーバーロードの増産とヴェロニア級の追加建造の予算を請求をしたいのです。財務局が今の状況を理解していない可能性がございますので……」

「ああ……ワイバーンオーバーロードにもヴェロニア級にも金がかかりすぎるからな。来年度の軍事予算は、予算の半分以上を軍事費に注ぎ込む必要がある」

「ええっ!? 半分もですか!? で、ですが財務局が納得するかどうか……」

「すでに総力戦は始まっているのだ、我が国は絶対にレヴァームと天ツ上に負けるわけにはいかない! 分かったな! 私の命令だぞ!」

「…………」

 

 

そう言ってレミールは、会議室の扉を空けて外に出て行った。彼女の瞳には、メラメラと光る憎しみの炎が映っていた。

 

 

「狂犬が……」

 

 

その傍ら、それを見送るフリをしてカイオスは誰にも聞こえない声でボソリと呟いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

その後、自分の豪邸の自室に戻ったカイオスは椅子に座ってため息をついた。局長の傍ら、貿易商との繋がりも強かったカイオスは最初のレヴァーム天ツ上との接触の後、民間を通じた調査に乗り出す。

 

そこで明らかになったのは、新興国家では考えられないほどの国力だった。彼らとの戦争を懸念していたが、彼らとのファーストコンタクトで見事にルディアス皇帝陛下の心を掴んだ人物がいた。

 

レヴァームの皇女ファナである。彼女にルディアス皇帝陛下が惚れたことにより、しばらく戦争はないだろうと考えていた。しかし、その裏での強烈な嫉妬に気付けなかった。

 

レミールは嫉妬のあまりに暴走し、クーデターを起こしてルディアスを失脚させた。そして、ルディアスが政界からいなくなったパーパルディアはレミールの独壇場、やりたい放題の場と化した。

 

そしてついに、レミールはアルタラスにてレヴァーム人と天ツ人を虐殺してしまった。レヴァームと天ツ上は、当然これに激怒した。

 

そして、戦争が始まった途端にアルタラスは奪い返された。第3国経由の商人達の情報によれば、レ天連合軍の被害者数はゼロという信じられない情報を得る。もしも皇国の情報局にこれを伝えても情報元の弱い伝聞として、だれも信じないであろう。

 

しかしカイオスは、アルタラスの戦いの後に商人達から渡された1冊の本を見る。魔写を多量に使用した本。商人たちは気を利かせ、横には翻訳された紙と、その翻訳の証拠に天ツ上国内で購入した天ツ上語と第3文明圏大陸共通言語の辞書までそろえてある。

 

その本の名はこうある。

 

 

『別冊宝大陸、特集!レ天連合軍とパーパルディア皇国軍が戦えばこうなる!?』

 

 

その本は、天ツ上国内の出版社が出した兵器比較の本だった。皇国の事も良く書かれており、大砲の作動原理は間違っているが、射程距離や威力等、良く研究されている。

 

レ天連合の兵器は、おそらくここに書かれている性能で間違い無いのだろう。カイオスは、それを読んだ時の衝撃を今でもはっきりと思い出す。

 

読み進めるうちに指は震え、全身から汗が噴きだす。カイオスはこの時、可能性の1つとして、レヴァームと天ツ上を今まで以上に認識した。

 

 

──ムーを遥かに超える超科学文明国家。

 

 

それに対して、レミールはレヴァームと天ツ上に殲滅戦を指示してしまった。

 

カイオスはレヴァーム天ツ上の外交官を帰国寸前に呼び止め、窓口となる通信機器を自宅に設置させる事に成功し、今に至る。今回のアルタラス陥落により、自分のレヴァームと天ツ上に対する認識は間違っていなかったと確信を持つ。

 

 

「このままでは!このままでは!!」

 

 

誰もいない自室でカイオスはつぶやく。

 

 

「このままでは皇国が……これほどの国力を誇った列強たるパーパルディア皇国が消滅してしまう!!!」

 

 

第3外務局長カイオスは、皇国消滅の危機を正しく認識し、命をかけて皇国を救うために動くと決意するのだった。

 

そのために、初めにやることがある。カイオスは通信機器の隣に設置された魔信のダイヤルを合わせ、とある別の魔信に繋ぎ合わせる。

 

 

「こちらはカイオスです! 誰か聞こえますか!?」

 

 

その数十秒後、やつれた声で誰かが魔信に出てきた。

 

 

「その声はカイオスか!? はっきり聞こえるぞ、こちらはルディアスだ」

 

 

 


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