とある飛空士への召喚録   作:篠乃丸@綾香

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レミール閣下(2回目)



第52話〜真実の味〜

 

今日も中央世界の酒場は活気に満ちている。週一だった魔信放送も、最近では話題の提供に事欠かないためか、週3回に増えた。それにつれて商人や軍人の情報交換も活発になっていった。

 

 

『番組の途中ですが、臨時ニュースをお伝えします!番組の途中ですが、臨時ニュースをお伝えします!』

 

 

魔信放送のアナウンサーが鬼気迫る声で訴えかける。

 

 

『第3文明圏の列強国、パーパルディア皇国が侵攻し、攻め落としていたアルタラス王国は、独立を宣言いたしました』

 

 

アナウンサーが原稿を読み上げると、酒場の人間たちがざわざわと騒ぎ始める。

 

 

『アルタラス王国に進駐していたパーパルディア皇国軍は全滅に近い被害を受け、再侵攻も失敗に終わりました。専門家の間では、新興国家であるレヴァームと天ツ上の関与が明確になってきています』

 

 

そして映像では、アルタラスに出向いたニュースキャスターが、喜びに満ちたアルタラスの住民にインタビューを行なっている。

 

 

『パーパルディア皇国の属領が再独立したのは今回が初めてのケースとなり、この事件が、第3文明圏の今後の在り方にどう影響するのか、注目されています。現場からは以上です』

 

 

キャスターの解説を聞き、ミリシアルの放送局のキャスターにバトンを渡してインタビューは終了した。

 

 

「──おい、聞いたか? 今のニュース」

「ああ聞いた! パーパルディアが属領を1つ失ったなんてな!」

「やっぱり俺の言った通りだな、レヴァームと天ツ上にはパーパルディアじゃ勝てない! 俺たちの予測は正しかったんだ……」

 

 

酒場では自分たちの予測が正しかったことが証明され、さらなる会話のネタとなった。謎の新興国家、レヴァームと天ツ上。その話題はここ中央世界でも盛んだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「い……いいい以上が……あ、アルタラス奪還作戦失敗の概要になります……」

 

 

パーパルディア皇国皇都エストシラント、パラディス城の会議室にて、またも『負けの報告』がレミールに伝えられた。レミールは腕をプルプルとさせて報告書を置く。

 

400隻以上の艦隊を用いて敢行したアルタラス奪還作戦。しかし、それは数日経って失敗に終わった。ワイバーンオーバーロードを搭載していたはずの竜母も、艦隊もほぼ全て撃滅され、わずかな数だけが逃げ帰ってきた。

 

 

「5名だけ残れ……アルデ、バルス、マータル……ついでにエルトとカイオス」

 

 

言われた5名以外の、外務局職員や軍関係者のほぼ全ての人間たちが会議室を出て行った。それを見計らい、レミールは口を開く。

 

 

「これは一体どういうことだぁ!?栄えある皇国軍が2度も敗退するなど!何がどうなってるぅぅぅぅ!!」

 

 

レミールが耳がはちきれんばかりの大声で叫び散らかす。窓が揺れ、家具が軋み、柱にもヒビが入ったのではないかと思うくらいの大音量だ。

 

 

「マタァァァルウウウウウ!!貴様またやりおったなァァァぁぁぁぁ!!!」

「も、ももももも申し訳ありませ……」

「アルデ!貴様もだ!!」

 

 

恐縮して謝るアルデに構わず、怒鳴り散らかすレミール。今度はアルデにターゲットを絞る。

 

 

「作戦に不備があれば!指摘するのがお前の務めだろぉぉぉ!」

「し、しかし皇軍が2度も敗北するなど……」

「うるさい!大っ嫌いだ!!言い訳をするな、バァァァァァカ!」

 

 

部屋の外では、あまりの怒鳴り声の大きさに待女がまたメソメソと泣き始めた。前回と同じ待女だ、それを隣にいる女性職員が慰めている。

 

 

「も、申し訳ありません……」

「また負けるなんて! 将軍共はパーパルディア人のクズだ!」

 

 

レミールは持っていた鉛筆を机に叩きつける。

 

 

「チクショウメェェェェェェェエ!!」

 

 

そして、怒りのあまりに叫び散らかした。ある程度怒鳴って怒りが少しおさまったレミールは、一旦また席に座る。そして、次なる怒りのターゲットを絞る。

 

 

「私は士官学校など出ていないが! それでも単独で属領を72も手に入れたぞ!!」

 

 

正確には、レミールではなくルディアスの功績なのだが、レミールにとっては知ったことではない。

 

 

「It's判断力足らんかった……!奴らを粛清してやろうか!講和派の臆病者のように!!」

 

 

またも、彼女は講話派を例にとって軍部を脅迫する。

 

 

「おまけに! なんだあのレヴァームの女外交官は! 堅物そうな顔をしておいて、目に刺さる様な!おっぱいぷるーんぷるん!

 

 

レミールがそう怒鳴るのを見た、エルトとカイオスの思っていることが一致した。

 

 

──ねぇよ、あいつ男だよ。

 

 

どうやら、レミールは彼が男であることすら認識できないくらい怒っているらしい。彼女の怒りに応えるように、髪の毛は乱れ、目元の化粧が歪んでいる。

 

 

「それと……レミール様……」

「なんだ!?」

「ワイバーンオーバーロード隊からの報告では、今作戦にはまた海猫のマークをつけた飛行士が確認されたそうです」

「何!?」

 

 

海猫、そのマークのことはレミールも知っていた。たった1機でワイバーンオーバーロードを15騎も相手にしてあしらった凄腕の飛行士。おそらく、ムーからやってきた飛行士だと思われていた。

 

 

「くぅぅぅう!! 小癪な! 何度も私の邪魔をする気か!」

 

 

レミールは大きく息を吸い、海猫に対する憎悪をむけた。

 

 

「レミール様、大変です!」

「どうした!?」

「神聖ミリシアル帝国と……ムーが……パーパルディアからの自国民の退去を命じました!」

「何ぃぃぃぃ!?」

 

 

レミールはその言葉に、驚きを隠せずに狼狽した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

それからしばらく経った後、第1外務局長エルトはムーからのある情報を掴んだ。そして外れてほしかった推察が当たり、落胆していた。そして肝を据える。

 

レヴァーム、天ツ上と戦争状態に突入したパーパルディア皇国。その列強たる皇国内に住まうムーの民。第2文明圏列強ムー政府は自国の民に対し、レ天連合と本格的戦争状態に突入した事を理由として、パーパルディア皇国に対する渡航制限と皇国からの避難指示を出した。これを受け、皇国内に住まうムーの民は、続々と国外に脱出を図っている。

 

 

「やはり……そうか!!!」

 

 

エルトは執務室でつぶやく。列強たるパーパルディア皇国と文明圏外の蛮族の国、レヴァーム天ツ上。この3カ国が戦争状態になったところで、列強の本土が脅かされる事は無い。

 

まして、皇国本土から自国民に退去を呼びかけるなど、通常であれば狂人の判断だ。

 

しかし、ムーはそれを行った。

 

考えられる可能性はただ1つ、ムーが本格的に2カ国を支援し、皇国にけしかけているとしか考えられない。

 

 

「まさか……列強同士の戦いになるとは……何故ムーは、このような措置を取るのだ!!」

 

 

ムーの民が国外退去を始めているといった情報は、すでに皇族レミールにも知られている。間もなく、ムー国大使が皇国の召喚に応じ、出頭してくる。

 

レミール様がどう動き、ムー大使がどのような言い訳をするのかが楽しみだ。今回は、レミール様が主体となって外交を行うため、私はその様子をゆっくりと見学させてもらおう。第1外務局エルトは、まるで他人事のようにそう考える。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

皇族レミールは、第1外務局の小会議室で、第2文明圏列強ムーの大使を待っていた。

 

すでに事前情報として、ムー国政府がレヴァーム及び天ツ上とパーパルディア皇国が戦争状態に突入した事を理由として、パーパルディア皇国内のムー民に対し避難指示を出した、との情報が入っていた。港では、国外へ退去するムーの民が長蛇の列を作っている。

 

ムーはレヴァームと天ツ上に自国の兵器、マリンなどの飛行機械を輸出しているからこその避難指示と思われる。でなければ、列強と蛮国の戦争で列強側の国に対して避難指示が出る事は考えられない。

 

会議室には皇族レミールの他に、第1外務局長を筆頭とした幹部の面々が顔をそろえる。

そろそろムー国大使の到着時間だ。小会議室のドアがノックされる。

 

 

「ムー国大使の方が来られました。」

「お通ししなさい」

 

 

重厚な扉を開け、ムー国大使ムーゲと職員3名の計4名が入室する。

 

 

「どうぞお座り下さい。」

 

 

ムー国大使一行は、現皇帝であるレミールがいることに少なからず驚きを隠せなかったが、案内に促されるまま席につく。

 

が、そこで一行は自分たちの席に茶がない事に気づいた。なんたる無礼な態度だと文句の一つもつけてやりたかったが、彼らは我慢した。

 

ムー国大使ムーゲは今回の召喚の理由について、ある程度察しはついていた。おそらく今日自分たちがパーパルディア皇国に召喚された理由は、レ天連合と皇国の戦争により、本国から避難指示が出た件だろう。何故そんな事をするのか、問われるのだろう。

 

ムーは皇国と敵対している訳でも無く、特に仲が良い訳でも無いが、大切な国交を有する国だ。皇国も、さすがに両国の技術については気付いているだろうから、説明すれば解ってもらえるはず。いかに皇国のプライドを傷つける事無く、一時的とはいえ、ムー大使までもが本国に引き上げる事実を説明しなくてはならない。

 

しかし──

 

僅かに心に引っかかる事がある。皇国はレヴァームと天ツ上に対し、殲滅戦を宣言してしまっている。両国の強さ、技術力の高さを上が認識していたら、こんな事を宣言するとは思えない。

 

考えたくも無いが、まさか皇国はレヴァームと天ツ上の強さを認識していない可能性すらある。

 

 

──いや、それは流石に無いか……

 

 

認識が無いならば、皇国がレヴァームと天ツ上に連敗した説明がつくまい。ムー国大使ムーゲは皇国との会談の前に気を引き締める。

 

 

「それでは、会談を始めます」

 

 

進行係の言葉により、会議は開始された。最初にレミールがエルトを差し置いて発言を行う。

 

 

「我が国がレ天連合と戦争状態に突入している事は、知ってのとおりだと思う。今回のムー国の一連の対応について説明を願いたい」

「はい、このたびパーパルディア皇国と、レヴァーム天ツ上が戦争状態に突入いたしました。今戦争は、激戦となる可能性があります。今回の指示には、大使館の一時引き上げをも含みます。これは、我が国の幹部が、皇国本土にも被害が及ぶとの判断したのが理由になります」

 

 

この発言を受け、レミールの表情が曇る。

 

 

「いや、上辺は良いのです。調べはついています。本当の事を話してはもらえませぬか?」

「は?」

 

 

レミールの発言が理解出来ずに、ムーゲは間の抜けた声を出した。

 

 

「アルタラス島において、レ天連合からの襲撃がありました。その際、レ天連合の旗が描かれた飛行機械が目撃されているのです。本当のことを話してください」

「…………一体何を仰りたいのか、理解出来ないのですが……」

「解らぬのか?これは、ムーもとんだ狸を送り込んで来たものだ」

 

 

レミールの態度が、トゲのあるものに変わり、ムー大使たちは身構える。

 

 

「私は今、『飛行機械をレヴァーム天ツ上が使用しているのを目撃した』と言った。飛行機械が作れるのは、あなた方ムーくらいのものだ。あなた方ムーは、今まで決して輸出して来なかった武器をレヴァームと天ツ上に輸出したということだろう。そして、今回の皇都からの自国民の引き上げ、これが何を意味しているのかは馬鹿でも解る! 何故あの2カ国に兵器を輸出した!! そして何故我々の邪魔をするのだ!!」

 

 

ムーゲは今にも襲い掛かってきそうなレミールの表情に萎縮すると同時にパーパルディア皇国のあまりにも斜め上の推論に戸惑う。誤解を解く為に、ムーゲは1つずつ確認するように答える。

 

 

「あなた方は、何か重大な勘違いをしておられる。我々ムーは、レヴァーム天ツ上に兵器を輸出などしていない。それに、むしろ彼らの方が我々よりも機械文明が進んでいるのです」

「文明圏外の蛮国が、第2文明圏の列強よりも、機械文明が進んでいる? そんな話が信じられるか!!」

「彼らが──転移国家という情報は、掴んでおられないのですか?」

 

 

レミールは過去に読んだ報告書の片隅に記載されていた文を思い出す。しかし、彼女は現実主義者であり、そんな物語を本気になど出来なかった。

 

 

「転移国家などと……貴国はそれを信じているのか?」

「信じます。我が国以外の国では、神話としか思われていないが、我が国もまた転移国家なのです。1万2000年前、当時王政でしたが、歴史書にはっきりと記録されています」

 

 

ムーの歴史は当然ながらレミールたちもよく知っている。ただ、どんな歴史も、遡れば最終的には神話に行き着く。この世界では、ムーの神話の入り口と認識されていた。

 

 

「そして両国について調査した結果、彼らも転移国家である事が確認されました。彼らは巨大な滝に阻まれた海と滝だけの世界で孤独に暮らしてきた世界の人々なのです」

 

 

いまいち信じられないレミールだったが、ここに至ってムー大使達がくだらない冗談を言うとも思えない。ムーゲは部下に目配せすると、カバンの中から写真を数枚取り出す。

 

 

「これは、レヴァームと天ツ上の戦闘機……レヴァームと天ツ上では『戦空機』と呼ばれている飛行機械の写真です。そしてこれが我が国の戦闘機の写真……」

 

 

彼が取り出した写真には、一枚羽の飛行機械が映し出されていた。

 

 

「見て下さい、彼らの飛行機は単葉機、つまりは翼が左右一枚しかありません。我々の飛行機械は複葉機ですが、この二枚翼は空気抵抗が大きく性能限界があるとのことです。両国を視察してきた我が国の技術士官が、そう申しておりました」

 

 

ムーの最新鋭戦闘機を指して「限界がある」と言うことは、つまりレヴァームと天ツ上の戦闘機がその限界を超えていることに他ならない。

 

 

「彼らの飛行機械は時速700キロを超え、20ミリクラスの機銃を備えています。明らかに我が国より優れていて、逆にこちらが輸出して欲しいくらいなのです」

 

 

いつも澄ましているエルトの整った眉が寄り、その目は大きく開かれていた。

 

 

「で、では……海猫のマークを付けた飛行士は……?」

「? なんのことかは分かりませんが、我々は飛行士をレヴァームと天ツ上には派遣しておりません」

「!?」

 

 

彼は次に、超高層建築物が立ち並ぶ、見た事が無いほどの栄えた街の写真を取り出す。

 

 

「これは、レヴァームの首都エスメラルダの写真です。このエスメラルダは旧市街と新市街に分かれていて、この写真は新市街地の写真です」

 

 

高層建築物は、複雑なデザインで、木造でも石造りでもなさそうな、どこがつなぎ目なのか分からない不思議な質感である。さらに高価な窓ガラスがズラリと並んでいて、一見しただけでこの世界の列強国とは卓越した発展度であることがわかる。

 

皇国側の面々の顔色が一気に悪くなるのを見て、ムーゲは「そのまさかだったか」と内心呆れていた。

 

 

「軍にしても、技術にしても、レヴァームと天ツ上は我々よりも遥かに強いし、先を進んでいるのです。神聖ミリシアル帝国よりも上と言っても過言ではありません。そんな国にあなた方は宣戦を布告し、かつ殲滅戦を宣言してしまいました。殲滅戦を宣言しているということは、相手から殲滅される可能性も当然あります」

 

 

殲滅、と言う言葉にレミールがピクリと反応し、息が荒くなる。ムーゲはその反応を見て、レミールがこの戦争の原因だと分かった。

 

 

「……最初に申し上げましたが、ムー政府は国民を守る義務があります。このままでは皇都エストシラントが灰燼に帰する可能性もあると判断し、ムー国政府はムーの民に、パーパルディア皇国からの国外退去命令を出したのです。我々も間もなく引き上げます。戦いの後、皇国がまだ残っていたら私はまた帰ってくるでしょう。あなた方とまた会える事をお祈りいたします」

 

 

パーパルディア側が絶句して声が出ない中、ムーゲの最後の一言で会議は終了した。ムーゲの説明が正しいのであれば、自分たちは超列強国を相手に侮り、挑発し、そしてその国の民を虐殺してしまった。

 

さらに最悪なのは、外交官の渡してきた戦時協定をレミールがビリビリに破いてしまったことだった。あの時、要求文書と共に渡されたのだが、レミールは気づかずに一緒に破いてしまった。これはもう言い逃れができない。

 

列強国の大使の言は重く、あまりの衝撃に全員が放心状態となり、具体的な対策は一切思いつかない。重たい沈黙を破り、エルトはレミールに一言を言う。

 

 

「…………レミール様、ムー大使が言っていた事が本当とは限りませぬ。ムーが代理戦争を行うためにレヴァームと天ツ上を利用していた場合は、勝機はあります。」

「──フ……フ、フハハハハハ!!!」

 

 

レミールが突然笑いはじめる。エルトは、レミールの精神が壊れたのではないかと心配する。

 

 

「最悪の想定が、唯一の望みになるとは!! これほどの喜劇があろうか!! フハハハハ!!」

「レ……レミール様!?」

 

 

レミールは自分の笑い声だけが響く頭の中で、静かに思い返していた。思い返せば、何度も何度もレヴァームと天ツ上の国力に気付く機会はあった。しかし、レミールはファナへの嫉妬に囚われ、その全てを無駄にしてしまった。

 

 

「エルトォォォ!!」

「は、はい?」

「海猫に懸賞金をかけろ! そいつを墜とした奴は未来永劫、末代までの富を与える! これは命令だ! 私の邪魔をする海猫をなんとしてでも墜とせぇぇぇぇぇぇ!!」

「…………」

「そうだ! これで私の邪魔をするものは居なくなる!! 私は! この世界の母にぃぃぃぃ!!」

 

 

レミールは笑い狂いながら、そのことを後悔した。

 

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