とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

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今回は短めです、申し訳ない。



第53話〜復讐の味〜

ターナケインの計画は一度失敗に終わっていた。ターナケインは海猫を不意打ちで落とした後、パーパルディア皇国まで脱出する計画を立てていた。あわよくば、そのままアイレスVを手土産に亡命する事も視野に入れていた。

 

そうなれば、自分は裏切り者として名前が上がり、歴史で罵倒されるだろう。だが、これでいいのだ。相棒の命を奪って挑発をした海猫を、生かしておくわけにはいかないのだ。

 

だが、その計画は失敗に終わった。突然のワイバーンオーバーロードの乱入により、彼の計画は振り出しに戻り、再びの計画を練っていた。

 

もうすぐで反攻作戦が始まる、作戦に参加する者は空母や爆撃機の整備を行っており、連日連夜整備に余念がない。

 

サン・ヴリエル飛空場の誰もいない自室で、ターナケインは黙って地図を見据える。立てた計画はこうだ、エストシラントに攻撃が始まるその時に海猫を墜とす、そしてそのまま全速力で北に逃げてパーパルディア皇国に受け入れてもらうのだ。

 

彼らが受け入れるかどうかはわからない、が自分ではこれしか思い浮かばなかった。海猫を倒すまでのターナケインの計画は完璧だ、あとはこれを実行するだけ。

 

 

──だったが、一つ心残りがある。

 

 

問題はそのあとだ。見事海猫を撃ち落とし、パーパルディアに受け入れられた後、自分は何をすればいい? 海猫がいなくなってもパーパルディアが負けることは確実だ、そこでそのまま余生を過ごすこともできない。

 

どこかの国に移り住んでしばらく余生を過ごそうか、それともミリシアルにまで行って天の浮舟のパイロットにでもなろうか。

 

そこまで考えて、ターナケインは首を振った。余計なことは考えないでいよう、落とした後に考えればいいのだからと自分を納得させた。

 

ターナケインはそこまで考えて、机の引き出しを開ける。そこには、一振りの短剣が仕舞っていた。

 

 

「相棒」

 

 

この短剣は相棒の血を吸っている。苦しむ相棒を、楽にしてやる時に使用したものだ。これを形見代わりにターナケインは所持していた。

 

 

「仇は取るから」

 

 

誰もいない自室で、ターナケインは天に向かってそう言って呟いた。相棒が聞いているかはわからない、がターナケインはどんなことがあっても仇だけは取ると決めていた。

 

短剣を懐にしまい、地図を片付けるとターナケインは席を立った。自室の扉を開けて外に出る。

 

日はすっかり落ち、夜になっていた。夕方に降った雨の影響で南国にしては少し肌寒く、風も少しある。サン・ヴリエル飛空場で、ターナケインは外の新鮮な空気を吸って一息着こうとしていた。

 

 

「ターナケイン」

 

 

傍から声がかけられた。振り向くと、ターナケインの復讐相手が飄々とした態度で立っている。海猫だ、彼も風にあたりに来たのだろうか。

 

 

「ちょっとお酒を飲んでしまってさ、風にあたりに来たんだ」

「今日の戦勝祝いですか?」

「ああ、ターナケインは参加してなかったからね」

 

 

海猫が言う戦勝祝いとは、昨日のスクランブルの事だ。パ皇軍のアルタラス奪還部隊だったらしく、艦艇達は艦上爆撃機やら雷撃機やらで撃滅された。

 

戦勝祝いとの事だが、ターナケインはそもそも興味は無かった。不都合で参加していないし、当たり前の勝利だからだ。

 

 

「少し話そうか」

「…………はい」

 

 

海猫はそう言ってターナケインとの会話のリズムを始めた。

 

 

「ターナケインはなんで竜騎士になったの?」

「……子供の頃、森で迷ったことがあるんです。魔獣にも襲われそうになって、それで助けてくれたのが竜騎士だったんです」

「それから、憧れるようになったの?」

「はい、それから必死に猛勉強して竜騎士になりました……まあ、1発でなったわけじゃないんですけどね」

「そうか」

「竜騎士になってからは、竜に好かれました。よく懐いてくれていたし、小さい頃から一緒にいて……最高の相棒でした」

「……そうか」

 

 

海猫はどこか遠くを見てそう言ったが、ターナケインには気がかりだった。なぜなら、その相棒を殺したのは海猫なのだから。だからこそ、本人のまるで気にならないかのような物言いは尺に触る。

 

 

「シャルル教官はどうやって飛空士になったんですか?」

「…………僕は、長らくスラムにいてね。ベスタドと言われて蔑まれて、みみっちい生活をしていたんだ」

「…………」

「母も亡くなって、物盗りをしてその日暮らしをしてきたけど、ある日とある教会の神父さんに拾われたんだ。そのあと、色々あって今は飛空士だ」

「…………」

 

 

どうやら、海猫はターナケインと同じくらいの苦難の道を辿ったようだった。だが、同情はしない。それをしてしまったらターナケインの復讐は達成できなくなるからだ。

 

 

「シャルル教官」

「なんだい?」

「シャルル教官は……今まで戦争で沢山の人の命を奪ってきたじゃないですか」

「…………」

「シャルル教官は、その人達についてどう思っていますか?」

 

 

ターナケインはふと気になって、そんなことを聞いてみた。気になるのだ、この海猫が今まで殺してきた相棒やその他の人間達のことを覚えているのか、そしてどう思っているのかを。

 

 

「そうだね……僕は考えないようにしているよ」

「え?」

 

 

と、海猫はそう言ってそっけない顔で一言だけ語った。

 

 

「……人が死ぬことは悲しい、だからもう何も考えない事にしたんだ。そうすれば、もう悲しむ事もなくなるから…………」

「…………!」

 

 

こいつは今なんて言ったか?まるで、今まで殺してきた人間のことなんてまるで気にならないかのような言い方ではないか。許せなかった、こんなやつに相棒が殺されたかと思うと、虚しくなってくる。そして、ターナケインは懐に手を伸ばした。

 

 

「……シャルル教官」

「?」

「あんたは……そうやって忘れたのか!? 全部そうやって!!」

「え?」

「俺の相棒や! 殺してきた竜騎士の事も!!全部!!」

 

 

そして、ターナケインは懐の短剣を手に取る。それは、自室にあった相棒の血を吸った短剣であった。

 

 

「今この場で殺してやる!!」

 

 

ターナケインはそう言って、シャルルの胸目掛けて、短剣を突き刺した。ぶすりとした肉の感覚が短剣から伝わってくる。

 

月夜に、血飛沫が飛び散っていった。

 


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