とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

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日本国召喚第6巻を買いました!!
いや〜かなり原作とは違っていて楽しめました。
グラ・カバルのバカさも、拍車が掛かってました。
そして、エイテスさんが挿絵でめっちゃくちゃな美少年として描かれていて驚いた……私の好みなんですが、女装しませんか?(オイ)


第56話〜エスシラント沖大空戦その1〜

「う……うう……! や……やめろ! やめろ!! やめろぉぉぉ!!!」

 

 

レミールは自分の声で目を覚ます。ベットの上で息が荒れ、身体中の汗線から汗が吹き出している。

 

ムー大使との会談後、毎晩のように悪夢を見ていた。皇国がレヴァームと天ツ上によって蹂躙される夢、剣を振りかざすアメルと、処刑される自分を傍観するレヴァーム人と天ツ人。傍観者の中には、ファナ・レヴァームの姿もあった。

 

 

「……チッ!!」

 

 

レミールは気晴らしにすっかり朝になったバルコニーから顔を出し、皇都を複雑な心境で眺めた。

 

やってしまった。

 

やってしまった。

 

自分は今までルディアスの妃となるべく、順調に進んでいた。しかし、その時にあの女狐が現れてから全てが変わってしまった。

 

レミールは嫉妬に走り、そして挑発と虐殺でレヴァームと天ツ上に戦争を仕掛けてしまった。だが、ムー大使は言った。

 

レヴァームと天ツ上はムーよりはるかに強いと。神聖ミリシアル帝国よりも上であると。皇都が灰塵に帰す可能性もある。

 

 

──信じられない!!

 

 

どう考えても信じられるわけがない。しかし、監察軍を含めて3度にわたるレヴァーム天ツ上との戦いでの大敗を見るに、おそらくは事実だろう。

 

時速700キロ越えの飛行機械など、まるで古の魔法帝国だ。神話上の存在のような兵器を持つ国と、現実に戦わなくてはならない。レミールは戦いを回避するために、必死で思考を巡らす。

 

 

「領土の献上……いや、領土の割譲……レヴァームと天ツ上は何を望むのだ……」

 

 

降伏するにしても、なるべく元の国の形を残すことが望ましい。そのためには──

 

 

「……はっ」

 

 

レミールはアメルたちとの交渉のシミュレート中、彼の言葉を思い出した。

 

 

『我々はこのような蛮行を許すわけにはいきません。この首謀者とこの国には、必ず報復で償ってもらいます』

 

 

「──だめだ! だめだ! 絶対にだめだ!!」

 

 

自分は5大列強の皇族だ。将来はルディアスに嫁ぎ、皇妃となって、世界統一を果たす。そして、世界の太母となる……全ての人類は自分の我が子となるはずだ。

 

それなのに──

 

 

「……レヴァームと天ツ上には……絶対に殺されんぞ……!!」

 

 

レミールはバルコニーから顔を上げて目元を歪ませる。その瞳には、生恥を晒してでも最後まで生き残るという決意が宿っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

ついにパーパルディアでの本土決戦が始まった。

 

スセソール級飛空母艦『スセソール』『ガナドール』『グローリア』『プロタゴニスタ』『メントル』『スエーニョ』からそれぞれ飛空機械が発進し、上空で爆撃機隊と合流した。

 

さらに艦上爆撃機や雷撃機にも爆弾を傾注して、全力で出撃を敢行した。空が飛行機械達によって埋め尽くされ、その全てがエストシラントに向かっていった。

 

彼らに、最期の時が迫っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

『緊急事態発生! 緊急事態発生!! 皇都南方空域を警戒中の第18竜騎士団第2飛行隊20騎、全てレーダーロスト。撃墜された可能性大! 魔力探知レーダーに敵影反応なし。飛行機械の可能性大! 待機中の竜騎士は緊急発進し、皇都上空の敵機迎撃に当たれ! 繰り返す──』

 

 

皇都エストシラントの北側の陸軍基地で、警報音が鳴り響いて一気に基地が慌ただしくなる。ワイバーンオーバーロード隊が次々と発進し、上空に上がる。彼らの闘志は漲っており、いかなる敵が来ても大丈夫だと安心できる。

 

パ皇軍皇都防衛隊の陸将メイガは、急に鳴り響いた警報音に耳を覚まし、すぐさま作戦室に転がり込んだ。作戦室には基地周辺の地図が用意してある。位置を確認していた作戦参謀が、メイガの姿を見るなり駆け寄った。

 

 

「状況は!?」

「はっ! 先程エストシラント南方空域を警戒中の第2飛行隊が、5分ほどでレーダーロストしました。現在は第3飛行隊を緊急発進させました」

 

 

作戦参謀が窓の外へ視線を移す。視線の先には、滑走路で離陸準備に入る第3飛行隊のワイバーンオーバーロードの姿があった。離陸時間短縮のために、ジグザグに整列して次々と発進していく。

 

 

「最新鋭のオーバーロードが全滅するとは……敵はどの程度の強さなのだ」

 

 

メイガは青ざめた表情でそう呟いた。

 

 

「あれは何だ!?」

 

 

作戦室にいた誰かが、南の空域を指してそう叫んだ。メイガも目を凝らす、そこには空を覆い尽くす青い飛行機械が空に布陣していた。

 

 

「なっ、あれほどの飛行機械だと!?」

 

 

メイガはその量に驚きの声を上げる。その数は目測で300機は超えている数だ。

 

 

「ま、まずい! 早急に戦闘態勢に移行しろ!! 竜騎士隊で、上がれるものは全て上がれ!!」

 

 

メイガは吼え、その言葉に触発されて基地内がさらに慌ただしく動き回る。基地内に、緊急時のみに使用される最大級の警戒警報器が鳴り響き、基地内の人間がそれぞれ動いた。

 

しかし、その時を相手の飛行機械は全く待ってくれない。その中で比較的軽そうな機体と、黒い物体を吊り下げたいくつかの機体が皇都防衛隊の基地に降下しはじめた。

 

急降下で速度が上がり、光弾が飛び出して、離陸しようとしていたワイバーンオーバーロードと、すでに離陸して高度を稼ごうとしていたオーバーロード隊200騎に炸裂する。

 

 

「なっ!?」

 

 

空戦が勃発し、ワイバーンオーバーロードは一方的に飛行機械に叩き落とされていく。そして、間髪入れずに黒い物体を吊り下げた飛行機械が陸軍基地に接近してきた。彼らは、上空で黒い物体を切り離すとそのまま上昇に移った。

 

 

「何かを落としました!」

 

 

作戦参謀よ報告に、メイガは窓の外を見た。60機もの飛行機械が落とした、黒い物体が大量に降ってくる。その一つが、地面に接触した次の瞬間。

 

強烈な衝撃波が、爆炎の連続と共に爆発した。

 

艦上爆撃機『LAG』から放たれた陸用爆弾は、急降下爆撃の態勢で目標からほとんどの誤差なく、陸軍基地で爆発した。

 

爆発は全ての爆弾が着弾するまで連続し、滑走路に埋め込まれた魔石や倉庫の備蓄であった魔術媒体も次々と誘爆する。

 

土煙のほか、炸薬のオレンジ、色とりどりの魔導誘爆が基地を包み、巻き込まれた作業員や兵が悲鳴を上げながら爆発四散する。

 

 

「ぐぁぁぁぁぁ!!! 〜ッ目が!! 目がぁぁぁぁぁッッ!!!」

 

 

メイガとて、全く無事ではなかった。眼前のガラスが爆発の衝撃で粉々に砕け、ガラスの破片が彼の目に刺さった。彼は痛みのあまり、目を押さえてその場で転げ回る。

 

 

「状況は!! 状況はどうなってる!!?」

 

 

メイガの目から血が流れていて、視力を失っているのが周囲のものにもわかった。そんな状況でもなお、彼は指揮能力を失ってはいなかった。

 

 

「閣下、今の爆発は空中から投下された爆弾だと思われます。滑走路が爆炎に包まれ、おそらくワイバーンオーバーロードの発着は不可能です」

 

 

作戦参謀がメイガの問いに答えた。彼も埃まみれでボロボロだが、意識はハッキリとしている。

 

 

「空から爆弾を投下だと!? 滑走路は!? 皇都上空はどうするのだ!!」

「先程ワイバーンオーバーロード隊が200騎ほど離陸に成功しましたが、それっきりです。ワイバーンオーバーロード隊は劣勢に立たされています」

 

 

皇都周辺は元々、地表魔素放出量が少なく、ワイバーンもなかなか寄り付かない土地だった。離陸には長距離を走る必要があり、これがワイバーンの体力を著しく消耗させた。

 

しかも、陸軍基地に配備されているのはワイバーンオーバーロード種のみ。通常のワイバーンよりも多くの魔素を消費するので、魔石がなければ離陸できない。

 

メイガ以下、陸軍基地所属の将官の心を絶望が支配した。

 

 

「閣下! 戦闘中の飛行隊より連絡! 上空に『海猫』を確認したとのこと!!」

「何だと!?」

 

 

メイガはそのコードネームに聞き覚えがあった。通達書にあった、敵軍のエース飛行士。レミール陛下はやつに懸賞金を掛けていると聞いた。ならば──

 

 

「周辺の基地に連絡! 海猫がいると伝えてワイバーンを寄越すんだ! この際冒険者でもいい! 海猫を何としてでも墜とせ!!」

「はっ!!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

皇国民達は、何が起こったのか分からずに陸軍基地での戦闘を見守っていた。

 

 

「おい、あれは何なんだ!?」

「噂のレヴァームと天ツ上だ!! この皇都に攻めてきたんだ!!!」

 

 

住民達はパニックになって辺りを見回す。誰も指示してくれる人間がおらず、混乱だけが市民の心を支配していく。

 

 

『皇都の皆さん! 緊急事態です!』

 

 

その時、町に設置された魔導放送から初老の男の声が響き渡った。

 

 

『敵が攻めてきました! この皇都もまもなく戦場になります! 住民の皆さんは避難してください!!』

 

 

市民達はこの声に聞き覚えがあった。

 

 

「シルガイア市長!?」

 

 

住民に愛され、よい政治を行ってきたシルガイア市長の声そのものだった。

 

 

『繰り返します! 敵軍がエストシラントに攻めてきました! この皇都もまもなく戦場になります! 住民の皆さんは近くの丘に避難してください!!』

「避難だ!! 市長が言っているんだから、逃げなくては!!」

「バカを言え! どうせ逃げても殺されるだけだ!! この際戦うしか無い!!」

「そうよ! 何で今まで訓練してきたと思ってんの!?」

 

 

住民達の間で、意見が真っ二つに割れてどちらに従うべきか迷いが生じ始めた。

 

 

「おい! 見ろ!!」

 

 

興奮した様子の皇国の民が南を指差した。唸るような重低音と、先程戦闘を起こした飛行機械と同じ音が、重奏のように聞こえてくる。

 

 

「あそこだ! あそこ!!」

「なっ!!」

「いっ……いやぁぁぁぁ!!」

 

 

見れば、先ほどとは比べ物にならない数の、灰色の大きな機体が上空から侵入してきた。機体は後方に白い雲を引き、発する重低音が皇国民を酷く狼狽させた。

 

 

「何か突っ込んでくるぞ!!」

 

 

と、誰かが叫ぶ。空を見れば、北側から通りの道に沿って1機の青い飛行機械が降下してきた。まるで地面に沿って飛ぶような、超低空飛行。

 

 

「あれは……ワイバーンか!?」

「翼が動いていない! ムーの飛行機械じゃ……」

「何かを撃ったぞ!!」

 

 

そして、飛行機械は両方の翼と胴体から何かを放った。その瞬間、隣にいた人間が爆ぜた。

 

 

「え……?」

 

 

住民は理解が追い付かずに、その場に立ち尽くす。青い飛行機械はそのまま上空に登って行った。

 

 

「きゃぁぁぁぁ!!」

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

「逃げろ! 逃げるんだ!!」

 

 

それが攻撃だと分かった瞬間、彼らは一目散に逃げ始める。自らを殺さんとする虐殺の刃が、彼らに迫っていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「こんなの虐殺じゃないか!!」

 

 

皇都エストシラント上空、アイレスVの操縦席の上で、シャルルはそう吐き捨てた。皇都エストシラントの上空を、レヴァームの飛行機械達が埋め尽くし、住民達を嘲笑う。

 

その逃げ惑う住民達に向け、機銃弾が叩き込まれる。それは、レヴァームのアイレスVからの20ミリ弾による機銃掃射だった。

 

彼らは、虐殺をされた報復として今この場でパーパルディアの国民を殺しているのだ。それがシャルルには一瞬で理解できた。彼らは怒りのままに、パーパルディア国民を虐殺している。

 

シャルルにとっては、ただの虐殺だ。レヴァーム人と天ツ人を殺したパーパルディアと変わらない。いや、それよりも業が深い!

 

 

『シャルルさん! 今すぐ止めさせないと!!』

「けど、味方を撃てばどうなるか分からない……!」

 

 

シャルルはそう言って歯軋りをして、やるせなさを露わにした。メリエルもこの惨状に怒りを感じているのか、シャルルと止めようと計ってくる。

 

 

『爆弾投下用意!!』

 

 

その時、南の空域から新たな飛行機械達がズンズンと進んできた。サン・ヴリエル飛空場からやってきた、グラナダⅡの編隊だ。

 

彼らはまだ投下地点でもないのに、爆弾槽を開いていた。そして、彼らはそのまま腹に抱えた爆弾達を振り落とした。

 

 

「なっ!?」

 

 

爆弾槽の下は、エストシラントの市民達がいる市街地だった。街に爆弾が降り注ぐと、爆弾達は破裂してその威力を解放した。シャルルの空の声を聞く耳から、悲鳴が聞こえてくる。

 

 

『ぎゃぁぁぁ!! 熱い! 熱い!!』

『いや! いやぁぁぁぁ!!』

『痛いよぉ!! お母さぁぁぁぁん!!』

 

 

老若男女、関係なしに死んでいく。爆弾達は皆平等に命を奪い、その威力を解放していった。市街地が灰塵と化し、沢山の人が死んで行く。

 

 

「何てことするんだ! あれは無関係な市民だぞ!!」

 

 

シャルルは思わず、通信機で爆撃機の飛空士に繋いだ。

 

 

『俺の妹はこいつらに殺されたんだ!! 今更許すかよ!!』

『そうだ! 今まで虐殺してきた分、こいつらも死ね!!』

 

 

すぐさまシャルルに憎悪の声が鳴り響く。その全員が、親族を殺されたりした飛空士達の悲痛な声だった。シャルルはやるせない気持ちになり、風防を左手で叩いた。

 

 

「くそっ!!」

 

 

爆撃機達は本来の任務は何処へやら、市街地を囲うようにして爆弾を放り込み、その包囲網の中をアイレスVの機銃掃射が住民を貫いていく。次々と上がる悲鳴、死んでいく命、シャルルは歯軋りをしながらそれを見守るしかなかった。

 

そして、30分後──

 

皇都と陸軍基地はズタズタに破壊され、殆どが機能を停止した。散々機銃を浴びせたアイレスVも、爆弾の雨を市民に降らせたグラナダⅡも、やっと満足そうに進路を南へ向けた。

 

 

「…………!!」

 

 

シャルルもその編隊に加わろうとした時、空に違和感を覚えた。ふと、北側を見据える。そこから点のような何かが多数、いや無数に迫ってくる。

 

 

「あれは……!?」

 

 

羽ばたく翼、独特の体色、そして上に乗った竜騎士。間違いない、あれはワイバーン達だ。

 

 

「くそっ……近くの基地の奴らが駆けつけてきたか……」

『くそっ! どうする!? 俺たちは戦闘と機銃掃射をしすぎて電力残量がないぞ!!』

「なんだって!?」

 

 

シャルルは制空隊のメンバーからの悲鳴に、思わず聞き返した。

 

 

『空母まで引き返すくらいの残量しかない! 空戦どころか最高速度も出せない!!』

『こっちは弾丸を使いすぎた……ダメだ、このまま空母まで行くぞ』

 

 

どうやら、無数のワイバーンオーバーロード隊との空戦、それに市街地への機銃掃射をしすぎたせいで、電力残量が残り少ないのだという。おまけに、弾丸を使い果たした機体もあるらしい。

 

 

──市民に機銃掃射なんかするからだ!!

 

 

シャルルは怒りを感じつつ、そう言って呆れた。

 

 

──どうする……!?

──足の遅い爆撃機隊を守りながら空戦する余裕はアイレスVにはない……

──なら、今この場で誰かが囮になるしかない……

──それができるのは……

──自分だけだ!!

 

 

シャルルは大きく息を吸い、そして吐いた。今この場で電力残量に余裕があるのは機銃掃射を行わなかったシャルルの機体のみ。自分なら、あの数のワイバーンオーバーロードが相手でもなんとか凌げるはずだ。そうだ、やるしかない。

 

 

「メリエル、みんなを頼んだ!!」

『え? シャルルさん!!』

「僕が囮になる! みんなはその間に空母まで!!」

 

 

そう言って、シャルルはメリエルの静止も聞かずに、ワイバーンの大部隊に突っ込んでいった。

 

 

『来たぞ! 海猫だ!!』

『あいつを倒せば、俺たちは大金持ちだ!!』

『野郎ども! やるぞ!!』

 

 

通信機から野蛮な声が轟く、シャルルはそれに臆することなくワイバーンを見据えた。

 

 

「かかって来い……全員叩き落としてやる……」

 

 

この空戦はのちの歴史書にこう記された。海猫の伝説の始まり『エストシラント沖大空戦』と。

 


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