それと、第25話〜異界の大帝国〜を編集して、アストルの代わりにオリジナルのパイロットを出しました。yock様の活動報告でのご意見を参考に、考察し直しました。yock様、アイデアありがとうございます。
ファナは語った。レヴァームと天ツ上の戦争、中央海戦争の事。そして、自分がサン・マルティリアに天ツ上によって閉じ込められた事。そして、軍によってファナを生かす為に繰り出された海猫作戦の事を。
水偵と呼ばれる偵察機1機で、1万2000キロの中央海を単機で突破する。その無謀ともいえる作戦の飛空士を務めたのが狩乃シャルルなのだという。
ファナはその水偵──サンタ・クルスの後席に乗り込み、シャルル飛空士と一緒に中央海を旅した。
飛空駆逐艦に空雷を放たれたり、空母の艦載機に追い回されたり、しかし最後まで諦めずに運び続けたシャルル飛空士の勇敢さ。
そして、天ツ上のエース飛空士との一騎討ち。ファナの機転で窮地を脱した事も語ってくれた。
ファナはそのうちに、その飛空士に密かな恋心を抱き始めた事も明かした。身分の違う、それも当時はレヴァームの皇太子と婚約していたファナと、一介の飛空士との禁断の恋。たった1週間たらずの間に二人は惹かれあったのであった。
そして名残惜しい別れの時、エル・バステルの上空を飛び回って報酬の砂金を撒き散らして舞ったシャルルの姿も、事細かに語られた。
ルミエスは悟った、これは彼女にとっての尊い思い出なのだと。その飛空士との禁断の恋が、今でも忘れられないのだと。ルミエスは思わず、涙が出そうであった。
いや、もうすでにルミエスは涙を流していた。そのような悲哀で、悲しい恋が本当にあったのだと理解すると、途端に感動したのだ。
「申し訳ありません……まさか、ファナ殿下がそのような体験をなされていたとは……」
「はい、彼とはもう何年も会っていません。実は、その彼は中央海戦争で一度名前を捨てて、今では会うことができないのです」
「もう、何年も……」
「はい、ですが私は彼のことを忘れていません。今でも、先ほどのことのように覚えています」
ルミエスはファナ殿下の落ち着いた口調に、心にしんみりとするものを感じる。
「ルミエス殿下」
「はい」
「私たちのような、国家を束ねる存在は常にたくさんの人の命を握っていることを自覚しなければなりません。その飛空士も、今までたくさんの人の命を奪ってきたと言っておりました。そして、その責任を今でも持っているのです」
「…………」
「ルミエス殿下、どうか決心して下さい。この戦争は、貴方に掛かっているのです」
ルミエスは自分の課せられた使命を考えた。自分の号令一つで、属国達が一気に反乱を起こす。それは、自分に課せられた使命であり、責任なのだ。自分は血に濡れた手をずっと引いていかなければならない。そう、考えた。
「ファナ殿下」
「はい」
「やります、私は属領の蜂起を呼びかけます! やらせて下さい!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「来い! 叩き落としてやる!」
シャルルとワイバーン達の死闘は、もう1時間も続いていた。3騎がついてくる。前方からも反航で敵がやってくる。放たれる火炎弾の遅い火の玉をひらりと躱し、お返しとばかりに前方の3騎を叩き切る。
『被弾した! 飛び降りる!!』
『もう120騎はやられたぞ!』
エストシラントの空には、もうワイバーンの半分が墜落していた。400騎いたワイバーンのほとんどはスタミナ切れ寸前で、元々遠くの飛空場から無理してやってきたツケが回ってきていた。
シャルルは速度を上げ、そのあといきなり反転する。追ってきていた3騎が慌てて回避しようとするが、逃しはしない。
『うわぁ!!』
『こいつめ! みゃあみゃあ鳴いてるだけでいいのによ!!』
『こいつは海猫なんて呑気なもんじゃない! 海猫の皮を被った化け物だ!!』
シャルルに対する恐怖心が、敵の中から芽生え始める。中には、戦線を放棄して逃げ始めるワイバーンもいた。
『くそっ! 俺は逃げるぞ! 賞金に目が眩むんじゃなかった!!』
「逃すか!」
シャルルの攻撃は止まらない、半端キレかけている海猫は逃げる敵騎を追いかけ、袈裟懸けに叩き落とした。
そろそろ流石に体力の限界だ、シャルルは身体中の筋肉が痛むのを感じていた。全身の筋肉に乳酸が溜まり、特にあの時ナイフを受け止めた右手はまだ治っておらず、じんじんと痛む。
「まだまだだ!!」
そういえば、似たような状況に陥ったかつての友人がいた気がする。中央海戦争、空母艦隊の上空でシャルルと一騎討ちをし、シャルルを負かした後に300ものアイレスVを叩き落し続けたあの飛空士も同じ気持ちだったのだろうか。今は考える暇がない。
だが、彼も同じような窮地に立っていたに違いない。援軍はまだか、何機叩き落としてやれば気が済むのかと、シャルルはそれだけを考えていた。
『現場に到着した、この状況はなんだ!!』
『たった1騎に皇国のワイバーンが翻弄されてるだと!? あれが海猫か!?』
また新たなワイバーン達がこの現場に到着したらしい、さっきから倒しても倒しても増援が無秩序にやってきていた。その方向に目を向ける、大型のワイバーン、あれはワイバーンオーバーロードだ。
「落とせるものなら落としてみろ」
シャルルは敵に罵倒を送り、高度を上昇させた。これ以上戦うわけにはいかない、なら相手の戦意を削ぐしか方法はない。そのための大技、アレを繰り出すしかない。
「ついて来い!」
ワイバーンオーバーロードをわざと後ろに着かせ、緩い上昇に入る。彼らは腕がいいのか、ピッタリとくっ付いた状態でギリギリまで近づこうとしている。
「ここだ」
最大角まで上昇をしたところで、シャルルは宙返りの頂点付近で左フットバーを緩め、右フットバーを蹴った。イスマエル・ターン、それを繰り出そうとした──が。
「っ!!」
右手にジンッした鋭い痛みが滲み出る。手に巻いた包帯から血が滲み出る。その瞬間、シャルルは操縦桿を握っていた右手を押さえてしまい、ターンが失敗する。
「くっ!!」
ターナケインに付けられた傷だった、機体が高度3000メートル付近で失速し、シャルルは態勢を立て直そうとする。
『奴が失速したぞ!!』
『今だ! 全弾叩きこめ!!』
シャルルは機体を立て直そうと必死に操縦桿とスロットルを操作して、なんとか態勢を立て直した。しかし、その間にワイバーン達は目鼻の先にまで迫っていた。
「くっ……ターナケイン……君って奴は……」
この傷をつけた本人に、少し恨み節をぶつけた。しかし、それでワイバーン達が攻撃を止めるわけがない。
『導力火炎弾……』
確実に死が近づいていく、シャルルはこの空で撃ち落とされるだろう。一つ気がかりなのは、ターナケインがどうなったかだった。
『はっ……』
が、その途端、導力火炎弾を撃とうとしたワイバーンが爆ぜた。上方向から機銃弾を浴びせられ、翼がもがれて墜落していく。
「え?」
シャルルは目を疑った、今の機銃弾はレヴァームの曳光弾だ。今この場に自分以外のレヴァーム機はいないはず、居るとしたら一言通信を入れるはずだ。
その時、上空から下方に1機のアイレスVが過ぎ去っていった。翼から雲を引いて、そのまま上昇していく。
「あれは……」
見覚えのある飛び方だ、あのような乱暴な飛び方は若い人のやり方だ。レヴァームの飛空士で、シャルルがあの飛び方を知っている人間は一人しかいない。
「まさか……」
そして、そのアイレスVは上昇角を上げて、ストールターンをして反転。シャルルを囲むワイバーンを捉えた。
そして、外側から20ミリの弾がワイバーンに炸裂していく。アイレスVは翼を翻して次々とワイバーンを落としていった。
まるで、シャルルを助けようとしていたかのような、その機動。シャルルはその飛空士に通信で呼び掛けようとしたが、その前に相手から呼び掛けられた。
『シャルルさん』
聞き覚えのある声だ、やはり予想は合っていた。
「ターナケイン」
彼はシャルルに復讐を誓ったはずの、ターナケインだった。彼はそのまま空を飛んでシャルルの隣で編隊飛行を始めた。
「一体なんで……?」
『もう一度、考えたんです。相棒の事、そして自分の未熟さを……』
「なのに、どうして……」
『もう一度だけ、空を飛びたかったんです。シャルルさんと一緒に。だから、許します。もう憎しみは捨てたんです』
ターナケインはそう言って、自分の気持ちを語った。
『シャルルさん!』
さらにターナケインの反対側から、若い女性の声が聞こえてきた。振り返ってみれば、メリエルであった。
『ターナケインがガナドールを飛び出したので追っかけてきました!』
「メリエル」
『シャルルさんは大丈夫ですか!?』
「ああ、大丈夫だよ」
シャルルはそう言うと、息を吸って呼吸を整えた。そして、目を見据えて見開いた。
「なら飛ぼう、三人で、この空を」
シャルルは言った、3人一緒にこの空を飛ぼうと。その言葉に、ターナケインとメリエルは風防の向こうで頷いた。
「行こう!」
『『はい!!』』
3機同時にスロットルを叩く、DCモーターが3機分唸り、列機を組んでワイバーンへと迫っていく。
『敵が3騎に増えたぞ!!』
『臆するな! この数で襲い掛かれば落とせる!』
『そうだ、あいつらは海猫ほどじゃない!!』
『足手まといを付けやがって! 全員落としてやる!!』
さて、この三機の連携を見てもそんなことが言えるかな。シャルルはそんなことを思いながら、列機を率いて上空に登っていく。
そして、3機同時にストールターン。力強いターナケインのターンと、繊細なメリエルのターン、そして芸術のようなシャルルのターン。3機の美しい機動が、ワイバーンの竜騎士達の目に焼きつく。
そして、3機同時にワイバーンにヘッドオンで襲いかかる。上空から下方に向かって機銃を放ち、すれ違うたびに次々とワイバーンを落としていく。
そして、見惚れる地上の住民達を目に入れてそのままさらに上昇。緩い宙返りを描いて列機を解除する。
「さあ、狩りの始まりだ!!」
列機を解除しても、3機の連携は途絶えない。1騎、2騎、3騎、4騎、どんどん落としていく。ワイバーンの壁が、だんだんと切り裂かれていく。
『な、なんなんだよこいつら!? 連携しているのか!!?』
『後ろに付けない! 後ろに目でも付いてるのか!?』
『3機ともエースだ! エースだぞ!!』
『い、いやだぁ……! 死にたくない!! 落とさないでくれ!!』
ワイバーンは遂に、ワイバーンを囲んだまま水平距離500メートルほどのところを大きく開けて旋回し始めた。中には逃げ出すワイバーンもいる。そんな敵に対して、またも別方向から銃弾が浴びせられた。
「!?」
見れば、その方向からやって来たのは百機程の真電改であった。天ツ上の機体だ、どこからやって来たのだろう。
『こちら、あかつき丸飛空隊です!海猫、聞こえますか!?』
「バッチリ聞こえます!」
『レヴァーム軍からの要請で助けに来ました、上陸前のあかつき丸からここまで飛んできたんですから、暴れさせてください!』
「ありがとう!」
やって来たのはあかつき丸の飛行隊だった。たしか、天ツ上のあかつき丸は陸軍艦でありながら真電改を運用することのできる空母であった。レヴァーム軍からの要請で駆けつけて来たのだろう。
『さあ、海猫に負けるな! 俺たちも暴れるぞ!!』
そして、シャルルにつられるように真電改達は空戦に入った。彼らもシャルル達3機程ではないが、腕のいい飛空士だ。奮戦してワイバーンを次々と落としていく。
空が、飛行機械だけで満ちるのはそれほどかからなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
エストシラントから少し離れた小高い丘、そこではいくつものテントが張られていた。住民達がその中に入り、丘から燃え盛るエストシラントでの空戦を見据えていた。
「エストシラントが……エストシラントが燃えている……」
「そんな……栄えある皇国の首都が……」
「うっ……うぅぅぅぅ……」
エストシラントの住民、その全てとはいかないがシルガイアの呼びかけで避難して来た人がいた。エストシラントの空で、ワイバーンと飛行機械による空戦が行われているおかげで、彼らは逃げる時間を稼げたのだ。
「人々を虐げて来た罰が、回って来たのか……」
そのエストシラントの市長、シルガイアは市庁舎の職員を全員連れてここまで避難して来た。もちろん、途中で市民を連れて来てだ。エストシラントがこんな惨状であるが、シルガイアのおかげで助かった人も大勢いた。
「あの飛行士は……」
市長のシルガイアは空を優雅に飛んでワイバーンと戦う飛空士を見据え、一言呟いた。彼は、青い海猫のマークを双眼鏡で確認していた。海猫の機体が海へと向かう、ワイバーン達は全て落とされていた。
「彼は……伝説となるのか……」
たった1機でワイバーンを何百騎も相手にした飛行士、彼はそのまま海へと向かう。その飛行は、住民達の目にも焼き付いていただろう。