とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

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第62話〜戦争と花飾り〜

「父さん、母さん、姉さん……何をしてるの……?」

 

 

エストシラントのとある一家、そこでは慌ただしく両親と姉が武器を片手に移動していた。何かの準備をしているらしく、姉は梱包されたナニカを持っている。

 

 

「ユイリ、貴方はここで隠れて」

「姉さん達は……?」

「私たちは、この街を守らなくちゃいけないの。敵が攻めてきたから、戦わなくちゃいけないの」

 

 

まだ16歳にも満たない少年、ユイリにとっては彼らが何をやろうとしているか分かりかけていた。彼は少年という歳だがまだ幼い子供、おまけに気の弱かったユイリにとってはそれが不安で仕方がない。

 

 

「で、でも敵でも降参すればいいんじゃ……」

「ダメよ、あいつらは降参した敵ですら殺して回ってるの。だから戦うしかないの。ユイリは絶対に外に出ちゃダメ、いいわね?」

 

 

そう言って姉はユイリを地下室に入れ、頑丈な扉を閉めた。中からリックスが扉を叩く音が聞こえるが、両親と姉は悲しそうな顔で気持ちを切り替えた。

 

 

「ユイリは一番年下だから、お姉ちゃん振りを見せないとね」

「さあ、行くぞみんな。パーパルディア皇国民の意地を見せてやる!」

 

 

父と姉はそう意気込んだ、彼らの手には梱包された魔術式の爆弾が持たれていた。花飾りが特徴の姉が、それを持った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「空軍の連中、余計な仕事しやがって! どこもかしこも敵だらけじゃねえか!」

 

 

ティグレ中戦車『フィーリー号』の戦車長、ボブ軍曹は空軍の所業と仕事の中途半端さに思わず愚痴を言った。

 

市民を虐殺したくせに、仕事は中途半端。おまけに「殺される」と分かった市民達が、一斉に軍とともに突撃を仕掛けてきている。フィーリー号の乗員達は先ほどから戦闘の連続に遭っていた。

 

 

「装填完了ッス!」

 

 

ユージンが76ミリ砲の砲弾を装填した事を伝える。相変わらず早い、普通の乗員よりも練度が高いだけはある。

 

 

「ナオミ! 右側の牽引式砲を狙え!!」

「了解」

 

 

ナオミがクランクを回し、素早く照準を合わせる。静かで口数が少なめの、クールなナオミは黙って命令に従う。彼女も歴戦の戦車兵なのだ。

 

 

『目標、前方の鉄竜!! っ撃ぇぇぇ!』

 

 

しかし相手の魔導砲が先に火を吹き、フィーリー号に炸裂する。

 

 

『やったぜ!!』

『列強に逆らうからだ!!』

 

 

が、爆発をもろともせずにフィーリー号はその場に佇んでいた。装甲には傷一つ付いていない。

 

 

『な、なんだと!?』

「ナオミ、やり返してやれ!」

 

 

ボブがそう言うと、ナオミが戦車砲の引き金を引いた。76ミリの砲弾が飛んで行く。榴弾はピンポイントで魔導砲に炸裂し、砲兵もろとも吹き飛ばした。

 

 

「うぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

一方のアリサは、車載機関銃を絶叫を上げながら乱射していた。その照準の先には子供や市民の姿があった。

 

 

「ざまあみろぉ! レヴァームの力を思い知れ!!」

「…………」

 

 

その錯乱した様子に、ボブは黙って見ていた。彼女も新兵、初めて味わう戦場の空気に飲まれてしまっている。

 

 

「ハァ……ハァ……ハハハッ……」

 

 

その錯乱具合で周りを邪魔しないように気を配らなければならない。

 

 

「!? 前方、地竜が接近している!!」

 

 

その時、地面がガタゴトと揺れるような音がしてボブは前方を見た。その先には、大量の地竜が全力疾走で突撃をして来ている。その背中には、大量の樽が詰め込まれている。いわゆる『大樽爆弾』とレヴァーム軍が咄嗟に呼んでいる爆弾だった。

 

 

「ナオミ! ユージン! 俺たちは左側の地竜から倒すぞ!!」

「「了解!!」」

 

 

フィーリー号は今道の左側を進んでいる。そのため、左方向から接近してくる地竜から倒すのが吉だとボブは指示を出す。右方向は別の戦車が倒してくれる筈だ。ナオミとユージンはその指示に了承し、素早く照準と装填を行う。

 

 

「装填完了ッス!」

「撃て!」

「発射」

 

 

ナオミが再び引き金を引く。76ミリ砲弾は爆炎と共に無慈悲に飛翔していき、鎧を着込んだ地竜を外郭から貫いた。

 

 

「グォォォォォ!!」

 

 

雄叫びを上げて、走った速度のまま地面に転がる地竜。それも、しばらくすると止まり、後続の地竜の邪魔になる。それを飛び越えたり、避けたりして地竜は突進をしてくる。

 

 

「次! 装填!」

「装填完了!!」

「撃て!!」

 

 

再び引き金が引かれる。爆炎と煙と共に76ミリ砲弾が撃ち出され、地竜が撃破される。が、またもその屍を越えて地竜が迫ってくる。装填をしている時間は無い。

 

 

「くそっ……パラディス城はもうすぐそこなのによ……!」

 

 

せめて傍の重機関銃が効くか、と言う瀬戸際でボブは重機関銃を手に取った。

 

 

「グォォォォォ!!!」

 

 

地竜が迫って来ている、このままでは近すぎてやられる。そう思った時、道の先の真横から一発の弾が通り過ぎて行った。

 

 

「は?」

 

 

弾は的確に地竜の大樽爆弾に当たり、周りの弾薬に引火したのか爆発していった。ドカン、と言う大きな音とともに周りの地竜も吹き飛ぶ。転がってしまった地竜に横からとどめの一撃が叩き込まれ、地竜は死んで行く。

 

 

「なんだ? 味方か?」

 

 

思わずブライアンが疑問を口に出す。前進を命令し、その通りの横側が見える位置にまで移動する。すると、一人の天ツ人の兵士が九七式対戦車ライフルを構えていた。

 

一人だけでは無い、何人かの天ツ人の兵士たちがいて、彼らは険しい目つきでこちらに挨拶をして来た。

 

 

「帝政天ツ上陸軍第一挺進団、第一中隊隊長の中野だ」

「あ、ああ……神聖レヴァーム皇国陸軍、第6機甲師団第66機甲連隊、ボブ・オックスマン軍曹だ」

「危ないところだったから助けたが、そっちに被害は?」

「こっちは問題ない、敵は撤退していった。それより今のは狙撃か? 随分な手馴れがいたもんだな……」

「うちの隊員の橋本だ、射的の腕はピカイチでな」

 

 

そう言って、橋本と呼ばれた隊員が九七式対戦車ライフルを隣の隊員と二人がかりで持って来た。隣の隊員は、八木というらしい。

 

 

「第一挺進団が、こんな悪天候の中何を?」

「本来なら輸送機や飛空艦から空挺する予定だったんだが、生憎この天気でな。仕方なく普通に上陸していったんだ。俺たちの任務はただ一つ……」

 

 

そう言って、中野の奥から身なりの良い兵士たちがゾロゾロと出てきた。彼らは皆銃やサーベルを携帯している。その偉容に、思わず周りの随伴歩兵が身構える。そいつらは、パーパルディア人だったからだ。

 

 

「彼らは協力者だ、この国のカイオスとかいう外務局の人間に手伝ってもらって、爆撃と同時に蜂起を起こしてもらってたんだ」

「き、協力者?」

「ちなみに、この手のものはパラディス城にも居る。意味は、わかるよな?」

 

 

これから向かう目的地であるパラディス城にも、この手の協力者がいるという事。それはつまり、目的であるルディアスとやらの救出も捗るという事だ。

 

 

「ここから先は我々も加わる、進軍しよう」

「あ、ああ……」

 

 

そう言われて、ボブはブライアンに前進を命令した。命令に忠実なフィーリー号は、そのままモーターを轟かせて歩みを進める。

 

 

「あれが第一挺進団……天ツ上随一の練度を誇る精鋭部隊か……」

 

 

ボブはそう言って彼らの練度に感心した。

 

 

「ん?」

 

 

その時、道端に何かをが落ちているのをボブは発見した。ボブはブライアンに留めるように指示し、フィーリー号から降りてそれを拾う。女性の遺体のすぐ側、髪から落ちたかと思われる綺麗な花の髪飾りだった。ボブは何故だが、悲しい気持ちになった。

 

 

「戦争なんてクソッタレだ……」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

暗い部屋の中、ルディアスは一人で椅子に座って助けを待っていた。部屋の中ではネズミがちゅうちゅうと穀物を齧っており、さらにはポタポタと水が垂れている。地下室なので薄暗く、ルディアスにとっては慣れない環境だ。

 

 

「カイオスは無事だろうか……」

 

 

カイオスはあのレヴァームと天ツ上の攻撃と共に、一部の近衛兵を率いて蜂起を起こし、ルディアスをこの地下室に匿った。

 

魔信を使った事前の協議では、首謀者の中にはエルトもある程度協力してくれるらしいため、彼等の安否が心配だ。ルディアスを閉じ込めた事で彼等は裏切り者と判断されて捕まっているかも知れない。

 

その時だった、付けられた鉄製の扉が勢いよくノックされ、外側から声が聞こえてくる。

 

 

「合言葉を言え! 山!!」

 

 

ルディアスはあらかじめ定められていた合言葉を叫ぶ。返事はすぐに返ってきた。

 

 

「川!」

 

 

それを聞いたルディアスは、扉の前にまで行き、扉の鍵を外した。外側から兵士らしき銃を持った人間が口を放つ。

 

 

「元皇帝ルディアス、で合っているな?」

「ああ、そうだ……助けに来た部隊か?」

「帝政天ツ上の中野だ。助けに来た、街は制圧してある」

「そ、そうか……ついて行く、ご苦労だった」

 

 

ルディアスはそう言いながらも、彼等の救出スピードの速さに背筋が凍りついた。彼らは今回は味方だったが、彼らがもし自分たちに牙を向けたらどうなるかを、ルディアスは知ったからだ。

 


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