とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

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やっとパ皇戦は終わりです。
それと、25話に挿絵を追加、陸戦兵器には項目を追加をしました。
よければ是非、ご覧ください。


第67話〜とある皇女の終焉〜

ドアをノックする音が鳴り響く、その音さえも耳に入らない。自分の執務室となったリーム王国の宮殿の一室で、アルデは頭を抱えていた。

 

レヴァームと天ツ上と戦い始めてから、今日まで何回扉が叩かれただろうか? それすらよく覚えていない、とにかく悲惨な報告が相次いで胃がはち切れそうだ。

 

もう、司令官になるのではなかった。こんな多忙で陰鬱な職業なんか、辞めてみたい。アルデはそう思えてきて、何もかも面倒くさくなってしまった。

 

もう何日も寝ていない、一昨日はアルーニが落ちた報告で発狂してしまった。その疲れがまだ残っている。

 

 

「アルデ様! アルデ様!!」

 

 

秘書だろうか、参謀だろうか、アルデを呼ぶ声がしてくる。そんな中で、アルデは自分のしてきたことを振り返っていた。

 

レヴァームと天ツ上を意識し始めたのは、皇国の新聞で彼らが接触してきた時だった。彼らは生意気にも飛空船を大量に派遣して威圧してきたらしい。実際の目では見ていないが、そういうことだ。

 

その時は、飛空船を実用化したくらいの小さな小国が二つと思っていた。そして、フェンに派遣した筈の監察軍が敗れたときも、そんなに気にならなかった。監察軍の練度が低かっただけだと、もっとよく分析をすればよかった。

 

 

『全滅ですかぁ……蛮族相手に全滅、監察軍は皇国の恥ですなぁ』

 

 

誰かに言い放った言葉を思い出す。あの時、この言葉は誰に向けて放ったのだろうか、覚えていない。

 

だが、これだけは言える。情報分析をロクにせず、自分の慢心だけでレミールに付いて行った事は全て間違いであったと。皇国の恥は自分自身だと。

 

どうしようもない屈辱感と、後悔が募る。文明圏外の蛮族が列強に勝るなど、歴史上一度もなかった。

 

あってはならないことなのに、『現実』はあった。

 

最新の飛空戦列艦やヴェロニア級竜母も、惜しみなく投入し、ワイバーンオーバーロードも投入した。動員兵力は皇国史上最大であり、世界的に見ても大戦といえるほどの規模だった。

 

しかし、レヴァームと天ツ上の連合軍に与えた損害はゼロ──まさかのゼロである。頼みの綱のデュロも失われた。敵は上陸部隊をリームへも進行させている。打つ手はない。

 

アルデは傍らにある短銃を震える手で掴んだ。そして、撃鉄を引き……

 

 

「パーパルディア皇国……万歳……!」

 

 

自分の頭に向けて引き金を引いた。

 

 

「アルデ様! レヴァーム天ツ上連合がここヒキルガにも攻めてき……!」

 

 

部下がたまらず執務室を開けて中に入る。彼が見たのは、頭から血を流して死んでいるアルデの姿だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「目標! 前方の魔導砲!」

 

 

『フィーリー号』の76ミリ砲が旋回する。ゆったりと旋回する砲塔は、敵に向けて死を告げている死神の鎌だ。そして、死神の照準はピッタリと敵に向けられる。

 

 

「撃ぇっ!!」

 

 

砲手のナオミが引き金を引く。砲弾は正確に魔導砲にぶち当たり、それを木っ端微塵にした。

 

『フィーリー号』にも発射炎が戦車長のボブに降りかかり、耳が潰れそうになる。それをグッと堪えて、次の指示を的確に出す。

 

 

「次弾装填! 弾種榴弾!」

 

 

ユージンが次の砲弾を詰め込み、主砲塔の蓋を閉める。

 

 

「装填完了ッス!」

「目標、左前方の塹壕陣地! パーパルディアの野郎どもを吹き飛ばせ!」

 

 

それを合図に、再びナオミが引き金を引く。風圧が降りかかり、『フィーリー号』の周りの空気が震える。

 

砲弾は何人かを吹き飛ばし、塹壕を抉った。パ皇軍は耐えきれずに、撤退し始める。ボブはユージンとナオミに自由射撃を指示して、自分は重機関銃を手に取る。

 

 

「アリサ、お前も撃て!」

「は、はい!!」

 

 

アリサはあれからパニック障害が少し治った。やっと戦場の空気に慣れてきたのか、今では錯乱することもない。

 

 

「どうしたどうした!? エストシラントの市民の方がよっぽど勇敢だったわよ!!」

 

 

アリサは車載機関銃を撃ちながらパ皇軍へ罵倒を送る。

 

 

「市民には武装させておいて、自分たちだけ逃げるのか!? クソみたいな奴らね!! このタマ無し!!」

 

 

エストシラントの市民を武装させておいて、自分たちだけは逃げる。それが、ボブにもアリサにも許せなかった所業だった。

 

新たな戦略目標にリーム王国国王バンクスの確保を掲げた、連合軍はついにリーム王国本土へと歩みを進めた。

 

ボブたち『フィーリー号』も、リーム王国王都ヒキルガへとやっとのことでたどり着いた。ここ何日も戦闘が続いていたが、空軍の()()()()支援と73カ国連合の手助けによってパ皇軍とリーム軍(リ軍)を追い詰めていた。

 

彼らは王城に立てこもり、絶対的な防衛線を築いているらしい。それを突破するのが、今一番困難な時だった。

 

 

『戦闘中の各部隊へ通達、まもなく第一挺身団が作戦空域に入る。区画確保を急がれたし、オーバー』

「第一挺身団が!?」

 

 

司令部からの通信を元に、ボブは空を見上げる。するとそこには、六隻の駆逐艦が空を飛んでいた。爆弾槽のハッチが開いている、まさかとは思うがあそこから飛び降りるつもりか?

 

 

「嘘だろ……」

 

 

そのまさかだった、天ツ上の第一挺身団は高度1000メートルの駆逐艦からダイブしていき、そのまま落下傘を開いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

ある天ツ上軍の兵士はこう語る。

 

 

『あいつらは化け物、サイボーグとしか思えない』

 

 

また、ある天ツ上軍の兵士はこう証言する。

 

 

『海軍基地で敵が侵入してきた想定で訓練を実施した。敵は第1挺身団数名、こちらは海軍陸戦隊側は200名、たったの数名相手とはいえ、精鋭のためある程度死亡判定されるだろうとは想定していた。しかし、実際やってみると、一人も倒せずに基地を制圧されたよ……本当の化け物だ』

 

 

そうやって第一挺身団についたあだ名がある。

 

『第一狂ってる団』と。

 

帝政天ツ上陸軍第1挺身団に所属する橋本は、王城の庭へ降下後、速やかに移動して自身の安全を確保した。訓練に訓練を重ねたその動きは素早く、鍛え上げられた筋肉は重量物を難なく持ち上げた。

 

周りは上空からの飛空艦による援護射撃によって制圧されており、すでに立つ者は無く、想定よりも遙かにスムーズに予定された展開を終えたのだった。

 

 

『王城への扉を発見、18秒後に爆破する。A班はB2地点まで前進せよ』

 

 

18秒後、扉が爆破されて突入が開始される。扉の中にいた兵士たちを、橋本は100式機関短銃を腰だめで構えて射殺する。

 

そのまま内部まで突入して行った。内部は典型的な近世の作りで、なかなか装飾が練られていた。目が苦しいほどではないため、気にせず歩みを進める。

 

障害を排除し、王城をくまなく探す。どこかに、レミールとアルデ、そしてバンクスがいる筈だ。

 

今まで現れた敵のパ皇軍リ軍の兵たちは脅威ではなかった。魔法を使うかと思われていたが、使う間がないのか一度も見かねていない。脅威をあっさりと排除し、弾薬の補給をしながら進んでいく。

 

 

「……これより、奥の部屋を探るぞ」

 

 

中野の指示によって、彼らは扉を開いた。中には薄暗い部屋の中にベッドが一つだけあった、そのベッドにレミールは居た。

 

 

「き……貴様ら……!」

「皇女レミール……いや、国賊レミールだったな。貴様を連行する」

 

 

扉の向こうには、ブルブルと震えているレミールがいた。彼女の手に手錠が掛けられ、連行される。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

そして──

 

 

『こちら第一挺身団第3中隊、目標を確保。目標の一人のアルデは既に死亡、拳銃自殺した模様。レミールとバンクスは確保した』

『了解、帰投できるか?』

『王城の庭ではまだ戦闘が続いている。フルトン回収システムを使用する、準備してくれ』

『了解、駆逐艦〈竜巻〉を向かわせる』

 

 

上空を統べる飛空機械、飛空機械だけでなく戦艦や巡空艦、駆逐艦などが空を連ねる。その中真っ只中に、海猫はいた。

 

 

「これで戦争も終わる」

 

 

そう思うと、安心できた。

 

 

「この後のことを考えよう」

 

 

戦争は戦って終わり、ではない。その後も確実に存在するのだ。シャルルは外を見上げながら、そのことを考えていた。

 


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