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エスメラルダ会議は1週間にも及んだ。その間は何も進まず、議題は後回し後回しにされる。怒号が飛び交い、唾が飛び、利権を主張し合う。まさに「会議は踊る、されど進まず」と言った状況だった。
「それでは、エスメラルダ会議の7日目を開始したいと思います」
会議の7日目、丁度1週間が経った頃。議長のファナ・レヴァームはレヴァーム天ツ上間での話し合いをもとに、とある秘策を思いついていた。
「ここで早速ですが、我々神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上は、『戦勝国の権利』を発動し要求をいたします。本要求は、パールネウス共和国だけでなく、リーム王国や72カ国連合や他の国の方々にも聞いていただきたい内容となっております。これから、その要求文を読み上げます」
そこまでファナが言うと、会議場でどよめきが沸き立った。まさか、今まで簡単な要求しかせず、自分たちの要求を押し付けてこなかったレヴァームと天ツ上が要求をするとは思っていなかったからだ。パールネウスだけではない、リームや72か国連合にまでもだ。
「一つ、自由パールネウス共和国とリーム王国は神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上と国交を結び、両国の保護下に入ること。
一つ、軍事力については国防軍のみを保有を許可し、制限を設けること。
一つ、神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上の求める処に応じて、あらゆる分野における全ての技術を両国に開示すること。
一つ、国賊レミールの身柄は神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上に任せること。裁判権は両国へ全て渡すこと。
一つ、神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上は今回の戦争で発生した捕虜265名を返還する。自由パールネウス共和国とリーム王国はこれを受け入れること。
一つ、自由パールネウス共和国とリーム王国は連合国に対して今戦争に関して公式に謝罪し、賠償金10億パソを支払うこと。支払い期限は中央歴1700年1月31日までとする。
以上の項目を、神に誓って実行すること。
それらが守られない場合、神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上は自由パールネウス共和国とリーム王国に対し然るべき措置を取る事を御留意願いたい。
我々からの自由パールネウス共和国とリーム王国に対する要求は以上です。
そしてこれから、我々神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上は73か国連合に対しても要求措置をとります」
会場からのざわつきは、どよめきに変わっていた。何しろ、自由パールネウス共和国だけでなく戦勝国であるはずの73カ国連合に対してまで、要求をされるのだ。驚かない方がおかしい。
「一つ、賠償金の分け前についてはレヴァーム天ツ上でそれぞれ1割ずつの計2割、72カ国連合に7割2分、残りは基地を提供してくれたアルタラス王国、シオス王国に全て渡すものとする。
一つ、自由パールネウス共和国の領土に関しては旧パールネウス共和国時代の領土──聖都パールネウスを最北端とした領土とし、73カ国連合が新たな領土を獲得することはこれを認めない。リーム王国に関しても同様とする。
一つ、第三文明圏内で各国が共同体を作り上げ、それぞれ同盟を結ぶこと。
以上が、我々からの73カ国連合に対する要求です」
各国の代表たちは一気に沈黙した。まさか、戦勝国自らが自分たちに要求を出すとは思わなかったからだ。しかも内容が内容である。
「失礼致します、ご意見よろしいでしょうか?」
「どうぞ、許可します」
「では発言します、クーズ王国のハキです。我々72カ国連合は旧パーパルディア皇国に属領とされ、何もかも奪われてきました。とても、新たな領土なしには国家を樹立して維持するだけの国力がありません。それに関しては、どうするおつもりでしょうか?」
クーズ王国のみならず、それは72か国連合の総意見であった。彼らはパーパルディアに蹂躙され、属領化されたときに全てを奪われてとてもじゃないが国家を樹立、維持していけるだけの余裕がないのだ。
それなのに新たな領土も無し、賠償金の分け前も決められてしまっては、立ち行かなくなる。もしかしたら、それが原因でレヴァーム天ツ上に恨みを持ってしまうかもしれなかった。
「はい、ありがとうございます。実は、共同体形成の案はそのため措置になります」
「そのための措置?」
「はい、余裕のない各国が共同体として手を組むことでその問題を解決いたします。経済、産業、軍事、全てを協力し合うことで、文明国に対抗するのです」
「な、なるほど。わかりました、ありがとうございます」
ファナが提唱したのは、実質的な同盟案である。72か国連合がいくつかの共同体を作ることで、文明国ですら対抗することのできる共同体を作り上げるのが、ファナの目論見だった。
「それでは、我々からの要求を提示したので、我々神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上は本議場から退室させていただきまます」
「「「「「え?」」」」」
各国代表がその発言に驚き、口をパクパクとさせた。
「あとは、皆様でお決めください。それでは」
そう言って、レヴァームと天ツ上の代表たちは議事堂から去っていった。コツコツと歩く音が議事堂に響き渡る。73か国の面々は、唖然としていた。
その後、73カ国連合はようやくまともな話し合いをし始め、それぞれの今後について話し合った。共同体は全部で7つ出来上がり、それぞれが手を組み合って文明国に対抗する形となった。
ファナは戦勝国の権利を発動することで、72か国連合の面々の言い争いを黙らせたのだ。そして、自分たちの意思で話し合いをさせることを提示させた。
この偉業はのちの歴史書にも刻まれ、『多数の意見が飛び交う場面を制する権力者の声』という意味で「聖母の一声」ということわざが生まれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
エスメラルダ会議が終了し、一息をつくファナ・レヴァームであったが、その前に宮殿でとある人物と面会していた。
「お久しぶりでございます、ルディアス陛下」
「こ、こちらこそ! 久しぶりであるな、ファナ殿下殿!」
そう、会った相手は自由パールネウス共和国の樹立を宣言したルディアスであった。鼻の下を伸ばしてぎこちない笑顔を作るルディアスと、それに微笑むファナ、二人は対面する形で座っていた。
「その……ファナ殿下殿。ひとつ聞きたい事があるのだが……」
「はい、なんでしょうか?」
「これで戦争は終わったが、私の処遇はどうなるのだ?」
ルディアスはその疑問を口にした。ルディアスはパーパルディアの滅亡に直接関わっていないものの、今まで属領を虐げて来た張本人だ。公式に謝罪をしたとはいえ、未だ許されるとは思えない。そのため、自分の処遇がルディアスは気になるのだ。
「はい、貴方にはこれから自由パールネウス共和国の復興に努めていただきます」
「パールネウス共和国の復興に?」
「はい、貴方は言うなれば今回の戦争の被害者です。クーデターで実権を奪われて、幽閉された。そのため、政界へ復活する場合は大臣として活躍してもらいます」
「大臣として?」
「はい、新たなパールネウスは皇族が政治を行わない共和国です。ですが、貴方は元皇族という立場で大臣として活躍してもらうことでしょう。そう、国民の選挙で選んでもらいます」
ファナが言っているのは、自由パールネウス共和国の行く末を決める初の選挙への出馬の打診だった。
「貴方には、トップよりも総裁の方が向いています。もし貴方が大臣となれば、パールネウス共和国はより良い国になることでしょう」
パールネウス共和国は共和制だ、皇族の名を使って政治を行う事は無い。代わりに、選挙に出馬して政治に参加することはできる。
「選挙か……私は選ばれるだろうか……」
「それは貴方次第です。選挙でわからない事があれば、立憲君主制の天ツ上の人に聞いてみるのもよろしいかと」
「そうか、なら挑戦してみよう。必ず大臣となって、パールネウス共和国を導いて見せる! 約束をしよう!」
「はい、楽しみにしております」
そう言ってルディアスはファナとの約束をした。彼の約束を、ファナは快く了承する。
「そうだ……私はパールネウス共和国を導き、そしていずれは世界最強の国家に……」
「ルディアス殿」
ファナは、野望を唱えようとしたルディアスを制し、一言告げる。
「もし、自由パールネウス共和国で何かをしようとした時は、レヴァームの監査局が飛んできます。分かっていますね?」
ファナは、にっこりと笑いながらルディアスにそう語りかけた。その目線は冷たく、ルディアスの背筋を凍らせた。
「わ、分かっている……大丈夫だ……! 私に限ってそんなこと考える筈がない、安心してくれ」
「ふふっ、それは良かったです。では、ご期待しておりますよ」
そう言ってファナは一礼し、ルディアスのいる部屋を去っていった。終始ニコニコとした笑顔がルディアスの目に刺さる。
「ハハハ……釘を刺されたか……彼女の為にも、疾しいことを考えるのは止めよう」
ファナに釘を刺され、そう改心したルディアスであった。