とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

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閑話休題〜軍拡〜

ロウリア戦役が終わり、戦乱から解放されたロデニウス大陸。いざこざが解消したロデニウス大陸では、政体も大きく変わっていた。立憲君主制になったロウリアを見習い、クワ・トイネやクイラでも立憲君主制が採用されて国体が変わった。

 

ロウリア、クワ・トイネ、クイラの三国は、互いに軍事同盟を結んで大きな軍事力を持てるように軍拡を進めていた。特に海軍力の増強は激しく、日に日に力を増して行っていた。

 

マイハークに作られた要塞の近く、青い海にたなびく波。その波を掻き分けるように、機械動力の船が突き進んでいく。

 

 

「提督、いよいよ我が国も空母と戦艦を持つことができましたね」

「ああ、我がクワ・トイネ海軍も規模が大きくなったものだ。これも、レヴァームと天ツ上の力のおかげだな」

 

 

新生クワ・トイネ海軍第一艦隊の海軍提督として就任したパンカーレが、参謀になったブルーアイと話している。第一艦隊旗艦『カナタ』の艦橋、鋼鉄の装甲に包まれた戦艦の内部にて彼らは会話をしている。

 

レヴァームと天ツ上から、レンドリースされたのは陸戦兵器だけではない。ロウリア戦役終結後、レヴァームと天ツ上に留学をしていた海軍士官達が帰国して学校を作り、彼らが教育を受けて遂には新生クワ・トイネ海軍を設立するに至った。

 

その際に、レヴァームと天ツ上から旧式の戦艦をレンドリースされている。天ツ上海軍から洋上艦が何隻か受け渡され、現在は就役訓練を行っている。

 

旗艦である戦艦『カナタ』は、元々天ツ上の洋上巡洋戦艦『富士』であった。富士型巡洋戦艦の一番艦として就役したこの船は、巡洋戦艦として長らく勤務していた。それが練習艦として払い下げられ、クワ・トイネ海軍に渡って行ったのだ。

 

自慢の33ノットという高速と、35.6センチの連装主砲塔4基が誇らしく向き、飛空艦が主力の現代でもそれなりに通用する古株の巡洋戦艦だ。そして周りには旧式の駆逐艦が航行していて、巡洋艦もいる。全てが飛空艦ではなく洋上艦だが、立派な艦隊である。

 

そして、その上空を青灰色の飛行機械が飛ぶ。見事な編隊飛行を決めるそれは、レヴァームの旧式機体『アイレスⅡ』である。

 

それらの母となるのは、艦隊中央の『カナタ』の隣にいる空母、『ロデニウス』である。この船は、元々レヴァームのアルマダ級護衛空母であった。一番艦の『アルマダ』として就役したが、その後揚力装置を取り除いてクワ・トイネに払い下げられられた。

 

『アルマダ級護衛空母』

基準排水量:1万1000トン

全長:156メートル

全幅:32メートル

機関:揚力装置6基

兵装:

主砲5インチ連装砲1基

40ミリ連装機関砲8基16門

搭載機数:42機

同型艦:50隻

 

ロデニウス大陸の国家が持つ近代的な海軍、それの戦力は旧式ながらレヴァームと天ツ上の戦力補佐によって成り立っていた。今や保有艦艇数はロデニウス大陸全体で戦艦空母を3隻ずつ保有するに至っている。いずれは、ロデニウス大陸製の空母や戦艦が生まれるだろう。

 

 

「提督、まもなく訓練開始の時間です」

 

 

『カナタ』の艦長として就任したミドリ大佐が、そう進言する。

 

 

「うむ、それでは新生ロウリア王国海軍との合同演習を始めよう」

 

 

艦内のベルが鳴り響き、いよいよ新生ロウリア王国海軍との合同演習が始まった。

 

 

「提督、まずは航空攻撃を仕掛けてロウリア側の空母を叩きましょう。戦艦はそれからです」

「うむ、そうしよう。『ロデニウス』から艦載機を発艦、まず空母を先に叩く」

「はっ!」

 

 

彼らの奮闘は続く。それも何もかも、国の為にやっている努力の証だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

中央暦1639年9月31日

 

レクマイアは困惑していた。自分は中央暦1639年の9月25日にフェン王国への懲罰攻撃の際、天ツ上の飛行機械に撃墜され、捕虜となっていた。

 

レクマイア以外の竜騎士は皆死亡したと伝えられた。取調官はパッとしない服装で、国籍や所属など、レクマイア自身に関する情報を明らかにするため淡々と質問を続けていた。

 

 

──蛮族め。

 

 

自分は彼らをそう思っていた。皇国民の誇りから、皇国の技術の素晴らしさを説き、文明圏の国々よりも皇国が遥かに進んでいることを朗々と語って聞かせた。

 

文明圏外の国からすると、比べ物にならないほどの技術と大規模な軍を保有しており、それを余裕で支えることができると伝えている。

 

新興国や文明圏外の国は世界を知らないものが多い、そのため、このように国力を伝えるだけで狼狽させられ、自分の待遇も良くなると思っていた。

 

 

「フッ……そうですか」

 

 

しかし、彼らの対応はやはり淡々としていた。そして、彼らの態度は皇国民が蛮族の人間を相手にする時に見せる、『何も知らない者に対する哀れみ』も見て取れた。

 

さらに懲罰的攻撃の内容になると、殺意の有無が命令によるものだったのかを事細かに聞かれた。もちろん命令だったが、文明圏外の人間など多少死んだところで数のうちにも入らない。だから、「殺すつもりで攻撃した」と、自分は堂々と証言した。

 

しかし、それが間違いだった事に気づくのは早かった。

 

最初に驚いたのが、自分が今まで乗っていた船が空を飛んでいるという事だった。しかも、ワイバーンよりも速い速度でずんずんと海の上を飛んでいた。

 

そして、レヴァームの首都であるというエスメラルダを上空から見せられ、おぞましさを覚えている。天を貫かんとする巨大な建築物、空中を通る回廊、鉄の箱が街に溢れて、空には先程の空飛ぶ飛空船や飛行機械が飛び回っていた。

 

その規模や技術力はパーパルディア皇国の皇都エストシラントよりも遥かにすごいものだ。この時点で、自分はレヴァームと天ツ上への認識を180度転換させられた。

 

 

──この国は……危険だ。

 

 

何故このような国が現れたのか分からない、このままでは外務局がいつものように「蛮族を滅する」と言って、レヴァームと天ツ上に戦争を仕掛けるだろう。

 

外務局の人間がいつものように、高飛車な態度でレヴァームと天ツ上の外交官を怒鳴りつける姿が目に浮かぶ。

 

祖国がとにかく心配だった。

 

 

 

 

中央暦1639年12月1日

 

レヴァームと天ツ上の尋問官がいうには、自分を裁くには、『戦時協定』とやらがないと裁く事ができないらしい。捕虜収容施設に押し込められた自分は、尋問官から新聞を配られていた。それを、辞書を片手にゆっくりと読み進める。

 

 

【パーパルディア皇国、レヴァームと天ツ上の民間人を虐殺!!】

【レヴァーム天ツ上両政府「絶対に許す事はできない」】

【レヴァーム天ツ上、パーパルディア皇国と戦争状態に移行】

 

 

──やってしまった……

 

 

ついに皇国が、脅迫外交をしてしまった。レヴァームと天ツ上の実力を、皇国が認識しているかは怪しい。組織が巨大すぎるので、報告は上に行くほど簡素化されて上の都合のいいようにねじ曲げられている。列強の悪い癖が出ているに違いない。

 

もうレヴァーム天ツ上との戦争は避けられないだろう。ああ、今日は眠れなさそうだ。

 

 

 

 

中央暦1640年1月18日

 

自分はレヴァームの新聞を読み進めていくうちに、ある程度レヴァーム語が読めるようになっていった。その日には、皇国の特集記事が中面開きで記載されており、各政府が最新の内容を踏まえて記載されていた。

 

それによると、レヴァームと天ツ上はアルタラス王国を落とし、基地を作っているようだった。皇国は『飛空戦列艦』なる新兵器を用意したらしいが、それでも勝てなかったそうだ。

 

レヴァームと天ツ上の飛空船の実力は、パーパルディア皇国を遥かに越えている。そして、軍事力も遥かに。

 

そして、彼らは遂にエストシラントに直接上陸をし、本土攻撃を行った。皇国は主力艦隊を集結させて、ワイバーンオーバーロードまで投入したが、それも全て全滅。しかも、ワイバーンオーバーロードはたった一人の飛空士によって全滅させられたらしい。

 

そして、レヴァーム天ツ上軍はエストシラントに上陸。エストシラントではゲリラ戦が行われるほどの激戦だったらしい。

 

今夜はもう眠れない、皇国はもう終わりだ。

 

 

 

 

中央暦1640年2月20日

 

捕虜収容施設に入れられていたパーパルディア皇国の捕虜たちが一斉に集められた。彼らの顔はみな顔面蒼白で、どうやら新聞などで実情を知っているようであった。

 

そんな彼らに、朗報が舞い込む。集められたのは処刑されるからと思っていたが、実際はパーパルディア皇国との戦争終結に伴い、条約で捕虜を返還するというものだったのだ。

 

パーパルディア皇国もとい、新しくできたパールネウス共和国という国が受け入れてくれるらしい。その一報を聞いて、自分はホッとした。しかし、看守が自分を一人部屋に呼び出して来た。何を言われるかわからなかったが、彼はとある提案をしてきた。

 

 

「レクマイアさん、レヴァームで飛空士になりませんか?」

 

 

唖然とした、自分はその提案に対して……

 

 

 

 

中央暦1640年4月10日

 

いよいよレヴァームの飛行学校への入学式だ。自分は、レヴァーム側からの提案を受け入れ、今ここにいる。自分はこれから練習機で空を飛び、艦上爆撃機の搭乗員を目指すのだ。これから始まる新たな生活に胸を躍らせる。自分はぴっちりとした格好で門を潜った。

 


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