ロウリア戦役でエルフ族を保護した、レヴァームと天ツ上。彼らの伝承にある『聖アルディスタの使者達』という謎の組織について、レヴァームと天ツ上では本格的な調査が始められた。
何故、異世界にも関わらず聖アルディスタ教の名前が出てくるのか、彼らは冗談ではなく本気で本格的な調査を進めている。今日も、その一環としてとある森の調査が始まった。
「あ〜あ、聖地にエルフ族以外を入れるのは嫌だなぁ……」
「ちょっとウォル! お客様の前でそんなこと言わないでよ?」
深く、そして潤いのある森。陽光な枝葉に遮られて地上には柔らかな木漏れ日が届く。澄んだ水が流れる小川がころころと音を立てて、小鳥達のさえずる声も聞こえる。
エルフ族の聖地リーン・ノウの森は、心が洗われるような、まさに侵しがたい聖地であった。その森の入り口で、ハイエルフの少女ミーナと同じくらいの歳の少年ウォルが言い争っていた。
「相手は人間族と言ってもレヴァームと天ツ上の方なのよ! かのロウリアやパーパルディアを打ち破ったあの!」
「分かってるよ……けど本当にロウリアやパーパルディアを倒したのか? きっと卑怯な手段で討ち滅ぼしただけじゃないのか?」
「それでもよ! とにかく、お客さんの前でそんなこと言っちゃダメだからね!」
「わ、分かったよ……」
ウォルは出迎を命じられてから、ずっとこんな調子である。ウォルが生きていた中で、聖地にエルフ族以外の種族が入った事はない。
歴史を遡ってみても、リーン・ノウの森がまだ『神森』と呼ばれていた時代、種族間連合が魔王軍を相手に最後の砦として利用したことが最後の例になっている。
何せこの場所はエルフ族の神を祀っている場所、神聖な場所にはハイエルフ族以外は入れない。同じエルフ族でも制限されているくらいなのだ。
「にしても、ミーナはなんでそこまでレヴァームと天ツ上にこだわるんだ?」
「彼らの戦い方は、聖アルディスタの使者達に似ているのよ。それもそっくりそのまま」
「偶然じゃないか?」
「ウォルったら夢がないんだから……ん? 何かしら?」
その時、リーン・ノウの森になんだか空気を震わせるような音が鳴り響く。腹を震わせ、森までもが揺れる。
「な……何だ!? あれは!!」
深い森で暮らす彼らにとって、初めて見る飛空駆逐艦『竜巻』の姿があった。
「まっ──まさか! 天翔ける船!?」
『聖アルディスタの使い』の伝承が彼らの脳裏をよぎる。『竜巻』はそのまま20メートルほど先の平地へ着陸し、中から人間族数人が降り立った。
灰色の服を着た男性が3人、護衛と思しき武器を持った人間族が8人。そして、灰色の服を着た痩せ気味の中年男性と、髪の長い女性のような風貌の男性が、ミーナとウォルに歩み寄って挨拶する。
「帝政天ツ上、帝国大学歴史文化研究チームこ中村です」
「神聖レヴァーム皇国、外務局のアメルと申します」
「は……はい。ミーナと申します。こっちはウォル、よろしくお願いします」
「彼らはエスメラルダ大学の考古学部と科学部を専攻する名誉教授、そして技術厰や航空工業から派遣されてきた技術者達です」
「どうも、よろしくお願いします」
「は……はい……」
彼らにとって、こんなにも物腰が柔らかい人たちを見たのは初めてだった。てっきり、ロウリアやパーパルディアを「倒してやった」風な態度で接しられると思っていた彼らにとって、拍子抜けするレベルだ。他の研究者たちも礼儀正しく、威圧感などはない。
「ではこちらに、少し歩きますよ」
レヴァームと天ツ上の調査団は、ハイエルフの二人に続いてリーン・ノウの森へと足を踏み入れる。
そして2時間後──
「ハァ……ハァ……ま、まだ着かないのですか?」
中村がミーナに尋ねる。彼を含め、護衛の軍人以外のほとんどの研究者がヘトヘトになっていた。理由は単純、この森に入ってから体が重いのだ。
「あら、もうお疲れになったのですか? フフッ、ロウリア王国を打ち倒し、パーパルディアも滅したと聞きましたから、少し意外ですね」
「わ、私は単なる研究者ですので……ただ、フィールドワークは慣れているはずなのですが、どうも足が重いのです……」
「この森には魔法による結界が張ってあって、魔王軍からの進軍に備えておりました。そのため、エルフ族以外が入ると色々呪いがかかるのです」
「そうなのですね、やはり神様の力が……」
「アメルさんは……疲れていないのですか……?」
「趣味でハイキングをしておりますゆえ、まだ平気です」
「そ、それはすごい……」
ミーナとアメルは笑って答えるが、中村にはあまりついて行けていなかった。
「しかし……ここは、凄いところですね……方位磁石もいい加減の方向を向くし……案内のお二人がいなければ絶対に辿り着けなさそうです」
「エルフの神、私たちは『緑の神』と呼んでいますが、その加護が種族間連合の時代から今も生きているんです。森の声を聞けないと、迷ってしまいますよ」
「森の声……? 鳥や木々のさえずりではなく?」
「はい、いわば生きている森全体の声です」
「な、なるほど……」
それから30分後──
「見えました、あれです」
やがて一行は目的地の前に着く。先頭にいるウォルが指さしたのは、草に覆われた石造りのドーム状の建物だった。高さは20メートルほどだろうか。明らかに自然物ではない、人工的、人為的な形状と材質である。
「この中にあるのは、エルフ族の宝です。ご存知かと思いますが、神話の時代、グラメウス大陸から出現した魔王軍は、フィルアデス大陸の大半を侵略しました」
「各種族は種族間連合を結成し、それぞれの長所を生かして戦いました──しかし、魔王軍は強かった」
「種族間連合は敗北に敗北を繰り返し、歴戦の猛者の多くが散っていきました。種族間連合はエルフの聖地『神森』まで撤退します。そう、この森です」
ミーナとウォルが何かを唱えると、扉を覆っていた草がかさかさと音を立てて動き、入り口を開いた。まるで、草木が生きているようだった。
「このままでは、エルフ族が滅んでしまう。それだけでなく、各種族も。危機感を募らせたエルフの神は、創造主である太陽神に祈ります。しかし、彼女には願いは叶えられるほどの力は残っていなかった」
「そこで、彼女は友人である『聖アルディスタ』に願いを捧ぎました。彼は願いを聞き届け、自らの……使者をこの世界に表しました」
『聖アルディスタ』と聞き、調査団の面々の顔つきも険しくなる。彼らがここにいるのは、この世界と聖アルディスタ教の繋がりを調べるためなのだ。
「聖アルディスタの使者は、空飛ぶ島に乗って現れ、空飛ぶ神の船を操り、雷鳴のような轟を発する鉄竜に乗ってきました」
「使命を終えた使者たちでしたが、アルディスタ様の世界に帰るときには、彼らも消耗をしていました。その中で故障した神の船や鉄竜を、祖先たちはここで時間遅延式魔法を使ってこの地に保管しました」
「伝承によれば鉄竜のうちの一つは、『鉄竜はガラガラと大きな呻き声を上げて、動かなくなった』とあります」
彼らの説明に、調査団は疲れを忘れて聞き入っていた。
「ドキドキしますね。神話の一節が、今も存在するなんて」
「はい、まさに空想が現実になる瞬間です」
中村とアメルも、少々興奮気味に呟く。そして、いよいよドームの扉が開き、中が見えるようになる。
「着きました、ご覧ください。これこそエルフが現在まで守ってきた神器、『鉄竜』です!」
調査団は、差し込む光で『鉄竜』との対面を果たす。エルフの宝と言われ、神話の時代に活躍した空を飛ぶ鉄竜。それを目の当たりにした全員が、口をあんぐりと開けた。
「な……」
「こ、これは……」
「どうされましたか?これはエルフの宝で、この世界のものではありませんが、何をそんなに驚いているのです?」
中村やアメルだけでなく、その場にいた調査団全員がミーナの声は聞こえておらず、目をむいて固まっていた。それもそのはず、『これ』はこの世界には存在するはずのないものだった。
「「「「「ひ……ひ……」」」」」
「「ひ?」」
「「「「「飛空機械!!!」」」」」
両翼の先についた二つの発動機と、オレンジ色に塗られた機体色、突き出した固定脚。そして、二人乗りの操縦席と後部座席。
見たことのない機体だったが、これは間違いなく飛空機械だった。
「どうしてこれがこの世界に……」
「え!? え!? この鉄竜を知っているのですか!?」
「い、いえ……我が国にも似たようなものがあるだけでして、この機体は見たことがありません」
「「!?」」
唖然とするミーナとウォルを尻目に、調査団はその機体に少し近づく。
「これは状態がいい……ん? ここのカバーが空いている?」
「どれどれ……!? これはDCモーターじゃないか!?」
技術者の一人が、その機体の翼の先端部分に埋め込まれた発動機を見て、より一層困惑する。これがまだレシプロエンジンなら、納得できたかもしれない。しかしそこにあったのは、この世界ではレヴァームと天ツ上でしか実用化していないはずの水素電池スタックとDCモーターだった。ますます謎が深まる。
「おい、機体名が書いてあるぞ……」
「どれどれ……!? レヴァーム語が書いてあるぞ!!」
さらには、機体の側面に書いてあったのはレヴァーム語であった。ミーナとウォルはさらに絶句する。
「そ……それが読めるんですか?」
「はい、これは……『高等練習機エル・アルコン』と書かれていますね」
「なるほど……練習機か……通りでオレンジ色をしているわけだ」
彼らが感心したり、驚いたりするのを尻目にミーナとウォルがハッとして調査団に提案投げかける。
「え、えっと……他にも色々あるけど、見てみる?」
「「「「「是非!!」」」」」
調査団の興奮は絶頂にあったが、一方のハイエルフたちは困惑していた。彼らのいうことが正しければ、『聖アルディスタの使者達』の正体は、彼らに関係のあるものかもしれない。それを否定しようにも、彼らは空を飛ぶ神の船でやってきた。否定しようがない。
やがて一行は地下を降り、とある巨大な部屋にたどり着いた。地下室から入るようで、石造りの建物には結界が貼られている。
「ここからは、ハイエルフ属でも限られた人しか入れません。この先にあるのは、空を飛ぶ神の船です」
「神の船は空を飛び、強大な魔導で魔王軍を打ち破ってきました。しかし、彼らとて無傷ではない。傷を癒すためにこの地に港を作り、戦いが終わった後はこの地に放棄されました。それほど、損傷が激しかったのです」
「なるほど……だとすると神の船というのは……」
「ええ、予想がつきます」
そして、遂にいろいろな装飾が入った重圧な扉が開かれる。中は、洞窟状になっていて水が張られている。天井から漏れる光が水面に反射して幻想的な光景だ。そして、その真ん中に鎮座していたのは……
「飛空戦艦……」
超弩級、それも46センチ砲クラス主砲を二列備えた、立派な飛空戦艦であった。至る所に装飾が施され、レヴァーム最大の戦艦『エル・バステル級』に匹敵するほどの口径の主砲塔を数多く備えている。
主砲塔は二列配置になっており、前方6基18門、後方2基6門の特殊な配列だ。船体は弾薬庫がすし詰めになっているのか、船体が太い。そして、後部には水に浸かっているが揚力装置が6基も取り付けれている。
「これは……超弩級戦艦ですね……」
「……この船の中には入れますか?」
「ええ、こちらから」
ミーナの案内で、一行は戦艦の内部に入る。そこに鎮座していた戦艦に側面のタラップから入り、艦橋に上がる。艦橋は二階建てになっており、司令官の座る座席と卓上の地図が吹き抜けで繋がっている。
「これは……旗艦級だったのでしょうか?」
「そのようです。? ここに艦内の見取り図がありますよ」
どれどれ、と中村と技術者達がそれを見る。
「ふむ……『戦艦ルナ・バルコ』……それがこの船の名前のようですね」
名前が分かり、調査団は二手に分けれて電源がつかないかを試すことにした。中村とアメルらその間に、ミーナとウォルから話を聞いた。
「お二人とも、今日は貴重なものを見せていただき、ありがとうございます。この遺産たちはレヴァームと天ツ上にとって、重要な歴史産物になるやもしれません。今後も調査にご協力お願いできますか?」
「ええ、もちろんです。こうして皆さまとの繋がりが知れたこと、誇りに思います」
そう言っている間にも調査は進む。調査団の一人が、何かの地図を発見したらしく声を上げた。
「中村教授! 何かの地図を発見しました!」
「ん? どれどれ……」
中村とアメルは、その地図を見る。そこには、どこかの島らしきものが描かれており、飛空場や軍港、街の姿まである。
「これは一体どこの島だ……?」
「? ああ、これはおそらく使者達が乗ってきた空飛ぶ島の地図ですね」
「? 空飛ぶ島?」
中村とアメルはお互いの疑問が尽きないのか、お互いに顔を見合わせる。
「聖アルディスタの使者たちは、空を飛ぶ島に乗って現れたと先ほど言いましたね?」
「はい、まだその正体は分かっていませんが……」
「その島にはしっかりとした名前があり、今でも記録に残っております」
「その島の名前は?」
ミーナはアメルに質問されると、少し微笑んで答えた。
「空を飛んで現れた聖アルディスタの使者たち、彼らの拠点であり、家であったその島は……