とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

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いよいよ、魔王編の開始でございます。


閑章第5話〜辺境の地〜

はるかなる過去、魔王が突然現れ、世界へ侵攻した。

 

我々の先祖は奮闘したが、魔王の絶大なる魔力を前に抗する術は無く、くしくも破れ去った。各種族は絶滅の危機を回避するため、各種族の軋轢を水に流し、『種族間連合』と呼ばれる組織を作り、魔王軍と戦った。

 

しかし、魔王軍はあまりにも強かった。歴史上最強の組織であった種族間連合は、敗退を繰り返し、フィルアデス大陸は魔王軍の手に落ちる。種族間連合は南の地、ロデニウス大陸にまで後退する。

 

魔王はまず大魔法を使えるエルフを滅するため、海魔獣を使役して海を渡り、ロデニウス大陸へと至る。

 

歴戦の勇士たちは倒れ、多くの命が散った。敗退を繰り返した種族間連合は、最後の砦として当時のエルフの神の住まう森、神森に立てこもる。

 

エルフ達は自分のたちの神であるエルフの神に祈り、種を滅せられる危機を感じたエルフの神は、より上位神である太陽神に祈りを捧げる。

 

しかし、太陽神は度重なって散っていった命により力が衰えていた。そのため、太陽神は友人である聖アルディスタに願いを捧げた。

 

聖アルディスタは祈りと聞き届け、自らの使いをこの世界に降臨させた。

 

太陽神の使いたちは、空を飛ぶ島に乗って現れ、神の船を操り、鉄の竜を私役し、雷鳴の轟きと共に大地を焼く強大な魔導をもって魔王軍を滅した。神の軍船の一撃は、海を震わせ、その絶大なる魔力に海王でさえも震えあがったという。

 

しかし、彼らとて無傷ではない。一つしかない神の空飛ぶ軍船はだんだんと傷つき、ついには動かなくなった。しかし、その中でも成長していった王子がいた。

 

王子は風呼びの少女と共に戦い、あらゆる戦場で連戦連勝を重ねた太陽神の使いたちは、大陸グラメウスまで魔王軍を押し返すことに成功する。

 

役を終えた彼らは、神の命により元の世界に帰還していった。

 

生き残った各種族は、フィルアデス大陸とグラメウス大陸の間に門を設け、世界の門と名づけ、魔をグラメウス大陸に封じ、それ以南を各種族の楽園として守ろうとした。

 

魔王軍の再来を恐れた種族間連合のタ・ロウは、エスペラントを中心とした魔王討伐軍を組織する。出発に際しトーパの地に残るガレオスは、「魔王討伐軍が一年経っても戻らない場合、大規模な援軍送る」と約束し、討伐軍は出発した。

 

しかし、彼らは魔の地の過酷さに耐えきれず、引き返そうにも帰るべき道に道に迷ってしまい、方向を誤った。そして、フィルアデス大陸にほど近い山中へと身を寄せたのだ。

 

運か天命か、何者かが彼らに味方したのか、そこには肥沃な土地と水源のあった天然の要塞は、魔王軍に包囲されながらも食料が枯渇する事は無く、討伐軍は生きながらえた。

 

軍の遠征から五年、十年経っても援軍は無く、太陽神の使い無き今、種族間連合は、魔王の再侵攻により全滅したのではないかと考えられるようになる。

 

やがて、討伐軍は天然の要塞を人類最後の砦とし、積極的な子作り政策の元、天然の要塞から城壁を伸ばし、人類の居住地を拡大していった。

 

果たされなかった盟約は口伝の一節だけに語られ、紙が発明されてからは神話となった。

 

そしてこの国の神話は、時を超えて動きだす。

 

その国の名は、エスペラント王国──

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」

「「「グギャァァァァァァァ」」」

 

 

城壁の門が開き、一気に兵士が雪崩れ込む。絶叫、咆哮、喊声、あらゆる声がこだまする。上から撃ち下ろされる無数の矢が魔獣に突き刺さる。打ち下ろされる投石が魔獣の体躯を押しつぶし、頭蓋を割った。

 

 

「我に続けぇぇぇぇ!!!」

 

 

指揮官の合図で槍騎兵、重装歩兵隊が突撃した。その背後からはさらに矢が降り注ぐ。時折り鉄砲の音も聞こえる、撃ち漏らした個体を狩る、最新装備の銃兵隊が鳴らす音だ。

 

一千を超えるゴブリンや魔狼の群れは、次第にその数を減らしていく。時間も経った頃に戦場に立っていたのは、この世界で『ヒト』または『人類』と呼ばれている者たちであった。

 

エスペラント王国の騎士団総長モルテスは、すでに陥落してしまった区域に広がる魔獣の死骸を見ながら、頬についた返り血を拭いて呟く。

 

 

「はぁ……なんとか勝ったな」

「今回は相手が雑魚で助かりました……ですが、またあの『黒いオーガ』がオーク級の魔獣を率いて来たら、またどこかの区域が落ちるやもしれません」

 

 

福総長も荒い息を整えながら、モルテスに話しかけた。

 

 

「黒いオーガ……奴は一体なんなんだ? 伝承には赤や青はあっても黒は居なかったはずだ。まさか、魔族ではあるまいな」

 

 

二人は正体不明のその姿を思い返す。肌は浅黒く、ヒト種のような赤みもなければ、伝承でのみ語られる竜人族のように青くもない。体格は大柄で、どのヒト種とも似つかない。

 

全身を覆う漆黒のプレートメイルを着込んでおり、頭に石のついたサークレットを冠していた。その風格から『黒いオーガ』『漆黒の騎士』『黒騎士』だなんて呼ばれているが、正体は分からない。

 

 

「こんな場所まで魔族が来るとは思えませんが……魔族なら翼がありますし、魔法主体で戦いますからね……」

「やはり正体は分からずしまい……か」

「正体不明の魔族の出現……そして最近頻発している魔獣の襲撃……やはり向こうで何かが起こったと考えるのが自然です」

「危険を承知でグーラドロアに斥候を送るか?」

「それにはまず、大規模な調査隊を編成する必要がありますよ。建国以来、グーラドロアの場所を正しく把握できていませんし、南の野営陣地を突破しなければならないので現実的ではありません」

「ううむ……あまりにも強力な魔物がこれほど頻繁に現れるのはどう考えてもおかしい。何か原因を掴まなければ、王国は……人類は危ないぞ」

 

 

国の行く末を案じる騎士団総長モルテスは、兵たちをまとめて帰投の準備を始めるのだった。

 

その間、モルテスは空を見上げていた。空は暗く、分厚い雲に覆われていて、冬らしく雪が降りしきっている。雲の切れ間からは光のカーテンが小さく覗いており、不吉な予感を抱かざるおえない。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「最近の魔獣の活性化、詳しい原因はまだ分からんのか?」

 

 

現国王ザメンホフ27世は、不安を押し返すように低い声で尋ねる。エスシラント王国は、一言で言えば巨大な城塞都市である。中心のラスティネーオ城があるレガステロ地区を中心として、幾つもの城壁で分割された地区が重なり合うように広がっている。

 

その地区が、ここ数ヶ月間で2箇所も落ち、当該地区の住民が魔物、魔獣に食い荒らされて奪還できないでいた。さらには『食料』として何十、何百人単位で拐われているので、感覚が麻痺しそうだ。

 

 

「黒騎士が突如として現れて以来、この状況が続いております。故に奴があの魔獣どもを操っている、あるいは統率していると考えております。ですが……」

「なんだ?」

「その……不可解なことなのですが、何故か黒騎士がヒトを喰らう姿は確認できておりません」

 

 

宰相の説明に、ザメンホフは苦々しく顔を歪ませる。魔物わ魔獣がヒトを喰らうのは常識である。もちろん他の動物なんかを食べている例もあったが、それは少数だ。

 

なのに、黒いオーガもとい黒騎士は、魔物や魔獣の群れに混じってヒトを襲うだけで、食する様子が見られなかった。これも状況をややこしくしている。

 

 

「とりあえずは、オキストミノ区とノルミストミノ区の奪還作戦を立案するぞ」

 

 

遠い遠い昔、魔王ノスグーラが伝説の四勇者に封印された後、難を逃れた魔王の側近マラストラスは魔王軍の再建を開始していた。

 

四勇者が魔王を封じるために使った封印結界はこの世界の法則下のものではなく、魔王に雇われた『ただの魔族』に解けるような代物ではなかった。そのため、時間経過による自然消滅を待つことにした。

 

マラストラスはその後、エスペラント王国の前身となる、魔王討伐隊の集落を発見した。これを魔物、魔獣の食料源とするべく家畜化した。

 

ノスグーラの復活、引いて人類世界への再侵攻の際には食料として大量に消費することになるので、人口も多くなるようなしていた。

 

そして、来たるべき時が来ていた。

 

魔王ノスグーラは1万年の時を超えて、復活を果たしていた。

 

エスペラント王国はかつてない危機に扮することになっていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

暗い闇の中、松明が煌々と燃えている。灯りが地面の大理石に反射し、明かりが届くはずのない距離までぼんやりと薄闇にしていた。

 

松明のそばには三体の魔獣がいる。魔王城の椅子や地面に腰掛けて、濃い影を作っている。その中でも、中心にどかっと王様の席に座っている『それ』の姿は異様であった。

 

体は全体が黒く、筋肉質で盛り上がっており、微細に生えた針金のような毛は人間達の刃物を防ぐ。頭には黒く渦巻く角を持ち、多種とは卓越した魔力を全身に漲らせている。

 

 

「しばらく見ないうちに、マラストラスはなかなかの場所を見つけたな」

 

 

生の肉を噛みちぎりながら、『それ』はぼやく。彼こそが、神話に伝わる魔王ノスグーラである。その周囲には無数の骨が──エスペラント王国の陥落した地区から持って来た人間達の骨だ。

 

 

「魔王様、今回の侵攻はどちらまでいくご予定で?」

「そうだな……このまま食糧農園(エスペラント王国)を少しづつ制圧して食料を確保しながら……大陸の南(フィルアデス大陸)まで制圧するか」

「前回は海を超えた大陸(ロデニウス大陸)の神森に手を出したところで、聖アルディスタの使いを呼ばれましたからな」

「ああ、それより農園から手に入る食料が少ないぞ。今日の分はこれだけか?」

 

 

そう言ってノスグーラはエルフの女性の足をポイ捨てした。ノスグーラ的には筋肉質な男の肉も中々良いが、やはり女の肉の方が脂が多くて美味かった。それが少ないのがやはり不満なようだ。

 

 

「申し訳ありません……あの()()()()()()()()に農園の攻略を任せていますが、どうにもてこずっているようでございます」

「フッ……役立たずめが、やはりあいつも下等種族の一人のようだな。あの程度で魔帝様の末裔を名乗ろうとはな、愚かな奴よ」

 

 

ノスグーラは自分を復活させた人物をマラストラスに脅迫させて配下に置いていた。そいつにエスペラント王国の攻略と管理を任せているのだが、どうにもうまく行っていないらしい。

 

 

「とりあえずは、あいつはマラストラスに管理させているが、我が直々に農園を攻略する必要もあるな……」

「ええ、長い間で人間供も学んでいるようです」

 

 

その証拠に、今日エスペラント王国の攻略の威力偵察に向かわせていた部隊は、エスペラント王国の軍によって全滅していた。彼らも学んでいるのだと理解出来る、中々に手強い相手だった。

 

 

「ん?」

「? どうされましたか?」

 

 

と、ノスグーラが魔王城の内部から外の窓を見ていた。

 

 

「何かが来るな……少し外に出る」

「へへえ、お気をつけて」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

飛空艦の内部は機密性が高い。

 

船の外でもない限り、高度5000メートル付近を飛んでいても酸素マスクがいらない。艦の外へ通じる扉は二重ドアであるし、高角砲や対空砲も殆どが露天式ではなく機密式である。

 

それもそのはず、飛空艦は空気の薄い高い空の上を飛ぶように設計されている。おまけに充電時には着水までするため、水密性も高いように作られているのだ。

 

 

『前方異常なーし』

『右舷異常なーし、左舷異常なーし』

 

 

カルミナーク王国の一件が終わり、艦隊は軽巡空艦『吉野』と駆逐艦『五月雨』をカルミナークに置いて、艦隊はいよいよ北の魔境、グラメウス大陸へと侵攻していった。

 

艦隊は八神中将率いる空母と巡空戦艦の『八神艦隊』と、笠井中将率いる戦艦や重巡空艦を中心とした『笠井艦隊』に分けた。

 

機動艦隊をフィルアデス大陸に差し向け、その間に重武装で耐久性に優れた八神艦隊はその耐久力にものを言わせて危険なグラメウス大陸の付近調査を敢行している。

 

 

「笠井司令、随分ここは荒れていますな……」

「ああ、この『敷島』が揺れているほどだ」

 

 

艦隊司令の笠井司令と、『敷島』艦長の瀬戸衛が会話する。雲の上の高度5000メートル程の上空なのに、風が吹き荒れている。排水量3万トンを超える敷島の艦内がグラグラと揺れているほどの、猛列な風であった。

 

 

「この世界の北側はこのような暴風がいつも吹き荒れているのか? 気流が乱れているにも程があるぞ」

「この規模の飛空艦なら、航海に支障はありませんが……駆逐艦は心配ですな、転覆の可能性もあります」

「梅型は船体が小さいからな、やはり駆逐艦は離れさせるべきか?」

 

 

艦隊司令官の笠井司令は、そう言って参謀長の田中に向き直る。

 

 

「いえ、荷物運びの観点からは必要でしょう。一応着陸した時のことを考えて、全ての艦に荷物を積んでいますから、今更欠けさせるのは現実的ではありません」

「うーむ……やはり輸送艦が奪われたのが痛いな……」

「駆逐艦や巡空艦の鼠輸送で賄っていますが、やはり輸送量は低いですね」

「サイオン島のようにはなりたくないな……」

 

 

笠井の言う通り、艦隊からは輸送艦が二隻も引き抜かれていた。理由はもちろん、対パーパルディア戦の為である。対パーパルディア戦では上層部は輸送力を重視しているようで、輸送艦やその護衛の駆逐艦が引き抜かれていたのだ。

 

そのため、本来なら『特型輸送艦』に乗せるはずだった物資や弾薬は全て戦艦や重巡空艦、駆逐艦に載せるしかないのだ。今敷島の艦内には、所狭しと武器弾薬が立ち並んでいる。このような光景が、他のすべての艦で広がっているのだ。

 

今やっているのは、かつての中央海戦争で孤立したサイオン島に対する鼠輸送と同じである。中央海戦争時、レヴァーム軍の反撃で孤立してしまったサイオン島に対して、天ツ上軍は駆逐艦で鼠輸送を敢行していた。今の状況は、それに近い。

 

 

「しかしだな……本当にこんな場所に人の住んでいる場所だなんてあるのか?」

 

 

そう言って笠井司令は外の雲海を見渡す。少し高度を下げれば、真っ暗で何も見えない雲海に阻まれてしまう、そんな光景が目の前に広がっている。おそらく下は吹雪が降っているであろう。

 

 

「伝承では、この地に魔王を討伐しに行った人々がいるそうです。彼らの子孫が、この地にいる可能性もあります」

「それは伝承だろう? いくらこの世界が摩訶不思議な事であふれているとはいえ、流石に1万年前ほどの神話が果たして信憑性があるのか……」

『前方!! 真正面に何か見えます!!』

 

 

その報告を合図に、『敷島』の艦橋に緊張が走る。笠井司令と田中参謀長は会話をやめ、通信兵に電話を繋ぐ。

 

 

「なんだ? 一体どうした!?」

『前方真正面、距離5000に巨大な鳥のような物体が見えます! 真っ直ぐこちらに向かってきます!!』

 

 

その方向に笠井と田中も顔を見合わせ、双眼鏡を覗いた。その方向には、羽ばたく黒い鳥のようなものが見えた。

 

 

「なんですかあれは!?」

「観測主! 相手の速度は!!」

『接触まであと60秒です!』

「速い……!」

 

 

距離5000で接触まで30秒となれば、時間的猶予はない。もし奴が攻撃的な、この世界の敵だとしたら……

 

 

「まずい! 全艦対空戦闘用意!!」

 

 

その言葉を合図に、すべての艦隊の対空砲に要員がついて対空戦闘を開始した。しかし、奴はそれでも速い速度で迫ってくる。

 

 

「なんだあいつは! 燃えているぞ!!」

『司令、このままでは衝突します!!』

「総員衝撃に備えよ!!」

 

 

『敷島』の艦内が対ショック姿勢をとり、来たる衝撃に備える。そして、10秒と待たずに船がガクンと揺れて、火の鳥と衝突した。艦首から一気に突撃してきた火の鳥は、艦首の帝政天ツ上の象徴である菊花紋章を翼で打ち砕き、上方向へ艦橋すれすれを飛び越えて、そのまま消えていった。

 

 

「損害報告!!」

『艦首付近で火災発生!』

『測距儀と電探が高熱で損傷!! 使用不能!!』

 

 

火の鳥は艦首を炙って、その後そのまま飛び上がって艦橋すれすれを飛行してレーダーを焼いた。その火の鳥は……

 

 

「火の鳥がまた来ます!!」

「全艦対空戦闘!!」

 

 

笠井司令は全艦に対空戦闘を命令した。一気に艦隊から火山の噴火のような火砕流が火の鳥目掛けて降り注ぎ、高角砲の嵐が吹き荒れる。

 

しかし、奴は臆する事なくまた突っ込んでくる。今度は敷島の右側にいる龍王型重巡空艦『尾鈴』に向かって急降下している。

 

 

『甲板上乗員はすべて退避しろ!!』

 

 

『尾鈴』の艦長が叫び、そして数十秒後に火の鳥が『尾鈴』に覆いかぶさった。『尾鈴』の大きな船体がガタンと揺れ、覆いかぶさった部分からは炎が吹き出していた。

 

 

「『尾鈴』より火災発生!」

「消火させろ! 対空砲! 何をやっている!?」

『奴には対空砲が効きません!! 当たっているのか不明です! 近接信管も反応しません!』

 

 

それを聞いて戦慄するが、考えてみれば炎で出来ているのだから近接信管は反応しないと考えられた。笠井は、それに気づかなかった自分の考えの甘さを後悔しつつ、次の命令を出す。

 

 

「対空砲! 近接信管ではなく時限信管で撃て!!」

『了解です!』

 

 

そして、下側に回り込んでいる火の鳥に向けて時限信管の対空砲達が吹き荒れる。十字の線から幾千もの砲火が吹き荒れる。しかし、火の鳥は臆することがない。

 

 

「駆逐艦『向日葵』に向かって下から突っ込んできます!」

「くそっ! 効かないのか!?」

 

 

『向日葵』の下部砲塔がすべて真下を向き、集中砲火を浴びせる。しかし、火の鳥は砲弾や弾丸を浴びても全く怯んでいない。

 

そして、駆逐艦『向日葵』に火の鳥が覆いかぶさる。あちこちから火災が発生し、混乱が広がる。

 

 

「向日葵が炎上!!」

『八神司令!!』

 

 

と、通信がいきなり繋がった。発信元は『紀伊』の山野典文艦長であった。

 

 

『我が艦が時限信管の砲弾で奴を消します! 艦隊を取り舵にしてください!!』

 

 

飛空戦艦『紀伊』が砲撃で片付けるようであった。それを聞き、笠井司令はその提案を受け入れる。

 

 

「分かった、全艦取り舵一杯!!」

 

 

艦隊が取り舵を取る。ゆったりとしたスピードで左方向に向き、『紀伊』の主砲塔は右を向いて火の鳥を見据える。火の鳥はまっすぐ突っ込んで来ていている。

 

紀伊型飛空戦艦、この船は飛騨型飛空戦艦の火力を補うために建造された46センチ砲搭載戦艦だ。

 

『紀伊型飛空戦艦』

スペック

基準排水量:4万3800トン

全長:252メートル

全幅:33メートル

機関:揚力装置6基

武装:

46センチ三連装砲3基9門

15.5センチ単装砲16基16門

12.7センチ連装高角砲8基16門

25ミリ三連装機関砲48基144門

同型艦:2隻

 

天ツ上戦艦で初めて三連装砲を採用しており、手数は申し分ない。その手数が、そのまますべて火の鳥に向けられる。

 

 

『用意……』

 

 

緊張が高まる。

 

 

『撃てっぇ!!!』

 

 

そして、砲弾が炸裂した。空を揺るがすような轟と爆炎と共に、自慢の46センチ砲弾が向かって行く。そして、砲弾が火の鳥の目の前に来た時……爆裂が轟いた。

 

 

『目標消滅!!』

 

 

炸裂した対空三式弾は、絶妙なタイミングで爆発して火の鳥を消えていった。爆発によって、消えていったのだ。しかし、ホッとしたのも束の間……

 

 

「司令! 前方に積乱雲です!!」

 

 

『敷島』艦長の瀬戸衛がそう叫ぶ。前方を見るとたしかに積乱雲がある。その積乱雲は、なぜか北の大地のここでも大きく立ち上っており、内部は吹き荒れていることが予測されていた。

 

 

「こんな場所に積乱雲だと!? 何処にいた!?」

「風で流れてきたのです! 回避を!」

「間に合いません! 突入します!!」

「総員衝撃に備えよ!!」

 

 

敷島を含むすべての艦隊が、いきなり現れた積乱雲に飲み込まれ、見えなくなって行った。

 


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