4月の10日までは電撃文庫の締め切りに追われ、8割方完成していたと思ったら不備があったりとしていたせいでドタバタしておりました……それから何日間か休憩して書き始めたのが昨日……本当に申し訳ないです。
これからちょくちょく書き始めますので、お楽しみです。
騎士モアと傭兵ガイは騎士団の命で、まもなく到着するであろう天ツ上軍の案内のために、城塞都市トルメスの南門に来ていた。
首都ベルンゲンから陸路で進んできた天ツ上陸軍の部隊はかなり大規模で、先頭は王国軍騎士団の護衛を受けている。南門から城まではモアとガイが案内し、その後は天ツ上軍に観戦武官として同行する予定だ。
「なあモア、俺たちが案内するっていう天ツ上軍って、どんな連中なんだ? 連隊規模で来るってことはそこそこ大きな軍なんだろ?」
「うーむ、天ツ上で連隊規模と言うと3000人程らしいからそこそこの援軍だな。しかし、噂が本当ならば相当強力な援軍だと俺は思う」
「噂って?」
「ロデニウス大陸で、ロウリア王国の大軍を空飛ぶ船からの爆裂魔法の投射で殲滅し、そして列強パーパルディア皇国の竜騎士団を飛行機械で全滅させてって話だ。しかも、どちらも天ツ上側の死者がいないというおまけ付きでな」
「ハッ、胡散くせぇ」
歴戦の傭兵であるガイは即座に否定した。
「そうか? だが多くの人々や軍人がそれを見ているし、何より今天ツ上は同盟国のレヴァームという国と一緒になってパーパルディア皇国と戦争をしているらしい。そんな最中でも援軍を送るような国だ。相当国力に余裕があると俺は思うが……」
「俺は幾多の戦場を見てきた。圧倒的に強い軍もいたが、いくら武器や戦略が優れていても死者が出ないなんて聞いたことない。どんなに立派な技術を持っていたって、最前線で人が死なないなんてあり得ないんだ」
大きくため息をつくガイ。嫌味のように聞こえるが、彼はこれまでに見てきた経験からそう言っているだけである。彼が言うと何故だが説得力があるのは、モアも知っていた。
「そんな嘘をついてまで見栄を張る国、俺ァ嫌いだぜ。パーパルディアとの戦争の最中でも援軍を遣してくれたことは有難いが、どうせ体面を保つためだろ。援軍も金ピカの鎧でくるんじゃねえか?」
「うーむ、そうか……しかし、国賓のようなものだから、くれぐれも失礼のないようにな」
「へっ、わかってらぁ」
それから間も無く、遠方から何が唸るような音が聞こえてきた。ガイとモアが何の音かと首を傾げていると、城門の上の衛兵が叫んで前方を指した。
「なんだあれは!?」
徐々に白い布をかけた、深緑色の何かが近づいてくる。それは地をかける鉄竜であった。雪道を走る鉄竜は、雪を巻き上げ、白煙を絶えず巻き上げる。
「な…………」
モアが口をあんぐりと、顎が落ちそうなほど口を開いた。やがて二人は、地響きまで感じるようになる。騎士の馬のそれではなく、鉄竜の重量から来る重い響きだ。
──なんと言う重さだ……!
モアは言葉を失っていた。ガイに至っては鉄竜を「化け物」と称して疑問を口に叫んでいた。二人の前で一団が停車した。天ツ上軍を先導していた王国軍の騎士が、疲れ切った表情で馬から降りる。
「こちらが天ツ上軍の方々だ……あとの案内を頼む」
「は……はい!」
天ツ上の鉄竜のうち、先頭の一つの扉が開いた。そこから奇妙な格好をした人物が降りてきた。ただ丸いだけの兜を被って、麦色の服を着ている。想像していた派手さはない、その代わりに騎士の格式や華のかけらもない。
「帝政天ツ上第二使節団艦隊陸戦部隊、トーパ王国特別派遣部隊、連隊長の百田太郎大佐です。ご案内感謝します。よろしくお願いします」
ビシッとした右手の敬礼に、モアは驚きを隠せない。
──この冴えない男が、連隊長だと!?
さらには鉄竜からさらに人間が降りてくる。
「百田大佐の指揮下にあります城島仁史少佐です。船舶部隊の指揮を務めております」
「同じく、猿渡学少佐です。歩兵部隊の指揮をしています」
「同じく、犬神剛少佐です! 機甲部隊の指揮を務めております!」
期待を裏切られた気分で釈然としないながらも、トーパ王国騎士流の敬礼で返す。右手拳を心臓に当て、ビシッと背筋を伸ばすのがトーパ流だ。
「と……トーパ王国『世界の扉』守護騎士モアです。これより、トルメス城にご案内したあと、あなた方天ツ上軍に同行致します。よろしくお願いします」
ガイの方はむしろ親しみを感じたのか、モアよりも比較的穏やかな表情で敬礼する。
「トーパ王国『世界の扉』勤務のガイだ──もっとも、扉はぶっ壊れちまったんだけどな。歓迎するぜ、天ツ上の軍人さんたちよ」
それを合図に、モアとガイは案内を始める。普通は馬車がお互いに通行できる城門を、『八式中戦車』達は6割以上使って通行する。
城までの道中は市民から注目されっぱなしであった、地響きと異音が街を刺激し、野次馬が相次いだのだ。
トルメス城の中には、流石に格納する場所が無いので、連隊長と大隊長の4人が下車して、トルメス城で待機するトーパ王国魔王討伐隊隊長の下に挨拶に行く。
どこか中世のレヴァーム式建築を思わせるこの城は、神話の時代からの歴史的建造物である。時代の流れとともに何度も改修を受けて来ているため、元の面影は残っていない。
モアとガイの後ろについてトルメス城の玄関を抜け、階段を上がる。耳をすませばあちこちから怒号や叫び声が聞こえてくる。どの作戦会議も紛糾しているようで、今すぐにも駆けつけてやりたい。
「失礼します、天ツ上の方々を連れて来ました」
「お通ししろ」
最上階の一つ下の階、何度も角を曲がり、こじんまりとした広間に到着する。壁際に幾つかの重圧な扉があって、そのうちの一つをモアがノックした。
すぐさま返事が聞こえ、円卓のある会議室に入る。返事をしたのは、年齢は40前後の身長180センチはあろう、筋肉質で白い短髪の逃げを携えた屈強な男である。
「おお天ツ上の方々よ、よく来てくださった。私はトーパ王国軍騎士長、魔王討伐隊隊長のアジズです。どうぞお見知り置きを」
「はい、私はトーパ王国派遣部隊連隊長、百田太郎大佐と申します。よろしくお願いします」
トーパ王国式の敬礼をするアジズに、百田はモアやガイにしたように自己紹介して挨拶する。円卓に着席すると、状況の確認から始まった。
「魔王軍は12月5日に侵攻を開始、軍勢およそ4万を率いて、グラメウス大陸から侵攻を開始しました。世界の扉を陥落させ、守備隊を148名を全滅させています。
魔王軍はそのまま城塞都市トルメス北部に位置するミナイサ地区に侵攻、12月8日に陥落させました。12月9日、トーパ王国軍本体が到着したため、被害を出しながらも侵攻を食い止めております」
司会進行役が概要の説明を続ける。
「住民は王国軍の命令ですぐさま中央広場の倉庫にあるシェルターに入れられていました。その数は600名程と思われ、シェルターには食料も大量にあることから、まだ大半が生き残っている可能性があります。彼ら魔獣は人間を餌にするので、一刻も早い救出が必要です」
百田たちは魔王軍のことを始めは害獣と思っていたが、まるで野盗やテロリストのような印象を受けた。
「これまでに三回ほどミナイサ地区の民間人救出作戦が試み行われましたが、広場に至る大通りには必ずレッドオーガもしくはブルーオーガのどちらか一体が交代で出現しています。正面から戦おうにも撃破され、裏道からの侵入も失敗しましたら。戦線は膠着しております」
「状況は切迫していますね」
百田の呟きに、アジズは苦々しい表情のまま頷く。
「そうなのだ……オーガさえ倒せればなんとかなるのだが……」
アジズによると、オーガの力は人間の何十倍も強く、疲れを知らないのだと言う。ある程度の食料の供給さえあれば、体力を消耗せずに動き続けられるらしい。
さらには体毛は針金のようになっており、防刃性がある。バリスタなどを当てられれば良いが、人間のように素早く動く奴らには当たらない。
おそらくは、有り余る魔力で微弱な回復魔法をかけ続けて、筋肉の疲れを除去していると考えられる。副次的に中途半端な傷ではすぐに回復してしまう、厄介なことである。
今は犠牲者はいないだろうが、魔王軍は残っている民間人を探して回っているに違いない。見つけられ次第、食い尽くされるのは確実だ。状況は急務である。
「では準備が整い次第、私たちは鬼退治と参りましょう」
百田達の下にはかなりの戦力が揃っている。第二使節団艦隊で持ってこられた陸上戦力は少ないが、それでも3000人規模の連隊である。百田は状況を見て、連隊長権限でオーガ駆除作戦を決行することにした。
「おお……お噂を聞く天ツ上軍が動いてくだされば、百人力、千人力ですな。作戦決行に合わせて騎士団も全力出動しましょうぞ」
百田の決断にアジズは表面上喜んで見せたが、実際のところはモアやガイ達と同様に天ツ上軍の実力を見ていないので、内心は半信半疑だった。
「まずは作戦の協議を行いたいと思います」
「了解した、これがミナイサ地区の地図と斥候の偵察により判明した敵の予想配置図です」
円卓に地図が用意され、数々の斥候の犠牲によって判明した配置図が用意される。中央広場を中心に広がった街並みの中に、壁のように連なるゴブリンやそれらを束ねるオークの布陣が示されている。
「やはり南門に敵が集中していますな……」
「はい、総数も4万と多く王国軍の主力部隊では防御をするのが精一杯な状況です」
状況は芳しく無い。パーパルディアのように銃のないトーパ王国の技術力的には、魔王軍に対処するには接近戦で行うしかない。強力な魔王軍に対しては押さえ込むだけで精一杯なのである。
「我々は連隊規模です。が、戦車や装甲車などもかなりの数を揃えてあるので、揺動するのはいかがでしょう?」
大隊長の犬神が提案する。
「陽動と言っても、どうするつもりだ?」
「まず南側の戦力を戦車部隊で真正面から激突させます。と、言ってもこれは陽動なので殲滅するつもりはありません」
「なるほど、続けてくれ」
「陽動をしている間に民間人を救出するのですが、二通りの方法があります。一つは北側から陸路で侵入してトラックに民間人を乗せる方法、もう一つは空路で飛空艦を使って民間人を避難させる方法です」
それぞれの方法には弱点がある、と犬神は続ける。陸路は手薄とはいえ敵のうじゃうじゃいる街の中を進まなくてはいけない、一方の空路も発見されやすく危険である。
「考えられるのはその二つだが、どちらも難しい作戦だな……」
百田は犬神の提案に感心するが、どちらを取っても難しい作戦であることには変わらず、悩みどころだ。
「あ……あの? 飛空艦とは一体なんなのでしょうか? 空から……ということはワイバーンの類ですか?」
飛空艦の事を直に見ていないモアが質問した。トーパ王国民で飛空艦を見たのは王都に住う人々のみで、実際に飛んでいるところを見た人は少ない。
「ワイバーンはその生体上、寒冷地であるトーパの地では飛べませんが……」
「あ、いえ。それらとはまた違った……言うなれば飛空機械の類です」
「ひ、飛行機械!?」
モアやガイ、そしてアジズは「飛空機械」の名を聞いてムーの『マリン』を思い出した。しかしその後、百田から飛空艦の事について説明されると、だんだんと理解していく。
「そ、空を飛ぶ船ですか……?」
「はい、まあ見てもらったほうが早いので近くの港を経由させて持ってきます。皆さんの度肝を抜くと思いますよ」
「は、はぁ……」
モア達は常識の範疇を超えたそれを、なんとか理解しようとするが、すぐさま思考から切り離す。考えても考えても、造形が浮かばないからだ。
「ふむ、だとしたら陸路と空路の両方を取る方法がよいかも知れませんぞ」
「? アジズ殿、その心は?」
「うむ、行きは陸路で行って帰りをその飛空艦とやらで民間人を乗せて帰るのが一番だろう」
「行きの陸路も危険ですが……」
「実はトルメスの近くを流れる川にある下水道を伝って行けば、中央広場の噴水に出られる隠し通路があるのだ。救出に向かう人数分なら、余裕で出入りすることが出来る。しかし、出入口が狭いので民間人を収容するのには時間がかかる。そこで行きはそこを通って行き、帰りは足の速いであろう空路で輸送するのはどうだ?」
アジズの提案した内容は、百田のわずかな説明をもとに最善の策を提示してきた。たしかにそれなら、比較的リスクの少ない地下を通っていけるし、帰りだけ足の速い飛空艦で逃げることが出来る。良い作戦だった。
「良い作戦です、それで行きましょう」
「よし、作戦には我ら騎士団も協力しよう。観戦武官を含め陽動にも使ってくれて構わない」
「感謝します」
そうして、作戦の大まかなことが決まった。
これからストックを書き溜めますので、少し遅れます。