とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

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最近投稿頻度が遅れていて申し訳ないです……


閑章第10話〜目を覚ます救国主〜

北の大地、トーパ王国の地。真冬の冷たい空気の中、港は2隻の飛空母艦や飛空艦隊達で埋まっていた。

 

 

「綺麗な光景じゃの」

「ええ、前の世界では見ることもありませんでした」

 

 

時刻は夜、空には前の世界では見ることのなかった光のカーテン──オーロラというらしい──が光り輝き、兵士たちや将校達も空を見上げ、幻想的な風景を噛み締めている。

 

第二使節団艦隊八神艦隊旗艦、飛空母艦『白鷹』の艦橋内部にて、八神武親中将と聖天は窓から外を見上げ、今後のことを話していた。

 

 

「しかし……なんとか終わりましたな」

 

 

八神中将は艦橋内でそう呟いた。彼の言う通り、民間人の救出作戦と魔王軍の殲滅作戦は成功に終わった。民間人は残らず救出された為、宴にも熱が入っている。

 

あれ以来、魔王の侵攻はない。トーパ王国民は魔王軍に勝利したと結論に至り、勝利の宴を始めている。下士官や兵士、そして今回の作戦で活躍した犬神達も宴に参加し、広報を兼ねて様々な貴族と話している。

 

 

「いや……まだ終わりではなかろう」

「?」

「まだ、魔王軍の総大将である魔王ノスグーラが残っておる。それに、行方不明の向日葵もまだ見つかっておらぬ」

 

 

たしかに聖天の言う通りだった。今回の作戦には魔王の存在はいなかった。魔王はどこかで今も軍の指揮をしている可能性がある。それはつまり、またトーパの地に再侵攻する可能性も十分にあるのだ。

 

 

「そうでした、まだ敵の総大将が残っていますな」

「ああ、魔王を潰さない限り、この地に平和は訪れぬ」

「聖天殿下、作戦準備は整えております。『向日葵』の捜索は、すぐにでも開始されるでしょう」

 

 

そう、第二使節団艦隊は『向日葵』の捜索を含めたグラメウス大陸への侵攻作戦を考えていたのだ。これは、当初の目的にはなかった使節団艦隊の独断で、表向きは行方不明になった駆逐艦『向日葵』を捜索する為である。

 

 

「そうか、では八神司令」

「はっ」

「準備が出来次第、グラメウス大陸への侵攻を開始する。陸戦部隊との連携を密に、一ヶ月でグラメウスの奥地まで進むぞ」

「はっ、陛下のご命令とあらば、必ず任務を遂行いたします」

「そうだ、それと……」

 

 

と、聖天殿下はニッコリと笑いながら、次なる命令を下す。

 

 

「艦隊や陸戦部隊には、聖アルディスタの御旗を掲げるのだ。魔王軍共に我らの存在を知らしめてやろうぞ」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「なんだと!? それは一体どういうことだ!?」

 

 

グラメウス大陸にある魔王城、その王座の間にて魔王ノスグーラの大声が響き渡った。

 

 

「トーパ王国へ派遣した軍が壊滅して敗走しただと!? ふざけるな! あれだけの戦力、あれだけの力、我がいなくとも人間如きならたやすくねじ伏せられたはずだぞ!!」

 

 

そう言ってノスグーラは怒りに任せ、すぐ隣にいたオークの頭を掴んでは振り回し、握り潰した。魔王の側近護衛にまで上り詰めたこのオークの最後は、呆気ないものだった。

 

 

「しかし魔王様、生き残りの報告ではトーパ王国の地に鉄の地竜や鉄の空飛ぶ船が出てきたとのことです。これは、どう考えても伝説の聖アルディスタの使いが再び出てきたと見るべきではないでしょうか?」

 

 

オークと共に報告を行なっていたマラストラスからのその言葉に、ノスグーラは一気に冷静になる。そして、その言葉を受けてしばらく固まると、マラストラスに向き直った。

 

 

「な、なんだと……!? 鉄の地竜に鉄の空飛ぶ船? まさか、あの伝説のアルディスタの使いが蘇ったのか!?」

 

 

聖アルディスタの使い、それは魔王ノスグーラにとってはかなりのトラウマに近い存在であった。それが復活したとなれば、レッドオーガ達を含むトーパ王国侵攻部隊がほぼ全滅したのもうなずける。

 

 

「どうされますか? こうなれば魔王様が直接出向く必要も……」

「うぬぬ……だが、事は慎重に運びたい。前の侵攻は我が前線に出過ぎたが故に危ない目に遭ったからな……」

 

 

そう、魔王ノスグーラがあまり前線に出ていないのはこれが理由である。前の侵攻、約一万2000年前の魔王軍の侵攻では、魔王ノスグーラ自身が前に出て指揮をしていた。

 

が、それ故に魔王は最前線で聖アルディスタの使いの戦船による爆裂魔法の猛威に晒された。あの時は直接防御魔法を展開したが、何度もあの手が通じるとは思えない。魔王ノスグーラは、前線に出る事がトラウマになっていた。

 

 

「とにかく今は、失った戦力を補給する為に機を見ることにしよう。それより、食糧農園(エスペラント王国)の状況はどうなっている?」

「はっ、まだ彼奴めは手こずっております。まだ区画を2個ほど落としたばかりです」

「くっ! 全く進んでいないではないか! あの役立たずめ、これ以上遅れるものなら我が直接出向いてやる……!」

 

 

魔王ノスグーラは、今日も魔王城に閉じこもって指揮を続けていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「まだ目を覚まさないのか?」

「ええ」

 

 

向日葵が墜落したエスペラント王国。そのノバールボ地区の騎士団病院にて、一人の男が眠らされていた。その男は先日スダンパーロ地区に墜落してきた、謎の"船"から運び出された怪我人だ。

 

彼の怪我は、肋骨三本と右上腕、左脛と手指の骨折。それと僅かな切り傷のみだった為、治癒魔法をかけて体力を回復させる様に寝かせていた。魔法での治療は魔法医師の魔力だけでなく、患者の体力も使うからだ。

 

 

「う……」

 

 

やがて、男の口からそんな呻き声が漏れる。

 

 

「おお、気が付いたかね?」

「ぐ……っ……こ、ここは……?」

「言葉は通じる様だな。安心したまえ、ここは病院だよ、私は医者だ」

 

 

頭が痛む。頭だけでなく、全身が痛む。起き上がろうとすれば、筋肉が悲鳴を訴えて筋肉痛を知らせる。

 

 

「君は名前を覚えているかい?」

「名前……名前は……岡真司です……」

「オカ?それが君の名前か、変わっているね。私は軍医のバルサスだ、よろしく」

「よろしくお願いします……」

 

 

岡は激痛を堪えて上半身を起こすと、周りにいくつもベットがあり、怪我人が横たわっているのが見える。まるで戦争でもしていたかの様な、非常時の病棟だ。

 

 

「あの、バルサスさん。自分は一体、どうなってしまったんでしょうか?」

「丸一日寝込んでいたよ。酷い傷だらけだったが、運が良かったな。欠損部位も無かったから傷をつなぎ合わせるのは簡単だった。すぐにでも動ける様になるだろう」

 

 

バルサスはそう言って後ろを振り返り、一人の少女に声を掛ける。

 

 

「サーシャ、この方に水と食事を用意してやってくれ」

「はい、ただ今!」

 

 

ピンク色の髪の毛を携え、二つ結びのツインテールを携えた少女が、バルサスの指示で部屋を出ていく。

 

 

「彼女は……?」

「あの子はサーシャ。獣人族のウォルバニー()系でね、医師見習いをする傍ら軍医として励んでもらっているよ。ああ見えても、前線での治癒活動に長けているんだ」

 

 

ああ見えても、というのは恐らく彼女が獣人族である事だろう。岡もこの世界の種族についてはある程度知っており、獣人族と言うのは魔法には長けていないと聞く。

 

それでも獣人族のサーシャが、軍医のバルサスに認められるほどの治癒活動を出来るとは、努力の賜物なのだろうと岡は納得する。

 

やがて、サーシャがトレイを持って病室に入ってくる。彼女が持ってきたのは、一杯の水と少し厚めに切ったライ麦パン、キャベツと白身魚を煮込んだスープだった。

 

 

「どうぞ。少しづつで良いですから、しっかり食べてくださいね」

「あ、ありがとうございます……」

 

 

質素なものだが、今の岡は何も食べていなかった為、無理にでも腹に詰め込む。食べているうちに冷静さを取り戻し、何が起こったかを理解確認することが出来た。

 

自分は飛空駆逐艦『向日葵』に、陸戦隊の一人として乗っていた。そして、グラメウス大陸の調査中にいきなり艦内が慌ただしくなり、戦闘態勢に入った事を覚えている。

 

艦が火災に包まれたことも覚えている。慌てて消火作業に加わりながら、岡は自分のできる事をしていた。が、その時から急に艦内がガタンと揺れて高度が落ちていくのが感じられた。

 

おそらく、艦隊の他の艦と衝突してしまったのだ。何が起こったかは分からなかったが、そのまま向日葵は墜落した。その記憶を思い出すにつれ、岡の呼吸と脈拍が速くなる。

 

墜落する少し前、誰かが落下傘で脱出する事を思いつき、岡にも装備が配られた。そのまま外に出ようとしたが、扉が湾曲して開かず、力ずくで開けようとした時に、バードストライクが多数起きた様で、揺れる艦内の中で立っていることもままならなかった。

 

しかしその途端、岡が押していた扉が急に開き、艦内の密閉された空気が一気に外に流れ出た。それは墜落するその瞬間の直前であり、岡はそのまま向日葵から放り出されて地面を転げ回ったのだ。

 

やがて、助けに来たであろう女性に要件を伝え、岡は意識を手放した。唯一気がかりだったのは、仲間の安否だ。一緒に駆逐艦に乗った陸戦隊の仲間や、向日葵の搭乗員達。彼らの安否が気になる。しかし、周りを見回してもベットに横たわる顔は天ツ上人らしく無い。

 

 

「まさか……まさか……」

 

 

飛空艦が墜落して、人が生き残った話は聞かない。中央海戦争時も、飛空艦が空で撃沈され、人がキャンディの様に放り出される事はよくあった。しかし、その誰もが生きて帰った事は無い。

 

その大体が、落下傘を背負っていないからだ。人間は空を飛べない、空から投げ出されて生きて帰るには落下傘は必須だ。岡は自分が生きている事を奇跡に思いながらも、仲間が生きていないかをバルサスに聞く。

 

 

「あの……バルサスさん……私の仲間がいたかと思うのですが、どこかに居なかったでしょうか……?」

「そうか、思い出したか」

 

 

目を伏せるバルサス、彼は後ろにいるサーシャに頷くと、話始める。

 

 

「残念ながら、君以外は誰も助からなかった。そう聞いている」

「やはり……そうでしたか」

 

 

バルサスの説明を聞いて、岡はガックリとうなだれる。目に涙を溜め、歯を食いしばった。

 

 

「遺体は貴方が回復するまで騎士団が管理していますので、大丈夫です。生なき徘徊者(リビングデット)にはなりませんよ」

 

 

と、バルサスの隣のサーシャが説明する。岡も徘徊者と言うのは知っている、魔素値の高い場所で人の遺体が放置されると、魔力を貯め、そのまま起き上がって魔物になると言うらしい。

 

 

「騎士団? 国があるんですか?」

 

 

しかし、騎士団というのは聞いたことがなかった。まるで、ここに国があるかのような物言いだ。

 

 

「ここはエスペラント王国、この世界でどこよりも安全な地だよ」

「安全な地? エスペラント王国というのは……?」

「逆に聞きたいのだが、君はどこから来た? この世界にこの国以外の国は存在しないはずで、周囲にあるのは荒野と山、魔王軍傘下の魔獣共の野営陣だけだ。まさか、大陸の外から来たとでもいうのかい?」

 

 

バルサスの説明を聞けば聞くほど、岡の頭に疑問符が浮かぶ。たしか、今自分たちがいるのはグラメウス大陸、その場所に国があるとは聞いていなかった。

 

しかし、彼の説明では逆にこのエスペラント王国? 以外には国がないかの様な言い方だ。まるで、人間の住処はここにしかないかの様な、閉鎖的な勘違いをしている。

 

 

「私は天ツ上という国から来ました……そもそもここは、グラメウス大陸で合ってますか?」

 

 

岡の質問に訝しバルサスとサーシャ。お互いに顔を見合わせて首を傾げる。国といえば、エスペラント王国以外にはない。エスペラントの民にとって、それは何百年、何千年変わらない常識だ。

 

しかし、この者はエスペラント王国の名前は知らず、グラメウス大陸の名は知っている。それはつまり、大陸の外から来たという証拠だ。一昨日、空から火を吹きながら落ちてきたあれは、大陸間を渡る乗り物かもしれない。エスペラント王国始まって以来の大事件だ。

 

 

「そう、グラメウス大陸だ。アマツカミという国は……少なくとも私は聞いたことがない。その国はどこにあるんだ?」

「天ツ上は南にあります。グラメウス大陸から見て南に2、3千キロほど、間にレヴァームという大陸国家を挟んだ向こうにあります。場所はフィルアデス大陸の東側で……」

「「フィルアデス大陸!?」」

 

 

と、バルサスとサーシャが同時に驚いた。

 

 

「フィ、フィルアデス大陸はまだ人の手にあるのか!?」

「あの伝説上の大陸ですよ! 魔王軍に支配されているっていう……!」

「え、ええ。人はたくさんいますし、国も多数存在します」

「で、では、まさか……神話にある『世界の門』はまだ機能しているのですか?」

「世界の門とは、グラメウス大陸の入口にあるトーパ王国にあるものでしょうか……? それならば、まだあります」

「なんと……なんということだ……!」

 

 

エスペラント王国神話には、「フィルアデス大陸だけでなく、世界は魔王の手に落ちた」と書かれている。

 

それは約束していた種族間連合からの捜索隊が何年経っても来なかったことから、エスペラント王国以外の人類は滅ぼされてしまったのだと勘違いしていたのだ。

 

 

「バルサス先生……これは……」

「ああ……サーシャ君、これが事実だとしたらとんでもなく素晴らしい事だぞ……」

 

 

岡はここまで来て、このエスペラントの人々が何か重大な勘違いをしているのでは? と気づき始めた。それが何かは分からなかったが、それはすぐにも知る羽目になる。

 

 

「騎士団だ、少し話をして良いか?」

 

 

と、扉の向こう側からノックする音が聞こえてくる。バルサスは扉を開けて、その人々を通す。外からは、腰にサーベルを持った男二人が入ってきて。

 

騎士といえば、全身金属の鎧を着た者が入ってくると思い込んでいたが、考えてみると怪我人一人から事情聴取を行うのに鎧を着て来る訳がないと、自分の中で解決する。

 

 

「そいつから話を聞きたい。空いている部屋はないか?」

 

 

病室なのに大声で怒鳴り散らかす騎士団、バルサスは医者としてムッとする。流石にデリカシーのない行動に、岡も唖然とした。

 

 

「生憎、どこも患者でごった返していますから。ここじゃダメですか?」

「そいつがもし化けた魔族だったらどうする? 正体を現して暴れられでもしたら大勢が死ぬことになるぞ」

「こんな死にかけの魔力の魔族がいますか? もしこの傷で隠し遂せているのなら、大した演技力ですよ」

 

 

そのやりとりを聞いて、彼は軍医なのに騎士団とは仲が悪いのかと不思議に思う。

 

 

「チッ……いいだろう。おい、入れ」

 

 

廊下にまだいたらしい、他にも五人ほどが後に続いて入ってくる。万が一、岡が敵だった場合を想定した護衛の様だ。全員が帯剣している。

 

 

「お前が空から落ちてきた者だな?」

「ええ、そうです。貴方は?」

「無礼な奴だ、騎士は決闘で負けた方から名を名乗ると決まっておろう」

「え? 私がいつ負けたんですか? そもそも、いつ決闘をしたんです?」

「チッ! いいから早く名乗れ!」

 

 

面倒な人だ、それが岡の第一印象だった。

 

 

「自分は帝政天ツ上陸軍所属、岡真司伍長です」

「オカ・シンジ……? 妙な名前だな。私はジャスティード、ジャスティード・ワイヴリューだ。このノバールボ地区を管理する騎士団憲兵署の署長である」

 

 

憲兵というのは警察か、あるいは天ツ上における憲兵隊の様な軍隊の警察なのかと判断する岡。この新世界ではどこでも天ツ語が通じるのはありがたいが、こちらの言っている事がどの様に伝わっているのか、常々気になる。

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

岡は右手を差し出す。

 

 

「フン、随分と人間に化けるのがうまいな」

 

 

が、ジャスティードはその手を冷たく見下ろすだけであった。

 

 

「まず質問するが、天ツ上とはどこのことかね? この世界にはこの王国以外に国は存在しないはずだ」

 

 

岡は一つづつ説明し、バルサスやサーシャに話したのと同じ「グラメウス大陸から見て南にある国」と説明する。が、どうせ信じないだろうと岡は思っていた。

 

 

「よくもそんな嘘をペラペラと並べ立てられるものだ。で、そのアマツカミの軍人がなんの用だ?」

 

 

案の定、信じてもらえなかった。

 

 

「我々はトーパ王国への使者の派遣の途中、グラメウス大陸の調査を行うためにここに来ました」

「トーパ王国だと!?」

 

 

ジャスティードを含めた、この場にいる全ての人間がその言葉に驚いた。それもそのはず、トーパの地は種族間連合が最後に駐留していた地で、魔王軍の再侵攻で真っ先に滅んだと聞いていた。それが、まだ生きているのだから、驚くべきである。

 

 

「四勇者が魔王に敗北し、世界中の国々が滅んだのは子供の時から教えられる常識だ! それをどこから来たかわからない、いきなり空から降ってきた奴が、『実は存続している』などと言われても信じられるか!! どうせお前は魔王軍の手先だろう!!!」

「証拠ならあると思いますよ」

 

 

声を荒げるジャスティードに対し、岡は冷静に答える。

 

 

「たしか私の手帳に世界地図が……あったあった」

 

 

と、岡は胸ポケットから手帳を取り出し、中から折りたたんだ紙を取り出す。これは、この世界の観測できる範囲を示して地図化した世界地図だ。岡はもしもの時のために持っていた。

 

しっかりとした上質な紙に、にじみもしない綺麗なインク、そしてそこに描かれた鮮明な大陸図を見せつけられる。そこには、フィルアデス大陸の様々な国々やレヴァーム天ツ上の正確な位置まで描かれている。

 

 

「この通り、フィルアデス大陸には多数の国が存在しています

「嘘を付くな! そんな紙切れが証拠になるものか! 多少正確な大陸図を描いたからって、デタラメを言うな!」

 

 

案の定、まだ信じてもらえない。ここまで正確な証拠を突きつけて、まだ信じないとはこいつは馬鹿なのか? と岡は思った。

 

 

「トーパ王国は人類最後の砦! それを先祖が何千年間も、何万人という犠牲を払って守ってきたのだ! それを侮辱する気か!?」

「……いいえ、そんなつもりはありません。私は事実を言っているまでです。とにかく、トーパ王国や世界の国々は健在ですし、このまま南に海岸線沿いに下ればトーパ王国にたどり着けるかと思いますよ」

 

 

岡は飛空艦の存在をあえて曖昧にした、面倒くさかったからだ。

 

 

「フンッ、魔王軍の手先の貴様なら知っているだろうが、南には魔王軍指揮下の野営陣があるのだ。そんな自殺行為するわけがなかろう。まあ、だからこそ貴様は城壁を飛び越えて直接王城に入ろうとしたのだろう? まあ、無様にも失敗したようだが」

「……何ですって?」

 

 

岡は「無様にも」という言葉に反応した。思わずカチンときた、まるで向日葵の墜落で死んだ人々を馬鹿にしているかのように聞こえたからだ。

 

 

「ハッ、そうだろう? 現に貴様らはあの空飛ぶ船で王城に乗り込もうとして、失敗した」

「……あれは事故です、我々の乗ってきた飛空艦……あの空飛ぶ船が飛行中に事故に遭い、この地に流れてきただけです」

「ハハッ! 事故とは、上手い言い方もあるな! 単に貴様らが下手くそで墜落しただけだろうに?」

 

 

岡は今度こそ堪忍袋の尾が切れた。ここまで向日葵の乗務員や仲間を貶されて、天ツ上の軍人としてキレない訳がない。岡は目の前にいたジャスティードの首を掴み、筋肉痛を忘れて問いただす。

 

 

「な、何をする貴様!?」

「お前は! 騎士団の癖に人の死をそうやって軽視するのか!?」

「は、は?」

「あの事故で大勢の人間が死んだんだぞ! 俺の仲間や、親しかった友人や戦友! それら全てがあの事故で亡くなった! それなのに……!」

 

 

岡の研磨に驚かされ、周りの護衛も剣を抜くだけで何もできずにいた。バルサスやサーシャも止めようにも止められず、事態は岡の怒りが収まるまで続く。

 

 

「お前はそうやって! 無様だの下手だの! 死んだ人を馬鹿にして! 人の命をなんだと思っているんだ!!」

「な、な……」

 

 

岡の研磨に押されてジャスティードも反応できずにいた。病院内には岡の叫び声が聞こえ、今にも一触即発であった。が──

 

 

「やめてくれ! ここは病院だぞ!」

 

 

その時、若々しい女性エルフの声が病院内に響き渡った。




という訳で、原作と違って『岡がジャスティードに怒鳴る』という展開を追加しました。書籍版もウェブ版も、初めて出会うシーンでなんか事故の事馬鹿にしそうだなと冷や冷やしていたのですよ。まあ、ジャスティードの気持ちはわからないでもないのですが……

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