とある飛空士への召喚録   作:篠乃丸@綾香

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第二次世界大戦期の技術で、どこまでエスペラント王国を強化できるか……


閑章第12話〜救世主の葛藤〜

「聖天様、全軍出撃の準備が整いました」

 

 

聖天は八神司令からの報告を聞き、うむと頷いた。

 

 

「では行こう、グラマウスの奥地へ」

「ええ」

「行くぞ、出港せよ!」

 

 

聖天の掛け声とともに、艦隊が港から出港を始めた。水中スクリューが轟を放ち、数トンはあろう船体を港から引き剥がす。そして、ある程度海に出たところで、揚力装置を始動させ、離水を開始する。

 

 

「聖アルディスタの御旗を掲げ、全艦全軍前進せよ! 最果ての奥地に進むのだ!!」

 

 

ここに、聖アルディスタの旗を掲げた聖なる軍隊が、前進し始めていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

岡が目覚めてから3日がたった。バルザスの見込み通り、岡は体力が回復していき、歩けるようになっていた。そして後遺症がないか、騎士団病院の前で体を動かして検査している。

 

筋肉や関節に違和感もなく、すぐにでもトレーニングに復帰できそうだ。しかし、岡には一つ気がかりが、というか今後の心配がある。これから行先、どこで何をしてようか悩んでいたのだ。

 

 

「これからどうしよう……」

 

 

退院が決まってから朝食を食べて悩んでいた頃。

 

 

「じゃあ私たちのうちに来るといい。サフィーネが面倒を見ると言った手前、それがいいだろう」

「え!? いや、ですが……年頃の娘さんがいらっしゃるお宅の厄介になるのは……」

「ははは、あの子を年頃の娘とかいう男はいやしないよ」

「?」

 

 

当時はその意味はわからなかったが、ともかく岡は流されるようにジルベルニク家へと身を置くことになった。事故時に着ていた戦闘服はあちこちが擦り切れていて、血の滲んだ跡もあった。が、まだ着れそうであったため、今後も着る。

 

しかし、街中では目立つため、バルザスの助手代わりをしているサーシャが調達した服を着ている。上はゆったりとした白いブラウス、下はサスペンダー付きのズボンだ。履き物だけは天ツ上のブーツを履く。

 

 

「すみません、病院でお世話になった上、こんな事まで……」

「良いんだよ、これも情けだし、重要参考人として補助が出る、気にしないでくれ」

 

 

そう言われて、やはり自分にはまだ疑いがかけられているんだなぁと感じる岡。実際、ジャスティードが書いた報告書のせいもあってか、岡にはまだ魔王軍の手先という疑いがかけられている。

 

そのため、常に監視しなければいけないが、面倒を見ると言ったサフィーネは軍人かつ女性であるため、常にそばにいるのも難しい。だからこそ、バルザスが監視の名目で保護してくれていた。

 

 

「おはよう。もうすっかり元気そうだな」

 

 

岡の退院にはサフィーネとサーシャが迎えていた。

 

 

「皆さんのおかげです、本当に感謝しています」

「よかったよかった──さて、王宮科学院と憲兵署が、君の乗ってきたあの船について話が聞きたいから連れてきてくれ、と命令されているんだ。準備はいいかい?」

「はい……王宮科学院、ですか?」

 

 

戦闘服は一旦病院に預けて、サフィーネとサーシャと岡は連れ立って出発する。この世界は魔法主体で、科学立国は今のところレヴァームと天ツ上にとっての友好国であるムーくらいしか見当たらないと聞く。

 

しかし、科学院とはまるでここにも科学があるかのような言い方だ。この国にも治癒魔法などがあった為、魔法主体だと思っていた為に科学という言葉に疑問符がつく。

 

 

「ほら、あれだろ? 魔導師は大規模な魔法を使うと酷く疲れて、次の日にはほとんど動けなくなってしまうだろう? けど、魔獣の襲撃は頻繁だから、連日襲撃されてもいいように魔力を使わない武器を開発しているんだ。そうした分野の技術のことを我々は『科学』と総称しているのさ」

 

 

話を聞いていると変な気分になってくる。レヴァーム人や天ツ人は魔力が相当に低いらしいが、()()()()()()()使()()()。しかし、今まで科学にだけ頼っていたので前提として科学しかない。

 

しかし、彼女が言った科学とは此方の世界の科学とは違う響き意味である。魔法以外を『科学』と称するのは、意味として合っているのだろうか? そのため、安易に「それ、知ってます」とは言い出せない。

 

 

「なるほど、興味深いですね」

 

 

と、相槌を打つだけに終わった。そもそも岡は帝国技術専門学校を卒業してから軍に入った身なので、科学については一般人よりかは詳しい。興味本位で爆薬の作り方を調べたくらいである。

 

 

「科学を使った武器開発や生活基盤を構築するのは人間の役割でね、科学院もほとんどが人間が多いのさ」

「へぇ、種族によって役割が違うんですか?」

「ああ、エルフは林業、ドワーフは北側の鉱山の管理、獣人は畜産業と水産業をそれぞれ管理していんるんだ。種族によって得意なことはちがうからな」

 

 

と、説明されていくうちにこの国が本当に助け合って生きていることを知った。ファンタジー世界の住民たちが、現実に助け合って生きている。過酷な環境に身を置いているからこそなのだろう。

 

 

「あの……ところでオカさんのいたレヴァームと天ツ上? という二つの国はどんなふうになっているんです?」

 

 

と、興味を持ったサーシャが質問してくる。

 

 

「自分たちの国は……人間しかいません」

「え? そんなの嘘だろう? 種族間連合の違いはどうしたんだ?」

「それが……」

 

 

岡はレヴァームと天ツ上が、この世界に揃って転移してきた転移国家だということを説明した。もちろん、そのことで疑われて国交を築くのにも苦労したことも。

 

 

「ふうん……全然信じられないけど、オカが乗ってきたものがこの世界のものではないって言われたら、信じられるかもね」

「今は信じてもらわなくても仕方ないです……」

 

 

全く信じれない様子の二人には、岡も苦笑いであった。

 

 

「ちなみにだが……人間しかいない国ってどんな感じの国なんだ?」

「私も気になります、レヴァームと天ツ上って仲がいいんですかね?」

「…………」

 

 

と、サフィーネとサーシャが質問してくるが、岡はあまり答えたくはなかった。

 

 

「? どうしたんだ?」

「いえ……その……レヴァームと天ツ上は昔は仲が悪かったんです」

「え? 同じ人間の国なのにか?」

「はい……」

 

 

岡はレヴァームと天ツ上のいた世界のことを話し始める。レヴァームと天ツ上のいた世界は、両国を隔てる巨大な滝と果ての無い海で覆われていた。その中で、レヴァームと天ツ上はたった二国で存在していた。

 

しかし、レヴァームと天ツ上はこの世界に転移する前、互いに睨み合って互いを見下し合っていた。

 

同じような閉じた世界にいたのにも関わらず、お互いに助け合うことはつい最近まで出来ないでいた。そしてそれが、ついには戦争にまで発展してことも言った。

 

 

「そんな……同じ人間なのに……」

「悔しいことです……ですが、本当に戦争は起こってしまったんです……」

 

 

岡は話していく内に悲しくなってきた。やはり人情というのはこうも残酷に差がついているのかと、悲しいような悔しいような思いが出てくる。

 

 

「仲が良くなったのは戦争が終わったつい最近の事で、それまでは互いを見下していました。同じ種族ですらも、仲良くできなかったんです……」

「…………」

 

 

サフィーネとサーシャは衝撃を受けていた。種族間連合の誓いが無くとも、同じ種族、同じ人間同士なら仲良くできるはずだと思っていたが故に、その衝撃は大きかった。

 

 

「すまない……私たち、悲しいことを話させてしまって……」

「いいんです、これも事実ですから……」

「そうか……」

 

 

二人はその衝撃を噛みしめながら、岡と共に墜落地点に辿り着いた。そこには数人の兵士達と一人の男が立っていた。

 

 

「げ」

「げ、とはなんだ貴様。無礼な……サフィーネも一緒か」

「オカ、こちらが王宮科学院のセイ様だ」

 

 

サフィーネがジャスティードを無視して、ブラウスとスラックス姿の男を紹介した。

 

 

「おお! 待ちわびていたぞ! 君が異国の軍人君かね?」

「え? あ、はい……」

 

 

と、ブラウスとスラックス姿の一人の男が岡に駆け寄ってきた。老け方からして中年くらいで、やや猫背気味な痩せ味の人間の男だ。

 

 

「王宮科学院のセイだ、セイ・ザメンホフだ! よろしくな!」

「て、帝政天ツ上陸軍の岡真司です。よろしくお願いします……」

 

 

予想してたよりずっとテンションが高く、岡は内心面食らう。握手を交わすと、セイは岡の全身をしげしげと眺めた。

 

 

「何だ、君のあの服はどうした? まさか捨てたのかい?」

「いえ、こちらでは少々目立つので……こちらのお洋服を用意していただきました」

「それはいかんな! 君ィ!、自国の文化を大切にしたまえよ! せっかくエキサイティングな衣類なのだから、もっと誇りたまえ!」

「は、はぁ……」

 

 

あの地味な色の戦闘服を「エキサイティング」と表現する、エキセントリックな感性の持ち主だった。

 

 

「そんなことより話だ、話を聞きたい! この船、この空飛ぶ船は君の国が作り出してのかね?」

 

 

これ、と言いながら、墜落してボロボロになった『向日葵』を指すセイ。

 

 

「ええ、『向日葵』は我が国で建造されました」

「やはりか! すごいな! 何がどうなっているのかはさっぱりだよ! 空を飛んでいたということは、これだけの質量を飛ばすだけの大出力が必要なはずだ。それなのに、残留魔力が全く検知できない! 全くもって意味不明だ!」

 

 

意味不明だという割には、かなり興味津々に爛々と目を輝かせている。

 

 

「こういう人なんだ」

「大体わかりました」

 

 

サフィーネが耳打ちをするが、岡はすでに大体わかっていた。だが墜落現場を目の当たりにして、彼のハイテンションさと質問のマシンガンには正直助けられた。

 

墜落時の恐怖を思い出す事も、彼のハイテンションな質問に付き合っていれば思い出すことはない。仲間の死を悲しむ暇もない為、これはこれで交換は持てる。

 

 

「なるほど……『向日葵』というのはこの空飛ぶ船の名前かね?」

「はい、飛空艦ですので一隻一隻に固有名詞が名付けられています。言うなれば、船一つに『○○号』と名付けるのと同じ感覚ですね」

「ほーう、この空飛ぶ船は『飛空艦』というのだね! 『向日葵』はこの船の固有名詞と……なるほどな!よく分かったよ」

 

 

彼の理解力が高くて、説明に助かった。

 

 

「ところで……他にも聞きたいことがあるんだが。たとえばこの武器? のような物たちはなんだね? 我が国の(マスケット)に似ているのだが……」

 

 

と、セイは種類別に並べられた武器弾薬、機材類があった。『九式自動小銃』や『100式機関短銃』、さらには大きめの『九式七糎噴進砲』なども並べられている。

 

 

「筒があって、引き金があって、握りと銃床がある。きっと同じように使うと思うんだが、合っているかね?」

 

 

まさか銃を実用化させていることは、岡も知らなかった。マスケットレベルならパーパルディア、ボルトアクションレベルではムーやミリシアルが実用化していると聞いたことはあるが、まさかここでも同じように実用化しているとは思わなかった。単独でここまで技術力を高めたとは、驚きに値する。

 

 

「そうです、同じように使う物です。そちらのそれも、火薬を爆発させて金属の塊を発射するのであれば」

「やはりそうか! だが我々が見たこともない素材がふんだんに使われている! ほとんどは木だが、恐ろしいほどの加工精度で、重量も素晴らしく軽い! こいつの作り方を教えてくれないか!? これなら君にもわかるだろう!?」

 

 

そこまで言われ、岡は返答に窮する。素材に関してはほとんどが木と金属である為、作れるには作れる。しかし、それを本当に教えていいのかと気になった。

 

レヴァームと天ツ上には、技術を流出させることで何かの罪に問われたりはしない。たしかにそのような法律はないが、技術を渡すときには国の許可は必要ではないのだろうか? 事実、レヴァームと天ツ上は見境なく技術を流出させるのではなく、友好国にのみ分け与えている。

 

しかし、岡がこの国で生きていく為には、最低限『向日葵』に積まれていた物資は絶対に必要だ。断って取り上げられ、勝手に分解されても困る。そして何より目の前の男は、好奇心旺盛な少年の目をしていて、何かのアクションをしなければ納得してくれないだろう。

 

 

「そうですね……マテリアルに関しては流石に高度な知識を有するので、自分では分かりかねます。ただ、構造体なものでしたらお役に立てるかと思います」

 

 

岡は腰のホルスターから一丁のリボルバー拳銃を取り出し、シリンダーの弾薬を確認した。そして九式自動小銃を持つ。周囲の兵士たちは念のため警戒し、剣に手をかける。

 

 

「これからこれらの銃を、メンテナンスをするために分解します。それ以上は細かくできません、部品は細かくできない上、分解し過ぎると2度と組み上げられなくなりますからご了承下さい」

 

 

と両手を上げながら言って、荷物からメンテナンス用の工具を取り出して手近な場所にあった机へと移動する。訓練で教えられた通りの手順で、あっという間に分解する岡。ついでに清掃をしつつ、歪みなどがないかも確認する。この銃は問題なく使えそうであった。

 

 

「すごいぞ! これらの銃の部品は我が国の加工技術の遥か先を行っている!」

 

 

九式自動小銃の分解を終え、次はホルスターから取り出したリボルバー拳銃を分解し始める。これは.357マグナム弾を使用するレヴァーム製の拳銃『コブラマグナム』で、岡の私物だ。

 

天ツ上では、維新革命をする際に革命軍がレヴァーム製の銃を輸入した名残で、今でも多くのレヴァーム製の銃が輸入されている。岡のコブラマグナムも、レヴァーム文化が色濃く残る常日野で購入したもので、軍でもそれらを使うことにあまり支障はなかった。

 

 

「すごい! こんな小さなサイズにまで銃を小さくできるとは! 何もかもが我が国の上だ!」

 

 

ジャスティードもサフィーネも、他の兵士たちもセイの評価を聞いて驚いた。銃はエスペラント王国の最新兵器、最強の兵器だ。それをおいそれとコピーされ、あまつさえそれを上回るなどあっていいはずがない。

 

 

「せ、セイ様! 銃は我が国の最高機密兵器でしょう! それを別の──外から来たと名乗っているだけの奴が作っているということは、国内に内通者がいると言う話ではないのですか!?」

 

 

声を荒げたのはジャスティード、彼はまだ岡を魔王軍の手先だと勘違いしているらしい。

 

 

「違うな、こいつは我々の百年や二百年そこらで実現できる代物ではないよ。君、これを見たまえ」

 

 

セイはレヴァームと天ツ上で共通規格で使われている、7.62×51ミリ弾を摘んで見せる。

 

 

「先ほどから見ていたが、これらの銃には火薬を入れる口がなかった。じゃあどうやって弾を装填するかって? これに秘密があるんだよ、この後ろに火薬が詰まっていて、それらをなんらかの形で爆発させて、発射するのだ。連写速度だって早くなるだろうし、これは革命的な発明だよ」

 

 

と、セイは分解したものを見せただけでその原理をほとんど理解している。岡はそこまで言われて、彼はとんでもない天才だと理解した。

 

 

「その通りです。まさか、そこまで理解していらっしゃるとは思いませんでした」

「なに、現物があればこそだよ! 素晴らしいものを見せてもらった、ありがとう!だがこれは我が国では作れんな!」

 

 

理解するのと、実際に生み出すのは別。まだエスペラントが銃を発明したばかりの加工技術しかない場合、誤差の理論ではそれより少し良いものしか作れない。

 

また、材質の硬質化も重要だ、特定の金属と硬質化処理には膨大な熱量を必要とする。そんな設備をこの国は持っているとは思えない。それらを含め、セイは無理だと言ったのだろう。

 

 

「この武器が大量に生産できれば、魔獣の度重なる襲撃も乗り切れると思うのだが……」

 

 

彼の呟きを聞いた途端、岡はある事を考え始めた。

 

 

──自分の知識があれば、この国を救えるかもしれない……

 

 

それを行えるだけの才能の持ち主が、今目の前にいる。たが、天ツ上軍という組織の人間である以上、天ツ上の機密につながりかねない事を勝手に開示していいのか、岡は葛藤した。




岡のマグナム拳銃はオリジナルです、これは後にリボルバーライフルを作るのに役立ちます。
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