とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

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……多少ネタバレすると、書籍版に居たゼリムを生き残らせるルートを今考えているんです。が、生き残らせていいのやら……だって、今まで人を食べてきてこれからも人を食べなくちゃいけない魔族を、どうやったら生かせるのか……でも生かしたい、あんないい人を死なせてはダメだと思うのですよ。


閑章第14話〜黒幕の暗躍〜

 

 

 

「大丈夫ですか! サフィーネさん!」

「うっ……ぐぅ……」

 

 

倒れているサフィーネを、岡はすぐさま駆け寄って脈を調べている。どうやらまだ生きてはいるが、心拍が速く、呼吸も乱れている危険な状態だった。内臓を傷つけたらまずいので、このまま動かせない。とにかく安全を確保してからにする。

 

もし刃物で傷つけられていたら、血が足りなくなる程の大威力だっただろう。サフィーネは持ち前の俊敏さで、打撃の寸前に衝撃をわずかに和らげる体勢を取っていたのだ。胸の骨が何本か折れてはいるが、命に別状はない。

 

 

「オカさん! 大丈夫ですか!?」

 

 

と、白いローブを羽織った女性が声をかけてくる。サーシャであった、彼女は前線での治療魔法を得意としていると、バルザスから聞いていた。

 

 

「サーシャさん! サフィーネさんが……」

「待ってて下さい、すぐに治療しますから!」

 

 

そう言ってサーシャはサフィーネの傷の部分に手を当てる。

 

 

「『.vmtaiba……』」

 

 

と、聴き慣れない言葉を発したかと思うと、傷に当てられていた手のひらがほのかに黄色く輝く。しばらくすると、サフィーネの呼吸も落ち着き、顔色も良くなっていった。

 

 

「これが……魔法……」

「そうですよ。まさか、魔法を見たことないんですか?」

「はい。自分は──自分が知る限り、我が国でもレヴァームでも、この世界に来るまで魔法という存在を知りませんでしたから」

 

 

その言葉に、サーシャはかなり驚いたかのような表情をする。この世界に来るまで、魔法を知らなかったというのは、魔法主体のこの世界の人間からしたら信じがたいことだからだ。

 

 

「一応、レヴァームの人も天ツ上の人も魔法は使えなくはないんです。ただ、今まで魔法というものを知らなかった世界から来ているので、初めて見ました」

「そうだったんですか……信じがたいですが、今は手伝ってくださるとありがたいです」

「はい!」

 

 

岡はサーシャにそう言われ、エスペラントでも戦闘処理に当たることにした。そしてものの数時間ほどで魔獣の処理が終わり、負傷者を病院などに移動させた頃には日が傾いていた。

 

 

「……おい……」

 

 

二式サイドカーを起こしに戻った岡は、ジャスティードにいきなり話しかけられた。

 

 

「ジャスティードさんですか、何かご用ですか?」

 

 

ジャスティードも戦闘処理に加わっていたのか、鎧やマントが土埃などで汚れている。彼ももしかしたら、良い人なのかもしれないと評価を改めようとしたが、彼の目には恐怖が宿っている。

 

 

「さっきのは……なんだ?」

「さっきの、とは?」

「黒騎士を倒したアレだ。その、お前が持っている銃……そんな強力な武器は、この王国には存在しない……」

「だから言ったじゃないですか、自分はこの国の人間ではありません、とね」

 

 

この期に及んでも、まだ信じようとしないジャスティードに対してめんどくささを覚える岡。誰かに助けてもらおうかと思ったが、そうしようにもサフィーネは病院送りである。

 

 

「いやいやいや、すごいねオカくん!」

 

 

と、そのピリピリとした空気に対し、セイが割り込んできた。後始末が終わるまで待っていたらしいが、シリアスな表情の二人をものともせずに割り込んでくる。

 

 

「あの銃は凄いよ! 装填速度が速くなるとは思っていたけど、まさか連射も出来るとは思っていなかったよ! しかも、黒騎士を一撃で倒すほどの威力! 銃声も無駄がなくて締まって聞こえた! アレほどの武器は素晴らしいよ!!」

「え!? あ、ありがとうございます……」

「君が倒した魔獣は一匹だが、倒したのはあの黒騎士! 我が国では倒すことはおろか、制圧することすらままならなかった存在! それを最もたやすく倒すなんて素晴らしい! 是非とも我が国の王に会ってくれ!」

 

 

と、唐突に王様との謁見を求められ、岡は面食らった。

 

 

「え!? いや、ちょっと待ってください! どうしてそんなに話が飛躍するんですか!?」

「あれだけの功績を出した者を、勲章も出さずに放置することなどできぬ!」

 

 

セイは言っても聞かなそうであった。

 

 

「それに君の国……アマツカミと言ったか、君はその国で高い教育を受けているのだろう? あの高性能な武器のメンテナンスを平然とこなし、マテリアルに関する知識も有している。そして、あれらがどう作用しているかも理解しているんだろう? 違うかい? そんなに教養を受けているのなら、我が国の王と謁見するに値するではないか!」

 

 

岡はこのセイという男が、あの短期間で自分がどれだけの知識を蓄えているかを看破しているのを見て、ぐぅの字も出なかった。もしかしたら、彼はレヴァームと天ツ上の著名な学者に匹敵するレベルの逸材かもしれない。

 

 

「……たしかに自分の知識は、この国にとって数百年を一飛びにする内容だと思います。ですが自分は天ツ上の一兵士に過ぎません。それが一国の王様に会うというのは、地位や格式に合わないかと思います。他の高い地位にいる方々に示しがつきません」

「地位が国を救えるのか? 出自で敵が倒せるとでも? それが守れるのは自国の規律だけで、純粋な敵意に対しては無力だ」

「統率の乱れは風紀を乱し、軍の崩壊を招きます」

「なら私が君にその地位を与えようじゃないか!」

「せ、セイ様!」

 

 

と、そこまで言われて今度はジャスティードが口を挟んだ。岡は気にしていなかったが、ただの技術者に「様」付で呼ぶのは違和感があった。

 

 

「何か文句でもあるのかね?」

「大有りですとも! この男は出所がいまだに不明です! 魔族が化けていることも仮定して、騎士団の管轄においているのに、勝手に地位や肩書きを変えられては騎士団の威厳に関わります!」

 

 

ジャスティードにとっては、岡の言っていた事を肯定するのは癪に触ったが、言っていることには同情できるのであえてそう言った。

 

 

「はぁ……では彼の出自をすぐにでも証明できるかね? 君が、君たちが、不審人物に疑いをかけるのは職務に忠実だ大変結構。しかし、彼の今までの行動には何ら不審な点はない。彼らだけが知る情報を、理解の範疇で説明してくれた。さらには我が国にとって厄介な敵の一体をその手で葬った。そんな相手をいつまでも疑うのは、思考停止──いや、君の場合はただの意固地だね」

「ぐぅ……」

 

 

と、セイのど正論を受けて、ジャスティードは歯を食いしばって黙り込んでしまった。岡から見れば、セイの威圧感はただの技術者のそれではない。洞察力や理解力、判断力や思考力は常人のものではない。

 

 

「とにかくオカ君、『王国の頭脳』とも呼ばれたこの私が、王に会わせたいというのだ。王も無下にはできないよ」

「何故そこまで……」

 

 

王宮科学院という名称から察するに、王政府の下部組織か、国策の研究機関であることは間違いない。だからこそ、セイがそれくらいの権力を持ち合わせているとは思えないだ。

 

 

「……セイ様は三王家の一つであるザメンホフ家の跡取りにして、王位継承権をお持ちの王太子の一人なんだ……」

「ええ!? そうだったんですか!?」

 

 

驚いた岡はセイを見るが、彼は余計なことを言うなという顔をしていた。

 

 

「まあ、曲がりなりにもそうだね。一応、私も王太子の一人だ」

「そうだったんですか……」

「まあ、王位に就くつもりは無いのだがね。だが、たまには王太子としてわがままを言ってもよかろう! なぁに心配するな! 一緒に行って君の協力を公に得られるようにするだけだからな!」

「は、はぁ……」

 

 

と、半端セイに押し切られる形で、岡はエスペラント王国の中心地、ラスティーネ城へ向かうことになった。

 

 

「あ、そういえば……」

 

 

と、そこまで強引に決められた時、岡はふと気になって二人のもとを離れる。

 

 

「ん? どこへ行くのかね?」

「いえ、黒騎士? の死体の場所へ」

 

 

エスペラント王国の兵士たちが、『黒騎士』と呼んでいる存在を岡は倒した。アレがどれだけ厄介の存在かは、戦いが終わった後に知らされた。どうにも、あまりに強過ぎて明確な戦術すらもまだ確立されておらず、一体も倒せていなかった奴らしい。

 

黒騎士は倒れて動かない。黒の体躯は地面に伏せ、その目は虚に輝いているだけだ。しかし、あの時岡はサークレットに1発当てただけであり、他は外してしまった気がした。そして、その黒騎士を見ると──微かに動いた気がした。

 

 

「!?」

「? どうしたのかねオカ君?」

「セイさん、私の後ろに……」

 

 

岡は他の兵士やセイ達を後ろに下げ、私物のマグナム拳銃を取り出して弾をフルで込める。

 

 

「まさか……致命傷を受けてまだ生きているのか?」

 

 

ゆっくりと近く岡。もう動かないとは思うが、それでも念を入れる。奴は呼吸をしている。そう、生きているのだ。しかし、その呼吸は浅く弱々しい。

 

 

「……? 意識があるのか?」

 

 

青い瞳が岡を捉えた、その腕が岡の足首をぱっと掴む。

 

 

「──ッ!!」

「オカ君!」

 

 

セイが叫ぶ、周りの兵士達も気付いて岡に駆け寄ろうとする。岡はその前にマグナム拳銃の引き金に手をかけ──

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「なんだと!? 侵攻作戦が失敗した!?」

 

 

エスペラント王国より北側数十キロ、その連山バグラ火山の火口付近にあるダクシルドの屋敷。そこにて、報告を受けたダクシルドが叫び散らかしていた。

 

 

「今回の作戦は、わざわざ南から回り込んで奇襲を掛けたんだぞ! それに鬼人族まで投入して、負けるはずがないだろうに!」

「ですが……事実として鬼人族は戻ってきません……やられてしまったと見るべきでしょう……」

「馬鹿を言うな! エスペラントの奴らは未開の地の猿! 制御装置を組み込んだ鬼人族相手に勝てるわけがないだろうに!」

 

 

報告をしているバハーラはきっと、胃が痛いことであろう。バハーラは制御装置を使って制御されているが、ストレスは溜まるのだろうか? 少なくとも目の前にいる上司はそんなこと微塵も考えていないようだが。

 

 

「くそっ! もういい、お前は下がれ。今後の方針は俺が決める」

「は、はい……」

 

 

そこまで報告を受け、バハーラは下がっていった。バタンと閉じられる扉の音を聞き、それと入れ替わりで入ってきた同じアニュンリール人の部下を見て、またため息をつく。

 

 

「下等種族の集落の片付け、やはり手こずりますね……」

「ああ、烏合の衆でも団結すればああなるのだからな。しかし、鬼人族が倒されたと言うのは納得がいかん」

「本国の軍を持ち出せないのがこうも効率が悪いとは思いませんでした……ま、どうせ世界から断絶した国なのですから、滅したところで問題なさそうですけどね」

 

 

ダクシルド達はこうして魔王軍の手下にさせられ、こき使われている。当初の目的であったエスペラント王国の攻略を、魔王ノスグーラから任されたのは幸運だったが、異様に戦果が出せない。

 

このままでは、魔王に見限られてしまい、自分たちの身すらも危ない状況だ。なんとしてでも成果を出さなければならないと、ダクシルド達は焦っていた。

 

 

「制御装置の実験データは如何ですか?」

「マラストラスの制御装置はまだ回収出来ていないからな……アレが一番確信が高いログを取っていたと思うのだが、鬼人族は純粋な魔族とは違うようだし、イマイチ信用できん」

「もしマラストラスがダメだったら、後は潜入しているゼルスマリムのデータを検証するしかなさそうですね。マラストラスの制御装置が手に届く距離にあれば……いつでも回収できるのですが……」

 

 

マラストラスはダクシルドの監視役になっており、いつでも不意をつける状態ではない。一応、ダクシルド達のメンバーには戦闘員も居るには居るが、それでもマラストラスを正面から相手取るのは難しい。

 

 

「そういえば知ってます? 魔王軍はついにトーパ王国へ進行を開始したらしいです」

「ああ、聞いている。少なくとも、今回の魔王軍の侵攻作戦でパーパルディアまでは落とせるだろうな。ここだと情報が碌に入らないから分からんが、今頃フィルアデス大陸内部まで侵攻しているだろう」

 

 

残念ながら、魔王軍の侵攻作戦の先遣隊である、トーパ王国侵攻部隊は天ツ上率いる帝軍の助力で壊滅して撤退している。魔王軍の手下にさせられているダクシルドは、隠されているその事実を知らない。

 

 

「ええ。ですが今パーパルディアは確か、神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上とか言う国と戦争をしているはずです。彼らの存在が、魔王軍の進行を妨げる事にはなりませんかね?」

「何を言っている、どうせレヴァームも天ツ上もパーパルディアに負けるほどの実力しかないだろうに」

「そうでしょうか……我々の正体を知られるわけにはいきませんので調査はできませんが、それでも警戒しておくのが一番かと」

「放っておけば良い、どうせ両方とも文明圏外のど田舎国家だ」

 

 

魔王軍の侵攻には食料が不足するため、時々エスペラント王国を攻めて、食料であるヒト種を調達している。エスペラント王国は魔王軍の食料農園としての役割があり、ダクシルド達はそれの攻略を任されている。

 

エスペラント王国民が「襲撃頻度が増えている」と感じていたのは、彼らが本格的な活動を開始したからである。

 

低級魔獣だけでは心許ないので、グラメウス大陸深部の「常闇の世界」にまで出向いて『鬼人族』と呼ばれる種族の国を襲撃して、鬼人族の姫エルヤと屈強な鬼人族の戦士を連れて、制御装置で操っている。

 

エルヤは鬼人族の国を守る防御結界の要だったらしいが、エルフと同等の魔力を持つ個人主義の魔族をスカウトするよりも、人類と同等の集団生活を送る鬼人族を狩る方が効率が良かったので、人質として本国に拉致している。

 

エスペラント王国で猛威を奮っていた黒騎士は全員鬼人族で、バハーラもその一人だ。彼らほどの強さを持つ個体が数十体いれば、下等種族の寄せ集め国家などひとたまりもないはずだ。

 

……そう思っていたが、まさか今日一人の鬼人族が討ち取られるとは思わなかった。

 

現在、魔族制御装置を装着させたはぐれ魔族のゼルスマリムを、エスペラント王国へ潜入させている。ビーコンの正確な位置を掴むために、それとエスペラント王国の動きを調べさせるためである。

 

 

「とりあえず、今後はしばらく襲撃を休ませよう。後は念のため、アイツの封印を解く準備をしておくか……」

 

 

と、彼らは状況を楽観視していられずに、自分たちのやれることをやろうとしていた。

 

 


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