とある飛空士への召喚録   作:創作家ZERO零

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自分的には早くグ帝戦を書きたい!早く架空戦記編を書きたい!飛空艦と洋上艦の海戦とか、戦闘機同士の空戦とかめっちゃ書きたい!
なので、エスペラント編は早めに終わらせたいです。
でもそれはなかなかできないんだよなぁ……


閑章第15話〜生捕りの黒騎士〜

 

「目、覚めませんか?」

 

 

ノーバルボ区の騎士団病院、その地下にある秘密の一室。そこには、ベッドの脇にいるバルザスと、横たわる黒い魔物──いや、何者かが寝かされていた。

 

 

「気を失っているからね。この魔獣はヒト種と体構造が類似していて、相当な体力を消耗しているそうだ。おそらく1週間は目が覚めないだろう」

「なるほど……」

 

 

あの時、岡の足を掴んだ黒騎士は、呻き声を上げたのちに気を失った。おそらく、最後の力を振り絞ったのだろう。黒騎士が生きていることを知った騎士団は、とどめを刺そうとしたが岡はそれを止め、こうして騎士団病院に連れてきた。

 

 

「バルザスさん……この事は……」

「分かっている、黒騎士の情報を集めるために捕獲した、と伝えれば良いのだろう?」

 

 

岡が黒騎士を保護した理由は、この黒騎士がなんなのかを突き止めるためだ。戦いの後に黒騎士の概要を説明された岡は、他の魔獣とは明らかに違う性質を持っていることを悟った。

 

一番の要素はヒトを食べない事だ。魔獣や魔族はヒト、又はそれに準ずる魔力を持った肉を食べなければ生きていけない。しかし、黒騎士はヒトを食べた所を見かけたものはいない。

 

それはつまり、魔物とは別のナニカでは無いのだろうか? 岡はそう疑ったのだ。しかし、ここエスペラント王国では長らく人類同士の争いがなかった為に、捕虜に関する概念がなく、敵を捕らえることには反対された。

 

そこで、岡は表向きは「黒騎士を生捕りにして情報を集めるために捕らえた」と説明させ、皆を納得させたのだ。ひとまず信頼を集めるまでは、そうして置いておくしか無い。

 

 

「にしても、岡の居た世界では人類同士で争っていたとな……中央海戦争、恐ろしい戦争だ……」

「残念ですが、この世界でも人間は変わらず戦争を続けています。人間というのは何処でも変わらないのでしょうね……」

「しかし捕虜か、本当にそんな概念があるのか?」

「本当です、自分のいた世界でも古くは捕虜を好き勝手に処分していた時代もありました。しかし、個人の人権を尊重する考えが生まれ、『そういうのは止めよう』とレヴァームと天ツ上の間で決まり事が定められました」

 

 

レヴァームと天ツ上の間で戦時協定の概念が生まれたのは、他にも理由がある。「どうせ殺されるなら道連れにしてでも」という自棄を起こされたり、報復を受ける危険性が高まったりと言った負の理由もその一つだ。

 

また、非人道的な虐待や虐殺などが行われると問題視されて戦後処理で不利になる事もある。実際、中央海戦争後の戦後処理の際にレヴァーム軍が行った一連の天ツ人に対する虐殺行為は、後々問題視されている。

 

 

「なるほどな。しかし、君が信頼を得るまでは非難が相次ぐだろうな……なんと言っても魔獣は魔獣だからな」

「理性のない、ヒトを食べる魔獣かどうかは、話を聞いてみないとわかりません」

「……話が通じるかはわからんが、それもそうだな」

 

 

バルザスはそこまで岡に言われ、やっとのことで納得した。

 

 

「それでは、私はセイさんと王城へ向かいます」

「ああ、王との謁見、信頼を得られるよう願ってるよ」

「はい、それでは」

 

 

岡はバルザスに挨拶をし、騎士団病院の外で待っていた馬車に乗る。岡は既に戦闘服に着替えており、風呂に入った後に行くことにした。

 

 

「おお、オカくん。待ちくたびれたよ!」

「はい、それでは行きましょう」

 

 

時刻はすっかり夜になり、夜空は真っ暗で星が見えている。しかし、エスペラント王国の街には魔法で転倒する外灯が取り付けられているので、街は真っ暗というわけではない。

 

上座のセイの正面に岡が座っているが、セイの隣にいる学者が九式自動小銃を持っているので、岡の表情は浮かばれない。

 

セイは王への説明のために、参考として銃を持たせたがっていた。だが岡は天ツ上の小銃は国の許可なしに絶対に触らせないと言うので、仕方なく理由をつけた。

 

つまりは、「現状、『向日葵』及び残留物資はエスペラント王国の領土内にあるので、エスペラントが一時的に所有権を有する」という強権である。

 

 

「オカ君は城へ行くのは初めてかな?」

「ええ、この国に来てまだ5日、しかも訪れてから2日は寝ていましたからね。これはどっちへ向かっているんですか?」

「今走っているのはセントゥーロ区、騎士団病院のあるノバールボ区の北東に隣接する区だ。ここはエスペラント王国の中心地でね、王城があるレガステロ区を取り囲む、王国で最も安全な場所とされているよ。まあ、この国に安全な場所なんて、何処にもないと思うがね!」

 

 

爽やかに説明するセイに、岡は少し引く。あまりにもあっけらかんと言うので冗談かと思ったが、こう言う事も平気で言う人なんだと納得する。

 

 

「──ほう、では君たちの国ではあの空飛ぶ船を民間でも利用していて、誰でも気軽に乗れると言うのか?」

「そうです。軍用から発展したのは間違い無いですが、何千キロと言う距離を移動できるので、軍用だけでなく民間にも普及しているのです」

「ははぁ、そう言うことか。人や物資の移動は消費行動を生むからな、それは経済活動を活発にさせる効果を持つ。君らの国はさぞ大変発展しているに違いない」

 

 

岡は答えられる範疇で答えると、セイは1から10を理解する。目を輝かせて、まるで子供のように聞いてくるので、なんだか楽しい。

 

 

「元々私たちのいた世界──実はレヴァームと天ツ上はこの世界の国ではなく、元々別の世界の国だったんです。その世界では、高低差1300メートル以上の巨大な滝で国が分断されていたので、それを超えるために飛空艦は生まれました」

「つまり……国ごとこの世界に転移した、と言うことかね?」

 

 

しかし、レヴァームと天ツ上が異世界から転移してきた話になると、さすがのセイも首を傾げる。

 

 

「それはないだろう。古の魔法帝国や、あるいは神でもない限り不可能だ」

 

 

流石に信じてもらえないか、と岡は思った。

 

 

「国土転移にどれだけの魔力を必要とするか知っているか? 文献に伝わる数は正確ではないが、あの恐るべき魔法帝国は国土転移のために数百万か、下手をすれば千万人規模の人類を犠牲にしたのだぞ。それだけの人類が失われれば、何処かで大騒ぎになるはずだ」

 

 

たしかにそれも、言われてみれば正しい。魔法に関する知識はないが、岡は国ごと転移する事がどれほど重大な事かを知っている。しかし、事実レヴァームと天ツ上はこの世界に転移した為に、肯定もできない。

 

 

「まあ自分も、突拍子もない話だとは思うんですけどね……ですが、実際に起こった事なのでこればかりは信じてくださいと言うしかありません」

「君らの国の人間は今まで魔法を知らなかったと言っていたな。科学で異世界転移できる技術は……いや、それはないな。時空間を超越するには膨大なエネルギーが……」

 

 

しかし、それでも可能性について考えるセイはいかにも科学者らしい。その後も30分程は喋りっぱなし。その間に馬車はセントゥーロ区の東側に、王城を守る最後の防壁、レガステロ区の城壁が聳え立つ。

 

北の鉱山区から切り出した石を積み上げたと言う、重圧な城壁を抜けると、警備兵の数が急激に増えたのを感じた。闇夜の中に松明が焚かれて浮かび上がる、無骨で何処か洗練されたデザインの城が近づいてきた。

 

 

「あれがラスティネーオ城だ。機能美に優れ、守りやすく反撃しやすい城として200年前に建築されたのだ。美しいだろう?」

「そうですね、是非太陽の下で見てみたいです」

「また見る機会はあるさ! 建築美に詳しくない私でも美しいと感じるほどだ。君も気に入ってくれるだろう!」

 

 

岡達を乗せた馬車は最後の門を抜け、庭園内に差し掛かった。色とりどりの花や木々が出迎え、白から溢れる灯でぼんやりと光っている。さらに庭の中央には噴水もあった。この水は、セントゥーロ区の周囲にある水路から水を汲み上げているらしい。

 

 

「さあ降りたまえ! ラスティネーオ城へようこそ! 私も久しぶりに登城するのだがな!」

 

 

馬車は噴水の裏にある玄関口の前で停車し、セイは満面の笑みで岡をエスコートしていく。一方の岡は緊張の面持ちで馬車を降り、連れてきたジャスティード、セイに続いて城の中へと入った。

 

 

「まあ……あれが漆黒の騎士を倒したと言う異国の騎士ですか……」

「茶色の服とはなんとみすぼらしい格好だ……! 優雅さの欠片もない……!」

「どうせ野蛮な魔法を使ったか、黒騎士が他の兵によって負傷していただけだろうに」

 

 

と、岡が場内を歩いていると異様な視線や揶揄の言葉が投げかけられる。岡はその言葉を聞いてあまりいい気分にはならなかった。

 

誰の手にも負えなかった黒騎士を、未知の魔法か新種の武器で呆気なく倒した異国の兵士の噂は、すぐに王宮内に広まった。その勇者が登城すると聞いていたが、やってきたのはみすぼらしい格好をした人間、何かの間違いではないかと疑っていた。

 

 

「見て、セイ様よ」

「またあのような庶民の格好をなさって……恥ずかしくないのかしら」

「やはりドワースの血が混じっているのだ。貴族らしさの欠片もない」

 

 

セイに対してもその中傷の言葉が向けられるが、彼は涼しい顔で歩いていく。しかし、岡はセイが王族の1人と聞いていたので、このような中傷に首を傾げる。

 

 

「セイさん……」

「気にする事じゃないよ。低俗な人物は何処にでもいる、気にするな」

「はい……ですがセイさんは王族の1人ではないのでしょうか? ここまで中傷されるのは、流石に不敬では?」

 

 

セイは岡にそこまで聞かれると、王座の間の扉の前で立ち止まった。

 

 

「言っただろう? 私は王位を継ぐつもりはないと」

「どういう事ですか?」

「我が国の王家は3つある、初代エスペラント1世は人間だったが、エルフよ側室、ドワーフの側室、獣人の側室を娶り、それぞれの妻の間に生まれた子らをエリエザル家、ザメンホフ家、レヴィ家として独立させたのだ。私はザメンホフ家だからドワーフの血が流れているが、残念ながらほとんど人間の姿で生まれてしまった」

 

 

エスペラントがこれまで子孫をつないで来れたのは、初代エスペラント1世が積極的に混結を進めていたからである。

 

人間種は寿命が短かったが、繁殖力が強かった。エルフもドワーフも長寿な反面、繁殖力が非常に弱かった。人口が少ないと労働力も少なくなるので、人口を増やすために、積極的に混血を進めたのだ。

 

そして、生活様式を統一して過酷な環境でも暮らせるよう、結婚という仕組みでそれらを解消していった。彼らには遺伝子学の知識などなかったが、全く違う種族で子供を儲けるのは実のところ理にかなっていた。

 

 

「人間族は……王位につくべきではないという事ですか?」

「いや、別にダメなわけじゃないけど、いいイメージが無いんだよ。地位に執着したり金で権威を買ったり、不義不貞の代名詞にもなっている。まあ、エルフにも消極的だとか排他的だとか、ドワーフにも頑固で金に意地汚いなどというイメージはある。ま、科学的に立証できない以上、私はただの偏見だと思うがね」

「なるほど」

 

 

よく言う、「レヴァーム人はこんな特徴が……天ツ人にはこう言う特徴が……」という占いみたいなものだろう。

 

 

「現王は我が伯父上で、次王は本来エリエザル家なのだが……諸事情で次もザメンホフ家が担うことになっている。だが、さっきも言ったようにこの姿のこともあるし、政務に興味もなかったからやらんと突っぱねてやった」

 

 

本当は科学研究から離れるのが嫌だったのでは無いだろうか? と、ここまでのセイを見て岡は看破した。

 

 

「さ、まもなく我が国の王、エスペラント・ザメンホフ27世との謁見だ。私が先に挨拶をしてくるから、その後に入るといい」

「はい、分かりました」

 

 

従者が扉をゆっくりと開き、一礼をする。セイが前に出てまず伯父上である国王に挨拶をする。

 

 

「伯父上陛下!! ご機嫌麗しゅう!!」

「来たか、礼儀知らずの小僧が」

 

 

いつも通りのセイの姿を見たらしく、エスペラント王は苦笑い混じりに破顔した。王座から降り、会釈を交わしたところでセイが本題を切り開く。

 

 

「突然の登城で申し訳ない! 話は聞いておられると思うが、通してもよろしいか?」

「異国の兵士──いや、勇者とも呼ぶべきか。話は聞いている、わしにも早く合わせておくれ」

「承知した! オカ君、入ってくれ!!」

 

 

セイに呼ばれ、いよいよかと心を決めた岡は入室した直後に挨拶をする。

 

 

「失礼します!!!」

 

 

茶色の服を着たみすぼらしい兵士が現れ、王も含めて全員が面食らう。しかし、この反応は予想通りだ。岡は屈する事なく、天ツ上の代表としての振る舞いを保つ

 

 

「そなたが噂に聞く異国の兵士か。其方、名はなんと申す?」

「はい、帝政天ツ上陸軍所属、岡真司伍長と申します! 自分は下賤の身ですが、畏れ多くもセイ・ザメンホフ様より王宮へお招きいただきました!」

 

 

岡は背筋を伸ばしてかかとを揃え、天ツ上陸軍式の敬礼で挨拶をする。

 

 

「──本当は制服で参上したかったのですが、生憎作戦時の服装しか持ち合わせておりませんでした。何卒ご容赦ください」

 

 

と、付け加えて。すると、周りの重役達も王も、そのキビキビとした動きと礼儀を弁えた言葉遣いに感心しているようで、歓喜の声が少し上がる。

 

 

「楽にせよ」

 

 

王はそう言った。

 

 

「余はこのエスペラント王国の現国王エスペラントだ。此度は魔獣の軍勢から我が王国を救ってもらったことを感謝する」

「もったいないお言葉です!」

 

 

岡は続けて、『向日葵』の墜落で迷惑をかけた事、この国の人々に助けてもらったことを感謝する。対するザメンホフ27世は岡を異国の人物であると認め始め、仲間が死んだことへの慰めの言葉をかけた。

 

 

「ほう、ではレヴァームと天ツ上は同盟国同士なのだな?」

「はい、最近同盟を締結し、二人三脚でこの世界を歩んでおります」

 

 

岡はレヴァームと天ツ上の事、国の名の由来や関係、そして国体なども説明する。どちらも皇帝や皇族によって成り立つ帝政国家である事や、軍の規模など、軍の仕組みについては首を傾げられたが、規模を聞いて驚かれる。

 

 

「ところで……」

 

 

と、王は肝心の話題に触れる。

 

 

「あの黒騎士を倒したという、君の武器はなんという武器なのだ?」

「はい、自分たちはこちらを『九式自動小銃』、そして『コブラマグナム』とそれぞれ呼んでいます」

 

 

岡は肩にかけていた小銃と腰のマグナム拳銃を、安全装置を掛けて王に見えるように掲げる。セイが小銃を受け取り、銃口を天井に向けて、各部を指しながら説明する。

 

 

「伯父上陛下、これは銃ですよ! ここを握り、引き金を引いて撃つ。ですが我々が持つ銃よりも、遥かに高性能で高度な技術を使った銃です!」

「ふむ……たしかに銃と同じ特徴を備えておるな」

「軽いですが、これひとつで凄まじい性能を持っているのです! その性能は、兵士一人を従来の銃士100人分にすると言っても過言ではありません!」

 

 

岡はセイが大袈裟に説明するのを聞いて、誤解を与えないか少し不安に思うが、考えてみればたしかにこの銃はそれほどの性能を持っていると考えて良いだろう。

 

と、岡は彼らのやりとりを聞いていた一人の男が少し顔を曇らせているのを見た。彼は立派な装飾が施されたマスケット銃を携えており、顔立ちは端正で若い。

 

 

「岡よ、そなたに一つ頼みたいことがある」

「はい、なんでしょう?」

 

 

その男へ片目を送っていた岡は急に王に名指しされ、ビシッと気を引き締めた。

 

 

「……岡よ、そなたの力を見せてはくれぬか?」

「は、はい?」

 

 

ザメンホフ27世は岡に対してそう言った。そしてこれが、岡の信頼を固める要因となることは、岡はまだ知らなかった。


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