そういえばこの作品をいつか同人誌にしたいと思っているのですよ。外注の挿絵もつけて、ラノベっぽくしてコミケとかで売り出してみたいですね。でも、規約的に可能なのか疑問……日本国召喚もそうだけど、ハーメルン自体が同人誌OKかまだわからない……
王宮音楽団による華々しい入場音楽が鳴り響く。アルブレクタ大競技場にて、岡真司伍長は準備を整えて、ザビルと共に入場口で待機している。
五万人は収容できそうな客席は、王宮貴族や騎士団関係者、王政府役人、王宮科学院の学者らと言った錚々たる顔ぶれだ。さらにその他の、一般観衆も詰めかけており、会場は満員である。
『お集まりの皆様! 本日勝負を行います精鋭の戦士、二名をご紹介します! まずは我が国の誇る最強の銃士……神の才能を持つ男!! ザビル・アルーゴニーゴ!!!」
魔法拡声器によるアナウンスが鳴り響き、銃士隊の戦闘服である装束に身を包んだザビルが、入場口から進み出る。
「きゃー!! ザビル様ー!!」
「今日もお美しいですわーッ!!」
「私の心も撃ち抜いてくださいましー!!」
ザビルはかなり整った顔立ちであるため、会場から大きな拍手と歓声が沸き起こる。主に貴族の娘や一般観衆の女性達からの黄色い歓声だ。当の本人は慣れている様子、あるいは興味がないのか、手を振ったりする様子もなく中央部まで進んだ。
『対するは異国の兵士! その類稀なる力で、あの〈黒騎士〉を単独で倒した男! 帝政アマツカミが誇る騎士、オカ・シンジ!!』
岡は呼ばれたところを見計らい、会場入りを果たした。オカの姿を見た民衆は、拍手をすることもなく次第にどよめき立ち、揶揄の声を上げる。
「な……何? あの人の格好……」
「茶色の飾り気のない服など、なんでみすぼらしい……」
「あんな華やかさのない人間が、本当に黒騎士を倒したのか?」
「これはザビル様の圧勝ね!」
「ええ、勝負するまでもないわ!」
観客達は岡のみすぼらしい格好を見て、なんの根拠もなく下馬評を立てる。彼の格好はベージュ色の野戦戦闘服に、木製の小銃を携えた、エスペラントの民からすればかなり奇妙な格好だ。疑われても仕方がない。
「オカ──ッ!! 頑張れぇぇ──ッ!!」
「頑張って下さいぃぃ──ッ!!」
あんな男に声援を送る物好きは、もちろんサフィーネとサーシャだった。
「やあ。君とこの時を迎えることができて嬉しいよ。今回の戦いは、正々堂々やろう」
「こちらこそ、王国の名手と呼ばれるあなたと競う機会を与えていただけたのは光栄です。よろしくお願いします」
岡はザビルの差し出された右手に応え、そつのない回答をする。
「私はね……ライバルというものがいなくなって寂しいんだ。強すぎるというのも孤独なものだ」
「そうですか、羨ましいですね。自分はライバルだらけです」
「ハハハッ、凡人は大変だね」
岡も愛想笑いを返し、ザビルの隣にある射撃レーンに移動する。
『それでは競技を開始します!! 競技内容は至ってシンプル。遠くの的に1分以内に射撃で命中させれば合格! どちらかが先に当てられなくなるまで距離を伸ばします!』
ルール説明が終わると、ザビルと岡の約50メートル先に起き上がるシューティングターゲットのような皿があった。皿の中心は地上から170メートル程に位置しており、マンターゲットのようではある。が──
「え!? アレを撃つんですか!?」
その的はあまりに近く大き過ぎた。
「ハハハッ!驚いたかい?的の直径はたったの1メートル、名工ランザルのこの銃の有効射程は50メートルだが、私なら当てられる距離だよ」
岡の驚きを怯んだと勘違いしたザビルは、多少余裕を見せつける。彼の名誉のためにも、聞かなかったフリをすることにした。
『それでは、始め!』
競技場がシンと静まり返り、開始を告げるラッパだけが鳴り響いた。
「行くよ……」
射撃線に立つ、銃士ザビルが射撃準備を開始した。火皿と銃口に火薬を流し込み、球状の弾を込めて込め矢でしっかり固める。フリントロックなので、火縄に火をつける必要はない。
そして──ザビルは弾を込めた銃を狙いを定めて引き金を引いた。火打ち石を噛んだ撃鉄が火薬に着火し、引火した火薬が一瞬で燃え上がって爆圧を生んだ。
大きな音、そして大きな白煙が上がって、銃口から小さな球状の弾が発射される。弾はライフリングもなく、そのまま空中を少しズレて飛翔し、的の皿を正確に撃ち抜いた。
「「「おおおお────!!!!」」」
会場に大きな声援が鳴り響く。
「うむ! 流石はザビルだ、見事なり!!」
ザメンホフ27世を含め、多くの観客が拍手を送った。
「流石はザビル様……一撃で当てるなんて素敵……」
「開始からまだ20秒も経っていない、見事な早撃ちだった!」
『さあ皆さん!続いては異国の兵士、オカ・シンジの番です!!天才銃士ザビルとどこまで渡り合えるのか、皆様ご期待ください!』
岡はザビルの隣の位置で待機しつつ、九式自動小銃の安全装置を解除した。そして、ラッパの音と共に予め外しておいたマガジンを装着し、初段装填のスライドを引く。しかし、肝心の火薬を入れるところは無かった。
──これは……勝負にならないな。
火薬を入れ忘れるヘマをしたように見えたザビルは、勝ち誇ったかのように内心思う。しかし岡は、照星と照門が一列になるよう狙いをつけ、落ち着いて引き金を引いた。
7.62ミリ×51ミリ弾の信管が雷管によって叩かれる。火薬が急激に燃焼し、乾いた快音が鳴り響き、弾丸がライフリングに沿って回転しながら空を切る。そして──毎秒848メートルの遥かに早い初速で撃ち出され、その多大な威力を持ってして標的の皿を粉砕した。
このあまりに静かな発砲音に、観客の中には皿が割れたことに気付かないものもいた。硝煙も少なく、動作も最小限なその銃の射撃は、あまりにスマート過ぎて違和感を覚えたからだ。
「いいぞオカ──!!」
「お見事です──!!」
もちろん声援を送る二人を除いて。
『お見事です! 見事に皿を割りました! お次は75メートルですよ!!」
今度は75メートル先の位置に皿が現れる。先ほどと的は一緒なはずだが、より小さく見える。
「……まさか、火薬の装填なしに発砲出来るのか……?」
ザビルは内心で岡の持つ銃に対し、その性能を見抜き始めていた。その後も競技は続く。手馴れの銃士でも難しいとされる75メートルの的を、二人は撃ち破った。その間、岡はマガジンを交換していない。
「やっぱりだ……! 装填作業を全くしていない……!!」
ザビルは銃士をする傍ら、銃に関しては王国で名工ランザルに次いで知識がある。岡の銃が全く装填作業をしていないのを見て、この勝負はおかしいと気づき始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「二人ともすごいな」
「けど、ザビル様の銃の方が派手で威力も高そうだな」
「次はもっと遠いぞ! 異国の兵士は割れるかな!?」
観客ももはや岡の服装など気にせず、ザビルと同様に正確無比な射撃の腕前を認めつつあった。また、この時において観客席にも岡の銃の性能に気づいた者がいた。エスペラント王国の職人の中で、一番の名工と名高いランザルである。
「異国の兵士の銃は発射炎が小さいですね、ザビル様の方が派手で威力が大きそうです」
「バッカモン!! お前はワシの下で何年修行してきた!? あの異国の銃がどれほど高性能かわからんのか!!」
横にいる彼の弟子を叱咤するランザル。弟子は自分の判断が間違っているなど夢にも思わなかったので、狼狽えながら教えを問う。
「え、え!? いや、そんなに凄いとは思えないんですけど……」
「バカを言え!あの銃は何回も撃っている筈なのに全く装填作業をしていない。火薬と弾があの銃の何処かに収納されているという証拠だ。戦場において、その装填速度の差は大きな戦力差になって現れるんだ!」
「そんなに凄いんですか!?」
「ああ。それに……発射炎も硝煙も少ないのは、効率的に燃焼しているからだ。圧力が抜けにくい構造になっているから、音が派手にならないんだ。よく聞いてみろ」
ちょうど、岡とザビルの銃がほぼ同時に放たれる。岡の銃の音は、先に撃ったザビルの銃よりも小さく乾いてはいるが、締まって聞こえる。
「本当ですね……」
「ああ。ここから見る限り、あの弾の威力もきっと高いぞ」
「……じ、じゃあこの勝負は……」
ランザルらが冷や汗を流しながら見守る中、競技は続く。
◇◆◇◆◇◆◇◆
100メートルを超えてから、ザビルの表情は焦りを見せていた。なんとか150メートルの距離の的も、一発外して二発目で当てて見せた。しかし、それは運が良かっただけであり、オカは一発も外していない。
名工ランザルの用意したザビル専用銃『星火』には、彼は絶対の自信と信頼を持っている。しかし、フリントロック式特有の銃身のブレはどれだけ抑えようにも限界がある。そのフリントロックで驚異の命中率を誇るザビルは、紛れもない銃の名手である。
しかし、異国の兵士は火薬を装填しなくていい反則的な銃を持っており、弾もどこから入っているのか分からないり待機位置で装填している様子もない。その上、反動は小さく硝煙も少なく、射手へのあらゆる負担を軽減している。あの命中率も納得がいく。
しかし、自分は天才銃士だ。ここまで天才に至るまで沢山の努力を積み重ね、銃士として切磋琢磨してきた。175メートルの距離すら涼しい顔で打ち抜く敵の手前、負けるわけにはいかない。
『さあ、次はいよいよ200メートルです!フリントロックの限界に挑むことになります!』
「ぐっ……やはり小さい……!」
観客がどよめき立つ。この距離はフリントロックの有効射程ギリギリで、狙撃するのも事実上不可能。1メートルの皿も、ここまで離れるとただの点にしか見えない。いくら正確に狙いをつけようとも、空気のブレだけで外してしまう可能性が高い。
ザビルは射撃レーンに立ってその的の小ささを噛み締め、開始のラッパともに素早く装填した。手のブレで揺らめく銃口。たった1ミリのズレでも、着弾点は大きく外れる。
──当たれ……!
構えてからおよそ3秒間、息を止めて銃身を押さて狙いを付けた。そして、引き金と共に大きな破裂音と共に視界を覆うほどの煙が発生、彼の銃から弾丸が発射された。
「ぐっ!!」
命中せず。その後すぐに装填し、再び撃つがそれでも外れてしまった。最終的に1分が経って命中なしとなり、ザビルは悔しさをにじみ出す。
『おとっと!流石の天才も距離200メートルは難しかったようです!』
「「「あぁ〜〜………」」」
観客から長い嘆息が漏れ出る。
「ザビル様でも無理なんて……」
「無理よ……あの的はザビル様の位置からでもきっと点にしか見えないわ」
そして、岡の番となり涼しい顔で首を鳴らして射撃レーンに着いた。そして、これまでと同様に一撃で皿に命中させた。
『あ、当たった!! し、信じられません!! 銃士ザビルが負けてしまいました!!!』
「「「ひやぁぁぁぁぁ!!!」」」
「凄いぞオカ────!!!」
「やったぁ────っ!!」
サフィーネとサーシャの二人は除いて、文字どうりの悲鳴が女性を中心に巻き起こった。その後、試合は次なる競技、早撃ち競技に移る。これは、50メートル先の複数の的を、いかに早く撃ち抜けるかの勝負だ。おそらく、セイが続行させたのだろう。
「では、私は銃を変えます」
と言って、岡は二つ目の銃である100式機関短銃をセイから受け取り、それを構えた。装填作業を全くせずに、サブマシンガンである利点を生かし、その的達を連射で撃ち抜く。軽快な発砲音が連続してこだまし、7つの的を全て見事に叩き割った。
「なんだと!?」
常識を遥かに超える銃の性能を目の当たりにして、ザビルは固まった。次元が違う、ザビルはいよいよそう認識した。セイが「我が国では作れない」「200年経っても無理」と言っていたのは事実だと証明されたのだ。
「「「ウォォォォォォ────!!!!」
ザビルはここまで来て全てを理解し、完敗を認めた。競技場にいる者たち全ても、やがて岡の腕前と銃の真の性能を理解して大歓声を上げた。
「凄いぞ! なんて性能の銃だ!!」
「凄すぎる! 一体どこの銃だあれは!!」
「彼は『異国の兵士』って……まさか、外の世界!?」
「まさか! 我が国以外に国は居ないはずじゃ……」
競技場は騒然とし、収集が付かなくなる。その騒ぎは、王であるザメンホフ27世が立ち上がって手を上げたところでようやく収まった。
『銃士ザビル・アルーゴニーゴ、アマツカミの兵士オカ・シンジ。二人の競技、誠に見事であった。素晴らしい奮闘を見せた二人には、このエスペラント・ザメンホフ、惜しみない賞賛を贈りたい』
ザビルと岡は並んで片膝をつき、深々と礼をする。
『さて……今日この場に集った王国民達よ。諸君らは、重大な歴史の証言者となるだろう』
話の内容が変わり、競技場は静かになる。
『知っての通り、我が国は建国以来、魔物に怯え続ける生活を余儀なくされている──しかし!!我々は一人ではなかった!』
突然、王が突拍子もないことを言うので全員が目を剥く。
『そう、すでに気付いている者もおろう。銃士ザビルと戦った兵士オカは、嘘偽りなく異国の兵士である! 外の世界には……このエスペラント王国以外の国があるのだ! 人類は滅びていなかった!!!』
「「「「え……えええええええええ!?」」」」
これまでのエスペラント王国の歴史や常識を覆す、突然すぎる王の発表に、貴族や王国民は驚愕の声を上げる。
「彼らの国の名は〈帝政天ツ上〉。三日月を国旗にした八百万の神が存在する東の国。その盟友として聖アルディスタという唯一神を崇める〈神聖レヴァーム皇国〉も存在する!!』
観客達はその言葉に聞き覚えがあった。聖アルディスタ、その名を神話の単位で知らぬ者は、この国にはいないからだ。
「三日月……聖アルディスタ……って……」
「まさか、まさか……!」
「あのお方が……!?」
エスペラント王国民であれば誰もが知っている御伽話、その伝説が今目の前で起きている。
『そうだ!これは……オカ殿が現れた一連の状況は、我が国に伝わる〈福音の予言〉に酷似している!余はここに誓おう!聖アルディスタの使者なるオカ殿を我が国の旗手として迎え入れ、王国の総力を集結して、民に平穏な暮らしを取り戻すことを!!そして万を超える年月以来の人類世界への、帰還を果たそうぞ!!』
「「「ワァァァァァァ!!!!」」」
王の演説により、国民達は沸き立った。今まで万年の歳月を経ても戻れなかった人類世界、その世界への帰路の道が今届こうとしている。この演説は王国民の心に熱い炎を灯し、岡とザビルの勝負はあらゆる意味で大成功を収めたのだった。
そういえば感想返信って、早いほうがいいですかね?遅くても大丈夫ですか?