閑話 矛盾と綻び
『お前、オバケが見えるんだろ?』
『きもちわりぃ』
まだ子供の頃のことだった。
剣道の習い事が休みになった日。町内でも唯一残された公園で遊ぼうとしたら、虐めっ子といえる風貌の3人組が、ブランコに乗る少年を取り囲んでいた。歳は当時の俺と同じくらい。
少年は何も言い返さずに俯いていた。
『ほら、どっか行けよ妖怪』
『『よーかい、よーかい、よーかい』』
「やめろ、お前ら!!」
3人組の一人が少年の肩を掴み、振り落とそうとし笑い飛ばす状況。見るに耐えかねた俺はずかずかと歩み寄った。
『うげ、妖怪の仲間か…?』
『…もう行こーぜ。もしかしたらコイツの姉にチクられるかもしれねぇし』
『『さんせー…』』
何かに怖じ気づいたのか、3人組はそそくさと去っていく。できれば最初からそうして欲しいものだ。
「…ったく、…おい、大丈夫か?」
そう呼びかけると、少年は顔を上げる。
少年「…大丈夫……ありがとう…、助けてくれて…」
「なぁ、お前やり返そうとか思わねぇの?」
少年「……別に」
「嘘つけ。めっちゃ嫌そうな顔してるじゃねぇか」(¬_¬)σ)´ ο`)
少年「うぅぅ…」
そっぽ向く少年の頬をつつくが言うまでもなく図星のようだ…。
「……友達、いないのか?」
少年「いなかったらなに? 妖怪の僕に仲良くしてくれる人なんて、いないのに」
地雷を踏んでしまったことで余計に暗くさせてしまい、どうすればいいか悩んだ末に手を差し出した。
「じゃあさ、俺がなってやろうか」
少年「え……?」
可哀想だからとかじゃない。
気まぐれなんかじゃない。
俺も欲しかったから。友達と呼べる存在が。
「俺、信武って言うんだ。良かったら俺と友達になってくれよ」
少年「…いいの? 妖怪の僕なんかと…」
信武「気にすんな! どんなやつが相手だろうと、俺がまとめて蹴散らしてやる! なんたって、俺は強いからな!」
エッヘンと鼻を鳴らしながら言う。
今思うと大見得切るようだったろうが…、少年はそんな俺の姿を見て笑い出した。
多分、今まで俺が見てきた中で一番の笑顔だった気がする。
水希「……僕の名前は水希。よろしくね、信武!」
信武「――あぁ!」
これが、俺達が友達になるきっかけだ。
互いに握手を交わすその時、周りが暗く染まりだした。
信武「何だよ……これ……」
子供だったはずの俺達の身体と声は、
目の前でトランサーを弄る水希。
信武「…水希…?」
水希「………」
ブツンッ!
…トランサーから何かが断ち切られる音がした…。
それを確認し、呆気にとられる…。
信武「っ! なんて事するんだよ! 水希!!」
怒りに震える俺を無視して回れ右すると、そのまま歩みを進めた。
水希「…皆を助けだすまで、アンタとは会わない。…お願いだから、これ以上は関わらないで…」
信武「待てよ! おい、待てって――!?」
水希の手を掴もうとした瞬間、砂のように崩れ散り、何もない空間に独り――取り残されるのだった…。
***
信武「水希っ!!!」
がばっ、と勢いよく飛び起きる。
信武「………夢か」
だいぶ
ひとまず替えの服とシーツをまとめ、汗を流しに風呂場へと向かう。
◆◆◆
…改めて自己紹介をさせてもらう。
俺は、
夢で見た少年――水希とは腐れ縁の親友で、小学校から中学校まで同じ所に通っていたが、卒業とともに俺は都立高校へ、水希は他県の全寮制高校に進学。
本来なら高校も卒業して自分なりの人生を歩むはずだろうが、ある日を境に連絡は途絶え、今どこで何をしているのかさえ…わからずじまいだった。
アイツは一人でいることを好む性分なのか…。昔から他人に対し…無神経なところが垣間見えており、人当たりが良いように接してはいるが、大抵どうでもいいような振る舞いをしている。
つまるところ、心を許した相手以外は
そして心を許したからと言って、たまに疑り深くなるわ、素直じゃないわと…、従兄弟の深祐とそっくりだから困りものだった。
…まぁ、幼少期に負った"心の傷"が原因である以上、無理矢理に治すことなどできないのだろう。
周りの奴らは、それを少なからず理解していたと思う。
その中に気味悪がっていた奴もいたくらいだしな。
アイツも時折、何かに怯えているような目をすることがあった。
なんでそんな目をするかは…俺自身、未だにわかっていない。
高校時代は…部活での愚痴、行事ごとの思い入れ、そして…大学のことも…。
色々な話をお互いメールでやり取りすることは少なくなかった。
だがどうにも、水希の書く内容は中身が薄いというか…興味のなさに拍車がかかったというか…色々と怪しく感じることもあった。
そして…大学受験に無事合格し、高校を卒業する前日
俺の心にヒビが入る出来事が起こる。
船長として…親父も搭乗していたキズナ号。その消息が絶たれたというニュースと水希の訃報を聞いて愕然とし、お袋もストレスに耐えきれなくなったのか……俺のいない時間を狙うように自決し、その時は時間が止まってるように感じた。
中退して安いアパートに住もうとも考えたが、深祐の父親からの提案で養子縁組に入れてもらう事になり、水希が死んだ事実を嫌々受け止め…、大学生活を淡々と過ごす日々が続いていく。
そんなある日のこと。
偶々授業がなく、気まぐれで散歩していた時に
水希「電波変換!―――」
アイツを見かけたんだ。
少し離れてはいたが、姿形も…声でさえも本物なのだ。間違いない。
ただひとつ、違う点があるとすれば……謎の光に包まれた後の姿だ。
見るからに踊り子のような格好をしている。
普段見ない姿のその異様さに呆気にとられ…
水希「…っしゃ、行きますか!」
信武「っ、待ってくれ水希!!」
慌てて駆け出したときはもう…水希は
それから数日後。俺は水希が住んでるであろう自宅へと向かった。
今アテがあるとしたら、この家とあの河川敷くらいしかない。
意を決し、呼び鈴を鳴らす。
すみれ「はぁい。どちらさ……信武君…」
信武「…お久しぶりです。……水希のことについて、お聞きしたいことがあるんですが…」
居間へ案内され
俺は仏壇に飾られた写真に指差す。
信武「おばさん。あの写真、本当はただ飾ってあるだけですよね?」
「…どうしてそう思ったの?」と、彼女は目を細めながら問い返す。
信武「実はこの前…、河川敷を歩いていたときに、橋の下で水希を見かけたんですよ」
すみれ「…人違いとかじゃなくて?」
信武「えぇ。姿形も声も…水希そのまんまでした。
その時…確か…電波、へんかん?とか叫んでいたそうですが」
すみれ「…っ」
信武「…お言葉ですが、俺に何か隠してませんか?」
おばさんは半ば諦めたように言う。
すみれ「………水希が変身するってのは本当だけど、交通事故で亡くなった話は本当かどうかわからない。……いや、内心信じたくないだけかしらね…。
信武「……そうですか……」
その話が嘘だとしても、この人は何も知らないの一点張りを繰り返すだろう。
これ以上は時間の無駄と思った俺はお暇することにした。
その後すぐに深祐に尋ねることにしたが、結果は同じ。
ただ時間を費やすだけだった。
そんな中、多くの疑問が浮かんだ。
水希は…本当に高校を卒業したのか?
そもそも通ってすらいないんじゃないか?
そして、親父達の件と関わりがあるんじゃないか?
と。
受験していたはずの高校を調べようかと思ったが、面倒だし…直接本人に確かめた方が早いと思い、再び河川敷へと向かうと、アイツは都合よく姿を現した。
信武「……やっと見つけた」
※誠俟さんは水希のパッパです。