流星のロックマン 水希リスタート   作:アリア・ナイトハルト

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ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
引き続き、第五章も読んでいただければ幸いです。


閑話 度し難いって言うんだろうな…。

淀みない快晴の(もと)。見も知らぬ展望台へ訪れていた。

しかし、群衆から湧き上がる熱狂はどうにも収まりがつかない模様である。

何せ人気(ひとけ)の少なさそうな此処も、今日に至ってはライブステージへと様変わりさせたのだから、窮屈だと感じてしまうのも無理ないだろう。

 

『ミソラ! ミソラ!! ミソラ!!! ミソラ!!!!』

 

最後列の右端から一人静かに見守るなか、皆は一丸となって手拍子とコールを繰り返していた。

思うに、この盛り上がりようも今回の主役――響ミソラに期待を寄せてこそ得たものとなる。

かくいう俺自身も、度重なる凶事に心を病んだ頃から彼女の歌に救われた身だ。今まで観に行く余裕はなかった分、今回の引退ライブを機に勇姿を見届けようと出向いたのだ。

 

 

 

 

 

隣にストーカーもどきがいなきゃ、もっと楽しめたんだけどな……。

 

「いやぁ、相変わらずスゲー人だかりだな。もうこれ収まりきらないんじゃねーのか?」

信武「……なんでテメーまで居るんだよ……」

「……むむ! その声、信武か? 奇遇だな!」

信武「その台詞はもう聞き飽きたよ」

 

実は今日。フードを被ってサングラスを掛けるという、普段と違った装いだったのだが。

左に居るこの男――狭山(さやま) 恵輔(けいすけ)に向けて口を滑らせてしまい、誤魔化そうにも手遅れな訳だ。

 

身内と親友を喪って傷心していた俺は、誰に対しても深い関わりを持たず…せいぜい会話する程度の仲に留めてきたのに、コイツは何度も俺に近づいてきた。

学校以外でも所構わず出会すことが多いし、実害が無いだけマシだけど……正直に言うと、親の顔より見てるだけあって鬱陶しいんですよね〜これが。

 

信武「…運命感じる前に○コムと契約しようかね…」

 

溜息と共に嫌味を吐くと、恵輔もムキになって、にゃにおう!と俺を睨みつけた。

 

恵輔「仮にも学友の俺を疎むなど失敬な奴め。まぁ何にせよ、ライブに来るかどうかは俺の勝手だけどな〜♪

……どうよ、お前の口癖をマネた感想は?」

 

なぜ得意げにドヤるのかは置いといて…コイツに放ってやれる言葉はせいぜい一つに限る。

 

信武「シンプルにうぜぇ」

恵輔「シンプルに酷ぇ!」

「――ちょっとチミたち〜、せっかくのいい気分が台無しじゃないの。騒ぐなら他所でやってくれないかね?」

 

恵輔の野郎…場の空気も考えず騒いでくれたから、お隣さんも嫌そうな眼差しを向けてきたじゃねーかよ。

てか俺、巻き添え食らっただけなんですけど?!

 

恵輔「あっ…すんません、俺達はっちゃけ過ぎちゃって…」

信武「俺達言うなや、俺達って…」

恵輔「お前の場合、不機嫌オーラダダ漏れなんだから雰囲気ぶち壊してんのはお互い様だろ」

 

ちょっとした言い分が癇に障り、一言多いと小突いたのだが…今にも雨が振りそうなほど諭され、絶句させられてしまう。

ハァァ、釈然としねえわ〜。

 

恵輔「――それよりも、ほら! 来ましたよ!」

「む!? ……オォォ!ミソラちゃーん!」

 

恵輔が指し示すように舞台袖から主役が現れた途端、野郎どもの目がハートになるくらいに歓声は高鳴りを増していった。

 

これがライブというものか。

……すごく、暑苦しいです……。

 

ミソラ「みんなー! 今日も集まってくれてありがとー!!――」

 

マイクを手にとっては観客に感謝とお詫びを述べ、同時に時間いっぱい歌うと彼女は誓った。

 

 

 

しばらく静観していた俺を除き、周りは意気揚々と声をかけ、中にはヲタ芸を披露して熱烈にアピールしてる者もいた。

いつもなら一人で、イヤホン越しから元気を貰い受けてきたが、老若男女問わず歓びを共有し合えるこの時間も悪くない、と改めて実感させられる。

 

ちなみに…暑さに耐えきれず腕()くったのはここだけの話な?

 

 

「これが最後の曲になります。聞いてください。……『グッナイ、ママ』」

 

ライブはとうとうクライマックスを迎えたのだが、俺は一瞬、表情が少し固くなったと自覚する。

 

文字通り、母親を題して作詞したのだろう。

何でか急に、お袋が亡くなった当時のことが脳を過り、歌詞と照らし合わせて聴くほど胸の奥がむず痒くなる。

葬儀の最中も涙は出なかったけど、悲しくないと言えば嘘だ。三年経った今でも、黒い靄が俺のナカに這いずり回って漂い続けるのだから。

 

しかし、もしかしたらだ。

彼女も……俺と似通った境遇にあるのなら、俺よりもずっと早く、何倍も気張っているのではと考えてしまうのだ。

そうでなきゃ、わざわざお披露目する筈がない。

 

恵輔「……ったな、ミソラ」

信武「? なんか言ったか?」

恵輔「いいや、別に」

 

ボソッと独り言ちていたため聞き取れなかったが、目を閉じつつ穏やかな笑みを浮かべた恵輔を見て、疑問に思った。

 

―そういや、コイツの目って……。

 

信武「ぐ……っ!」

 

不意に右半身に衝撃を受けつつ踏ん張るが、

 

「す、すみません…!」

 

視界の端に捉えた途端……気をつけろと叱る気にもなれず、ぶっかったソイツはそそくさと走り去った。

 

信武「……興醒めだな…。帰るわ、俺」

恵輔「え? ちょ、まだ曲終わってねーだろ」

信武「お目にかかれただけでも腹いっぱいだよ。じゃあな」

恵輔「お、おい!」

 

居心地悪くなった俺は踵を返し、恵輔と目を合わせず、突き当たりにある階段を下った。

 

***

 

人工衛星の墜落を目論むも、あえなく失敗に終わった日の晩。俺は、知る限りの真実を聞かされた。

捜索を打ち切った翌日。深祐の研究室に訪れた水希は、存在がバレないよう口止めを要求したそうだが、そのとき深祐はえらく食い下がったようで反対を申し出たらしい…。

 

水希『……深祐さん。今回の件は、今まで通りに許して貰えると思ってない。明らかに度が過ぎてるんだよ。

それに、大抵の人間はみんな、こんな犯罪者モドキを擁護しようと考えないでしょ……』

深祐『それでも…!』

水希『――悪いけど、もう決めたことだから』

 

俺も含めて、何の脈絡なく縁を切られたら悲しむと悲痛に訴えかけていたが、それすら聞き入れる気はなかったそうだ。

断りもなく一方的に方針を固めるということは、俺達に向けて絶交を言い渡すようなもんだってのに……。

 

深祐『……最後に言わせてくれ。意固地になっても良いことなんて何もない。いつか必ず、君は間違った選択をしたと後悔する。

それでもし孤立してしまったら、誰も、君のことを……』

水希『……だからこうして伝えに来てんじゃん。信武が僕と同じ道を辿らないように……』

 

最後まで引き留めようとする深祐をも突っぱね、それ以降は互いに連絡を取り合うことはなかったらしい。

……だが、再会した時の反応を見て分かるように、水希はただ俺と距離を置いて気を紛らそうとしただけだった。

 

まったく、どいつもこいつも……テメェらのお為ごかしに振り回される身になれってんだ。

 

 

 

 

水希を誑かした、あの女だって……!

 

レティ『あれだけ容赦なく奮っておいて、実に無様ね。まだ日が浅いのもあるから仕方ないか』

 

屈辱的な敗北は、今でもハッキリと覚えている。

 

水希を相手にした時ですら、動揺していたアイツは解ってないだろうが、こちとら慣れない力を制御するにも一苦労だったのだ。

それに加え、俺の動きに合わせて対処する身の熟しは凄まじかったし、拘束された後に放たれたブレスも、盾を張るのが遅かったら間違いなく喰らっていた。

 

悔しいが、あの女も指摘したように、そんなギリギリの状態でまともに戦える筈がなかったのだ。

 

レティ『アンタに足りないものが何だか判る? ……どんな結末を迎えようと構わず茨の道を選び、進んで行く覚悟よ。水希だってね、自分の本心から目もくれずに私達の目的を優先したのよ。

それなのにアンタと来たら、正直呆れたわ。ズケズケと土俵に踏み入るわ、頭ごなしに貶してくるわ…不愉快極まりないっつーの』

 

不愉快極まりないのはこっちのセリフだバカ野郎。

俺だって、そう簡単に心の整理がつくわけ無いのに……気怠そうに腕を組んで勝手なことばかり抜かしやがって。

本当、殺してやりたいほどムカつく。

 

レティ『私がここに来る手前、殺す間際に水希の意志を継いでやるとか……よくもまぁ、大見得を切ったものね?

言わせて貰うけど、それは只の妄言よ。アンタ程度に代わりは務まらない。

たとえ強大な力を得ようとね、あの子の覚悟を踏み躙った時点で、戦いの場にお呼びじゃなかったんだから……』

信武『おまえ に……れの、なに が……っ!』

レティ『……これは命令。今抱えている問題を解決しきるまで、水希に近寄らないで頂戴ね。

それでも大人しくできないのなら……せめて、あの子の目が届かない場所で殺してあげる』

 

去り際、次は無いと告げられた直後に俺は意識を手放した。

 

***

 

『まさかお前、いじめられてるのか!』

『違う、いじめられてなんか無い!』

 

……信じられないし、信じたくなかった。

俺は日々がむしゃらに頑張って、水希は割と楽に過ごしていると思っていたのに。

 

『じゃあ何なんだよ? ここんところ変だぞ、お前…』

『それは……』

 

……言及し辛いと思う半ば、気づいてはいた。

歳を追うごとに表情が陰っていることを。

 

……けれど、知りたくもなかった。

目の入らない所で、俺以上に生き苦しんでいたことを…。

 

『昔から、偶にだけど…嫌な夢を見るようになったの。好きな人が突然消えて、最後に自分だけが取り残されて、目の前が真っ暗になるような夢……。

目が覚める度に安心してたけど、不安の方が大きく(まさ)ってたの』

 

……だから怖いんだ。

子供の頃より幾分と強くなった俺でも取り除けない闇を、水希はずっと抱え続けているんだと知るのが。

 

『……信武と、このまま友達で居続けられるのかなって…』

 

 

 

信武「……なぁ、ジジイ」

 

踊り場に差し掛かった途中、左から啜り泣く声が微かに聞こえたが、視線を階段へ向けたまま立ち止まり、トランサーに住み憑くジジイに今一度問う。

 

信武「キズナ号を襲撃したあとに、親父達を捕らえられなかったなら……水希が必死こいて探しても見つからないなら、今頃野垂れ死んでるかもしれないのに……。3年経った今でも、水希はまだ助かると信じ込んでる。

こういうの、度し難いって言うんだろうな…」

クラウン『……知らん。ワシに聞くな。あとジジイ言うな』

信武「あっそ」

クラウン『あっそ言うな!!』

 

再び階段を下るが、足取りがどうにも重く感じる。

 

クラウン『……信武。ワシとてお前の意思を汲み取ってやったんじゃ。協定を無下に出来ぬ今、勝手を抜かすようなら真っ先に主導権を握らせてもらうぞ』

信武「……わかってるよ……」

 

今の俺じゃ、アイツに何を言っても響かないだろう。本来ならそこで諦めがつく筈なのに、端から見てもどうかしていることは判りきっていた。クラウンのチカラを利用してFM星人諸共、住処をぶち壊てやろうと企てていたんだから。

当然コイツは許さないだろうし、俺とて討ち倒すべき相手を見誤るつもりも毛頭ない。

 

(水希。死ぬのが怖いなら俺が代わりを務めてやるよ。今更失うものなんて俺には残ってないからな)

 

 

未練を断ち切るべく、この町から去ろうと停留所へ向かった。

 

遠くから呼び止めるように「……のぶ」と聞こえようと。

 

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