流星のロックマン 水希リスタート   作:アリア・ナイトハルト

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29話 兄ちゃんを許すつもりは無い

場の雰囲気に流され、結局は戦うことになってしまった。

 

――【自分の得た力で、大切な人を守るために戦う】……それが今の僕にとっての生きる意味なんだ。

 

いつか話した通り、信武や深祐さん、お姉ちゃん達と同じくらいにスバルは僕にとって本来は守りたい人、守るべき人だと今でもそう認識している。

けれど…天地さんから指摘された通り、嫌でも戦わなきゃダメな時だって来るものだ。

 

水希「……来たか」

 

ただ、今回は殺し合う必要がない代わりに、一分と限られた時間で実力を測らなければならないことになる。

尤も、チカラを受け取るに相応しいかは三賢者達が直々に見極めてくれるだろうから、その辺は問題ないはずだ。

 

水希「覚悟はできた?」

スバル「……正直、気が乗らないけど、兄ちゃんのことだから本気は出さないんでしょ?」

水希「よく分かってんじゃん。もちろん攻撃はするけど武器はハイドロウィップとクリスタルバレットだけ。いつも愛用しているバトルカードは一切使わない」

 

右手に持った鞭と左手から生成された魔法陣と雹弾を、それぞれ見せつけるように胸元まで上げて一旦下ろす。

 

水希「ただし、スバルはどんな手を使ってでも攻撃してくれて構わない。まぁ、ハンデはこんくらいかな」

スバル「……分かった」

 

ルール説明を終えたところでようやく互いに構えを取るが……心なしか、ここ数日でスバルの顔つきが変わっているように感じた。

最初こそ、敵を前にしてたじろいでいたのが嘘みたく、今となっては果敢な眼差しを向けられている。

三年前の話をするって言ったことが思いのほか効いたのかもな。

 

スバル「行くよ! 兄ちゃん!!」

水希「来な。初手は譲ってあげる」

ウォーロック「舐めやがって…! スバル!」

スバル「わかってる!」

 

小手調べのつもりか、スバルはロックバスターで狙い打つが、前方に魔法陣を展開して一歩も動かずに対処。

 

ウォーロック「な、ズリィぞお前!」

水希「誰も防御しないとは言ってないけど?」

 

彼からは気に食わなさげに言われるが、意に介さぬままハイドロウィップを振るう。

スバルは一瞬目を見張りながら飛び退いて回避し、再び攻撃を仕掛けようとするも、追撃で放った雹弾に気づいてシールドを張ったが、しかし……

 

 

ピシッ……!

 

スバル「?! 当たっただけでヒビが…!?」

ウォーロック「……手加減されてるとはいえ、こりゃ予想以上だな」

スバル「マジか……」

 

雹弾を弾いた箇所に亀裂が入ってさぞ肝が冷えただろうが、ウォーロックの言う通り加減はしている。

射出速度を3分の1遅くしたことで威力をだいぶ抑えているのだ。

シールドの耐久性にもよるけど、仮に通常の速度で打つとしたら、障子に穴が開く感じに容易くぶち破ってたはずだからね。

 

水希「そらっ!」

 

勢いよくハイドロウィップを振るうと、シールドは呆気なく破れた。

 

スバル「ッ! バトルカード、プレデーション!」

 

さて、次は……左腕をソードに変形させたようだ。

 

(……来る)

 

接近戦に切り替えてくると予想した通り、突進してくる。

鞭の特性上、剣とは相性が悪いと見られがちだけど、そんなの僕からしたらどうってことない。

形状を垂直に保ったまま瞬時に硬質化させ、金属同士がぶつかり合うような音が甲高く響いた。

 

スバル「ッ! うっそ…?!」

水希「嘘じゃないんだなぁ、これが。水ってさ、やりようによっては変幻自在で、こうして受け止めることくらい訳ないのよ」

スバル「……もう何でもありじゃん……」

水希「そ、何でもありなの」

 

そう言った直後に突き飛ばし、魔法陣を四つ召喚する。

 

水希「上手く避けてみな。――〈クリスタルバレット〉!」

スバル「……くッ!」

 

速度は落としたまま、且つマシンガンの如く立て続けに放った。

 

初撃を躱した後もワープを駆使し、あらゆる方向にあるウェーブロードを転々と移って回避。

時折ソードではたき落とす動作も見られた。

 

スバル「バトルカード、プレデーション! 〈ジェットアタック〉!!」

 

そうして見事攻撃を潜り抜けたスバルは、反撃に出ようとバトルカードをウォーロックの口に入れる。

ソードの時と同様に、左腕に鳥型ウイルスの頭が取り付けられ、それを僕に向けた瞬間。助走もなしに急接近しにかかる。

 

水希「…………」

 

普通なら避けるという選択肢以外はないが、目前まで迫られるその時になって、理由もなく賭けに出ようという考えに至った。

片脚を後ろに伸ばして踏ん張れる体勢を取り、硬質化したままだった鞭の先端と柄を握りしめ、クチバシと噛み合わせるようにした結果、難なく受け止めることに成功した。

 

ウォーロック『うっそだろお前?!』

 

無茶極まりない行動に驚くウォーロックと同様、スバルも目を見開いて驚きつつ、拮抗する力に耐え忍ぼうとするけれど、そう長くは持たなかった。

 

水希「おおらああああ!!!」

スバル「……! っ……うぁ……!」

 

ジェットアタックの推進力が弱まったのを機に強く押し返し、硬質化を解いた鞭を横薙ぎに振るうと、スバルはシールドを張って防御できたが、着地が間に合わず尻もちをついてしまった。

 

スバル「ぅっ、痛ったぁ……」

 

……ここまで戦えれば、頃合いだろうか。

 

水希「……スバル、立てる?」

 

武器を仕舞い、地べたに座り込んだまま腰をさする弟のもとへ寄り、手を差し出して引っ張り上げた。

 

スバル「兄ちゃん、殺す気…? まるで容赦の欠片もなかったんだけど」

水希「この程度で音を上げられてちゃ困るよ。まだこっちは半分も力出してないんだからね」

スバル「それは分かってるけど……」

ペガサス「両者、そこまでだ」

 

僕らの間に割って入ってきた三賢者達に目を向ける。

 

水希「で、結局どうすんのさ?」

ペガサス「無論、答えは一つしかあるまい」

レオ「一分と短い中で、予想を上回る戦いぶりを見せただけで充分だ」

ドラゴン「元より望んで力を与えに来たに過ぎん。スバルに相応の素質が見られる以上、我らとて何も文句はない」

スバル「……僕も、できることなら、チカラは欲しいかも……」

 

彼らのお眼鏡にかなったとはいえ決断に迷うどころか自分の口から「欲しい」と言い出すとは思いもよらなかった。

 

水希「いいの? スバル。そんなに決断を急いじゃって」

スバル「兄ちゃんだって言えた義理じゃないじゃん。それに、ここまで来ておいて、後の事を全部任せきりになんてできるわけないでしょ」

水希「……フッ、生意気だっつうの」

ペガサス「では改めて……スバルよ、受け取るが良い、我らの力〈スターフォース〉を!」

 

三賢者の胸部からそれぞれ青、赤、緑に光る球体が現れ、スバルの体内に取り込まれたと同時に光の柱に包まれていく。

 

 

 

 

 

その夜、夕飯を済ませて30分経った頃。食器を洗う最中の姉に一声かける。

 

水希「お姉ちゃん」

あかね「何?」

水希「スバルと話がしたいから、二人で展望台に行ってくる」

 

外へ出る旨を言うと、蛇口の水を止めこちらに首を回した。

 

あかね「……今日はやけに外へ出たがりね、どういう風の吹き回しよ?」

水希「まぁその…自室より落ち着いた場所で話す方がやり易いかなって思っただけ」

あかね「はいはい、行ってらっしゃい」

水希「うん、行ってくる」

 

作業を続ける姉に挨拶を返して、家を後にした。

 

 

◆◆◆

 

水希「ここなら邪魔される心配もないでしょ」

スバル「確かにそうだけど、それよりもわざわざ変身する理由は何?」

 

展望台に訪れて早々、僕から電波変換するように促し、今現在ウェーブロードの上にスバルと向かい合うように座っている状態だった。

 

水希「これからスバルに、五年前から今に至るまでの記憶を見せながら事の経緯を話そうと思ったからだよ。けど、この技……手順を踏む前提として、変身した後じゃないと使えないの」

スバル「記憶を…見せる? ……出来るの、そんなこと」

水希「フィクションだから、出来たこと」

スバル「急なメタ発言やめてもらえます?」

水希「――時間がないからもう始めるよ。いいよって言うまで絶対に目を開けないで」

 

某デジタル教材のキャッチコピーっぽいメタはさておき、頭部を覆うヘルメットに手を当てた後、スバルは言われるがまま大人しく目を閉じた。

それに伴って、一度目を閉じ、呼吸を整えてから開けた。

 

水希「――〈透視(ビジブル)記憶の回帰(レミニセンス)〉――!」

 

詠唱した瞬間、額に当てた手が光を放つ。

 

今から五年前。キズナ号に搭乗する前の準備段階と、搭乗後のウイルス討伐を主とした活動の事。

その二年後に受けた惨劇と大吾さんと別れるまでの経緯。

それからの三年間。

 

キャパオーバーにならない程度に、要点を絞り込んだ記憶をスバルの脳に流し込んでいく。

 

スバル「――!? ―――――ッ!!!」

 

それでも、いきなりと言えるほど大量の情報を脳内に送りつけているのだ。

自分からやっておいてアレだが、時おり顔を歪ませては声にならなそうに呻く姿が、痛ましくて堪らなかった。

 

その苦しみも、数十分後にようやく解放される。

 

スバル「ふぅ…ふぅ……」

水希「――お疲れ、スバル」

 

汗を垂らし息を乱しているスバルの肩に触れ、そっと囁くように労う。

 

水希「これで分かった? 今まで隠してきたこと、全てを」

スバル「うん。……良い思い出があっても、ほとんど絶望に上塗りされてるようで、辛いってのが分かった。だけど……」

 

ほんの少しの間、沈黙するが、息が整ったところで口を開けた。

 

スバル「例え、それら全てが真実だとしても、決して悪意があってやったわけじゃないとしても、兄ちゃんを許すつもりは無い。置いて帰った事に変わりないんだから……」

 

怒りを滲ませた声色で許さないって言われたのに。……こう考えるのは不謹慎だってのに、

 

スバル「……だけど、チカラをもらって三賢者達から色々言われた後に、真っ先に思い浮かんだ守りたい人が……他でもない、兄ちゃんなんだ」

水希「……え?」

 

面と向かって言われ驚きを隠せなかったが、同時に心が軽くなった気がした。

こんな感情、本当は抱いちゃダメだってのに……。

 

スバル「父さんがいなくなって辛かったけど、仕事でバタバタしてた母さんの代わりに兄ちゃんがいてくれたから、少しだけ立ち直れた。

それに、家では何かと、兄ちゃんに頼ってばっかだったから、こんな僕にも恩返しってものができるのか、考えてたんだ」

水希「スバル……」

スバル「……ロックと出会って、戦えるようになれた今が、その時じゃないかって……!」

 

途端に見開いて驚かれるのも無理はない。だって……

 

水希「もっと……罵ってくれれば、嫌われる覚悟ができてた、のに……」

 

涙が止まらなくてどうしようもないのだ……。

 

水希「正直、嫌だった。……スバルには、普通の男の子として育って欲しかった。 友達連れて遊んだりだとか、争い事とは無縁の生活を送ってくれればそれでよかったの。……でも、自分が追い詰めた以上、許されなくて当然だってのに……なんで……」

 

なんで、嬉しいとか思えたんだろうか。

 

親の気持ちになれたわけでもないけど、普通の男の子として生きてくれる事を望んでたのに、優しい一面が消え去る事なく育ってくれたからかな?

 

スバル「大丈夫、この先何があっても、兄ちゃんに心配されないくらいに強くなってみせるから。それが、今僕にできるかもしれない恩返しだと思うから……」

 

ボロボロと涙溢して俯いている自分を抱きしめてくれる弟に言えるのは、

 

水希「……スバル、ありがとう……」

 

感謝の一言に尽きる。

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