流星のロックマン 水希リスタート   作:アリア・ナイトハルト

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30話 前進

ここ数日の殺伐とした出来事から一転、スバルに記憶を見せた後も仲違いする事なく、むしろ何気ない日常を今でも送れているのは本当に嬉しい事だと思う。

 

だって、今まで誰かに頼ること自体、罪悪感を持ってた僕がだよ?

頼ろうとしても別に悪い事じゃないかもって思うようになれたんだから。

 

そう意識したってだけで口下手なもんだから、まだ上手く口には出せなかったんだけどね……。

 

◆◆◆

 

4月下旬、例年より早く初夏を迎えた朝。

珍しく早起きしたスバルは朝食を食べ終えてすぐ、自室で身支度を整えていたところだ。

寄ったついでに、開いたままのドアを軽くノックする。

 

水希「忘れ物はない? スバル」

スバル「うん、昨日のうちに用意したから大丈夫…かな」

水希「ほんとに? ちょいと拝借」

スバル「ちょっと……いつの間にメモ書きを……?」

 

準備万端だから何も問題ないと言いのけるが、確認は怠るべからず。

スバルの近くまで寄って座り込み、メモに記した持参物のリストと照らし合わせながら一つずつ横線を入れていった。

 

水希「……うん、オッケー。全部揃ってるよ」

スバル「ほら〜、ちゃんとやったって言ったじゃん。もう、過保護すぎるんだよ」

水希「そうは言っても肝心な時になかったら困るでしょ」

スバル「その時は持ってきてもらうから平気です〜」

水希「はいはい。そん時はちゃんと連絡しなよ」

 

疑いをかけられ拗ねるだけでなく図々しさを仄めかしたりする年端の反応に笑って返した。

……が、のんびりお喋りしていても、今日に限ってはあまり悠長にしていられなかったのも事実。

 

あかね「スバルー、もう時間来ちゃってるわよー?」

スバル「え?……うわヤバッ!」

 

1階にいるお姉ちゃんに呼び出され、トランサーから時間を見ればなんと8時を過ぎており、より慌ただしそうにして荷物をまとめ、ついには「行ってきます」と玄関から活発な挨拶が耳に届いた。

 

***

 

あの夜のことを思い返しても、絶縁を覚悟した身としては信じられない。

 

スバルに泣かされてからはずっと、ウェーブロードの上に座り込み、暗がりのコダマタウンを二人で見下ろしていた。

 

スバル「……もう落ち着いた?」

水希「……うん。もう大丈夫…って言っても、らしくないよな。まさかアンタに泣かされる日が来ると思わなかったし」

スバル「僕も、兄ちゃんが泣く所を拝む日が来ると思わなかったよ」

水希「言ってくれるね。ほんと生意気なんだから」

 

互いを揶揄い合うなか、少しして落ち着いた頃。

 

水希「スバルはさ、みんなから結構言われ続けてるけど、結局のとこどうしたいと思ってるの?」

スバル「何が?」

水希「学校。まだ決心しきれてないって顔してる」

 

当時、昼間に学校へ訪問した後、アマケンに向かう最中も悩んでる様子が伺えたから、改めて聞き出したのだ。今後の身の振り方についてを。

図星をつかれたスバルは、不穏な顔つきのまま睨み返してきた。

 

スバル「逆に聞くけど、兄ちゃんは家に篭りがちだった僕を見て、どう思ってるの?」

 

弟へ向けていた視線を自宅の方へ移し変えて、口を開けた。

 

水希「……言わずもがな、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。大吾さんや皆を守るつもりだったのに……逆に守られてばかりで、そんな自分の不甲斐なさと無力さを悔いてた」

スバル「うん……」

水希「……でもね、ここへ帰ってきた時、身を案じてくれたアンタとお姉ちゃんのことを頼むって、大吾さんに頼まれたからね。面倒見る事になった理由があるとすれば、居候になる負い目から使命感に駆られてたってだけ。特別深い意味なんてなかったの」

スバル「……そうなんだ……」

 

勿論、過ごしてきた三年間は、決してネガティブなことばかりではなかった。

 

水希「だけどね、暇つぶしにゲームを二人で遊んだ時、鉄仮面が剥がれ落ちたように笑ってくれたスバルの顔を見てさ、本当に自分がしたいことを思い出したんだ。

誰かさんから託された願いでもある『あらゆる種との共存を望める世界を作る』ために『みんなの笑顔が絶えないよう強くなりたい』ってね」

リヴァイア『言ってたな、そんなこと』

水希「うん、言ってた。……今までの行いを省みりゃ矛盾してるし、ほとんど空振りしまくってるけど、今の今まで戦場に立ち続けられた理由はそこにあると思う」

スバル「……辛くはなかったの?」

水希「辛いよ。辛いに決まってる……。でもやるっきゃないって割り切るしかなかった。何にも出来ないまま後悔するのが一番嫌だったからさ……。

何しろ、被害者面していられる立場でもなかったから、どっちみち楽に生きられると思えなかったしね……」

スバル「そんな……」

水希「……でさ、話戻すけど、スバルはどうしたいの?」

 

問い質されたスバルはほんの数秒、考え込むように目を閉じて、再度真剣な眼差しを向けてきた。

 

スバル「兄ちゃんの意見を聞かせて。今なら、兄ちゃんの言葉に納得できる気がするの」

 

本当に自分でいいのかと聞くよりも先に言われて仕方なく、思うことを述べる。

 

水希 「そうだねぇ……率直に言うと、行きたきゃ行きゃいいし、嫌なら行かなくたっていいって思ってる」

スバル「まさかのどっちつかず…?」

水希「だってそれは、元はアンタが決めなきゃならないことでしょ。それで聞いてきたってことは、自分の考えに自信を持てないから。違う?」

スバル「違わないけど……」

 

怒りもせず、咎めもせずに指摘したら、語尾が小さくなるにつれて俯いてしまう。

そんなスバルの様子に、手を頭の後ろに組んで仰向けに寝転びながら続けた。

 

水希「……スバルの気持ちは共感できる。何せウチも中卒だからね。ただ、スバルと違った理由で学校に行く時間すら無駄だと感じてたけど、過ごしてきた時間を思い返せば、無駄じゃなかった。

部活に励んでた頃は同じ部の人達にも良くしてくれてたし、楽しかった。

心苦しいと感じる時も、リヴァイアの他に親身に寄り添ってくれる幼馴染がいたから、そんな寂しくもなかった。

案外悪いことばっかじゃないんだよね、学校に行くことって」

 

スバル自身の行く先を、僕如きが決めきれることじゃないことは分かっている。

唯一できることは、似通った境遇にあった者として、同じ戦士としての資格を持つ者として、何より…叔父として、アドバイスするくらいが丁度いいと思ったから。

 

水希「だからさ、いっそのこと、流れに身を任せてみたら?」

スバル「とうとう発言がアバウトになってきたね」

 

半目開きになって呆れ全開に言われたが、特に気にすることでもなかった。

 

水希「いいの。どう転ぶかなんてわからないもん。それに、何事も立ち止まってちゃ始まりやしないんだから。

……ただ言えるのは、ウチはアンタの思いを否定しない。それだけだよ」

スバル「……。……ふ、ふふふ……やっぱり、兄ちゃんのそういう所は相変わらずだね」

 

しばらくポカンとしていたが、途端に吹き出しては一人だけわかるような物言いをするスバル。

 

スバル「なんかもう、変に考えるのもバカらしくなっちゃった。ありがとう兄ちゃん。決めた、そこまで言うなら行ってみるよ。学校に!」

 

***

 

水希「ねぇ、リヴァイア」

リヴァイア『ん?』

水希「少しでも、スバルの力になれたかな」

リヴァイア『なれたんじゃねぇの。未だに弟離れできてない過保護なお前を反面教師として見て育ったんならな』

水希「ちょっとぉ、それ聞き捨てならないんですけど?」

リヴァイア『それでも事実だろ?』

水希「否めないけども……」

 

誰かに頼ることが悪い事じゃないと思えても、根幹は頼られたいって思う辺り、スバルやリヴァイアの言うように過保護だから、弟離れする日が来るのはまだ先かもしれない。

ほんの僅かでも成長したその背中を見届けられるのは喜ばしいことだけど、同時に昔の自分と重ね合わせてしまうせいで不安がチラつくから、尚の離れ難い。

 

何より、大吾さんが父として一番に見たかったであろう景色を独占しているから、妬いた視線を向けられる気がしなくもなかったが。

 

リヴァイア『水希。こんなこと聞くべきじゃないとは思ってるけどさ、スバルにまで見放されてたらどうするつもりだったんだ?』

水希「相変わらずいきなりだね」

 

突拍子もないことを聞かれるが、考えるまでもなく結論は出た。

 

水希「どうするも何も、自ら敵地に赴いて憂さ晴らしに奴等を根絶やしにしようと思ったよ。リンドヴルムをフルパワーで使ってでもね。

……ま、どうせ実現しないと思うよ? レティがそれを許さないからまず間違いなくブチギレるかもね。なんせ今の体じゃ制限かけられてるし、それに顔がお姉ちゃんそっくりだから怒ると怖いし……」

リヴァイア『できない理由は明らかに後者だろ……』

水希「当たり」

 

理由のほとんどが私情でしかないのは否定するつもりはない。

だって……あれはもう何年経っても身が縮こまりそうなんだもん。

お姉ちゃんに楯突くなんて無理ゲー過ぎるよ。

 

水希「でも本当、スバルに嫌われなくて良かったよ。まだ全て話せてなくても今までと関係が変わらなかったからね」

リヴァイア『……それ程、お前にとって大きな存在になったんだな』

水希「だって、スバルにとってペンダントがそうであるように、お姉ちゃんと僕にとっては大吾さんの忘れ形見だもん。底抜けに優しい一面がそっくりそのままだったしね。悪い虫が付かなきゃいいけど」

リヴァイア『今しばらくは見守ってやれよ。アイツにはウォーロックがついてるんだしさ』

水希「だね」

 

言い分に納得はいく。いざという時に心強い味方がスバルにもできたから。

尤もスバルは、僕よりもしっかりしている方だからこそ、優しさにつけ上がる人間が周りにいたとしても根負けして欲しくない。

僕にとっての心強い味方がリヴァイアとかつての信武だったように。お姉ちゃんやウォーロック、ミソラちゃんの他にも、学校内で支えとなる人が居てくれたら安心だ。

 

(そしていつか胸張って生きられる日が来るまでは、過保護な兄貴でいさせてね。スバル)

 

しばらくの間、気を落ち着かせてから1階へ降りた。

 

 

 

 

 

 

時計の針が15時を過ぎた頃。

頬杖つきながらテレビを見て時間を費やしていたけど、時たま窓の外に視線を移しがちだった。

 

あかね「まだ気にしてんの? 学校で上手くやってるかって」

水希「……お姉ちゃんこそ、ずーっと心配してたじゃん」

あかね「ありゃ、バレちゃったか」

水希「バレバレ」

リヴァイア『なんだかんだ言って、お互い気にしてるよな』

あかね「何よ。リヴァイア君はそうでもないの?」

リヴァイア『別にそうとは言ってないですよ。あかねさん』

 

相棒からも指摘されるほどウチら姉弟は顔に出てたとさ。

そりゃ当然だもん。あり得ない話、復学して早々イジメに遭うってなったら黙ってられないでしょ。

……尤も、ものすんごい偏見だけれど、お姉ちゃんなら主犯を半殺しにしかねないんだよね。経験上「赤信号(レッドゾーン)」にでもなれば妥協も容赦もしない人だからさ……。

 

あかね「……ねぇ、ひょっとしなくてもだけど、アンタ今私のことディスった?」

水希「とんでもございませんわ、お姉様。貴女様を貶すなど、わたくし命知らずではありませんもの」

あかね「嘘おっしゃい。そうやって無駄にお上品な口調で誤魔化して、ご機嫌を取ろうとしてんの知ってんだからね?」

水希「だ、だから言ったじゃん! 別にお姉ちゃんならイジメの主犯を半殺しにしかねないって、そんな物騒なこと考えてないよ。ほんとだよ?!」

あかね「よぉし決めた。夕飯前の運動に組手してあげるから覚悟しな!」

 

余計な口滑らせたせいで指鳴らしはじめたんですけど。

 

水希「いやあああああああ!! リヴァイアお願い助けてぇぇぇ!!!」

リヴァイア『お、おう任せろ!』

 

半べそかいてる僕に助太刀すべく姿を現したが、姉の目の前でゴマをするようにヒレをこすり合わせながら立ちはだかったという……。

心なしか、絵面がちょっと情けなく見えた。

 

リヴァイア「あ、あのぉ…あかねさん? そ、そのですね……このバカも故意に貴女を貶したわけではありませんので、ここはどうか気を鎮めて頂けたらと思うのですが……」

水希「さりげなく人のことバカって言いやがったよコイツ……!」

あかね「冗談よ。ていうか何で【スバルを傷つける奴絶対殺すマン】が私のこと暴君呼ばわりしてんだか」

水希「……言っちゃ悪いけどブーメラン刺さってない?」

あかね「前言撤回。面貸せコラ」

水希「いやあああぁぁぁ謝るから許してぇぇ……!」

あかね「断じて許さん」

水希「そんなぁぁ……」

 

せっかくのリヴァイアのフォローを無下にしてしまい、最終的には首根っこを引っ掴まれ、密かに(地獄の)訓練場として利用している展望台へと引きずられていくのだった。

 

あかね「それにしても、今頃どうしてるのかしらね、スバル」

水希「さぁ、何事も無く帰ってきて欲しいけど。遅くない?」

リヴァイア『確か今度、学校で劇をやるって言ったような』

水希「それだ!」

 

 

 

後に水希が、己の身に起こる災難を受け入れようとしていた、その頃……。

 

◆◆◆

 

僕、星河スバル。

ただいま学校にいますが復学初日から心がボッキリと折れそうになっておりました。

日中、授業に関してはついて行けてるから大丈夫だけど、問題は放課後。体育館にて劇の練習に付き合わされた次第であります……。

 

 

ルナ「さぁ、次のテイクに行くわよ。ロックマン様と水神様の登場シーン、スタート!

……キャー! 誰かー!!」

 

総監督兼ヒロイン役の委員長が合図した瞬間から、スイッチが入れ替わるようにセリフを言い放つ。

そして、

 

??「そこまでだ!」

ゴン太「ッ、誰だ、お前ら!?」

 

牛男役を演じるゴン太が見た先にある舞台袖から颯爽と現れ立ちはだかったのは、まさかの水神様を任された僕と、ロックマンらしいお面を被ったクラスメイトなのでした。

 

??「誰だお前らと聞かれたら」

スバル「な、名乗り上げて進ぜよう」

??「平和を乱す者、裁くため!」

スバル「人類の安寧を絶やさぬため……」

??「悪事働く所現れる!」

スバル「ゆ、勇猛果敢な味方役!」

??「ロックマン!」

スバル「水神……です……」

 

ルナ「カッットォォ!!」

 

程なくして芝居モードは終わり、委員長が苛立ちMAXの顔になって詰め寄ってきた。

 

ルナ「ちょっと星河くん、なんで急にぎこちなくなってるのよ! 本番でも堂々としなきゃならないんだからアナタもっとハキハキ喋りなさいよね? 前にも言ったけどロックマン様と同じように一番大事な役を任せてるんだから!」

スバル「うん、それは分かってる。けどこれ、ほとんど(カタキ)役の人達が言いそうなセリフじゃない?」

ルナ「何よ、私の脚本にケチつける気?」

スバル「そうじゃないってば……」

ルナ「なら何だって言うのよ?」

スバル「それは……その……」

 

いや、ツッコミたい所ではあるよ?

なんで僕が一番大事なポジションとなる水神様(兄ちゃん)の役になる必要があったのか。

腰に付けたスリットスカートも含め、再現度高過ぎじゃないかとか。

セリフをもっとシンプルにして登場するだけで良くないかとか、ありまくりだよ?

 

確かに兄ちゃんはたまに先輩風吹かしてくるから、キザっぽいイメージはなくも無いけど、ここまで重症だとは思えないんだけどな……。

 

と、各々の目に映る印象の食い違いに頭を抱えていたのだった。

 

ルナ「いい? 本番まで迫ってるんだから、帰った後もちゃんと練習しなさい! いいわね?」

スバル「わ、分かったよ……」

ルナ「みんなも! 大丈夫とは思うけど、セリフと役回りはきちんと予習しておいて頂戴ね? それじゃあ解散!」

 

本番に向けての練習は、今日のところはお開きとなった。

 

 

スバル (はぁ、疲れた……。早く帰ろ……)

 

続々とランドセルを背負って帰る子達に続いて靴に履き替え、帰宅しようとする途中、

 

??「ちょっと待ってくれるかい?」

 

その一歩を踏み留まらせた声の主、同じクラスメイトの双葉ツカサ君と顔を合わせる。

彼は今回、主役であるロックマン役を務め、僕と同じように劇での重要なポジションにいるということになる。

 

スバル「どうしたの、双葉くん?」

ツカサ「いや…スバルくんでさえ良ければ一緒に帰ろうかと思ったんだけど、大丈夫かい?」

スバル「うん、大丈夫だけど」

ルナ「珍しいわね? ツカサくんから誰かを誘おうとするだなんて」

 

偶然通りかかったのか。鍵を返しに職員室へ向かっていたはずの委員長が、僕らのやりとりを不思議そうに見ながら双葉くんに問いかけてきた。

 

ツカサ「確かにそうだけど、スバルくんとは仲良くなれそうな気がしたんだ」

キザマロ「それって、ダブル主人公の(よし)みだからですか?」

ゴン太「結構目立つもんな。二人が登場する時のセリフとかよ」

 

双葉くんの意味深な発言にキザマロは興味深そうに問い、ゴン太は腕を組みながら劇のことを話題に上げてきた。

 

スバル「言わないでよ。あれ言うの結構恥ずかしいんだから……」

ルナ「ほらやっぱりケチつけてるじゃない」

スバル「だって……」

 

あんなカッコつけ全開のセリフ……思い出すだけでも顔が火照ってしまう。

 

ルナ「まぁ、早いことクラスに馴染んでもらうことに変わり無いわね。それじゃ二人とも、また明日」

キザマロ「明日もお迎えに行きますからね」

ゴン太「寝坊すんなよ〜?」

ルナ「アンタも寝坊するんじゃないわよ?」

ゴン太「は、はい。気をつけます……」

 

帰宅する委員長達を見送った後、双葉くんと一緒に帰る事となった。

 

スバル「そう言えばさ、双葉くんも帰り道は同じなの?」

ツカサ「ツカサでいいよ。……帰り道は別だけど、一度話してみたいなって思ったから」

スバル「そっか。じゃあちょっと寄り道してもいい?」

 

僕の提案にツカサくんは快く頷いてくれ、早速、僕にとっての憩いの場である展望台へ向かったが……。

 

「ぎゃああああァァアアア!!!!」

 

階段を登りきる最中、聞き覚えのある人からの断末魔に『今すぐ引き返せ……!!』と念を送られた気がしてならなかったので、

 

スバル「……場所移そっか?」

ツカサ「う、うん……」

 

素直に従って近くの公園へと向かい、二人してベンチに座った。

 

スバル「なんかごめんね。ここまで付き合わせちゃって」

ツカサ「平気だよ、元は僕から誘ったんだし」

 

先のことを水に流してくれて良かったけど、逆に気まずく思った。

 

ツカサ「それはそうと、久しぶりの学校はどうだった?」

スバル「うーん、教室に入った時から賑やかだなって思ったし、いつの間にか緊張が和らいだんだけど変かな?」

ツカサ「そんな事ないよ。なんとなくだけど君が教室に入ってしばらくしたら、安心して通えるってことを実感したように感じ取れたんだ」

スバル「そうなの?」

 

いまいち実感が湧かない僕を見て、ツカサくんは微笑んで頷いた。

こう言っちゃ悪いとは思うが、ツカサくんは意外と人のことをよく観察していてて、どのように感じたか言葉で明確に表せる。

一見のんびりとした雰囲気も、どことなく兄ちゃんと似ていると、そう感じ取れた。

 

スバル「言われてみたら、そうかもね。でも、それだけじゃないの」

ツカサ「……と言うと?」

スバル「ついこの間まで悩んでてさ。母さんだけじゃなくて、委員長からも学校に来ないかって迫られてもその時は全然決心がつかなかったの」

 

ツカサくんは相槌もせず、ただ静かに聞いてくれた。

 

スバル「だけど、兄ちゃんから「流れに身を任せてみたら?」って言われて、その時になって行こうって思えたの」

ツカサ「……流れに身を任せる、か。なかなか出ないよね? その言葉」

スバル「うん。でも、とても兄ちゃんらしいなって思う」

ツカサ「僕兄弟がいないから、スバルくんの意見と向き合ってくれるお兄さんがいて羨ましいよ」

スバル「確かに兄ちゃんって呼んでるけど、実は僕の叔父なんだ」

ツカサ「へぇ? 意外だな」

スバル「訳あって居候してるの。その人から諭されるとは思わなかったでしょ?」

ツカサ「うん。とっても」

 

気がつけばツカサくんと打ち解けて、和気藹々(あいあい)と話に花を咲かせるとは思わなかった。

久々の学校で気を張っていたのが嘘みたいに。

 

それだけに吐き出したい気持ちがあったから、スッキリした。

 

まだ日は浅いけど、ツカサくんの他にもクラスメイトと仲良くできるかもしれない。そう考えると本当に、

 

スバル「兄ちゃんの言った通り、悪いことじゃないのかもね、学校へ行くことって」

ツカサ「その言葉、委員長が聞いたらきっと喜ぶよ」

 

思ったことを口にしたら、ツカサくんは一層微笑んで言い、トランサーから時刻を確認したらマズそうな表情をチラつかせた。

 

ツカサ「ごめん! うち門限厳しいんだ!」

スバル「そうなんだ? じゃあ、また明日学校で!」

ツカサ「うん。また明日!」

 

ツカサくんはいそいそと、来た道と反対方向へ走っていった。

やっぱり気を遣ってくれてたんだな。

 

 

◆◆◆

 

その後……。

 

スバル「ただいま」

水希「スバルぅおかえり……」

スバル「なんで疲れた顔してるの…?」

水希「組手でお姉ちゃんにボコされた」

スバル「……まぁ、ドンマイ?」

 

帰宅して早々、やつれた顔して伸びてる水希を見て、スバルは憐れむ以外に言葉が見つからなかったとさ。

 




やっとこさツカサくんが出てきましたね。
スバルが言うように水希とは似て非なる雰囲気を醸し出してますからね、彼は。
学校での出会いからその後の動向について、これからも見守って頂けたらと思ってます。


話を変えますが、二年前に描いた電波変換した信武君のリメイク絵が完成したのでアップしました。(ツイッターにも載せてます)
一部が○滅感が拭えないですが(笑)、手書きで描くとより出来映えがよくなった気がしますね。


【挿絵表示】


投稿して早3年、ようやくUA数(閲覧数)も7000を越えて感無量です。
たまに感想を書いてくれる人がいたり、中にはお気に入り登録してくれる人もいて励みになっているので、また少しでも増えてくれたら頑張れる気がします。

それでは、次回をお楽しみに
ここから更に核心へと向けたストーリーを展開していく予定です!

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