流星のロックマン 水希リスタート   作:アリア・ナイトハルト

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前回の猛省点は先生の話を掘り下げられなかったこと。
書くと全体的に長くなるから早いこと展開を進めたい、という衝動に駆られたこと。
推しのアイドルで言う「穏やかじゃない」くらいの投稿ペースだから尚更よ……。


注意、骨折及びグロ描写あり。


33話 海原の悪魔たる所以

今から語られるのは水希の意識が精神世界(うらがわ)にいる間、身に覚えのない事実。

 

リンドヴルムを開放する余波で生まれた冷気は渦巻いて、水希の身体を覆い尽くす。

苛烈に、何者をも拒む殻のように。

 

「いったい何がどうなってやがる…?」

「考えるな。奴は今動けねぇ筈だ、撃て!」

「つってもこの腕じゃ……」

 

目の前の光景を見て、ジャミンガー達は半ば取り乱しながらも銃口を構えるが、未だに腕が凍りついた状態では応戦すら厳しいところ。

 

《邪魔立てするな、外郎》

「ぐぁ――?!」

 

その挙げ句、数十もの魔法陣に囲われた直後に迎撃を受けてしまう。

弾速を遅くした事で致命傷にならずとも、もろに食らえば鈍器で殴られたような威力だ。最悪、当たりどころ次第では脳震盪で倒れてもおかしくない。

 

「……!? 見ろ、あれ…!」

 

弾幕が止み、ようやく冷気が晴れて露わになる瞬間を、体を強張らせつつも皆揃って見入る。

 

踊り子らしき衣装はボンテージ風に様変わり。付け襟に銀のブローチがあしらわれ、水瓶座の記号が刻まれている。

鮮やかな緑色をした両目も、今や左目はくすんだ暗緑色に。対する右目の角膜は赤黒く、黒く変色した結膜には充血したような紋様が光っていた。

後ろに流された水色の髪も下ろされ艶めきを増し、両側頭部に一対そびえる紫黒の角と背中から生えた翼が、怪物(それ)らしさを際立たせている。

 

しかしこうも容姿が変わるだけで、平伏してしまうほどのプレッシャーを感じさせるか。

もしや、人の身に余るくらいの“何か”が、水希()の身体に棲みついているのではないか?

 

その疑問は正しい。

 

リヴァイアもかつて語ったように、リンドヴルムの力は想像の範疇を超えて強大だということ。

何しろ同郷の者からも畏れられ、怪物として忌避され続け、自身も疎ましく思うくらいの醜悪さを体現しているようなものだから。

 

(まこと)の姿こそ、まさしく海原の悪魔たる所以だろう。

 

 

水希「――捕縛せよ」

 

5体のジャミンガーの足元に展開する魔法陣から水の縄が何本も射出され、絡みつくように手足が拘束されていく。

 

水希「ねぇ、聞きたいことあるんだけどいいかな〜?」

 

ろくに身動き取れずにいる彼らの中から一人選んで近寄り、不敵な笑みを浮かべて問いかけた。

 

「くっそ、解きやがれ!!」

水希「ユリウスっていう名前の、黒人男性で、アンタらと同じ体格で、眼鏡かけてた友達を探してたんだけど……どこかで見かけなかった?」

「知らねぇよ! それより拘束を解きや――がァァ!?!?」

 

質問に答えないどころか、命令口調で訴えられて黙っていられなかったか。

手始めに右腕をあらぬ方向へ曲げ折り、発狂じみた悲鳴をあげながら睨まれようと、意に介すことなく問い続けた。

 

水希「もう一度聞くよ。ユリウスが何処にいるか知らない?」

「だから…そんなの、知るわけ――ぎゃぁぁああ!!!」

 

膝から下を()がれて倒れようと、脂汗をかかれても、納得いく答えが出るまで終わらない。

 

水希「嘘つかないの。判ってるんだから。アイツらみたいにどこかへ隠してるんでしょ?」

「お、おれ本当に知らない! 知らない――でぇぇ!!?」

水希「……ホントに? しらばっくれてんじゃないの?」

「ほんどだっでばぁッ!!」

 

頭を引っ掴まれたジャミンガーからすれば意味不明な質問に対して、泣きじゃくりながらも正直に知らないと答えていたが、

 

水希「ふぅん。あっそ、じゃあいいわ」

「―――ガ、ハ……ッ!? ………」

 

白を切っていると思い込む水希は、本当に役立たずだなと見下げて、終いにはジャミンガーの土手っ腹を突き破り、まるで興味を失せたように放り捨てた。

 

水希「しらみつぶしに聞いてもやっぱ無駄か。じゃあもう用済みだね、アンタら」

 

残党達に向けて、頬を歪ませて言い放った。

 

彼らはもうとっくに抵抗心を失せ、早いこと逃げ出したいとすら思っていたけれど、縛りつけている縄が全く解けず、焦りまくる。

 

水希「逃さないよ? 人が大事にしてるものをブチ壊そうとする奴はさ、誰だろうと、どこへ逃げようたって関係なく殺すんだからさぁ!!」

 

もはや慈悲を与えることは許されない。自業自得だろう。結果的に手を出したのは彼らなのだから。

ここまでコケにされれば怒り狂って当然だ。

 

亡骸となった男のようにじわじわと追い詰め、執拗に(なぶ)り、一人…また一人と倒れ伏す。

 

水希「――いよいよアンタで最後だね」

 

立場を分からせるべくしてわざと残そうと、例外なく狩り尽くすつもりらしい。

「そんじゃバイバーイ」とさぞかし愉快に嗤いながら詰め寄って―――

 

「や、やめろっ! 来るな、来るなァァ!! ……やめ」

 

 

一人も残さず、心ゆくまで嬲り尽くし、殺し尽くした。

 

 

 

 

 

 

水希「……なぁんだ、さっきまで威勢良かったのに、結局のところ大したことないんだね」

 

ジャミンガー達の最期は呆気ないものであった。

 

過去何度も電波ウイルスの討伐に赴き、何百と超える程見てきた光景だが、今回は極めて凄惨。

 

部位欠損が著しく、中には原型を留めないものまで転がっており、いくら彼らが死なないとはいえ今の状況では説得力に欠けるものだ。

 

水希「フ……フフフ……、アハハハハハッハハハハハハハハハ―――――!!!!!」

 

その惨たらしい空間のど真ん中にいながら笑っていた。

 

長年の苦悩が報われたような錯覚に喜びを見せ、声高らかに笑っていた。

 

水希「ねぇ、見てる? ユリウスぅ……。やっとだよ、強くなったんだよ……!

これさえあればもう誰が相手でも負けることは無い! これ以上ユリウスを失望させることはないんだよ!

……だからさぁ、早く、帰ってきてよ……。もう何年経ってると思ってんの……?」

 

必ず帰ってきてくれると信じて、待ち焦がれていた。

生き別れた日からずっと。

 

自分を高めるべく鍛え続けた。

ユリウスに心配かけられないよう強くなると誓い、いつかの約束を果たすその時まで。

 

だというのに、彼はまだ帰ってこない……。

 

いつしか期待することを諦めかけた。それでもただ待ち続けるより何かできないかと考えた。

 

ほとんど電波ウイルス相手に戦うことでしか己の価値を見出せなかったけれど、構わなかった。

相棒と一緒に大好きな人達を守れたらいいなと、その一心で戦い続けてきたのだから。

 

だから今は、守らなきゃ……

 

弟を―――スバルを、守らなきゃ……

 

水希「……行かないと」

 

既のところで本来の目的を思い出し、安否を確認すべく早急に最奥部へと目指す。

 

 

 

 

その頃……。

 

コントロールパネルの前に立ちはだかっていた育田だが、ジェミニが落とした雷を受けて姿形を無くし、立っていたところが今は黒焦げになっている。

 

呆気なくも無惨な散り様に、スバルとしては怒り半分怯え半分といったところか。

逆にウォーロックは、未だ姿を見せず高みの見物をしていたジェミニの行動に不可解だと言い放つ。

 

ウォーロック「分からねぇな。仲間討ちまでして手柄が欲しいのかよ、テメェ?」

ジェミニ『否定はしないさ。こちらとしても予定が変わったもんだからな』

ウォーロック「何だと……?」

ジェミニ『()()がいない今、我が王は近々地球に攻め込む気だぜ。()()()()()を引き連れてでもなぁ!」

ウォーロック「……!?」

 

ジェミニの発言はさすがに聞き捨てならない様子。

ウォーロックとて元は敵側で、捕虜として投獄する話は認知していたが、いないとなれば安否確認は絶望的。

そもそも生きているかも怪しい時点でどうにもならないが、この際置いておく。

 

問題は、襲撃を仕掛ける目的の根幹は今まで対峙してきた同胞と変わらないことだ。

 

ウォーロック「そりゃ残念だな。引き連れるにしても鍵がなきゃ、うんともすんとも言わないだろ?」

ジェミニ『だからこそだよ、ウォーロック』

 

殺気が膨れ上がるのをいち早く察知するが、攻撃を繰り出される方が僅かに早かった。

 

「『―――ジェミニ・サンダーーー!!!!』」

 

育田にも放たれた一撃が、頭上に迫りくる。

 

……対処法などあるか?

 

無理を承知で避けるか? ――正直なところ厳しい。スバルの反射神経をもってしても、思考が追いつかなければ回避不可だ。

シールドはどうだ? ――前に水希と戦った際、FM星にいた頃よりシールドの効力が衰えていると判り、恐らくだが攻撃が止むまで凌ぎきれない。

 

ウォーロック「――――ッ?!」

 

気がつけば目前まで迫っていた。

死を直感した際に起こりうる、目にした景色が遅くなるといった現象。

まさに今、体感している。殺られると。

 

打つてなし、と思考を放棄した。

 

 

……が、しかし

 

「遮蔽せよ」

 

直撃間近で魔法陣が展開され、雷を阻んだ。

鼓膜が破れそうな炸裂音に怯みそうになりながら、雷撃が徐々に打ち消されていく様を見逃せず、ただただ呆然としてしまう。

 

「……誰の許可なく弟を痛めつけてんの?」

 

背後から感じる殺気。ジャミンガーに通せんぼされた時より強く、スバルもたまらず硬直してしまい。

ジェミニも訝しんで尋ねる。

 

ジェミニ『誰だ、お前?』

水希「……海原の悪魔、とだけ言っておく」

 

水希の返答に『……そうか。お前が』と間をおいて、一人納得したように言う。

 

ジェミニ『今回は退く。だがロックマン、次会った時がお前の最期だ』

 

気配が無くなってから、恐る恐る振り向く。

 

スバル「兄…ちゃん……?」

水希「ん〜?どしたの、スバル?」

スバル「どうしたのって……、兄ちゃんこそ、今まで何してたの……?」

水希「決まってるでしょ、目の前の敵をやっつけたの。正直手こずったけど、チカラを解放したらみんな逃げてったから万々歳よ!」

 

調子づいたように返答する水希だが、殺気とはまた違った雰囲気が漂い、スバルはおろかウォーロックですら警戒心は増していった。

 

スバル「……じゃあ……その手に持ってる物は、何なの?」

水希「何って、そりゃあ…………あれ?」

 

スバルが指差すブツを見て呆けたかと思えば、途端に顔を青ざめさせる。

 

水希「……これでもまだ…ダメだっていうの?」

 

完璧にコントロールした気でいた。

今度こそ正気を保てると思ったのに、()()()()()()()()()()()()のか。

 

水希「大丈夫だと思ってたのに――何なんだよッ!!」

 

何をしても無駄、努力は水の泡、全てが無意味で終わったのか……。

 

水希「まだ目的は果たせてないのに! まだ死ねないのに! どれだけやってもダメって言いたいの? ざっけんな!!

―――ああぁ、ああああァァああ!!!!」

 

ついには癇癪(かんしゃく)を起こし、怒り任せに手にしたものを投げ棄てた。

 

スバル「……何が、どうなってるの…?!」

ウォーロック「わからねぇ……ただ、水希は今、力に飲まれそうになってるかもしれねぇ…!」

スバル「そんな……」

 

水希「……は、ははは……あ〜ぁもういいや。どうせ皆からバケモン扱いされてるし、そのうち処分されるんだからいっかぁ。

……でも、安心して? スバルを傷つける奴はね、兄ちゃんがみぃんなまとめて消してあげる。もう戦わなくたっていいよ。その分頑張るからさ……()()()()()()()()()()()?」

 

……先程から震えが止まらない。

あんなに怒ってる兄を止めようにも、どうにもならない。

怖くて足が竦む。一体どうしたら……。

 

水希「ねぇ、なんとか言ってよスバル? こっちも辛いの。お姉ちゃんにアンタの面倒見るって約束したけどさ、勝手だって分かってても戦場に立ってほしくないの。ねぇ答えて? 『後は兄ちゃんに任せる』って」

 

笑みを浮かべて言いのけるが、その実、脅迫されてると本能で悟って、空いた右手でウォーロックを覆い隠した。

意地でも渡さないとばかりに。

 

水希「答える気がないなら、もう力ずくでやる気削ぐからね?」

スバル「―――――?!」

 

表情が消え失せる。

最後通告を言い渡されたと取るスバルだったが、恐怖のあまり腰を抜かして尻もちをつき、後退りをしてしまう。

 

水希「怖がらなくても大丈夫。相手がスバルだから加減できる」

 

いつの間に水鞭を携え、振り上げようとする。

 

スバル「だれか…誰か助けて!」

 

そんな時だった。

 

??「させない!!」

水希「がぁッ!? ――――バ、ル……」

 

一瞬のことだった。

女性の声がした途端、水希の体から電流が迸り力無く倒れてしまったのは。

 

スバル「ッ、兄ちゃん!! ねぇ起きてよ兄ちゃん! ねぇってば!!」

 

慌てて駆けつけ、気絶する水希を揺すって起こそうとするが、苦しげに呻くだけで全く起きる気配はない。

 

??「……ったく、世話焼かせんじゃないわよバカ……」

 

呆れ果てたように言う女性と顔を合わす。

肩までの長さの白髪、燃えたぎるような紅い瞳、容姿は外国人を思わせるが、どこか母と似た雰囲気を感じさせるようだ。

 

??「ところで君、大丈夫? 見た感じケガはなさそうだけど」

スバル「ぼ、僕のことは良いですから、兄ちゃんが……」

??「……そう。君が水希の、弟くんなのね……」

 

水希の身内と知って目を見開くが、神妙な面持ちをしながら納得したようだ。

 

??「私の名前はレティ。立場上は水希の味方…なんだけど、強引に眠らせたのはこの際目を瞑っててほしい。私にできる精一杯だったから……」

スバル「は、はぁ……」

ウォーロック「ところでよ」

 

レティと名乗る女性からの申し開きに狼狽えるスバルだが、ウォーロックが割って入る形でレティに話しかけた。

 

ウォーロック「間違ってなきゃ、お前のことをストッパー扱いしてたそうだぜ……力が暴走しかけた際の保険としてな」

レティ「はぁ何よそれ? ほんっと人使い荒いわね、コイツ……」

ウォーロック「だろうな…」

 

両者とも水希に協力する姿勢は見せど、変に振り回されるのは不本意らしい。

 

レティ「悪いけど退いて頂戴。水希は私が預かる」

スバル「待って……兄ちゃんを、どうする気?」

レティ「封印を施す。終わったら家に送り返すだけよ」

 

簡潔に対処法を伝え、水希を横抱きに抱えて立ち上がったが、ふと留まり、へたり込むスバルに事の次第を述べようとした。

 

レティ「君にも知ってもらうべきと判断した上で言うわ。力の開放は段階的に早すぎたのよ。早くても2、3ヶ月後に執り行う予定だった。

……でもこうなった以上、是が非でもコントロール出来てもらわなきゃ、この先の戦いはもっと不利になるでしょうね……」

スバル「――――」

レティ「それよりいいの? 学習電波ってやつは止めなくて」

 

ハッと我に返って、すぐさまシステムを停止したから、もう下手に暴走はしないだろう。

それはそれとして、育田の安否について気がかりだったが、

 

レティ「先生なら無事よ。今教室で生徒達に囲われてるわ」

スバル「よかった……ってどうしてそれを?!」

レティ「この目で見通せるから♪……って、そんな顔しなくていいじゃない」

 

なんだそれ、と呆れ全開に見つめられ、得意げな笑みは苦笑へと早変わり。

 

レティ「とにかく、封印でき次第家に返すから安心して」

スバル「……よろしくお願いします」

 

各々退却し、学校の一件はひとまずのところ解決した。

 




水希の体に電流が走った理由、以前に人形(にせもの)呼ばわりしたのと大きく関わってます。
暴走は抑えられたとはいえまだ根本的解決には至っていない。
どうなるかは水希次第といった感じになりますね。

次回を待て!

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