流星のロックマン 水希リスタート   作:アリア・ナイトハルト

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5ヶ月前から組み立てた話をようやく繫げることができて万々歳。
そして何より、読者さんに勧められた2曲すべて作風に合っててびっくり。


35話 それでも兄ちゃんを助けたいんだ

寝返りを打つ度に唸りながらも、ようやく瞼を開けた。

 

……あれこれ悩み倒してた間に眠っていたのか。

しかし、依然として雨雲に覆われた空はまだ明るい。

 

トランサーから時刻を確認……ちょうど14時か。

家に着いたのが確か11時頃だから、かれこれ3時間近く寝てたのか。

 

「起きた?」

 

不意に声をかけられて目が冴える。

呼んでくれたのは母さんだ。起きるまでずっと座り込んでいたのかと疑いそうになるが、押し留めて無難な受け答えをする。

 

スバル「……母さん、もう帰ってたの?」

あかね「えぇ、13時過ぎにね。なんだか魘されていたようだけど、大丈夫?」

スバル「今は平気、かな。寝たら落ち着いた」

あかね「ならいいわ。お昼ごはんまだなんでしょ? いれば作るけど」

 

返事待ちの母さんに向かって、首を横に振る。

 

スバル「いいよ。それより兄ちゃん見かけなかった?」

あかね「……水希は今部屋で寝てる。あんたよりも酷く魘されているようだから、最悪病院で診てもらおうかと思ったけど……」

 

兄ちゃんが心配だと物憂げに言う母さんだが『きっと寝ている間もリンドヴルムを抑え込むので手一杯なんだ』と口が裂けても言える訳がなく、他に気の利く言葉は見つからない。

 

あかね「母さんこれから夕飯の買い出しに行くから。起きて早々に悪いけど水希の側にいてくれる?」

スバル「もちろん。兄ちゃんのことは任せて」

あかね「ふふ、頼もしいわね。それじゃ行ってくるわね」

 

部屋を出るまで見届けた直後に通知音が鳴り、今一度トランサーを手に取った。

 

スバル「メール、誰から?」

 

メアドは兄ちゃんのものだけど、開いてすぐ送り主がレティさんだと一目で分かった。

 

《弟くん。急でごめんなさいね。水希のトランサーを拝借した上で貴方に伝えたい事があるの。

結論から言うと封印は成功した。でもそれはその場凌ぎにしかならないわ》

 

最初の文面のみでは話が見えて来ず、困惑しながらも読み進める。

 

《リヴァイアが長年封じていたリンドヴルムの力がね、水希自身の成長度合いに比例して強まっていたみたい。

何より三年前に私が関与したせいかしら…、断定できないから詳細は話せないけれど、リンドヴルムとはまた別の力が宿っていると見てるわ》

 

ウォーロック『……おい、ちょっと待てよ、リンドヴルムって……』

 

意味深過ぎる文面にツッコミを入れたいところだが、同じく読み進めては唖然としたように言い放つウォーロックに問う。

 

スバル「ひょっとしなくてもFM星人なの? リンドヴルムって」

ウォーロック『……あぁ、その通りだが、今や逸話の存在として扱われてんだよ』

スバル「どういう意味?」

 

首を傾げていると、水希の部屋に行くついでに話すと言われ、したがって部屋に向かうことにした。

 

ウォーロック『オレが生まれる前にあった話だ。

FM星には城を構えた都市部とは反対に、農業と漁業で栄えた村落があるんだ。そしてリンドヴルムは村落の住民から護り神と讃えられ崇められていた。自然災害を自在に操る能力で、津波とかの水害が多い村落を守り続けていたのさ』

スバル「自然災害を、自在に――?」

ウォーロック『けどな、都市部の重鎮らが水害対策の手助けをして間もなく、リンドヴルムの必要性が問われた。

――で、結果。排除すべきと唱える奴を筆頭に徒党が組まれたが、嘆かわしい事にほとんど都市部出身だそうだ』

スバル「そんな……」

ウォーロック『あまりにも理不尽だと怒り狂い、都市の半分が壊滅状態になるほど暴走したが、一人の女によって封印されたことで解決した。もっとも、誰が封印したかまではわからねぇ』

 

リヴァイアが言ってたあの女ってのと関係ありそうだがな、と最後まで釈然としなかったが、封印と聞いて的外れは承知の上でウォーロックに訊ねる。

 

スバル「……流石にレティさんじゃないよね?」

ウォーロック『当たり前だろ、あんな見た目で年増だったら逆に怖ぇよ……』

 

当然のごとくツッコまれたよ。

てか年増て……本人がいたらタダじゃ済まされないよ、きっと。

 

スバル「兄ちゃん、入るよ」

 

部屋に続く扉の前で話を切り上げ、ノックをしてからようやく中に入る。

 

 

……間近でなくとも魘されている。

張り詰めた表情から見て取れるが、いつまでも扉の前で突っ立ってはいられない。

 

少しでも気が楽になればと手を握ったが、異様に冷たくて、思わず離しそうになった……。

もしかしたらと思って、兄の胸に触れ心音を確かめるが正常に脈を打っている。

 

スバル「よかった……」

 

めくった毛布を掛け直し、もう一度メールを見返す。

 

《最悪の事態を迎えたら、覚悟を決めておいて》

 

文末にある最悪の事態。

その意味は間違いなく、リンドヴルムの封印が解かれ再暴発してしまうこと。

下手すれば、二次被害が巻き起こる可能性は高い。

 

去り際に彼女が言ったように、是が非でも制御せねばと()くものだから、時間が無いことは流石に理解しているつもりだ。

 

それ以前に戦えるかと問われたら、自信は全く持てないが……。

 

スバル「…………」

 

手を握っていたのもあってか、いつの間にか呼吸を楽にして眠っているようだ。

 

(これで少しは、兄ちゃんの力になれたのかな?)

 

 

◆◆◆

 

買い出しを終えた母が帰ってきて、夕飯を二人で済ませた頃。

なんの突拍子もなしに呼び鈴が鳴り、玄関に出向く母の後に続いた。

 

 

気難しい顔をする天地さんの隣に、サテラポリスの隊服を着た男性がいた。

 

あかね「天地くん、飯島さんも一緒だったの?」

天地「えぇ。夜分遅くに申し訳ありませんが、水希君に用があって来ました」

あかね「水希なら今部屋で寝てるけど、とても応対できる状態じゃないから、日を改めて貰いたいのだけれど」

 

サテラポリスの人こと飯島さんが、やはりか、と一人納得したように呟く。

 

天地「手短に経緯をお話ししますが、今から言うことは他言無用でお願いします。……もちろんスバルくんもね」

 

釘を刺す物言いに、息を呑む。

 

天地「我々は水希君の保護監査を担う身として、行動を追っていました。

そして3日前。禁忌とされたチカラを解放した挙句、今日に限って暴走しかけた。よって彼は我々の元に回収した後に検査を行いますが……最悪の場合、彼を殺処分することになります……」

 

間を置いて言われた言葉に、僕も母も呆然としてしまっていた。

 

あかね「ねぇ、ちょっと…冗談でしょう…。いくらなんでも、そこまで…」

飯島「いや、すべて本当の事なんだ…。暴走を抑えきれない今…野放しにするのは危険すぎる。今回は運悪く、死期が早まってしまったんだ」

あかね「ふざけないで! 水希は絶対に死なせないって前に言ってたじゃない! なのにどうして?!」

天地「あかねさん」

 

声を荒げて飯島さんに物申す母を、天地さんは静かに、だが顔を険しくさせて制した。

 

天地「いくら貴女でも、記憶に無いとは言わせませんよ。

11年前に起きた暴動。それも死者が出てもおかしくない状況を水希くんが引き起こしたとは言え、被害を最小限に抑えられたから最も軽い罰で済んだんですよ?

無意味に匿ったところで現状は変わらない。

だとしたら、今ある大事な命を守ることが、貴女にとっては先決なんじゃないんですか!?」

あかね「うるさいっ!! じゃあどうしろって言うのよ?! このまま、言われるがまま水希を見殺せと? 嫌に決まってるじゃない!

……たとえ周りから疎まれても、生意気なほど空元気だったのに……、望んで嫌われていったわけじゃないのに……どうしてよ……」

飯島「あかね君……」

あかね「……帰りなさい」

天地「ですが…」

あかね「帰って!! ……お願いだから…もうこれ以上、私達から何も()らないで……」

天地「……ッ」

 

それでも退き下がろうとしなかったが、飯島さんが肩を掴み首を横に振るのを見て、天地さんは怒りを押し留めた。

 

天地「判りました。今回は退きます。あまり騒ぎ立てては近所迷惑になりますから」

あかね「……」

 

母の返答を待たずに、天地さんは玄関の取っ手を掴んだ。

 

天地「……正直、水希君が羨ましいですよ。僕だって、大事な部下である宇田海には拒まれたのに……。

貴女のように迷い無く、世間体よりも家族を選べる方が身近にいるんですから……」

スバル「天地さん…」

天地「ですが忘れないでください。彼が再び目覚めれば、また同じように今度は街中で暴れだすかも知れない。その時になってからでは遅いんですよ。

確実に止められる術が無いのなら、こちらも無いなりに手を打たせてもらいます」

 

母を諌める際にも振り返ることなく去り、飯島さんも僕たちに一礼をして立ち去った後、ドアの閉まる音だけが虚しく響いた。

 

スバル「母さん。兄ちゃんが、僕らの目には見えない何かと戦ってるって事、知ってたの?」

あかね「ッ! ……かれこれ15年も前から、ね。でも大丈夫よ。水希を、信じましょう……」

スバル「……そうだね」

 

あかね「スバル。悪いんだけど、少し一人にさせて? 母さん、ちょっと疲れたみたい…」

スバル「いいよ。僕も、しばらく一人になりたいから…」

あかね「えぇ。気をつけて……雨が降る前に帰ってきなさいね?」

スバル「うん、わかった」

 

お互い気持ちの整理がつかないだろうから、今は一人になる方が最適だと思う。

そう感じて、一度自室に戻って身支度をしてから憩いの場に向かおうとした。

 

 

辺りはすっかり夜闇に覆われ、静まり返っていた。

 

一旦は止んだものの、まだ5月上旬なせいか、雨上がり特有の湿った夜風が肌寒く、それでいて呑気にあちこち鳴く雨蛙共を鬱陶しく思いながら、歩みを進めた。

 

――11年前に起きた暴動。それも死者が出てもおかしくない状況を水希くんが引き起こしたとは言え、被害を最小限に抑えられたから最も軽い罰で済んだんですよ?

 

何度も頭の中でリピートする言葉が受け入れ難く、理解を拒むばかりだ。

兄が幼い頃、死刑囚になり損ねたという話自体まったく現実味がないのに、変貌した姿を目の当たりにしたせいで嫌でも納得させられたのだから、とてつもなく憂鬱な気分だ。

 

――お願いだから…もうこれ以上、私達から何も奪らないで……。

 

許しを請う母の姿は、見ている僕も胸を締めつけられそうなほど、心苦しいものだった。

何しろ、慰めの言葉すらかけられない自分が情けなくてたまらない。

 

 

ふと歩みを止める。

 

 

――答えたところで、アンタに何が出来んの?

 

いつか、兄ちゃんが僕に言ってたっけ。

父さんが乗っていたキズナ号に同伴したんじゃないかって考えてたのも、兄ちゃんのことだからすぐに見抜いていたと思う。

 

何しろ、真実を見せてくれた時、リヴァイアと協力してFM星人達への対抗手段として出向いたんだと知ったから納得できたけど、

 

スバル「……わかってるよ……そんなこと」

 

力を開放して、おかしくなった兄ちゃんを見て、一度は止めようと思った。

 

……思ったのに、何にもできなかった……。

 

 

 

――大丈夫だと思ってたのに……何なんだよッ!!

 

――安心して? スバルを傷つける奴はね、兄ちゃんがみぃんなまとめて消してあげる。もう戦わなくたっていいよ。その分頑張るからさ……答えて? 『後は兄ちゃんに任せる』って。

 

――答える気がないなら、もう力ずくでやる気削ぐからね? ……怖がらなくても大丈夫。相手がスバルだから加減できる。

 

恐怖心を煽る立ち振る舞いを目にした途端、足が竦んでしまった。

敵わない相手だと本能で悟って、ゆくゆくは助けを求めるしかなかった……。

 

そんな自分に、何ができると……?

 

(父さん、どうすれば兄ちゃん助かるの? もうわかんないよ……。あの時、兄ちゃんに心配されないくらい強くなるって約束したのに……)

 

思えば、家族以外の人たちと関わる機会が少なかったためか、その弊害がどの局面にも現れてたな……。

 

それこそミソラちゃんを除けば、心身にこびりつく傷を癒し救えたことなどない。

その歯痒さが、余計に胸を締め上げてくるのだから堪ったもんじゃない。

 

ウォーロック『スバル!……おい、スバル!!』

スバル「っ!! ……びっくりさせないでよ……」

 

『ったく、やっと反応したか』と些か不満気に言うけれど、何度も呼びかけていたことに全く気づけなかった。

 

ウォーロック『んで、大丈夫か? お前顔色悪いぞ』

スバル「……これが大丈夫そうに見える?」

ウォーロック『……見えねぇよ。悪かったな、考えなしに言っちまってよ』

スバル「平気。悪気がないのはわかってたから」

ウォーロック『そうかい』

 

再び、歩みを進める。

 

スバル「独り言なんだけどさ。兄ちゃんのこと、知ってるようでなんも知らなかった。

さっき二人が言い争ってた時も一切割って入れなかったし」

ウォーロック『………』

スバル「でもさ、そんな僕にも、できることはきっとある筈だよ。……ロック。君が地球に――ううん、仲間として隣にいてくれる限りはね」

ウォーロック『……!』

 

出会ってまだ一ヶ月も満たないのに、いつもの調子だったら一言でも返してくれるんじゃないかと期待してしまっていたけれど。

悲しきかな、ロックは何も言い返してこなかった。

 

スバル「……なんでかな。ミソラちゃんを助けて、ブラザーになってから変に自信が湧いてきちゃってさ」

 

道行く先で人に会わなかったのが幸いだが、ロックの返答を待たずに呟く姿は、もっぱら変人そのものだと思う。

実際、宇宙人を相手にしてるから尚の事不気味だろうが。

 

ウォーロック『……お前、ぜってー無理してるだろ』

 

……そうくると思ってた。

あっさり見抜かれる程強がっていたから、こうもスッパリ言い当てられては元も子もないよ。

 

スバル「自覚はしてるけどさ、いつまでもウジウジしてたら父さんに笑われるじゃん?」

ウォーロック『スバル……』

スバル「それにね、兄ちゃんが記憶を見せてくれた時、父さんにまつわること以外の記憶も微かに見えたんだ」

ウォーロック『?……それって、どんな?』

スバル「信武(しのぶ)って名前の男性と駅で別れた記憶。見て分かったのは、その人と会えなくなる寂しさを押し殺してまで、必死に笑って取り繕おうとしてたってこと。そしてその人は多分、兄ちゃんが前に言ってた幼馴染」

 

そんなことまで分かるのか、って?

わかるよ、そりゃ。だって大好きな人と離れ離れになる辛さは痛いほど理解しているんだよ。

僕にとって、3年経った今も行方不明の父さんを想う度、傷心していたから。

 

スバル「兄ちゃんが今みたいにヤケになったのも、思い通りに行かない人生に絶望しきっていたからじゃないかって思ったんだ。

……じゃなきゃ、記憶を見せてくれたあの時、あんな悲しそうな顔するはずないもん……」

 

今までは無力で、今はまだ非力だとしても、ロックのおかげで僕は戦う資格を手にして、父さんを探し出す手立てを見つけたんだ。

ミソラちゃんと出会って、彼女なりに強く前向きに生きる姿勢を見習って、学校へ行く決意ができたんだ。

 

そんな二人と会う前だって、何もかも不安でいっぱいだったけど、そんな時は兄ちゃんが必ず傍にいてくれて、学校に行くか迷った時も答えが出るまで一緒に悩んで、いなくなった父さんの代わりに面倒見てくれて支えてくれた。

 

ブラコン拗らせ過ぎている残念なお兄ちゃんではあるけれど。

 

(それでも抗えるなら、助けたいんだよ!)

 

こんな僕でも、誰かを守れたらって思いが芽生えたんだ。

絶対に、無駄にはしたくない。

 

 

 

いよいよ、展望台へと続く階段が見えてきたのだが。

 

スバル「……あれ?」

 

手前の横断歩道を渡りきると、自販機の灯りに照らされた天地さんを見かけた。

それと同時に、僕達の気配に勘づいたか、天地さんはこちらに向かって一瞥した。

 

天地「やぁ、さっきぶりだね。もしかして、星を眺めに来たのかい?」

スバル「……そうだけど。天地さんも?」

天地「うん。気晴らしには丁度良いかもなってね……」

 

偶然にも鉢合わせると思わず、互いに会話がぎこちないせいで気まずい雰囲気に晒されていたが、しばし間を置いて、天地さんが申し訳無さそうな顔で沈黙を破ろうとする。

 

天地「確かに僕は、帰り際、水希君を止める為に手を打つって言い捨てたよ。

……だってのに、ここに来るまでずっと、自分のやっている事が本当に正しいのか判らなくなったんだ。威勢よく振る舞っておいて、情けないよね……」

スバル「天地さん……」

 

しかし、決意を固めたような視線を向けてこられた。

 

天地「だからせめて、あかねさんには悪いけど、君にもちゃんと水希君の事について話しておくべきなんだろうね……。まだ幼い事もあって、ずっと蚊帳の外だったと思うから」

 

そう言ってトランサーを決済端末にかざすと、軽快な音に伴って商品が出てきた。それも2回ほど。

 

天地「はい、スバル君の分」

 

と言って、そのうち一つを僕に手渡そうとする。

 

スバル「そんな、悪いよ」

天地「いいからいいから。なんせ今夜は冷え込んでるし、長話に付き合ってくれるお礼として受け取ってくれ」

スバル「……それじゃあ、お言葉に甘えて、頂きます……」

 

天地さんからココア缶を受け取るが、もう5月なのにまだ温かいのがあるとは思わず、少しだけ目を見張った。

 

 

◆◆◆

 

スバル「ちょっと待ってて」

 

見晴らし台まで登り切った後、ポケットからタオル地のハンカチを取り出し、手すりに張り付いた雨粒を拭う。

一応、天地さんも触れるだろうから拭き取っておいた。

 

スバル「はい、お待たせ」

天地「ありがとう。随分と気が利くね」

スバル「前にも似たようなことがあったから、雨の上がった日は決まって持ち出してるんだ」

天地「……そうか」

 

改まって真剣な眼差しを向けられた。

 

天地「まずは、水希君と大吾先輩が出会った経緯について話すよ。先輩から聞いただけだから所々うろ覚えだが……二人共、大丈夫かい?」

スバル「うん」

ウォーロック『あぁ』

 

間を開けずに頷いて、天地さんが体を預けるように前のめりになって凭れた時。ようやく本題に入った。

 

天地「今から15年前の事。リヴァイア君と行動を共にして半年経った秋頃に、大吾先輩と出会ったらしい。

先輩はね、科学者になる前はサテラポリスの職員として日夜働いていたんだよ。飯島さんとペアを組んでパトロールをしていた日、未知の存在を感知して正体を探るべくして動いた」

スバル「その正体が、兄ちゃんとリヴァイア?」

天地「そう。電波変換するところを偶然見かけたそうでね。まぁ大吾先輩の性格上、半分は好奇心で動いてそうだけど」

スバル「否定できないかも……」

 

天地「そして、11年前に起きた暴動を経て、保護観察対象となった水希君の監視と世話を先輩は責任を持って全うしたんだよ。

あかねさんと結婚したのも、監視を怠らない為のカモフラージュに過ぎなかったんだ」

スバル「その経緯があって…僕が、生まれたの…?」

天地「まぁ…ある意味間違ってないのかもね」

 

否定のしようが無いと答える天地さん。

 

ウォーロック『ちなみに暴動と言っても、具体的に何をしでかしたんだよ?』

天地「リンドヴルムの暴発による突発性の自然災害。それが水希君を死刑にまで追いやった発端なんだよ」

 

法に明るくない僕でも、被害を最小限に抑えられたなら死刑になどならないんじゃないかと思うし、改善案もなしに殺処分(こたえ)を急ぐことに納得いかなかったが、危険性の高さから考えるまでもなく処分に徹してしまうのは理解できる。

 

言ってしまえば僕らにとってロックとハープ、リヴァイア以外のFM星人が皆 友好的とは限らず、むしろ排他的な考えを持ってるはずだから、地球人にとって兄ちゃん達の存在がイレギュラーなものでしかないのだろう。

 

天地「確か、聞いた話によると、リヴァイア君にリンドヴルムの力を与えた者の名前はアクエリアスだそうだ」

ウォーロック『おい、今アクエリアスっつったか、天地…!?』

スバル「知ってるのロック?」

 

そう訊ねたら、額に汗を滲ませ顔を強張らせながら言いだした。

 

ウォーロック『知ってるどころの騒ぎじゃねぇよ…。

そいつは英雄と慕われていたらしいが、その本質はまさしく厄災の女神だ。

リンドヴルムと同じくして、水に属する自然災害を意のままに操る力を保有していた。

……かつてのFM星でも無類の強さを持つ女だって、同胞からも畏れられたんだぜ…。

そんな奴が……リヴァイアに何年も棲み憑いてるだなんて、信じられるかよ、普通……』

 

『にわかに信じ難いことでしょうね』

 

会話に割って入る女性の声が聞こえ、白く発光したシルエットが僕達を見やる。

 

スバル「貴方は…?」

『御二方、お久しぶりでございます。 そう、わたくしこそリヴァイアに力を与えた元凶ですわ』

 

前に夢の中で、これから先の戦いに向けて3つ忠告をしてくれた人。

それがまさかのアクエリアスとは思わなかった。

 

ウォーロック『じゃあ、FM星での戦いで封印した女ってのも?』

アクエリアス『えぇ。わたくしが自身の体内にリンドヴルムを封印しましたわ。

しかし彼の力は、わたくしの身体をFM星人のそれに書き換えるほど強大なもの』

ウォーロック『書き換える? って、まさか…!?』

アクエリアス『そう。わたくし、元々はAM星の住人だったのです。

ですが封印も、保って数年しかないと悟って、すべてを息子に……リヴァイアに託すしかなかった』

ウォーロック『それを聞いてようやく辻褄が合うがな。息子に全責任をなすりつけて何を思った?』

アクエリアス『……後悔と遣る瀬無さ、そして罪悪感。それ以外にございません……』

 

リヴァイアの実母だというカミングアウトに呆然とするが、ロックの質問には、どこか怒りと似たような感情が込められているように思えた。

 

アクエリアス『現に寝たきりの状態だろうと、お構いなしに精神は侵食され続けています。 最悪、あと数日足らずで星河水希の人格そのものが消え失せる。

時間はそう待ってはくれないもの。決断は急ぐべきと思われますわ』

 

そう言い残して、彼女は消え去った。

 

天地「君にも、あかねさんにも……酷いことを言ってしまったけど、どうか信じてくれ。

僕は少なくとも、水希君を殺すような真似はしたくない。その気持ちだけは本当なんだ……」

スバル「わかってる。けど、兄ちゃんにもしもの事があれば、謝っても許さないからね?」

 

 

天地さんが展望台から去った後の帰り道。

 

スバル「ねぇ、ロック……」

ウォーロック『なんだ?』

スバル「自分の気持ちに嘘をつき続けながら生きるのって、苦しいんだね」

ウォーロック『あぁ、そうだな』

 

足取り重くなりながら階段を下り、自宅に戻ろうとした。

 

◆◆◆

 

その頃。

 

あかね「……ねぇ、大吾さん。私、いつまでこの状況に耐え続けなきゃならないの。無理よ、もう……」

 

寝室のベットに蹲りながら、弱音を吐いてしまう。

そんなあかねを慰め、背中をさすってくれる人は、今や存在しない。

 

 

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