流星のロックマン 水希リスタート   作:アリア・ナイトハルト

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dova-syndromeの曲「stand up」が流星3の序盤OPっぽいイメージが湧いた。
フリーBGMでここまで作風に合いそうな歌詞があると創作意欲が高まります。


37話 帰ってきた男

話は水希が覚醒する数分前のこと。

 

場所は研究所内。かつて宇田海が使用していた一室だ。

しかし当の本人がいない今、大した理由もなく立ち寄ってしばらく経った頃に入口の自動ドアが開き、その音で振り返る。

 

天地「……萩山君か」

萩山「やっぱり、此処へいらしていたのですね…所長」

 

萩山と呼ばれた女性も今は受付嬢として勤めているが、元は宇田海と同じ技術開発担当であるため専用区間を行き来するのは容易だ。

もっとも、進入禁止エリア以外に規制する場所はまず無いが。

 

萩山「……申し訳ありません。未だ御心が優れないと知っていながら……」

天地「大丈夫。わざわざ探しに来たってことは、あのサテライトの進捗についてだろう?」

萩山「はい」

 

天地が口にした題に萩山は即答し、近くまで歩み寄った。

 

萩山「開発途中の後継機は、現時点で8割方完成しております。……ですが、今代の通信環境をまかなう3つのサテライトの性能を一つにまとめるには、我々もかなり骨が折れましたが……」

天地「ここ数年の進歩で、魔法じみた仕掛けによって物作りができたとしても、完全無欠の永久機関なんてものは実在しないからね。

いくら便利な時代になっても常々アップデートしなきゃならないから大変だよ」

萩山「まったくですね……」

 

後継機を制作する理由については、三賢者のレオから『地球の通信環境を保った上で稼働し続けられる限度は長くても5年だ』と言われ、WAXA職員の協力の下、ようやく試用段階まで来ているところだった。

 

だが二人にとって、気がかりな点はそれだけに限らない。

 

萩山「私、宇田海君の気持ちはよくわかるんです。彼との共通点は、前の上司から不当な扱いを受けたのが原因で、今の職場でもまた貶められるんじゃないかという恐怖が拭えなかったと思うんです……」

天地「……君は、僕がそんなに横暴な人に見えたのかい?」

萩山「見えませんよ。でなければここに何年も勤めてませんもの」

 

部下にそこまで信用されてないのかと不安げに尋ねるが、萩山も天地の優しい人柄を理解しているからこそ、辞職は考えてないと断言し話を戻す。

 

萩山「アマケンが今もこうしてあり続けられたのも、彼が率先して設計開発に携わってくれたお陰だったんですが……」

天地「あぁ。本当、僕にはもったいないほど優秀な人材だよ。それこそ、大吾先輩に劣らないくらいにね」

萩山「……一つ、お聞きしたいのですが」

天地「なんだい?」

 

ここにいない人物を想いながら胸中を明かす天地に、萩山は一度俯いてから恐る恐る聞き出す。

 

萩山「貴方にとって、星河大吾はどんな方でしたか?」

 

聞かれた直後、天地はパソコンの隣に倒れてある写真立てを直し、学生服を着ていた頃の深祐が両端にいる信武と水希の手を繋いだ写真を見て、彼の人物像について思うことを述べようとした。

 

天地「……言ってしまえば、敵わない存在だよ。もし大吾先輩と立場が逆だったら、11年前に水希君を殺す選択をしてたはずだからね」

萩山「……だとしたら、あかねや彼の両親が黙ってないでしょうね」

天地「だと思う。それで今以上に宇田海にも信用されず、辞職して路頭に迷った際に声をかけても、僕の言葉に振り向いて貰えなかったかもなって思ったりしていたんだ……」

 

萩山も言うように水希の親族に不信を買うだけでなく、深祐が快くアマケンに来て貰えなかったという展開は読めていた。

 

視点を変えれば大吾は水希を利用しているようにも見えたが、結果的に生かす道を選んで今がある。

未知なる生命体との交流と共存(何度も諦めかけていた夢)】の実現が、あの二人が“可能”だと証明してくれたから。

いつか叶えてやる、と悲願の達成に縋る理由はそれで事足りると大吾の心意気に畏怖してしまう。

 

そんな天地だが、名目上は大吾に継いで保護監査をやっていながら、いつ暴発するか判らない不発弾を背負っていけるほどの胆力が備わっていないことを何年も前から自覚しており、歯痒さを感じていた。

 

要は、自分の手を汚す事に躊躇いがあったから。大吾ほどのお人好しには敵わないと自嘲するのはそこにある。

 

萩山「それでも私は、宇田海君が必ず戻ってきてくれると信じています。ここに残ってくれたスタッフも総意です」

天地「そうだな、彼らが生きている限り、まだ希望は絶たれてない」

 

彼を待っているのは貴方だけじゃない。

そう言葉にしてもらえるだけでも心が軽くなり、僅かばかり調子を取り戻す。

 

天地「頼んだよ。もうじき僕もそっちに向かうから」

萩山「畏まりました。引き続き作業場に戻ります」

 

それでは後ほど、と言い残した萩山は研究室を後にした。

 

天地「――――」

 

萩山のお陰で落ち着きを取り戻したが、足音が遠退いたのを境に、写真に映り込む水希へと視線を落とす。

 

――俺たちの望む結果じゃなくとも、アイツらが死んだその時は、嫌でも受け容れるべきなんだろうな。

 

天地「……本当、嘘をつくのが下手ですね、貴方は。あの時だって水希君と似て不器用なことしかできなくて、今にも涙を溢しそうなくらい悲しそうな顔をしていたじゃないですか……」

 

自分が今、取るべき選択……いずれが有益だろうか。

 

ニュース等で目にする世間体の保持か?

研究者としての立場か?

それとも、近しい者達の存命を望むべきなのか?

 

(事態を悪化させているのは僕も同じなのにね……)

 

深祐と信武相手に戦う気力すら失せていた水希の優柔不断さを指摘し、嫌でも戦えと諭したが、まさかその言葉が自分の首を締めるとは微塵も思っていなかったようだ。

 

それとも単に、認めたくないという気持ちがあったのかもしれない。

 

――来る日の為に生身の人間でも扱える武器を用意しておくが、出来そうにないなら代理人を雇え。

 

懐にある半自動式(セミオート)の小型拳銃を取り出す。

それも、抹殺対象(星河水希)と行動を共にしてきた大吾が開発した、対電波生命体処刑器具。完成を機に預かり受けた物だった。

しかし言動の裏に潜む矛盾を抱え、作るのにどれほど執念が込められているかは、流石の天地でさえ理解に苦しむことだと思う。

 

アクエリアスから時間がないと差し迫るように言われても、仲の良かった二人を近くで見続ければ尚の事、まだ殺せない。

 

天地「……先輩、僕は一体、どうしたら……」

「――仕事熱心な貴方が、まさかこんな所で油を売っているとは……珍しい事もあるものですね」

 

誰もいなかったはずの空間に、紺のスーツにグレーのトレンチコートを身に着ける男が突如現れ、物珍しそうに言い放つ彼の声に安堵した天地は目を張ってしまう。

本来なら再会を喜ぶところだが、()()()()()()今は下手に近づけない為、すぐさま心を無にして背後を振り向いた。

 

天地「……何をしに、此処へ来た?」

「冷たいなぁ……()()()()()が戻ってきたんですよ? そんな険しい顔をして出迎えなくてもいいでしょうに」

天地「どのツラ下げて“ただいま”なんて言ってるんだよ……。街中、各地で相次いだ電波障害事件、今回は規模を少しづつ拡大させ都民を混乱に陥れるケースだった。

そんな回りくどい悪事……いくら水希君がやれるとしても肝心の動機が無いからね。

けれど、君の技量と電波世界に干渉する力を持ってすれば容易い芸当だろう。……違うか、宇田海?」

 

飯島から渡された情報によると、中継機を介して無線化を導入した信号機にもハッキングの痕跡が見られ、意図せず渋滞が引き起こされるケースも数件あったそうだ。

……が、同じく電波世界に介入できる水希でも、リンドヴルムの暴発がない限り赤の他人相手に害をなすことなどありえない。

よって犯人は……消去法で考えても、宇宙に投棄された旧型の人工衛星を落とした者しか当て嵌まらないことを淡々と冷徹に物申したが、深祐は毅然とした態度を変えずにいた。

 

深祐「違わない、と言ったら……どうするんです?」

天地「別にどうもしないよ。自らの意思でその力を手放してくれるのなら何も文句はない。

加えて復興作業に協力してくれるのなら、上に直談判して処遇を改めてもらおうと考えていた所だからね」

 

これに関しては本心であるものの、今の深祐にも話が通じるほど大人しければ良かったのだが。

 

深祐「ッ……強がらないでくださいよ。分かっているんですよ? どうせ僕を謀ったあの男のように! 水希君が信武を見捨てたように! タイミングを計らっているのは見え透いてますからねぇッ!!」

 

あからさまに動揺し敵意を剥き出しにする深祐に、処刑器具の照準を合わせた。

 

天地「……失望したよ、宇田海。君もずいぶん臆病が行き過ぎて、水希君の気持ちを何一つ理解しようとしないんだね?」

深祐「黙れっ!!」

 

しかし、引き金を引くよりも先に目の前まで詰め寄られ、胸倉を掴まれたままデスクの上に押し倒される。

 

深祐「なら貴方に何が分かる?! 裏切られた者の痛みも知らない貴方に!」

 

振り解けずにいる天地も苦し紛れに打ち明けようとした。

 

天地「……そうだね。正直、君が最も望む裏切りのない(めぐまれた)環境にいたからほんの一欠片しか分からない。

……それでも、変わらないんだよ。君に声をかけたあの時だって別に憐んでいたわけじゃない。同じ研究者として君自身の才能が潰れて欲しくなかった!」

深祐「そんなもの全て嘘だ!」

天地「嘘なんかじゃない! 宇田海、水希君とブラザーバンドが切れた日を思い出せ! なんとも思ってないように見えたか? 辛いと感じたのは君だけじゃなかったんじゃないのか?」

深祐「うるさい!! もう今更、何を言っても遅いんですよ!!」

天地「宇田海……」

 

「ちなみに、なぜ此処へ戻ってきたかと言うとですね」と言って、コートの胸ポケットから円柱型の電球と似たフォルムの部品を取り出した。

 

天地「それって…、レディオ・コンポーザー…?」

深祐「ええ、僕が必要としていた部品ですのでわざわざ足を運んだんですよ。できれば誰とも会わずに回収したかったんですが」

 

デスク裏のボタンに手をかけ警備隊を呼びつけるが、

 

深祐「抵抗しても無駄ですよ、天地さん。

―――これから貴方には、大物を釣り上げる生き餌になってもらうんですからね」

天地「――――ッ」

 

警備隊が研究室へ辿り着いた頃、既に二人の姿はなく窓も破られていた。

 

萩山「……遅かったか」

 

一足遅れて到着する萩山は窓の外を見遣って、目を細めた。

 

萩山「……所長。どうかご無事で……」

 

◆◆◆

 

その頃、星河家では

 

あかね「本当……なんで、こうなったのかしら……」

 

寝込んでいる水希に寄り添うように座るあかねは、心労が絶えない現状に溜息を溢してしまう。

 

あかね「気づいてないのなら構わないけど。私ね、ほんとはアンタの事が大嫌いだった。生まれてから両親に気をかけられて、私が二十歳を迎えた頃にいきなり結婚を押し付けられて、それが今ではこの有様とは……誰も思ってないでしょう。

これでもね、もっと自由に生きたかったのよ。今までどれだけ我慢を強いられてきたか、アンタにわかる?」

 

水希は目を覚まさないとわかっていても、溜まりに溜まった愚痴を吐かずにはいられない。

 

あかね「前に、スバルも戦えるとしたら不安かって訊いたわよね? 当たり前でしょう、だって私の…たった一人の息子なのよ?

兄貴として面倒見るって言葉を信じてたのに、なのになんで無様に倒れてんのよ…? 肝心な時にスバルを困らせてどうすんのよ……!?」

 

怒りをぶつけようと全く起きる気配がなく、余計腹立たしく思う。

 

あかね「……正直、悔しくて堪んないわよ…。

勝手気ままなアンタを止める力も無くて、ただそこで見ていることしかできなくて、どうしようもなくムシャクシャしてるのよ? 今だって……」

水希「――――」

あかね「こんなにも憎んでるのに、それこそ鍛錬と称してアンタに手を上げてきたってのに、そんな私を姉として見てくれていた。……それがね、ちょっと嬉しかったのよ……。だから皆、こぞって甘やかしちゃうんでしょうね」

 

その辺はスバルと同様、ただ憎んでいたわけじゃない。

自覚している当たりのキツさに、水希はなんやかんや言いながらも出て行く事はなく、大吾を含めたクルーの捜索を諦めず、スバル自身が抱いた寂しさを埋めてくれたお陰で少しづつ平穏が戻っていた事に感謝していた。

 

あかね「だから……もしものことがあっても、スバルのことは任せて。母親らしいことはちゃんと果たさなきゃ」

 

部屋を後にして階段を降りる音が遠ざかった瞬間。ゆっくりと瞼を開けた。

実のところ数分前から意識が覚醒していたが、言い訳のしようがない話を、寝てるふりをして聞いていたのだ。

 

水希「……心配しないでよ、お姉ちゃん」

 

(今までの所業もすべて清算して、その上でお姉ちゃん達が望むなら、喜んで死んでやるつもりだったからね。ずっと前から考えてたの)

 

寝床から上空にまで転移して、ウェーブロードに足をつける。

 

――家族の輪の中(そこ)にアンタとリヴァイア君も含まれてるってこと……忘れないでくれたら、お姉ちゃんは嬉しいんだけどね。

 

(……だからごめん。あの時『ちゃんと生きて帰る』って約束したけど、もう守れないや)

 

水希「……モードチェンジ、リンドヴルム……」

 

熱の籠もらない声で、気に病んでくれた者達への冒涜を紡いだ。

 




ここまで話を練るのに三年はかかり過ぎだろとツッコミたいところ。
次回をお楽しみに!
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