流星のロックマン 水希リスタート   作:アリア・ナイトハルト

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38話 ありがとね、最期まで

天地は今、ジャージの襟を掴む腕を除く体全体を電波化させた深祐に攫われている。

ビル群の間を通り抜け、一時モノレールにぶつかりかけたが、風に煽られているせいかとても目を開けられない様子。

とは言え、あちこち振り回されながら飛行している状況は、並みの絶叫マシンよりも質の悪いアトラクションだと錯覚させられ、堪ったもんじゃないとぼやいてしまいそうだった。

 

そして数分後。ようやく恐怖の飛行体験は終わり、目を開けてすぐに現在地がセントラルシティにある都庁、その頂上だと気づく。

 

しかし、電波化を解いた深祐が端の方に降り立ったせいで天地は未だ宙吊りにされたまま。いつ振り落とされてもおかしくないため、とても真下を見れたもんじゃない。

 

と、その時。近づく足音に深祐は右方を見やる。

 

「……遅かったな、深祐(しんすけ)

深祐「ごめんね信武(しのぶ)、長居しちゃったよ」

 

軽く詫びを入れた深祐。

天地も遅れて視線を向けては、状況が飲み込めないとばかりに見開いて驚く。

 

天地「どうして君が此処に!?」

信武「……どうも。うちの深祐が世話になってるようで」

深祐「それよりもどうですか、FM星人の力は? 水希君だけが独占するには惜しいほど、素晴らしい能力(もの)だと感じませんか?」

 

何故ここにいるのかと訊ねたが、無愛想にはぐらかされた挙げ句、深祐からも口を挟まれてしまう。

 

深祐「こちらが欲しいと願えば分け与えてくれる……簡単に人を裏切り見捨てる地球人よりもよっぽど信用出来ます」

天地「目を覚ませ二人共! 君達はバケモノに操られているんだ!」

 

この期に及んで世迷言を吐く深祐に呆れ、切羽詰まった形相になりつつ説得を試みたようだが、二人の表情から察するにまったく聞き入れる気はなさそうだと悟った。

 

信武「ふん…生憎だがな、俺らは自分の意思で手を組んで力を得たんだよ。それをどう使おうがこっちの勝手だろ」

深祐「その上、僕らをバケモノ呼ばわりですか…天地さん。それを言うなら…水希君だって十分染まりきっているじゃないですか。バケモノに」

信武「そしてそのバケモノを道具として利用する連中が、いかにクズなのかがよく判るぜ。犠牲あっての進化とかほざきやがって、無用になるまで扱いやがるんだからな」

天地「信武君……」

 

二人のあんまりな言動に、堪らず目を細める天地。

 

信武「そうなりゃ当然…水希も小4に上がったのを境に口数が減るわ、周りの連中もウマが合わねぇからって煙たくするわ、終いにゃ俺の前で笑うことも減ったんだぞ……」

 

血が滲みそうなほどに拳を握りしめる信武の表情は、幼馴染であり親友という立ち位置ながら何もしてやれなかった事への憤りとやるせ無さが綯い交ぜになっていると見て取れる。

 

何も知らされてなかった分、余計に、水希は悲劇のヒロインだという認識しか出来ないのだろう。性別云々は置いといて、表現としてはあながち間違ってはないが。

 

信武「……なぁ、答えろよ……」

 

すると突然、信武の全身を負のオーラが纏わりつくように鈍色の光が覆い、やがて換装体へと姿を変えた。

 

信武「あいつを、俺の唯一の親友だったあいつを、あんな風になるまで追いやったのは星河大吾だろ!?

絶対に許さねぇ………たとえ地の底だろうと(そら)の果てだろうと、見つけたら必ず、俺の手でズタボロにしてやるッ!! もう二度と、水希がクソ野郎どもなんかに泣かされねぇように……!!」

 

そんな悲劇のヒロインを救う英雄を気取っているのか、受難を抱え生きてきた親友を労わるところ悪いが勘違いも甚だしい。

水希が何より望むのは、大吾の帰還によってスバルとあかねの二人に心の安寧が戻ってくること。

 

だがどうしてか、信武の言動は、お前にその望みを叶える権利すらないと高慢に語っているようにしか聞こえない。

 

天地「いい加減にしろよ……! 君は、あの子が今まで、どんな思いを抱えて戦いに興じてきたと思ってる?!」

 

11年前の暴動を経て、頑なにリヴァイアから離れようとせず共に鍛錬を積んできた水希の並々ならぬ覚悟を、まるで理解していない信武を見て堪忍袋の緒が切れてしまったが、当の本人は動じるどころか不貞腐れた態度を取る。

 

信武「さぁな……ただ、昔の俺と同じように、水希は星河大吾(そいつ)に対しての存在価値を示したかっただけだと思うぜ。

そもそも、戦闘だけが取り柄の道具にならざるを得なかったのだって、紛れもなくお前らが原因だろ?」

天地「そんなことは…………っ」

 

……思い当たる節しかない。

 

どんなに危険物だろうと、使い方次第で替の効かない便利な物になる。

かつて裁定を下そうとしていた際に老年の男性が言い放った言葉を思い出す。

そしてある者は実験材料として、片や戦場の駒として飼い慣らすなどと宣った者まで。各々、利己的な欲望を彼一人にぶつけたのだ。

 

たとえ水希本人が強くなる為にと望んで、『扱われ慣れた』と割り切っていたとしても、本来あったはずの選択肢(みらい)を奪い取ったのは否定できない事実なのだから。

 

バツが悪そうに目を伏せる天地を、信武はより鋭く睨みつけ悪態をつく。

 

信武「ほら見ろ、あるんじゃねぇかよ……。大体な、腐っても幼馴染みだから分かんだよ。心配かけさせまいと一人で抱え込んで、ずっと悩み倒して苦しんでたことくらい顔見りゃ分かんだよ、俺にだって!」

天地「……だったら尚更、なぜ宇田海の味方につく?」

信武「………水希がどれだけ痛い思いをして来たのか理解はできても、やる事なす事に納得いかねぇから、どうすりゃいいか分からないんだよ…!

もう今更、親父が生きていようが帰って来ようがどうだっていい! どいつもこいつも何でそこまでして死人に執着するんだ? もう3年も経ってんだぞ、ますます意味わかんねぇよ……」

 

二人のやりとりに深祐は、まったく干渉せず聞き流していたが、

 

深祐「――――。……!」

 

不意に前方を見て、 迫り来る気配の正体に確信を得た途端、怪しく笑いだす。

 

深祐「ほら、噂をすれば現れましたよ。バケモノが僕ら二人を屠りにね」

天地「な、に……ッ!!?」

 

部下の口車に乗るように前方を見た瞬間、此処へ来る前に言い放たれた生き餌の意味がようやく理解したのと同時に、唯一の頼みだった命綱は呆気なく振り解かれた。

 

天地「――う、あああぁあぁぁあああぁぁぁ!!!!」

信武「…………お……おい、深祐! いま、天地さんを?!」

深祐「まぁ黙って見てなよ。この後、彼がどう動くか気になるし」

 

叫び声を上げて為す術もなく落ちていく様を目の当たりにした信武は目を剥くが、この状況を見て悪びれもせず、むしろ面白がっていた深祐の肩を掴みかかって、血の気が引いた顔を険しくさせた。

 

信武「そうじゃねぇ! 仮にもお前の上司だろ?! なんで取り返しのつかねぇことをやってんだって聞いてんだよ!!」

深祐「何だよ……お前まで僕を非難する気なのか?」

信武「ッ、だから――!」

 

剣呑とした眼差しに怯みかけ、そういう意味で言ってるんじゃねぇんだよ、と声を荒げそうになったが、途中遠くで天地を呼びかける声に遮られた。

 

深祐「……まったく、最後まで堕ちぶれていないのか、君は。よっぽど受け入れ難いんだね? 昔の自分の愚かさを思うと。どのみち手遅れだろうに…………でも安心したよ。君はいま何をするべきか、誰を守るべきなのか……本能から見失ってなかったんだからさ。……ここにいる僕ら二人を除けば、だけど」

信武「水希……」

 

意味深な発言をする深祐に倣って下方を見下ろし、バケモノらしからぬ親友の行動に安堵する半ば、複雑そうな面持ちで見やるのだった。

 

◆◆◆

 

 

重力に則り急降下。

風圧をもろに受けようが関係ない。

 

落ちる、落ちる、真っ逆さまに。

 

だが抗う手立てがなく、無情にも落下速度は増すばかりだ。

このままでは確実に……!

 

迫りくる現実に耐えきれず、目を瞑って逃避してしまいそうだったが、

 

水希「天地さんッ!!」

天地「!? ……なんで!?」

 

自身の置かれている状況すら顧みず、声のする方を見上げては、あり得ないと口にしそうなほど呆然とした。

 

暴走してその後、寝たきりの日が続いたというのに、こうして助けに来るあたり、理性を保てていると見て取れるからだ。

 

水希 (お願い……間に合って……!!)

 

もう誰も失いたくない……。

 

それは…何度もその虚しさを嫌ほど理解してきたからこその願い(本音)だった。

 

しかし今、3km離れた上空から透視(ビジブル)を活用し、天地が落下するのを目撃してから全速力で向かったのだ。

このままだと間違いなく衝撃波に押し潰され、天地の手を握るどころか建物にも被害を及ぼすだろう。

そう予感し、空気抵抗を無くすため全身を電波化させ、真下に回り込んでから解除。

そうして難なく天地を横抱きに受け止めることができ、時たまに翼をはためいて減速し始める。

 

天地「その姿……まさかリンドヴルム?!」

水希「ちゃんと掴まって!」

 

水希の平然とした様子に驚いたが、言われた通り振り落とされぬようにしがみつく。

地面が近づくにつれ、より緩やかに降下し……着地。

 

水希「怪我は無いようだけど……大丈夫?」

 

いつもの調子の良さは失せつつも、たまに見せる真剣な顔つきは相変わらずだ。あまつさえ気を遣われる始末である。

 

天地「あぁ、助かったよ……ってそうじゃない! 力を使ったらダメじゃないか?! たとえ自我が残ってるとしても、まだ君の精神は蝕まれて…」

 

一方的に水希を責め立てる途中、早く上がって来いと言いたげに落雷に撃たれるが、一切食らうことはなく、バシュッ! と弾くような音に伴い視界が白んで行く。

それも一瞬の出来事。じきに収まった。

 

天地は、困惑しきったまま頭上を見て絶句する。

 

(……水の、バリア……?)

 

目を凝らすと、魔法陣らしきものが中で光っていた。

傘開くように覆い尽くすそれが、二人を落雷から守ったということだ。

 

普通は通電するはずなのに、いつの間にこんなものを用意したのか、と諸々考えるのはこの際どうでもいい。

 

天地はただ、何事も無いかのように面と向かう水希に恐れを抱いていた。

襲ってこないと分かってはいても、内部から漏れ出るような殺気に近い何かが、深祐が言うように"もう既に染まりきっている"のかもしれないことを指しているのだから。

 

……しかし、予想と違って平静を保ちながら、口を開いた。

 

水希「言いたいことはわかってる。まだ完全には呑まれてないよ。……それでも結局は、時間の問題だろうけど」

天地「……その言い草じゃあ、はじめからこうなると見越して……?」

 

悲痛な表情を浮かべる天地に心配される心苦しさから、水希は背を向けた。

 

水希「……11年前の件で極刑は免れても、そろそろ潮時だと思うけどね。何せ過去に災害をも引き起こしたんだ、今更言い逃れなんてできないでしょ?」

天地「だけど……それでも……!」

 

君のせいではない、と言い切れる事態では無いことは流石に理解していながら、他に言葉をかけてやれないか考えるも、答えが出ず言いあぐねてしまう。

そんな天地の心境を悟る間も無く、水希は続けた。

 

水希「あの日……ユリウスが居なくなってから、リヴァイアと大吾さん以外の誰にも期待しない生き方が楽なんじゃないかって、馬鹿なこと考えてた。それにさ、もうバレてるってのに、信武とスバルの前だと弱い自分を曝けたくなくて、ずっと意地張ってたんだよね。

……でも、何やかんや今があるのは…皆がいてくれたからって実感できたから。情けないこと、今になってやっと理解したよ」

天地「水希君……?」

 

翼を開き腰を落とした時点で予感はしたが、もう遅い。

 

水希「――ありがとね。最期まで」

天地「え……うわ!?」

 

跳躍の反動で吹き荒れる風に耐えきれず尻餅をつく。

 

天地「! ダメだ、行くな! 戻ってこいっ!!」

 

静止を促す天地を無視してまで、水希は上へ上へと翔けあがって行く。

 

このままでは最悪、殺されてしまうかもしれない。

 

そう直感した天地はとっさに立ち上がって、端末へと手を伸ばし、電話帳にある名簿をタップする。

 

『――天地さん、どうかした?』

 

数度のコール音が途切れてようやく繋がったが普段と違い、画面上には青いヘルメットを被るスバルが映っていた。

 

天地「……()()()()()()()のなら話は早い。 たった今セントラルシティにある都庁、その頂上付近で水希君は二人の敵と遭遇している……そのうち一人は、宇田海だよ」

ウォーロック『やっぱりな。ところで天地、宇田海の奴と水希の容態はどうなんだ?』

 

ウォーロックは最悪の事態――キグナスに憑かれてから数週間経過した宇田海とリンドヴルムのチカラを誤用し半暴走状態の水希。双方ともに手遅れになる前に倒さねば()()()()()()()()()と危惧していることを話した。

 

深祐の場合キグナスと心身の同化によるものだが、水希は言わずもがなリンドヴルムに精神を掌握され、結果。人間としての人格を失くす。

そうなると、先程の質問にしても、上記の通りに事が起こり得ると見越して何を仕出かすか分からない二人だ。地球の命運が危ぶまれるのも納得がいくだろう。

 

天地「宇田海のことは把握していないが、水希君の容態については、本人も時間の問題だと言ったんだ。

とにかく、水希君にとってかなり不利な状況だ。急いで助太刀に入ってくれ!」

スバル『わかった!』

 

通話はそこで途絶えた。

 

 

 

――FM星人の力を利用する気なのかい?

 

宇田海がキグナスに取り憑かれる前の出来事。

飯島と水希の三人が揃った日の会話をふと思い返す。

 

***

 

水希『……そう。少し癪だけど、今後の戦いを勝ち抜くためにも、人員を確保するからには避けて通れないと思うの』

飯島『そうは言っても、お前らの時とは訳が違って、奴等は悪意を持ったまま子供にだって取り憑くかもしれんだろ?

それでも、最悪のケースを想定した上で実行に移すつもりなのか?』

水希『……勿論、手順を間違えれば死ぬかもね。けど、そうならないように、こちらの体力が持つまでに無力化して引き剥がすしか方法はないと思う』

 

この頃はまだ殺さずして勝ったという事例が少なく、確証がないなりに策を練ろうと必死だったが、

 

天地『じゃあもし君より強い敵が現れたら、その時はどうするんだい?』

 

いくら電波変換してもその力が必ずしも敵に通用するとは限らない。

そうとも取れる質問に、水希は眉一つ動かさず答えた。

 

水希『極力控えたいけど禁忌を犯してでも止めるんじゃないかな。……目には目をって言葉があるんだしさ』

飯島『お前な、そういった冗談は休み休み言うもんだぜ? 普通はよ』

水希『ごめんて』

 

***

 

ただ一つの誤算は、あくまで使うつもりはないと態度で示す水希を信用しきっていたこと。

それが仇となり、この有様だ。

 

天地「……頼むから死なないでくれよ。水希君」

 

後悔先に立たず。もはや水希が無事であることを願うしかなかった……。




第五章のタイトル、今まで無題(英語力皆無ゆえ放ったらかし)でやってきましたが、災厄の意味も含めて【アポカリプス】に決定しました。
本当はサテライトの後継機の名前として決めてたんですが、意味合い的にアカーン!とわかって、急遽別の名前を考えてるところです。
良案がございましたら是非とも感想欄に……!

お気に入り登録および感想、お待ちしております。
して頂けると執筆の励みになりますのでどうかよろしくお願い致します。m(_ _)m

次回、満を持しての戦闘が巻き起こりますのでお楽しみに!
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