レティは水希の意志を尊重した上で横槍を入れず、戦場から遠く離れたビルの屋上から見届けている最中だ。
せっかくの封印を解かれてしまうのは想定済みだが、スバル達の前で封印と称したのは、不安を軽減させるためのフェイクに過ぎない。
ダメ元でリンドヴルムを引き剥がせないか試すつもりが、リヴァイアの身体に長年棲みついているせいで馴染み過ぎた為、最悪水希が二度と戦えなくなる可能性も否めなかったのだ。
リヴァイアは過去に支配から克服した身だが、水希は根本的な体質の違いから感覚が掴めない状態だからこそ、いつか克服してくれるだろうと期待も込めて、封印という決断に至った。
しかし結局は、どれだけ鍛えてこようが過ぎたる力でしかなかった。
その成れの果てが信武と対峙している真の姿だ。
そんな手遅れの状況で彼女が施したのは、
しかし、ノイズを浴びた後の影響は、放射線と同レベルで悪質。
電子機器全般はもちろん、人類や電波生命体にも尚のこと害をもたらすもの。
であれば宿主の生命維持を顧みない限り、下手打って自滅などまずないだろう。と痛いとこを突いたつもりだが。
レティ(……その辺は、
いくら死なないとは言っても、本来なら四肢が麻酔してとても動けない筈だったのに)
彼女が不可解に感じたのは、なんの前触れも無しに悪影響を受けた状態から脱していること。それも予想以上に早く。
通常、リンドヴルムを解き放つ際にノイズを振り払ったと考えられるが……もしくは、
水希と会った当初の記憶から、今まで気にも留めなかったことをふと思い返す。
レティ(そういえば……私が能力で抑え込んでても、ゲートから現実空間に出入りする時にノイズが放出されているけれど……よくよく考えればアイツら何食わぬ顔で立っていられたわよね?)
それが当たり前だと誤認していたのなら、もしかしなくとも水希はノイズを吸収し糧にしていることになるが……それは余程の特異体質でなければ、の話だ。と切って捨てようとする。
そんななか、
レティ(……幻聴じゃなきゃ、さっきから隣でスナック菓子を口に運んでいるような気がしなくもなさ過ぎて無理なんだけど……)
左耳から嫌でも届く咀嚼音に内心うんざりしつつ、レティは表情を崩さずに恐る恐る向く。
どうやら隣にいる青年が手に持つ棒状のスナック菓子、うまい棒が発生源らしい。
白いジャケットの二の腕にある紋章を見てサテラポリスだと分かったが、それ以前にこれでもかと詰められたビニール袋に引き気味ながら目が行ってしまっている様子。
「? 良かったら食べるか」
レティ「要らないわよ……」
それを横目で見た青年は、レティがてっきり欲しがっているように見えたのか、袋にある一つを手渡そうとして速攻でお断りされてしょんぼりな様子。
そんなに落ち込まれてもねと念押しして断り、視線を戦場へと戻しながら口を開けた。
レティ「……アンタ、名前は?」
「俺は暁シドウ。星河水希の動向を監視し、並びに処刑を受け持ってるんだよ」
青年――シドウは、食べかけのうまい棒を口に放り込みながら自ら敵対者と名乗るが、打って変わって気さくに振る舞う姿が不思議でならないと、レティは怪訝に思った。
レティ「その割には随分と呑気ね。わざわざこの私に面会する理由があるのかしら?」
シドウ「まぁね。君の存在も依頼主を通して調査済みだけど、どんなナリしてるか気になっただけさ」
要するに半分は好奇心で動いていると言いたいのか。
ある意味図太い神経をしている彼にほとほと呆れ果ててしまっていた。
レティ「……ていうかアンタ
傍目で見て二人だけの場では違和感しかない発言だが、シドウはそれを訂正せずに神妙な面持ちでレティに問いを投げた。
シドウ「分かるんだ? 俺以外にもいるってのが」
レティ「当然よ。伊達に長生きしてないもの」
レティの勘の鋭さに苦笑しつつあるシドウは、内ポケットから取り出した物を見せつけた。
シドウ「これ。警察手帳を見せて「不審者らしき人影を探してる」って言ったら通してくれたんだよ」
レティ「私が言えた義理じゃないでしょうけどね……ここ警備甘すぎだし、職権濫用してる不審者モドキに言われたくないわ」
シドウ「はは、ごもっとも……出てこいアシッド、自己紹介してやれ」
アシッド『畏まりました』
溜息を溢すレティの悪態を受け流すシドウの呼び出しに応じて、現実空間に出現する。
その段階で微弱ながらノイズが発せられていると見抜く。
アシッド「――お初にお目にかかります。私はアシッド。シドウのアシストを担うウィザードです」
レティ「ご丁寧にどうも。他と違ってメカメカしい見てくれね。リヴァイアのような天然モノと違うって所かしら」
シドウ「流石。同類は目の付け所が違うな」
レティ「……その言い草、どこまで知っているの?」
妙に引っかかるような発言に怪訝な顔で物申すと、その問いにアシッドが代わって返答しだす。
アシッド「推測が間違っていなければ、貴女の全身はノイズの集合体であるクリムゾンに塗れていながら完全にその力を制御しきっている。それも私以上に何重にも封印を施して一割以下に抑え込んでいるかのように……」
レティ「……御明察。私はアンタのような御人形を生み出した元凶みたいなもんよ」
シドウ「元凶、ね……自分で言ったら悲しく思うよ。普通」
レティ「慣れっこ。誰に言われるまでもなく疫病神として生まれた私にはお似合いよ……それで、アンタらここで油売ってて大丈夫なわけ?」
自らを自嘲する様に何も言い返せないままでいた二人だが、レティが問いを投げた時、アシッドか再び声に出す。
アシッド「依頼主への報告はまだですが、現段階で星河水希と当たった場合、勝率は低過ぎる。そう判断した上で流れに任せています」
レティ「たった今、向こうは殺伐としているのによく平然と言えるわね……」
アシッド「勿論、理由もなしに決断した訳ではありません。実力的に星河水希と渡り合えて、同時に彼を
シドウ「……本当なら俺らが対処しなけりゃならないけどさ、正直実力不足だから戦うなって小言の多い誰かさんに止められてんだよ」
その誰かさんを指差しながら文句を垂れるが、「でしたらあまり無茶はしないで頂きたいのですが」と苦言を呈され、バツが悪そうに項垂れながらも、シドウは話を切り替えてこようとした。
シドウ「それにさ……本来君は、俺らと相容れない存在だろ? なぜ星河水希と手を組む必要があったのか、それも問い質そうとしに来たってだけ」
レティ「そう。ならそれを話したら、早急にお引取り願おうかしら?」
シドウ「どことなくアイツに似てるよな……まぁいいか」
一時、間を置くと、シドウの顔つきが険しくなる。
シドウ「改めて聞くが、君は何者で、何を目的として動いている?」
レティ「……私の目的はただ一つ」
取り調べるような発言に対し、レティは一呼吸入れ、無感情のままにシドウを見遣る。
レティ「水希達の協力の下、私という存在を
落雷の後に雨粒が降り注がれているが、無音に包まれていると錯覚させられるほどに発言は重苦しく、一言一句聞き漏らさなかったシドウとアシッドは表情を曇らせた。
シドウ「……本気なのか?」
レティ「そうよ、願ってもない事だもの」
淡々と述べていたレティだが、次の瞬間、街一体を見渡す顔はどこか憂いを帯びさせていた。
レティ「……まぁ、最期にここへ訪れたのは良い意味で人生一の誤算だったわ。たった三年でも居座ってたら名残惜しいと思うもの……」
アシッド「貴女は、一体……」
正体を突き止めようと言及するものの、それについての返答はない。
やがて、信武と殺し合っていた筈の水希が戦線離脱したと察知したレティは、再びシドウと視線を合わせる。
レティ「近いうち、貴方にも協力を仰ぐかもしれないけれど……自分の身を犠牲にしてまで、その子との共闘は勧められないわよ」
シドウ「わかってるさ……だけど、俺だって半端な理由で力を得たんじゃないんだ……」
全て見透かされるような忠告を聞いて、シドウは苦し紛れに答えたのを最後にその場を後にする。
レティ「さて、行きますか」
人気がないことを確認してからゲートを開け、ノイズで溢れかえった世界へと戻るレティであった。
次回、スバル対キグナスの行方を投稿した後に、40話を投稿いたします。