流星のロックマン 水希リスタート   作:アリア・ナイトハルト

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【2023,2月8日】日記の(おもた〜い)一部分を追記。



40話 追憶

激戦を中途半端に終えて、水希が立ち去ったあと。

地上へ降り立つと同時に電波変換を解くが……それまでに色々あったせいか、泣き崩れそうになるのを堪えながら雨の中を彷徨(さまよ)っていた。

 

その間にトランサーから着信音が鳴り響く。

画面を見ずに予想するなら、相手はきっと叔母である真希絵(まきえ)さんだと思う。

傘も持たずに出ていった俺を心配してのことだろうが、正直応答する余裕がないので、簡潔なメッセージを残して 消音(ミュート)にした。

 

 

◆◆◆

 

 

しばらく歩き続け、夕立が止んだ日暮れ頃。

 

通りかかった場所に目を向けると、水希と初めて出会った公園の入り口前だと気づかされる。

 

後に知った話。都内の発展に伴い、老朽化の問題も兼ねて撤去が相次ぐなか『ここだけは残してくれ』と住民からの声が後を絶たなかったらしい。

 

その甲斐あってこそだろうな。

比較的新しく設置されていたとはいえ、今じゃ塗装色が変わった遊具や自販機の配置も含め、憩いの場としての面影は15年前のまま残ってくれている。

それが嬉しくもあるけど、現に無意識のままここまで来た俺の行動が、まさしく『未練がましい元彼』っぽくて複雑なんだよな……。

 

信武「――――」

 

そうして考え(ふけ)ってやっと足を踏み入れ、その先にあるブランコへ近づくと、不意に苦笑してしまっていた。

 

信武「……やっぱ、間近で見てるとかなり錆てんな」

 

持ち手の鎖は全体的に、柵の方も点々と剥げた所から目立っているようだ。

それだけ年季が入っているから、あと何年かすればここも撤去されちまうのかな……と、ネガティブに考えるのはアウトだとしても、そう考えてしまう。

 

止んでからまだ数分後だから、座面は濡れたままだが、

 

信武「まぁ、どの道ずぶ濡れだから関係ねぇか」

 

ズボンの湿り気が増すことに苦笑しつつも柵を越え、夕日を背にブランコに腰を落として項垂れていると、誰もいないことを機にクラウンが話しかけてきた。

 

クラウン『先程までの 彼奴(きゃつ)の様子がアレじゃと、和解は厳しいじゃろうな』

信武「……そうだな」

クラウン『本当なら、今の段階で復縁なぞ諦めるのじゃろうが……その様子じゃと、踏ん切りをつけられんのじゃろ?』

信武「あぁ。ここで出会ってからずっと、俺にとっての生き甲斐だったからな。アイツは――」

 

耳の痛いことを言うクラウンと会話を交え、広場を見据えた。

 

 

 

……忘れもしない。ここでの思い出は、絶対に。

 

互いに『初めての友達』になった日から、季節ごとに桜とかイチョウを眺めたり、雪が降った日なんかは『雪合戦で負けた奴がジュースを奢る』って罰ゲームを設けたりしてたな。

 

特に夏は、よく虫取りしてたっけ。

けどアイツ……見るだけなら平気だけど、触るのは無理だって本気で嫌がってたんだよな。

そんで一度、ウリウリと強引に近づけて、案の定泣かせてしまって……たまたま通りかかったお姉さんに『弟に何してくれてんの?』って言いたげにガン飛ばされてよ……。

どうにか誤解を解くことはできたけど、あん時ゃどんな肝試しよりも冷えっ冷えだったんだよな……。

 

四季関係なく雨の日は、俺か水希の家に遊びに行くこともあった。

前住んでいた実家に招いた当初、まだ生きてたお袋には驚かれたものの、水希を友人として認知してくれたことで気兼ねなく遊べたんだよな。

 

いくらエリート街道を歩ませようったって『レベルの低い人間と付き合うな』と制限かけてくるほど頭でっかちじゃなかったから、その辺は感謝している。

 

だからこそ、そんな当たり前の日々(幸せな日々)が続いてほしいと強く思っていた。

 

……でも、土台叶わない願いだった。

 

アイツ自身の何もかもが変わってしまったのなら、俺も必然的に変わってしまっていた。

お互い、不安な気持ちが表情に出るほどに。

 

だからもっと、水希に喜んで貰うために『出来ることを今以上に全力で取り組もう』とした。

勉学でも剣道でも好成績を残すたび、決まっていつも自分のことの様に喜んでくれたから。

 

他の誰よりも、アイツは笑顔が一番似合うから。

自己満足は承知の上で、もう一度……もう一度でいいから、心の底から笑ってほしかった。

 

……だけど、薄々感づいていたんだ……。

 

誰にでもある“嫉妬”という感情。

笑顔が少なくなった理由はそれかと疑ったけど、実際違っていた。

 

 

***

 

それが判ったのは、中学二年生の冬。

 

終業式を終え、雪が降る帰り道。この公園で二人きりの時だった。

真剣な眼差しで俺と向かい合う水希が胸の内を明かそうとしたのだ。

 

水希『―――高校、別の所に行こうと思ってるの』

 

『どうして?』とすぐに言い返せないくらい言葉が詰まってしまった。

いつも苦手科目を中心に勉強を教えたから、学力に関しては俺と同じ高校にギリ受かるだろうと見込んでいたけれど、進路先が別だという事実を耳にして、言葉を発するまで狼狽えていた。

 

信武『……別の、所って……どこへ?』

水希『県外にある全寮制。そこへ受験するつもり』

信武『……どうして……そこに?』

 

おぼつかない俺の疑問に、水希は清々しそうな笑みを浮かべてこう答えた。

 

水希『やりたいことが見つかったから。その為にも、いつまでも信武に頼りきりじゃダメだって思ったんだ』

信武『何を、見つけたんだよ……?』

 

率直に問うと、水希は首を横に振り『今は言えない』と濁すように返す。

 

信武『俺が一緒だと、駄目なのか……?』

水希『ダメ。信武(しのぶ)は剣道強豪の都立受けるんでしょ? 段位上げるんだーって張り切ってたじゃん!』

 

水希が言うように、都立高校の受験は目標を立ててこその決断だった。

……でも、剣道大会で勝ち続けられたのは、水希の応援があってこそだから。……だから何度も『行くな』って言いかけたのだが……。

やりたいこと――――つまり、時期的にブラザーバンド計画を実行に移す一年前だから、どのように説得されようと引き返す理由も意志さえも、あの時点で既になかったんだろうな……。

 

何故分かると? そりゃ当事者の息子なんだぜ?

親父もかつて『船長として出向く以上、責務を果たさなきゃならない』と、決意を固めた面構えで俺とお袋に事情を話したから。

 

そんで、俺と同じ学生だからこそ、相応の資格を持たない水希が同行するだなんて考えられねぇよ、……文字通り、()()()()()()として生きてたらな。

 

高校生活での三年間、メールのやりとりで感じた違和感がこれかと思うと本当にやりきれない……。

 

水希『それにね……信武みたいに何もかも完璧にできるわけじゃないけど、僕なりに()()()()()()()()()()()()()()って思えたの。

だって信武は、僕にとって目標でもあるからね』

 

正直、別の高校選ぶなら都内にしてくれってワガママをぶつけてしまおうかと思ったけど、言えなかった。

……言えるわけがなかった。

 

けどその代わりに、寂しさを埋めるようにして抱きついていた。

 

水希『―――え!?』

信武『……俺はただ、目標だとか関係なしに、お前が隣にいてくれるだけでも良かった……』

水希『……信武』

 

最初こそ驚かれたものの、俺の背中に手を回してくれて……互いに互いを(すが)りつくような状態が続いてたんだ。

 

水希『こんなこと言っておいてあれだけどさ、僕だって寂しいし辛いんだよ。ずっと一緒だったから、環境が変わるとなると受け入れ難いもんだと思うよ。

……でも、信武から進路先聞かれる前から考えてたの。本当にこのままで大丈夫かなって。でも最近になって決心ついたの』

 

その直後、水希は一歩引いて、俺の顔を伺うように見上げて言うのだった。

 

水希『だからさ、お互い頑張ろうよ。別々の道に進んでも胸張っていけるようにさ!』

信武『………ああ!』

 

俺の頑張りを見守ってくれて、更には目標として見てもらえる分ガッカリさせるわけに行かないな。……って思いながら、水希の主張に圧されてしまっていた。

 

当時を思い返すほど、我ながら水希に甘過ぎるなぁと改めて思わされる。

 

いざ決めたら突き進む頑固者である以上、意見を通せない時は決まって、最終的に根負けしてしまうのは俺だったからな。

 

 

***

 

 

当時は、別々の道に進みたがる意図を理解できずとも、並々ならぬ覚悟があるんだと感じて、水希の言葉を信じきっていた。

 

だからこそ、今ならよくわかる。

なんで俺を突き放そうとしたのか―――結局のところ邪魔でしかないから。

 

『なんにも……何にも知らない癖に!!』

 

バカ野郎が。

話してくれなきゃ、知らなくて当然だろうが。

 

そりゃ気にかけてたさ……だけど、いざ聞こうとすれば、お前が居なくなるかもしれないと思ったから……そのせいで踏み出せなかったんだよ。

 

なのに……リヴァイアって野郎が、俺の知らない場所で水希の隣に立っていて……言ってしまえば俺は、ずっと蚊帳の外なんだぞ?

 

そんな俺が……お前に、何をしてやれたって言うんだよ……?

 

信武「はじめから邪魔だって言ってくれりゃ、清々したのに……」

「それ本気で言ってんの、アンタ。はっきり言われたら言われたで、今みたいに不貞腐れると思わないの?」

 

いつの間に、水希につきまとっていた類人猿が目の前にいた。

名前は……レティだったか。

 

信武「……もうわかってるさ。どうせ俺は、都合の良い存在でしかなかったんだろ……?」

レティ「バカね。本当に都合が良いだけなら、別れ話を切り出す前にフェードアウトするでしょ? かと言って何も話さずにサヨナラするのもどうかと思うけど。

どちらにせよ、端から見ればお互い馬鹿よね。わざと嫌われようとしてる水希も。それを真に受けていじけてるアンタも」

信武「黙って聞いてりゃ、好き勝手言ってんじゃねえよクソアマ」

 

ついカッとなって睨みつけたが、呆れ顔で吐き捨てたレティは次の瞬間、並の人間を怯ますほどの殺気を放ちながら言った。

 

レティ「減らず口は変わらずねぇ……また半殺しにしてやろうかしら?」

信武「上等だ。その前にテメェの首を刈り取ってやるよ」

レティ「ならせめて一分は立ってないとねぇ?」

 

文字通りに瞬殺された時を、嫌でも思い出させやがる。

 

腕を組みながら余裕の笑みで挑発するレティを殴りたい気分だったが、今はそれどころじゃないと、拳を握りながらも堪えるしかなかった。

 

信武「……俺を、殺しに来たのか……?」

レティ「違うわ。……その様子じゃ、水希から聞かされたんでしょ? 私達の行動の真意を」

 

俺の問にノーと答えたところで、レティは殺気を押し留め、事の次第を話した。

 

レティ「時間の許す限り、戦闘員を増やすためなら何もかも利用する気でいたわ。この先の戦いを乗り越え、目的を完遂するにしても水希一人じゃ重荷だろうし、最低でも三人、確保出来れば誰でも構わなかった」

信武「……お前も、わざとやってるってことを否定しねぇのな?」

レティ「当たり前じゃない。人を弄んでおいて「わざとじゃない」って開き直るのはクズだけよ。でもアイツは、悲劇に見舞われてから立ち止まってばかりだと思う? ――何をどう間違えようと、アンタ達が生きるのを辞めないのは、前へ進むしか方法が無いと自分に言い聞かせてたから。違う?」

 

レティの発言には、何の言葉も返せなかった。

 

そりゃそうだ。あれだけ多くの犠牲者がありながら、アイツの口から『自分は関係ない(わざとじゃない)』なんて吐かしやがったなら、あの時確実に仕留めただろう。

 

けれど、アイツ自身も被害者の一人だと思うと、殺せなかった。

行方不明のクルー達全員を助けられなかったこと、そして力及ばず泣く泣く帰ってきた後の絶望感を深祐から聞いて、それでも俺を突き放したことに納得できなかっただけ。

 

そのくせ中途半端に八つ当たりばっかしてるんじゃあな……。

 

信武「……そりゃガキくせぇよな、俺って……」

 

仮に事情を話してくれたとしても、下手すりゃ絶縁を言い渡してもおかしくない状況だったからな。

ただ早いか遅いかの話でしかないんだ、と一人で納得してる俺を見て、レティは溜息をこぼしながら言った。

 

レティ「私ね、アンタらの戦いを見て思ったのよ。アンタは強いわ、水希よりもずっとね。でもどうしてアンタじゃなくて星河スバルを選んだのか。……案外、想像に(かた)くないのよ」

 

そう言いながら、話を続ける。

 

レティ「あの子は単に、リスクが少ない方を取っただけ。子供だから扱いやすいし、ちゃんと説明してやればわかってくれるって信頼もあったからでしょう。

それに、私が思うに、アンタが悪い方向へ変わってしまうことを恐れてたのよ。綺麗なままでいて欲しいって言ってたしね。

だから、私が前言った通り、アンタはお呼びじゃなかった」

信武「だったら何だよ……今更俺に何ができるって言うんだよ……!」

レティ「あるじゃない。水希(あのバカ)を止める力が」

信武「……っ」

レティ「リンドヴルムは元々、水希が忌み嫌っても尚求める強さそのもの。それを手にするために封印を解くことは、避けて通れない道でもあった。

……でも結局は半暴走状態に陥って、今じゃ人類の脅威と見做されかけている。――そんな悪い状況を乗り越えるには【仲間】が必要不可欠なのよ」

信武「……つまり、何が言いたい?」

 

話の要点が掴めずにそう言うと、何もない空間に穴が開き、レティはそこからノートらしきものを取り出して突きつけた。

 

信武「……それって……?」

レティ「水希の日記。こっそり拝借したのよ。水希の事で思い留まってるなら、これを見た上でどうするかを決めて頂戴」

 

視線を日記の方へずらし、手に取ろうとした瞬間。

 

レティ「……言っとくけど、途中で投げ出すなんてことしないでよね?」

 

念を押す彼女の言葉に頷いて、手渡された日記を恐る恐るめくる。

 

 


 

9月1日

 

今日から、はじめて日記を書くことになった。

夏休みの分はとっくにやったけど、わすれられないことがあれば書いて、思い出せるようにしたい。

毎日は無理だから、気が向いた時に書こうと思う。

 

 

ユリウスがいなくなってから一週間がたった。

あの時の事件でぼくがむやみに力を使ったせいで、大吾さんにも、ヨイリーおばあちゃん達にもめいわくをかけたから、またぼうそうしないように強くならなきゃ……

もうだれも、何も、うしないたくないから……

 

ただうれしいことに、しんだわけじゃないから、帰りを待てば……きっとまた会える。

今はそうしんじたい。

 

それにリヴァイアも、最後まで一緒にいてくれるって言ってくれたから、あきらめたくない。

 

なきたくなるほど辛くても、あきらめてたまるもんか。

 


 

 

 

書き始めが夏休み明けか。

……たしか、遊ぶ約束しようと電話したら『しばらくは無理』って初めて断られたことあったんだよな。

声色も、どこかしら思い詰めた感じがして不安だったけど、まさかな?

 

過去に力を暴走させたのもあって、リンドヴルムを解放する際、水希自身も()()()()()()()()()を嫌がってたみたいだからな。

 

書き記された出来事が原因だとすれば、ユリウスという奴がまだ帰ってこないのだとすれば、自責の念に駆られたまま暗い性格へと変貌するのは考え()る展開なのかもな。

そう思考を巡らせながら、ページをめくった。

 

俺の様子を静観するレティだが、気にせず読み進む。

 

信武「――――」

 

確かに、本当に気が向いたらだから、何日も日を跨いだりしてるな。

 

ただただ帰りを待つことに関して書かれてるかと思いきや、俺が都大会で優勝したこと、リヴァイアとマンツーマンの特訓でのハードさに意気消沈しかけてたりと、思ったことを書き連ねているようだ。

 

しかし、ページをめくるたびに不穏な気がしてならないのは何故だろうか……?

 

 


 

11月5日

 

今年で11才になった。

お父さんとお母さん、お姉ちゃんやリヴァイアにも、おいわいしてくれてうれしかった。

もっと言うなら、ユリウスにもいわってほしかったな。たん生日を。

 

 


 

1月6日

 

ユリウス、まだ帰ってこない……。

 

ちゃんとご飯食べてるかな。

 

 


 

 

次のページを見た瞬間、思わず目を丸くした。

 

 


4月5日

 

明日から、中学生になるんだ……実感わかないや。

 

でも、新たに通う中学校に信武も来るみたいだから、なんか安心かも……。

 

 

 

はぁぁぁぁ…………好き。

しのぶが好きすぎてマジつらい。

もうさ、女の子として生まれてたら絶っ対ラブレターの文末に一生愛してるー♡って書いてるって絶対!

 

………でも、同じ男だから、信武にとっては親友としての好きで、それ以上でもそれ以下でもない関係なのかな……。

 

それに、恋人でも作ったりしたら………許せないかな。

 

信武に告白する女が、のちに信武をアゴで使うやつだったら……どうしてくれようかな。

二度とそんな真似できなくなるくらいに教育でもしてやろうかな……。

 

 

なんちゃって!

もう…ガラにもないわぁ、フフフフフ……。

 


 

 

…………なんだよ、これ。

 

つまり俺と水希は最初から両想いだったのかよ。

 

あぁよかった…!

喜べ、当時の俺! 全然嫌われてねーぞ!!

 

レティ「……気味悪いわね、なにさっきからニヤけてんのよ……」

信武「……読んでみる?」

 

怪訝そうな顔をするレティに日記を渡すが……愛の重たさが垣間見える字面に顔を青ざめさせ、秒で手元に戻った。

 

なんとも言えぬ空気の中、ページをめくった。

 

 


 

9月14日

 

 

クラスのみんなを見てると、あの大人たちと同じなんじゃないかって、かん違いしてしまう。

 

……こわい。

誰かと目を合わせるのがこわい。

誰かにうらぎられるのがこわい。

何もかも疑いそうで、自分から声をかける勇気すら持てない。

 

部活仲間のみんなは優しい人だけど、やっぱり怖い。

試合を棄権したのだって、色んな場所から目線を感じてて怖いから。

 

 

 

ねぇ、いつになったら帰って来るの?

あの時のことを謝りたいのに。

 

 

 

おねがい 帰ってきて ユリウス……

 


 

……文末に、涙が滲んだ跡が残っていた。

 


 

4月1日

 

今年で中学2年か……

今この時に至るまで、大切なものが増えすぎた。

なら、守らなきゃ……。

 

僕が持てるすべてを使ってでも、みんなを守らなきゃ……。

 

もっと強くならなきゃ……。

 


 

4月10日

 

ここ数年で体調を崩す様子は見られないけど、気づかないとでも思ってんのかな?

 

信武、中学に入る前からずっと無理してる。ほとんど僕絡みの事が原因なんだろうけど。

 

浮かない顔すると、信武は僕を喜ばそうとしてくる。

でもそれ、空回ってるよ。

 

なんたって、誰もが憧れる優等生様が僕一人に構ってるせいで、クラスの女子に睨まれてるんだよ。

まぁぶっちゃけそいつらが何思っていようがどうでもいいけど……『お願いだから、僕なんかのために無理しないで』ってちゃんと言えたらどれだけ楽なものか。

 

そう悲観的に思ってるから、うまく笑えないんだろうね。

 

変わらず優しくしてくれる信武が大好きなのに、いつも素直になれない自分も人に言えないか……。

 

 

 

4日前に大吾さんからのメール見て、今日NAXAの局長さんにキズナ号の同行許可を貰えたのは大きかったな。

 

信武と離れ離れになるのは嫌だけど、急な申し立てを受けてくれたからには、腹をくくらないとね。

 

 


 

12月18日

 

終業式の帰り道、信武を公園に連れて行って、進路先を変えるって話した時に見せた悲しそうな顔……言葉にするのは不謹慎だけど、初めて。

 

でも、同じ状況にあったら自分だってそうなるよ。

当然、だよね。

 

 


 

2月20日

 

今日、大吾さんを含め、クルー全員が地球を飛び発った。

キズナ号での生活はどんなものかは想像つかないけれど、ともかく事が上手く運んでくれれば何も言うことはない。

 

僕も中学を卒業して数日後に合流する予定だ。

 

 

進学……考えてなかったわけじゃない。

それでも、周りからの反対を押し切ってでもついて行きたかった。

大吾さん、人に言えてないレベルで危なっかしいから余計心配だし、何しろ……戦う他に取り柄がないからこそ、この命に変えてでも守らなきゃと思うから。

 

ごめんね、信武。勉強教えてくれたのに、全部無駄にしちゃった。

本当は一緒に都立へ行きたかったけど、やるべきことが出来たの。

 

だから、待ってて。

必ず、良い土産話ができるように頑張るから!

 


 

1月31日

 

NAXA及び、宇宙飛行に携わる関係者と共に行方不明者を捜索して一ヶ月。

鳴田(なりた)さん、ロイドさん、フレインさんの三人と、大吾さんの所持品であるビジライザーとペンダントが見つかったけど、それ以外の成果は1割にも満たなかった。

 

……言葉にできないし、信じたくない。

 

その気持ちは、行方不明者の親族もみんな一緒。

ましてや船長……信武のお父さんまでも見殺しにしちゃったなんて……。

 

どの面下げて会えと? 無理だよ……。

信武から嫌われるくらいなら、いっそのこと自分は死んだことにすればいい……。

 

もうそれしかない……。

 

 


 

2月7日

 

誰かに言われた。疫病神だって。

でも不思議と自分に合ってるなと嘲てしまいそうだ。

 

スバルには学校に行けなくなるくらいのトラウマを植え付けて、信武と深祐さんと縁を切る羽目になり、悲しみの連鎖を生んでばっかりだから。

 

けど、何もできない訳じゃない。

まだ出来ることはある。

 

引きこもりがちのスバルの心を埋められるように接したい。

たとえお節介でしかなくても、唯一できる償いだと思うから。

 

そして、必ず……大吾さん達を助ける。

だって今、レティっていう心強い味方ができたから。

 

問題は今以上に鍛錬する必要があるけれど、いい加減リンドヴルムを扱えるようにならないと面目立たないからね。

 

……もう誰も失いたくない。

 


 

それから先は、まっさらな白紙だから、日記はこれで最後だと思う。

 

そっと閉じて、レティに改めて問い質す。

 

信武「なぁ……水希は、お前がやれば早いんじゃないのか?」

レティ「無理ね、私の能力でリンドヴルムからの精神支配を阻害してる、つまりは生き長らえさせてるから、解除した時点であの子は文字通り()()()()()()わ」

信武「………!?」

レティ「共に戦える仲間ができたとしても、生きて帰れる程の実力と素養があるって確証がなければ、水希は絶対にソイツを戦場に出向かせず、一切信じようとしない。

星河スバルはその段階を乗り越えてるけれど、水希を倒せる実力者じゃない。だから私直々に申し出てるワケ」

 

だからもう一度言うわ。と一呼吸おいて、悲痛な顔つきになりながら声を発した。

 

レティ「お願い、水希を、助けてあげて……」

 

……そう、救いを求めるようにして頭を下げるのだった。




信武(しのぶ)の過去回想編は以上です。

アニメ版でのスバルvsキグナス戦は長引いてましたが、前回で一区切りついたのでもう一息ですね。

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次回もお楽しみに!

アポカリプス編、40話〜最終回までのイメージED曲「四季刻歌」
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