流星のロックマン 水希リスタート   作:アリア・ナイトハルト

65 / 87
皆様、お久しぶりでございます……。
投稿が遅れた理由についてですが、正月過ぎた辺りにコロナを患い、回復してから陰性確認後も、転職先の面接を受けに行ったりなどバタバタしておりました。

ですが、少しずつ執筆の時間も取れた今、残り数話書いてもうそろそろ新章に突入したいところ。
(OP曲のイメージは、スカイアリーナのお空の曲です)


相変わらずのペースではありますが、お付き合いしていただければ幸いです。




42話 一途な騎士様

 

水中に放り込まれたかのような感覚に身を委ね、微かな音を拾っていた。

 

全身はろくに動かせず、抵抗虚しく海の底へ沈んでいっている気がする。

 

そして暗い。何処もかしこも暗い。

どれだけ見渡そうとしても何もないし、何も見えなくて当然だ。

 

……けど、わかる。

 

視線の先にいる人達が爪先から微細な泡と化し、(ことごと)く海の一部となりゆく様を眺めることしか出来ず、手を伸ばそうにも届かない歯痒さに打ちひしがれそうだった……。

 

(……ユリウス、大吾さん――リヴァイア、信武(しのぶ)……)

 

大好きな人がみんないなくなる。

疫病神である自分と関わったせいで。

 

天地さんも、リュウさんも、深祐(しんすけ)さんも、両親も、お姉ちゃんも………スバルも。

 

いつかまた、いなくなる。

 

どうせまた、いなくなる。

 

他ならぬ星河水希(やくびょうがみ)がそこにいるだけで、目の前から消えていく。

 

大切な物全てが、記憶ごと奪われそうで、気が気でない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弱いから、誰一人として救えないって言いたいの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なら……もういっそ、死んでしまいたい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

毎度のごとく見る、変わり映えのない悪夢。

 

その苦痛から疾く逃れるように瞼を開けたが、伝い落ちた涙を拭う手を見て、自分の意思で変身が解けなくなったことを憂えていた。

理由は勿論、リンドヴルムの解放によって心身もろとも同調が完全になりつつあるから。

 

こんな時、いつもならリヴァイアが頭を撫でてくれるけど。今じゃ現実世界(おもて)に出てくる気配すらなく、きっと主導権を握られているんだと思う。

 

 

もはや救いの無いバッドエンドしか辿れないのかと自嘲気味に笑ったが、連想したところで虚しいだけだった。

 

水希「………」

 

あの時『顔も見たくない』と拒絶され、居た堪れずに戦場から逃げ……気がつけば、どこともしれず陽も差さない森に降り立ち、そびえる木の幹に背を預けて眠っていた。

 

そのせいか、身体の節々が寝違えたかのように強張り、立つことさえやっとの状態だが、虚ろになりながら森の中をトボトボと歩き続け、徐々に明かりは増していく。

 

やがて開けた場所に出て、その場にへたり込んだ瞬間、細波(さざなみ)の音を聴き取り我に帰る。

 

水希「……いつの間に……」

 

森を抜けた先にビーチがあるとは思いもよらず、夏真っ盛りなら人で溢れそうなほど景観が良い場所なのだが……愚かにもネガティブ思考に耽っていた。

 

何故、こんなにも己の心を映し見るものなのか。

仄暗い雲が空全体を覆ったせいで、浅瀬から先が暗く淀んでいるように見え、それがまるで黄泉の世界へと誘き寄せられるような……そんなおぞましさに宛てられて、夢で見た光景と重ね合わせてしまい、途端に目も当てられずに俯いてしまう。

 

 

……思えば、空回ってばかりの人生だった。

 

最初はただ、年齢的にもお遊び感覚でしかなかったけれど、【身近にいる大切な人を守りたい】と意識してから二度と失うもんかと負けん気で戦い続けてきた。

 

どんな形でもいいからと躍起になって、ひたすら強さを追い求めていた。

 

すべては、11年前。

()()()()()()から助けてくれたユリウスの恩義に報いるため。

 

それだけじゃない。

 

『僕とリヴァイア』、『スバルとウォーロック』という関係性のように、異星人と手を取り合い共存しやすい理想郷を――大吾さんの夢が実る瞬間をどうしても見届けたかった。

 

幼い頃、成し得なかった約束が果たせるかもしれないと、チャンスが巡ってきて嬉しかったから。

 

……けれど、一歩及ばず無に帰した。

 

そうして泣く泣く地球に戻ってから、誰も彼に恨まれ、疎まれ、スバルにもまだ完全に許してもらえたわけじゃない。

 

本当ならとっくに処刑されてるんだろうけど、FM星人への対抗策――要は、天敵として。

半ば捨て駒として生かされてるもんだから、楽に死ねるとは思ってなかった。

 

……なのに、結局負けて、生かされてる。

 

戦士として15年にもなるのに、信武が相手じゃ敵わない。

 

そりゃそうだ。

 

剣道で数々の功績を積むほど鍛錬を重ねたからこそ、応戦できて当然だ。

 

洗練された身の熟しを崩すイメージが湧かなくて当然だ。

 

憧れと同時にコンプレックスを抱かせる存在だから、望まぬ形での再会からずっと煩わしく思っていた。

 

 

 

(……本当に、生きてる価値あんの?)

 

何度も思った。

生き恥をさらし続け、抗うだけ抗ってもつまずく奴に存在価値があるのか? と。

 

(……どうして、誰も殺してくれないの?)

 

何度も思った。

自分で死ぬ勇気がないから、他人になすりつけようという浅はかな考えを持ってもいた。

 

頼んだところで御免被ると断られるだろうに。

 

 

何をしても思い通りに行かないのなら……もう、諦めた方がいいのかな……?

 

……なんて考えていた、その時。

 

「―――やっと見つけた」

 

砂浜を踏みしめる足音に気づき、そして聞き覚えのある優しげな声に、恐る恐る振り返る。

 

「どうした? そんな泣きそうな顔してさ、やな事でもあったのか?」

 

()()()()()()は、笑いかけながら白々しいことを言ってくれやがった。

 

誰のせいでこうなったんだよ。誰の、せいで……。

 

水希「……なんで? どうして、ここがわかったの……。今更、何しに来たの?」

「ここに来れたのはレティのおかげ。そんでここに来たのは、親友として、バカやってるお前を止めるため」

 

困惑気味に問う僕に真剣な眼差しを向けながら端的な理由を述べ、その上「それだけじゃ不満か?」と問いかけられた。

 

――そうだ。コイツはそういう男だった。

 

理由の有無に関わらず、リヴァイアと同様に厳しくも優しく接してくれる。本当に大嫌いで大好きな人。

 

だからなのか。締めつけるような胸の痛みが、少しだけ和らいだ気がする。

 

水希「……別に。アンタらしいと思ったよ。今も昔も変わらず、僕を優先して駆けつけてくれる所が―――ねぇ、信武?」

 

涙を堪えながら信武の名前を呼ぶと、心苦しそうに見つめ返された。

 

信武「悪かったな。お前の気持ちを考えずに色々と責めてよ。……でもさ、お前の傍に寄り添えたのが俺じゃなくてリヴァイアだってこと……長いこと気づけなかったのは悔しいし、それと同時に寂しく思ったことを判ってほしかった……」

 

謝罪を交えて複雑な心境を聞いてから、返す言葉は見当たらなかった。

 

(一方的に振り回して、身勝手なままに突き放したっていうのに。どうして?)

 

どういう風の吹き回しかは知る由もないし、大切なヒトをぞんざいに扱ってるクズなんて嫌われて当然なのに……。

こんな最低なヤツを、どうしてまだ気にかけてくれるの……信武。

 

信武「でも当時は『水希(おまえ)の心を満たせないんじゃないか』と思って、それ以上考える気もなかったけどさ………結局、今までのお前に対する気遣いは、言っちゃえばお節介でしかなかったんだよな」

水希「だろうね。ここにいる星河水希(だれかさん)のおかげで、ずっと振り回されっぱなしだもんね、アンタ」

 

そう言いのける僕を見て、信武は言葉が詰まるほど動揺するのだが、実のところ自分も内心驚いていた。

本当は『そんなことない』って否定できたはずなのに、意図せず口を滑らせていた。

 

水希「お節介どころか……信武だけじゃ足りないよ。深祐さんも、リヴァイアも、お姉ちゃんも、スバルも……みんないてくれなきゃダメ。だって失いたくないし。

つまるところ。欲張りなんだよ、どこまでも」

信武「……フ、フフッ、それを欲張りって可愛すぎだろ」

水希「………どう言う意味?」

 

一瞬呆けたかと思えば可愛いと誂われ、不服な態度を取ると、信武は微笑ましげに返答した。

 

信武「いや何、存外可愛らしい悩みだと思ってな。そういった人間味がまだ残ってくれてホッとしたのさ」

水希「人間味、ね……」

 

僕自身が何を発言しようと、否定せずポジティブに捉えて受け入れようとする。

そんな信武の優しさにいつも鼓舞されてきたけど、今の状況では胸がつっかえるほどで、視線を逸らして声を発した。

 

水希「まぁでも、そんな人間味があったところでヒーローの真似事なんて 烏滸(おこ)がましかったんだよ。結局……弱けりゃ何も、誰一人も守れないんだからさ」

信武「水希、それは――」

水希「だからもう、()()()()()()()()()

 

その発言を最後に、両手を真横に広げた。

 

 

◆◆◆

 

 

悪寒が走ったのは、水希が諦めると言った後だった。

 

周りの空気が張り詰めるほどの殺気に、森の木々に身を預けていた鳥達が逃げ、海も些かざわめくように波打つなか、嫌な予感が的中した。

 

水希「――〈天と地、生ける命に恵みを与えし水よ。集え。我が意思に呼応せよ。我が糧として纏え〉――」

 

年甲斐もなく中二病漂う……いや、なんだか物々しい雰囲気を漂わせて詠唱した瞬間。

水希の声に引き寄せられるように海水が身体中を纏わり、バリアを張るような球体へと形状変化。

加えて、季節外れも甚だしいほどに寒気を帯びた潮風が荒れ狂い、水希と距離を離すように吹き飛ばされた。

 

……だが見る限り、詠唱は終わっていない様子。

 

水希「――〈我は海原を統べ、災厄を司りし悪魔なり〉――」

 

次第に球体が凍りつき始めたその時。

水希自身が力の解放を躊躇い、力そのものを忌み嫌う理由を、改めて理解することとなる。

 

水希「――〈賜りし水の恩恵よ、今一度、仇敵を裁く力と化せ〉――」

 

潮風が吹雪へと変貌し、その猛威が存分に振るわれたことで瞬く間に銀世界と変わりゆく。 

 

なるほど、これ程とは……。

相対した誰もが危険視する理由がよく分かる。

 

暴力的なまでに吹き荒れる寒波。それをもろに受けた身体が末端から凍りつき、徐々に中心部にまで至り始めたから。

 

深祐から聞いた話。一部の人間から【生ける災厄】と怖れられたのも納得がいく。

 

水希「――〈象徴せし真名は【リンドヴルム】〉――!」

 

終いに、声高々と名告(なの)ったせいか、勢いが激化したように感じた。

 

クラウン『信武、変身せい!!』

信武「……電波、変換――宇田海 信武、オン・エア!!」

 

いよいよ身の危険を感じたクラウンに急かされ、やむなく変身してすぐさまシールドを張るが、この凄まじい寒気にある程度耐えられるとしても油断ならないのは確かだ。

 

あの女にも注意されたしな……。

 

 

***

 

公園での出来事に遡る。

 

頭を下げてまで協力を仰ごうとするレティの必死さを見て呆気に取られながらも、平静を取り戻してから訊ねた。

 

信武『一つ、確認したいことがある』

レティ『……何?』

信武『水希自身が躊躇うことなく全力を出そうとして、俺に勝算があるのか?』

 

その問に、レティは頭を上げて『あるにはある』と告げた。

 

レティ『極端な話。隙を作って、殺す気で大技を当てればいいだけ。粗方体力が削られたら、後は私に任せて』

信武『任せろったって……具体的にどう対処すんだよ?』

 

半信半疑な俺の反応を見越して、控えめに差し出された手が()()()()()()()途端、発せられた不快音に伴ってモザイクでもかけたかのように型状が乱れる。

その有様に驚く俺を、レティは気にも留めず説明し始める。

 

レティ『持ち得る能力の一つである【ノイズ】。これを水希の体内へと流し込み、意図的且つ強制的に拒絶反応を起こしてリンドヴルムを引き剥がす』

 

“拒絶反応”を起こすと言う時点で、作戦として最善策とは思えないが、そうでもしなきゃもっと酷い事態になり得るから、形振り構わずに行くのだろうか。

 

考えれば考えるほど、頭痛が酷くなる。

 

レティ『……苦しんで欲しくないのは、私も同感。でも手段は選んでられないのよ……』

 

色々と考えを巡らせていると、手を引っ込めたレティが苦し紛れの言い訳をして、沈黙する俺を差し置いて続けた。

 

レティ『水希が本気を出せない理由は一つ。それはね、水希の性格と扱う能力の特性も相まって、人的被害を及ぼす危険性を理解した上で闇雲に攻撃できないからよ。人が集まりやすい場所だと特にね』

信武『特性……?』

 

誰かを傷つけたくない。間違った力の使い方をしたくない。

水希の性格云々なしに想像に難くない話だが、どうにも腑に落ちなかった俺の反応をレティは見逃さなかった。

 

レティ『そう。たとえ今みたいな暴走状態じゃなかろうと、その気になれば国一つ滅ぼせる能力だからこそ危険視されていたのよ。

故に、敵と1or1(タイマン)だろうが、複数を相手取ろうが、戦況的有利でいられる条件は()()()()()()()()()()()()()か、あるいは()()()()()()()()()()()()()()()()()()。もっと良ければ()()()()()()()()()()()であることよ。

だからこそ、戦いの場における憂いを取り払ったその時が、正真正銘の全力と思いなさい』

 

 

***

 

……現に、レティの指摘通り、水希にとって憂いを取り払った環境下だとしても、周囲への二次被害を考えたら全然そうでもない。

 

だが、問題はそれだけじゃない。

 

以前よりパワーアップしているのなら、やっと本気を出そうとしてるのなら、前回のようにお互い慢心できないだろう。

 

それは分かりきったこと。

 

ただ今は、俺なりのやり方でアイツを倒せば(救えば)いい。

 

もう一度、あの頃の関係に戻れるのなら……。

 

決意を胸に秘め、剣の柄を強く握った瞬間。

吹雪が収まる頃にシールドが消え、やがて視線の先にある球体にヒビが入り、殻を破るように砕け散る。

その余波で霧が立ちこめるなか、怒りを募らす声が聞こえ、一歩ずつ進んでくる影が見えてきた。

 

水希「……希望に縋るだけ無駄なら、もう何も望まないし何もいらない。疫病神らしくFM星人(アイツら)を根絶やしにすれば、少しは気が晴れるのかもね。所詮、憎たらしい存在だってことに変わりないし、意識乗っ取られて嫌々戦わされる心配も無いからね……」

 

霧が晴れた時。歩みを止めて、光を宿さない眼で正視する水希に警戒すると同時に、言動一つ取っても呆れたものだと感じていた。

 

たった数回負けたくらいで酷く落ち込むバカに、無力感で押しつぶされそうなのはお前だけじゃねぇんだぞ。と叱ってやりたい気分だから。

 

水希「ごめんねユリウス。約束はもう果たせないみたい。だからもう―――全部壊れちゃえばいいんだよ」

信武「お前!」

水希「ほんっと笑えるわ。何が『みんなと仲良く』だよ反吐が出る。そんな絵空事なんて叶うわけないし、異端者を排斥するゴミ共と馴れ合いなんざクソ喰らえだわ!」

信武「……それ、お前が言えたセリフかよ?」

 

本音を曝け出す水希にそうぼやくと、ギロリと鋭く睨まれるが、臆せず睨み返した。

 

信武「さっきから黙って聞いてりゃ……絵空事だの、叶わねぇだの、馴れ合いなぞクソ喰らえだの。

人生賭けてでも叶えたいがために縋ってたお前が、そこまで悲観してりゃユリウス(待ち人)も安心して帰れねぇだろうよ。

そうやっていつまでも、ガキみたいに塞ぎ込んで、弱音吐いてばっかだから!」

 

積もりに積もった怒りをぶつけた、その瞬間。

 

水希黙れッッ!!!

 

滅多にない剣幕で激昂する水希の眼前に魔法陣が複数展開され、砲撃とおぼしき威力と速度で放つ〈クリスタルバレット〉が着弾するたび、雪に混って砂煙が荒々しく舞い上がる。

 

しかし、来ると予感して猛攻を潜り抜けるが、砂浜を覆った雪化粧が抉り取られるように、見るも無惨なクレーターと化していた。

 

(……下手に食らえば、死ぬかもな)

 

試合と勝手が違う、正真正銘の――親友との殺し合い。

 

そう思うだけでかつてないプレッシャーを感じるが、握った剣を構え直すほど嫌に冷静な俺を、水希は心底恨めしそうに睨み、声にする。

 

水希「……あぁそうだよ。弱いよ。弱いから、根本的に分かり合えないんだよ。いつも誰かの期待に応えてこれたアンタに。

一人で、誰よりも高みに登って行けたアンタと、生き様が違うから……!」

信武「生き様がどうこう以前に分かり合えないって、本気で思ってんのか?」

 

絞り出すように怒りをぶつける水希に、剣先を下ろして問い質し、同時に諭そうとした。

 

信武「それに誰しも、最初から一人で強くなれねぇだろ。お前も……俺も」

水希「………はぁ?」

 

突飛なこと言い出せば無理ないけど、あからさまに訝しまれながらも続けた。

 

信武「俺だって、竹刀を握り始めた頃から強かったわけじゃねぇし、かと言って強くなっても“単に力を付けたい”って理由じゃあ、きっと続けられなかった。

……けど、そんな状況から脱したのは、お前と出会ってからなんだよ!」

水希「……なにを、言って……」

信武「忘れたワケじゃないだろ。俺が勝ててんのは、お前が欠かさず応援に来てくれるおかげだって」

 

……少しは、思い出してくれたかな?

 

水希は目を丸くして硬まるが、俺にとってはなんてことない話にすぎないのだ。

 

神童。天才。

 

周囲の人が持つ俺への評価は、大抵この2つ。

そのイメージが拭えなくて、常々強者として見られがちなんだろうけどな。

どの試合においても勝てるイメージが湧く時は、自分の事のように喜ぶ水希に応えたいと思う気持ちが、いつも俺の背中を押して奮い立たせてくれたから。

 

【常勝無敗の神童】と謳われる由来の一つはきっと、それなんだと思ってる。

 

お前がいてくれなきゃ、腐り果てたかも知れない。

 

お前がいてくれたから、めげずに頑張ってこれた。

 

 

それにさ……本っ当は寂しい癖に、変に強がって気負ってる部分も俺とそっくりで、放っておけないと感じさせるから。

 

だからこそ言えるんだよ。

メンヘラ拗らせたお前にどんだけ振り回されようたって、―――今でも守りたい大切なヒトだって、心底思うから!

 

一途な思いも、ここまで来ると狂信的と見られがちなんだろうけど、ずっと昔から水希への独占欲強いなって自覚はあったんだよ。

 

どうせなら同じ剣道部に入れたかったのに、水希のやつ中学上がってバドミントン部に入部(うわき)するわ。高校生活も一緒に謳歌するかと思えば県外に行くって建前言うて、星河大吾(類人猿)&リヴァイア(クソ蛇)と宇宙行くわ。その挙げ句、勝手に連絡先ブロックしてくれるわ。

 

あ〜クッソ、なんで俺を選んでくれないんだよチキショー!

思い出すだけでも超ムカつく……。

 

 

……ムカつくけど、皮肉にも水希を好いた時点で、すでに手遅れだったんだ。

 

信武「出会ったその時から……なりたかったんだよ。お前を守れる騎士(ナイト)に」

水希「………っ」

 

思いを伝えたら、困惑と驚愕が綯い交ぜになるような、そんな表情を向けられた。

 

信武「……でも、騎士(ナイト)としての役目はリヴァイアに横取りされたし、逆を言えば、他ならぬ水希に守ってもらってる立場だから、あんまし格好がつかないんだろうけどな……」

 

水希はなにも答えようとしないけど、俯きながら拳を握る様子が窺えた。

 

信武「俺がいつも…お前の力になりたいと思ったように、お前も…強くなろうと努力してきたのは――形が違えど一緒に闘ってくれる仲間や、俺よりもずっと近くにいたリヴァイアに報いたかったんじゃねぇのか?」

水希「……ッ、今更、そんなこと言ったって遅いんだよ。ようやく物にできると思ってた! なのにまた、11年前(あの時)みたいにおかしくなりそうで……。その前に全て終わらせるんだよ!! もう生きる意味も価値も無いんだから――」

 

信武「それが人を悲しませるってのに、なんで分からないんだ馬鹿野郎!!

 

水希「――――遮蔽せよ」

 

言っても聞かぬバカ目掛けて雷撃を放つが、展開された魔法陣が障壁となり、案の定無傷だ。

 

だが、そんなこともお構いなしに接近し、帯電する剣を――脳天を割く勢いで振り下ろす。

しかしそれでも、堅牢な障壁の前ではダメージを与えることすらままならない。

 

水希「……力になりたいと思った? ……騎士(ナイト)に、なりたかった? そんなの、誰も頼んでない」

信武「頼まれてなくても、俺がそうしたいと思った!」

水希「っ、そんなこと、言ったって、無理だよ……。もう遅いよ、無駄なんだよ……!」

信武「無駄じゃねぇ! ちゃんと俺の目を見て聞け!!」

 

か細い声色で弱音を吐く水希は、怒声を上げた俺に一瞬肩をビクリと震わせ、おずおずと顔を上げてくる。

互いが一歩も退かんとばかりに剣と障壁がせめぎ合うなか、視線が合うタイミングで問いかける。

 

信武「なぁ水希。……本当に、俺達は嫌々戦わされてると思ってんのか?」

水希「…………」

信武「思うだろうな。実際こうやって殺し合ってるわけだし。

――でもお前、今は復讐心に駆られてるけど、本当は誰かを傷つけたいと思わなかったんだろ? むしろ誰かを守れるくらい強くなって、そのために力を使いたいって。……逆に俺は、最初こそ復讐心で動いてたけど、今はお前を救うことしか考えてない。ここに来るまでずっとだ。

俺達以外はきっと、最初は訳も分からず、意識を乗っ取られた半数は手駒にされるようにして、それぞれ戦場に立たされてる。――でもさ、それだけだと思うか?」

 

経験則に基づいて言うなら、【目標が定まっている奴】と【すべてにおいて中途半端な奴】の戦績は、比べるまでもなく雲泥の差。

 

要するに、どの分野において、自己を高めていく為に必要なもの――――熱意。気概。理由。

そのうちどれか一つでも欠落しては、一生変われないということだ。

 

水希自身が()()()()()()()()()のは、きっと……戦う理由があるとしても、他二つが段々と薄れてきてしまったからだと思う。

 

誰にも理解できない苦しみを抱えて、心を殺し続けたせいで疲弊し、病んで、挙げ句は自信も自尊心も失くして。―――今までそうやって生きてきた結果だから。

 

それでも、まだ遅くはない。

 

言っただろ。お前には、どんな形でも一緒に戦ってくれる仲間がいるって、ちゃんと話しただろ。

助けられてばかりじゃダメのは分かるけど、辛いんだったらもっと周りを頼れよ。迷惑なんて掛けて当然の事だってのに、今になって自分から遠ざけて誰の為にもならねぇだろ。

 

攻撃の手を止め、後退して距離を取るが、説得するのを止めなかった。

 

信武「昨日のことを思い出せよ。俺と深祐の二人と戦う直前に横槍入れてきた、あのガキのこと」

水希「――スバルだよ。小5の時に話したの忘れたワケ?」

 

ってことは俺達が11歳の時、水希が若くして叔父になった話か。そういえば日記にも書いて…………あっ。

 

素っ頓狂な声が危うく出かかったが、既の所で堪え、わざとらしく咳払いをして誤魔化した。

 

信武「………。それはすまん、普通に忘れてた」

水希「……今の間は何。もしかして変なこと考えてた?」

信武「大丈夫。気にすんな」

水希「余計気になるヤツじゃん……」

 

あんまし触れるべきじゃない、よな?

俺のこと一生愛してる♡って日記に書いてた話は。

いやまぁ……俺のこと想ってくれて嬉しいよ。嬉しいけど、殺伐とした状況下ではタブーだろうなきっとそうだ。

 

水希には訝しまれながらも俺は、気持ちをリセットするように話を戻す。

 

信武「ま、とにかくだ。スバルが助太刀しに駆けつけたのだって、お前の力になろうとしてくれたはずだろ。

たとえそれが迷惑だとしても……お前を気遣ってくれる人達が、必ずしも戦場に立ってなかろうと、一緒に闘おうとしてくれてんじゃねぇかよ! 」

水希「……だから嫌なんだよ。……みんなそう言って、近づくたびに消えてくんだよ! ユリウスと大吾さんみたいに!!」

 

水希の背後に再び無数の魔法陣が展開され、そこから漂う冷気に身構えた。

 

水希「そうやってまた失って、苦しい思いをするくらいなら……誰の助けもいらない!! だからもうほっといて!!」

 

すべてを拒むように嘆き、雹が一面に降り注ぐ。

先程と同様、砲撃とも言える威力と速度でだ。

 

“当たれば死”と認識してるこの身体に攻め入るという選択肢は無く、ドクロ兵を100体もの大群で召喚し告げた。()()()()()()と。

 

この上なく残酷な主命に、反発も後退もせず、全うせんと各々が弾幕の雨に飛び込んだ。

 

だが紙を破くような容易さで、無慈悲に、ことごとく射貫(いぬ)かれていくばかり。

 

いよいよ全滅となった時。舌打ちしながらも縦横無尽に動き回って回避するほかない状態だった。

 

……どうする。どうすれば……?

 

雹弾を避けながら打開策を練るが、着地した足元が光るのを視界に捉えた瞬間、飛び退くよりも先に爆風に煽られ、若干宙に浮いて体勢が崩れた所を、右手にかき集めた水をグローブ状にさせた水希が間を詰めてきた。

 

水希「―――ハァァァアアァッッ!!」

信武「……くっ! ―――うぁっ?!」

 

渾身のストレートパンチを剣の側面で防ぐも、踏ん張りが効かないせいで衝撃を逃がせず吹き飛ばされた。

 

地面を転がった末、口元に付いた砂を吐く。

 

正直、水希のことを弱い弱いと罵っていたけど、実際の実力は互角以上と見ている。

 

俺の場合、身体的ステータスは水希より分があり、大抵は剣術でカバーできているけど、能力の扱いには慣れてなく、単調な所はあると自負している。

ただ、〈センチネル・ゴースト〉で召喚されるドクロ兵は皆、簡単な指示でも俺の意思に沿って動いてくれるのが救いだ。

 

対して水希は能力を駆使する戦術に長け、その熟練度に関しては俺より軍配が上がっていて、尚の事【手加減の要らないフィールド上なら存分に戦える】という厄介さも兼ね備えている。

 

牽制として落雷を放っても、さっきみたいに防がれては意味がない。

 

 

水希「……お願いだから、もうこれ以上、何も期待させないで……」

 

体感で10メートルも殴り飛ばされた筈なのに、泣き崩れそうな声音で囁いているような気がして、

 

水希「―――――〈ディザスター・クロール〉!!」

 

多量の海水を手元にかき集め、数瞬と経たずに大技をぶっ放してきた。

 

 

 

このまま、手も足も出ずにやられちまうのか……?

 

もう何一つ、俺の言葉は届かないのか……?

 

もう二度と、笑いかけてくれないのか……?

 

クラウンが力を貸してくれたおかげで、やっと同じ土俵に立てる気がしたのに……。

 

またとないチャンスを逃せば、一生会えなくなるかもしれないのに……。

 

どうすればいい……?

 

 

――――考えろ。

 

迷う暇があるなら、逆境を覆せる妙案を考えろ。

 

もう一度、アイツが心の底から笑ってくれるようになる為に……!

 

(……そうだ、アイツが体の一部のように水を纏ってたなら、やりようによっては俺にも出来るんじゃ……)

 

いつか、水希の家に遊びに行った日。

その時勧められて一緒に見たアニメのなかで、今の俺のように雷を自在に操るキャラ自らが、全身に雷を浴びせ、身体強化へと応用した場面を思い返す。

 

今の俺に足りないものは――俊敏性と機動力。

 

それを補う要素として前述の通りにやれば、可能性があるのでは……?

 

 

しかし、実行に移すよりも先決なのは、刀身に雷を溜め、

 

信武「―――〈インパルス・ブレード〉!!」

 

最大の技を以て、対抗すること!

 

水希「……ッ?! なんの!!」

 

すべてを薙ぎ払う一閃と、超速度で旋回する水撃が、地鳴りを轟かせながら衝突し――――拮抗した後、爆ぜた。

 

砂煙が舞うこの瞬間を狙って、雷を纏った。

 

耐性があれど、必要以上に流し込まないよう調整しながら全身に駆けめぐらせ……、やがて温かみを帯びた光が、……冷たく、無機質な銀世界を煌々と照らして行く。

 

 

 

 

 

信武「〈雷師(らいし)―――光耀(こうよう)〉!!」

 

 

 

 

 

 

――――獅子奮迅たる覇王に、後光が差した。




新技紹介
雷師光耀(らいしこうよう)

全身に雷を帯びたオーラをまとう、ステータス強化技。
発動後のステータス【全身体能力、及び電気属性の与ダメージ上昇率が1.5倍】
その反面、不慣れなため、一時期までは【発動後に体力半減】のデメリット付き。




今回投稿して思ったことは、メンヘラな水希とヤンデレ予備群な信武の関係性って一歩間違えると、割れ鍋に綴じ蓋なんですよね。

互いに両想いなのが共通点だけど、
片や、欠けたピースが埋まらなくて一向に満たされず。
片や、一途が故に、向けた愛が届かないたび、もどかしいと嘆く。

そのモヤモヤを抱えながらいがみ合ってた二人も、ようやく……なのかな。

次回、第43話「死闘のち和解」

どうぞお楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。