流星のロックマン 水希リスタート   作:アリア・ナイトハルト

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43話 死闘のち和解

 

―――〈ディザスター・クロール〉。

 

数ある技の中でも、最大威力を誇る必殺技。

 

名前の後半の通り、渦潮のように旋回させ、使い方次第では敵めがけて直線状に放射する事もできる。

 

何しろ、普段能力で水を生成するのとワケが違い海水(自然のチカラ)を取り込んでいるから、威力が段違いに上がっていることは明白だった。

 

 

今度こそ、信武(しのぶ)に一矢報いることができる。

 

 

三度目の正直だと、そう思い上がっていたけれど、

 

 

信武「―――〈インパルス・ブレード〉!!」

 

 

……やっぱり、そう易々と諦めてはくれなかった。

 

内心、分かりきったことだと受け止める半ば、大人しく眠ってほしいと願ってもいた。

 

信武が諦めの悪い性格をしているのは、親友である自分が一番よく理解していたから、尚の事ね。

 

 

強大な力がぶつかり合い、地鳴りと伴うように大気を震わせながら拮抗し、程なくして相殺されてしまうも間髪入れず攻めようとしたその時だ。

 

信武「〈雷師(らいし)―――光耀(こうよう)〉!!」

 

技名(それ)らしき発動を、声高々と宣言する直後。

 

神々しさと温もりを感じさせ、一面の雪景色を溶かすのではと錯覚するほどの光が、世界を染め上げていく。

 

 

無闇に動けまいと攻めあぐねていると、舞い上がる爆煙から光が漏れ出て、堪らず目を伏せてしまい、

 

 

水希「―――、……?!」

 

 

光が収まる頃。顔を上げれば、あまりにも突然すぎて絶句した。

 

一度(ひとたび)瞬きする刹那、金色のオーラを纏う信武が目前まで間合いを詰めてきたから。

凄まじい勢いで振り下ろされる剣を、障壁を使って寸前の所で受け止める。

 

……()()()()()()()()()()と知る由もなく。

 

水希「ぐ―――ぁッ!!?」

 

砂地に立つ足が沈みそうな衝撃を、歯を食いしばって耐え忍ぶ。

 

……一体なぜ? ――どうして、ここまで強くなれるの?

 

簡単な話。元々高い攻撃力を速さで上乗せして、剣を振るう遠心力も加われば、一撃が重くなって当然……ということだろう。

 

下手すれば武器はおろか身体を壊しかねない無茶を、信武自身もそれを理解した上で―――本気で、僕を止めようとしている。

 

 

………そんな温情、願い下げだっつーの!

 

 

水希「…………ふざ、けんなっ!!」

 

両脇に龍の頭を模した氷像を召喚し、極寒のブレスを零距離で放つ。

 

だが手応えは感じず、気づけば背後を取ろうとしてる信武が再び剣を振り、攻撃が届く前に障壁で防ぎながら、再び問いかける。

 

水希「……ねぇ、信武。なんで今になって邪魔すんの? どうして引き止めようとすんの? もう何も希望が持てないから終わらせるって、本望で言ってんだよ。

――そんで、死ねば、みんなまた笑ってくれるでしょ……? 『疫病神が消えて清々した』って」

 

みんなが思ってそうなことを言っただけなのに、信武は酷く悲しげに歪めている。

 

信武「こ、んの―――分からず屋が!!」

 

衝撃波が押し寄せ、今にも障壁を破られそうなため、信武と対面するよう向き直す。

 

水希「分からず屋なのは信武もでしょ!」

 

前回の戦いでへし折られた三叉槍――トリアイナを新たに生成して、障壁を破いてなお迫りくる剣をせき止めた。

 

水希「関わっても碌な目しか遭わないし、好意を向けるメリットなんてこれっぽっちもないんだから、いっそのこと嫌われたまま、忘れてくれればよかったよ……。

そうなりゃもう、とっくの昔に死ねたのに……!」

 

恥も外聞もかなぐり捨て、感情任せに喚き散らす。

 

確かに、信武が来てくれて嬉しいと思ったけど、色々と蔑ろにしたツケが回ってきて、そのストレスから解放されたいという気持ちも、まったく嘘じゃなかった。

 

だから……何もかも終わらせたかったのに……。

 

ユリウスと大吾さんがいない世界なんて、もう消えちゃえば良いのに……。

 

信武「……そうやって、自分を追いやることしか出来ないってんなら……尚更守ってやりてぇよ。罪も(しがらみ)も…何かも一緒に背負えるなら、そうしたい。そうすれば、少しは負担が軽くなるだろ?」

水希「だから、そんな温情いらないっての!」

 

救いの手を突っぱねるように槍を突き、信武がその一撃を防ぐことで攻守が逆転する。

 

水希「さっきも言ったでしょ、無理なんだよ。だって……今まで背負ってきてる罪と柵(モノ)は、そんな生易しく分け合えないんだから!!」

信武「ったく……いい加減にしろよ駄々っ子が!」

 

聞く耳持たない僕に苛立ちながら、意地でも止めにかかろうと攻てきた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

剣と槍。互いの得物を交えて激しい攻防を繰り広げてはいるが、この勝負の目的は、水希を殺すことではなく止めること。

気絶まで持ち込み、元凶であるリンドヴルムを叩き潰すのが理想的だが……相手が相手だ。

今も尚、俺とまともに打ち合えてるだけに、決して楽なことじゃない。

 

それでも、試合での立ち回りを戦いに活かしてるお陰で、対処は出来ている。

わざわざ俺に合わせて白兵戦なんてしなきゃ良いだろうに……。そこんところ詰めが甘いから、攻撃が届かないんだろ。

 

武器のリーチを逆手に受け流し続け、ガードの固さに水希からは苦い顔をされながらも、ひたすら決定打を放つ機会を伺い、程なくその時が来た。

 

槍での一突きを真上に払い退け、勢いのままに弾き飛ばす。

 

水希「……ッ、この――」

 

体勢を立て直される前に懐に潜り込み、

 

信武「遅ぇ!!!」

水希「――ご、ぁあ……ッ!!?」

 

……幾分加減はしてるつもりだが、ガラ空きの腹を胴打ちの要領で殴りつけ、骨が軋むような鈍い音が嫌に響いた。

 

身体をくの字にさせ、苦悶に歪ます水希を空へ投げ飛ばす。

 

水希「っ……んの野郎ォ!!!」

信武「ぐぅっ!?」

 

間髮入れずに距離を詰めれば、怒り任せに蹴り上げた脚が俺の顎にヒットして、痛みに仰け反った隙を狙うように魔法陣を展開してきた。

 

水希「〈クリスタルバレット〉!!」

信武「ち――!」

 

放たれた雹弾を盾で凌ぐ間に、今度は俺の背後を取ってきた。

 

信武 (……いつの間に!?)

水希「せァァアアアッ!!」

 

下手に防御せず、いつの間に携えてある槍を投射される前にワープで回避。

空打ちになった槍は、海に向かって豪速で下降した後、豪快に水しぶきを立てる。

 

近くのウェーブロードに着地した後、髪をかき乱しそうなくらいに腹立たす水希と面と向かう。

 

水希「あーもう鬱陶しい!! いい加減ブッ倒れろよこの筋肉バカっ!!」

信武「うっせえなぁ! オメェもとっととくたばれやこの体力オバケがッ!!」

 

互いに小学生じみた言い争いになり、しょうもない悪口に揃って顔を真っ赤にさせる。

 

水希「うるさいこの堅物!」

信武「お前こそ黙れよ薄鈍(うすのろ)!」

水希「お節介焼き!」

信武「意気地なし!」

水希「ええかっこしい!」

信武「蓋開けてもアホ!」

 

水希「小言幸兵衛(こごとこうべえ)!! ――誰が木偶の坊だコラ!!」

信武「木偶の坊!! ――誰が小言幸兵衛だコラ!!」

 

最後は微妙にハモってしまったけれど、遠回しに口喧しい奴と言われてカチンと来た俺も、木偶の坊と呼ばれてムキになってる水希も、ホントにもう……幼稚臭いったらありゃしない。

 

それくらい、滅多なことで喧嘩することがない俺等からすれば、鬱憤晴らしのようなもんだ。

 

ただ……方や雷の斬撃やらドクロ兵を飛ばし、方や凍結ブレスやら雹弾などをぶっ放し。

 

規模のデッカい攻撃を見境なく放ちながらじゃなきゃ、ただの口喧嘩なんだがな……。

 

信武「……なあ、水希」

 

激しい攻撃が止んだところで、水希の名を呼びかけた。

 

信武「もう一度聞くけど……本当に、全部諦めて、何もかも壊せば気が晴れるのか?」

 

水希「……何度も同じこと言わせないで。命尽きてでも復讐が果たせるなら、家族も、友達も、その人達との思い出も………要らないんだよ!!」

 

信武「……だったら、なんで――なんでそんな悲しそうに答えんだよ、バカ野郎!!」

 

きっと水希も、俺と同じくらいに感情がぐちゃぐちゃになって、なりふり構わずにいられなかったんだと思う。

 

互いに負傷するのを省みない攻撃を浴びせ、それでも尚、どちらかが倒れるまでその手を止めようとしないから。

 

水希「ずっと……ずっっと気に入らなかった。昔から何でも器用に出来て、頭が良くて、みんなから慕われる存在であれたことが! 自分に無いものをたくさん持ってるアンタが!」

 

信武「……あぁそうかよ。俺もお前のこと気に食わねぇって心底思ったよ。

人の好意に鈍感で、ろくに話も聞かない偏屈者で、身近にある絆をも簡単に捨てちまう薄情っぷりがな!」

 

水希「だからもう、これ以上、アンタの言葉に絆されないように――」

 

信武「だからこそ、これ以上、お前が一人で苦しまずに済むように……」

 

 

 

「「――今度こそ消して(止めて)やるッッ!!」」

 

 

 

限界寸前まで力を出し切らんと必殺技を放つ直前。

 

信武「――――――が、ぁっ?!」

 

全身を纏うオーラが消えた一瞬、締め上げるような激痛に耐え切れず膝をつくが、すぐ立て直そうとして、顔を上げたら、

 

信武「………え」

 

口や目から血を垂れ流す、衝撃的な姿に身の毛がよだつ。

 

水希「……う、そ―――ぶはッ!!」

 

本人も信じられないとばかりに狼狽えていると、大量に吐血し、身体を震わせながら、終には真っ逆さまに海へ落ちていった。

 

信武「水希!?」

 

状況こそまさに、トドメを刺せる絶好の機会。

 

―――でありながら、気がつけば後を追うように飛び降り、勝敗を決する戦いは打ち切りとなった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

天と地を逆転する視界が、真っ赤に染まっていた。

 

ズキズキと頭が痛み、全身が筋肉痛みたく凝り固まったようで上手く動かせず、藻掻くこともままならない。

 

原因は考えるまでもなく、無理が祟ったに過ぎなかっただけ。

 

リンドヴルムをフルパワーにまで解放させれば勝てると思い上がった結果、このザマだ。情けないことこの上ない。

 

(そ、んな……まけた? ここまで、きて……?)

 

抵抗虚しく落ちるなか、悔しさが込み上げ、視界が潤んでボヤけだす。

 

二度あることは三度ある。と言うけれど、復讐を遂げる前に、何度も立ち塞がろうとする信武に捨て身で挑んでも勝てなければ―――この世に留まる意味も、存在価値すらない。

 

(……何も、果たせないなら、もう……)

 

《――見るに堪えんほど無様だな、人の子よ》

 

いい加減諦めるべきなのか。そう思い悩んでいたら、とんだ有様に憐れむ声が聞こえてきた。

 

(その声、リンドヴルム……?)

 

《左様。――戦えぬのなら、もう眠れ。これ以上、汝が手を汚すまでもなかろう》

 

(…………なら、そうする)

 

身を案じていながらも、見切りをつけるような話に応じると、脱力感が増すと同時に、取り憑いたものが剥がれ落ちる感覚があったのだか、何故だろうか………()()()()()()()()()()()を受け入れようとしていた。

 

最早このまま死ねたら楽だと感じ、完全に戦意を失くした今、諦観し卑下する他にしてやれることなかった。

 

 

所詮、人の身に余る力を以て戦うこと自体、烏滸がましかった。

 

共存共栄の未来を築き上げることは、過ぎたる夢でしかなかった。

 

……信武の言う通り、努力した所で何も成し得ない、木偶の坊だった。

 

 

それを実感して、嗚咽が止まらなくなる。

 

 

(ごめん……リヴァイア……。何年もずっと、一緒に戦ってくれたのに……ッ)

 

未だに姿を見せない相棒に向けて、無念な思いを残したまま身を投じた、その時。

 

 

 

信武「水希ーーーー!」

 

(…………え?)

 

 

 

無様に落ちていく自分に続いて、無我夢中に叫びながら手を伸ばす男と、()()()()()()()()()の姿が、不意に重なり合う。

 

『――よかったら俺と友達になってくれよ』

 

『……いいの? “ようかい”の僕なんかと……』

 

『気にすんな! どんなやつが相手だろうと、俺がまとめて蹴散らしてやる! なんたって、俺は強いからな!』

 

『……僕の名前はみずき。よろしくね、しのぶ!』

 

『ああ!』

 

だが、視界が完全にホワイトアウトする前に腕を持ち上げようとしても、差し伸べられた手に触れることは叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして、今いる場所が違う所だと気づかされる。

 

 

右往左往に反響する蝉の(こえ)

窓の外で昇り積もる入道雲。

四角の箱の中に収まり、整列しきった学習机。

 

どこもかしこも見慣れた景色。間違っていなければ、中学校の教室だったはず。

 

(――でも、どうして……こんな所に?)

 

その疑問はすぐに解けた。

俗に言う走馬灯だろう。

 

何せ、自分が居座る窓辺の席から一歩も動くことができないのだから、理解に苦しむことはなかった。

 

………そして、

 

??『どうした? そこで黄昏れてさ。やな事でもあったか?』

 

意思に反して、声の主へと顔を向ける。

自分を呼んでくれる人なんて、先生以外だと信武くらいしか思い当たらないから、すぐに判った。

 

水希『……ううん。別に……』

信武『……そっか、ならいいんだけどな』

 

いつの間にか口を開いて……いや、違う。

単に声変わりする前の自分が信武と話してるだけなんだ。

 

信武『なぁ……お前って、高校どこ行くか決めてんの?』

水希『えっ?』

 

窓にもたれかる信武に心配そうな面持ちで訊かれ、素っ頓狂な声が上がってしまう。

 

水希『……ううん、まだ……』

 

その時は宇宙へ飛び立つことも伝えられずにいたから、ただただ首を横に振り、そんな反応を見て溜息をつかれる。

 

信武『……俺らまだ中二だけどさ、早くにオープンキャンパスに行ってる奴もいるんだぜ? お前もそんなグズグズしてられねーだろ?』

水希『ま、まぁね……』

 

時期的に受験シーズンなこともあり、信武のような意識高い系の子も、そうじゃない子も視察はしていたけれど、皆が真剣に考えるなか一人だけ無関心でいるから、諭されても苦笑いばかりする僕に呆れていたと思う。

 

その何気ない日常(けしき)を見返した上で、勉強を教えてくれた信武に対する罪悪感が、より一層強まりだした。

 

 

 

 

場面が切り替わる。……今度は、駅だ。

それも改札を通り過ぎてから、ホームに入った後だった。

 

信武『本当に大丈夫なのか?』

水希『だいじょ〜ぶ。都心と比べりゃ学業もまだ緩いって、お爺ちゃんも言ってたんだし』

信武『そうじゃなくて、向こうに行っても友達作れんのかって話だろーが』

水希『んー、そこはまぁ、作りたいと感じりゃなんとかなるんじゃね?』

信武『つってもなぁ…。ぶっちゃけお前、コミュ障でドジ踏むし、蓋を開けてもアホだから余計不安でしかねぇわ』

水希『ぐうの音もでねぇですコンチキショー……』

 

さっきの言い争いでも言った通り、小言幸兵衛な信武だけど、その一言一句が的を得たものだし、何より心配してくれているからこそ反論できなかった。

 

水希『しのぶー! 帰ったらまたどっか遊びに行こ!』

信武『あぁ。次会った時にな!』

 

……今でも覚えている。

 

この掛け合いの後、列車が発進してからずっと、今生の別れになるかもしれないと思い、トイレの中で声を殺して泣いていたこと。

 

「後悔したくなきゃ、泣くな」って、心を鬼にしてまで叱咤してくれたリヴァイアに申し訳なく思ったこと。

 

地方の全寮制に通うという嘘を信じ、見送ってくれた信武との約束を反故にした自分を呪ったことも、忘れられる訳がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

……一つ、勘違いをしていた。

 

こんなの、走馬灯と一括りしていいものじゃない。

 

むしろ……自分の中に残る記憶が、信武を思う度に呼び覚ましたのだろうと思うと、腑に落ちる。

 

 

 

 

 

 

『まさかお前、いじめられてるのか?』

『違う、いじめられてなんかない!』

 

……あれ?

 

『じゃあ何だよ、ここんところ変だぞ』

『それは……』

 

服装と身長から見て、小学生の頃の記憶だ。

でもこれって、いつ頃の………

 

水希『昔から、偶にだけど…嫌な夢を見るようになったの。好きな人が突然消えて、最後に自分だけが取り残されて、目の前が真っ暗になるような夢……。 

目が覚める度に安心してたけど、不安の方が大きく勝ってたの。

……信武と、このまま友達で居続けられるのかなって……』

 

発言しようにも不安が滲み出てるが、話を聞いている信武は呆れ果てたかのように息をつく。

 

信武『何アホくせぇ言ってんだよ。ちゃんと目の前を見ろっての。

ここにいるだろ、俺が。何があってもお前とダチを辞める気は更々ねぇよ』

水希『信武……』

信武『……ったく、小っ恥ずかしいこと言わせんなよな』

水希『でも、そう思ってくれて嬉しい……。ありがと』

 

……。そうか、思い出した。

 

どんな時でも、そばに居てくれてたんだ。

片時も離れずにいてくれたリヴァイアと同じように。

 

けど信武、アンタの言う通りだよ。

大吾さんとユリウス……二人が居なくなったショックが大きくて、大切な人を失うのが怖かったんだ。

 

あぁ、思えばずっと、嘘ついてばっかだったな……。

こんな自分なんかが、もう……親友と名乗れる資格なんて、どこにもあるわけが無いっていうのに。

 

それでも信武は、どこまでも優しい人だな。

 

……最期に、また会えて良かったよ。

 

ありがとう。

初めて会ったあの時、『友達になろう』って言ってくれて……嬉しかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

信武「死ぬな水希ッ! 起きろ、頼むから起きてくれ!!」

 

後は死を待つのみ。そう思っていたのに、叫び声に反応して目が冴え、それに気づいた信武に身体を起こされ、強く抱きしめられる。

 

まだ思考が追いつかないけれど、気絶している間に雪を掻き分けられた砂浜の上で寝ていたようだ。

それに、どうやら毛布代わりにマントに包まれていたみたい。

 

そんな些事なことに驚く気力すら無く、時折響く嗚咽と頬に伝わる体温が、霞んでゆく意識を繋ぎ留めてくれた。

 

(しのぶ……泣いてるの……?)

 

水希「……のぶ……な、んで……」

 

か細く…絞り出すように問うと、抱擁する腕の力が増し、信武は肩を震わせながら弱々しく囁いた。

 

信武「勝手に、逃げて……また、置き去りにして、なんになるんだよ……。誰もが…お前が死んで、喜ぶと…本気で思ってんのかよ……!」

水希「……だって、しのぶは……!」

 

呆けていたら信武の腕の力が緩み、そのまま肩を掴まれ面と向かうようになる。

 

信武「……あぁ、恨んでたよ。のうのうと生きてるように見えて憎らしかった! ……けどな、それ以前に、事故で死んだ話が嘘だと知って、安堵した! めちゃくちゃ嬉しかったんだぞ!!

……なぁ、教えてくれよ。俺が抱くこの気持ちは、お前にとって、そんじょそこらの塵みたいに掃いて捨てられるほどの感情(モノ)なのかよ?」

 

真っ直ぐな言葉を受け、顔を俯いてしまう。

 

おぼつかない頭で必死に絞り出した答えは、

 

水希「…………ちがう」

 

否定の一言。それ以外にない。

 

信武と立場が逆だとして、3年間音沙汰もないままほっぽり出されて、事故死したという話を知れば、生きていける自信を失くすほど悲しいに決まってる。

 

でもその事実が嘘で、今でも生きてると分かれば嬉しいに決まってる……。

 

水希「ちがう、けど……残された人からしたら、自分だけ……帰ってくることを、誰も望まないんだよ……!」

信武「………」

 

ここで意地張ったって、無意味なだけだ。

だったらもう、隠し通していた自分の思いを伝えよう。軽蔑されるのは覚悟の上だ。

たとえ声が震えようと、思いのままに話せ。取り繕うな…!

 

水希「それに……怖かった。信武から、嫌われたくなかった……。何度も、謝りに行こうと思ってた……だけど、本当のこと話して、また失うかもって思ったら、すごく怖くて、苦しかった……」

信武「……だから、いっそのこと、自分から突き放せばいいとでも思ったのか……」

 

無言で頷く。

 

傷つけたくないと言って、その実、傷つきたくないだけだったから。

だから、長年の縁を捨て『最初から居ないかのようにフェードアウトを』と企て、実行に移した。

 

それで3年間も、お為ごかしを振りかざしてきたのだから、首を横に振ることなど到底できまい。

 

そんな独りよがりな話を聞いて、ほとほと呆れたように息を溢す信武だったが、その後発した言葉は意外なものだった。

 

信武「……お前ってさ、つくづく馬鹿だよな。悪い事してるって自覚してんなら、初めから素直に謝ってくれりゃいいのにさ。

いつの日から、何もかも一人で抱え込むようになって……やっぱ、俺なんかじゃ心許なかったか?」

水希「―――そんなわけないッッ!!!」

 

声を荒げて全否定する。

 

頼りないだなんて思ったことは一度たりとも無い。

 

むしろ、いつだって心の支えだったんだよ?

 

リヴァイアが現実世界(おもて)に出られない時も、ずっと……!!

 

水希「まだ小さかった、あの頃だって……信武に会えなかったら、きっと何にも変われなかった……」

 

信武という初めての友達に会えて。

何年も相棒でいてくれたリヴァイアに会えて。

いつも道を示してくれた大吾さんに会えて。

返しきれない程の恩があるユリウスに会えて。

 

初めてリヴァイアを家に招いて、驚かれても徐々に家族として受け入れてくれた両親にも会えて。

 

何かと小言吐くわ、たまに暴力振るうわ……横暴さが垣間見えても、性根は優しいお姉ちゃんにも会えて。

 

もう一度、誰かを守りたいって。

折れかけた心を持ち直してくれたスバルに会えた。

 

それだけじゃない。

 

天地さん。飯島さん(リュウさん)。深祐さん。レティ。

 

周りには、いつも気にかけてくれる人達がいた。

 

そんな巡り会わせがないまま生きていく自分など到底想像がつかないくらいだから。

 

水希「でもこれ以上一緒にいたら、絶対不幸になるから、信武を悲しませたくなくて……でも失いたくなくて、もうわけわかんなくなって……」

信武「そんなの、俺だって嫌だよ!」

 

声を荒らげる信武に、話を遮られた。

 

信武「お前と立場が変われば、俺もきっとそうしたかもしれねぇけど……、別れ際に告白してたかもしれないんだよ。お前のことが好きだって」

水希「え……?」

 

理解が遅れ、うまく返答できずにいると、信武は気恥ずかしそうに赤らめながら言った。

 

信武「その……お前には悪いけど、日記を見ちゃって……。人と関われない理由が、小さい頃に負ったトラウマ――力を暴走させたのが、原因の一つだって分かって、やっと腑に落ちた」

水希「え……嘘でしょ……ねぇ!?」

 

見られたくない黒歴史を覗かれたと知って、血の気が引いた。

嘘であって欲しかったのに「ごめん…嘘じゃない」と謝られた挙げ句、「それに…」と照れ顔のまま続けた。

 

信武「俺のことが好きすぎて超ツラいって話も見ちゃった……それに何より、一生愛してるって――」

水希「あぁぁ〜〜〜〜っ!」

 

……なんてこったい。

 

これでもかと畳みかけられ、両手で顔を覆い隠したいくらいに火照り、今にもぶっ倒れそうな程に脱力しかけたが、信武に強く抱えられた以上、本当にぶっ倒れたりはしなかったけどね。

 

信武「……兎にも角にも、お前がしてきたことは、決して赦されねぇだろうな。生きてる限り、罪過として背負わなきゃならないから。

……そのことを、ちゃんとお前なりに、受け容れようとしてんだろ。それさえわかりゃ、おれ、充分だよ……」

 

……何でだろ。震えが止まらない……。

 

信武「どうせ死ぬくらいなら、生きろよ。――悲しませたくねぇなら、せめて死ぬ気で(あがな)うと誓って生きろよ!!

俺だってもう、前だけ向いて生きようと決めた! 俺にだけ見せてくれた笑顔を、絶やさないでくれと誰よりも願ってた! お前もそう思ったんだろ!?

………今度また妙な真似してみろ? 一生許さねぇからな。たとえ死んだあとに謝られたって、絶対に許さねぇ………」

 

信武が、ちゃんと間近に居るってのに……涙で霞んで、よく見えない。

 

水希「……生きてたって、どうせ皆から、疎まれてるんだよ……」

信武「お前と関わった人達全員が、そう見えるのか?」

水希「……じゃあ……しの、ぶは、許してくれるって、いうの? あんなに苦しめてきて……なのに」

信武「……あぁ、許すよ。ちゃんと前を見て、生きると約束してくれるなら」

 

真っ直ぐな発言に答える前に、今一度問いかける。

 

水希「こんな……疫病神…なんかが、…っまだ……信武の、となりにいても…良いって言うの?」

信武「当たり前だ!! ヒーローでも疫病神でも道具でもねぇよ! お前はお前だろ!! ―――俺の幼馴染で親友の星河水希だ!!」

 

胸の内にある不安を払拭するように、声高々と告げ、一拍置いてから続けた。

 

信武「俺はな、どうしようもないくらいバカで、不器用で、臆病者で、意気地なしの癖に意地っ張りで、泣き虫で……。

それでも強く生きようと、一生懸命で。努力家で、他の誰よりも優しい……。

―――そんなお前が、ずっと前から大好きだったんだよ…!」

 

その言葉を聞いて、長年募らせた思いを伝える。

 

水希「僕も、好きだよ……。卑屈だった僕にいつも笑顔をくれた。太陽みたいに温かく包んで、寄り添ってくれた信武が―――誰よりも大好きだった!」

 

最後まで言い切った瞬間。

 

信武「だったら、生きてくれ……。頼むからもう、俺を一人にしないでくれ!」

 

再び抱きしめてくる信武に耳打つように囁かれ、それに応えようとマントから腕を出し、抱き寄せてからずっと、泣きじゃくりながらごめんなさいと何度も口にした。

 

そうやって、僕が謝る度に信武は宥めようと頭を撫でてくれるが、その手付きがリヴァイアと酷似して、泣き止むのに十数分もかかったと思う。

 

しばらくして、泣き止む直前、嗚咽混じりにこう答えた。

 

水希「……死にたくない。まだ、生きていたいよ。もう勝手に、いなくならないから、嫌いにならないで、しのぶ……!」

信武「……それで良い。今は苦しいけど、もう一人じゃないんだから、少しは俺を頼ってくれよな」

水希「……うん」

 

どうにか落ち着きを取り戻し、信武と顔を合わせ、唇と唇が軽く触れる。

 

目を閉じていても驚かれている気配がしたが、信武がそっと後頭部に手を這わせ、抱き寄せられてから時間だけが過ぎていく。

 

もっと早く、こうしたかったけど、お互いのことを知った上で一緒に居てくれるなら、なんてことない。

 

……けれど、一つ言いそびれたことを言うために、口を離して面と向かう。

 

精一杯の笑顔を向けながら、告げるために。

 

水希「信武……。助けに来てくれて、ありがとう」

信武「………あぁ」

 

今度はどちらともなく、もう一度口づけを交わす。

両者とも、二度と離すものかとばかりに抱き寄せながら。

 

(……大好きだよ、信武……)

 

 

雲り空がやがて晴れ渡ると、暖かい陽の光が差し込む。

 

 

やっと和解できた僕ら二人を、優しく包むように。

 




長かった……本当に長かった。

まだ半分どころか6分の1なのに、ここまで来るのに4年も費やしているのは、反省してもしきれないです。

ただ、作り込み的に無理矢理感も否めなかったり、もう少しバトルシーンを設けるべきかと、課題点がまだまだありますけれど、本当の最終話に至るまでの年数……ワン○ースと○ナン並と言っても過言じゃないです。

そんなノロマで後先考えずな作者ですが、水希と信武だけでなく、ストーリーに関わる全員の行く末を見守っていただければと思います。


次回「一難去ってまた一難」

アポカリプス編は残り3話で終結します。多分。
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